広葉樹(白)  
 バックナンバー2016/2/6〜2016/12/4

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2016年2月6日 掲載
コラム: Dr.ヨコバンの「ホンマでっか症例帳」 第16回 患者の余命、正しく見積もれていますか?
ICUでの最期をどうむかえるか 40人が参加した「三つの希望プロジェクト」とは
緩和ケアで併存疾患のあるがん患者の入院費削減
米国の終末期ケアは先進国で最悪? データが否定
医師は自分の終末期の積極治療に後ろ向き 米・医療保険DBの後ろ向き研究
末期の肺がん 水中で溺れているような感覚が続き会話できず
急性膵炎やがんの骨転移 医療関係者が語る「痛み」が辛い病気
シリーズ: 私の医歴書◆水田祥代・九州大学名誉教授(福岡学園・福岡歯科大学理事長) 「孤独に強いこと」がリーダーの条件◆Vol.30
2016年3月6日 掲載
自らの死に直面したとき、医師はどのような終末期医療を選択するのか 医師自身は終末期に何を望むのか? ―積極的治療を求めない傾向
個別性に応えるために必要な死亡直前と看取りのエビデンス
緩和ケアにおいて薬剤師さんに望むこと 第6回「ある緩和ケア認定薬剤師を通して再考する」
死に寄添う「臨床宗教師」 医療現場で増える宗教的ケア
28年度診療報酬改定:メッセージを読み解く
ティム・ロス主演、カンヌで脚本賞に輝いた終末医療映画「或る終焉」5月公開
2016年4月3日 掲載
長寿時代の“看取り図”− 幸せな「最期」迎えるために
47.3%が終末の必要資金が足りるか不安と回答 終活に関する意識調査
「在宅、専門診療所を含め、多様な主体で」 全国在支診連絡協議会、全国大会でシンポ
認知症高齢者の“看取り”− 介護施設での「最期」を考える
モロッコ:人生の終末期に必要のない痛みに耐える幾千もの人びと
幸せにする、ホスピスで味わう“人生最後のごちそう”
浸透しつつある「診断時からの緩和ケア」
「尊厳死」法制化に揺れる日本、高齢化と財政難が拍車
2016年5月3日 掲載
書評・新刊案内 小児緩和ケアガイド 大阪府立母子保健総合医療センターQOLサポートチーム 編
緩和ケアの施設間格差の是正や、緩和ケア研修会の受講推進を―緩和ケア推進検討会
末期がん患者、「自宅で最期」が生存期間少し長い 「入院」と比較、筑波大・神戸大調査で明らかに
がんを宣告された女性「もっと今を生きよう」と『世界の7不思議』を13日で制覇する
難病とともに暮らす子どもの成長に“友人のような立ち位置”から寄り添う 日本初の「コミュニティ型子ども向けホスピス」が誕生
がん患者が嬉しい言葉、つらい言葉 命を紡ぐ 現場の声
患者や医療者のFAQに,その領域のエキスパートが答えます。 今回のテーマ 緩和ケアのエビデンス
小学校の生徒、がん治療をした同級生のために一斉に丸刈りにする
2016年6月4日 掲載
「死にたい」「死なせたくない」に一石? 終末医療で筑波大など調査
在宅患者様をお薬の面から支える「訪問薬局」を探せる冊子「在宅訪問薬局ガイド2016さいたま市版」発行開始 株式会社エス・エム・エス
「最期は自宅で迎えたい」 認知症高齢者の在宅終末期について考える
終末期医療への切り替えを説得するには?
看取りに特化した「医療型サ高住」の可能性 ライフデザインゼロ・吉田代表に聞く
連載: 廣橋猛の「二刀流の緩和ケア医」 若い医師ほど誤解が少ない緩和ケア
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解1◆緩和ケアは癌治療後に開始
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解2◆予後は予測できない
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解3◆緩和ケアは痛みの緩和
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解4◆医師の説明を患者は理解している
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解5◆レスキュー薬はできるだけ制限
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解6◆モルヒネは命を縮める
特集◎緩和ケア 7つの誤解 誤解7◆点滴しないと死期が早まる
2016年7月6日 掲載
栄養摂取でがん成長説は誤り 医師の栄養管理の知識欠如
膵臓がんに多いRNA測定=採血で早期診断期待−東大
緩和ケアで希望を 認定看護師養成へ
なぜヒーリングはがん患者に生きる希望を与えるのか
がん関連倦怠感へのアプローチ 緩和ケア医の視点から
末期癌の医師・僧侶 「宗教は阿片」の意味は
『「平穏死」を受け入れるレッスン 自分はしてほしくないのに、なぜ親に延命治療をするのですか?』 刊行のお知らせ [株式会社誠文堂新光社]
カナダで医師による自殺ほう助が合法に “自殺ツアー”は許さないなど厳格な基準
これで痛みを取り除く 「がんの痛み」 医療法麻薬は内臓痛に対して劇的に効く
「かかりつけ医の定着に最も尽力」、横倉日医会長 終末期医療の在り方についても検討を開始
2016年8月6日 掲載
進行がんの余命宣告は必要か
平方眞の「看取りの技術」 がんの看取りをどうやって「老衰」に近付ける?
希望で痛みを和らげる 慶大病院緩和ケアセンター 白波瀬丈一郎氏
なぜスイスは緩和ケアの後進国なのか 専門家に聞く
第21回日本緩和医療学会開催
末期癌の医師・僧侶が解説 ソクラテス「無知の知」の真意
看護師直伝 がん治療と笑顔で付き合う 緩和ケアスクリーニング「3つのメリット」
告知で絶望しないために。現役医師による「病名なんて要らない」論
なぜ?希望していなかった全患者に延命治療 救急搬送された終末期がん患者を調査
摂食を正しく理解し認知症終末期の高齢者の食事介助に備える
2016年9月6日 掲載
医師の7割、終末期に胃ろうや点滴望まず 3割以上が「一切の延命治療」を拒否
これで痛みを取り除く 膵臓がんの痛み対策は腹腔神経叢周囲に“アルコール注入”
36歳の末期がん患者が、娘に残すために始めた「最後の仕事」
いざ宣告を受けた時あなたは がんの「生存率5年」を考える
緩和ケアが進歩 がん死が一番楽という医療関係者も
「愛犬に会いたい」末期がん女性の最期の願い 病院も協力(ブラジル)
高額先進医療 後に引けぬため本人・家族とも疲弊する例も
法制化議論の中で「平穏死のススメ」を考える 中途半端とは根本的に異なる「何事もほどほど」に
胃ろうを続けると水死体のように顔と体が膨れ上がる例も
終末医療 QOD(死の質)について語られること少ない
2016年10月8日 掲載
在宅医療におけるがん疼痛治療についての現状 がんの在宅医療について
【座談会】緩和ケア医をめざすあなたへ
あなたの“理想の死に方”は? 現役医師と考える終末期医療のあり方
自分の終末期は自分で決めたい…家族に希望は伝えておこう
進行癌患者の介護家族、2-3割に強い抑うつ【米国臨床腫瘍学会】 介護時間延長でセルフケア時間が短縮
「死の質」低い日本 モルヒネに偏見持つ医師がいまだ多い 死の迎え方に課題が存在
2016年11月6日 掲載
末期がん患者が「自宅で死ぬ時代」の生き方とは
低い日本の死の質 本人より家族や医師の意向尊重も理由 「死の質」が低い日本の現状
【乳がん緩和ケア】肉体面・精神面の痛みを和らげる方法を解説
現役医師200人に聞いた「本当は寿命を縮める」延命治療 カネにはなるが、意味はない
医者の余命宣告 河合薫さんの記事から 治療するがん患者の3つの状態
ステージIVの胃がん、大腸がん、肺がん 受入数日本一の病院
日本で「安楽死」が実現する日はやってくるのか? 法整備の課題山積み
がん(ステージ4)からの生還者に共通すること?小林麻央に奇跡を! 生きたい理由が奇跡を起こす
「低用量抗癌剤」に緩和ケア医が感じる憂鬱
「IWAOモデル」を具現する緩和ケアの臨床教育・研究拠点「まごころの杜」が名古屋で11月1日に開所 がん患者を主体に痛みの管理、理学療法、言語聴覚療法などの緩和ケアを提供
2016年12月4日 掲載
がん克服後、5人に1人が抗うつ薬を使用 診断後10年以上でも服用率が高い
「爆逝」日本の終末医療に向かうマネー 本国にない「緩和ケア」
救急搬送の延命治療中止36% 医師提案、終末期患者
癌でも「今の医業続ける」半数以上 意識調査「医師の自分が癌になったら…」
終末期ケアの在りかた、積極的治療の減少と早期緩和ケアの開始
【上手な死に方を考える】終末期の悩み親身に応じる「がん相談支援センター」

