広葉樹(白)  
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家  族
2008年
苦悩する家族 「死」語り合う場を
これからの緩和ケア スピリチュアルケア,家族ケアの重要性を強調
2009年
終末期医療を巡る新たな知見 患者と家族の不安にどう対処するか
2010年
第14回日本在宅ケア学会 各職種の目線で家族支援の現状を捉え,方策を探る
手足のマッサージが遺族の慰めにも効果
乳癌患者の男性パートナーはうつ病リスクが高い
懐かしい姿を送りたい 最後の装い、家族癒やす 化粧、ドレスその人らしく
2011年
がん宣告の『余命わずかの花嫁』 病院内で挙式2日後に死亡 米
遺族への緩和ケア,家族の“機能”により異なる方法が効果的
人生最後の願いは「妻に指輪を」 周囲の協力で97歳男性の想い実る
患者本人に代わる意思決定は苦痛 家族など患者の代理人に強いストレス
2012年
遺族ケアに「臨床宗教師」…牧師や僧侶へ養成講座

苦悩する家族 「死」語り合う場を
 6月25日付のニュースUP欄で、脳梗塞で5月に88歳で亡くなった祖母をみとった体験を「幸せな死に方とは」というテーマで掲載したところ、40〜60代の女性から手紙や電話、メールなどで反響が寄せられた。

 東大阪市の主婦(65)の手紙には、101歳の母を急性肺炎で先月亡くした体験がつづられていた。今年1月に入院し、点滴、輸血、酸素マスクなどの措置を受け、マスクを取ってしまうからと、左手はベッドに縛り付けられた。女性の長兄(80)は延命措置に同意したが、女性は「老いた体にここまでしなければ?」と疑問を抱いたという。

 医師である私の父(71)は、主治医として祖母の延命措置をやめた。この女性のケースについて聞くと、「101歳の方に輸血や酸素マスクなどの治療は理解できない。病院はしっかり説明したのだろうか?」と疑問を示した。

 このほか、脳梗塞の夫(69)の延命を中断した女性(70)、意識の戻らない状態の母(69)を1年間、延命し続けた女性(60)――など、迷った末に決断した事例もあった。

 身内や自身の死は、誰しも直視したくない。まして家族で語り合うことは少ない。27歳の私自身、祖母が火葬場で骨になるのを目の当たりにして、はじめて死を実感した。

 死についてオープンに話し合える環境が、病院との意思疎通、ひいては終末期ケアの充実につながる。皆さんからの手紙などを読み、そう痛感した。

m3.com 2008年7月31日
これからの緩和ケア スピリチュアルケア,家族ケアの重要性を強調
 "喪失と回復―QOLの視点から"をテーマに掲げ,神戸市で開かれた第10回QOL研究会夏期セミナーの特別講演「これからの緩和医療」では,金城学院の柏木哲夫学院長が,緩和ケアを巡る最近の話題について講演し,これからの緩和ケアは対象疾患が拡大し,対症的な側面から予防的側面も含めるようになるほか,スピリチュアルケアや家族ケアがますます重要になることを強調した。

難しいスピリチュアルケア

 柏木学院長は「スピリチュアルケアも家族ケアも簡単に行えるものではない」と訴えた。スピリチュアルペインとは,死を自覚しなければならないような病状になったり,他の人に世話にならなければ生きていけなくなったりしたときに,自分の存在意味や価値への"問"を持つことで生じる苦悩を意味する。例えば,こんなになって生きていてもしょうがない,私だけがなぜこんなに苦しまなければならないのか,どうせ死ぬのだから頑張っても仕方ない,こんな私をだれも受け入れてくれないなどという"問"である。こうした"問"への対応がスピリチュアルケアであるが,多くが安易な励まし,間違った助言により患者のスピリチュアルペインを強くしている。

 また,家族ケアの3大要素は予期悲嘆のケア,死の受容への援助,死別後の悲嘆のケアであるが,ここでもスピリチュアルケアで見られる同様の過ちが繰り返されている。事実,約4割の遺族が死別後のつらかったこととして「周囲に自分の気持を理解してもらえなかった」,「周囲から思いやりのない言葉をかけられた」ことを挙げている。同学院長は「思いやりがないと言っても,悪意からではなく,善意からのもの。ここに悲嘆ケアの難しさの要因がある」と指摘する。善意による行為は正しようがないからである。

理解的態度と受け身の踏み込みが鍵

 では,どうすればよいのか。柏木学院長は「理解的態度と受け身の踏み込みにそのポイントがあるように思う」と述べる。
 理解的態度とは「あなたが言いたいことを私はこのように理解しましたが,これでよろしいですか」と,患者の言葉を自分の言葉に言い換えて患者に返していくこと。このような態度に受け身の踏み込みを加え,患者のリードで会話を継続させ,患者に前述した"問"(弱音)をすべて吐き出してもらえばよい。
 家族に対する予期悲嘆のケアや死の受容への援助も同様である。この場合は,患者の目の前で行えないため,場所や時間も提供して,悲しみをとことん表現してもらう。そうすることにより,死別後の悲嘆からの回復プロセスがスムーズにいき,また死別後の悲嘆ケアには,遺族同士の支え合い(自助グループ)が有効なことが多い。

