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手が地面に着く、もうスレスレの瞬間だったと思う。
自分でもよく何が起こったか、理解できなかった。

手は地面に着かなかった。
というより立った。
起こされた。

ゆっくりと目を開けて、顔をあげると
斜め上の方に、息を切らした彼の顔があった。
額から汗が流れてきている。

「手をついたら終わりだよ。」

ぼーっとした私をおいて、彼はそのまま振り返ってまた走り出した。
私も、それにつられるようにまた走り出した。
無意識で。

追いかけるように。

息遣いが規則正しくなった。
彼の息遣いが、私と交互に聞こえる。
私の中で、初めて聞いた彼の声がこだました。

彼の後ろから校門をくぐった。
門のそばにいた先生が、不思議そうな顔をした。

「あっ...えぇ!?」
すでにゴールしていた友達の声が聞こえた。
だけど振り返らなかった。
前を見据えた。

彼の背中の先のゴールを。

2004/3/23

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