僕は変わったんだろうか。
たぶん、そうなんだろう。
血にまみれている、自分の手をみたとき。
『逃げちゃだめだ』
何千回、いや何万回そう自分に言い聞かせただろう。
そして今日はただ一言。
『逃げちゃだめだ』
つぶやいて、エントリープラグに乗り込んだ。
ふと、プライベート回線をひらく。零号機のエントリープラグ内の様子が正面に映し出される。綾波レイの姿が、映し出される。
「なに」
いつものとおり、抑揚のない声が初号機のLCLに響く。
「ぼくたち、これで死ぬかもしれないね」
「なぜそんなことをいうの?」
「綾波はこわくないの」
「なにが?」
「死ぬことが」
「碇君はこわいの?」
「うん」
「そう」
「目標、第一次防衛ラインを突破。総数9。高度500を維持。本部までの到達予想時間320秒」
エントリープラグ内に日向の声が響く。
「きた」
「碇君」
レイの、澄み透った声がシンジにとどく。
「あなたは死なないわ。私が守るもの」
シンジがアスカにいった言葉を、そのままレイはいう。あのときと同じように。
そして、回線は閉じられた。シンジは、何も、いえなかった。
二体の人造人間が射出される。
人造人間エヴァンゲリオン。アダムより生まれし、人間にとって忌むべき存在。
それを利用してまで生き延びようとするリリン。僕にはわからないよ。
カヲルという少年は、そう、いった。
舞い降りてくるテキ。僕らを脅かすもの。僕らを傷つけるもの。アスカを、傷つけるもの。
ぼくは、たたかう。
ボクハ、タタカウ。
なんのために。
『あんたばかぁ。わけわかんない奴が攻めてきてんのよ。降るかかる火の粉は、払いのけるのがあったり前じゃない』
かつてそういった少女は、いまはここにいない。
僕は戦う。
ボクハタタカウ。
みんなのために。
ぼくのために。
一人の少女のために。
自分の償いのために。
「また、内罰的だって怒られるかな」
シンジはそんなことを想い、一人苦笑する。
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