1957年に初めて登場した鋼製の完全独立キャビンが、その翌年にMBR型とHBR型で共通化されて以来、1974年にT2000が生産中止されるまでの約17年間、マツダのオート3輪はほぼその基本デザインを変えることなく製造され続けました。
 とくに、GDZA型(1954年)に端を発する、個性的な2眼のヘッドランプベゼルは、一目でマツダのオート3輪を印象付ける重要なアイテムといえます。
 しかし、基本デザインは同一であっても、注意深く見てみると様々な改良や仕様変更の跡が窺え、車両年式によって外観形状の細かな違いを発見することができます。

 ここでは、現在までに私が気付いた範囲で、Tシリーズの外観上の相違点についてご紹介します。実際には、インテリアの変更や、部品の形状違いなども多々あるはずですが、そちらは今後の研究課題とさせて頂きます。m(__)m


◆Tシリーズの主な外観相違点◆


         
  @フロントグリル(オーナメント) Eヘッドレスト Jホイールカラー  
  Aバックミラー Renamed Fリフレクター(フロント) Kフロントホイール   
  Bサイドランプ Renamed Gリフレクター(リア) Lサイドオーナメント   
  Cフロントワイパー Hロードレスト    
Dサイドマーカー Iボディカラー
4/1 Updated  一部名称を取扱説明書の表現に合わせました







@フロントグリル(オーナメント)  Front Grille (Ornament)



a) 図形ロゴ(グリルなし) b) 図形ロゴ(グリルあり) c) MAZDAロゴ
 写真は1958年のMBR型のもの。三角形を組み合わせた「MAZDA」ロゴのオーナメントは、前身モデルのGLTB型時代から登場しています。この時点ではまだフロントグリルは装着されていません。  1959年に登場した水冷エンジンのT1100/T1500から、ノーズ下側にフロントグリルが追加されました。オーナメントロゴもやや大型化されたのか、若干視認しやすくなった印象があります。  1962年に登場したT1500/T2000からは、オーナメントロゴが、ハッキリとした文字へ変更され、すっかり見慣れた形となります。これ以降、最終型まで変更はありません(たぶん)。



Aバックミラー  Raer View Mirror
 



a) 丸型・細ステー
(フロントサッシ)

1957〜1959
b) 丸型・細ステ−
(ドアサッシ)

1959〜1963
c) 小判型・細ステー
(ボンネット)

1965〜
c') 小判型・細長ステ−
(ボンネット)

時期不明
 Tシリーズの前身であるMBR型/HBR型時代には、サイドミラーは片側しかなく、右側(運転席側)のみでした。
 フロントウィンドウのコーナー部に位置し、ミラーの形状は丸型です。
(追記)カタログ写真はいずれも右側のみですが、長尺車を中心に左側ミラーを装着した例が見られるので、注文装備扱いで用意されていたものと思われます。
 T1100/T1500の登場とともに、ミラーはフロントサッシから右ドアの三角窓付近に移設されました。
 
その後T1500/T2000時代に入り、少し経ってから左側(助手席側)ミラーが追加装着されますが、最初はボンネット横に装着され、左右のミラーで取付位置が異なっていたようです。

 T1500/T2000では、初期型を除き、左右のミラーが揃ってボンネット横に移動し、1965年途中からミラー形状が視認性を向上させた小判型となります。
 当初はT1500全車とT2000の10尺に広く採用されましたが、やがてその大半が太ステータイプに移行したため、このタイプは、全幅のスリムなT1500の低床一方開きだけの専用品となりました。
 一見c)のタイプに見えますが、細ステーながらも全長の長いタイプで、一部のT2000の10尺三方開き車に見られます。
 機能的には、e)で紹介している太ステーのタイプと同じと思われますが、これら両者の関係は全く不明で、登場時期が違うのか、はたまた一方がオプション的な存在だったのか、謎は深まります。
 
d) 丸型・太ステー
(ボンネット)

19611965
e) 小判型・太ステ−
(ボンネット)

1965〜
e') 小判型・太ステ−
(ボンネット)

詳細不明
 T1500/T2000の発売とともに、全幅がワイドで全長の長いT2000の13尺三方開きには、太くて長い頑丈なステーが登場し、左右のボンネットに設置されました。
 初期の頃のミラー形状は、以前からの丸型のままでした。
(追記)T2000登場以前のT1500時代(後期?)から採用されていたようです。
 13尺三方開きで登場した太ステーのタイプは、1965年途中からミラー形状が丸型から長円形に変更されます。
 このタイプはその後、T2000の10尺高床、さらにT1500の8尺低床と順次展開され、最終的には全ての三方開き車に共通のスタンダードアイテムとなりました。
 f)の亜種として時々見られたのが、太ステーの下に2本の細い棒が付帯したタイプです。
 デザイン上の付加物でもなく、かといって補強物といえるものでもなく・・・何らかの機能的役割があるのでしょうが、全く不明です。



