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辺見庸 角川書店 2002年12月25日刊 1100円(税別)
いかにもご立派な法案の名称から私が思い起こすのは、ジョージ・オーウェルの『1984年』です。そこで描かれている全体主義国家では、官庁や制度に冠された美名と実態が完全に裏腹です。オーウェルはこうしたやり方を「二重思考(ダブルシンク)」とか「新語法(ニュースピーク)」と呼びましたが「個人情報保護法」もそれに似ています。よく読めば、保護ではなく、個人情報の国家による管理であり、占有です。ですから、「個人情報管理法」というのがより実相に近い名称でしょう。情報保護にことよせて情報管理と言論統制を徹底するという、やはり全体主義的「二重思考」の産物です。
「単独発言」
58ページ
『1984年』にはテレスクリーンというのがでてくるんです。ビックブラザーを頂点とする党が国を完全に管理し、テレスクリーンで、あらゆる個人生活を監視する。そして言語表現を改造したり簡略化したり、史実や過去の記録の一切を国家が管理し、変造したりすることにより、反体制的な思考ができないようにしていく。全体主義の要諦はいつも、情報管理と言論表現の統制にあるのですね。
同書60ページ
言語状況の荒廃の最たるものは、例のガイドライン関連法の「周辺事態」という、とんでもない官製造語ですね。これだってオーウェル流にいえば、ニュースピークであって、実相を名辞でもって隠蔽したり薄めたりして世論をミスリードしていく。いまの権力はこういう言葉をつくるのが巧みです。
同書62ページ
辺見庸 毎日新聞社 2003年5月15日刊 1400円(税別)
162-166ページが、「動物農場」にまつわるエッセイ。
二十世紀は『動物農場』を克服できず、二十一世紀初頭のいまは元祖『動物農場』後の、もっともっとでたらめな"新動物農場"が戦争狂の豚によって営まれているのだから。
同書166ページ
辺見庸 毎日新聞社 2002年10月10日刊 1429円(税別)
「二重思考」の項で
いや、どこかの国がこの小説に似てきているのだ。新聞社やテレビ局のビルの壁に、真理省のこんなスローガンが大書されていないか、われわれはいま、しっかり眼を凝らす必要がある。
戦争は平和である 自由は屈辱である 無知は力である
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