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運動と民主主義の意味を問う
 
 
樋田毅著『彼は早稲田で死んだ−大学構内リンチ殺人事件の永遠』 
 
 
            瀬戸宏
 
 
『社会新報』2022年3月23日
 
 
 50年前の1972年11月8日、早稲田大学で一般学生の川口大三郎君が学生自治会を支配する革マル派に反対党派スパイの疑いをかけられ、白昼自治会室に連行され長時間のリンチの末に殺される事件が起きた。早大では革マル派の暴行事件が多数起きていたが死亡は初めてで、圧倒的な学生による自治会再建,反暴力運動が起きた。著者の樋田毅氏は再建自治会の委員長を務めるなど、運動の中心にいた人である。
 
 だが運動は敗北に終わった。革マルの巻き返し暴行や当局の暗黙の革マル擁護、反対運動内部でも焦りから自治会民主主義を無視し暴力に走る動きが現れ、一般学生の運動離れに拍車をかけた。樋田氏は卒業後新聞記者となり、約50年後に運動を振り返りその意義を考える本書を刊行した。単純な回顧ではなく、運動と民主主義、暴力の意味を問い返す。革マル活動家のその後も探し求め、対話を試みる。民主主義が危機に瀕している現在の日本だからこそ、多くの人に読まれてほしい。
 
(『彼は早稲田で死んだ』文藝春秋、2021年11月10日、1800円+税)