コラム: Dr.ヨコバンの「ホンマでっか症例帳」
第16回 患者の余命、正しく見積もれていますか?
横林賢一 Dr.ヨコバン(広島大病院総合内科・総合診療科)
西 智弘(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科) にし ともひろ氏。2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。栃木県立がんセンター腫瘍内科を経て、2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。

ヨコバン 皆さん、明けましておめでとうございます! 「ヨコバン」こと横林賢一です。昨年に引き続き、今年も「ホンマでっか症例帳」では様々な診療科の先生方に、診療のコツをご紹介いただく予定です。2016年のトップバッターは、川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンターの西智弘先生に、広島までお越しいただきました。今回は緩和ケアに関する診療のコツやピットホールをご紹介いただきます。では、美味しいお好み焼きでお腹がいっぱいになった西先生(笑)、よろしくお願いします。

Dr.西 ヨコバン先生、明けましておめでとうございます! 新年早々、今日は美味しいお好み焼きをごちそうさまでした!…じゃなくて、早速始めましょう。お題は「緩和ケア」ですね。緩和ケアと一口に言っても幅広いので、今回は「在宅での点滴」をテーマにお話したいと思います。ヨコバン先生は在宅診療、されていますか?

ヨコバン 在宅フェローをしていた頃に比べると随分減ってしまいましたが、今でも訪問診療はさせてもらっています。

Dr.西 なるほど。では、こんな症例を診たら、どうしますか?

症例

 85歳、男性。高血圧でA医師のクリニックに通院していましたが、3年前に前立腺がん、骨転移と診断され、近隣の総合病院でホルモン療法などを行っていました。この1年くらいで徐々にがんが進行し、衰弱傾向に。認知症も進み、食事の摂取量も不十分になってきています。この半年で、尿路感染や肺炎を繰り返し、その度に入院して抗菌薬の投与を受けていましたが、毎回夜間せん妄を起こして身体抑制となるため、家族(娘さん)の強い希望で早めに退院して、A医師のクリニックで点滴治療などを継続していました。

 この1週間は起き上がることもできず、食事の摂取は数口程度という状態です。ある日、発熱して水分も摂れなくなっているとご家族から連絡がありました。症状からは肺炎が疑われます。しかし、今回は娘さんが「もう家で看てあげてほしい」とA医師に訴えてきました。A医師は悩みましたが、「まず一度往診に伺います」と答えてご自宅に向かうことにしました。

 この患者さんの予後はあとどれくらいだと思いますか?

Dr.西 A医師が往診に伺うのはいいとして、今後どのように診ていくべきか悩む症例ではないでしょうか。

ヨコバン むむむ…。なかなか悩ましい症例ですね…。患者さん本人はどのように思っているのでしょう?

Dr.西 まず、それを確認するのは大事ですね。認知症と衰弱で、はっきりとした意思確認は難しいのですが、A医師が「入院する?」と尋ねても、本人は首を横に振るのみだったそうです。これまでの経過を見ていても、少なくとも積極的に入院したいとは思っていないかもしれませんね。

ヨコバン ただ、とてもクリニックに通ってもらえるような状態ではないですよね。

Dr.西 そうですね。ヨコバン先生は、この患者さんの予後はあとどれくらいだと思いますか?

ヨコバン えっ? うーん、きちんと抗菌薬や点滴で治療して、また少し食べられるように回復してくれば、1〜2カ月くらいは大丈夫だと思いますが…。

Dr.西 なるほど。でもそれはヨコバン先生の直感的な予測ですよね? 予後をなるべく正確に予測するのは、家族と今後の経過を話す上でとても重要なことです。でも、医師の経験だけで予後を見積もるのは難しく、実際に長めに見積もっている場合が多いようです(1。日本で行われた研究では、緩和ケアの専門家ですら、予後を長めに見積もるケースが多かったと報告されています2)。

表1 Palliative Prognostic Index(PPI)

ヨコバン えっ、そうなんですか! じゃあ、僕の予測も…。

Dr.西 在宅でも簡便に使える予後予測ツールとしては、Palliative Prognostic Index (PPI)が有名ですね(表1)3)。これで計算すると、熱が出る前から、食事とPalliative Performance Scaleのスコア(表2)で6点を超えてしまうため、残念ながら余命は3週間未満と考えるのが妥当かもしれません。

表2 Palliative Performance Scale

ヨコバン そうですか…。しっかり点滴や抗菌薬投与をしていても、それくらいなんですね…。

Dr.西 うーん、ヨコバン先生、しっかり点滴をしたら、予後が延びるようなニュアンスですが、それはちょっと思い違いかもしれませんよ?

ヨコバン えっ!でも、点滴をしないともっと寿命が短くなりませんか?

Dr.西 一概にそうとも言えないのです。最近のランダム化比較研究では輸液をそれほどしなくても、予後やQOLは変わらないと報告されています4)。この研究結果だけで、輸液の是非を決めるべきではありませんが、終末期のがん患者さんにルーチンに点滴をすべきではない、とは言えるはずです。

終末期における点滴・抗菌薬の効果はどのくらい?

ヨコバン なるほど。あとはご家族と相談しながら…というところでしょうか。

Dr.西 そうですね。家族が「点滴くらいは…」と望まれるケースはありますから、その意図を汲みながら、相談していくことが大切です。家族が、「点滴をすると、だるさがとれて元気になる」「脱水状態で死を迎えることはとても苦しい」「輸液は最低限のケアである」という認識を持っている場合もありますし5)。もちろん、家族が望むから無条件に点滴をするというのも問題ですが…。あと、抗菌薬についても、投与するかどうかはちゃんと考えてくださいね。

ヨコバン 抗菌薬も!

Dr.西 抗菌薬投与についても、終末期における効果は限定的です。アメリカのホスピスでの前向き研究では、感染症の存在と抗菌薬の使用は生存日数に影響を与えなかったと報告されていますし、症状緩和についても、今回の例のような肺炎では43%の方にしか効果が得られていませんでした6)。非がんの報告では、抗菌薬の使用は延命に寄与する可能性がある一方で、長期的なQOLは低下させてしまう可能性がある(特に入院すると)という報告もあります7)。

ヨコバン ふむ、ふむ。こちらも輸液と同様に、ルーチンに投与すべきではないということですね。

Dr.西 その通りです! これらは観察研究の結果なのではっきりとしたことは言えませんが、緩和ケアの現場では一つひとつ「常識」とこれまで考えてきたことを考え直すことが大事なんです。

ヨコバン ここで抗菌薬を選択するとしたら何がいいでしょう?

Dr.西 在宅では、投与回数が少なくて済むセフトリアキソンを選択することが多いです。セフトリアキソンは、在宅で末梢ルートを確保しての静脈注射でも投与できますし、もしルート確保自体が困難だったり、本人の苦痛につながるようであれば、皮下点滴で投与する方法もあります。

ヨコバン 皮下点滴でもいいなら、患者さんにも医療者にとっても楽ですよね。他にも皮下点滴で使える薬はありますか?

