少女は、夢を渡る



第四話 ユメの結末











                                 『なんで泣いてるの?』





 小さな女の子の声が聞こえる。





     『泣いてなんかいないわよ!』





 あたしは大声で叫ぶ。





                                 『でもお姉ちゃん、泣いてるよ?』





     『泣いてなんかいない!』





                                 『へんなの? 泣いてるのに…。』





     『あたしは泣かない! そう決めたの!』





                                 『そう、すごいね、お姉ちゃん。

                                  でもお姉ちゃん、今、泣いてるよ?』





     『違う!あたしは泣いてない!

      あたしは泣かないの!

      あたしは強いから泣かないの!』





                                 『強いと泣かないの?』





     『そうよ。強い子は泣かないの。』





                                 『そっか、お姉ちゃんは強くなりたいんだ。』





     『そうよ、あたしは強くなりたい。

      強ければひとりで生きていけるから。』





                                 『ひとりで生きたいの?』





     『あたしはひとりで生きるの!そう決めたの!』





                                 『ふーん。

                                  でもお姉ちゃん、なんだかかわいそう。』





     『…どうして。』





                                 『だって、にこにこ笑ってないもん。

                                  あたしね、ママに言われたんだ。

                                  笑うってことは、幸せなのよ、って。

                                  だからあたし、いつも笑ってるんだ。』





     『……。』





                                  『ね、お姉ちゃんもそうしたら?

                                   ほら、笑って笑って。』





 金色の髪に赤い髪留めをしたその女の子は、あたしの前でにこにこ笑いながら両手を振る。

 その仕種はとても愛らしく、その子の幸せを、あたしは感じた。









                                  『ね、お姉ちゃん、好きな人っている?』





 突然、その子はそんな事を言った。





                                  『あたしね、憧れてるの。

                                   いつかあたしにも、素敵なボーイフレンド

                                   が出来ないかなぁ、って。』



                                  『お姉ちゃん、すごく奇麗だから、ボーイフ

                                   レンドっているよね?』







 ちょっと頬を赤くしながら、その子は上目遣いにあたしを見た。





 その瞬間、あたしの頭には、あのばかの姿が浮かんで。





 優柔不断で。

 ハッキリしなくて。

 いつも人の顔色ばかり伺ってて。

 おどおどしてて。



 訓練もなしに、あたしよりもずっと先に行っちゃって。

 身一つで、マグマの中に飛び込んで。

 一ヶ月も融けていたくせに、帰ってきたらけろりとしてて。



 一緒に住んでいるのに。

 あのキスのときだって、あたしの背に手を回してくれなくて。





 ……誰よりも近いのに、誰よりも遠くって。





 そんな、あのばかの顔が浮かんで。





 あたしはなんだか、胸の奥が痛くなった。











                                  『…ぇちゃん、お姉ちゃん!』





     『えっ!?』





 その女の子の声に、あたしは我を取り戻した。





                                  『どうしたの?お姉ちゃん?』





 その子はまた、可愛らしく笑いながらあたしを見る。

 あたしにはその笑顔がとても眩しくて。

 あたしがなくしてしまった何かを、その子が持っている気がして。





     『ううん、何でもないわよ。』





 あたしは、ぎこちなく笑うことしか出来なかった。

 でもその女の子は、またあたしに奇麗な笑顔を見せて、こう言ったの。





                                  『あ、お姉ちゃん、やっぱり笑ってた方が

                                   ずっといいよ!』





                                  『あたしも…

                                   お姉ちゃんみたいになりたいなぁ…。』





 そしてまた、その子はニコッと笑った。





                                  『あ、あたし、もう帰らなくちゃ。

                                   ママが心配するから。』



                                  『じゃあね、お姉ちゃん!』





     『あ、ちょっと待って!』





 あたしはまだ大切なことがあるような気がして、その子を思わず呼びとめた。





                                  『え? なに? お姉ちゃん。』





 数瞬の間、あたしはその子の顔を、じっと見ていた。





     『ね、あなたの名前、なんて言うの?』





                                  『え、あたしの名前?』



                                  『あたしはね、

                                      「惣流アスカラングレー」

                                         って言うの。いい名前でしょ?』





 胸を張ってそう言うその子に、あたしは何も言えなかった。

 そう、あたしはきっと、わかってた。

 わかってたんだ。





     『そう、いい名前ね。』





 そう言うあたしに、その子は本当に嬉しそうに、顔中で笑った。





                                  『お姉ちゃんの名前は?』





     『あたしの名前はね…。』





 あたしはその子の耳元で、そっと囁いた。



 その子は満足そうに肯くと、後ろ向きにぽんぽんと飛び跳ねる。





                                  『お姉ちゃん、またねっ!』





 両手を大きく振ったその女の子は、身をくるりと翻して、今度は振り返らずに走り出す。

 そしてその子は、すうっと掻き消されるように消えていった。





 あたしはその様子を、右手を小さく振りながら、ずっと見ていた。





     『またね、か……。』





 そして、あたしの視界もぼやけて…。









































 最終話へ続く










 TOP PAGEへ


 EVANGELION NOVELS MENUへ





 ご感想、ご意見、ご要望をお待ちしております

 簡単に感想が送れるフォームはこちら

 または、takeo@angel.email.ne.jpまでメールをお送り下さい

 GUEST BOOKへの書き込みも歓迎致します