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焼石岳・胆沢川源流、焼石沼(標高1250m)
 2002年7月、胆沢川源流スギヤチ沢を詰め、標高1250m・焼石沼に棲息する岩魚を追ったが、連日の雨と濃いガスに阻まれ、沼まで達することができなかった。その無念さが胸をつかえて離れなかった。9月15日、久々に帰省した息子を連れて、登山道を歩き焼石沼へ向かった。

 写真は、夢にまで見た焼石沼だ。背後の焼石岳(1548m)が静寂の湖面に映え、ときおりフラットな水面が魚のライズで波紋を描いた。果たして焼石岳の裾野から湧き出す聖なる湖に深山幽谷の美魚が棲息しているのだろうか・・・
 仙人の里・東成瀬村を抜け、国道397号線をしばらく走ると、坂の途中・左手に焼石岳登山道の看板がある。砂利道の林道を約3キロほど入ると焼石岳登山道(三合目)入り口に達する。もうすでに車は10台も止まっていた。看板には、焼石沼まで2時間30分と記載されている。秋田県側は、既にブナが伐採され貧弱な杉林の登山道を歩く。それにしてもよく管理された登山道だと感心させられた。ほどなく四合目の大森沢に着く。
 大森沢を過ぎると、ブナの原生林も深くなり、気分も爽快になる。沢を歩くのも楽しいが、ブナの森を縫って走る登山道を歩くのもやっぱり楽しいものだ。こんな立派な登山道ならば、老若男女誰でも登れるポピュラーな山だと思いながら歩いていると、老夫婦、小さな子供連れの家族にも出会った。
 左が釈迦ざんげ(1080m)、右はピークを避けて迂回している回り道だ。回り道はせず、迷わず左の釈迦ざんげ方面を登る。
 釈迦ざんげに達すると一気に視界が開ける。絶景にしばし足止めをくわされる。釈迦ざんげは、お釈迦様が懺悔した場所との伝説があるが、地元ではかつてマタギたちの集合場所だったらしい。
 尾根の山腹に沿って下ると、胆沢川源流の瀬音が聞こえてくる。懐かしの二又で喉を潤し休憩。ここからほどなくブナの巨木が林立する六合目の与治兵衛に達する。地名は、胆沢川源流の水を平鹿郡醍醐の水田に水を引こうとした開拓者の名にちなんで付けられたという。県境の峰を切り崩し、遙か北の平地まで水を引こうとした先人の苦労が偲ばれる。
 道は途中胆沢川源流の右岸から左岸に変わる。ここから登り坂となる。
 トリカブト  ダイモンジソウ
 ムシカリの赤い実。早春は、横に長くのびた枝に白い花が咲き実に見事だ。7月〜10月に赤色から黒色に熟す。登山道沿いでは、この赤い実が印象的だった。  苔生すブナの根元が幾筋にも横たわる登山道。
 七合目・柳瀞。八合目の焼石沼はまもなくだ。  左手に三界山(1381m)の雄姿が見えると穏やかな草原に躍り出る。
 リンドウ  命の水・・・その名のとおり、湧き水はしこたま冷たく、五臓六腑にしみわたるほど美味かった。
 北海道では、8月中旬に咲いていたコウメバチソウ(小梅鉢草)。季節の違いをまざまざと見せ付けられる思いだった。  急ぎ足で歩いて2時間。夢にまでうなされた八合目の焼石沼に達する。感激の一瞬だ。
 盟主・焼石岳を背景に、静かな湖面が広がっている。私は、焼石岳の頂上には全く関心がなかった。私の関心はただ一つ、この天上の沼に棲息する岩魚をこの目で確認することだけ・・・はやる気持ちを抑えて、デジカメのシャッターを押した。焼石沼は、意外に広く周囲は背丈を遙かに越える藪に覆われていた。沼を360度くまなく攻めるには、かなり難渋しそうだ。

