シェンクリンオオクワガタの累代飼育

- 台湾産あこがれの巨大種 -



はじめに

台湾に産するクワガタの中で最大の種 (オニツヤも大きいが) とされているシェンクリンオオクワガタ・Dorcus schenklingi を累代 する機会がありました。昔採集された個体の中には90mm に達するモノもあると言われる大型種で、採集される数も 他の種に比べて少なく(特に大型は)、昔から標本蒐集家の 間では珍品とされ、この種の大型個体を手に入れる事は夢 だったそうです。
台湾の最大種だけあり、適切な環境で飼育 すると、期待以上に大きく成るようで大型個体を累代で 出すのも楽しみな種です。

交尾・産卵 (材に産むがバラマキもする)

この種の累代をするにあたり、交尾をさせるさい♂が♀ を傷つける(☆させる)事が良く起こると聞いていたので、(幾つか の飼育記事も参考にさせていただきました)最初その点 に一番気を使いました。観察すると確かに♂は凶暴な奴も いて、気に入らないと♀を挟み上げたり見ていてはらはらさせ られる場合も有ります。飼育を始めた当初、 部屋を暗くし赤色灯をつけて交尾を確認するまで、じっと 見張っていたりしました。何せ累代を始めたのは1ペアのみから でしたから、緊張しながらのペアリングだったのです。
何ペアか確保出来てからは、いつも見張るのもきついし対策として 交尾をさせる飼育容器に大き目の(60×40p位)コンテナボックス を使用して頻繁に無駄?な接触はしないようにしました。単純にそう 思ったのですがこれで1週間ほど1ペアを入れ、その後は♂♀別にし ♀には産卵に専念していただくという方法をとりました。これで♂が♀を 傷つけた事は今のところ殆ど無いです。それに交尾の時期(成虫の 成熟等)さえ間違えなければ、まず交尾は1週間あれば済んでいるよ うです。ただ、中にやたら飼育容器の中を動き回る♀が偶にいますが この様な♀は、とりあえず別にしました。シェンク リンに限らず、黒いモノが目の前をちょろちょろすると♂は いらつくようです。それにシェンクリンは日本産のオオクワ の様に♂♀一緒に仲良く朽ち木の下に潜っているのをあまり 目撃した事が有りません。その点日本産のオオクワとは幾らか 生態に差が有るように感じます。
交尾の済んだ♀は♂と別にして産卵させましたが、産卵木には コナラ、ブナ、クヌギなどを使用してみました。直径は10p 以上有るもので一晩水に浸して おき、少し湿度が多いかなと思う程度でマットに半分埋め た状態にして置いたり、または完全に埋めたりもしてみました。
メスは少し柔らか目の白グサレ状態の朽ち木で太めの材が好みら しく、コナラ、ブナ、クヌギを使用した場合特にどれが良いとい う事はないようです。ただ半分埋めた朽ち木と完全に埋めたモノにだけ 産卵しその上に積み上げた埋まっていない朽ち木には産卵しないようです。 (囓る事はありました)
産卵時期は個体によって色々でした。成虫は保温しなかったので、 5月から10月頃の間に産卵しました。方法は朽ち木に坑道を掘ってそのなかに産んで 埋め戻す事が多く産卵を始めると朽ち木から♀が囓ったフレークが出て来 るのですぐに分かります。



