「アンタ、こんなとこでなにやってんのよ」 彼女の第一声は、憎まれ口だった。 「いや、ちょっと約束があって……」 「この店で?」 「うん、多分ここだと思うんだけど」 つかつかと歩み寄ると彼女は、「ちょっと貸しなさいよ」と彼の手から地図をひったくる。 「確かにここで合ってるわね」 地図を睨みながら、彼女は独り言のように呟く。 「よりによって、同じ場所で待ち合わせなんて……」 『どうすんのよ、ファースト』 「え、なにか言った?」 「なんでもないわ、独り言」 努めて素っ気なく切り返す彼女。 「まあいいわ、とりあえず入るわよ」 「あ、うん」 外から想像するよりもずっと、店内は広々としていた。席の数は六十は越えているだろうか。入って右手はカウンター席になっており、左手前に二人掛け・四人掛けの席が、左奥に多人数用のボックス席が有った。 客の入りは五分と言ったところか。彼女は店員に目配せすると、右手奥のカウンター席へ向かった。 「ほら、なにぼさっとつっ立ってんのよ」 「え、でも」 彼女の視線に困惑する彼。 「まだ来てないんでしょ、相手」 「そうだけど……」 「久しぶりなんだから、ちょっと顔を貸しなさいよ」 彼女の勢いに気圧されながらも、彼は彼女の右隣に腰を下ろした。 |