平成13年度福岡県教員海外派遣研修報告

福岡高等学園 金子望

 

( http://cgi.asahi-net.or.jp/cgi-bin/Count.cgi?df=czech.dat&dd=D|ft=1 since 2003.5.22 )


 平成13年10月31日(水)〜11月16日(金)17日間の日程で、教員海外派遣研修(404団)に参加し、チェコ・フランスの教育及び文化・社会等の諸事情を視察したので報告する。


1 視察日程

 10月31日(水)

   8:30福岡発JAL322便

   9:30大阪(関空)着

12:45大阪(関空)発AF291便

17:40(現地時間以下同)パリ着

19:10パリAF4902便

20:50プラハ着

 11月1日(木)

オリエンテーション

 11月2日(金)

プラハ市内教育文化施設視察

 11月3日(土)

  主視察地カルロビバリ へ バスで移動。

16:00カルロビバリ着

 11月4日(日)

事前研修

 11月5日(月)

カルロビバリ市庁舎訪問

 11月6日(火)

シメラロヴァ基礎学校訪問

 11月7日(水)

ヤンパラフ基礎学校訪問

 11月8日(木)

第一ボヘミアギムナジウム訪問

 11月9日(金)

教育関係者との交流、答礼懇談会

 11月10日(土)

カルロビバリの教育文化施設視察

 11月11日(日)

  課題別研修

 11月12日(月)

  カルロビバリをバスで出発

  10:00プラハ着

10:00プラハ発AF1683便

14:50パリ着

 11月13日(火)

パリ教育文化施設視察

 11月14日(水)

16:00パリ発AF112便

 11月15日(木)

  10:10上海着

14:50上海発ANA794便 

17:50大阪(関空)着

 11月16日(金)

   9:00大阪発JAS521便 

  10:10福岡着


2 公式訪問の報告

 


(1)カルロビバリ市庁舎訪問

 私たち404団に応対してくれたのは、カルロビバリ市副市長を始め、カルロビバリ市議員、西ボヘミア県指導主事、商業アカデミー教頭、訪問予定学校の各校長の総勢7名、その他新聞社の関係者たちであった。

 自転車競技を長くやっているという若く精悍な副市長は、有名な選手が乗っている自転車は全部日本製であるとのことで、大変な日本びいき。また草津と姉妹都市を結んでいるということもあり、日本から来た我々を大歓迎してくれた。

 市長からの歓迎の言葉をうけ、岡本団長が挨拶をしたのち、西ボヘミア県指導主事 エバ・マリシコヴァさんから、チェコの教育システムの概要について説明がなされた。その後の質疑応答も含め以下にその内容をまとめる。

 義務教IMAGE2.JPG育は9年間(6歳から15歳)で、基礎学校に通う。基礎学校の1〜5年が小学校、6から9年が中学校である。義務教育を終えると、ギムナジウム、専門学校、専門訓練所などに分かれる。ギムナジウムは大学進学のための高校で、4年またはそれ以上(8年まで)の学校である。全体の10%がギムナジウムに進学するということから、かなりエリートの集団であろう。高校の卒業試験はマトゥリタと呼ばれ、全国統一して行われる。マトゥリタを持っている人は、短大や大学に進学することになる。

 このようなBasic Structure に対し、SpecialStructureもある(つまり養護学校の存在)。養護学校に通学するかどうかは、親が決める。身体障害者は普通の学校で統合教育をすべきという意見もある。

 小学生は、授業が終わるとドルジーナ(いわゆる学童保育所)に行く。そこでスポーツや文化的ないろんな活動をしている。

 チェコでは、高卒で仕事がすぐに見つからないことが多い。一般に高学歴ほど就職率はよい。革命前は職業は国が決めていたので就職難はなかった。大学で学びたいと思っている人は多いが定員があり、大学入学試験に失敗する人は多い。

 基礎学校の内約半数は、いろんな特色(何に力を注いでいるか)を持っている。例えばスポーツ、芸術、外国語教育など。

 日本の塾のようなものはないが、基礎学校は午後に自主的な活動の場となっているところもある。親の責任で、スポーツや芸術などいろんな活動(習い事)をやっている子どもが多い。

