5.共通点

あたしの中の研はいつも笑っている。


「あ、もうフィルム使い切っちゃった。」

フィルムを巻き戻しながら
さっきよりは片付いて、
かわりにダンボールがいくつか増えた部屋を見ていた。

卒業アルバムは一回見返して、本棚に戻した。


1年の夏ごろ、
もう一人前の写真部員になった気でいた。
でもなぜかいつも研と二人で活動していた。


あれは入道雲がふくれあがった午後。
何もしなくても汗が出るような蒸し暑い夏の日。

二人で3度目の写真の焼き写し作業をしていた。

「千早くん。空、好きなの?」

今日は研のフィルムだった。

赤いランプの下、
現像液にさーっと感光紙を流し込む。
そして、浮かび上がってきた写真をさっと取り上げる。
このタイミングが一番重要だ。
ここで、写真が生きも死にもする。

取り上げた写真を停止液に流し入れる。
10秒たったら、今度は定着液に入れる。
これでひとまず終わり。

暗室の電気をつけ、ふーっと完成を確かめて息をつく。

この緊張が解けた瞬間と、
出来上がった写真への満足感が好きだ。

液の中で焼き写したばかりの写真を見ていると
どれもこれも空ばっかりだった。

ところどころに、ふざけた研の顔や
必死に写るもんかとする、あたしの顔があったけれど、
ほとんどは黒白の空の写真だった。

だから水洗いの時に聞いてみた。


「田中さんこそ好きでしょ。」
研は準備室に乾かしてあったあたしの写真を指差した。

「うん。」
笑って答えた。

違う中学の出身で
違うクラスで
男と女で

そんなあたし達の初めての共通点だった。

04/08/24

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