「絶ぇーっ対、浮気しちゃだめだからね。」

「うん、しない。」

「絶ぇーっ対、大事にしてね。」

「うん、大事にする。」

「絶ぇーっ対、毎日キスしてね。」

「うん、毎日…って…え?」

「絶ぇーっ対、毎日キスするの!」

「あ、う、うん…」

「絶ぇーっ対、…」

この後一時間、アスカのシンジ初期設定は続いた。

 

アスカ・ついんず!

最終話 さよならキョウコ

 

Rossignol 高橋

 

 

見ていて背中が痒くなるような雰囲気のシンジとアスカ。

そんな二人を廊下の端からそっと見つめるキョウコ。

その顔には僅かばかりの憂いと、溢れる慈愛に満ちていた。

シンジの初期設定を嬉々としているアスカの表情。

窮地に追い込まれているはずのシンジは照れたような笑み。←尻に敷かれる事、確定か?

キョウコにとって、最も大切な少年少女は幸せそうであった。

柔らかな溜息を一つつくと、キョウコはまたリビングに戻った。

 

しばらくぼんやりとテレビを眺めるキョウコ。

時々、二人の笑い声やシンジの悲鳴(?)が聞こえてくる。

そして、アスカとシンジはリビングへとやってきた。

「ただいま。」

アスカがキョウコに声を掛ける。

「…お帰りなさい。」

キョウコはアスカの方を向き、一瞬の間を置いて、答えた。

「…ねえ、シンジ…」

「なに?」

「しばらく…キョウコと話がしたいんだけど…」

シンジはアスカの目を見て、うん、と頷くとキッチンの方に歩いていった。

「…………」

アスカはシンジの背中を見送ると、ゆっくりキョウコの方に向き直った。

「…その…シンジ…言ってくれたの…アタシが…好きだって…」

「…そう、良かったわね。」

口調は相変わらずの綾波風味だが、キョウコの表情が本当に嬉しそうなのを見、アスカは安堵する。

「あ、アタシはどうだっていいんだけどさ、シンジって頼りないじゃなーい、アタシが見ててあげないと

可哀想かなって…だから…OKしてあげたわ。」

「…そうなの?…」

キョウコのアスカ殺し視線、再び。しかし。

「うそ。本当はアタシも嬉しかったの。あいつから言ってくれたなんて、今でもちょっと信じられない位。

アンタのおかげかもね…少しは素直になれたみたい。」

「………」

「だから…ありがと。」

「…いいのよ…」

一瞬、キョウコの表情が曇ったことをアスカは気付かなかった。

キッチンから、かちゃかちゃと音がする。

「なにやってんのかしら…ちょっと見てくる。」

アスカは赤面しているのをごまかすように、キッチンへと入っていった。

 

