冥王星の「青空」

 2015年10月8日、NASAは"Blue haze around Pluto"という記事を発表した。

 冥王星の周りを青いもやの層(haze layer)が覆っている。写真は、青、赤、近赤外で撮影したイメージを合成して可能な限り人の目視に近づけたものという。

 ところで、これに関する朝日新聞の記事には呆れた。7月にこれのモノクロ画像が公表された時にも、それを地球の日蝕と同様のものとする 頓珍漢な記事 があったが、どうもこの記者は何も理解していないようだ。

 NASAによると、冥王星の上空では、大気の主成分の窒素とメタンが紫外線で分解され、複雑な化学変化を経てすすのような微粒子ができているとみられる。この微粒子が地球の大気中の成分と同じように働き、青色の光を散乱させているという。
朝日新聞2015年10月9日

 「地球の大気中の成分と同じように働き」とは、どういうことだろうか?NASA はこれについて明確に述べている。

A blue sky often results from scattering of sunlight by very small particles. On Earth, those particles are very tiny nitrogen molecules.
http://www.nasa.gov/

 つまりこれは、空気中の窒素の分子(nitrogen molecules)が光を散乱させるという分子スケールの現象なのである。物理学ではこれは「レイリー散乱」と呼ばれる。散乱強度は波長の4乗に逆比例するので、短波長の青色光が強く散乱されるのである。
 そんな分子スケールの散乱と同様の現象が、微粒子とはいえ”すす”のようなマクロな物質(NASA記事では"tholins"と呼んでいる)によって起きていることに驚きがあるのである。実際、NASA記事では
but the way scatter blue light has gotten the attention of the New Horizons science team.
と、この驚きを明確に伝えているのだが、朝日記事ではそんなことには全く触れず、
冥王星の大気は非常に薄く、通常は黒い空が広がっているが、地球での朝焼けや夕焼けにあたる時に「青空」が見えるという。
、呑気なことを言っている。
 大新聞の科学担当記者といえば、相当の理科教育を受けているはずと思うのだが、少なくともこの人の物理学や天文学の知識はしろうと同然のようだ。
 しろうと同然の解説記事しか読めないとなると、読者はますます理科離れして行くだろう。

Oct. 2015
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