豊穣の森と渓1 豊穣の森と渓2 番外編 TOP

 釣りに満足した二人は、竿を畳み、山菜採りモードへ。日当たりの良い高台斜面は、地元のプロも入らない穴場で、山菜が天然畑のように広がっている。春の陽光を全身に浴びて、「採ってください」「食べてください」という山の野菜の誘惑に乗って、ついつい夢中になってしまった。
 菜が群生していた高台から、流れを切り撮る。渓に張り出したブナの新緑に、春の渓流の美しさが凝縮されている。豊かな渓畔林と透明感溢れる清冽な流れを見れば、岩魚と山菜の宝庫であることが分かるだろう。
 斜面に群生していたシドケ(モミジガサ)・・・ちょっとモミジの形をした葉が開きすぎていた。旬は、数日前といった感じだった。かなり伸びきったシドケも多く、柔らかい上の部分を採取した。「山菜の王様」と呼ばれているとおり、若芽の姿・形が良く、食べるより採るのが楽しい山の野菜だ。
 旬のウドは、絵になる山菜の代表格だ。できるだけ太く、旬のものだけを間引くように採取するのが基本。芽を出した茎には、白い産毛のような毛がたくさんついている。姿、形、色艶、根の太さは一級品。しかも生で食べても絶品、天ぷらにしても絶品・・・だからこそ採っても楽しいし、食べても春の香りが満点だ。
 日当たりの悪い岩場は、シドケが顔を出したばかりだった。日当たりの良い斜面と悪い斜面では、山菜の生育が極端に違う。山菜シーズン当初は、雪解けの早い海岸部で、かつ日当たりの良い斜面を探し、後半になるに従って、残雪のある周辺、雪解けの遅い内陸部の渓へとフィールドを変えることが肝心だ。
 渓流沿いの平坦部に群生していたアイコ(ミヤマイラクサ)・・・茎には棘があり、手袋をして採取することを忘れてはならない。茹でてから、一本一本皮を剥かねばならず、少々面倒な山菜だが、渓流沿いで大量に採取でき、食べても大変美味なことから、私の大好きな山菜の一つ。
 ヤマワサビ・・・この沢は、岩場が多く、ヤマワサビは稀にしか生えていない。ヤマワサビを採りたければ、湿地を好むサワグルミの林を探すのが一番だ。美味しくいただく料理を一つ紹介する。茹でずに、生のまま全草を細かく刻み、蓋付きの容器にビッシリ入れる。万能つゆ(味道楽の里、6倍濃縮)を薄めず、そのまま入れて蓋をし、冷蔵庫に入れる。一晩経てば、酒のツマミに最高だった。これは簡単で、かつ美味。ぜひ試してみてほしい。
 エビネ・・・まだ開花にはちょっと早かった。昨今の山野草ブームで乱獲著しい花の一つで、自生地は激減しているらしい。山野草は、山で楽しむにとどめてほしいものだ。
 巨木が林立する斜面の空間は広い。その空間を白く埋め尽くすように群生していたニリンソウ。ブナの森と渓では、いつもその群生の巨大さに圧倒されてしまう。
 山菜をザック一杯に背負って、ブナが林立する急斜面を登る。新緑と岩魚と山菜、そして可憐な草花たち・・・おまけに大岩魚との遭遇という感激、感動を味わっただけに、これ以上ない満足度だった。
 日増しにブナの新緑も濃くなっていく。遅く感じた春も、5月連休以降の高温で、一気に遅れを取り戻しているようだ。もうすぐ深山も初夏を迎え、山釣りの最盛期がやってくる。年をとればとるほど、忙しくなればなるほど、ストレスがたまればたまるほど・・・無垢なる森と渓に分け入ると、心はワクワクの連続となる。それは何故なのだろうか。

 ブナの巨木を見上げて思った。何十年、同じ山釣りを繰り返しても、ブナの森と渓は、いつもシナリオにない千変万化のドラマを展開してくれる。それだけに、山に入る日は、いくつになっても子供の遠足のような興奮状態に陥ってしまう。こんな世界が他にあるのだろうか・・・。
北海道の山野草 写真・コメント:札幌市 升田 正
 フクジュソウ・・・札幌から車でおよそ3時間半。岩魚が棲む渓流は山菜の峪でもあります。毎年3月の春分の日、ギョウジャニンニク採りに出かける川では、目の覚めるような黄色の花びらが出迎えてくれます。

 その昔アイヌの人達は、これを「チライアポッパ」と呼び、チライ(イトウ)が遡上してくる頃に咲くことから、この花が咲くのを心待ちしていたと言う事です。長い冬を終え、食糧の確保に苦心しているアイヌ民族に、この花はイトウの遡上をその目印として教えてくれたに違いありません。
 スミレ・・・これもやはり、ギョウジャニンニク採りに出かけた折に写した1枚です。山菜にばかり眼が奪われがちなところですが、せめて山野草の写真を撮る余裕があれば、「残して採る」と言う事にも心が向くのではないでしょうか。よく目にする花ですが、苔むした立ち木に咲く一輪は、なぜか心を惹かせるものがありました。
 クルマユリ・・・この日は雨模様で、クルマユリの花も雫で輝いてみえました。艶やかな花よりも、ひっそりと峪沿いに咲くユリの花の方が峪を下る釣り人には、より相応しいかもしれません。

豊穣の森と渓1 豊穣の森と渓2 番外編 TOP