コルリ&ミヤマツヤハダの採集(6)
by えりー


1998年11月15日,福井県K池withとしおーんさん
奥越の冬は早い.高標高(1000m〜)のブナ林は12月になると雪が積もる.この日がエサケルス採集の最終日になると思っていた.K池にくると必ず一軒宿のH湯に立ち寄って宿の人と少し話しをするようにしてきた.この宿には渓流釣りの客は良く泊まるようだが,クワガタ虫を採集するなんて酔狂な客はいなかったためか顔を覚えてもらったようだ.
今日もクワガタですか?といつものように訊かれる.今年全国的に猛威を振るった台風7号は福井県と岐阜県の県境を通過したため,K池のブナ原生林も被害にあっていた.太い生木の枝が無惨に割かれて折れていたばかりか,斜面に生えていた1mはあろうかというブナの大木が根から倒されて登山道を塞いでいたのだ.H湯も杉の古木が折れてガラスが割れるなどの被害にあったようだ.H湯は11月23日をもって今年の営業は終わりだ.K池は来年の5月まで静かに雪に閉ざされる.

今日の目標はツヤハダ&コルリである.もっともツヤハダはそう簡単に採れるとは思っていない.標高が1200m程度なのでぎりぎりのラインだと思われる.ただ,事前の情報集めで,北陸の木という本にK池周辺には福井県下では希であるカツラが群生しているという記載があった.これまでの採集では気がつかなかったのでおそらく登山道から外れた山のなかにあるのだろう.赤腐れしやすくもっともツヤハダに適しているカツラが生えている場所ならば採集の可能性は十分にある.一方,このK池は私のベースキャンプというか,通った回数からしてもダントツで知り抜いたブナ林であるにも関わらず,今年の春は惨敗してしまい未だにコルリを採っていないのであった.ここを押さえなくてどうして次ぎのポイントに進めようか.これまでの採集報告でも分かるように少しずつではあるがスキルは確実に上がっている.これだけのブナ林があってコルリが採れないはずはないのである.この日は昨日一緒に福井昆虫研究会例会に出席したとしおーんさんとの採集である.としおーんさんとは夏に一緒にヒメオオを採りに行ったが,K池ははじめてである.

福井駅でとしおーんさんを拾い,大野街道をつっぱしって一路K池をめざす.途中雲もあったが,今日は快晴だ.K池へのアプローチはいくつかあるが,市営キャンプ場からチェーンで封鎖されたゲートを抜けて登山道の入り口まで川沿いの林道を登って行く.巧い具合にカギが外れていたのだ(しかし帰りにはこのカギはしまっていた!!4WDなのでゲート横の斜面を無理矢理登ってなんとか回避したが,乗用車なら閉じこめられていただろう).灯火採集したポイントまで車で登り,そこで車を降りて探しながら林道を歩くことにする.途中の斜面でもマークを探すが,見つからない.ここには居ないのか?仕方ないので,K池周回コースの登山道を登ることにする.

まず,前から目星をつけていた北面のガレ場を探してみる.登山道脇の斜面は張り付くのが精いっぱいという厳しさであるが,日が当たらない上に雨のときには沢になるらしく湿度は十分である.崩れる足下を気にしながら適度に朽ちた細目の材を拾うと,次から次へとマークが出てくる.ここは絶好のポイントだ!ルアーケースがいっぱいになるまで採集して,ガレ場を登り切る.途中,ハイキング客に何度も何してるんですか?と訊かれたがいちいち応えている暇はない.しかし,なんか鉈もって怪しい長髪の男が木を割っていたなどと警察や自然保護センターに通報されるのも嫌なので,にこやかに挨拶をしては「虫を採って居るんですよ」と愛想をする.彼等はハイキングに来ても足下にいる虫のことなど知らない.これまで何十人のひとにコルリクワガタという虫をとっているんですよといっても名前を知っていたひとは一人としていなかった.採集をしているとハイカーと話しをする機会が多い.すれ違うときは挨拶をするし,言葉も交わす.虫を採っているんですよというと怪訝な顔をするひともいるが,興味津々に聞いて来る人もいる.お節介なことに人の職業まで詮索するひとがいるが,何故か決まったように理科の先生ですか?と尋ねられる.何故だ?

ガレ場より上は台地になっており,歩くのも材を探すのも容易である.夏はブナ,ミズナラの葉が覆い茂って鬱蒼とした原生林になるのだが,葉が落ちたあとは木漏れ日の差すのんびりとした林になっていた.このような原生林の奥はコルリは少ないと聞いていたが,そんなことはまったくなかった.ガレ場の斜面では細い材を中心にしていたが,台地に入ってからは細い材はもちろんのこと,やや太めの直径10cm〜の材にもマークがついていた.こういう材からはまとめて幼虫が採れる.K池は間違いなく今までのコルリ採集地のなかでもっとも密度が高い場所であった.この台地はG山(1600m級)の麓まで平坦な林が続くのであるが,クマの生息地だけに登山道を外れて奥へ進むのは少し勇気が居る.K池へたどり着くまでに30〜幼虫を確保し,この日の予定数に達したのでツヤハダを探すため赤腐れの材を探しにかかる.しかし,お目当てのカツラは全然見あたらない.なにしろ広大な原生林である.カツラかな?と思って近づくとミズナラであって,丸いハート型の葉っぱを見つけて近づいてみると,ツタの葉がからみついているだけだったりするのだ.すでに午後に入り,晩秋の赤く偏光した光がまぶしかったが,いよいよ最後にこれはと思う材を見つけた.ミズナラの立ち枯れである.側は非常に堅かったが根本付近は良い具合に赤腐れしており期待がもてた.しかしなんといっても堅い.としおーんさんと共同して材を根本付近から鉈で切り落としてそれから中を追って行くことにした.鉈を振ること数十分.材は倒れたものの全体が赤腐れになっているわけでもなく,出てくる食痕はツヤハダのそれではなかった.後に残ったのは疲労感だけであった.


コルリの終齢幼虫.

結局,ツヤハダは採れなかったのと幼虫はいっぱい出てくるのに,成虫が採れなかったのは残念であった.コルリ幼虫の他にスジクワ,アカアシと思われるDorcus系の幼虫が採集できた.ガレ場自体も吹き上げになっているが,ブナの幼木は少ない.しかし,台地を登ってから崖沿いの登山道を歩いていると,ところどころ良い風が吹いて居る場所があった.斜面はとても登り降りできるような傾斜ではなかったが,一面にブナの幼木が生えていた.来年の春にはここで新芽採集ができるだろう.今年のコルリ採集もこれで終わり.ここまで読んできた来たひとにはマイナーなコルリ&ツヤハダ採集におつきあいくださいましてご苦労様です・・・と,云いたい所であるが,実はまだ続くのである(^^;;;).


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