 焼石沼周辺は、平らな草原で絶好のテン場が広がっている。かつては7月から10月まで牛を放牧、管理小屋まであったという。赤牛の短角牛だろう。これを知った時、何となく嫌な予感がした。
 焼石沼の手前は浅い。ラインにスピナーを結び第一投。すぐ手前で小さな魚がヒット。パーマークが大きく、最初はヤマメかと思ったが、背中の小さな点は紛れもなくニジマスだった。幻の沼は、既に人間の手によって外来魚・ニジマスが放流され自然繁殖していた。ただし、沼から下流は落差が激しくニジマスの繁殖は確認されていない。気を取り直し、それなら大物をこの目で見てみたいという新たな衝動が沸き上がった。
 右に回り込むと猛烈な藪が行く手を阻んだ。藪を掻き分け進むと、沼から流れ出すスギヤチ沢の源流が見えた。視界が良好なら、難なくここまで辿り着けたはずたが・・・無念さが大きかっただけにこの源流の流れを見た瞬間の感激は大きかった。
 さらに右に回りこむと、うっすらしと色づきはじめた山、左手から風が吹き込み湖面は波立ちはじめた。渓魚の匂いが静かな湖面に充満していたことは確かだ。静かにポイントに近づき、岸際にキャスト。ゆっくりリーリングすると、スピナーがラインにからみ回転していなかった。失敗したと思っていると、浅瀬のすぐ手前まで回転しないルアーを追い掛けてきた大物に仰天してしまった。何と50センチはあろうかと思われるニジマスだった。側線に鮮やかな虹色がはっきり見えた。これを見てしまった以上、夢中にならざるを得ない。湧き出す湖面の水は冷たく、体はブルブル震えていたが・・・。何と次第に手がかじかみ、感覚すらなくなったほど寒かった。
 ヒットはするものの小物のニジマスばかり。一体、岩魚はいるのだろうかと不安になった。一番奥に枯れた木が横たわる絶好のポイントが目に飛び込んできた。その枯れ木スレスレにキャストすると、鋭いアタリがあった。夢中でリールを巻くと、すぐ手前まで寄ってきた。浅瀬に引き寄せた魚をよく見ると、30センチオーバーの岩魚だった。ヤッター、と心の中で叫んだ途端、簡単にバレてしまった。今度はニジマスのジャンプで簡単に針を外され、さらに40センチクラスのニジマスを手前まで寄せておきながら、またしても逃がしてしまった。 こうも簡単にバラされると悔しさだけが募った。冷静に考えてみると、アワセが弱かったに違いない。アタリがあったら、もっと強くアワセルべきだったと反省せざるを得なかった。
 沼の浅瀬に群れていたオタマジャクシ。下の写真は、隠れていた前足も出ている。やがて尾が縮み変態が終わると、陸上生活に移る。
 焼石岳に向かって左手から沼に焼石連峰の湧水が流れ込んでいる。大物が潜むポイントは、猛烈な藪に覆われ、アプローチは困難を極める。不用意に近づけば、アタリすら得られないだろう。渓魚がヒットしたにもかかわらず、逃げられてばかりでは話にもならない。でき得ることなら、幻の沼に生きる美魚を撮りたかった。二時間ほど経つと、小雨が降り出してきた。無念さを胸に足早に山を下った。
 帰路、車にはねられ死亡したタヌキ。一匹ぐらいならともかく、続けて死んでいるタヌキを4匹も目撃した。山間地域の人家近くに生息するタヌキが異常発生しているのだろうか。全国的にサルが畑作物を食い荒らし、異常に増えている現象がマタギサミットで話題になった。熊も人間が捨てた残飯や空き缶の味を覚え、あちこちに出没、熊鈴を鳴らせば逆に寄って来て人間の背負っているザックを奪うなどという、笑うに笑えない話が話題になったりする。人間が自然に対して働きかける行為は、全て人間に跳ね返ってくることを考えると、こうした野生動物たちの異常な行動は、我々人間に対する警告のように思えてならないのだが・・・。

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