1.秋空
あの日の空を、あなたは覚えているだろうか。
私は、あの日の空よりあなたの横顔の方が、強く記憶に残っている。
中途半端な季節。
あたしは、たまに秋についてこう思う。
暑くもないし、寒くもないし。
春はどうなんだって言われると、違う。
春は、そんなこと考える前に過ぎているから。
いつの間にか梅雨が来て、夏空に変わるから。
今年は、就職やら何やらで余計そう思った春だった。
そして、あっという間に秋は来た。
あたしは、秋空が一番好きだ。
(夏空の入道雲も捨て難いけれど)
よく、運動会とかで校長先生が言う決まり文句
"雲ひとつない青空で"
そんな、まっさらな秋空がやっぱり好きだ。
息を吸うと、すーっと涼しい空気が心を染める。
息をはくと、体の中の空気が丸々入れ替わったように感じる。
落ち葉を踏む音も、次第に長くなっていく自分の影も
永遠はないのだと教える、夕焼けの色の移り変わりも
あたしにとっては、大切なこと。
季節では、夏生まれだから夏も好きだ。
(夏生まれって言っても夏後半。宿題に追われる時期。)
夏が好きだって思ったのは、ごく最近。
高校に入ってからだ。
あの焼き付けるような日差しや、膨れ上がった入道雲とか。
突然の夕立。夏祭り。線香花火。温度の下がらない放課後の教室。
挙げだしたらきりがない。
高校時代と言ったら、夏のイメージしか残っていない。
じわじわと噴出す汗を気にも留めないで、焼き写した写真。
閉め切っているせいで、酢のような匂いがとれない部室。
渡り廊下で見た、雲からのぞく太陽。
そういうひとつひとつの思い出が、全部夏だったように思う。
春も秋も冬も一緒だったのに。
あたし達は、夏が好きだった。
21の秋。
中途半端な季節に、
高校・短大時代のバイト代と、これまでのささやかな給料で
私は、一人暮らしをすることを決意した。
04/08/24