<旧車シリーズ 501>


KUROGANE BABY (KB360V)


 1957年にオオタ自動車工業を吸収合併し、積極的に四輪車業界への進出を図った東急くろがね工業が、1959年に満を持して送り出した軽四輪車が「くろがねベビー」である。
 ベビーは量産型の軽商用車で初のキャブオーバースタイルとして登場したが、エンジンをリアに搭載するRR駆動方式を採用していた。空冷2サイクルエンジンが主流の当時の軽自動車の中で、ベビーは4サイクルの水冷2気筒356ccエンジン(WE型)を搭載した。サスペンションもフロントに横置きの半楕円リーフスプリング、リアにコイルスプリングを配した四輪独立懸架で、軽商用車としてはかなり奢ったメカニズムを備えていた。その一方で、ルーフ部やキャビンのバックパネル(トラック)を幌張りとしてコストを低減している。
 軽四輪商用車の先駆者的存在であったくろがねベビーは、安価さも奏功して当初は好調な販売を見せたが、全国的な販売網の脆弱さと、RR方式によるリアの積載性の悪さが致命傷となり、後発のライバル勢にあっという間に駆逐され、早くも1962年1月には生産を中止せざるを得なかった。


 ファニーで親しみやすいフロントマスクの奥に潜む高性能なメカニズムの数々、加えて安価とくれば大ヒットしても不思議ではないのですが、当時の市場競合環境は、販売力の弱いベビーにとってあまりに苛酷過ぎたようです。もしも当時が現在のような情報化社会であったなら、高性能メカニズムを満載した意欲作ベビーは、プレミアムな商品としてまた違った運命を辿れたかもしれません。今でも十分通用しそうなデザインだけに、余計に惜しいですね。

推定年式:1961
撮影時期:1990年3月
撮影場所:山口県徳山市糀町 クラシックカーイベント会場にて