 教員は大学の教育学部、教育大学で養成される。教師は収入が少ないので教育大学卒業でも他の職業に就く場合が多いのが現実。

 カルロビバリの保育園は0〜3歳までの保育を止めた。必要なら2歳からは受け入れるが、0〜3歳の期間は保育園は子どものためによくないという判断である。

 放課後の活動は特に組織的ではないが、午後自主的にやっている。基礎学校では子どものためのいろんなコンペティションがある。教員は少ない手当で面倒をみている。

 説明のあと熱心に質疑応答があり、チェコの教育事情が少しづつわかってきた。教育のあり方、生徒の過ごし方、教員の仕事内容など日本と大差ないように思えた。 


(2)ヤンパラフ基礎学校訪問

 110年前、ドイツのギムナジウムとして建てられた建物は荘厳と形容するに値する堂々たる建物であった。私たちが学校の近くでバスを降りるIMAGE3.JPGと、窓から子どもたちが手を振ってくれているのが見え、私たちもそれに応えた。

 学校名ヤンパラフはチェコの英雄の名前である。学校は、厳重な入り口が1つ、グラウンドはなく小さな体育館(会議室を改装したもの)があるだけであった。

 校舎は、回りの建物と全く同じようなつくりで、校庭もなく、小さな入り口に、チェコの国章であるライオンと鷲の紋章があることが学校の印のようなもので、バスを降りてもどこに学校かあるのかわからないくらいである。

 自動ロックされるという入り口から入った私たちを迎えてくれたのは、子供らのミニ歓迎式であった。習いたての英語でwelcomeと書いた風船をくれた。

この学校は外国語教育に力を入れており、3年生から英語、独語を学習する。6年生からは仏語(興味のある生徒には露語も)を教えているということである。

 生徒数は440人、19クラスあり、約24人で1クラスになっている。チェコ人の他に、ベトナム人、ウクライナ人、ロシア人、クロアチア人が全部で40名ほど在学しているが、特に配慮せずにチェコ語での教育がなされている。

 授業は8時から始まり、13:30には終了する。1〜4年生までは、保護者が希望すればドルジーナ(学童保育所)に通う。特別に雇われたIMAGE5.JPG人が学校の建物の中で子どもたちの面倒を見ている。

 コンピュータの導入は行われていない。学校にあるパソコンは3台という。文部省のプロジェクトでインターネット環境を整える計画があり、コンピュータに合う言語としての英語を中心とした外国語教育の重要性が増してきている。

 放課後の活動については、親にその責任があり、半数以上の生徒が何らかの活動を行っている。ちなみに校長の娘は水泳、ピアノ、絵画、声楽、乗馬など幅広く活動しているとのこと。

 チェコでは教師は高く評価されており、良い教師は尊敬の対象となるが、給料はけっして高くなく低いカテゴリーにある。一般に男性の教師が少ない。この学校には男性教師は校長を含めて2名だけだった。

 生徒は礼儀正しく整然と授業を受けている。われわれが教室に入るときは、生徒は全員起立して迎える。これは特別なことでなく、担任が教室に入るときは、チャイムとともに起立して待つとのこと。これは、我々が教室を出るときも同じであり、それは誰かが「起立!」という号令をかけるわけでもなく、言ってみればスタンディングオベ−ションという感じて、私たちはとても幸せな気持ちに浸ることができIMAGE6.JPGた。

 どの教室でも子供の顔は明るく屈託がない。ふだん見かけない東洋人に対して興味津々という感じで大きな目をくりくりさせていた。

 あるクラスでは、ノートに名前を漢字で書いてくれとせがまれ、それに応じていると収拾がつかなくなり、われわれ全員で授業時間中サインをするはめになった。漢字に対する関心が強いのだろうか。休み時間に廊下に出ると、「Can you speak English?」と話しかけてきた生徒がいた。自分の名前を漢字で書いてくれと言う。何とか拙い英語でやりとりしていると、たちまち人だかりができ、取り囲まれるほどであった。とてもひとなつこく、それが私たちの緊張をほぐしてくれることにもなった。 IMAGE7.JPG

 7年生のクラスで、将来何になりたいかという質問を子どもたちに投げかけてみた。即座に手が上がり新聞記者、看護婦、経営者などの答えが返ってきた。日本の学校で同じ年齢の子がはたしてこのような将来の夢を外国からの客に堂々と言えるだろうかと感心した。

 授業の見学を終え、最後に職員とのディスカッションの場が設けられた。10名足らずの職員が参加し時間を延長して熱の入った議論がなされた。

 ここには不登校の問題はあるか?との問いには、日本ほど深刻にはなっていないらしく問題はないとのこと。ただ、子供の生活については、親が責任をもっていること、学校にきちんと通わせることについては、親の問題であるという認識であった。学校の規模がさほど大きくなく、教師がみな生徒全員を知っているということが、問題を未然に防ぐことになるのではないかという意見もあった。

 


(3)シメラロヴァ基礎学校訪問

 この学校は芸術に力をいれている学校で、音楽、美術、ダンスの授業を多く取り入れているのが特徴であった。正門前で、校長先生をはじめ、数名の先生方の出迎えを受けたが、その中にトランペットを持った生徒(6年生ぐらいか)が歓迎の演奏をしてくれた。高らかなファンファーレ−とともに学校に入った。

