コルリ&ミヤマツヤハダの採集(4)
by えりー


1998年11月07日,長野県乗鞍岳
福井から松本へ至るルートはいくつかあるが,私は遠回りになる高速を使わず,しんどいけど最短の山道を通ることにした.福井から岐阜へ抜けるR158をひたすら走り,荘川,飛騨高山を抜けて平湯そして吾房峠を越えるとそこは乗鞍岳である.すでに辺りは明るくなっており「天気が悪いなんて嘘おぉ〜晴れてるやん」と叫びながら私は道を急いだ.きっといらいらしながらぶっ飛ばしていたに違いない(確かに地道を80kmオーバーで走っていた).途中は工事区間が多く,時間交互通行の場所がかなりあった.これは中部縦貫道,あるいは東海北陸自動車道の工事も絡んでいるためである.あちこちの山が削られ,道路基礎が出来上がっている.完成はまだまだ先のようだが,この工事のために多くの生物が生息場所を失うことであろう.高山へ抜ける山道の途中,2分の通行止めに丁度ひっかかったので車をおりて一息しようとすると,すぐ後ろの車からクラクションを鳴らされた.はて,何か悪いことしたかな?と思ってみると,なんと看護専門学校の教え子だった.偶然とはいえ世間は狭い物である.かれらは高山へ観光しにいくようであった.「先生何でそんなにいらちな運転してるの?」と云われてしまったが,彼女らには私の気持ちは分かるまい.

さて,乗鞍岳に到着したのは10時を少しまわったところであったが,問題のポイントがさっぱり分からず,観光案内を探したりしているうちに,なんとかポイントに到着したとき時計はすでに10時半をまわっていた.聞いていたポイントは私の知る福井のコルリポイントとは少し様子が違っていて,随分と日当たりの良い斜面であるが,カラマツの植林に紛れて雑木が並ぶ.とりあえず斜面を登りマークを探す.こんな乾燥したところにコルリがいるものか〜と思いながらも白樺やミズナラの細枝を拾って見ると結構マークがある.しかし,割っても何も出てこない・・・.これではいかんと思って右手のやや笹の多い斜面にターゲットを変更する.しばらくすると落ち葉の下から広い上げた材にマークが.適度に湿度が保たれている.まさしくコルリの材だ.割ってみると中から4匹幼虫が出た.その後,付近を徹底的に洗ってみるが,マークのついた材はひとつもみつからなかった.

今回の目玉であるツヤハダの好む赤腐れの材はカラマツに多く見られたが,とてもツヤハダが入っている様子はなかった.そうこうするうちに12時を告げるサイレンがなり,長野くんだりまで来てこのままで終わるわけにはいかない.しかたなく標高を下げながら自分でポイントをさがす.北西側の日の当たらない斜面はほとんどカラマツの植林である.


下生えもきつく斜面も厳しいが日が射さない分だけさっきのポイントよりはましだろう.とりあえず,近くにあった針葉樹を削るとヒラタシデムシ(?)が出てきた.ミクロマン(って知ってるよね?)のように透けた前胸がなかなかかっこよく面白い虫だ.迷わず毒ビンへ.後にこの個体は大阪のオオセンチを得意とする某エサケリストに献上した.

笹をかき分け登ってみるが針葉樹ばかりでカツラやミズナラの赤腐れはない.しかたないので,さらに標高を下げる.ここも植林が多かったのだが,斜面を登ってゆくと大きな倒木がある.直径4〜50cm,長さ3mくらいのカツラであるが,途中から折れていて根本に近い1.5m程の木の断面は程良く赤腐れしていた.


さっそく削ってみたもののかなり古いのか食痕だけで幼虫もでてこない.しかし,根気よく割っているとだんだん赤黒い木がオレンジ色になってきた.食痕も新しくこれは幼虫くらいは採れそうだと思っていた矢先,蛹室から死骸がでてきた.エリトラだけであったが,どうみても私がこれまで見てきたクワガタ虫とは様子が違う.縦状隆起がたくさんあるのだが,背中の曲率はクワガタ虫のそれではない.もりあがっているというか,円筒形といってもよいほど丸いのである.これがツヤハダ?まさかね〜?おそらくゴミムシかなにかだろうととんちんかんなことを考えて,さらに割って行くと・・・いきなりでました!!ツヤハダクワガタです.


「はじめまして・・・」と思わず心の中で挨拶をしてしまいました.こうなると背中で鳴っているラジオの音も耳に入らない.クマが出たってわしゃしらんぞ〜ってなぐあいで割進んで行く.ツヤハダは格好良すぎる!!興奮していたに違いない.しばらくの間に8♂♂5♀が出てきた.下の写真はその一部.持ち帰った材からも1♀が出てきて全部で14個体である.しばらく後に,エサケリストの会のメンバーに報告すると「はじめてにしては上出来すぎるほど上出来である」とお褒めの言葉を頂いた.


蛹室から這い出てきた大型の♂.


その後材が新しくなってきて,幼虫が出始めた.左は蛹室内の成虫,右は終齢幼虫.


さらに,幼虫の拡大写真.


結局,この日は全部でツヤハダ14成虫,30〜幼虫,コルリ幼虫4匹であった. 松本までの渋滞を予想して少し早めに採集を切り上げる.途中温泉に浸ってこの日はこれまでの人生で最高の採集日となった.ちなみにここは全国的に有名な温泉で,私も職業がら(?)一度は訪れてみたいと思っていた場所である).湯からは想像できなかったがややイオウの匂いがするもののさらっとした泉質で非常に気持ちの良い温泉である.是非,来年も採集がてら訪れたい温泉であった.

夕方には松本市郊外の某温泉宿にたどりついた後はエサケリストの宴である.むし社の編集長Fさんはじめ社員のみなさん,キンキコルリの記載者であるAさん,インセクトマートの面々,キンオニの日本3番目の採集記録保持者Kさんなどなど,月刊むしでは著名な顔ぶれが並ぶ中,虫屋歴1年未満の私でも違和感なくすごせたのはエサケリスト達の醸し出すやわらかい雰囲気のお陰だと思う.この宿のオーナーはH氏は有名な虫屋さんで,現在病気療養中であったにもかかわらずこの日のためにわざわざ一時退院して会に参加されていた.皆の箸が止まり始めたころ,到着が遅れていた福クワの安達さんがやってきて一安心.なんだかはじめて会ったという気がしなかった.それもつかの間,すぐに熱いオークションが始まった.どう考えても激安という値段で虫が落とされて行く.それでも,ルリ属は人気があるためか値がつり上がっていった.私は資金が無くて欲しい虫が手に入らなかったのが残念至極であった(ミドリセンチ+センチ7頭セット600円のみ).


この晩は少し疲れていたのか半分眠りこけながら国立博物館の学芸員であるN氏のスライド上映を見た.その後,温泉につかりながら午前3時くらいまで友人たちと語り明かした.安達さんとは乗鞍岳と山梨のミヤマツヤハダの標本交換を行ったうえ,おみやげまで貰ってしまった.非常に楽しい宴であったので,来年は是非福井県産のコルリを引っ提げて参加したいと思う.



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