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富士山の体積―「ダイヤモンド富士」の裏側を利用する方法―(改訂版)

 近年、「ダイヤモンド富士」が人気であるが、その時の富士山の裏側に着目してみよう。
 日出の場合、まず山頂に日が射す。この時刻を【頂照時】と仮称する。この時、地球が丸いので、太陽は地平線より下にある。やがて太陽が地平線に達した時が日出で、この時ようやく山腹全体に日が射すが、頂照時から日出の間は、山腹の上の部分には日が射し下の部分はまだ影になっている。日没時も、地平線より下に沈んで頂照時になるまで、山腹の上方には日が射す。図1は日出の場合の模式図である。
 このような山腹の一部に日が射す状態は10分程度続く。この時、日が射す部分と影の部分の境界線の位置は標高によって決まる。したがって境界線を測定すれば山の形状がわかり体積を求めることができる。


図1 【頂照時】から日出までの太陽光


 富士山を (高さ3.8km、底面半径60km)で近似した場合の境界線は図2のようになる。


図2 

 実際の富士はこれほど単純ではないが、おおよそこれに似たような形状になるであろう。そこで実際の境界の位置を測定し、その時刻の太陽高度角hを知れば、標高分布がわかる。
 hを知るためには、まず日出/日没時刻を知る。これは『理科年表』に掲載されている静岡または甲府の時刻を用いても良いだろう。また『天文年鑑』(誠文堂新光社)によれば富士山頂の東経・北緯における時刻を求めることもできる。その時刻にはh=0°である。
 次に、日出没時の時角Θを、式(1)でh=0°として求める。
このとき太陽赤経δは、これも『理科年表』などに載っている。φは富士山頂の北緯。
 測定時刻と日出没時の差から
  時角15°=1時間
として、ΔΘを求める。そしてhは
 h=cosφcosδsinΘΔΘ
である。

【参考:図2のhの等値線】

A−AS°kmm

実際の測定
 山頂に設置した測距儀により、影の境界線上の点の方位角(A)および伏角(η)を測定する。これにより各点のrおよびzを求める。
A−AS

 日出の方位角は夏至には約60°、冬至には約120°。
 日没の方位角は冬至には約240°、夏至には約300°。
 したがって真北(方位角0°)や真南(180°)の近くから日が昇ったり沈んだりすることはない。しかし図2で見たように、AS±90°ほどまでは測定可能なので、真北や真南のデータも取得可能である。
 測定は夏至から冬至の間に数回(以上)行う(冬至以後は雪が多くて難しいだろう)。

図3 富士山頂から日出、日没の方位(二十四節気別)
ただし富士山頂の仰角を0°としている。大気の屈折も考えていない。

 測定データは、(x=rcosA,y=rsinA,z)として整理する。
 隣り合う3点でできる3角形について、底面積Sと平均標高
を求め、これを全データについて合計する。

 上記は、海面(z=0m)以上の体積である。測定標高の最小値zminより上の体積は、
  V=S(_−zmin) の合計
となる。範囲は全測定地点を含む領域である。

【追加】
 ここまでは、富士山頂からあらゆる方向の地平線が見通せるものと考えた。富士山頂(標高3776m)から地平線までの距離はおよそ220kmで、その間にはたいてい山がある。低い山なら地平線を遮らないか、遮ってもその山頂を地平線と見做しても誤差は小さい。
 しかし、富士の西側50〜60kmには3000m級の南アルプスが聳え、この方向の地平線は全く見通せない。
 例として北岳(標高3192m)を考える。実際には北岳は夏至の日没方位よりやや北側であるが、ともかくその北岳の影が富士山腹に落ちた場合で考える。

 富士山頂を原点(0,0)、北岳山頂の位置を(xK,yK)とする。北岳山頂の影が富士山腹に落ちる時、今回も富士山頂から方位角(A)、伏角(η)を測定する。
  、それより太陽方位角(AS)、高度角(h)を求める。

図4


Feb. 2018
石原 幸男