Dr.西 抗菌薬でいえば、アミノグリコシド系のトブラマイシンや第4世代セフェムのセフェピムも、皮下点滴で使用できると言われています。ただ、これらの抗菌薬は緑膿菌を強く疑ったときは効果が得られやすいかもしれませんが、腎機能や投与回数の面からは少し使いにくい薬剤です。また、その他の薬剤でも、緩和ケアでよく使用する薬剤のハロペリドールやメトクロプラミド、ヒドロキシジン、フロセミドやベタメタゾンなども皮下で使用できます。

ヨコバン 皮下点滴でそういった薬剤を使えるなら、在宅の幅が広がりそうです。

治療方針を決めるに患者家族と何を話し合うべきか

Dr.西 そうですね。では、この症例のその後を見てみましょう。

冒頭の症例のその後

 A医師は、予測される予後などを含めて娘さんや訪問看護師さんを交えて治療方針を決める場を設けました。今後は入院せず自宅で看取ること。そして、点滴や抗菌薬の投与はしてみるが、効果がなかったり逆に苦痛が強くなるようであれば中止を検討すること、急変時の対応などについて確認が行われました。そして、この患者さんは徐々に傾眠がちになり、往診を開始してから2週間後に、家族に見守られながら自宅で永眠されました。

ヨコバン 結果的には、患者さんご本人やご家族のご希望通り、あまり苦痛なく看取れてよかった事例ですね。

Dr.西 そうですね。ただ、もう一段階、患者さんにとってより良い医療を提供するという視点で見ると、もっとこの患者さんが元気なうちから、終末期に本人がどのようにしてほしいと思っていたのか、確認しておきたかったです。今回は「たぶん本人の希望はこうだろう」という娘さんの推測で意思決定をしましたが、場合によっては治療方針を代理決定する娘さんが「本当にこれでよかったのだろうか」と後々に悩まれる原因になる可能性もあるので。

ヨコバン なるほど。確かに、これまでの診療で患者さんご本人の生き方や価値観について話し合う機会はなかったようですね。

Dr.西 このように、患者さんの人生を家族と一緒に振り返り、その価値観や死生観などを探りながら、ケア全体の目標や療養場所などについて話し合うプロセスを「Advance Care Planning(ACP)」と呼びます。これは今後、プライマリ・ケアの先生方に積極的に取り組んでいただきたい役割のひとつです。

ヨコバン 確かに、ここは家族も含めて継続的に診療をしているかかりつけ医の腕の見せ所ですね!

Dr.西 ヨコバン先生にも期待していますよ! おっと、そろそろ乗る予定の新幹線の時間が近づいてきました。お開きにしましょうか。これから私は川崎に帰りますが…えっと、広島土産のもみじまんじゅうは…どこにありますか?

ヨコバン えっ! えっと…。どうぞ、こちらです。お持ち帰りください(まだ食べるのか…)。

参考文献

1)Glare P,et al.BMJ;2003;327:195-8.
2)Amano K,et al.J Pain Symptom Manage.2015;50(2):139-46.
3)Morita T,et al.Support Care Cancer;1999;7(3):128-33.
4)Bruera E, et al.J Clin Oncol;2013;31:111-8.
5)Yamagishi A, et al.J Pain Symptom Manage;2010;40:671-83.
6)Reinbolt RE, et al.J Pain Symptom Manage;2005;30:175-82.
7)Givens JL, et al.Arch Intern Med;2010;170:1102-7.


BPnet 2016年1月4日

ICUでの最期をどうむかえるか
40人が参加した「三つの希望プロジェクト」とは
 医療現場の制約により、終末期の患者さんの生は時に非人間化したものとならざるをえないことがあります。終末期のいくつかの瞬間に希望をもたらすため、「三つの希望プロジェクト」という思いやりのケアを提供する取り組みがカナダで始まりました。

◆40人が参加

 今回このプロジェクトは、内科・外科混合ICUにおいて、終末期の患者さん40人とそのご家族、医師が参加しました。 参加者から最低3つの希望を聞き取り、患者さんの死の前後に159の希望が実行されました。

 意識障害により患者さん自身から希望を聞き取ることは稀で、希望の39%は家族、52%は医師からのものでした。

◆死のプロセスをいかに個人化するか

 費用はそれぞれ200ドル以下でした。具体的には、「患者さんをニックネームで呼ぶ」、「ICUでのデートナイト」、「臨終の際バグパイプを演奏する」、「カンファレンスルームで最後の晩餐」「最愛のペットとの再会」、「死の床で母親が添い寝する」、「結婚式の誓いの言葉をもう一度」、「臓器の提供」、「慈善団体への寄付」などの希望が叶えられました。

 出された希望は「環境」「顕彰」「家族の繋がり」「儀式」「ペイフォワード」の5つのカテゴリーに分類され、「死のプロセスをいかに個人化するか」というこの取り組みのテーマが参加者の聞き取り調査により明らかにされました。

 このプロジェクトは、患者さんのご家族が死を受け止める助けとなり、医療者にとっては、スタッフ間の連携強化を促進しました。

 終末期の患者さんの尊厳や、家族との時間を大事にする取り組みにつとめられていますが、それぞれの希望に沿った看取りを行なうことで、患者さんやご家族にとって少しでも救いになり、医療従事者にとっては、より人間的なケアを提供することが可能になるのかもしれません。

◆参照文献

Personalizing Death in the Intensive Care Unit: The 3 Wishes Project: A Mixed-Methods Study

Ann Intern Med. 2015 Aug 18

medley 2016年1月17日

緩和ケアで併存疾患のあるがん患者の入院費削減
 重篤な併存疾患のある治癒不能のがん患者の入院費を、緩和ケアにより削減できることが、新たな研究で報告された。

 緩和ケアは、患者の症状やストレスを緩和させることにより、本人や家族の生活の質(QOL)を向上させることを目的としたチームによる専門治療である。これまでの研究でも緩和ケアと医療費の関連は認められていたが、複数の疾患を抱える患者に着目した研究は初めてだという。

 「Health Affairs」1月号に掲載された今回の研究は、いくつかの慢性疾患が併存してみられる末期がん患者を対象とした。患者は入院後、緩和ケアチームによる治療または通常の治療を受けた。緩和ケア群の入院費は、通常治療群に比べて22%低かった。また、併存疾患の数が最も多かった群では、最大32%のコスト削減が認められたという。

 研究著者である米マウント・サイナイ・アイカーン医科大学(ニューヨーク市)教授のR. Sean Morrison氏は、「緩和ケアにより、がん患者に対する医療の質や生存期間が向上し、費用を削減できることはすでにわかっている。今回の研究では、費用と併存疾患の数の間に強い相関が示された。進行がんのほかにも重篤疾患を抱える患者の場合、積極的治療は本人の希望に一致しないことが多く、QOL低下をもたらす。行政により、緩和ケアの利用拡大のための措置を講じることは必須である」と話す。

 研究共著者の1人でダブリン大学トリニティ・カレッジ(アイルランド)教授のPeter May氏は、今回の研究結果から、「併存疾患の多いがん患者では、併存疾患の少ない患者よりも大きな費用削減が認められた。この事実から、他の重篤疾患や多重疾患を抱える患者にも同じような結果がみられるのかという疑問が浮上する。今後の研究では、疾患経過のどの時点で緩和ケアを実施するのが最も費用効率が高いかを明らかにする必要がある」と述べている。現在、米国では90%以上の中・大規模病院で緩和ケアチームが利用できるという。(HealthDay News 2016年1月8日)

QLifePro 2016年1月20日

米国の終末期ケアは先進国で最悪? データが否定
 米国では、終末期の患者は自宅で最期を迎えることができないとの印象を持つ人が多いことから、同国の終末期医療は最悪だという人もいる。だが、実際にはそうではないようだ。

 米国医師会雑誌(JAMA)に先ごろ掲載された報告書によると、ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院が主導した調査の結果、終末期のがん患者が6カ月以上入院した後に病院で死亡する割合は、米国が最も低いことが分かった。

 調査はベルギー、カナダ、英国、ドイツ、オランダ、ノルウェー、米国の7カ国の終末期のがん患者38万9,073人を対象に実施。2010〜12年の各国のデータを見直し、治療・介護の方法と死亡が確認された場所について分析した。

 その結果、病院内で死亡した患者の割合は、ベルギーとカナダが50%以上で、英国とノルウェー、ドイツが38%。オランダが29%だった。米国は最も少ない22%だった。

 一方、米国ではがんで死亡した患者の40%以上が、死亡までの6カ月以内にICUに入っていた。この割合は、その他6カ国の2倍の水準に達している。同大学のエゼキエル・エマニュエル医療倫理・保健政策学部長は、「命の危険がある患者が集中治療室(ICU)に運びこまれ、最後には効果がありそうもない化学療法を施されていた、という場面を見たことがある人は多いだろう」「そうした突出した経験が、治療はハイテクすぎて人間味がない、(米国では終末期の患者は)自宅で最期を迎えることができない、という印象を与えているのだろう」と説明している。

Forbes JAPAN 2016年1月25日

医師は自分の終末期の積極治療に後ろ向き
米・医療保険DBの後ろ向き研究
 自分が死亡する半年前に,手術や集中治療室(ICU)入室といった積極治療を受けていた医師の割合は,一般人口での割合に比べ低いとの結果が,米・New York University School of MedicineのSaul Blecker氏らにより報告された(JAMA 2016; 315: 301-303)。同氏らは「医師は終末期の積極治療に限界があると考えていることが裏付けられた」と述べている。

