「…デート…シンジ君との…デート…か…」

キョウコは小さな声でぽつりと呟く。

「え…?何か言った?」

「…ん…何もない…」

そう言うとキョウコは、はにかんだ様な微笑みを見せた。

 

アスカ・ついんず!

第四話 らぶらぶアスカ!

 

Rossignol 高橋

 

 

 

さて…その頃のアスカは加持の部屋の前にいた。

ぽちっと呼び鈴を押すと、待ってたかの様に加持が顔を出す。

「アスカか?悪いね…と、どうしたんだ?」

いつもの軽い感じから、一気にまじめな顔になる加持。

「加持さん…これ…」

アスカは握りしめられてくちゃくちゃになった封筒を加持に渡す。

「ああ…ありがとう…で、どうしたんだ?」

「ん…なんでもない…」

「そうか…じゃあどうだ?茶でものんでいくか?」

「ううん…いらない…じゃあね…加持さん…」

アスカは俯いたまま振り返ると、またとぼとぼと歩き出す。

「アスカ?」

いたたまれないのか、加持はアスカを呼び止める。

「サインがいるんだろう?葛城がそう言ってたぞ。」

そう言って紙切れをアスカに渡す。

「大丈夫だ、アスカ。シンジ君ならな。」

ついと顔を上げるアスカ。目はぱんぱんに腫れ、涙でくしゃくしゃの顔。

加持は心が痛んだ。

「…そうか…アスカも恋する乙女になったって訳だな…」

ぽつっと感慨深気に呟く。

「俺が言うんだ、大丈夫さ…帰ったらシンジ君によろしくな。たまには二人でここに来るといい。」

「加持さん…」

「誰かを好きになると言うことは、素敵なことさ。でも、良いことばかりでもないのも確かだ。辛いことも

あるからな…場合によっては辛いことの方が多いこともある。しかし、だ。辛いことをたくさん知ることで

人は優しくなれるものさ。シンジ君は優しいだろう?」

「…うん。」

「シンジ君のアスカに対する優しさは、その他の人に対する優しさとは少し違う。少なくとも、俺はそう思う。

彼が無意識にそうしているのなら、きっとアスカとシンジ君との間には絆があるからさ。最も、意識してそれが

出来るなら、俺もうかうかしてられないがな。」

苦笑いしながら、加持は続ける。

「さあ、早く帰らないと。おっと、その前に涙は乾かさなくちゃな。折角のアスカが台無しだぞ。」

そう言ってくしゃくしゃのハンカチを手渡す加持。←なんかかっちょいいな…

「…ありがと…加持さん。」

そう言ってアスカはハンカチでちーんと鼻をかんだ。←おい…

「そうね、泣いてばかりじゃダメだよね。よーし、待ってなさいよシンジぃ。」

そう言って駆け出すアスカ。くるりと振り返り、一言。

「加持さん、ありがとう!」

 

「葛城…あんまり子供を苛めるもんじゃないぞ。」

加持の部屋の玄関…加持は部屋の奥に隠れていたミサトにそう言った。

「まさかああまでアスカがね…って、相変わらず気障ねえ、あんたって。」

腕組みしながら加持のそばに寄るミサト。

「いけないか?」

「いいけどね…まあ、アスカもこれで少しは素直になれるかな…」

「おやおや…さっきここに来た時とは随分と違ってしおらしいじゃないか。」

「…バカ…いいじゃない…私だって…ね。」

そう言って加持に寄り掛かるミサト。しっかりとミサトを抱えた加持は、ふっと優しい笑みを浮かべる。

-こりゃあシンジ君とキョウコさんに感謝しなくちゃいけないな…-

加持は何時になく可愛いミサトを見て、ふとそう思う。

「葛城…」

「何?…加持君。」

「いや…どうだ?俺達も…そろそろ落ちつかないか?」

その加持の言葉に一瞬驚いたような顔を見せるミサトだが、すぐに柔和な笑顔になった。

「バカ…もっとちゃんとした言葉で言いなさいよ…」

「はは…それもそうか…葛城…俺と結婚してくれないか?」

感極まったのか、ミサトの目には涙が光る。

「ええ…私で良ければね…加持君?」

「ん?何だ?」

「幸せに…なろうね…」

「ああ…」

そして重なっていく二つのシルエット…

 

