八. これから



 「ジントニックね」
 「僕はジンジャーエール」
 注文をすると暫く、二人は無言となる。
 彼が切り出す言葉を探しているうちに、ウェイターがグラスを運んできた。

 「それじゃ、一応乾杯」
 「乾杯」
 彼女の言葉に、彼はグラスを合わせた。
 軽く、グラスと氷の音が鳴った。

 「四年振り、よね」
 最初に口を開いたのは、やはり彼女だった。
 「そうだね」
 薄く色づいたサワーグラスを眺めながら、彼は答える。

 「なにやってんの、今」
 「高校生」
 少し素っ気なかったかな、と彼は続けた。
 「秩父って言うところに住んでて、地元の高校に通ってる」

 「ふーん」
 それは、とても曖昧な返答だった。色々な含みがありそうで、それでいてなにも考えてなさそうで。

 「アスカは?」
 「高校生」
 一言だけ答えると、彼女はタンブラーに口を付ける。
 やんわりと拒まれたような気がして、彼はまた、グラスに視線を戻した。

 「アンタ、相変わらずね」
 その声に顔を上げると、彼の方を向きながら、彼女が頬杖を突いていた。その姿に彼の心臓は瞬間、小さく鳴った。それを隠すように、シンジはジンジャーエールを口にする。炭酸が口内で弾けた。

 「そういうとこ」
 彼女が一瞬、笑ったような気がした。

 彼女の向こうに、柱時計があった。時計の針は、約束の時間を二十分ばかり廻っていた。
 「アンタ、何時に待ち合わせたの」
 自分を通りすぎたシンジの視線を解して、アスカは問う。
 「七時だけど……」
 「ふーん、遅いわね」
 左腕の腕時計をちらりと見て、彼女はまた頬杖を突いた。

 彼は半ばパニックに陥っていた。目の前にはアスカがいる。綾波は未だ来ない。けれど、綾波が来たらどうなるんだろう?
 「そんなに気になるんだったら、電話でも掛けてきたら」
 そわそわと落ち着かない様子のシンジに、アスカは静かに言う。

 「番号、知らないんだ」
 「そう。じゃ、ダメね」
 そしてまた、タンブラーを傾ける彼女。

 なにも言わず、なにも語らず、ただ時だけが去っていく。

 空いたタンブラーを軽く掲げて、アスカはギムレットを注文した。
 アスカの注文を受けて、バーテンがシェーカーを振る。軽い心地よい音が、リズミカルに響く。
 その様子をシンジは、ただ眺めていた。

 それは、突然の告白だった。
 シンジの鼓動は一瞬、止まるかに思えた。


 「これから、ファーストが来るの」




九. もう十八歳




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