病院での死亡,終末期の手術,ICU入室が少ない

 Blecker氏らはメディケア受益者データベースを用いて,マサチューセッツ州など4つの州で2004〜11年に死亡した65歳以上の人の医療記録を解析。医師など属性別に死亡前の6カ月間に受けていた終末期の積極治療の実態を調べた。調査対象に含まれたのは医師2,396例,弁護士2,081例,非医師の医療従事者を含む一般人口66万6,579例。

 解析の結果,医師は一般人口に比べ病院で死亡した割合(27.9% vs. 32%)や,終末期に手術を受けた割合(25.1% vs. 27.4%),そしてICU入室の割合(25.8% vs. 27.6%)が少なかった。また,社会経済的背景や教育レベルが類似しているとの仮定で設定された弁護士との比較では,医師の病院で死亡した割合が少なかった(27.9% vs. 32.7%)が,他の指標に差は見られなかった。

 「医師自身が死に直面した際,積極治療の限界を知るが故にこうした治療を避けていると考えられる」と同氏ら。また,一般の人が病院で亡くなることが多いのは経済的な理由や介護者が不在といった障壁が存在するのではないかと考察している。
日本でも同様の傾向を裏付ける調査

 2014年3月に公表された日本の「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」では,医師3,300人,一般の人5,000人,その他の医療従事者などを対象とした終末期医療に関する調査が行われている。

 同調査でも,末期がんや重度の心臓病などで症状のコントロールができていれば,終末期を医療機関以外で過ごしたいと回答した割合は,一般の人に比べ医師や看護師で高いとの結果が示されている。

MedicalTribune 2016年1月27日

末期の肺がん 水中で溺れているような感覚が続き会話できず
 愛する人や親しい人の命が残り短いと分かった場合、誰もが思うのが「せめて苦しまずに逝って欲しい」という願いだ。日本人の死因のトップは「がん」だが、がんの死に際はどれほど苦しいのだろうか?

 血管の破裂や詰まりによる病気の死に際に対し、辛い闘病のイメージがある「がん」は比較的穏やかなようだ。米山医院院長の米山公啓医師がいう。

「多くの方はまだ『がん=痛い』というイメージを持っていますが、現在は緩和ケアが進歩し、モルヒネを使ったペインコントロールで痛みが軽減され、患者の多くは苦しまずに最期の瞬間を迎えます。医師の間では『がんで死にたい』という人もいるほどです」

 ただし、例外といえるのが肺がんだ。とくに肺の表面を覆う胸膜の炎症を併発すると肺の内側に水が少しずつ溜まっていき、取り込める空気の量が減っていく。

「息をいくら吸っても酸素が足りず、水中で溺れているような感覚で呼吸が苦しくなります。末期の肺がんは毎日この状態が続き、苦しさのあまり会話はもちろん寝返りさえできなくなる」(医師でジャーナリストの富家孝氏)

 いくら緩和ケアが発達しても、この「息苦しさ」を取り除くのは難しいという。肺がんのみならず、「肺」に関する病は苦しみが増す。

「気管支や肺胞に水が溜まる肺水腫や、インフルエンザにかかった高齢者が発症しやすい肺炎など、肺にかかわる病気は死に至る危険がある上に、酸素を取り込めなくなって苦しみを伴う呼吸困難を起こしやすい」(前出・米山医師)

NEWSポストセブン 2016年1月28日

急性膵炎やがんの骨転移 医療関係者が語る「痛み」が辛い病気
ざっくり言うと

「痛み」が最も辛い病気について医療関係者が語っている
「痛みの王様」と表現される急性膵炎は、鋭く重い痛みが生じるという
がんの骨転移は、少し体を動かしただけで声をあげてしまう人もいるそう


 できることなら安らかな最期を迎えたい。歳を重ねれば誰でもそう思うのが自然だ。しかし、当然ながらどんな死に方だと苦しむことになるのかという“体験談”を聞くことはできない。だから、余計に知りたくなる。そこで本誌は死の淵から生還した患者や、臨終の現場を見てきた医師の証言を集めた。そこから明らかになった「死の瞬間」の真実をレポートする。

 これはある男性の話。夜中に寝転びながらテレビを見ていて、ふと体の向きを変えた瞬間、背中のあたりに激痛を感じ、背骨に強い電流が走ったような刺激がずっと続いて床をのたうちまわった。呼吸と脈拍が一気に早くなって顔中から脂汗が垂れていく。風呂に入っていた妻が気付いて救急車を呼んだが、搬送される途中で意識が遠くなり、目が覚めた時に映ったのは―病院の白い天井だった。

 これはかつて石原裕次郎を苦しめた大動脈解離という病気だ。大動脈の内膜に裂け目が生じることで、猛烈な痛みに襲われる。ただし、米山医院医院長の米山公啓医師は「もしかしたら、死ぬ瞬間の苦しみはない病気かもしれない」と語る。

「大動脈解離は七転八倒するくらい激しい痛みを伴いますが、これは患者にとって『まだ生きられる』というシグナルでもあり、病院に駆け込んで応急処置をすれば命が助かることも少なからずあります。

 その一方で死因となる場合は血管が破裂し、出血多量で即死のことが多い。即死の場合、おそらく“痛くない”のでしょう。ただ、こればかりは亡くなられた方にしかわかりませんが……」

 医療関係者が「キング・オブ・ペイン(痛みの王様)」と呼ぶのが急性膵炎だ。膵臓は膵液という消化液を作る臓器だが、急性膵炎は出来上がった膵液がうまく流れず、膵臓内に炎症を起こしてしまうことで発症する。消化液が膵臓の細胞を溶かし壊死させる過程で鋭く重い痛みが生じる。

「急性膵炎は腹部を鈍器でえぐるような痛みが走るといわれます。以前、運転中に急性膵炎になった50代の患者が、あまりの痛みでハンドルを握れなくなり、交差点の真ん中で気を失って停車してしまったことがありました」(医師でジャーナリストの富家孝氏)

 重篤な急性膵炎の場合、命を落とすこともある。医師の多くが「最も辛そう」と話すのががんの骨転移だ。

「骨の周りには神経が束になっていて、そこまでがん細胞が侵食すると、強い痛みを生じます。がん細胞が大きくなるとともに痛みも強くなる。ほんの少し体を動かしただけで、思わず声をあげてしまう方もいます」(医療ジャーナリストで医師の森田豊氏)

 あまりの苦痛に「いっそ殺してくれ」と懇願する患者も少なくないという。緩和ケアで処方されるモルヒネの量では末期がんの骨転移には効かない場合が多い。かといって痛みを抑えるため多量のモルヒネを処方すると、昏睡状態に陥ることもある。いずれにせよ苦しみ悶えているのが「最期の記憶」になる。

ライブドアニュース 2016年1月30日

シリーズ: 私の医歴書◆水田祥代・九州大学名誉教授(福岡学園・福岡歯科大学理事長)
「孤独に強いこと」がリーダーの条件◆Vol.30
――現職も含め、長年、トップとしてマネジメントする立場にある水田氏。より良いリーダーの条件をどう考えているのだろうか。

 リーダーの条件は、「孤独に強いこと」。いろいろ悩みながらも、最後は自分で決めなければいけない。もちろん、周りの人に相談はするけれど、それは最後の確認。決めなければいけないことは、自分で決める。決めた以上は自分で責任を持つ。この点において、リーダーが女性か男性かは関係ありません。

 ただ、物事には全員が100%満足する決定はないから、周りを納得させないといけない。「私がこう決めたんだから、文句を言うな」ではなく、「こういう理由で決めた」と説明責任を果たすことは重要。

――長年、医療に携わってきた立場から、高齢社会を迎えた医療の現状をどう見ているのか、課題は何か、考えを聞いた。

 一つは、終末期医療の在り方。それは医療費の問題からではなく、医療において、「できることと、すべきこと」は別だと思うから。個々人の生き方を尊重するという意味であり、積極的に介入するキュアだけでなく、ケアや看取りも含めて考えるべき。

 もちろん、人によっては90歳を超えても、体力などには違いがあり、手術をしていけないわけではない。けれど、積極的な医療をしないという選択肢があってもいい。何もかも、一律に行う必要はない。こんな話をすると「人の命に差を付けるのか」と言う人が必ず出てくる。そんなことを言っているのではなく、「自然の流れ」を大切にすべきということ。

