富士山の体積―「ダイヤモンド富士」の裏側を利用する方法―実証模型実験


 2018年、富士山の体積をはかる「アイデア」大募集!のコンテスト (静岡県建設コンサルタンツ協会)というのが行われ、応募したところ、『ケンコン賞銀賞』をいただいた。筆者としては嬉しいかぎりである。
 無論、できれば金賞、さらにはその上の大賞をいただければなお良かったのだが、上には上があるということを痛感した。ここは素直に受け入れざるを得まい。
 ただ、『ケンコン賞』というのは「リアルに計算できるアイデアに贈ります」とのことである。しかし筆者は、これが本当にリアルなものかどうか、いまいち自信がなかった(無論、可能な限り詰めたつもりではあるが)。むしろ『ワクワク賞』(ユニークでオリジナリティのあるアイデア)に選んでいただきたかったところであるが、そこは審査の方々との見解の相違であろう。諦めざるを得ない。

 そうこうしているうち、
 見ると、かなり精巧な富士山のミニチュア(1:70,000)である。台座も良質の檜だそうで、そのせいかかなり重い。


『富士山の体積をはかるアイデア』(静岡県建設コンサルタンツ協会)トロフィー

 これを見て、また新たなアイデアが浮かんだ。これを使えば、筆者のアイデアを模型実験で実証できるのではないか、ということである。
 以下ではその実験の顛末を述べる。

オリジナルのアイデア
 これがオリジナルのアイデアである。

実験内容
 トロフィーに横からライトを照射し、これを上からカメラで撮影する。


測定全体図
 ライトは『天文年鑑』3冊の上の置き、トロフィー〜ライト距離を可変とすることで照射角を変更できるようにする。

 撮影した写真から画角を求める。このためには、写真上の2点間距離を画角に変換する必要がある。写真上の各点の位置は、ピクセル値で表わせる。それは Windows の“ペイント”で読み込めば表示される。

写真のピクセル値と画角の関係
 次の写真によってピクセル値と画角の関係を求めた。

 4点(x1,x2,y1,y2)のピクセル値を読み取り、対応する画角
から、ピクセル当たりの画角を求めた。

測定結果







計算アルゴリズム
 伏角η、方位角Aから、(x,y,z)を求める。画像中心をx=0,y=0とし、床面をz=0とする。
 (1),(4)はr,zの連立方程式なのでこれを解いて、
 これを(1),(2),(3)に用いて(x,y,z)が得られる。

No.
 全ての測定点を平面にプロットする。

 隣接する3点で三角形を作る。
 この例の場合、(0,1,13),(1,2,13),(13,2,14),etc...
 各三角形の3辺の長さをa、b、cとするとき、面積Sはヘロンの公式で求めることができる。
 この上の三角柱の体積はSにzを掛ければ得られる。ただし、zは床面からの高さなので、それから台座の高さ を引く。そして、三角形の各頂点の値の平均値を用いる。
 さらに、トロフィーのスケールは 1:70,000 なので、cm → km とするために0.7倍する。
 体積は、
 である。

△(No.,No.,No.)体積 km3

 同様の測定を方位角ASおよび高度角h(つまりライト距離L)を変えて行い、すべての三角柱の体積を合計する。
 労力を惜しまなければこれは可能なはずである。しかし今回はここまでに止め、全体積は「たぶん得られるだろう」というまことに中途半端な結論で終了させていただく。ここまでお付き合い下さった方、ごめんなさいm(..)m

円錐近似
 静岡県建設コンサルタンツ協会による計算では、 とのことである。それで、ここでは円錐で考えてみる。円錐の体積は、  ここでrは底面の半径、zTOPは山頂の高さ、zBOTTOMは底面の高さである。
 zBOTTOMを変えてrを計算してみると、次表のとおり。
BOTTOMmkm

 つまり、円錐底面は、標高1000m程度とすれば半径9km程度となる。
 地図を見ると、標高1000mの等高線は山頂(剣ヶ峰)から西、南は約10km付近、北東は約15km(山中湖付近)、北も15km付近である。円錐近似の精度はあまり良くないが、それでもおよそのスケールは反映されている。なお、この山頂から10km程度という範囲は先にトロフィーの範囲ともかなり近い。

227km3の意味
 “コウ”という時間概念がある。落語『寿限無』の「五劫のすりきれ」というのも、この劫に因む。ヒンドゥーでは43億年とされているらしい。
 無量壽経によれば、法蔵菩薩は「衆生を救えないなら正覚をとらじ(悟りを開かない)」という大願を発し、五劫の間、大変な苦行を行った結果、阿弥陀如来になられたという。また法華経では、釈尊が菩提樹の下で悟りを開くことは500塵点劫の昔から決まっていたと。いずれも非常に長い時間である。
 ところで、この劫とはまた、一辺2000kmの巨大な岩を天女の羽衣で100年に1度撫でるだけで、この大岩がすり切れてしまうまでの時間だとも言う。
  2000km3=80億km3
だから、富士山(227km3)の約4000万倍。だから富士山が ですり切れるまでは、
  43億÷4000万≒100年
 え、そんなに短い? おそらくこれはヒンドゥーの43億年という見積もりが短かすぎるのだろう。地質学的には、富士山ができてから何万年とか何十万年とかではある。しかし劫という古代インド人が考えた時間と比べたらほんの一瞬でもある。
 月へ帰るかぐや姫はみかどに不死の薬を遺したが、帝は姫のいないこの世に永らえても意味がないと、国で一番高い山の上でそれを焼かせた。それが不死(富士)の山であると『竹取物語』は説く。帝といえども庶民と同様、不死では有り得ない(平成の帝も退位なされようとしている)。227km3という富士山は、“永劫”と限りある我々との中間に位置しているだろうか。

Apr. 2018
石原 幸男