◆銀河英雄伝説(ネタばれ) |
このタイトルを見たとき、ヤンに対して度量の小さい帝国の一部将兵らが、彼を拉致、監禁するとかの展開を連想していました。そして、「査問会」の時のように丁々発止のヤンの弁舌があったりして、結局は解放されるか、悪くても、次章でユリアンたちに救出されるものと信じていました。ところが…。 なぜ、それほど私自身のショックが大きかったかといえば、主役が物語の途中で死ぬはずがない、と思い込んでいたからです。錯覚の一つは、「銀河英雄伝説」の主人公が、ヤン・ウェンリーだと思っていたこと(少なくとも、ラインハルトとは、同格の主役と思っていました)。二人の勝負は、小説が終わる10巻の最後に決着するものと予想していました。 ◇ ◇ ◇ …と、無慈悲な扱いに、私も理不尽な思いを持ったのですが、しかし、作者が真に描きたかったのは、ヤン亡き後の共和政府の存亡だったのですね。残された人々が、どう対処していくか、ヤンをこのまま活躍させることも一つの選択なら、ヤンに頼ることのできなくなったユリアンたちを描くことも、思索に値する選択肢であった。 「年長者から年少者へ、先人から後続者へ、想いのたいまつはリレーされていくのだろうか」 ラインハルトが志半ばに倒れても、こんな書き方はできないはずです。彼の目指したものが、結果的に善政になったとしても、一個人の功績にすぎず、世襲の独裁制を採ることは、ラインハルト自身よく知っているように、いつかは腐敗と権力の濫用を生んでいき、それは作者も描く必要のないことでした。当然、作者は、ラインハルトの死による帝国側の混乱よりも(これもなかなか興味がありますが)、ヤンの死で共和体制の存続がどうなるか、ユリアンたちがどう対応していくか、描かなければならないテーマとしたのでしょう。 ◇ ◇ ◇ 私の場合、とにかく、本編10巻、外伝4巻※注(全6巻にすると言っておられますが、どうなるのでしょう?)ということを先に知ってて読んでいるものですから、10巻目で、ラインハルトが倒れることが薄々推測できようとも、外伝の方は、年金生活をしている退役軍人ヤン・ウェンリーの回顧録か、アッテンボローやメックリンガーが戦史を執筆したという形で、「魔術師、復活」が語られるものと思っていました。 そうアッテンボローに言わせつつ、外伝でヤンの生前の活躍を描くことは、結局、作者が、書く意志のある限り、三文ドラマならずとも、小説のキャラクターは生き続けていくのだということですね。 (1991/06)
(2002/05/26) |
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