 とかく最近は、「EBM」ばかりが言われ、ナラティブなこと、「物語」を考えない。同じ病気であっても、患者さんによって対応が違うのは当然。地域で医師が患者さん宅を訪問しながら行う「自然な医療」は、私は大切だと思う。ただ、若い医師はとかく最先端の医療に目が行きがちで、今の医学教育の中でも終末期医療の在り方などを学ぶ場をもっと増やしてほしい。

 また、医療提供体制の面では、医師不足が問題になっているけれど、私は卒業したばかりの医師を田舎に行かせても意味がないと思う。若手一人ではできることは少ないし、田舎の人に対しても失礼。

 そうではなく、10年目くらいの医師に行ってもらうのがいい。卒業して10年も経てば、専門医や学位を取得しており、「さあ、これからどうしようか」、大学に残るか、市中病院で勤務するか、開業するかと検討している一時期に、1年間くらい地方に行く。「こんな仕事、生活もあったんだ」と気づき、地方の生活が気に入り、その地域に居付く人もいれば、嫌になりすぐ帰ってくる人もいるでしょう。それでいいわけ。特に国立大学の場合、私立大学よりも税金をかけて養成しているのだから、1年間くらいの地方勤務を義務化してもいい。

 一方で、地方の病院を運営する側も、考え方を変えることが必要。私も九大病院長時代、よく町長さんから、「小児科医がゼロだから、1人でいいから、医者をください」と言われた。しかし、「1人では絶対に出せない」と断った。1人だけ送ったら、365日24時間、1人体制で診ることになってしまう。医師も人間。眠い時もあれば、疲れて対応できないこともあるのに、「あの医者は、俺の子を診らんやった」とか批判されてしまう。数人体制であれば、チームを組んで当番を回せる。中核病院に集約化して、救急車の搬送体制を整備すればいい。そう思うけれど、なかなか進まないね。でも、医師不足の問題は、「医師の偏在」の要因が大きいので、こうした取り組みをしなければ、いくら医学部定員を増やしても、問題は解決しないでしょう。

 医師不足の関連では、多職種のチーム医療の問題もあります。看護師などの役割が広がりつつあるけれど、中には、「医師には負けないぞ!」とかたひじはってがんばってしまう人もいる。そうではなく、職種の違いは、「差別」ではなく、「区別」。「区別」はあるべきであり、その点を誤解しないようにしないといけない。

 さらに、診療報酬の問題で言えば、医科も歯科も、技術料が安すぎる。私が小児外科をやっていた時もそう思っていたけれど、歯科の技術料も同様。医療を取り巻く課題は山積しています。

m3.com 2016年1月31日

自らの死に直面したとき、医師はどのような終末期医療を選択するのか
医師自身は終末期に何を望むのか? ―積極的治療を求めない傾向
 医師が自ら死に直面したとき、余命を少しでも延ばすための積極的治療を求める比率は低いことが、新たな2件の研究で明らかにされた。ただし、一般集団との差は統計的には有意であるが、ごくわずかなものだったと米国ホスピス・緩和医療学会(AAHPM)のJoseph Rotella氏は述べている。

 米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院(ボストン)のJoel Weissman氏らによる第一の研究では、米国の4州で2004〜2011年に死亡した66歳以上のメディケア受給者のデータをレビューした。死亡までの6カ月間の終末期医療について5つの尺度(手術、ホスピスケア、ICU入院、病院での死亡、医療コスト)で評価した。一般集団に比べ、医師は病院で死亡する比率が低く(28%対32%)、手術を受けることも少なく(25%対27%)、ICUへの入院率も低かった(26%対28%)。

 第二の研究では、米ニューヨーク大学医学部助教授のSaul Blecker氏らが、全米の死亡調査データを用いて、医師、その他の医療従事者、高学歴集団、一般集団の死亡した場所を比較した。その結果、医師が病院で死亡する比率は一般集団よりもやや低かったが(38%対40%)、他の医療従事者や同等の学歴をもつ層との間には差がみられなかった。また、医師は介護施設で死亡する比率が最も低かった(医師63%、その他の医療従事者65%、高学歴層66%、その他72%)。

 この知見は、医師が終末期医療の限界を理解していることを裏付けるものであり、終末期ケアについて医師は患者と十分に話し合う必要があることを示すものだと、Weissman氏は指摘。「最終的な目標は、患者自身の選択と目的に沿ったケアを行うことだ」と述べている。いずれの研究も、米国医師会誌「JAMA(Journal of the American Medical Association)」1月19日号に掲載された。

 しかし、“よりよい死”を迎えることは医師にとっても難しいようである。第一の研究では、ホスピスケアを受ける医師の比率は一般集団と同等であることが判明した。第二の研究では、医師の3分の2が最終的には医療施設で死亡していることがわかっている。「ホスピスの入所に制限があること、本人や家族が死期の近さを認められないこと、治癒を目指す治療を続けたいと要望することなどが、医師にとっても終末期の決断に大きく影響していることを認識する必要がある」とRotella氏は述べている。

QLife Pro 2016年2月1日

個別性に応えるために必要な死亡直前と看取りのエビデンス
濱口 恵子氏(がん研有明病院緩和ケアセンター ジェネラルマネージャー/副看護部長)
森田 達也氏(聖隷三方原病院副院長/緩和支持治療科)=司会
新城 拓也氏(しんじょう医院院長)

 近年,人が死亡に至るまでの過程を対象とした実証研究が進んでいる。その中,死亡直前の医学的問題や看取りに関するエビデンスも蓄積されてきた。これらの科学的根拠を生かして充実したケアを提供することが,最期の時間を支える医療者に求められている。

 本紙では,書籍『死亡直前と看取りのエビデンス』(医学書院)においてターミナルケアに関するエビデンスをまとめた森田氏を司会に,在宅医療をフィールドに活躍する新城氏,がん看護に携わってきた濱口氏の鼎談を企画。最新のエビデンスに触れながら,それらをどのように活用し,患者・家族に最善の治療とケアを提供していくのか,そのポイントを議論した。

死亡直前に関するエビデンスが集積しつつある

森田 振り返ると,医師になって3−5年目のころ,看取りの時期が近付いた患者の家族から「あとどのぐらいの時間が残されていますか」と尋ねられても,答えに窮していました。それで「自分の腕が悪いのだろうか」とも悩んだものです。当時の1995年前後というと,死亡直前から直後までの医学的問題に関するエビデンスが少なかった。「こういった徴候があればそろそろ」といった曖昧な情報しかなかったのです。じゃあ自分で詳しく調べてみようと思って調査したものが私の研究の端緒1)になったという経緯もあるのですが,近年,こうした「死亡に至るまでの徴候がいつ,どのように生じるのか」という実証研究はさらに進み,エビデンスもずいぶん集積してきましたね。

新城 最近になって,このあたりの研究は進んでいます。ただ,現場を見ると,まだまだそうしたエビデンスが有効に活用されているとは言いがたいのが実態です。

 看取りが近付いてきたときに行われる死亡時期の見立ても,ともすれば科学的根拠はまるで無視され,医療者個人の経験的な,質の低い予後予測が行われていることがある。患者や家族を欺こうという意図はないにしても,根拠に基づかない予測では,彼らが生活に見通しを立てることには役立ちません。それどころか,その先の日々を不安に陥れる“呪いの言葉”にさえなってしまいます。

森田 昔は,死ぬまでの過程を医学教育で教わることなんてほとんどなかった。そうした背景があるからか,死が差し迫ってきた段階の予測も,経験則のほうが重視されてきたという面があるのだと思いますね。

濱口 「あのベテラン看護師さんに聞けばわかる」といった感じでしたよね。

新城 それは今でも現場にありますよ。確かに医療者としての直感も大切でしょう。しかし「ここを見ればわかる」という知見が科学的に示されているわけですから,医療者はポイントを類型化して理解しておく必要があります。特に,死亡前の徴候を見分け,判断することは,誰にでも身につけられるものですから。

森田 そういう意味では,最近出された死亡直前の徴候についての観察研究が,よりわかりやすい形で死に至るまでの様相を描き出しており,役立つのではないでしょうか。M.D.アンダーソンがんセンターの医師・Huiらは,死亡直前に出る徴候の頻度と出てからの時間を評価し,「出現すれば死亡がかなり近いが,全員に出現するとは限らない徴候」を「晩期死亡前徴候」とし,一方でPerformance Status(PS)や意識レベルの低下など,「ほとんどの患者でみられるが,死亡直前とは限らない徴候」を「早期死亡前徴候」としました2)。