Bサイドランプ  Side Turn Lamp
 



a) 細型 ') 細型(同色) a'') 細型(クリア) b) 丸型
 前後方向に長いこのターンランプは、Tシリーズの起源となったMBR型/HBR型から受け継ぐ伝統の形状です。
 15年もの歴史を誇るTシリーズにおいて、標準型といえる形です。
 a)のタイプでは、後ろのボディ部、レンズ部、それぞれに色違いがあります。
 これはボディ部がa)のようなグレー色でなく、
ボディ同色のものです。
 こちらはレンズ部の色がa)のようなアンバー色でなく、クリアになっています。
 ただ、これは経年劣化で色落ちした結果である可能性もあります(笑)。
 T200013尺車でモデル途中から登場したのが、丸くて大きなこのターンランプです。
 私の知る限り、T2000の13尺車以外では見た例がないので、この機種専用アイテムと考えて間違いないでしょう。(たぶん)



Cフロントワイパー  Front Wiper
 
 
a) 対向タイプ

1958〜1962
  b) 平行タイプ

1962〜
 MBR型/HBR型からフロントウィンドウ下側に移設された対向タイプのフロントワイパーが、初のTシリーズ、T1100/T1500にも踏襲されました。
 ケンカワイパーと称するには2本の位置関係がやや不自然で、どういう折り返し位置だったのか興味深いです。
   1962年のT1500/T2000の登場を機に、左右2本のフロントワイパーの向きが揃い、これに伴って取付位置も若干変更されました。
 当時、ダイハツや三菱の独立キャビン車はすでにこの向きになっており、一番最後にマツダが採用したことになります。



Dサイドマーカー  Side Marker

 






a) サイドマーカー無し

〜1969頃?
b) サイドマーカー有り

1969頃?〜
 登場から約10年の間、Tシリーズのキャビンには、Bで紹介したボンネット部のターンランプしか方向指示器がありませんでした。しかし、このターンランプ位置では、右上の写真のように、斜め後方からはランプの視認が難しい場合があり、速度レンジの低いオート3輪とはいえ、安全面で問題があったといわざるを得ないでしょう。  T1500/T2000のモデル末期にあたる1969年頃に、やっとドア後部にサイドマーカーが付きます。ちょうどこの時期は、保安基準強化でシートベルトやヘッドレスト等の安全装備が義務化された時期にあたります。
 マーカー自体は形状を見る限り、同社のボクサーやEシリーズと共通部品のようです。



Eヘッドレスト  Head Rest.

 
a) ヘッドレスト無し

〜1970頃?
  b) ヘッドレスト有り

1970頃?〜
 Tシリーズには当初からヘッドレストはなく、その装着は最後発のT2000がモデル末期を迎える頃まで待たなければなりません。
 通常の独立シートとは違い、シートバックとバックパネルがほぼ一体化しているトラック(シングルキャビン車)では、その必要性が低いと考えられていたのかもしれません。
   T1500/T2000の最終型で実施された安全対策の一環として、運転席側にヘッドレストが装着されました。
 ただし、Dのサイドマーカー付き車でもヘッドレストの無い車両が見られるため、同じ安全装備ながら、ヘッドレストの装着タイミングはサイドマーカーよりも遅かったものと思われます。



Fリフレクター(前)  Reflector (Front)
 
 



a) リフレクター無し   b) リフレクター有り
 Tシリーズの三方開き車では、荷台幅がキャビン幅よりも大きく、荷台が片側で50mm以上ずつはみ出す設定ですが、サイドミラーのステーを延長した以外、とくに視認上の配慮はされていません。    T2000のモデル末期の車両には、前方からの視認に配慮し、荷台の最先端部に丸い反射鏡を装着したものが存在します。
 私の把握している範囲では、これは最長荷台の
13尺車に限られているのですが、装着された時期については、DサイドマーカーやEヘッドレストとの相関が薄いため、荷台メーカーごとの仕様違いである可能性も否定できません。



Gリフレクター(後)  Reflector (Rear)
a) 小型タイプ b) 大型タイプ

 Tシリーズの荷台をよく観察すると、後部アオリのサポートパネル面上に、ストップラバーと並んで、丸型の反射鏡が装着されているのを発見できます。
 この反射鏡は荷台長さによって位置が異なり、8尺ではストップラバーの上方に、10尺/13尺ではラバーの真横に位置しています。大きさはほぼ共通で、概ねラバー径よりもやや小さいものとなっています。