 同学院長は「これからの緩和ケアでは,スピリチュアルな痛み,家族の痛みにも積極的にかかわっていく必要がある」と結んだ。

メディカルトリビューン 2008年10月2日
終末期医療を巡る新たな知見 患者と家族の不安にどう対処するか
 終末期医療に関する複数の研究が発表された。延命治療の在り方を巡る医師との事前の話し合いや,終末期に必要な医療費の相談,人種・民族による終末期医療費の差,終末期における患者・家族の医師に対する心理的変化などを明らかにしたものである。

医師との事前協議で医療費削減

 65歳以上の高齢者を対象とした米国の公的医療保険であるメディケアによる支払いの3分の1は,毎年死亡する5%の受給者に費やされている。また,死亡前1年間に要した医療費の3分の1が死亡した月に費やされているなど,終末期医療に支出される医療費の不均衡が指摘されている。先行研究により,これらの医療費の多くは,蘇生術や人工呼吸器の装着など延命処置によるものであることが明らかとなっている。

 ダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)精神腫瘍学・緩和ケア研究部のBaohui Zhang氏らは,終末期医療の在り方について事前に医師と話し合っていた患者では,死亡直前の1週間に要する医療費が低くなると発表した。これは,米国立精神保健研究所と米国立がん研究所による,進行がん患者を対象とした多施設縦断研究であるCoping With Cancer研究の参加者627人中603人を対象にした聞き取り調査の結果,明らかとなった。

 同氏らは,ベースラインとして同研究が開始された2002〜07年に,終末期医療の在り方について医師と話し合ったかどうかを調査し,死亡するまで追跡した。

 その結果,ベースライン調査では188人(31.2%)が終末期ケアについての希望を医師と話し合ったと報告した。終末期医療の在り方について医師とあらかじめ協議していた被験者では,死亡直前の1週間に要した平均総医療費は1,876ドルであったのに対し,協議していなかった被験者では2,917ドルであった。

 被験者の死亡後に,介護者に行った聞き取り調査の結果,終末期にかかった医療費が高い被験者ほど,死亡直前の1週間の「死の質(quality of death)」が低いことが示された。

「見捨てられた」と感じるとき

 ワシントン大学内科のAnthony L. Back教授は,死を目前に控えた患者や家族が医師から「見捨てられた」と感じるのは,(1)死の目前で治療の継続性が途切れ(2)死の直前または死後に心の整理が付いていない〜という2つの要素から生じると報告した。

 同教授らは,(1)治療不能のがんまたは進行性肺疾患で,余命1年以下と診断された患者55人(2)これらの患者の治療・介護に当たった医師31人(3)家族介護者36人(4)看護師25人―を対象に,研究登録時と4〜6か月後および12か月後の時点で聞き取り調査を行った。

 同教授らは「患者や家族介護者は,早い段階から担当医から見捨てられることを恐れ,患者・家族が頼みの綱にしてきた医師による専門的な治療が受けられなくなるのではないかと危惧していた。医師は患者や家族が抱える恐怖に気付いており,安心させたり,継続的に治療に当たることで,不安を解消しようと試みていた。しかし,それでもなお,死期が迫るにつれ,担当医による定期的な診療の機会が減り,関係性が薄れることから,見捨てられたという感情を抱く患者や家族もいた」と述べている。

 さらに,同教授は「死期が迫ったときや死後には,どのように心の整理を付けるか悩むこともある。一方で多くの医師は,患者や家族の心の整理がすんでいないと感じていながらも,患者や家族を見捨てたとは自覚していない」と述べ,「この知見から,臨床医は,看護師などチーム医療のメンバーとともに,ホスピス施設外での緩和ケアや患者や家族の看取りに際する心の整理の付け方を支援することにより,患者に対し『医師として決して見捨てていない』という姿勢を示すことの必要性を認識できるだろう」と述べている。

自殺幇助希望の陰にある不安

 オレゴン州では,全米で唯一,医師の幇助による自殺が法的に認められている。オレゴン保健科学大学精神科のLinda Ganzini博士らは,医師による自殺幇助を希望している患者の動機は現在の症状ではなく,むしろこれから先に予想される苦痛や自律性を失うことへの不安であることを明らかにした。

 同博士らは,医師による自殺幇助を希望しているか,あるいは関連の患者の権利擁護団体に接触した56人の患者に対して聞き取り調査を行い,動機となりうる29の設問に対し1(重要ではない)〜5(最も重要)の5段階で評価した。

 その結果,最も重要な理由として挙げられたのは,(1)死に際して身辺整理をし,自宅で死にたいから(2)自律性が失われるから(3)これから先の苦痛やQOLが下がること,自分で自分の世話ができなくなることへの不安―などであった。現在の身体的な症状に関しては,理由として重要ではないと評価された。

