四. 溜息と共にごみ箱へ



 綾波レイからのメールを受け取ってから、一週間が経った。今日も彼は、そのメールを開いて読み返す。
 彼女らしく、簡潔な用件のみのメール。しかしその文面から、以前の彼女と明らかに違っている様が読みとれる。

 『急にメールをお送りしたので、驚いているかと思います。ごめんなさい』
 それは、四年前の彼女からは想像できない言葉であった。
 「ごめんなさい、か……」
 その言葉は、彼女のあの微笑みを想い出させる。

 『ごめんなさい、こういうとき、どんな顔をすればいいのかわからないの』
 『笑えばいいと思うよ』

 綺麗な笑みだった。その笑みをもう一度見たいと思った。
 されどその願いは、ついぞ叶わなかった。

 「綾波……」

 不意に、彼の顔が曇った。

 『いえ、知らないの。たぶん、私は三人目だと思うから』

 その言葉が脳裏に浮かぶ。
 「まさか、綾波……」
 『そんなはずはない、第一、綾波は綾波じゃないか』そう自分に言い聞かせはするものの、心の曇りは晴れることはなかった。

 そうして今日も、彼女に向けたメールを書く。


        
  件名:今日も暑いね  
  宛先:綾波レイ<rei_ayanami@nerv.go.jp>  
        
  

 碇シンジです。こんばんは。

 今日も凄く暑かったね。学校の温度計、四十度だって。そんな中で勉強なんてやってられないよね。
 勉強って言えば、そろそろ期末テストがあるんだ。うちの学校は中間テストがなくって、期末テストの一発勝負だから、気が抜けないよ。真面目に勉強しないとね。

 綾波は学校に行ってるの?普段はなにやってるの?

  



 そこまで書いて、彼はキーを叩く手を止めた。そうして暫し、彼は思い悩む。
 結局彼はそのメールを破棄して、溜息と共にごみ箱へ捨てた。
 「はぁ……」

 そんなことを彼は、毎日続けていた。
 結局。発信されたメールは、一通もなかった。

 日が経つに連れ、彼の心境はより複雑なものとなっていった。『私は三人目だと思うから』そのときの彼女の赤の他人のような無表情な顔が、何度も何度も蘇ってくる。意識して消そうとする努力も空しく、繰り返し浮かんでくる。
 心の重石は、日増しに大きくなっていった。




五. そして、巻き戻された




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