7.やわらかい声
コンビニから帰ってきたらすぐに夕飯だった。
あたしの好きな、お母さんのハンバーグだった。
みじん切りされたたまねぎが入ってて、
楕円形にふっくらとしている。
あったかい柚子茶を入れて、
外の空気で冷えた体を温めた。
心地よい香りが広がる。
朝夕はすごく冷える。
秋は確実に深まっている。
そんなに遠くへ引っ越すわけじゃないけど、
なんだか切なくなった。
明日、家を出る。
§ § §
ゆき。ゆき。
やわらかく呼ぶその声を、
あたしは思い出せる。
平凡な名前が特別な響きに変わる。
恋だとか関係なしに、
研があたしを呼ぶ声が好きだった。
お互い噂を意識してなかった、
と言えばそれは嘘だけど
そんなの周りが勝手に言うことだし。
それまでの関係が変わることはないと思ってた。
だって研もあたしも空が好きだから。
恋するみたいに。
また、夏が来る。
高校最後の夏。
二人の好きな夏。
04/08/25