綾波レイからのメールを受け取ってから、一週間が経った。今日も彼は、そのメールを開いて読み返す。 彼女らしく、簡潔な用件のみのメール。しかしその文面から、以前の彼女と明らかに違っている様が読みとれる。 『急にメールをお送りしたので、驚いているかと思います。ごめんなさい』 それは、四年前の彼女からは想像できない言葉であった。 「ごめんなさい、か……」 その言葉は、彼女のあの微笑みを想い出させる。 『ごめんなさい、こういうとき、どんな顔をすればいいのかわからないの』 『笑えばいいと思うよ』 綺麗な笑みだった。その笑みをもう一度見たいと思った。 されどその願いは、ついぞ叶わなかった。 「綾波……」 不意に、彼の顔が曇った。 『いえ、知らないの。たぶん、私は三人目だと思うから』 その言葉が脳裏に浮かぶ。 「まさか、綾波……」 『そんなはずはない、第一、綾波は綾波じゃないか』そう自分に言い聞かせはするものの、心の曇りは晴れることはなかった。 そうして今日も、彼女に向けたメールを書く。
そこまで書いて、彼はキーを叩く手を止めた。そうして暫し、彼は思い悩む。 結局彼はそのメールを破棄して、溜息と共にごみ箱へ捨てた。 「はぁ……」 そんなことを彼は、毎日続けていた。 結局。発信されたメールは、一通もなかった。 日が経つに連れ、彼の心境はより複雑なものとなっていった。『私は三人目だと思うから』そのときの彼女の赤の他人のような無表情な顔が、何度も何度も蘇ってくる。意識して消そうとする努力も空しく、繰り返し浮かんでくる。 心の重石は、日増しに大きくなっていった。 |