八月十日。その日は朝から茹だるような暑さだった。 日が落ちかかってもなお気温が下がることはなく、街を行き交う人の額からは大粒の汗が流れ落ちていた。 地元の駅からおよそ四時間。碇シンジは四年振りに、第二新東京市に降り立った。 「あ、ここかな」 地図を片手に目的の店を見つけた彼は、英国風のこじんまりとした店先に視線を向ける。煉瓦作りの壁にはツタが這い、手書き風の看板には、『喫茶酒場ココニール』とあった。 しかしそこで、彼の視線は一点に釘付けとなった。店先で中の様子を伺っている一人の女の子から、目を離せなくなった。 四年の年月が経とうとて、見間違えるはずがない。 髪には緩いウェーブが掛かり、赤いヘッドセットに代わってシルバーのネックレスをしていたけれど。 そう、それは確かに、惣流アスカラングレーだった。 「アスカ……」 彼の視線に気付いたのだろうか。店内を覗き込んでいた彼女は、不意に振り返る。 彼と彼女の視線が交錯する。 彼女の瞳が、一気に大きくなるのがわかった。 思わず漏れる、その呟き。 「シンジ……」 そして、二人は言葉を失った。 信じられないものでも見るような顔つきで、互いに顔を見合わせる二人。 刹那。二人の時は止まり、そして巻き戻された。 |