今年の東大の前期の入試問題前期物理(第1問)で,題意の解釈の難しい問題が出題されました。

私の解答はここにありますが,大手の予備校の解答速報とは題意の解釈で異なる部分があり,私自身も疑問です。そこで,東京大学宛に3/20に以下のような質問を送りました。回答があり次第,この場で公開したいと思います。

 

東大宛に提出した質問

さて本題ですが,本年度の貴校の前期入学試験の問題に関して疑問な点があります。

物理の第1問IIの(1)において,「衝突を完全弾性衝突であるとして,」とありますが,この衝突とは何を指しているのでしょうか?また,ここで言う「完全弾性衝突」とはどのような意味なのでしょうか?

私がはじめにこの問題を見たときには,Iにおいて「壁との衝突は完全弾性衝突とは限らない」という記述があることと,敢えて「弾性衝突」ではなく「完全弾性衝突」という通俗的な表現を用いていること,また,文部省の教科書では「跳ね返り係数=1」で「完全弾性衝突」を定義していることから,壁との力積のやり取りは跳ね返り係数が1の衝突として扱い,引き続く棒との衝突により棒の方向の速度を失い,最終的には力学的エネルギーを失う現象と解釈しました。しかし,IIの(1)において「衝突」に際して小球の受けた力積を問い,さらに,(2)でそのうちの壁からの力積と問われているので,(1)の「衝突」は,壁から力積を受ける現象も棒から力積を受ける現象も含めてまとめてひとつの「衝突」と呼んでいるとも解釈できます。

その場合,(1)における,「衝突を完全弾性衝突であるとして,」の衝突では跳ね返り係数の定義が不明です。したがって,「完全弾性衝突」を力学的エネルギーの保存する衝突と解釈することになります(多くの予備校の解答速報では,この解釈で解答しています)。しかし,このように解釈した場合,衝突に際して小球が受けた力積を壁からの分と棒からの分とに振り分けられるのでしょうか?この点を解決するには棒が小球や天井とどのように接続しているのかを考察する必要があると思います。しかし,問題文にはその情報は与えられていません。また,「棒が変形しない」という仮定と反しないのでしょうか?
さらに,高校の教科書での「完全弾性衝突」の定義との整合性は良いのでしょうか?

現実の現象を考えると,壁の衝突と棒の衝突と2段階に解析した方が現実的な気がします。棒から力積を受けるには,小球が棒の方向の速度を持つ必要があるので,その前に壁との衝突が終わっているものとモデル化するのが妥当と考えます。しかし,上で述べたような理由でこの解釈にも疑問が残ります。もし,可能であるならば出題の意図を教えていただきたいと存じます。受験生を指導している責任上,私の考えを表明する必要がありますが,その前にできれば出題の意図をお教えいただくと幸いです。

同じようなテーマの入試問題が過去にも出題されたことが何度かあります。その度に,前述のような私の解釈で説明をしてきました。東大でも出題された以上,さらに深刻に議論する必要があると思います。その際,入試問題としての解釈と現実の現象の妥当性という2つの問題で悩みます。入試問題の出題者の立場でのお考えをお教えいただくと今後の指導上,たいへん役立ちます。教育的見地から是非ご回答いただきたく存じます。

 

東京大学の広報室から回答を頂きました。

東京大学の入学式の翌日,待ちに待った回答を頂きました。しかし,残念ながら私の疑問の核心部分に対しては回答していただけませんでした。そこで,もう一度,問題点を整理してみたいと思います。興味のある方はこちらをご覧下さい。