シンジは紅茶を入れる準備をしていた。

二人にしてくれと言っているアスカの目に素直に従ったはいいが、少し気にもなっていた。

「何…言ってんだろ…」

「何してんの?」

「うわっ!」

じっとケトルを見て、考え込んでいたシンジは突然のアスカの声に驚いた。

「どうしたのよ、大げさねえ。」

「か、考え事してたんだよ…で、もういいの?」

「え?うん、もういいの。それより、お茶入れるの?」

「うん。」

「仕方ないわねぇ、アタシがやったげるわ。」

「アスカが?」

「なによお、アタシの入れた紅茶なんて飲めるのシンジ位のもんよー、感謝してよね。」

ふふーん、と腰に手を当てた例のポーズ。シンジは少し嬉しそうに笑顔を見せる。

「じゃあおまかせするよ…僕はお菓子の用意、してる。」

「チョコチップ・クッキー、忘れないでよ。」

「ちゃんと買い置きしてあるよ。」

そう言ってキッチンを出るシンジ。食器棚の引き出しからチョコチップ・クッキーとのりせんべいを出すと、

リビングのキョウコに声を掛ける。

「ねえ、もうすぐお茶が入るよ。こっちで一緒に飲もうよ。」

クッキーのパッケージを開けながら、返事を待つシンジ。

しかし。

「ねぇ、キョウコって…あれ…?」

リビングを覗いてみるが、誰もいない。ただ、テレビはついたままだ。

「トイレかな?…」

「どうしたのよシンジ、こっちの準備はOKよ。」

ダイニングテーブルにはなみなみと紅茶の入ったカップが三つ、湯気をたてている。

「うん…キョウコが見あたらないんだ。」

「トイレかなんかでしょ、すぐに来るわよ。」

「そうだね…待ってようか。」

「ええ。」

それぞれの席につく二人。そして3分の時間が過ぎる。

「おっそいわねー、何やってんのかしら。」

「おかしいね。」

「アタシ、ちょっと見てくる。」

そう言って席を立つアスカ。トイレの方へと歩いていく。

シンジはフッと溜息をつくと、何気なく外を眺めた。

青い空にぽっかりと浮かぶ雲。昼下がりの一風景としては、上々の天気。

もう一度、視線をトイレの方に向ける。

アスカが少し慌てて戻って来た。

「いないわ!」

「いないって…どこかに出かけたのかな?」

「アンタバカァ?あの子この辺良く知らないでしょう?」

「そう言えば…それに出かけるなら一声掛けると思うし…」

アスカの脳裏に走るイヤな予感。

「と、とにかく…まず家の中を探そう。」

それぞれの部屋に向かう二人、そしてお互いに相手の部屋に。

ミサトの部屋、風呂、ベランダ…何処にもキョウコは見あたらない。

「おかしい…どこにもいない…」

「外よ!外を探すわよ!」

「でも、キョウコは…」

「ねぇ、今日は何処と何処に行ったんだっけ?」

「今日って…スーパーと…喫茶店…」

「喫茶店が怪しいわね…行くわよ、シンジ。」

「あ、う、うん。」

二人は家を飛び出していった…一応、鍵はかけずに…。

 

「あ、あのっ!」

シンジは先ほどの喫茶店に入ると、ウエイターを捕まえる。

「あれ?君は…連れの娘なら、少し前に来て…」

「えっ?」

キョロキョロ辺りを見回すシンジ。しかし、キョウコはいない。

「ついさっき、帰ったよ。喧嘩でもしたのかい?切なそうな顔して、ミックスジュースを飲んでたよ。」

「来てたんだ…」

「本当にぱっと来てぱっと帰ったよ…しかし、インパクトあるね、君たちは…」

「あ、ありがとうございます!!」

そう言ってシンジは喫茶店を飛び出した。ウエイターはやれやれ、と言った顔をする。

「若いって、いいなあ。」

 

「どうだったの?」

喫茶店の外で待っていたアスカ(同じ顔が行くと混乱するかも知れないので)が、シンジに尋ねる。

「来てたらしいよ、でも帰ったって…」

「すれ違ったのかな…」

「とにかく、家に戻ろう。」

家に戻ってもキョウコはいなかった。ますます焦る二人。

「ひょっとして…」

「どうしたのさ、アスカ?心当たり、あるの?」

「ネルフに行くわよ!」

「ネルフぅ?でも…」

真顔のアスカを見て、シンジは言葉を継げなかった。

再び飛び出す二人。

ジオフロントに向かうリニアに飛び乗ると、息を切らせたシンジが尋ねる。

「ね、ねぇアスカ…どうして…ネルフなのさ…」

「勘よ。そんな気がするの。多分、ネルフよ。」

「ネルフったって…広いよ…」

「弐号機のケイジ…あの娘は…あそこでサルベージされた…だから…」

シンジはピンときた。理由も理屈も良く解らないが、アスカの言っている事が正しいと思う。

「うん…とにかく、ゲートからケイジまで最短ルートを取ろう。」

「ええ…」

 