 同博士は「この知見は,初めて患者が臨床医に自殺幇助を希望した際には,身体的な症状,あるいはそのときのQOLが理由ではなく,この先に被るであろう耐えがたい苦痛に対する予見から,自殺幇助を希望していることを示唆している。患者の死に対する希望はそれほど強いものではなく,自分の人生は質が低くて意味がなく,無価値であると信じているわけではない。むしろ,耐えられそうにないこれから先のリスクから身を守っているようだ」と分析。「医師による自殺の幇助を依頼される事態に直面した際には,医療者は患者が物事を自らコントロールできる感覚を支え,これから予見される症状をどのように管理するかについて教育し,安心させる必要がある」と述べている。

メディカルトリビューン 2009年8月20日
第14回日本在宅ケア学会
各職種の目線で家族支援の現状を捉え,方策を探る
 在宅ケアにおける家族支援は,職種または対象が抱える問題によって異なる。東京都で開かれた第14回日本在宅ケア学会のシンポジウム「家族支援の実際と家族・専門職のパートナーシップ」では,各職種から家族支援の現状が解説され,よりよい方策のための議論が行われた。そのなかから3題を紹介する。

〜訪問栄養指導〜管理栄養士が多彩な事例に個別に対応

 地域栄養ケアPEACH(Perfect Eating And Comfortable Health)厚木(神奈川県)では,訪問看護ステーションが提供する在宅看護と同様,管理栄養士が在宅での臨床栄養の支援を行っている。同事業所の江頭文江代表は,訪問栄養指導の重要なポイントを挙げながら広範囲で多彩な事例に対応する業務を解説し,「在宅ケアは究極の個別対応ができる場である」と述べた。

摂取量の絶対量,患者支援の中心者の把握が重要

 同事業所は,疾病の予防および治療にかかわる栄養管理を提供することを理念とする。事業内容は在宅の訪問栄養管理だけでなく,診療所の外来支援,離乳食教室,介護保険施設での栄養管理,食育活動と幅広く,他施設,他職種との連携を図りながら実施している。

 訪問栄養指導を行った222例の内訳は,脳血管障害が44.8%と最多で,神経筋疾患,糖尿病,認知症,呼吸器疾患の順だった。依頼内容の7割は摂食・嚥下障害,次いで低栄養の改善が多いが,低栄養は咀嚼や嚥下の障害に起因していることも多い。

 評価は栄養状態,摂食・嚥下機能,食生活について行うが,評価時に最も重要な食事摂取量については,全体の何割という相対量ではなく,何をどの程度食しているかを把握することが必要である。また,患者の支援をだれがどのように行っているかが実際の食事ケアにつながる。

 食事ケアでは,(1)栄養評価(2)経管栄養(3)栄養補助食品の利用などの栄養管理(4)食具や一口量などの食べ方の指導(5)姿勢の調整(6)排泄管理(7)糖尿病,腎障害食を含む調理指導(8)ターミナルケア(9)ヘルパーへの指導−などが総合的に支援される。時には食材の買い物に付き添い,電子レンジやパッククッキングを利用した調理法,手抜きの工夫も指導する。

 その過程では,(1)在宅環境の把握(2)介入の優先順位の決定(3)成功事例の他職種との共有(4)情報の視覚化(5)改善よりも維持を目標とする(6)最低ラインを明確にする(7)頑張りすぎる介護者への情報提供の仕方−に重きを置く。事例は,食事摂取量の減少,ヘルパーによる食事援助,ミキサー食からのステップアップなどさまざまであり,これらに個々に対応し,客観的かつ個人に適した情報を提供する栄養管理士の役割は大きい。

 江頭代表は「おいしく食べるためには,おいしい料理,口から食べる機能,心身の健康の3つの要素が必要であり,その実現のために訪問栄養指導を役立てたい」と述べた。

〜在宅療養の多職種連携〜同職種間の連携から始め,在宅チームを構築

 厚生労働科学研究班の調査では,在宅医療から入院死亡の転帰をたどった約3割は介護破綻を入院理由としており,病態の重篤度,難易度が在宅ケア中止の決定因子にはならず,家族への支援が重要であることが示唆された。あおぞら診療所上本郷(千葉県)の川越正平院長は,在宅療養を支援する医師の立場から,家族支援の実際や同職種間の連携と在宅チーム構築の必要性を示した。

家族への指示を明確化

 川越院長によると,家族の支援は在宅ケアの前提であり,診察時に介護者の健康問題にも相談に応じ,在宅療養を安定的に継続するため治療およびケアの単純化に意識を置いている。療養指導は,3食連続して欠食した場合連絡する,1日の摂取水分量目安は1,000mL,おむつの重みや排尿回数に留意するなど具体的に行う。医師,看護師はどのような変化があったときに報告すべきかを家族に明確に伝達する必要があるという。

 同院長は多職種連携について,病院主治医・緩和ケア担当医と在宅医療を提供する診療所医師,病棟・外来看護師と訪問看護師,病院薬剤師と調剤薬局薬剤師などが有する貴重な情報を共有することを重要視し,同職種同士の連携から始めることを提唱した。加えて,「双方が勤務する施設は異なるため,在宅でのチームを構築し,病院と地域の連携を進めることが実際的である」とした。