T1500(8尺)


T2000(13尺)

 T1500/T2000のモデル末期の頃になると、反射鏡のサイズが大型になり、視認性が大きく向上しました。
 おそらく直接的には、保安基準強化に対応した変更であると想像できますが、都市交通の速い流れに取り残されがちなオート3輪として、後続車により配慮をした結果では?とつい勘繰ってしまいます(笑)。

 ただ、私の撮影経験上、長年にわたって過酷な運搬に使用されてきたTシリーズの荷台は損傷の目立つものが多く、荷台の最後端にある反射鏡が脱落してしまっている例も少なくありませんでした。

 


T1500(8尺)


T2000(13尺)

 反射鏡がTシリーズの初期モデルから装着されていたのかは不明ですが、右のT1100の写真では、反射鏡の周囲にリングを配した構造が見られ、後にシンプル化されたことがわかります。
(追記)T1100と同時代のT1500の13尺でも、同様のリングが付いていることが判明しました。ただし、ラバーとの位置関係はT2000の13尺とは異なり、斜め上となっています。サポートパネル自体の形状も違うようですね。


T1100(8尺)


T1500(13尺)



Hロードレスト  Load Rest.

 ロードレストは、ベース車両の仕様ではなく注文選択装備の領域ですが、これまで撮影した中で主だったものを紹介します。また、それぞれに何種類ものパターンがありますので、あくまで代表例として2つずつ挙げています。

T1500低床

T2000高床

T2000低床

T2000高床

T2000高床

T2000高床

T2000高床

T2000高床
a) 標準型 b) 補強タイプ c) 金網張り  d) 大型タイプ 
 Tシリーズでもっとも標準なタイプのロードレストで、内側の補強バーは横一本、縦二本で構成されています。
 当然ながら、荷台高さの異なる低床と高床では、高さ方向の寸法は異なります。しかし、荷台全幅の異なる一方開きと三方開きで、ロードレスト幅に明確な差はありません。
 a)の標準型をベースにして、補強バーの数を増やしたり、大型の外枠を追加したりしたタイプです。
 ただし、その目的としては、ロードレスト自体の補強というよりは、バーのピッチを狭めることによって、積荷のキャビンへの侵入を防ぐ意味合いが強いと思われます。
 これはロードレストの内側を金網張りとしたタイプで、b)のタイプにおけるキャビン保護効果をより確実にしたものといえます。
 木材業はもちろんのこと、金属業にも多く採用されています。これも二次架装での注文仕様と思われます。
 T2000の13尺車では、ルーフ上までカバーする大型のロードレストがよく見られます。
 とくに、最後まで幌ルーフだったTシリーズにとって、このタイプは長尺物固定に有利となるだけでなく、キャビン頭上部の安全確保の効果もあったかもしれませんね。
 これでも小型車扱いとなるところが凄いです。
 

 

Iボディカラー  Body Color

 Tシリーズの基本色がブルーであることに異論を挟む余地はありませんが、ことその色合いに関しては、実に様々な仕様が見受けられます。
 しかし、メーカーが複数色を選択可としていたかも含めて、その変遷については、私は残念ながら全く情報を持っていません。明らかに量産色として異なる色であったと推測されるものから、単なる経年劣化の範囲内と思われるものまで、多種多様なものが混在しています。とくに経年劣化に関しては、貨物車であるという背景から、ユーザーによるこまめなボディケアなど期待できませんし、メーカーが耐候性を殊更重視していたとも考えにくいので、使っていくうちにビックリするような色の変貌を遂げた可能性もあります・・・。
(追記)カラー名称は「リバーブルー」であったことが確認されました(T1100発売当時)
 ここでは、Tシリーズのブルーの中で、代表的なものを何種類か紹介します。
a) 青色 ) 紺色に近い青 c) 灰色に近い青  d) 青緑に近い青 
 もっとも青らしい青色で、カタログ写真に多く登場している色です。スタンダードともいえる存在ですが、個人的には、やや落ち着きに欠ける感じがします(笑)。  a)の青と比べると、かなり濃い色です。純粋な紺色に近いもの以外に、やや灰色が混じった感じのものも見られますが、こちらは退色の影響があるものと思われます。  こちらは逆に色が薄く、水色と灰色の中間という感じです。総じてこの色のクルマはボディ光沢が皆無に等しいため、最も退色が進行したケースといえるかもしれません。  青と緑の中間ともいうべき、鮮やかな色です。塗装面の状態が良好な車両に限って見られるため、退色の影響はほとんどなく、ほぼオリジナル通りの色と推測できます。 

 

