コルリ&ミヤマツヤハダの採集(8)
by えりー


1998年11月29日,再び福井県N山系O山

珍しく朝から快晴である.こんな日に採集しないで一体いつ採集するのかと言わんばかりであったが,準備に手間取ってしまい,出発は意外に遅くなってしまった.今日は前回と同じN山系O山には直接行くつもりはなかった.というのも最低限1♂採れているので存在は分かったし,できれば同じ山系の別の山で裏をとりたいと言う思いの方が強かったのである.そこで,O山の付近にある2つの山KP山とRS山を下見がてら訪れることにした.あわよくば採集という魂胆である.
まず,KP山を目指すものの地図の上では道が途中で途切れている.車で行けるところまで行って歩いてみるが,標高はそれなりにあるもののブナ林はない.コナラを中心とした雑木林である.流石にこれではコルリは生息してないだろうと思い早々に引き上げる.


福井平野の南端の低い山々を見渡す

次はRS山である.この山は前回のO山の峰続きなのだが残念ながら車道はない.一度下まで降りてからもう一度別の林道を登らなければならないのだ. 県営キャンプ場を登るがこれが凄い道で舗装道路のくせにところどころ陥没,崩落していた.さらに無理矢理道を付けたのではないかと思われるほど急な坂道の連続であったが,30分ほどでなんとか山頂手前のH峠にたどり着いた.


H峠から見た白山.福井平野を挟んで東真向かいにあたる.この時期,雲が掛かって見えないことが多いのであるが,珍しく全貌が見渡せる.

ここから北へ1.5km程北へ登山道を進めばO山に着くはずであるが,まずRS山を目指す.


H峠から南を向くとRS山である(中央のとがった山).


H峠から西を向くと山の合間に日本海である!

見た感じ,植林はそんなに進んでいないと思われた.峠から車で約5分走って登山道入り口へ.必死になって山頂まで登るもののブナ林はない.あるのは雑木林でコナラやカエデといった雑木,しかも細い薮のような感じである.流石に700mを越えると朝晩は冷え込むのか霜柱を踏みつつ雑木林に入った.マークを探すが見つからない.仕方ないのでやや太めの朽ちた材を割って2齢幼虫3匹.おそらくコクワガタだろう.ものの30分も経たないうちに諦めて引き返すことにした.

さて,時刻は午後になりH峠まで戻ってからこれからどうするか考え直した.車でO山に行くには別の林道を登りなおさなければならない.しかし,峠から稜線づたいに歩けば地図上ではO山にたどり着くはずである.約1.5km.手間と時間を考えてこの登山道を歩くことにした.稜線を歩いていると雑木のなかにブナが混じっている.しかし,稜線であるから道の両脇はすぐに斜面で,そこでの採集は困難であると思われた.とりあえず帰りも通る道なので適当に林道沿いの材を拾いながら早足で進む.いくつか材を拾っては捨ていたのだが,ふと手元にある材をみるとしっかりマークがある.このブナ帯には間違いなくコルリが存在するのである.稜線だから道自体の起伏はそんなに激しくはない.ところどころ脚を取られるようなガレ場があったが,30分もしないうちにO山へ到着.まず,展望台のベンチで腹ごしらえ,水分を補給してから採集にとりかかる.
今回は,前回とは違ってより北西側の太いブナのある林で採集することにした.ちょうど谷間の用になっている場所である.


指が入ってしまっているが,ここがポイント.見た目はそんなに急ではないかもしれないが,まっすぐ登れないほどの斜面である.

私好みの場所である.採集のポイントはとにかく適当に朽ちた木を探すことである.場所によっても異なるので一概には言えないが太いブナの根本付近には折れた小枝が堆積していることが多い.そうでなくてもただの斜面よりはずっと良い材に出会う確率が高い.ミズナラ,カエデは無視してとにかくブナの木を渡り歩くのである.幼虫はそこそこ出た.これまでもかなり細い枝にいると思ったことはあったが,O山は特にその傾向が強い.環境が悪いと細い材にはいるのだろうか?下の写真をみると分かるが,最も細いモノで小指程度の太さしかないような材にもいるのだ.


比較するものがないので分かりづらいかもしれないが,コルリの幼虫のサイズはオオクワの1齢幼虫より少し大きいくらいである.上の写真の材の太さは2cm弱.

だいたいの感じは掴んだのであとは材を探すのみである.幼虫は20を越えたが成虫が出てこない.そこで,少し西側に回り込んで西日の当たる斜面へ移動した.すると,同じ様な材だが,1♂が出てきた.さらにもう1♂.しかしこれは鉈が腹部に当たってしまったようだ.右後脚がとれている.すぐさま酢酸エチルのバイアルビンへ.それにしても,ここの♂は美しいブルーなのである.他の産地でも青みの個体は出るのだが,基本的に緑系の強いキンキコルリにしては珍しくブルーが強い.サイズはいずれも小型.やはり600mでしかもそれほど大きな森では無いことを考えるとコルリにとってそれほど優れた環境ではないのだろう.♀が見つかったら止めにするつもりでいたが,思えば思うほど♀が出ない.西日が傾いてきて目に入る.材がまぶしくて見えなくなるのでもう採集は終わりにしようと降りてきた斜面を登ろうとしたが・・・登れない. 足下はずるずる滑るし,木がまばらすぎて捕まることもできない.仕方なしにぐるっと迂回しつつ谷を形成している右側の壁を稜線目指して登る.遠回りだが,これで稜線づたいに歩けば林道まででれるだろう.ほっとしたとき,足下の黒い材が目に付いた.軽く鉈を下ろすと成虫が出てきた.しかも♀だ!残念なことにこの♀の符節は4本無く,さらに左の触角も無かった.死んではいなかったのだが,蛹室で衰弱していたのだろう.

この日は2♂♂1♀〜30幼虫.十分な成果であった. 斜面を登るのでかなり疲労していたが,車を置いてきた峠まで歩かなければならない.西日を受けながら歩く.峠も大分近づいてきたころ「そういえばマークのある材があった」ことを思いだし,登山道のわきで落ち葉に埋もれている材を拾い上げてみると,まさしく(・)マークである.ここで4幼虫追加して今日の採集は終わり.

まだ4時前だったのでそのまま帰らずに越前海岸に降りて温泉に行くことにした.廚の漁火温泉という町営の風呂だが,県外からも入りに来る人がいるほど有名な露天風呂がある. 日本海を目前に遠くで日が暮れる前だというのに漁り火がちろちろと燃えている.丁度夕日が海の向こうの雲に隠れて昼と夜の間が西の空に広がってゆく.私はこの青とも赤とも紫とも言えない色が好きである.今日も充実した採集であったことを思いだしながら湯に浸かりこの空を眺めていた.


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