 さらに,同院長は「医師に比べ訪問頻度が多く,滞在時間も長い医療とケアの双方を熟知している訪問看護師こそが在宅ケアの根幹を支えている」との見解を示した。

 同診療所では,訪問看護ステーションとの合同カンファレンスを月1回開催し,院内にはステーション担当看護師を配して,週1回の定期連絡を行う。急性増悪や合併症併発中は毎日連絡を取って情報を共有している。

 一方,多職種チームの一員としての医師の役割については,診断,治療方針の決定,病状説明,対医師対応を挙げた。

 今後,地域の有床診療所,老人保健施設,特養・ナーシングホーム,有料老人ホーム,グループホームが,在宅の延長線上にある療養者の居場所となってケアを提供することは意義深く,これらの施設が街角ホスピスとして機能することが期待される。

 同院長は「医療,介護保険に住まいの機能と家族の支援を合わせた4つが一体となって初めて在宅での療養を継続し,完遂することができる」と述べた。

〜看取りのケア〜子供の年齢,ヘルパー,学校関係者へ配慮

 世界保健機関(WHO)が定義する緩和ケアでは,患者の家族も対象となっている。あすか山訪問看護ステーション(東京都)の平原優美所長は,在宅で看取りを行った一事例を提示し,看取りを行う子供に対しては年齢に見合った対応と,ヘルパー,学校関係者など訪問看護師が行う緩和ケアの対象は幅広い職種に及ぶことを示した。

看取りの評価までが看護師の責任

 事例は40歳代女性,頭部腫瘍,家族は夫と7歳の息子。平原所長はまず,自宅での緩和ケア期間は患者の看護,精神的支援に加え,患者夫婦と高額療養費手続き,患者の希望を実現化するための話し合いを持った。子供に対しては,患者が病状を説明する席に立ち会い,両親と協調を図りつつ学校生活での悩みにも対応した。また,療養が家族にとってよい思い出となるよう,夫婦が話し合える時間を取れるよう配慮した。患者が希望した運動会への出席実現に向けて,事前に学校関係者へ病状や子供の心理過程の説明と学校環境の確認を行い,連携を図った。

 運動会への参加後,病状が悪化した際,同所長は「安定した看取りのためにはチームの再編成が不可欠である」として,ヘルパーの不安を軽減するため同行訪問を実施した。臨終数日前は子供に告知し,葬儀などの今後の成り行きを説明すること,およびその話法を夫と確認し,丁寧な説明が行われた。

 臨終当日の日中は往診医に臨時往診を依頼して看護師が看取ることに備えた。夫には,状態確認と子供への配慮,学校との連携について承諾を得,臨終時の対応を説明した。看取り後は教師の動揺が子供へ影響することを防ぐため,学校関係者へ看取りの様子を報告し,子供に対する心理的配慮,級友への伝え方を文書とともに提案した。グリーフケアは葬儀および訪問や電話相談を通し2年半続いた。

 米国がん協会「親の終末期に立ち会う小児を支援するアプローチ」では,間欠的,短期間の感情反応を呈する子供の特徴を示し,その年齢に合った対応が必要だとしている。終末期の親を持つ6〜8歳児の家族に対しては,親の疾患について適宜情報を提供し,(1)見聞きする事柄についての説明(2)児は親の強烈な怒りや悲しみに圧倒されることがあるという認識(3)教師などかかわりが深い人物への疾患の説明(4)児の発達過程で適切な活動を維持できるような配慮(5)激しい不安,恐怖,学校恐怖,自責の念,持続的な抑うつや自尊心の低下が見られる場合の小児専門医への受診−などについてアドバイスする必要がある。

 同所長によると,訪問看護師が行う緩和ケアの対象は,患者と家族だけでなく医師,ヘルパー,ケアマネジャー,学校教師,臨床心理士,子供の友人など看取りにかかわるすべてとする。また,グリーフケアは必要な看護であり,在宅看取りの評価までを引き受ける責任があるという。

 同所長は「子供が家族を在宅で看取ることは在宅医療の未来をつくることであり,子供や学校が在宅死のよさを知ることは重要である」と述べた。

メディカルトリビューン 2010年3月4日

手足のマッサージが遺族の慰めにも効果
 カロリンスカ研究所(ストックホルム)がん病理科のBerit Seiger Cronfalk博士らは「愛する人が亡くなった後は遺族の悲しみが深くストレスも強いが,リラックス効果のあるマッサージを8週間受けると,遺族の慰めとなる」との研究結果をJournal of Clinical Nursing(2010; 19: 1040-1048)に発表した。

悲しむことと前向きに生きることのバランスに有用

 軟組織のマッサージは優しくかつしっかり行うことで,皮膚の触覚受容体が活性化し,オキシトシンが放出される。オキシトシンは健康とリラックス効果を高めると言われるホルモンで,例えば,母親が子供に母乳を飲ませる際に分泌される。

