十二. ごめんなさい



 「すみません。碇さんと惣流さんでしょうか?」
 カウンターの向こうから、ウエイターが声を掛ける。
 「そうですけど……なにか?」
 やや不審を打った顔で、シンジは答えた。
 「メールで伝言が入っています。どうぞ」
 ウエイターは控えめな笑顔を湛えながら、プリントアウトした用紙をシンジに渡す。
 「あ、ありがとうございます」
 軽く頷いたウエイターが奥に引いてから、シンジは折り畳まれた紙を開いた。


        
  件名:ごめんなさい  
  差出人:綾波レイ<rei_ayanami@nerv.go.jp>  
  日時:2019年8月10日  
        
   
 碇くん、惣流さんへ

 ごめんなさい。今回はちょっと、悪ふざけをしてしまいました。怒っていますか?碇くんと惣流さんのことですからきっと、大丈夫だと信じています。
 悪戯ついでに、もう少しお付き合いしてくれませんか?
 今、碇くんと惣流さんがいるお店のちょっと先にホテルがあります。その九〇一号室に行ってみて下さい。きっと、いいことがあると思います。フロントで訊ねれば、話は通じるようにしてあります。
 参考までに、地図を添付しておきます。

 最後に、もう一度謝ります。ごめんなさい。


 綾波レイ

  



 そのメールを読み終えて、二人は放心するしかなかった。顔を見合わせることもせず、ただ、その白い紙を呆然と眺めるだけだった。それはとっくに、二人の理解できる範疇を越えていたのかもしれない。

 「どうする?」
 「どうするもなにも、ここまで来たら行くしかないでしょ」
 「そうだよね……」
 シンジはもちろんの事、アスカも流石に動揺を隠せない。

 グラスに残ったカクテルを飲み干し、会計を済ませて二人は外へ出た。気温はやや下がったものの、未だ粘り着くような暑さが、冷房で冷やされた身体には堪えた。

 「ホテルってまさか、ああいうホテルじゃないでしょうね」
 アスカのしゃくった顎の先には、過剰なまでに煌びやかなネオンが光っていた。
 「そ、そんなことないと思うよ」
 あからさまに狼狽えるシンジ。
 「ま、いくらファーストだって、そこまで悪ふざけしないでしょ」
 地図を片手に、さっさと歩き始めるアスカ。その後を、シンジはややもつれた足取りで追いかけた。

 レイの指定したホテルは、そこから五分ほど歩いたところにあった。
 そこはアスカが想像したようなホテルではなく、立派なシティーホテルだった。
 柔らかな絨毯を踏みしめてフロントに向かい、名前を名乗ると、受付の男性はにこやかに言った。
 「九〇一号室ですね。皆さんお待ちかねです」
 「皆さん?」
 二人は、顔を見合わせるしかなかった。




十三. 最高の再会




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