リニアの駅から、二人は走った。迷路の様なネルフ内部を、二人は迷うことなくケイジへと向かう。

弐号機のある、ケイジへと…。エレベータの中で、息を整える二人。

「間に…合うかな…」

「アスカ…大丈夫だよ…きっと…」

シンジとアスカの心には、別れの予感があった。

ダイニングテーブルの紅茶。それを入れる為のほんの僅かな時間で、いなくなったキョウコ。

あまりにも…不自然な点が多い。キョウコの出自自体もだが…。

一緒にいたのも僅かな時間だが、アスカとシンジに取って、大きな存在になっていたキョウコ。

ちーん

エレベータはケイジのあるフロアに到着した。また、駆け出す二人。

「…いた…」

「…どうして…ここに…」

キョウコは弐号機を見上げて立っている。シンジとアスカは駆け足から、ゆっくりとキョウコに向かって

歩いていく。

「…どうして来たの?」

キョウコは目を伏せる様に俯くと、シンジ達に向き直り、ゆっくりと目を開く。

「…わたしは、帰らなくてはならないのに…」

「帰るって…何処に…?」

無理に笑おうとするシンジ。

「アンタ何言ってんのよ…ここは家じゃないのに…」

アスカはこぼれる涙を拭おうともしない。

「解っているはずよ…アスカちゃん…」

「待ってよ…ママ!」

アスカの言葉にハッとするシンジ。

「折角エヴァから出てこれたのに…どうして戻るの…ねえ?」

「イレギュラーな出来事だったのよ…偶然あなたの心と同じ入れ物に、わたしの魂が入っただけ…

サルベージされるべきはあなたであって、わたしではないのよ。」

「ママ!」

「あなたの心は泣いていたわ…誰も信じず、誰も受け入れなかった。そんなあなたの心に入り込んだ人がいるわ。」

「アスカの心…?」

「それがシンジ君、あなたなの。」

「僕…?」

「ええ…あなたのことが気になって仕方ない…けど、それを素直に表現できるほどの愛情を…わたしは与えることが

出来なかった…魂には記憶はないの、でも、サルベージされて…それを思い出したの。」

もう一度、ゆっくりと目を閉じるキョウコ。急にシンジとアスカは足が動かなくなる。

「えっ…ママ?ママ!」

「あれ…なんで…」

「ATフィールドにはこんな使い方も出来るのよ…」

「ママ!」

「アスカちゃん…もう、あなたは一人ではないの…あなたの隣にいる人…シンジくんがいるわ。勝手な話かもね…

でも、わたしはこの偶然に感謝しているわ…あなたに触れ、そしてシンジ君に触れる事が出来た…

もう、わたしが此処にいる理由はなくなったわ。だから、帰るの。」

「そんな!そんなの勝手過ぎるよ!待ってよ、キョウコ!」

嗚咽でしゃべることもままならないアスカに代わり、シンジが叫ぶ。

「そう、勝手なの…魂以外はアスカちゃんと同じだから…こんな勝手な娘だけど…よろしくね、シンジ君。」

「………っ……なんて…言えば…いいの?」

「もう行かなくちゃいけない…奇跡は…終わるわ…さよならアスカちゃん、シンジ君…愛しているわ…」

キョウコの身体から光が溢れ出す。

緑。

赤。

青。

そして…まばゆい光に包まれ、アスカとシンジは目を開けていられなくなった。

そして…

二人が次に目を開けた時…

キョウコはいなくなっていた。

 

「アスカ…」

アンビリカル・ブリッジで、シンジは泣き崩れているアスカを抱き留めている。

「アスカ…?」

「解っていたの…解ってたのよ…ママだって…でも…そんなの…ありっこないって…思ってた…

だって…ママは…」

「………」

「昨日…一緒に寝た時に…はっきり解ったの…ママの感じ…ママのニオイ…嬉しかったの…」

「うん…」

「何かこう…あったかいの…優しくなれるの…なのに…」

「僕がいるよ…アスカ…」

涙でくしゃくしゃになった顔を、ふっとシンジに向けるアスカ。

そこには大好きな優しい笑みを浮かべたシンジの顔。

「僕が守るよ…僕の愛する人を…アスカ…君を…」

「シンジ…」

アスカとシンジはお互いの目に吸い込まれる程、熱い視線を交わす。

アスカの手はシンジの背中に。

シンジの手はアスカの腰と頭に。

二人の距離がゼロになる寸前…

フオオオーーーーーーーーン

向かいのケイジの初号機、暴走。

 

