随筆 『空跳ぶカエル』   かえるの子
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かえるの子
 君はコルゲンコーワのカエルを覚えている?  
笑っているようで微笑む程度、威張っているようでそれほどでもない。口が大きすぎるが、不器量というほどでもない。色も弱々しいというよりはソフトなみどり。あのカエルはアマガエルだ。

 あの愛敬のある顔を見ていると、風邪なんか直ぐに忘れてしまう。 カエルのオモチャを指にさし込んで、こんにちはをさせても面白い。だからカエルの顔に似た子を見ると嬉しくなる。更に、こんにちはをしてくれるともっと嬉しい。顔の筋肉がゆるんでしまう。
 むかし、あまがえるの子は大変に親不孝で、親の言う事を全く聞かないのは日常茶飯事で、たいていは親の言うこととは反対の行動をして過ごしていた 。親は大変苦労をして育てたが、直るきざしすら感じられなかった。

 これは因果か遺伝だと思って諦め始めた頃にはもう年老いてしまった。 
そして、苦労の連続が積もりつもって疲れ果て、とうとう病気になってしまった。
それでも親不孝は直る気配もなく、親はとうとう起き上がれなくなってしまった。
もう助からないと感じた頃、親は息子を枕元に呼んで『死んだら河原に埋めてくれ』と頼んだ。そうすればあまがえるの子は丘の上に埋めてくれると考えた。

 ところがあまがえるの子は親の遺言だけは守ろうと本当に河原に埋葬してしまったのだ。 雨が降るとあまがえるが鳴くのはこのためで、川の水かさが増して、お墓が流れてしまうのではないかと心配で泣いているのだと言う話を聞いたことがある。
 
 あまがえるの子は親が死んだ後、すっかり改心して良い子になって、今では雨が降るとお墓が心配で鳴き出すことになっているのだが、あまがえるの意に反して、人間は『雨乞い虫』と呼んで、親不孝丸出しの名前を与えてしまった。 泣く時は日本語でケロケロと聞こえるのでケエロ、すなわちカエロとなり、帰るからカエルになってしまい、お墓を守るどころか鳴きながら自分の家に帰ってしまうことになる。


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