Medora, ND '02

Medora, North Dakota  June '02

 知り合いのペグは副業として10年以上ミュージカルの衣装を作っている。約2年の滞在が終わりに近づいた頃、ノースダコタのメドラへ、そのミュージカルを見に行った。8才になるペグの孫娘も連れて、西へ西へ。

ビズマーク そしてダコタ的ナンセンス

 ミズーリ川の手前、東側に位置するのが州都ビズマークだ。ペグのように900キロを一日で走ることはできず、私たちは往路ここで一泊した。取り立てて見るもののない平坦な町のようだが、どこかで夕食を、とモーテルから車で数ブロック行くと、愉快な看板のレストランを見つけた。派手なSpace Aliens Grill & Bar スペース・エイリアンのメニュは、外宇宙オニオン、惑星Xフライ、皆既日食プレートなど愉快なネーミングばかり。ショップではエイリアンTシャツやスリッパ、ステッカー、カードなども売られている。一日中車の中だった子ども達は大喜びだ。私も「地球に来て手に入れたのは、このお馬鹿なステッカーだけ」というステッカーを買った。とてもダコタ的。

 ノース・ダコタの94号線沿いには、不思議なものがいくつもある。例えば、 New Salem という村のなだらかな丘の上から悠然とハイウェイを見下ろす「世界一大きなホルスタイン」。そして Jamestown という町の入口にのっそり立つ「世界一のバッファロー」である。わざわざフリーウェイを降りて見物する人など、めったにいない。私はこれらを「ダコタ的ナンセンス」と呼ぶことにした。わはは。

メドラ
 アメリカには国立公園がいくつあるかご存じだろうか。50を超えるそうだ。イエローストーン、ヨセミテ、グランド・キャニオンなどは日本でも有名だが、ダコタのバッドランド、ミネソタのアイル・ロイヤルなどはあまり知られていないのではないだろうか。私は知らなかった。また調べてみると、国立公園システムの創始者は、メドラに深く関わりのあるセオドア・ルーズベルト大統領だった。

 メドラはセオドア・ルーズベルト国立公園の入口に位置する、谷間の小さな町である。公園はモンタナとの州境に近いノース・ダコタの西部にあり、浸食された谷バッドランドと、バッファロー、野生の馬が生息する乾いた草原が広がっている。荒削りな美しさをルーズベルト大統領はこの上なく愛したという。「ノース・ダコタでの経験がなければ、私は決して大統領にならなかっただろう。」
 ルーズベルトは1883年、バッファローを狩るため初めてこの土地を訪れた。この時西部の暮らしを大いに楽しんだが、再訪は決して心躍るものではなかった。翌年母と最初の妻が同じ日に病死し、不幸に押し潰されそうになって彼はまたここへやって来たのだ。居を構えたのは、メドラから50キロ北に入ったエルクホーン牧場。自然と向き合う人里離れた暮らしが力を与え、ルーズベルトは2年後にニューヨークへ戻る。そして1901年、第26代の大統領になった。

 と言うわけで、夏の観光シーズンに行われる『メドラ・ミュージカル』、劇『ブリー』(ガキ大将の意)などいずれもテーマはテディ・ルーズベルト。愛国心溢れる舞台を見ると、アメリカ人の理想とする何かが理解できそうだ。

 ペグの衣装で踊るメドラ・ミュージカルのシンガーたち。"Yee-Haa!"( イーハーッ! )

 この町を開いたのはフランス人貴族のマルキ・ド・モレ。彼に嫁いだニューヨークの裕福な銀行家の娘が「メドラ」である。

リンカーン砦州立公園

 ノース・ダコタには15の州立公園がある。メドラからの帰り道、ハイウェイ沿いの表示につられて、何となくこの公園に立ち寄ったことは幸運だった。おかげで、名前しか知らなかったジョージ・A・カスター将軍と第七騎兵隊について、いくらかの知識を得ることができた。

 娘と私を案内してくれたのは20代のアルバイト・ガイド、韓国人から武道を習っていると言う。
「この線を越すと、私たちは1875年へ戻ります。」
その後、彼はすっかり第七騎兵隊員になりきって、駐屯地跡に再現された屋敷と兵舎を歩きながら、カスター将軍夫妻や自分たちの暮らしについて語ってくれた。彼らがリトル・ビッグホーンの戦いで全滅するのは翌76年のことである。彼の地を巡るかつての戦いが、実際の風や光、草の匂いを得て立体的に像を結ぶ。ダコタ族インディアンのクレージー・ホースなど、それまでに訪ねた場所と人の名前とがつながってゆく。

 カスター将軍についてはGEORGE CUSTER HOMEPAGE、AMERICAN HISTORY Battle of Little Bighorn: Custer's Last StandLittle Big Horn Websites「カスター将軍とインディアンの戦いの跡」に分かりやすい記述がある。出版物は『天国(ヴァルハラ)への疾走―カスター将軍最期の日々』(マイケル・ブレイク著 文春文庫)など。


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