 IMAGE9.JPGここは18クラス438人の基礎学校で(9年生まで)、8:00に授業が始まり13:30には終わる。午後は生徒の自主的な活動の場である芸術学校という面をもっている。

 基礎学校と芸術学校の関連がなかなか理解しにくかったが、芸術学校はプロの芸術家がほとんどボランティアでやっているとのこと。744人が芸術学校に通っているということである。

 この学校でも我々は生徒の興味関心の的であり、カメラを向けただけで大騒ぎになる始末であった。

 生徒は、おやつ飲み物は持ち込み自由で、10時頃には休み時間にそれぞれおやつを食べていた。

 美術教室は生徒の作品がところせましと置かれていた。主に小学生の作品だったが、すばらしい感性が表現されていた。会議室や校長室、廊下のいたるところIMAGE10.JPGに生徒の作品が掲示されていて、さすがに芸術専門の基礎学校であると感じた。

 学校には、すばらしいコンサートホールがあり、音響設備が整っていた。機器は日本製であると校長がいっていたが、見るとYAMAHAというロゴがIMAGE11.JPG見えた。チェコの学校では校長に大きな裁量権を委ねており、日本の事務長のような予算確保の仕事も校長の仕事であり、学校設備充実のためのスポンサーを捜すことにも苦労するとのこと。

 芸術やダンスは少人数のクラスで行われていた。

 ダンスでは、曲に合わせて創作ダンスを練習していた。その日はいなかったが、いつもはピアノ担当の先生も一緒についているそうである。我々が大人数で押しかけたため少し恥ずかしそうであったが、練習中のダンスを披露してくれた。

 IMAGE12.JPG昼食のため食堂に向かおうとすると、小学校の低学年は授業を終え帰り支度をしていた。ドルジーナの先生と一緒にきれいに列をつくって、食堂に移動していた。食堂の建物がドルジーナにもなっていた。

 食事のあと、学校のはからいで私たちのために特別にコンサートを開いてくれた。

 午後の芸術学校で音楽を学んでいる子どものなかで特に選ばれた子どものようであった。すばらしい演奏、歌で感動しIMAGE13.JPGた。

 午後の芸術学校も参観したが、小学校低学年から高校生までが、ピアノ、バイオリン、声楽などいろんなジャンルにほとんど個人レッスンのようにして、学んでいた。このような形態は日本にはないものである。私立の大規模な音楽塾といったものを想像してもらえばよいだろうか。

 どの教室でも、熱心に学ぶ生徒と、そしていずれも一流の芸術家であろう先生方のひたむきさに驚かされた。

 参観を終えて学校の職員とディスカッションの場が持たれた。そこは、学校から少し離れた建物の中で、学校のギャラリーになっていた。

 日本とチェコの教育の違いなどが議論になった。特に日本の夏休みはどれくらいで、その間教員は何をするのか、休暇はどれくらいとるのかという質問があったが、私たちの日常の教員生活についていくら説明してもうまく伝わらなかった。どうしてそんなに働くのか、そんなに仕事がたくさんあるのかという議論がしばらく続いたが、仕事や休暇に対する考え方の国民性なのかなと感じた。

 ここの教員は週42時間勤務することになっているが、授業は週22時間を担当する。残りの20時間については、学校で仕事をしてもよいし、家に仕事を持ち帰ってもよい。つまり、学校に拘束されることがないのである。もちろん生徒のいない夏休みは教員もまとめて休暇をとる。8週間の夏休みのうち、7週間は教員も休むとのこと。生徒のいない学校で何をするのか?という問いをつきつけられたとき、私たちも、はて・・と少し考え込んでしまうのである。年配の女性が「資本主義は大変ね」とジョークを飛ばした。

 チェコにはいじめは大きな問題にはなっていないが、人権に対する意識は高く、校舎内にポスターが掲示されていて、いじめを見た場合の連絡先などが書かれてあった。音楽などの趣味があれば悪さをしないものだという校長の信念もあった。いじめ対策の特別な教師もいる。保護者と連絡をとりあっているとのことである。ひどい場合警察へ連絡することもあるなど、実態は日本と同じレベルだと思えた。

 身体障害者に対するインテグレーションに関しては30人ほど在学しているという。特に問題はないということである。

 


(4)第一ボヘミアギムナジウム訪問

 

 このギムナジウムは昨日と一昨日訪問した基礎学校と違い、敷地が広々としており、校庭もゆったりと取られ、日本の単科大学程度の規模を思わせる学校である。登校している生徒も、今までの学校と違いずっと大人びており、雰囲気がだいぶん異なっている。 IMAGE15.JPG