 さらに,晩期死亡前徴候を詳細に分析した上で3),決定樹分析を用いた研究を行い,Palliative Performance Scale (PPS)と,鼻唇溝の垂れ下がり,晩期死亡前徴候の数の組み合わせによって,患者が3日以内に死亡することを80%予測できるという報告を出しています(図)4)。尤度比を取り入れるなど,診断学の要素を盛り込んでいるところがユニークです。

新城 今までの緩和ケア領域には珍しいタイプの研究ですよね。でも臨床に合った内容で,予後予測を考える上で大切なポイントが示されています。

濱口 スペシャリストが何を根拠に死亡予測を立てているのかがわかりやすいと思いました。このように言語化,図式化されているものを看取りの現場に立つ医療者がきちんと押さえることで,「あの人ならわかる」という状況も変わっていくのではないでしょうか。

個別性の尊重をめざすなら,エビデンスが不可欠だ

森田 こうやって緩和ケア・ターミナルケアのエビデンスの重要性を話していると,時に「患者の死亡前後にどう振る舞うべきかを,データに基づいて決めるなんて……」と指摘を受けることがあります。看取りはこうすべきだという理念のもとに振る舞わなければ,個々の患者に向き合っていくことはできないのではないか,というわけです。

新城 エビデンスがあるからこそ,日々の実践の妥当性を測ることができるわけで,エビデンスは“臨床の心棒”とも言えるものです。本来,「エビデンスを重視すること」と,「患者・家族の個別性を尊重した治療・ケアを提供すること」は相反するものではなく,両者一体なのですけれどね。

濱口 特に看護師は「エビデンス」という言葉にどこか冷たい響きを感じてしまって,理念先行になりがちかもしれません。もちろんそれは個別性を支えたいと強く思うが故の態度でもあるので,わからないではないのですが……。

 ただ,個々のケースで倫理的に配慮して治療・ケアを選択する上では,むしろエビデンスが重視されるのだと理解しておく必要があります。倫理的な事例検討の方法としてJonsenらが示した臨床倫理4分割法においても,@医学的適応,A患者の意向,BQOL,C周囲の状況という4項目で検討を進めることを推奨しています5)。医学的適応はまさにエビデンスに基づいて判断する部分ですがそれをそのまま実行するわけでなく,患者・家族の価値観・生活状況などを配慮し,治療・ケアを選択していく。これは積極的な治療の場面でも看取りの場面でも同様で,個別性を尊重するという視点に立っても,やはり科学的根拠が不可欠になってくるのです。

森田 濱口さんがおっしゃるように,われわれが個別性をきちんと考えるための土台に当たるものが,エビデンスなのだと思いますね。実際に今,どのような知見・データがあるのかによっても,患者・家族へのかかわり方の方向性は異なりますし,本当に個々の患者・家族のためになる治療・ケアも変わってくるものです。

 例えば,看取りが近づいてきたときに行う「苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy)」に関する現場の考え方も,学術的基盤が整理されていく中で変遷してきました。従来,なんとなく現場で行われていた鎮静が,必要な医療行為として定義されたのが1990年代です。その後,一時期,鎮静が安楽死と区別できない「ゆっくりとした安楽死(slow euthanasia)」であるという論調もあり,当時は多くの専門家が「鎮静すると生命予後が短縮する」という前提のもとに,鎮静という医療行為を用いるべきか否かを現場で考えていました。しかし,鎮静を受けた患者,受けなかった患者に対し,ある測定時点からの生命予後を比較する観察研究が世界各国で重ねられ,「生命予後を短縮することはない」と明らかになった6)。これは日本で行った観察研究でも同様の結果が得られており7),今の現場では鎮静は生命予後に有意な影響を与えないという考えが「前提」となっているわけです。

 このように変遷を見ると流動的な側面も感じる一方で,現状のエビデンスを整理して理解しておかねば,患者・家族のためになる治療・ケアを考え,実践していくことも難しくなることがわかると思います。やはり,われわれはエビデンスを大切にしていく必要があるわけですね。
治療効果のレベルを認識し,手を尽くすことが「臨床の知」

森田 もちろん,「エビデンスに準ずるだけでは不十分」というのは先ほどからのお話からもわかるとおりで,現場ではあらゆる要因を踏まえて,治療・ケアを検討していく必要があります。

 例えば,「死前喘鳴(気道分泌亢進;increased bronchial secretions)」への対応を挙げましょう。死亡が近くなって意識が低下すると,唾液を嚥下できなくなることで,呼吸に合わせて唾液が気道内を前後して「ゴロゴロ」という音が生じます。この喘鳴の治療に用いられるのが,唾液分泌を抑制する抗コリン薬の舌下または皮下投与です。その効果を検証すると,ハイスコでもブスコパンでも効果は同等だが,自然経過を上回る効果があるのかはわかっていない8),またアトロピン舌下投与は自然経過を上回る効果がなさそうだ9),とわかっています。

 つまり,いずれも自然経過による改善であることを否定できておらず,実はプラセボ以上の効果はないかもしれないという状況なわけです。エビデンスに偏重すれば,「効果がわかっていないことを行う必要はない」と考えてしまいそうな場面と言えるでしょう。「上記の効果しか見込めない状況下で,どう対応すべきか」という質問を受ける機会は多いのですが,新城先生ならどのように考えますか?

新城 まず自然の経過として起こる症状であり,意識レベルが低下した死亡直前期では呼吸困難感はないと考えられるという説明は行います。しかし,それだけで済ますのが必ずしも正解ではなく,リスクとベネフィットを開示し,家族と相談しながら薬剤を使用することもありますね。

 このような対応を行う背景には,国内で患者の死前喘鳴を体験した家族の調査があります10)。当時の気持ちや認識について,約65%の家族は「とてもつらかった」と答えている。そばで付き添う家族は「患者は苦しんでいるのではないか」と心配で,つらい気持ちになっている状況があるのです。

濱口 そうした場面で「薬剤の効果もないのだから見守っていればよい」と説明しても,家族へのケアにならないということですね。

新城 ええ。それで「何もできることがない」というのは,家族に無力感を募らせるだけでしょう。ですから希望があれば,「プラセボ効果しかないかもしれないけど……」「使用者の半分程度の方に効くようだから……」と説明し,薬剤使用も選択肢として提示するのです。このように,治療・ケアのバリエーションを豊かにし,それぞれがどのぐらいの治療効果が見込めるものなのかを把握しておくことが専門家の役割でしょう。

森田 私も新城先生の実践と同様の姿勢を取ります。エビデンスでは「それをやっても効果がない」と出るけれど,それを目の前の患者・家族にどう適用するかは別問題であるということですよね。

 これは終末期の輸液にも同じことが言えると思います。家族の自責感というものがあり,家族が「自分たちがもっと早く気付けば手遅れにならなかったのではないか」と思っていて,「何かしてあげられること」として輸液に期待を持つという現象はよく経験されることです。そのときにエビデンスに基づいて輸液のメリット・デメリットだけを話すことはケアにはなりません。こうした場面では家族をエビデンスで“説得”することのないように注意することが必要で,私もご家族の気持ちのケアという点から終末期に輸液を行うという選択をすることもあります。

 治療効果のレベルを医師や看護師が認識し,副作用なども含めてしっかりとみるのであれば,家族の思いを酌んで薬剤の使用や輸液などの対応をする。それこそが「臨床の知」ではないかと思うんです。

心をすり減らすことを「防ぐ」という視点での活用

濱口 先ほど,新城先生がどの程度の人に効果が見込めるかなど,治療効果についても言及されるというお話をされました。そうしたデータを理解しておくのは,患者・家族のためだけでなく,医療者の心をいたずらにすり減らすことをなくすという点でも意味があるのではないかと考えています。

 何らかの治療やケアによって患者に良い効果が見られなかった場合,「自分のケアが悪かったから」「自分に落ち度があったのではないか」と責める看護師も実際にいるのですね。でも,あらかじめどの程度の人に,どれぐらいの効果が見込めるのかを理解していれば,過剰な期待感を持つことなく,仮に効果が得られなかった場合でも,それを自然なものとして冷静に受け入れられるかもしれません。