 今回の研究は,肉親をがんで亡くし,緩和ケアチーム(ストックホルム・シュークヘム)と連絡を取っている妻,夫,娘,姉妹などの18例(34〜78歳)が参加した。

 マッサージは手か足に行われ,足を選んだのが9例,手が8例で,手足両方が1例であった。

 遺族は1回25分のマッサージを週に1回,8週間受け,場所は自宅,勤務先,病院のいずれかを選択できた。

 マッサージは柑橘系あるいはサンザシの微香性のオイルを用い,ゆっくりと直線になでる,軽く圧をかける,円を描くといった動きで行われた。マッサージの後,遺族には30分間リラックスすることを推奨した。

 プログラムの開始前と終了1週間後に,それぞれ60分間の面談を行ってデータを収集した。さらに,プログラム終了後6〜8週間の追跡調査を行った。

 その結果,17例は前向きに生きることができるようになったが,1例はその後,新たに肉親の不幸に接し,心の問題を抱えていたことが明らかになった。

 しかし,今回面談をした遺族は全員,治療が「慰め(consolation)」となったと述べている。また,治療について,(1)時宜を得た救いの手となった(2)頼れるものだった(3)安らぎの時間だった(4)生きる力をもらえる時間だった―の4種類のコメントを残している。

 Cronfalk博士は「遺族にとってマッサージは,身体に触れられるため安らぎにつながり,虚無感,孤独感の軽減に役立ったようだ。また,マッサージは肉親の死後の悲しみと肉親がいなくなった生活に適応するという2つの必要性のバランスを取るうえで,有用であった」と結論付けている。

メディカルトリビューン 2010年7月15日

乳癌患者の男性パートナーはうつ病リスクが高い
 妻やガールフレンドが乳癌になった男性は、他の男性に比べて重症のうつ病および不安で入院する比率が約40%高いことが、デンマークの大規模研究で示された。女性の癌が直接的に男性に心理学的問題をもたらすことを裏付けるものではないが、男性が妻の重篤な疾患や死に直面した際の精神的苦痛に弱いことを端的に示した点で価値のある研究であると、この分野に詳しい米ダナ・ファーバーDana-Farber癌研究所(ボストン)精神-癌&緩和ケアセンター長のHolly G. Prigerson氏は述べている。

 今回の研究は、1994〜2006年にデンマークに在住し、乳癌を発症した女性パートナー(妻または同居するガールフレンド)をもつ男性2万538人を追跡したもの。

 教育レベルなどの因子による誤差のないよう統計値を調整した後、このような男性は他の男性に比べ、うつ病や不安などの気分障害で入院する比率が39%高いことが判明した。入院リスクはパートナーの乳癌が最も進行している場合に高かったが、実際の入院数は2万538人中180人と少ないものであった。このほか、パートナーが死亡した男性は、パートナーが癌を克服して再発もなかった男性に比べ入院の比率が3.6倍であることもわかった。

 米メモリアル・スローン・ケタリングMemorial Sloan-Kettering癌センター(ニューヨーク)のWendy G. Lichtenthal氏は「今回の知見から、男性が集中的な介護やパートナーを失うリスクなどの因子によるストレスを受けていることが示される」と述べるとともに、「パートナーを亡くした場合は、大切な人を失った痛みに加え、パートナーとしてのアイデンティティに対する疑問や、日々の生活パターンの変化にも苦しまなければならない」と説明している。

 Prigerson氏は、ほかにも「情緒の伝染(emotional contagion)」と呼ばれる因子が関与していると指摘。乳癌の妻の情緒が夫に伝播(でんぱ)している可能性があると述べている。

 Lichtenthal氏は、このような大規模研究は、家族に重点を置いたケアの重要性を浮き彫りにした点で意味のあるもの。重症のうつ病になるリスクの特に高いパートナーは、治療を避けたり、責任を過度に抱え込んだりする可能性があるため、医療チームは患者のパートナーにも目を配る必要がある」と述べている。

NIKKEI NET いきいき健康 2010年10月7日

懐かしい姿を送りたい 最後の装い、家族癒やす 化粧、ドレスその人らしく
 亡くなった人の顔に施す「死に化粧」や、体に着せる装束など、病院や葬儀業者が担ってきた故人の「旅立ち」の身支度に、家族がかかわるようになってきた。外見をその人らしく整えるプロセスに家族が参加すれば、故人の尊厳を守るだけでなく、家族が死を受容する助けにもなるようだ。

 遺体用の化粧品などを開発、販売する「素敬(そけい)」(山口県下関市)の上野宗則(うえの・むねのり)社長(43)は、1997年に父が直腸がんで他界したのをきっかけに今の道に入った。

 東京から実家に飛んで帰って対面した父の遺体は、無精ひげが目立ち、おしゃれな生前の面影はなかった。胸が痛んだが、綿が詰まった鼻からはみ出た鼻毛を切るのがやっと。父の死を受け入れるのに何年もかかった。

 遺体のケアの大切さを痛感した上野さんは、製品開発に加え、看護師向け講習会も2007年から東京、京都を中心に開催。どこも定員はすぐに埋まり「情報を求める医療者は多い」と感じる。

