オオクワガタの地域変異と累代飼育の考察

平 山 貴 也





はじめに

 私は時間的な制約もあって、インターネットのホームページはほとんど見ることはないのですが、今回「クワガタ狂の大馬鹿者達!98年11月号」に投稿されている国内各地のオオクワガタを拝見し、私なりの考えを投稿してほしいとのリクエストがありましたので、これまでの採集や飼育の経験に基づいてお話ししたいと思います。

地域変異

 最近クワガタ関係の書籍で、「どこどこの産地のオオクワガタはこのような特徴がある。」といった特集を良く目にします。また、産地を強調して販売しているお店も良く聞くようになりました。 

 例えば山梨産は顎が長いとか、岡山や佐賀は太短いとか言われています。山梨産が能勢産と比べてそれほど違うとは思いませんし、どの地域でも能勢と同じ形のものはいます。しかし一方で、そういった特徴を持ったのがいるというのも事実だと思います。

 これまで能勢では数え切れないくらいのオオクワガタを見てきた私ですが、佐賀や福島で「こんな虫は能勢では見たこともない。」というような形のオオクワガタを採集したことがあります。
 最近は佐賀でも採れるのは小型の虫が多いのですが、能勢だったら中歯型になっているようなサイズの個体が小歯型だったことがあります。
 また、滋賀県での私の採集数は100頭未満ですが、顎の曲がり具合がちょうど将棋の駒のような形をした虫を3頭採集しています。このような虫は能勢では見たことがなく、とても印象的でした。

 但し、例えば前記の国内各地のオオクワガタに載っている山梨県北巨摩郡明野村大内採集の標本にしても、それは山梨県産のオオクワガタの内の1頭に過ぎず、20頭並べればそれぞれ形は違うと思います。「山梨だからこんな形」というような言い方はできないのではないでしょうか。
 私自身、採集個体を見せてもらっても産地を当てることは難しいと思います。書籍で産地別に特徴があると書いている人や産地を強調して販売しているお店の方は、果たして一見して産地を言い当てることができるのでしょうか?

 また、同じ能勢産といっても、三草山とその付近とでは虫の形が違うように思います。三草山の虫はどちらかというと頭が小さくて恰好良くないのが多いのですが、同じ能勢でも太い個体が多く採れるところもあります。
 このように山や谷続きでも虫の形が違ったりもするので、地域変異というのも遺伝的なものだけでなく環境による影響が大きいのではないかと私には思えてきます。例えば温度の違い・気圧の違い・標高などの自然条件によって特徴が出るのではないかということです。

累代飼育

 ところで、特徴のある個体であっても、累代飼育するとその子孫は、私の知る限りではどれも似たような形になってしまいます。
 佐賀や福島で私が採集した虫を持ち帰って飼育しても、次の代の個体では佐賀か福島か能勢かわからなくなってしまいます。私だけでなく、採集に同行した人が持ちかえって累代飼育した虫でも同じ結果でした。「これは○○産のF1」と言われると、そういった特徴を持った個体がわずかにいるかな?といった程度です。
 これは能勢産・亀岡(京都)産・兵庫産の、それぞれ形の違う虫を累代した場合も同じでした。
 ということは、累代ではない山採りの幼虫を菌糸ビンに入れた場合でも、採集された朽木でそのまま羽化するのとでは形が変わってしまうことも考えられます。少なくとも100%天然とは言えないかもしれません。

 菌糸ビンで育てられた虫は、その菌糸ビンの種類(ブランド)によっても特徴が出ます。太い個体を作りやすい菌糸ビンもあります。ディンプルの特徴(傾向)も菌糸ビンによって異なるように思えます。
 マット飼育は一般的には菌糸ビンにくらべ顎が細く、細長い個体が多いようですが、最近はマットでも菌糸ビンに負けないような個体を出す人もいます。

おわりに

 私は、「産地別特徴(産地別ブランド)」は、売る為に強調されたものであり、このようなブームは危ない状況であると思っています。
 地域変異というのは「標本の世界」のことであり「ブリードされた生虫」には当てはまらないと思いますし、販売されている天然個体も多すぎる気がします。

 最後に、累代飼育でも(産地別の)特徴を固定できたという人がいますので一度見に行こうと思っています。

※ご意見・ご感想・皆様の情報を、是非くわ馬鹿編集部までお願いします。

 
 


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