ミサトと加持が背中がかゆくなるような事をしている時、シンジとキョウコはすでに家に着いていた。

「ただいまーって…誰もいないか…」

シンジは玄関に靴が無いことを確認すると、少し肩を落とす。

「…大丈夫よ…もうすぐ帰ってくるわ。」

「どうして…分かるの?」

「…ほら…足音が聞こえるわ…どうやら少しは元気が出たみたいね…」

「え…?」

慌てて耳を澄ませるシンジ。だが、足音らしきものは聞こえない。

「何も聞こえないよ…うわっ!」

と、突然キョウコがシンジを壁に押しつけるように寄り掛かる。シンジはバランスを失ってそのままへたりこむ様に

尻餅を着いた。

「な…何…どうしたの?」

シンジは視線をキョウコに向ける。と、心臓が飛び出そうになる。

「…シンジ君…」

覆い被さる様になったキョウコの顔が至近距離にあるからだ。

蒼い瞳が潤み、憂いた様な表情…少し傾げた首…少しづつ近付いてくる。

「…目…閉じて…」

すでに金縛り状態のシンジは言われるまま、黙って目を閉じる。

キョウコの甘い吐息を認識した次の瞬間…

「…ん…」

シンジには一瞬の出来事。

キョウコに取っては最後の想い。

キョウコはゆっくりとシンジと離れる。

そして視線が触れ合う。

「…ごめんなさい…」

「…え…あ…ええっ?」

シンジの頭はパニックになっている。

「…アスカはもうすぐ帰ってくるわ…シンジ君…あなたはどうするか…分かってるわね?」

ぼーっとしているシンジに、キョウコは柔らかく微笑む。

「…本当にごめんなさいね…今のキスは…アスカには黙っておいて…あの娘はきっとヤキモチ焼くから…」

「どうして…僕に…?」

「…言ったわよ…私もシンジ君が好きだって…」

「じゃあ…どうして僕とアスカを…」

「…それも言ったわ…」

ふっと目を閉じるキョウコ。

「…アスカもシンジ君もこれからよ…私はもう…」

「キョウコ…?」

「…だから…シンジ君がアスカのシンジ君になる前に…一度だけ…」

そう言うとキョウコは再び柔らかな笑みを浮かべる。

「…さあ…アスカはもうそこまで来ているわ…私はリビングにいるから…ここでちゃんとアスカを受けとめるのよ…

シンジ君の素直な気持ちで…」

そう言うキョウコには有無を言わせぬ雰囲気があった。

そしてシンジもなんとなくだが、キョウコの言いたいことが分かったような気がした。

「うん…ありがとう…」

「…ええ…じゃ、頑張って…」

そう言うと小走りにリビングに向かうキョウコ。テレビを付け、音を少し大きめにする。

玄関の方をちらりと見て、ぺたんとしゃがみ込み、膝を抱えて顔を伏せる。

ぽたっ…ぽた…

膝に落ちるのは心のかけら。

「…アスカがシンジ君を他の女の子に取られたら…こんな気持ちになるのね…」

母の魂は娘と同じ心の中に。

そして女としてのキョウコの部分もそのままに。

「…でも…これで…いいの…」

自分に言い聞かせる様に呟く。

 

