二. 会えるのを楽しみに



 午後八時。一日の汗を洗い流した彼女は、端末のスイッチを入れてメールソフトを立ち上げ、未読メールを受信する。未読メールの数は三十五通。差出人名と件名をチェックしながら一通り目を通すと、信じられない名前が目に付いた。


        
  件名:お久しぶりです。お元気ですか?  
  差出人:綾波レイ<rei_ayanami@nerv.go.jp>  
  日時:2019年7月4日  
        
   惣流さん、こんにちは。綾波レイです。ご無沙汰しています。
 突然のメールで驚いていると思います。ごめんなさい。実は貴女に、お話ししたいことがあってメールしました。
 そこで、急で身勝手な話で申し訳ありませんが、八月十日の土曜日の夜、お時間は空いていませんでしょうか?直接お会いしてお話ししたいのです。場所は第二新東京市内です。
 それでは、お返事を待っています。

 綾波レイ

  



 たっぷり数分間は放心していただろうか。ハタと気付いた彼女は、メールのヘッダを調べた。するとそれは間違いなく、ネルフのサーバから発信されたものであり、単純かつ悪趣味な悪戯メールではなさそうだ。
 かつてとはその役割や立場が変わったとはいえ、今なおネルフには有能な人材が数多くおり、そのセキュリティは極めて強固である。それを考えると、ハッカーの犯行という見方はかなり薄れる。何よりも、それだけのリスクを背負って今のアスカにメールを届けることに、どれだけの意味があるのか。

 彼女は溜息をひとつ吐く。
 『あれこれ考えても仕方ないわね。ホントにファーストなんだったら、会うしかないじゃない。何の話があるのか知らないけど、それも悪くないでしょ。アタシだって、あの子に話したいことはあるし』

 そこまで考えて『でも、何を話そうか』などと考えたりもする。しかし、迷っていても仕方がない。行動しないことには何も始まらない。極めて彼女らしい結論に達した後、彼女は返信を書いた。


        
  件名:ホントに久しぶりね。元気だった?  
  宛先:綾波レイ<rei_ayanami@nerv.go.jp>  
        
    ファーストへ。
 アスカです。こんにちは……っていうか、凄く久しぶりね。四年振りかしら。
 正直言って、驚いたわ。貴女からメールが来るなんて、想像もしなかったから。

 アタシは元気よ。今は第二新東京市内の高校に通って、それなりに楽しくやってる。
 貴女はどうしてるの?ま、詳しい話は直接会って聞くからいいわ。行方知らずだった貴女に連絡が取れただけでも、今回はいいって思っているから。

 八月十日の件、大丈夫です。貴女に会わせますので、詳しい場所と時間を教えて下さい。
 では、会えるのを楽しみにしています。


 惣流アスカラングレー


  





三. まるで百面相




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