 従来、多くの病院では患者が亡くなると家族は病室から出され、看護師が死後処置をした。使う化粧品は看護師が持ち寄る不用品がほとんど。

 福岡市の村上華林堂病院緩和ケア病棟に06年から勤務する江口敦美(えぐち・あつみ)看護師長(49)は、以前の勤務先で経験したこんな見送りに疑問を感じていた。同僚が素敬の講習会で学んだ知識をもとに、家族が死後処置に参加し別れの時間を持てるよう、病院の仕組みを整えた。

 3年前、同病院でがんで亡くなった当時50歳の女性の親族は、病院の風呂で約1時間かけて女性の体をきれいにし、看護師らと一緒に化粧を施した。2歳の孫娘が「ばあちゃんと同じつめにする」とせがみ、おそろいのマニキュアをした。泣きながらほほ笑む親族の顔を江口さんは覚えている。今は、家族の8割が死後処置に参加する。「悲嘆のケアになるという実感がある」と江口さん。

 変化は「死に装束」にも及んでいる。オーガンジーなどふんわり柔らかい素材で作ったドレス風の装束を「さくらさくら」のブランドで07年から販売する福岡市の中野雅子(なかの・まさこ)さん(46)。彼女も父の死が転機になった。

 白装束姿の故人を見た当時10歳の娘が「おばけみたい」と怖がり、「最期の姿は身内の心に刻まれる」と実感。得意なデザインを生かし、美しい装束を作ろうと決意した。注文は月に約70着。中高年女性が母親や自分自身のために「そのときが来ても慌てないように」と頼む例が多いという。

 「ケアとしての死化粧」を04年に著し、医療者が死後の化粧に注目するきっかけをつくった元看護師の小林光恵(こばやし・みつえ)さん(49)は「高度成長期は誰もが死や看取(みと)りから目を背けたが、近年は身近な糸口から自分の問題として考えるようになった。死後処置の現状を多くの人に知ってほしいし、自分がどうしたいか家族に伝えておくのも大事ではないか」と話している。

m3.com 2010年11月2日

がん宣告の『余命わずかの花嫁』 病院内で挙式2日後に死亡 米
 がんを宣告され、余命わずかと診断されたジェシカ・ワースさん(25)が13日に米インディアナ州エバンスビルのセント・マリー病院内で結婚式を挙げ、その2日後の15日に死亡した。

 夫のダニエル・ローレンスさん(26)は同州のレイツ高校時代からの知り合い。ジェシカさんは昨年9月にがんを宣告され、余命が幾ばくもないことを知らされた。しかし、ローレンスさんは「彼女の最後の望みをかなえたい」と結婚を決意。病院内のチャペルで行われた結婚式には友人ら150人が列席した。

 式ではジェシカさんのおじのジェリー・ワースさんが牧師を務め、「2人は結ばれてより強くなるでしょう」と祝福。しかし、その2日後の15日午後7時35分、ジェシカさんはローレンスさんに看取られながら静かに息を引き取った。

 ジェリーさんは「私たち家族は深い悲しみに包まれましたが、結婚式の喜びは、それをはるかに上回るものでした」と話す。ジェシカさんとローレンスさんの間には1歳6カ月になる息子がおり、ジェリーさんは「ジェシカは、私たち家族の仲は決して切り離せないものだということを示してくれた」と話している。

MSN Japan産経ニュース 2011年1月19日

遺族への緩和ケア,家族の“機能”により異なる方法が効果的
 末期患者の精神的苦痛や不安を和らげるための緩和ケアだが,近親者を亡くした遺族の喪失感を癒すことも本来の目的とされている。遺族に対する緩和ケアについて,米ニューヨーク・Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのDavid Kissane氏らが行ったランダム化比較試験(RCT)などを中心にまとめた記事が,CMAJ3月22日オンライン版に掲載された。家族の“機能”によって緩和ケアの方法を変えることが効果的である可能性などを示唆している。

“無関心”と“中間的”家族は改善効果あり

 記事は,End-on-Life Careと題された,終末期ケアをテーマとするシリーズの最終回(全9回)。Kissane氏は「緩和ケアは,広義の原則としては家族も対象とされ,それは素晴らしい目標ではある。しかし実際問題,対象は患者に偏るケースが大半だ」と認める。

 最初に紹介するのは,同氏らが数年前,患者の家族に対する緩和ケアについて行ったRCT(Am J Psychiatry2006; 163: 1208-1218)。末期がん患者の257家族に対してスクリーニングを行い,81家族・363人を被験者とした。81家族をランダムに(比率2:1),家族指向緩和ケア集団(53家族・233人)と対照集団(28家族・130人)とに分けた。患者の死をベースラインとして,6カ月後と13カ月後の2度にわたり調査を行った。調査は,簡易症状評価尺度(Brief Symptom Inventory;BSI)やベックうつ評価尺度(BDI)などを用いた。

 その結果,家族指向緩和ケアにおいては,患者の死後13カ月で遺族の悲嘆度への影響は全体的に軽度であったが,ベースライン時のBSIとBDI得点が高かった遺族の悲嘆度やうつ状態に関しては顕著な改善が認められた。また,対象家族の機能をタイプ別に,(1)敵対的,(2)無関心,(3)中間的 の3グループに分けて検討した結果,(1)ではうつ状態は変わらなかったが,(2)と(3)では改善傾向が見られた。また,(1)は緩和ケアそのものを拒絶する傾向があり,同氏らは「敵対的な家族に対しては個別に緩和ケアを行う方が効果的かもしれない」と,家族の機能により緩和ケアの方法を変える必要性を示唆した。