ぱたぱたぱた…

シンジにも聞き取れる様になった足音。

「どうして…分かったんだろ?」

そして足音はシンジとドア一枚隔てた所でぴたっと止まった。

「はあはあ…シンジ…まだ帰ってないか…」

ドアの前で肩で息をしながらアスカは一瞬、町の方を見てくれば良かったと後悔する。

しかし、何故かドアの向こうに気配がするような気がした。

次の瞬間、ドアが開く。

「…お帰り、アスカ。」

「え?あ…ただいま…って、あんた、キョウコとのデートはどうしたの?」

少し驚いた様子のアスカに、シンジは真顔で答える。

「行って来たよ。そして帰ってきたんだ。」

「小一時間しか経ってないんじゃないの?」

「うん。近所のスーパーとか見て回って、喫茶店でお茶したよ。それより、アスカも早かったね…ひょっとして、

加持さん留守だったの?」

シンジの表情が僅かに翳るのを見たアスカは、何故か少し心が軽くなっていくのと、少し心が痛むのを同時に味わう。

-加持さん加持さんって言ってたの…そんなに気になってたのかな…-

アスカの表情もシンジと同様に憂いを帯びる。

「…いたわよ…ちゃんと届けモノはしてきたわ…」

「そ、そうなんだ…でも…どうしたのアスカ…元気ないね…」

-あんたのせいよ、この鈍感!まだそんなこと言ってんの?-

アスカの視線が急に刺々しい物に変わる。

「五月蝿いわね、バカシンジのくせに。」

「う、五月蝿いって…い、いや…まあ…そうかもね…ゴメン、アスカ…」

ますます翳りを増すシンジ。

-バカバカ!バカはどっちよ…なにキッツイことばっか言ってんのよ、アタシは…-

そう自己嫌悪に陥るアスカだが、ふとシンジの右手が握って開く動作…シンジが何かを決断するときの癖…をしている

ことに気付いた。

一方のシンジは、自分の気持ちをアスカに伝える事を躊躇していた。

-黙ってた方がいいんじゃないかな…-

-でも、それは逃げてるだけの様な気がする-

-でも、何かアスカ、機嫌悪そうだしなぁ…-

-でも、それは僕が何か要らないことを言ったからかな…-←おや?改善の兆候かな?

黙って玄関に佇むシンジに、アスカもつい減らず口。

「アンタこそ、愛しのキョウコとのデートはどうだったのよ?」←とほほ…さっきの決意はどうしたの?

カチン!

「それとも何?外ではいちゃいちゃ出来ないから、さっさと家に帰ってあまぁい時間を過ごすつもりだった訳ぇ?」

流石のシンジもこの言葉は癇に触った。弾けたのは躊躇した部分。

「そんな訳無いだろ!アスカが泣いてたのに、他の娘とデートなんて出来ないよ!」

「あ…えっ!??」

アスカはシンジが怒鳴った事に驚いた後、その内容にもう一度驚く。

「何で…何で泣いたんだよ…僕には解らないよ…」

ぐっとシンジの右拳が握り込まれる。

「…僕は…あれから気になって仕方なかったんだ…アスカの事…」

アスカは感極まったか、ただ、口に手を当てて、シンジを見つめる。

その蒼い瞳には、喜びが溢れんばかりに揺れている。

「…で…解ったんだ…多分…いや、僕は本当にアスカの事が…」

ここまで言った所で、シンジははっと我に返った。

慌ててアスカの様子を伺うが…アスカの顔には今まで見たことのない、柔らかな微笑み。

そして、涙が溢れそうな潤んだ瞳。シンジは吸い込まれるように、アスカの目を見つめる。

「…アタシの事…何?」

シンジが憂いた様に自分を見つめていることで、アスカはシンジが何を言うつもりなのかは分かっていた。

しかし、やはりちゃんとした言葉が欲しかったのだ…シンジの口から。

「え…あ…そ…その…」

またも我に返ったシンジは、ガチガチに緊張していた。俯くとゴクッと唾を飲み込む。

「ねぇ…シンジ?アタシの事が…何なの?」

そんなシンジを上目遣いでのぞき込むアスカ。

「あの…その…す…す…す…」

「お願い…ちゃんと言って…アタシも…言うから…」

「う、うん…って、えっ?」

今度はシンジの驚く番だった。目の前には頬を真っ赤に染め、上目遣いで憂いの表情のアスカ。

「ね?」

「うん…好きだよ、アスカ。」

「アタシもよ…シンジ。」

 

