一.少年



 その少年の歩き方には特徴がなかった。まるで、日本人全ての平均を取ったような歩き方だった。それは、人目を惹かない歩き方だった。
 アブラゼミの声が響き渡るその道を、少年は静かに歩いていた。

 明日から夏休みという七月のある日のこと。少年がそこに立ち寄ったのは、全くの偶然だった。

 少年は、多くの中学生の様に通知表に一喜一憂することもなく、また明日から始まる夏休みに浮かれるでもなく、いつもの顔で、いつもの足取りで歩いていた。
 いや、やはり少年も、少しばかりいつもとは違っていたのかもしれない。それ故、そこまで足を伸ばしたのかもしれない。
 少年は校門を出ると、家とは反対方向に歩き出したのだった。
 何故そうしたのか。
 それは、少年自身にもわからなかった。

 真っ青な空から真夏の日差しが照りつける中を、少年は、その特徴のない歩き方で歩いた。
 汗は額で玉になり、じっとりとシャツを濡らす。少年はふと、『日差しって痛いんだな』と、感じた。

 白いワゴン車が通り過ぎるのを待って、少年は片側一車線の十字路を渡った。あたりに人の気配はなく、車の往来も殆どなかった。
 上下線合わせて七メートル幅、制限速度が時速四十キロメートルのその道路には、歩道がなかった。まれに通る車は少年のすぐ脇を通り抜けたが、特別、恐怖感を抱くこともなかった。
 少年はT字路に突き当たった。右手には坂が見え、左手には小さな橋が見えた。
 少し考えて、少年はそこを右折した。






二.少女

 

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