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もう少し
もう少し
もう少しで手が届くくらいの距離。
もう何も考えられず、必死で足を動かした。
地に足をつける度に、少し痛みが走った。
自分の息遣いに混じって 彼の息遣いが聞こえた。
彼のペースは速かった。
独りだった。
私も独り、必死でこの距離を守ろうとした。
彼の走りにいつも孤独を感じていたことを、こんな時にふと思い出した。
走ることは孤独だと、この背中が言っている気がしたから。
自分の息遣いが荒れだしたことに気づいた。
おそらく彼もこのとき気づいただろう。
後ろにいるのが女子であることに。
足の痛みが増した。
わき腹も痛み出した。
そうするともう辛い。
もっと走りこめばよかった。
今さらになって少し後悔した。
ぎゅっと手を握り締めた。
ペースだけは落としたくない。
彼の背中は大きい。
2004/3/23