甘い雰囲気を漂わせていたミサトが突然がばっと立ち上がり、握り拳を胸元で固める。 

「クーッ!いいわぁシンちゃん、ナイスよぉ!」

「…葛城…お前、盗聴器まで仕込んでたのか?」

呆れた様に横目でミサトを一瞥すると、加持はぐいっとミサトの手を引く。

「キャッ?!」

加持の膝に崩れ落ちる様な形でよろけるミサト。

「俺との時間だろ?」

にっと男臭い笑みを浮かべる加持に、ミサトは懇願する。

「ちょぉっと待ってよ、今、いいとこなのよー。」

加持はミサトの耳からコードレスのイヤホンを鮮やかな手際で抜き取ると、ポイッとゴミ箱に放り込む。

「肝心なところは聞いたんだろ?」

「告白シーンは…ね…」

ごねようとしたミサトだが、いつになくキリッとした顔の加持を見るとなにも言う気にならなかった。

 

「やっと…言ってくれた…ったく…何時まで待てばいいのかなって…思ってたわよ。」

言ってる口調はいつものアスカだが、顔は俯き気味で、頬は真っ赤に上気させている。

「ごめん…僕って鈍いみたいだね…」

ぼりぼりと頭を掻きながら、シンジも俯いている。

しかし、二人の間の雰囲気は今までのものと明らかに違う。

「フフッ、なに謝ってんのよ。やっと気付いたの?自分が鈍いってこと。」

「うん…まあ…」

「でもいいわ、これからはその方が都合いいから。」

さっと腕を絡めると、額をシンジの首筋にくっつけるアスカ。

「絶ぇーっ対、浮気しちゃだめだからね。」

「うん、しない。」

「絶ぇーっ対、大事にしてね。」

「うん、大事にする。」

「絶ぇーっ対、毎日キスしてね。」

「うん、毎日…って…え?」

「絶ぇーっ対、毎日キスするの!」

「あ、う、うん…」

「絶ぇーっ対、…」

この後一時間、アスカのシンジ初期設定は続いた。←尻に敷かれるなよ…

 

完…な訳なくつづくっす。



最終話へ



あとがき

 

うああああ…ごめんなさいいいいい…

今回で最終回の予定だったのにいいい…

って言ってもしょうがないか。←開き直り。

ついにラブラブに至ったアスカとシンジ。

いやぁ、いいっすねー、若いってのは。

ミサトも加持といい感じに…

いやー、いいっすねー、大人って感じで。←どこがやねん

さて、ついに迎える最終回。

行方不明になるキョウコ。

探すアスカとシンジ。

そして、二人はキョウコを見付ける。

次回、最終話 シンジとアスカ

って、本当に終わるのか?

作者も不安です(^^;




takeoのコメント



まずはお詫びをしなくてはなりません。

この、「アスカ・ついんず!」の第四話ですが、かなり早い時期に頂いておりました。

ページの引っ越し祝いにどうぞ、とのことでしたが、私の個人的な事情によりページの移転が遅れ、

結果的に掲載が遅れてしまいました。

Rossignol高橋さん、そして第四話を心待ちにしていた読者の皆さん、本当に申し訳ありませんでした。


さて、いよいよ物語りも最高潮、といったところですね。

遂に告白に至ったシンジ君、やっぱり男の子はこうでなくっちゃ(^^)

長い?すれ違いの末、やっとお互いの気持ちを通じ合わせたふたりですが、

14歳の少年少女らしくって、なんともいいですね。

ふ、私にもあんな頃が… と、つい、もの想いにふけってしまう、26歳のお兄さんでした(笑)


一話分延びまして、いよいよ次は最終回です。

キョウコが消える?!

シンジ、アスカはどうする??

三人の行く末は!


次回がとても待ち遠しいです(^^)


早く続きが読みたい方は、Rossignol 高橋さんへ、ぜひ感想メールを!


なお、Rossignol 高橋さんは、エデンの黄昏の「カヲル君の分譲住宅」内、
「黄昏大学Rossignol」において、「University of 3rd Tokyo」を連載中です。
こちらもどうぞ、ご覧になって下さい。



  TOP PAGEへ


  CONTRIBUTORS' DEPARTMENTへ