小児ホスピスと成人ホスピスで異なる期間や方法

 次に記事は,最近行われた緩和ケアに関する61の研究を対象とした,米メンフィス大学のRobert A. Neimeyer氏らによる分析も紹介(Curr Dir Psychol Sci2009; 18: 352-356)。それによると,愛する人を失った人たちのうち10〜15%はその現実を受け入れることが困難であるという。

 緩和ケアを最も必要とするのは,子供を亡くした親や,亡くなった子供の兄弟や姉妹だという。そのため,小児ホスピスでは長期的な緩和ケアを遺族に対して行っている。カナダ・ブリティッシュコロンビア州の小児ホスピスCanuck Placeでは,患者の死後3年にわたり亡くなった子供の誕生日や命日に,遺族にグリーティングカードを送っている。同ホスピスでは通常,患者の死後1年ほどは遺族が緩和ケアに参加しているという。また,そうした遺族らでつくる会も存在する。

 同ホスピスの緩和ケアコーディネーター,Kerry Keats氏は「小児患者をケアするということは,その家族までケアするということ。当ホスピスの役割は緩和ケアサービスに差別を生まず,流れをつくること。当ホスピスでは家族全体の緩和ケアを行っている」と話す。

 対して成人ホスピスの場合,少数ではあるが遺族への緩和ケアを行っている施設も存在する。ただし,期間は小児ホスピスと比べて短い。カナダ・オンタリオ州の成人ホスピスThe Hospice at May Courtでは,ソーシャルワーカーによる無料の緩和ケアを紹介するお悔やみ状を遺族に送っている。数週間後には同ホスピス職員が遺族に連絡を入れ,その後の様子を尋ねている。ソーシャルワーカーで同ホスピスの緩和ケアコーディネーターでもあるFrancine Beaupre氏は「悲嘆は人それぞれに違う」と話す。実際に緩和ケアを受ける遺族はまちまちだという。

 独自に緩和ケアを行わない成人ホスピスでは,無料の相互支援グループやボランティアグループ,あるいは個人の保険が適用される範囲での精神分析医による診療など,地域に存在するサービスを遺族に紹介する施設もある。遺族の悲嘆度が深く,心身に影響を及ぼすほど深刻な場合は,メディケア(医療保険制度)の適応範囲内で診療を受けられる,かかりつけ医や精神分析医への紹介も行われている。

 記事は最後に,「最善の緩和ケアには,近親者を失いつつある家族と失った遺族へのケアが含まれる」と語る,カナダ・オンタリオ州のHospice Torontoでクリニカルサービス課長Belinda Marchese氏の言葉で締めくくっている。

メディカルトリビューン 2011年3月25日

人生最後の願いは「妻に指輪を」 周囲の協力で97歳男性の想い実る
 左手の薬指に光るダイヤモンドの指輪。それを眺めていたベティー・ポッターさん(86歳)は、ささやくように「素敵だわ、本当にきれいね」と喜びの言葉を口にし続けていたそうです。

 米放送局WHDHや米紙ボストン・グローブなどによると、マサチューセッツ州に住むペティーさんと夫のエヴェレットさん(97歳)が結婚したのは、今から65年も前のこと。エヴェレットさんは彼女にプロポーズした当時、経済的な理由によりダイヤモンドの指輪を贈ることができませんでした。「それがずっと気がかりで、後悔していたのです」。

 しかし先日、彼は念願だった妻へのプレゼントを渡すことができました。その陰には、彼らの住む養護センターや医療施設、宝石店などが一体となった協力があったのです。

 まず、養護施設が夫妻のために「2度目の結婚式」を計画し、会場を確保。そして、車での移動も体に負担となってしまうため、救急車の運営会社(※米国の救急車はほぼ私営)が送迎を手伝い、さらにある宝石店はダイヤモンドの指輪のみならず、新しい結婚指輪、ブーケやシャンパンなども格安で提供しました。

 これらの資金はホスピス施設が負担。そう、夫のエヴェレットさんは健康の衰えから、最近ターミナルケア(終末期ケア)を受けているのです。そこで「人生最後の願いは?」と聞かれた際に、迷わずベティーさんへの指輪のプレゼントと回答。これに周囲が協力して、“最後の願い”を実現させる手はずを整えました。

 念願のダイヤモンドのプレゼントのみならず、もう一度結婚式まで行うことができると知ったエヴェレットさんは、披露宴の食事のメニューなど細かい準備にも参加。そして迎えた当日、ベティーさんの幸せそうな姿を見ることができた彼は、「なんて幸せなんだ」と、心から喜んでいたそうです。

