少女は、夢を渡る



第弐話 ユメの続き








 教えてもらいながら、あたしは何とか一個の小さなチョコレートケーキを作りあげたの。

 10cmくらいの、小さなチョコレートケーキ。

 何回失敗しそうになったか、わからない。

 だけど、それが出来上がったとき…

 あたしは、なんとも言えない気持ちになった。





 そして…

 あいつの顔が…

 あのばかの顔が… 浮かんできちゃったの。





 あのばか、どんな顔するのかしら…

 驚くかな、やっぱり。

 あたしがこんなことするなんて、絶対に思わないだろうし。



 どう思うかな。

 喜ぶかな。



 ………



 それに、ちゃんと食べてくれるのかな…





 ううん、あのばかは絶対に食べてくれる。

 だって、ばかだもんね。

 ホント、ばかなんだから…



 …ばか。





 あたしはしばらく、ぼぉっとしてた、みたいね。

 気が付いたら、あたしの大切な友達が、優しい顔で笑ってた。

 恥ずかしいような照れくさいような、そんな気持ちだった。



 そしてあたしは極自然に、口を開いた。





   「ね。」



   「なに?」



   「…ありがと。」



   「なに言ってるのよ。ホントにらしくないわよ?どうしたの?」



   「あはは、なーんでもないわよ!」



   「へんなの?」





 あたし達はお互いの顔を見合わせて、思いっきり笑ったんだ。



 とても、楽しかったから。

 とても、嬉しかったから。

 とても、いい気持ちだったから。





   「じゃ、またね。」



   「うん、がんばってね。」



   「そっちこそ。」



   「そうね、がんばろうね。」



   「じゃね。」



   「うん、バイバイ。」





 あたし達は両手を振ると、お互いに笑顔を確かめ合って、それから別れた。



 マンションの階段を、軽い足取りで一段抜かしに降りたあたし。

 右手には真っ赤なリボンがかけられた箱が、しっかり握られてる。

 スキップなんかしながらマンションのロビーを抜けると… 外は一面の雪景色になっていた。





   「雪かぁ。どうりで寒いと思ったわ。」





 あたしは誰ともなしに呟くと、お気に入りの真っ赤なダッフルコートのフードを被って、外に出たの。

 ケーキの箱は、濡れないようにコートの中に仕舞い込んだ。両手でそれを、外から支える格好でね。





 家までは、歩いて15分くらい。

 そんなに遠い距離じゃない。





 だけど今日は、すごく遠く感じたんだ。

 いくら歩いても、ちっとも進まない。

 何かに後ろから引っ張られている感じ。

 あたしはいつの間にか、早足になってた。





 いつものあたしだったら、こんな事には絶対にならなかったと思う。

 でも、今日のあたしは、やっぱり違ってたみたい。







   「あっ!」







 あたしのローファーが、雪の上でつるりと滑る。

 慌てて体勢を立て直そうとしたけれど、ケーキを支えた両手が、それを許さな

かった。



 どすん、と、しりもちを突いたあたし。

 それでも、なによりも大切なケーキは、大事に抱えたまま。



 あたしはすぐに立ち上がると、近くのブティックの軒下に駆け込んで、コートの中に

仕舞い込んでいたケーキを取り出した。

 その箱は、少しも崩れていなかった。

 中身まではわからなかったけれど、でも、きっと大丈夫。



 あたしはほっと、一息吐く。





   よかった…

   あたしの気持ち、壊れてなかった…





 ふと、ショーウインドーに映る、自分を見る。

 そこには、今まで見たことがないような笑顔の、あたしが映っていた。



 あたしはちょっとびっくりしたけれど、でも、やっぱり嬉しくなったの。

 ついさっき、転んだことも忘れてね。



 そして、あたしはフードを被り直すと、また歩き始めた。


































 第参話へ続く









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