オニクワガタの魅力と魔力
by えりー


かくオオクワガタなど大型で、強そうで、飼育が簡単なDorcusに人気が偏りがちであるが、実は日本産のクワガタムシの中には高山種のように燻銀(いぶしぎん)の如き魅力あふれる種がまだまだ存在するということを少しでも伝えたいと思い、コルリ、マダラの羽化写真と共にそのライブ写真をくわ馬鹿に載せていただいた。その第3弾がオニクワガタである。「べつにそんなもんきょーみねえよお〜」という人は、いつものように、どうぞすっとばしてください。しかし、このオニクワガタというのが実は案外”いけてる虫”なのである。もし単なる食わず嫌いだったら一度は採集・飼育してみても損はないだろう。日本にはオニクワガタ原名亜種のほか、キュウシュウオニクワ、ヤクシマオニクワの2亜種(キュウシュウオニは亜種として認めていいのか?)と対馬にキンオニクワガタが知られている。ここで紹介するのはオニクワガタ原名亜種(福井県産、1998年幼虫採集)とキンオニクワガタ(対馬産、1998年幼虫採集)である。

ニクワガタは私の友人に言わせれば「ブナ林の一番の駄物」というほど個体数の多いクワガタムシのようである。私に言わせれば福井のブナ林はスジクワのほうが多いと思うのだが、地域によって違いがあるのかもしれない。とにかく成虫を採ろうと思ったら8月にブナ林の林内を歩行している個体をルッキングで見つけるというのが一番簡単な方法であると聞いている。オニクワガタを専門に狙うようなひとはまず居ないと思うので、ヒメオオ採集のついでというのが本音だろうか。あるいは灯火にも飛来するという話を聞くが、昨年6月末の灯火採集ではさすがに早すぎたのか採れなかった。いずれにせよ、成虫の活動時期はそれほど長くなく、1年1越、多年1越型のクワガタムシが多い中、典型的な1年1化のライフサイクルをもつようである。

もあれ、駄物といわれるようなものならば、私にだって採れるだろうと高をくくっていたのだが、私は昨夏に1頭も成虫が採れなくて、秋にはあれだけコルリ材採集に行っておきながらそれらしい幼虫も全く採れなかった。そこで、コルリの材のような細い木には産卵しないからではないか?と思い、途中からミヤマがいそうな太い倒木(直径40〜50cm)を削ってみたらこれが大当たりで、「オニクワの巣」とでもいうような大量の幼虫が現れた。別の山でも同様に太い材を削ったらやはり同様にまとまって幼虫がいた。私の経験からすると、オニクワは体は小さいけれども割と太めの材に産む傾向にあるように私は思う。スジクワはどちらかというとコルリがいてもおかしくない程度の太さの材に居ることが多々ある。ただし太い材でも採集している。オニクワ幼虫の採集は秋から冬でもできるが、春先のほうが大きくなっているし、飼育も楽である。私は大量にいることが分かった時点で大部分の幼虫を材に戻してあるので、成虫が活動を始める前に採りに戻ろうと思っている。

集した不明幼虫がオニクワかコクワかあるいはスジクワか?を見分けるのは実体顕微鏡(ビノキュラ)かルーペがあれば比較的簡単である。これは友人に教わった方法で、後に保育社の原色甲虫図鑑にも幼虫の図が載っていた。その後、この同定法で間違えたことはないのでかなり信頼できると思われる。違いは1つ。第1気門の形が明瞭なCの字をしているものはコクワかアカアシかスジクワなどドルクスである。スジクワの場合、幼虫のサイズと細長いからだつき、そして気門の色が薄黄色なのでコクワと区別がつく。で、オニクワの第1気門はより直線的でIの字に近い。蛹を採集してしまった場合どうするか。雄なら間違えようはない。蛹の場合、次の3点で区別がつく。 (1) 全体的に赤っぽい
(2) 蛹化の時に脱いだ終齢幼虫の殻を交尾器の後ろに未練がましくつけていること非常に多い。これはキンオニにも当てはまる。
(3) 雌の蛹もよくみると上向きの歯が膨らんで見える。

ニクワは例えば秋に幼虫を採集しても翌年の春〜初夏にかけて羽化するので、幼虫の飼育自体はいたって簡単である。はっきりいってギネスをねらうとか言うのでなければ(オニクワで狙ってもねぇ・・・)プリンカップでぜんぜんOKなので場所もとらないし、餌替えもいらない。温室ならばもっと早く羽化するであろう。以下、羽化写真を並べてみる。

写真1は蛹化したばかりの雌の蛹。まだ白っぽいし複眼は色づいていない。しかし、しばらくすると(写真2)、なんか赤っぽい感じがするのが見て取れるだろうか。それと、おしりのところに脱ぎ捨てた幼虫の皮がヒモのようなものでつながっているのが分かるだろう。たとえ蛹室の位置が悪くておしりしか見えなくてもこれでスジクワかオニクワか、だいたい判定がつくのである。それと、雌にしては大顎がずんぐりしていることが分かる。 これは前述のように雌にも雄と同様に上向きの歯があるためである。
写真3ではいよいよ羽化が近づいてきたことが分かる。オニクワの場合、色づき始めると比較的早く羽化するようである。気が付いたときにはもう羽化が終わっていた(写真4)。頭に残ってしまった蛹の皮を前足で必死に取ろうとしている様子が、なんとも可愛らしい。
濡れた後翅を乾かすのは他のクワガタムシと同じである。成虫の体は黒色でツヤがある。エリトラの縁取りもなかなかお洒落である。なにより、雌のくせに上向きの内歯を持つあたり、似たり寄ったりのドルクス雌とはひと味違う感じがする。体型的には腹部の膨らみが大きく少し重たい印象も受ける。
さて、雄はタイミングを逃してしまい羽化の現場を抑えることができなかった。写真7&8でわかるように完全に黒色であるが、雌ほどツヤはなく、やや艶消しという印象さえある。しかし、やはりなんといっても大顎がいけてる!!と思うのは私だけだろううか?せり上がった上向きの歯。上からみると内側には細かい鋸歯が並ぶ。頭部は小さいが複雑で、良くできた虫だなあと関心するのである。

さあ、次はキンオニである。 



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