■ENGINE■


●直列4気筒水冷エンジン
   T1100/T1500】(1959年)

 1959年10月のTシリーズ誕生にあたっての最大のトピックスは、マツダ3輪トラック初の水冷エンジン搭載に他なりません。'50年代のバーハンドル型3輪の最盛期を支え続けた空冷V型2気筒エンジンに代わって、ニューモデル・Tシリーズの新たな心臓部として選ばれたのは、半年ほど前に4輪トラック・Dシリーズとともにデビューしたばかりの、東洋工業初の水冷4気筒エンジンでした。
 T1100に搭載されたのは排気量1139ccの
TA型で、内径×行程は70mm×74mmでほぼスクエア、7.8の圧縮比から最高出力46PS/最大トルク8kg・mを発生しました。そして2トン積クラスとなるT1500には、さらに強力な排気量1484ccのUA型が搭載されました。こちらは75mm×84mmのロングストローク型で、7.6の圧縮比から最高出力60PS/最大トルク10.4kg・mを発生しました。TA型、UA型ともにスペックは「クラス最強」と謳われています。
 高圧縮比を支える燃焼室形状はハート型で、動弁方式には勿論、1950年のCT型から採用した伝統のOHV方式を踏襲しています。


 さらに、1962年に登場したT2000には、
VA型と呼ばれる排気量1985ccの水冷4気筒エンジンが搭載されました。東洋工業の3輪トラック史上で最強の心臓となったこのエンジンは、82mm×94mmのロングストローク型で、最高出力81PS/最大トルク15.5kg・mという堂々の数値を誇りました。
 このエンジンは、E2000トラックやライトバスといった当時のマツダの4輪商用車にも幅広く搭載されています。

 


●トリプルベンチュリーキャブレター(日本初)
  【T1100/T1500】(1959年)

 TA型/UA型に採用されたキャブレターは、3段構えの絞り構造をもつトリプルベンチュリータイプで、横型としたものは日本初とされています。
 
一般に、キャブレターから吸入される空気の流速はエンジン回転数によって常に変化しますが、低回転域では気流速度が低下するため、通常のベンチュリータイプ(シングル/ダブル)ではガソリンの噴霧が十分に行われず、大きな粒子のままシリンダー内に運ばれて、燃焼効率の低下をもたらす傾向があります。そこで、ごく低回転域でも気流の速度を保つために「第3の」小さなベンチュリーを追加したのがトリプルベンチュリータイプで(右図参照)、燃費の低減に大きく貢献しています。
 1962年に登場したT2000/新T1500にも継続採用されました。
 
 


●恒温加圧型冷却方式
  【T1100/T1500】(1959年)

 エンジンのウォータージャケットとラジエータをつなぐ水管内には
ベロース型サーモスタットを採用しています。これは、温度変化に対して敏感に膨張/収縮を行なうエーテル液を内部に充填したもので、この働きを利用して水温調節弁の開閉を行ない、その弁の開度に応じて冷却水の循環速度に変化をもたせ、水温の自動調整を図るシステムです。

 それと併せて、ラジエータは加圧冷却式として沸点を約110℃まで高めており、水泡や蒸気の発生を防ぎます。

 
また、冷却水の循環方法も、従来のようなラジエターとシリンダー間の単純な循環から一歩進み、シリンダーヘッドの中に設けられた配水管を通し、プラグシートやエグゾーストバルブシートといった、より高温になる部分に冷却水を直送し、優先的に冷却するという効率的な方法が採られました。このことは、エンジン始動直後にシリンダーを素早く適温にするのにも有効とされました。
 
 


●フルフロー型濾過形式オイル潤滑
  【T1100/T1500】(1959年)

 エンジンオイルの潤滑は、常時オイルが循環を続け、かつオイル全量が濾過されるフルフロー型濾過形式を採用しています。濾紙式の大型オイルフィルターを用い、オイルの完全な濾過を実現したものです。
 長期間使用中に万一、濾紙の目詰まりが発生した場合に備え、オイルの濾過量が減少すると、オイルの一部をバイパスを通して循環させるとともに、パイロットランプで運転者に伝え、濾紙交換の警告を行なう仕組みになっています。
 なお、オイルポンプには騒音・振動のないトロコイドポンプを採用しています。