1998年11月23日早朝採集,福井県N山系O山
高山が雪であかんのなら低山帯へいけばよろし,そう思って行ってみましたN山系O山.標高はたかだか600m程度の温暖な気候の山である.この山系で最も高い山RS山でも700m以下という低さ.これまでの半分しかない.まさかこんなところにコルリがいるなんて奥越でコルリ採集をしていたら普通は思いもつかない.福井平野をはさんで真向かいにあたるこの山系のすぐ横の日本海の小島は対馬海流にのってきたのか?ベーツヒラタカミキリ,ハルセミ(寒地性のエゾハルセミではない)などの暖地性昆虫が採集されている.
先週の寒波で予想通り奥越は雪がつもったようだ.恐竜化石で有名な北谷で今年最初の除雪車がでたという記事が新聞に掲載されていた.この日は大阪で行われたオフミから帰ってきた翌日で仕事があったので,朝6時に家をでて道に迷いながらO山山頂に到着したのは7時過ぎていた.帰りは道が分かっているので1時間以内に帰れるだろう.タイムリミットは8時までの1時間弱である.実は,またもや事前に,O山にはN山系でも希なブナが山頂付近に生えているという情報を集めていた.ブナがあれば標高は低くても採れるという予感は頭の片隅にあった.また,エサケリストの友人からN山系にコルリが居るんじゃないの?という話しを聞いており,コルリに精通した彼が云うのならもしかしたらもしかするぞと思っていた.朝日のなかで採集することははじめてだ.枝先を雲が流れて行く.あまり無駄に時間を過ごせないと思い,カンを頼りに西側のなるべく太いブナの生えている斜面を探すことにした.このブナ林は,ブナ林というけれども奥越のブナ林とは大違いで,むしろイタヤカエデ,ミズナラ,コナラといった雑木が混じった混合林であり,高山性のブナやミズナラの占める割合は少ないし,カンバの類は一見したところ見あたらなかった.樹木自身もそれほど太くなくて原生林というよりは2次林だろう.これまでとはちょっと違う雰囲気の場所である.登山道脇には笹も生えているがヤブツバキ?だろうか椿によく似た低木が垣根のように生えていた.また,標高600mといえども寒波の影響は受けていたようで,登山道や北の斜面には雪があった.
さて,ブナ林は山頂から稜線に沿って南のほうへ伸びているようだった.北側斜面は登ってきた林道であり,山が途切れてしまうのでこのブナ帯の北限がO山山頂になるようだ(もしかしたら山を飛び越えてもう一つ北の山頂にもあるかも知れないが来年の春まで林道は封鎖されているので分からない).とりあえず稜線に沿って南下しHT峠〜RS山方面へ向かう.途中,送電線の鉄塔があるのだが,真下を抜ける林道の斜面が崩れており危険であった.このままでは鉄塔も倒れるのではないか?と思わせるものだ.早足で10分程度歩いて植林帯を抜けるとまた少しブナが混じってきた.しかし,稜線なので思ったほど降りやすい斜面がない.次第に雪が林道を覆い始めた.これ以上進んでもブナが多くなるとも思えなかったので,仕方なく手近な斜面で材を探すことにした.時間がないのだ.斜面はやや緩やかで林道から10m位は雑木が生えている.
しかし,そこから下は杉の植林である.こんな場所にいるやろうか?そう思いながらも,マークを探すことにした.適度な細さの材はいくつかあった.朽ち方も悪くない.材の種類は分からないけど材の状態はまさしくコルリ向きであった.しかし,マークが見つからない.無駄な作業を何度か繰り返してみて,これはドツボにはまってしまったと思ったが今更ポイントを探し直す時間はない.しかし,1本の太いブナの根本で半分土に埋もれていた材を掘り出してみると不完全ではあったがいつものマークが目に飛び込んできた.やはりO山にはコルリが居るのだ!!
この材にコルリは居なかったがその周囲を見渡して手当たり次第材を割り始める.もうマークを探すなどと云ってる場合ではない.マークが無くても出るときは出る.そうするうちに2本目のマークの材にぶつかった.それを鉈で割ったら1幼虫がでてきた.間違いなくコルリの終齢幼虫である.これで,最低限は確保した.さらに,鉛筆大の細い黒ガレの材をみたらマークが3つついていた.かなり古い材で,簡単に手で割ることができるほどであった.そしてこの材から1♂を得た.♂の成虫が採れたことで間違いなくO山にはコルリが生息しているということが分かった.震える手でデジカメに♂の写真を収めた.
♀の成虫を探したかったがこれでタイムオーバー.しかし,短時間の採集で,これまでとは異なった環境で採集できたので大満足であった.ここには♀を採るためにもう一度来る必要があるだろう.