 このギムナジウムは2つのコースがある。1つは4年生(15〜19歳)。もう一つは8年生(11〜19歳)である。8年生はいわゆる中高一貫の学校である。

 生徒が723人、教師が64人。カルロビバリでは一番大きなギムナジウムとのこと。

 ギムナジウムの課題は、あらゆるタイプの大学に生徒を送り出すことであるといい、生徒はチェコ語の他、外国語を2つ(英、独、仏、露、スペイン、ラテンから)選択する。そのほか数学、物理、化学、生物、コンピュータ、美術、音楽、社会学(哲学、地理学、心理学など)、体育などがある。週に30時間の授業の他、自分で取りたい科目をプラスすることも可能である。

 授業の後は音楽やスポーツなどいろんなサークル活動をしている。これは教員が指導に当たっている場合がほとんどで、特別に残業手当のようなものを支給しているが、とても安いのということである。

 入学試験では、競争率が8年制の入学試験で3倍、4年制では2倍の倍率ということである。優秀な生徒が集まるのがギムナジウムと言える。

IMAGE16.JPG 第一ボヘミアギムナジウムは大学進学については、チェコの中でも進学率がよく、チェコ355のギムナジウムの中で35位の成績だそうである。チェコの高校は、毎年生徒の成績を含めた学校のレポートを国に提出する義務があり、進学についての学校の評価は公開されている。

 成績は前期後期で5段階評定をする他、3ヶ月ことに小試験をする。また、卒業試験としてはマトゥリタがある。

 語学や実習を伴う授業はクラスを2分割し少人数で行っている。このようなクラスでは、生徒はお互い向かい合い、ディスカッションできるような姿勢で授業を受けていた。

 最新のパソコンが20台ほどそろっている教室を見学した。パソコン室は3つあるという。ちょうどドイツ語の授業が行われているところであった。生徒は自学のためのソフトを操作して、ドイツ語の単語を覚えていた。インターネットにも接続されている。試しに、福岡高等学園のホームページを出してみたが、文字化けしたページながらも、生徒の画像が現れて、これは私の学校だと紹介した。授業での活用の他に、コンピュータの利用技術を教える教科(日本でいえば新設される「情報」のようなものか)があるということだ。

 IMAGE18.JPG理科教育は本格的な実験室が整備されている。物理の授業を参観したが、教科書は分厚く、内容がとても豊富で、日本でいえば大学の教養課程なみのことまで含んでいる。中学生のうち10%が選抜されて入学してくる、エリート学校としてのギムナジウムの実力をかいま見た気がした。

 

 IMAGE19.JPG食事のあと、音楽のサークルの生徒達が私たちのために歌と演奏を披露してくれた。初老の音楽の先生がとても熱心で、つぎつぎと曲目を挙げ、生徒を指揮していた姿が印象的である。チャイムが鳴り次の授業が気になっている生徒にもお構いなしに、さあやるぞと意気込む老先生に、生徒も少し苦笑しながらも一生懸命に歌い演奏する。その様に、教師と生徒の絆の存在を、チェコに見た気がした。

 また、その隣の教室では美術の授業が行われていた。造形、絵画、版画と思い思いに取り組んでいた。日本の高校で、こんなにも楽しい雰囲気が満ちあふれている光景を普通に見ることができるだろうかと不安になるくらい彼らの表情がとても明るい。

 さて、最後は、私たちとのディスカッションが設けられた。ここでは、教師に交じって、ぎっしり50名程度の生徒(多分、希望者を募ったのであろう)が参加していた。

 外国語は何を学んでいるか、はやりの歌は日本の伝統的なものか、英語で歌っているのか、体育の授業は何をするのか、エリートの職業とはどのようなものか、教師はエリートか、日本に死刑があるのか、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランドのような国と国の関係が、日本にはあるのか、日本の高校生にはマトゥリタ(全国統一卒業試験)はあるか、麻薬を吸う生徒はいるか、次々と質問がでる。

 IMAGE21.JPG日本のことをもっと知りたいと真剣に考え、自分の頭で考え色々と聞いてくる。彼らの真剣さが伝わってきた。

 こちらからも質問する。日本人で知っている人は、校則に不満はないか、日本人は着物を毎日着ていると思っていないだろうね、日本は大学生の学力低下が問題になっているが、君らは大学で進学して勉学に対する興味が失われたりしないか、・・・等々。通訳を挟むことがなんともどかしいことか、もっともっと聞きたい、直接議論しあえたら・・などと思う間に時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 


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