「すみません。碇さんと惣流さんでしょうか?」 カウンターの向こうから、ウエイターが声を掛ける。 「そうですけど……なにか?」 やや不審を打った顔で、シンジは答えた。 「メールで伝言が入っています。どうぞ」 ウエイターは控えめな笑顔を湛えながら、プリントアウトした用紙をシンジに渡す。 「あ、ありがとうございます」 軽く頷いたウエイターが奥に引いてから、シンジは折り畳まれた紙を開いた。
そのメールを読み終えて、二人は放心するしかなかった。顔を見合わせることもせず、ただ、その白い紙を呆然と眺めるだけだった。それはとっくに、二人の理解できる範疇を越えていたのかもしれない。 「どうする?」 「どうするもなにも、ここまで来たら行くしかないでしょ」 「そうだよね……」 シンジはもちろんの事、アスカも流石に動揺を隠せない。 グラスに残ったカクテルを飲み干し、会計を済ませて二人は外へ出た。気温はやや下がったものの、未だ粘り着くような暑さが、冷房で冷やされた身体には堪えた。 「ホテルってまさか、ああいうホテルじゃないでしょうね」 アスカのしゃくった顎の先には、過剰なまでに煌びやかなネオンが光っていた。 「そ、そんなことないと思うよ」 あからさまに狼狽えるシンジ。 「ま、いくらファーストだって、そこまで悪ふざけしないでしょ」 地図を片手に、さっさと歩き始めるアスカ。その後を、シンジはややもつれた足取りで追いかけた。 レイの指定したホテルは、そこから五分ほど歩いたところにあった。 そこはアスカが想像したようなホテルではなく、立派なシティーホテルだった。 柔らかな絨毯を踏みしめてフロントに向かい、名前を名乗ると、受付の男性はにこやかに言った。 「九〇一号室ですね。皆さんお待ちかねです」 「皆さん?」 二人は、顔を見合わせるしかなかった。 |