時間は少し前、場所は初号機のエントリープラグ内。

レイはへろへろになりながらも、起動指数ぎりぎり程度までのシンクロ率までたどり着いていた。

-…弐号機パイロット…髪…切ったのね…-

-碇君…と…弐号機パイロット…-

「初号機とレイのシンクロ率、不安定です…」

-弐号機パイロットが…二人…-

-そう、たぶん二人目なのね…-

「僅かにシンクロ率、上昇しました。ハーモニクスも安定域に入ります。」

-弐号機パイロット…泣いているの?悲しいの?だから、泣くの?-

-碇君…なに言ってるの…-

「シンクロ率、再び上昇。現在、28パーセント。」

-光…光が…満ちていく…-

-弐号機パイロット…一人消えた…一人が消えても、もう一人いるもの…-

「シンクロ率、ハーモニクス、共に安定しました。」

-碇君と弐号機パイロット…抱き合ってる…-

-ダメ、碇君が呼んでる…弐号機パイロット、離れなさい…ダメ…ダメ…-

「き、急激にシンクロ率が上がって…200パーセント…300…ダメです、制御出来ません!」

-だめ〜-←ユイ アンド レイ、心の叫び

「いよいよだな。」

「ああ、全てはこれからだ。」

って…おい。

 

キョウコが消え、初号機が暴走した三日後…

「ったく…人騒がせもいいところよねー。」

「アスカ…ダメだよ、そんな風に言っちゃあ。」

シンジとアスカはサルベージに成功したレイの見舞いに向かっている。病室はすぐそこだ。

「だってぇ…折角の…」

真っ赤な顔で俯き、もじもじするアスカ。

「ま、まあそれは…その…」

シンジも左手で頬をぽりぽり掻いている。右手?いわずもがなである。

「シンジ君。アスカ君。」

後一つ曲がれば、と言うところでばったりと冬月に出会った。

『あ、副司令…』

パッと手を離す二人。初々しいねぇ。

「レイ君の見舞いかね?」

「あ、はい。」

「そうか、喜ぶぞ。レイ君もユイ君も。」

「へ?」

「ああ、それから碇…いや、君の父さんだがな…しばらく出張だ。」

「父さんが?」

「ああ、ユイ君の逆鱗に…いや、まあいい…早く行ってあげなさい。」

「???は、はい…」

にやにやと笑いながら去っていく冬月を、二人はキョトンとして見送る。

「何言ってんのかしら…」

「さあ…」

しばし首を傾げていた二人だったが、早々に気を取り直して病室へ。

こんこん。

「はーい、どうぞー。」

「ん?」

「な、何今の…ファースト?」

「なんなんだ?今の…まあいいか…おじゃましますって…うわああ!」

…………………………………………………………………………………………………………………………

この後はみなさんのご想像におまかせして…

え?ゲンドウ?

出てくる人がいるってことは、入る人がいるってことで…ちょっと怖いか。

 

Fin.


あとがき

Takeoさん、“No Fear!”一周年おめでとうございます。

なんとか完結編、お送りできました。ひやひや。

お忙しいでしょうが、これからも頑張ってください。1ファンとして、応援してます。

さて…今回の話ですが…

構成もストーリーもめちゃくちゃですが、今の僕にはこれで精いっぱいです。はい。

しかし…

下手だなあ。

もうちょっと上手く書けたらいいのに…

はあ…

期待していた方々、ごめんなさいね。

また、機会があればお目にかかりませう。

では。




takeoのコメント



一周年の記念として、Rossignol高橋さんにアスカ・ついんず!の最終話を頂きました。

本当にありがとうございます。



さて、みなさまお待ちかねの「アスカ・ついんず!」ですが、私も楽しみにしていました(^^)

なんとも切なく、そして暖かいお話ですね。

アスカの想いを叶えるために、時間を超えてやってきたキョウコ。

束の間の共同生活でしたが、キョウコはアスカとシンジに大切なものを与えたようです。

そして、別れ。

キョウコの想い、アスカの想い、シンジの想いが絡み合って、なんとも言えない気持ちにさせられました。

思わずじわっとしましたね。

また、最後に奇麗に落としてくれるあたりが流石です。



思えば、Rossignol高橋さんは、私のページに投稿して頂いた最初の方なんですよね。

40000Hitの記念として頂きました。

あれは… 6月の中旬あたりでしたか。

なにか、懐かしいですね(笑)

そして、こうして最終話まで書いて下さったことには、本当に感謝してもしきれません。

本当に、ありがとうございました!



皆様、Rossignol 高橋さんへ、ぜひ感想メールを!


なお、Rossignol 高橋さんは、エデンの黄昏の「カヲル君の分譲住宅」内、
「黄昏大学Rossignol」において、「University of 3rd Tokyo」を連載中です。
こちらもどうぞ、ご覧になって下さい。



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