九.困惑


 七月二四日(日) 天気・曇り 気分・上々

 今日から、シンイチと一緒に受験勉強をすることにした。近所の図書館ですることにしたんだけど、これがちょっと失敗。自分で言うのもなんだけど、私って結構目立つのよね。だから図書館の中でも人目を惹いちゃって……。私はそんなのは慣れっこなんだけど、シンイチは随分気にしていたみたい。人目を気にしすぎるところがあるのよね、シンイチは。そんなの気にしなければいいのに。

 肝心の勉強の方。私は勉強は出来る方だから苦労はないんだけど、シンイチはそんなに得意じゃないみたい。って言うか、要領が悪いのよ。数学だって、わざわざ難しい方法で解こうとしているし。こうすればもっと楽に解けるよ、って教えてあげたら、シンイチは感心していた。ハルカって頭いいね、だって。シンイチの要領が悪すぎるのよって言いそうになったけど、それは流石にやめておいた。シンイチだって頑張っているんだから、可哀想だもんね。でも、もう少し要領良くなった方がいいと思うな。

 それよりもシンイチは、私の英語が完璧なことに驚いていた。私、何故か英語が喋れるのよね。私自身もそのことに気付いたときには驚いたんだけど。それに加えて、日本語もちゃんと使えるし。
 シンイチには自慢したけれど、本当はあまり嬉しくない。おかしいのよ。中学生で英語も日本語もペラペラなんてすごいことなのに、嬉しくないの。むしろ、嫌な感じさえするのよ。もしかすると、私のなくした記憶に関係しているのかもしれない。

 お昼になって、今日のお昼ご飯はどうしようってシンイチに言ったら、シンイチ、バッグの中ならなにやら取り出すのよ。なに?って聞いたら、お弁当だって。それもシンイチ手作りの。
 お弁当!しかも手作り!そんなものを持ってくるなんて、私、まったく想像してなかった。そもそも発想がなかった。この前の麦茶と言い、妙に主婦っぽいところがあるのよね、シンイチって。
 あ、主婦じゃなくて主夫か。
 近くの公園で一緒に食べたんだけど、これが本当に美味しいのよ。そこらの食堂なんか、目じゃないくらい。私の好きなハンバーグに卵焼きまで入っていて、もう最高だった。

 でも私、食べているうちに、何故だか涙が出て来ちゃったの。理由はわからない。でも、どこか懐かしいような、そして切ないような気持ちになって……。
 シンイチは驚いて、「大丈夫?変な味だった?」って背中をさすってくれた。もちろん慌てて否定したけれど、シンイチを驚かしちゃったのは事実。シンイチには理由を正直に言ったけど、わかってくれたかな……。

 午後の勉強は三時で切り上げて、それからはそのあたりをフラフラ歩いた。

 シンイチといると、楽しいって言うよりも安心する。これは『好き』ってことなんだろうか。私にはよくわからない。なくした昔の私は、人を好きになったことがあったのだろうか。今の私は、シンイチのことが好きなんだろうか。そんなことを考えながら、シンイチと歩いていた。
 随分長いこと一緒にいるような気がしたけれど、シンイチと知り合ったのはつい五日前のこと。それなのにこんなことを考えるのは、変なことなんだろうか。考えても考えても、まったくわからない。

 シンイチはこの状況を、そして私のことを、どう思っているのだろうか。


(以上、漣ハルカの日記より抜粋)








十.雨

 

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