十六.記憶の扉を叩くもの


 八月八日(月) 天気・曇り

 今日はまた、凄く嫌な夢を見た。

 あたりは暗いんだろうか。それとも明るいんだろうか。空には星が見える。それと一緒に、赤い川が空に浮かんでいる。どういう世界なのか、全然わからない。

 僕は、白い砂浜に寝ていた。
 あれはやっぱり、幻だったのだろうか。僕はそこで、紅い瞳の少女を見た。
 波打ち際に浮かんでいたその少女は、僅かな笑みを僕に向け、何かを言ったように見えた。

 気が付くと、その少女はいなくなっていた。

 僕は、隣に誰かがいることに気付いた。それが誰なのかはわからない。顔もわからない。でも、僕にとってその『誰か』が、重大な意味を持っているような気がした。

 突然僕は、その『誰か』の上に馬乗りになり、首を絞め始めた。
 細い首に、僕の指が食い込んでいく。
 気管から空気が漏れる音が、僅かに聞こえた。

 突然僕は、頬を撫でられた。包帯を巻いた手で、頬を撫でられた。
 僕は急に力が抜けて、涙が出てきた。嗚咽を抑えることが出来なかった。僕は馬乗りになったまま、泣いた。

 その僕に、一言、声が降ってきた。
 その声は、少女の声だった。
 それは、確かにそう聞こえた。

 「気持ち悪い」と。


 そこで、僕は目が覚めた。
 僕はびっしょりと寝汗をかいていた。凄く嫌な夢だった。これほど、夢で良かったと思ったことはなかった。
 今でも首を絞める感触が、指に伝わってくる感触が、思い出される。
 その首は細く、少し冷たかった。


(以上、浜田シンイチの日記より抜粋)






十七.いらないもの、欲しいもの

 

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