8.お揃い

引越しの日は秋晴れの空だった。
あたしの好きなまっさらな空。
青だけがずっと続く。

午前中は荷物をつめたダンボール箱を車に積んだ。
少し汗をかいたけど、
どうせあっちに着いたらまた掃除で汗をかくから、
とシャワーは浴びなかった。

昼食を早めにすませて母と二人車に乗った。

季節は秋なのに、空も秋なのに、
夏を思わせる午後だった。

§ § §

「うわー。今日は疲れた!!」
リールやかくはん棒を洗ってたあたしに、
現像したフィルムをつるし終えた研が言った。

洗ったフィルムは完璧に乾かさなきゃならない。
そして次の日に取りに来て、
焼き写しに使うまでフィルムケースにしまっておく。

今日はあたしのフィルムが大量にたまってたので、
一生懸命二人で現像していた。

かしゃかしゃ二人でかくはんするのは楽しかった。
液を流し込みながら、なんで液は入るのに光は入らないんだろうね。
って二人で不思議がってるのが楽しかった。

顧問に頼んでカラーフィルムを購入してもらってたけど、
カラーは自分で現像できないから、いつもお店行きだった。
それじゃ物足りないあたし達は、
今でもモノクロ写真を撮り続けては現像していた。

「あたしも疲れたよ。」
「もうこんな時間なのに、まだ明るいね。」
「あぁ...確かに。夏だもんね。」

あたしは片付けをすませ、
だれてる研を準備室から追い出して鍵を閉めた。
「はい。研。」
鍵を研に投げる。
小さな鍵についたキーホルダーの鈴が涼しく鳴る。

後輩は何人か入部してきたけど、
あたし達の代の写真部員は増えることはなかった。
結局3年間、ずっと二人だった。
呼び名もさんづけから呼び捨てになって、
いつの間にか名前で呼んでいる。

あたしは部長っていう器じゃないので、
研が写真部部長で、あたしが副部長になった。

いつまでもお揃いな気分。

04/08/25

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