森田 なるほど。確かに責任感の強い医療者は自分を責めてしまうこともありますからね。

新城 私もホスピスで働いていた2000年頃,科学的なデータが十分になかったことで自信を失いかけたことがありますよ。痛みを訴える患者さんの痛みを緩和すれば,次はせん妄や不眠が起こって悩まされる。それで行き詰まってしまって,自分たちの治療やケアの在り方に問題があるのではないかと思うようになりました。しかし,次第に国内外から緩和医療に関する研究論文が出てくる中で,これなら自分たちの病棟の実践を検証できると気付いた。それを基に改善をめざせばいいのだとわかって,切り替えることができたという経験があります。

森田 すでに示されている効果を正しく認識するための「外的な基準」としてエビデンスを用いれば,過度な期待や自責の念を抱くのを防ぎ,医療者の疲弊を防ぐことにつながっていく,ということですよね。

 特に日々当たり前に行っていることだと,その効果と意義がきちんと認識されていないケースもあり得そうです。例えば,バイタルサインもそうかもしれません。多くの医療機関で,死亡前も定期的にバイタルサインをチェックしていると思いますが,ルーチンのバイタルサイン測定は,「死亡予測の判断基準としては役立たない」という報告がすでになされています11)。仮に医療者がその知見を知らず,単に「少しずつバイタルサインのレートが上がって,急に落ち始めると死が近い」という認識でいるとしたら,ある日,「私が見逃したせいで患者の死亡に気付けなかった」と,傷つく日が来るかもしれません。

濱口 そういう知識は一人で身につけるだけでなく,病棟全体,スタッフ全員で共有できる仕組みが必要です。いちスタッフとして現場で仕事を続ける,管理職としてスタッフを支えるという意味でも,エビデンスというものの活用法があるのだと思います。

■家族の視点から,看取りのケアを見直す


森田 「命が助かった」「退院後に合併症がなかった」などのはっきりと結果の見える指標がなく,ケアの相手が亡くなってしまうということもあり,緩和ケア領域で質を評価するのは難しいものです。その点,家族側からの視点が質評価の上で大事な指標と考えられています。

 実際に,大規模な遺族調査によって「家族からみた望ましい看取りのケア」を明らかにした研究があります12)。これをまとめたのが新城先生で,国内のホスピス・緩和ケア病棟で亡くなった患者家族を対象に,患者が亡くなる前後の家族の体験や看取りの時期のケアについて質問紙調査を行なっています。国際的にも「看取り方」に関する唯一といってよい実証研究でしょう。

新城 家族の体験の中から,つらく感じたことや改善の必要性のある医療者の行為を分析したのですが,すぐに現場で取り組める改善点がわかったのは収穫だったと思います。医療者の気が付いていないところで家族が心を痛めていることを示せたので,「慣習的な行為」として見逃されていたものも,改善の余地があると呼び掛けることができました。

 例えば,死亡宣告もその一つです。慣例的に心電図モニターで波形が平坦になった瞬間に行われることもありますが,臨終のときに家族が望んでいるのは「家族全員がそろってから死亡確認をすること」であると明らかになっています。これを受け,私自身,臨終の場に立ち会いたい家族がそろってから,患者の死亡確認を行うように配慮していますね。

森田 私は,患者の苦痛を気に掛けることの大切さがこの研究であらためて実証され,共有された点が一番良かったです。息を引き取る直前,下顎呼吸や喘鳴,半開眼,呻吟が自然な経過として起こり得ますが,遺族はそれを知らず,臨終後に「最期,苦しそうでしたね」とお話しされることは少なくありません。そこで医療者が自然経過である旨を説明し,「患者さんは苦しくないと思いますよ」と一言付け加えることも,家族のケアになるのだと再確認できました。こうした一つひとつの事実をスタッフ間で共有することで,ターミナルケアの質は確実に上がっていくだろうと思います。

濱口 この研究では,亡くなる患者への接し方を遺族に教えたり,一緒に考えたりすることが大切であることも明らかになっています。この点は看取りの場面に同席することの多い看護師ならば経験的に大事だと思っている方も多いため,かかわる意義が言語化されたことを心強く思うはずです。

 例えば,主に看護師が行うエンゼルケアにも生かせそうですよね。可能な限り家族にも参加を促すことで,満足感のある看取りになるのであれば,現場の看護師もやりがいを持って取り組めると思うのです。

新城 実は,エンゼルケアって世界的に見ると特異的なケアで,海外にはない日本オリジナルの文化なんです13)。死に至るまでに見られる徴候といったバイオロジカルな知見は国際的な研究からも十分に学べる。一方で,看取りには文化的な面もあるので,看取りのケアを充実させるためには,こうした国内研究にも目を向けることが重要だと思います。

森田 私たちは,2015年と2016年に国内のがん患者2000人以上を対象に,終末期の予後予測指標を検証するコホート研究「Proval試験」の結果を報告しました14−16)。これを受け,さらに2017年に日本・韓国・台湾で2000人規模のコホート研究を実施できるように計画中です。これらを通し,「死亡前後の人間に何が起きるのか」は,より明確となり,細かな予測も可能になるだろうと期待しています。

 ただ,こうした知見が増えるからといって,そのままよいケアが可能になるわけでもない。そう思うと,患者の死を前に家族も,医療者も悩みは尽きず,その都度,何が適切な治療・ケアであるのかを真摯に考え続けていくことに変わりはないのでしょうね。

濱口 でも,自分の知識がないから迷っているのか,知識を持った上で迷うのかでは大きな違いがあります。死という一大事において,知識がないことによって,結果的に患者・家族へのケアの質が下がってしまうという事態は避ける努力をしたいですよね。

新城 そのためには今あるエビデンスによる知識も,10年後には新たなエビデンスによって塗り替えられている可能性があることを念頭に置いておく必要があります。結局は,標準的なケアと治療の在り方を身につけた上で,新たな情報を追い,自分たちの実践をより洗練させることに意識的になる姿勢が医療者に求められるのだろうと思います。

森田 ありがとうございました。

◆参考文献
1)Morita T, et al. A prospective study on the dying process in terminally ill cancer patients. Am J Hosp Palliat Care. 1998;15 (4):217-22. [PMID:9729972]
2)Hui D, et al. Clinical signs of impending death in cancer patients. Oncologist. 2014;19 (6):681-7. [PMID:24760709]
3)Hui D, et al. Bedside clinical signs associated with impending death in patients with advanced cancer: preliminary findings of a prospective, longitudinal cohort study. 2015;121 (6):960-7. [PMID:25676895]
4)Hui D, et al. A diagnostic model for impending death in cancer patients: Preliminary report. Cancer. 2015;121 (21):3914-21. [PMID:26218612]
5)Jonsen AR, et al. Clinical Ethics: a practical approach to ethical decisions in clinical medicine. 7e. McGraw-Hill:2010.
6)Maltoni M, et al. Palliative sedation in end-of-life care and survival: a systematic review. J Clin Oncol. 2012;30 (12):1378-83. [PMID:22412129]
7)Morita T, et al. Effects of high dose opioids and sedatives on survival in terminally ill cancer patients. J Pain Symptom Manage. 2001; 21 (4):282-9. [PMID:11312042]
8)Wildiers H, et al. Atropine, hyoscine butylbromide, or scopolamine are equally effective for the treatment of death rattle in terminal care. J Pain Symptom Manage. 2009;38 (1):124-33. [PMID:19361952]
9)Heisler M, et al. Randomized double-blind trial of sublingual atropine vs. placebo for the management of death rattle. J Pain Symptom Manage. 2013;45 (1):14-22. [PMID:22795904]
10)Shimizu Y, et al. Care strategy for death rattle in terminally ill cancer patients and their family members: recommendations from a cross-sectional nationwide survey of bereaved family members' perceptions. J Pain Symptom Manage. 2014;48 (1):2-12. [PMID:24161372]
11)Bruera S, et al. Variations in vital signs in the last days of life in patients with advanced cancer. J Pain Symptom Manage. 2014;48 (4):510-7. [PMID:24731412]
12)Shinjo T, et al. Care for imminently dying cancer patients: family members' experiences and recommendations. J Clin Oncol. 2010;28 (1):142-8. [PMID:19901113]
13)Shinjo T, et al. Care for the bodies of deceased cancer inpatients in Japanese palliative care units. J Palliat Med. 2010;13 (1):27-31. [PMID:19827967]
14)Baba M, et al. Survival prediction for advanced cancer patients in the real world: A comparison of the Palliative Prognostic Score, Delirium-Palliative Prognostic Score, Palliative Prognostic Index and modified Prognosis in Palliative Care Study predictor model. Eur J Cancer. 2015;51 (12):1618-29. [PMID:26074396]
15)Hamano J, et al. Surprise Questions for Survival Prediction in Patients With Advanced Cancer: A Multicenter Prospective Cohort Study. Oncologist. 2015;20 (7):839-44. [PMID:26054631]
16)Maeda I, et al. Effect of continuous deep sedation on survival in patients with advanced cancer (J-Proval):a propensity score-weighted analysis of a prospective cohort study. Lancet Oncol. 2016;17 (1):115-22. [PMID:26610854]

