時刻は午前三時を少し廻った頃。永久に続くかと思われたどんちゃん騒ぎも終焉を迎え、多くの者が雑魚寝を決め込んでいた。 その頃テラスで、彼女は星を見ていた。 気温は心持ち下がったものの、今日もまた熱帯夜のようである。 されども、今日の彼女にとってそれは、決して不快なものではなかった。 背後に、気配を感じた。 「僕は、ずっと考えていたことがあるんだ」 細い背中に、シンジは話し掛ける。 「もし、万が一、アスカに会ったらしなくちゃいけないことがある、って」 「僕は、アスカに、酷いことをした。アスカを……侮辱して、見捨てて、殺そうとした」 「何を言ったって、赦してもらえるなんて思えないし、思わない」 「でも僕は……自己満足かもしれないけど……」 「アスカ」 「本当に、ごめん」 そうして彼は、頭を垂れる。 背中で黙って聞いていた彼女は、ゆっくりと振り返った。 だが彼は、彼女の気配を感じつつも、未だ顔を上げようとしなかった。 幾ばくかの間、二人はそのままで。 その緊張を破ったのは、彼女だった。 「ケータイ」 彼女のその一言は、全くもって理解不能だった。思わず彼は、面を上げる。 「アンタのケータイ番号、教えなさいよ」 「え?」 「ケータイよ、ケータイ。持ってるんでしょ」 戸惑い、目を白黒させながらも、彼は部屋にあったメモに自分の電話番号を書き記す。 引ったくるようにそれを奪い取った彼女は、身を翻し、背後のシンジに言い放った。 「気が向いたら電話してあげるから、首を洗って待ってなさい。いいわね」 「あの……アスカ?」 「なによ、五月蠅いわね」 彼女は、夜空に浮かぶ月を見上げる。 暫くその背中を、彼は眺めていた。 暫くその視線を、彼女は受け止めていた。 暫く二人は、熱帯夜の風に晒されていた。 月の光が、ふたりを包んでいた。 |