Jホイールカラー  Wheel Color

 私にとって、Iのボディカラー以上に頭を悩ませる外観バリエーションが、ホイール(前輪はホイールカバー)の塗装色です。ボディ色はオリジナルと思わしきブルーであっても、明らかに何種類かのホイールカラーが存在しています。その存在自体は別に悩む必要もないのですが(笑)、年式や機種との関係について情報がほとんどなく、悲しいことに、正規の設定色か否かも定かではありません・・・。
a) 薄黄色 b) シルバー色 c) 青色  d) 黒色
 書籍で紹介されているT1100T2000のカタログを見る限りは、ホイール色はすべてこのタイプであり、少なくともTシリーズの初期モデルにおいては中心的カラーであったと想像できます。
 私の撮影記録の中で最も多いタイプです。
 ホイール色としては最も一般的なタイプですが、Tシリーズでは、a)の薄黄色の印象があまりにも強いため、違和感さえ覚えます。
 
1970年発行の「明日をひらく東洋工業」には、このタイプのT2000の写真が紹介されています。
 私の撮影記録の中で、a)の薄黄色に次ぐ数を占めるのが、「ボディ同色」に相当するこのタイプです。
 ボディ色とのバランスにやや違和感はありますが、個人的趣味で塗装するとも考えにくいので、純正色として存在した可能性が高いです。
 私の撮影記録の中に変り種として存在するのが、まるで下回りの防錆塗装を施したような真っ黒のタイプです。
 一般の鉄ホイールでは決して珍しくない色ですが、さすがにこの車両の場合は、後塗りの可能性も否定できませんね。
 



Kフロントホイール  Front Wheel 

 このTシリーズ特別室をOPENした後で新たに判明した相違点が、フロントホイールディスクの形状違いでした。ボルトが顔を覗ける右サイド面、ブレーキシステムが装着される左サイド面それぞれに違いが見受けられます。
 現在は機種毎の仕様違いのレベルに止まっていますが、これに加えて年代別の変遷があるかどうかは謎です。
1) 右サイド(ディスク面形状)

 Tシリーズの大半の機種では前後ともに16インチホイールが装着されますが、2トン積み13尺に限り、フロントのみ15インチホイールが採用されます。このインチ違いにより、ホイール外径の大きさは勿論として、右側側面のデザインも異なっています。
2) 左サイド(ブレーキ取付角度)

 Tシリーズではフロントホイール左側側面に自慢のブレーキシステムが装着されますが、1.5トン積み以下と2トン積みでは、その装着角度が微妙に異なっています。詳細は不明ですが、積載量によるブレーキへの負担の違いを考慮した措置かもしれません。
a) 16インチ b) 15インチ ) 角度大  b) 角度小
 側面の断面形状は、リムの縁から中央に向かって、一旦曲面状に盛り上がり、ボルト締結面の平面に達すると同時に再び低くなっています。(言葉では表現し辛いですが・・・)  こちらはボルト締結面がa)のような円形状ではなく、歯車型のギザギザ面を曲面部分に直接掘り込んだようなデザインとなっています。(コメントは左に同じ・・・)  T1100〜新T1500では取付角度が大きく、ブレーキシステムの長手方向とフロントフォークの成す角度が60°程度となっています。
 
(画像はカタログより)
 一方、旧T1500〜T2000では取付角度が約30°小さく、路面に対してほぼ垂直となっています。15インチ/16インチとも共通です。
 
(画像はカタログより)

 

Lサイドオーナメント  Side Ornament 

 Tシリーズでは、そのルーツとなるHBR型/MBR型時代にはなかった車名オーナメントが、新たに左右の両ドアに装着されました。名称としてのTシリーズが誕生した背景にもつながりますが、当時の東洋工業が軽3輪トラックや4輪トラックといった新しい市場へ次々に進出を図ったことで、それぞれの車種の明確な区別化が必要とされたことが考えられます。
 小型3輪トラック市場での強力なライバルであったダイハツが最後までペットネームを持たなかったのに対し、Tシリーズのネーミング&オーナメントは、その存在感を一段と際立ているようですね。
a) T1100 b) T1500(旧) c) T1500(新)  d) T2000
 1959年に登場したT1100のものは、現代の感覚からすると、車名ロゴとしては素朴というか地味な印象で、やや特殊な字体に映りますね。  T1100と同時にデビューしたT1500は当然ながら共通の字体が採用されています。「5」が大きく下に突き出ているのが特徴です。  1962年に1.5トンクラスとして再スタートを切った新・T1500では、字体が変更されました。旧・T1500とのイメージの違いが歴然としてますね。  1962年から発売された新機種のT2000では、c)の新・T1500と同様の力強い字体が採用されています。