これは後に飼育したラオス産のアンタエウスも同じ産卵方法でした。 また、朽ち木を入れずに(又は少なくして)産卵させる容器のマットを 深くし(幼虫の糞を混ぜると効果的と、、)硬めにつめておくとマット の中にバラマキ産卵もするようで、(アンタエウスも同じ) バラマキ産卵をしてくれた方が回収も楽で良いですが、何故か家で はバラマキ産卵する事は少ないです。
このバラマキ産卵ですが以前は確認出来ず、しないものと思っていました。 なにしろ良く産気づいた♀ならば、餌台に使用した硬い朽ち木の表面を 囓り産卵した事もあるくらいで、自然では知る由も有りませんが飼育し た場合産卵方法が一定してはいないようです。ただ前記したとおり朽ち木 に産卵だと必ずマットに埋まった部分から産卵しており、日本産のオオ クワがやる事のある、置いた朽ち木の上の部分(埋まってない)に産卵し たのはまだ見た事はありません。
産卵(初産)させた成虫は、冬季保温はしないで越冬させてますが次の年 にも大概の♀は産卵するようです。前年の交尾だけで受精卵を産んでる 個体もいますが。大抵は再度交尾させました。羽化してから☆するま での産卵数は今までの方法では15〜30くらいでしたが、餌は殆ど普通のゼリー だけでした。更に良い餌をあたえればもっと増えると思います。
次に累代に成功し、次世代の飼育に進むとしての話しですが、 幼虫を冬季23〜25℃で保温して飼育し2〜4月に羽化した♀は 90日から120日ほどで産卵可能になるようです。 この程度経過した♀を交尾させると大抵は産卵をはじめました。 ただし、その年には一向に活動を始めずいつまでも寝ているモノもいました。 それと今は常識でしょうがやはり夏場は成虫、幼虫とも涼しい場所(30℃以下 かな)で飼育した方が良いようです。
以上の方法でも産卵しない場合は何か他の原因があると思います。

幼虫飼育 (発酵マット、菌糸瓶どちらでも)

朽ち木に産卵した場合、出来るだけ卵では取り出さず、孵化して から割り出した方が良いようです。卵で取り出して孵化しないも のが結構ありました。それと産卵したと思われる朽ち木は早めに 容器から取り出しておき幼虫の孵化を待った方が良いです。 バラマキ産卵した場合も時期を見計らって♀は別のセットに移した方が 安全と思います。
♀は鬼子母神。
幼虫に食べさせた餌ですが、小麦粉を添加して発酵させた クヌギマットと、菌糸でも飼育しています。小麦粉添加の マットの製法ですが、簡単に書くと適度に加湿したクヌギマット に15〜20%の薄力小麦粉を添加し、偶に攪拌しながら1ヶ月 ほど経過したものを使用しました。大抵の人は作った事が有ると 思いますが、このマットでも結構良い成績が出ています。 下の写真は菌糸瓶飼育の幼虫です。



割りだした1齢幼虫(2齢でも)ですが、現在は初めから450〜500cc程度の瓶に 入れて飼育してます。以前はもう少し小さい容器に入れていたのですが、 入れ換える回数を1回でも少なくしようという魂胆です。(菌糸も長くもつ様になったし) マット飼育の場合♀だとマットの質でも違い 有りですが、もう1回の入れ替えで大抵は羽化まで行きます。 ♂は次(2本目)の詰め替え時に900cc程度の瓶にして、以後マットの入れ替えは 必要と判断した時におこないました。
菌糸瓶飼育は♀ならやはり450ccくらいの瓶で ♂の場合次からの入れ替えはマットと同じく900cc程度の菌糸瓶にしてますが、 超大物になると思う(見える)幼虫ならもっと大きい瓶にすれば良いでしょう。 幼虫の頭幅は♂だと15mm前後にまでなるようです。初めて3齢に脱皮した♂ 幼虫を見た時はやはり国産オオと比べとても大きく見え期待が高まったものです。



産卵されてから、羽化するまでの日数ですが、冬季23〜25℃で保温し発酵マット を食わせた場合♂の中には孵化から250日程度で羽化まで行く個体もありました。多数のデ-タ は無いのですが、運良く孵化から観察出来て記録したものはこんな感じでした。
8月産卵されたもの
------------------------------------ 8/29 孵化 ---- 9/22 2齢 ---- 10/27 3齢 ---------

----- 4/21 蛹化 ---- 5/31 羽化♂75mm

8月産卵されたもの
---------------------------------------9/1 孵化 -----9/23 2齢 ----- 10/29 3齢 ------

--- 4/7 蛹化 ----5/8 羽化♀ 44mm









冬季に保温をしないで、室温(関東なので下がっても4〜5℃です)で幼虫を飼育しても 幼虫期間が伸びるだけで飼育出来ます。ただし、保温している幼虫を急に気温の下がる 場所に置くと殆ど☆するようです。これは温室から出して幼虫点検し不覚にも戻しわすれて しまった事が何度かありまして、その様な事態になったのでした。(汗)


次へ