 人を笑わせるのが好きで、ロマンチックでもあるというエヴェレットさん。結婚式での誓いの言葉はこう結んでいます。

「ちゃんと歯が揃っていれば、もっとちゃんと言えるんだけどね……。でも、一生愛しているよ」

ナリナリドットコム 2011年4月7日

患者本人に代わる意思決定は苦痛
家族など患者の代理人に強いストレス
 米国立衛生研究所のDavid Wendler博士とチューリヒ大学生物医学倫理研究所(スイス)のAnnette Rid博士は,患者本人に代わって代理人が治療法の決定に関与する際に被る精神的影響を検討した研究40件のシステマチックレビューを行い,代理人の3分の1超が精神的に負の影響を受けていることが分かったと発表した。両博士は,こうした負担を軽減するための方策も提案している。

多くの代理人が精神的負担を経験

 代理人が行う決定の大半は,終末期医療に関するものである。今回解析された40件の研究(米国32件,カナダ6件,フランスとノルウェー各1件)は,29件が質的研究を,11件が定量的研究を行ったもので,計2,854人の代理人からデータを収集した。これらの代理人のほとんどは患者の家族であった。

 定量的研究から,治療の決定に関与した結果,代理人の3分の1超が精神的負担を感じていることが分かった。一方,質的研究からは,代理人の多くが精神的負担を感じていることが明らかになった。重度の負担となっているケースもしばしばあり,一般的には数カ月間,場合によっては数年間持続した。ほとんどの場合,代理人は自分が正しい判断を下しているか否かで悩み,ストレスや罪悪感などを感じていた。

 興味深いことに,少数ながら良い影響を受けたと報告している代理人もおり,その場合には患者を支えることに意義を感じているケースが多かった。

 今回対象となった研究のうち,モンタナ州立大学のYoshiko Y. Colclough博士らが2007年に発表した日系米国人の代理人らに関する研究では,代理人が大きな精神的負担を感じていないことが報告されており,人種的な要因も示唆される。

患者の希望を知ることがポイント

 今回の研究では,代理人のストレスを緩和するための方策もいくつか提案している。主なものは以下の通り。

 (1)患者の希望がはっきりしない場合には,時宜を得た話し合いの機会を早めに設け,患者に事前指示書を作成することを勧める

 (2)代理人が病院の環境を不快と感じる場合には,改善策を講じて代理人がその環境に慣れるように手助けする

 (3)意思決定のプロセスにおいて,代理人が悩んでいる場合は,その原因を同定し改善する

 (4)意思決定に関して医師と代理人との間のコミュニケーションに問題がある場合には,代理人の中で代表者を決め,その人物と医師が定期的な話し合いを行う。またその際には,医師は明確な説明をするよう心がける

 (5)代理人が時間をかけて納得できる判断を下すことができるように,十分な時間的余裕を持って代理人を決めておく

 (6)患者本人に代わる意思決定に関して,家族と医師,または家族間に対立が存在する場合,対立の原因を同定して対策を講じる

 (7)代理人が意思決定の責任を1人で担うことに負担を感じている場合には,医師はその負担を共有すべきである。ただし複数の観察研究から,治療に対する患者の希望をよく理解しているのは,医師よりも家族や親しい人であることが分かっており,その点には十分留意して意思決定を行う

 (8)代理人が自身の決定について不安などを感じた場合,医師は代理人の決定を支持するとともにカウンセリングを行うべきである

 今回の研究を受けて,Wendler博士らは「全体として,治療に対する患者の希望を知ることは代理人が意思決定をする際に重要なポイントであることが分かった。患者が希望する治療を同定する方法も含めて,代理人の精神的負担を減らす方法を検討する必要がある」と結論付けている。

メディカルトリビューン 2011年5月26日


遺族ケアに「臨床宗教師」…牧師や僧侶へ養成講座
 死期が迫った患者や遺族への心のケアを行う宗教者の養成などを目指す「実践宗教学寄付講座」が、東北大に設置された。

 仏教、神道、キリスト教などの団体の寄付を受け、3年間開講する。死に関係した宗教的な心のケアを専門的に扱う講座は国立大では初めて。

 東日本大震災後、牧師や僧侶らが中心となって「心の相談室」を作り、家族を亡くした被災者から話を聴く活動を続けてきた。宗教的な中立を図るため、事務 局を東北大に置いた縁で、開講されることになった。教授は、鈴木岩弓(いわゆみ)・同大文学部教授(宗教学)が兼任。准教授は、学外から新たに2人の研究 者を招いた。

 宗教者を対象に講習会を開催。遺族らの話を聴く姿勢や、宗教や信仰に対する地域住民の考えを踏まえた接し方などを学んでもらい、患者と遺族の悩みに答える「臨床宗教師」を育てる。

 文学部の大学生、大学院生向けには「臨床死生学」「死と宗教心理」などを講義。「心の相談室」室長で医師の岡部健氏の往診に同行し、終末期の患者ケアに触れる実習も行う計画だ。

 海外の病院では、患者から話を聴く聖職者(チャプレン)がいるが、国内では一部の病院にとどまる。鈴木教授は「宗教の違いを超えた形で宗教者が関わる心のケアのあり方を模索したい」と話している。

m3.com 2012年4月5日