宮台真司の実存 |
宮台真司が今までどのような人生を生きて来たか、ということを知らなくても彼の社会システム理論を理解する上では何の支障もないはずである。むしろ知らない方が誤解や偏見にとらわれることなく理論を正しく解釈できる可能性もあるだろうし、それゆえに『権力の予期理論』 [B.1989a] で宮台は自分が権力論をやる動機となった体験を「本文を読むときにはバイアスになるかもしれないこと」と断った上であとがきに記している。
しかし、社会学の専門家やそれを目指す学生でないのなら、禁欲的に宮台の理論のみを理論的に追いかけるよりは、宮台の個人的な事情を把握したうえで彼の発言を聞いた方が、
断然おもしろい |
また、小林よしのりが宮台について抱いている根拠のない勝手なイメージを流布してしまっている(『ゴーマニズム宣言 9』など[1])ため、すでに歪んだ宮台像を心に描いてしまった人も少なくないという現実がある以上、そういう人たちに対するフォローとしても彼の個人史を紹介しておく必要もあるだろう。
そこでまずは、
宮台真司の青春時代 |
1959 年生まれの宮台の中学入学までの足取りはよくわからない。しかし、小学校のころから進学塾に通いづめであったことが示唆されている [B.1989a] 。
71 年、宮台は東京都内の六年一貫性の男子校に入学。そこでは学校管理者を糾弾する高校紛争の最中で、入学からまる二年の紛争の後生徒側の目的は達成されたが、その後には学校はすっかり荒廃してしまったという。この紛争の中で彼がどういう位置にいて何を見たのかは彼の著書からはよくわからないが、彼はこの経験を「たぶんこれが自分が「社会」という概念を「体験」した最初だった」 [B.1989a] と言っている。
中学高校時代にマニアックに熱中していたものとして、宮台は SF、アマチュア無線、鉄道模型、プラモデル、少女漫画、アニメ、
世界の七不思議(?) |
しかし、この手の文化的混融は「俺はただの優等生じゃない、中学生なのにアングラだって知ってるぞ」的なイヤラシさに満ちたもので、宮台にとっては「必ずしも愉快な空間ではなかった」 [B.1993a] という。新人類からオタクに至る文化的変遷を
高みから俯瞰するような視点 |
77 年東京大学(文科三類?)に入学。詳細はわからないが、大学 1 年から3 年にかけて、宮台は学生映画のカメラをまわしていた。どんな映画をとっていたのか、撮影現場の歌舞伎町では危険な目にあったこともあるという [B.1993a] 。この頃の宮台は「全く勉学から遠ざかって」映画に熱中していたらしい [B.1989a] 。
79 年、宮台は文学部社会学科に進学。社会学科に行ったのは「テレビ局に入るため」 [B.1989a] 。81 年に大学院に進学したのは「気まぐれに近かった」という。社会学の研究者になるきっかけを与えてくれた人物として宮台は [B.1989a] のあとがきで吉田民人、橋爪大三郎、大澤真幸の三人を真っ先にあげている。また、学生映画に熱中していた時代に唯一まともに読んでいたという廣松渉を「私の社会学の原点」とも言う。
80 年代前半、宮台は塾講師のアルバイトをやっていた。小学生から浪人生までを教えていた宮台は自分の五つ下の以下の世代では女の子の精神的優位を男の子がいつまでも取り返せないことを見て取る [B.1993a] 。後のサブカルチャー分析やブルセラ研究(本人はブルセラは藤井良樹の専門で自分は
テレクラ研究家 |
84 年、大学院に在籍のまま宮台は社会学科の同窓であった岩間夏樹とともにマーケットリサーチ会社「ライズコーポレーション」の設立に参加し、取締役となる。この会社は企業からのスポンサーシップを得て統計調査やグループインタビューなどを行ない分析・研究の結果をスポンサーに提供する会社だが、データの学術的な利用権を留保する形でスポンサーと契約を結ぶという点で独創的であった。
ライズコーポレーション設立の動機には大学や学会における社会学研究のシステムに対する強い反発がある。現実社会を対象とするはずの社会学が方法論(=方法のための方法)の探求に終始し、現実に帰って来なくなった現状に宮台らは強い苛立ちを感じていたようだ [B.1993a] 。
結局宮台は 87 年に大学院の博士過程を満期退学している。
[1]「小林よしのり『SPA!』との訣別そしてその後の『ゴーマニズム宣言』」の切通理作によるインタビュー。小林は「宮台真司は女を知らん」と言い、宮台が統計だけでブルセラ少女を解釈していると批判する。小林は、かつて自分の体験した不良少女たちとの交流の実感と宮台の解釈のズレを根拠にそのような批判をするのだが、ブルセラ少女の行動がかつての不良少女とは違う動機から発することは宮台が、 [B.1994a] などで明らかにしている。
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