しんじょう・たくや氏
1996年名市大医学部卒。JCHO神戸中央病院緩和ケア病棟(ホスピス)で10年間勤務した後,2012年に緩和ケア専門の在宅診療クリニック「しんじょう医院」を開業。日本緩和医療学会理事,同学会誌編集長を務める。共編著に『エビデンスで解決! 緩和医療ケースファイル』(南江堂),『3ステップ実践緩和ケア』(青海社),単著に『患者から「早く死なせてほしい」と言われたらどうしますか?――本当に聞きたかった緩和ケアの講義』(金原出版)など。

はまぐち・けいこ氏
1983年千葉大看護学部卒業後,国立がんセンター看護師,聖路加看護大助手を経て,聖路加看護大大学院修士課程修了。その後,東札幌病院に勤務し,96年にがん看護専門看護師となる。静岡県庁でがんセンター設立準備を経て,静岡県立静岡がんセンター副看護部長を務め,2004年より現職。共編著に『がん看護ビジュアルナーシング』(学研メディカル秀潤社),『がん化学療法ケアガイド』(中山書店),『がん患者の看取りのケア』(日本看護協会出版会)など。

もりた・たつや氏
1992年京大医学部卒。同年より聖隷三方原病院にて勤務。ホスピス医長,緩和ケアチーム医長を経て2005年緩和支持治療科部長に就任し,14年より同院副院長。06年より京大医学部臨床准教授,12年より同臨床教授を兼務。07年より複数の厚労科研に携わる。共編著に『死亡直前と看取りのエビデンス』『エビデンスからわかる患者と家族に届く緩和ケア』(いずれも医学書院),『緩和治療薬の考え方,使い方』(中外医学社),『3ステップ実践緩和ケア』(青海社)など。

週刊医学界新聞第3160号 2016年2月1日

緩和ケアにおいて薬剤師さんに望むこと
第6回「ある緩和ケア認定薬剤師を通して再考する」
高宮 有介(昭和大学医学部 医学教育推進室)

緩和ケアに携わる薬剤師に聞く、薬剤師としてのやりがい

 この連載では、緩和ケアの治療現場の様子や患者さんとの関わり方などについて、実際に緩和ケアに携わる医師の立場からお伝えしています。今回は少し目線を変えて、緩和ケアに従事する薬剤師の方にお話をうかがいました。その話から、緩和ケアにおける薬剤師の役割について考えてみましょう。

 私は京都にある「あそかビハーラ病院」の緩和ケア病棟(独立型28床)の顧問を務めています。今回、お話をうかがった加藤晋一郎さんは、この病院で働く唯一の専従薬剤師。院長の大嶋健三郎先生をはじめ医師や看護師からの信頼も厚く、なにより患者さんやその家族から頼りにされています。

 加藤さんは、神奈川県横須賀市生まれの38歳。北海道薬科大学を卒業後、道内にある化学療法のみの急性期病院に就職しました。その病院は緩和ケア認定看護師はいたものの、緩和ケアに従事する医師は不在。そこで加藤さんはみずから勉強会を開催し、孤軍奮闘します。その後、緩和ケアの学びを深めたいと神奈川県の「湘南中央病院」緩和ケア病棟へ。そこで大嶋先生と出会い、その縁で大嶋先生があそかビハーラ病院の院長に就任したのを機に、同院へ赴任。2014年には緩和ケア認定薬剤師を取得しました。

幅広い視野をもって最適な薬物治療を追求

高宮 緩和ケアにおける薬剤師の専門性は何だと思いますか?

加藤  患者さんの身体的な背景を理解しつつ、客観性に基づいて判断することでしょうか。例えば、過去に化学療法を実施して、手のしびれ感をもっているかもしれないし、肝機能や腎機能の障害、脱水などでも薬剤の選択は変わってきます。また、緩和ケア以外のすべての薬物治療にまで視野を広げて判断します。もちろん医師が見逃している点があれば指摘もします。特に薬剤の相互作用、特殊病態下での薬物動態の変化など、個々に適した使用薬剤の選択と、投与量の設定を行っています。安全かつ最大限の効果が得られるよう症状・効果・副作用のアセスメントを行うことが重要だと考えています。

高宮 オピオイドをはじめ、症状緩和に対する薬剤を安心して服用できる環境を維持するために、加藤さんが心がけていることは何でしょう。

加藤  患者さんに納得して飲んでもらうためには、信頼を得ることが重要です。それには、成功体験をつくるのが一番。例えば「眠気は出ますが3日くらいで軽減します」と伝えたうえで、抗うつ薬のリフレックス?を服用してもらいます。そして、毎日患者さんのベッドサイドを訪れて病状を細かくチェックする。そこで最初に伝えた通りの結果が出れば、「成功体験」として患者さんに記憶されますから、薬剤師への信頼に繋がるのです。

高宮 なるほど。薬剤というツールを用いて信頼関係を築いていくのですね。では「あそかビハーラ病院」における薬剤師の役割は何だと思いますか。

加藤  「あそかビハーラ病院」には医師、薬剤師とも他科の診療科スタッフがいないので、他科の薬剤に対する知識が不足しています。ですから、適切に安全に安心して使用できるよう、医薬品情報を提供しています。また、オピオイドを含め、新たな薬剤が次々に発売されており、その情報も随時伝えるようにしています

高宮 薬剤のプロとして幅広い知識がある薬剤師は医師にとっても心強い存在でしょうね。ところで、緩和ケアは身体だけでなく、心理的、社会的、スピリチュアルケアがキーワードですが、薬剤師としてどのように向き合っていますか。

加藤  緩和ケアとは、心理社会的な問題やスピリチュアルな問題をケアするのが原則なので、薬剤師も当然それと向き合わなければなりません。ただし、「スピリチュアルケアを行うぞ!」という意気込みで患者さんのもとを訪問するのではなく、日常の服薬指導や症状アセスメントを行う際の「丁寧な対応」がスピリチュアルケアに繋がると考えています。「この薬剤師になら・・・」と患者さんが心を開き、語ってくださる物語は、私が最後まで責任をもって引き受ける気持ちで向き合っています。
 また、自室で患者さんと一緒に酒を酌み交わしたり、有名な喫茶店のモーニングを二人で楽しんだり、バイクツーリングに同伴したりということもありました。「聞く」「居る」「共感する」「希望を支える」がスピリチュアルケアに繋がると確信しています。人間として患者さんに関われば、薬剤師であっても全人的ケア、スピリチュアルケアに関わっていることになるのです。
薬剤師は医師・看護師と患者の家族の隙間を埋める役割も

高宮 「医療従事者」対「患者」ではなく「人間」対「人間」の関わりということですね。では、薬剤師が家族のケアに関わる必要はあると思いますか。

加藤  「緩和ケアとは、患者とその家族に対して――」と言われているとおり、薬剤師にとってご家族のケアは欠かすことができません。薬剤に対して不安があればご家族へも説明しますし、安心して患者さんの側にいられる雰囲気をつくります。もちろん、患者さんの苦痛を緩和すればご家族の苦痛も緩和されます。また、急変時、医師はアセスメント、看護師は処置にと意識を向けますが、そこでご家族の気持ちが置き去りにされないように支えることも、薬剤師の仕事だと思っています。医師や看護師と、ご家族との間にできた隙間を薬剤師が埋めているという意識です。

高宮 では最後に、特に印象に残る患者さんとのエピソードを教えてください。

加藤  そうですね、前医にてタルセバを服用していた肺がんの男性のことはすごく心に残っています。その方は、タルセバの副作用による顔面ざ瘡様皮膚炎が放置された状態で入院されました。普通のステロイド軟膏だと軟膏塗布による改善には1ヶ月以上は必要で、予後の期間を考えると厳しい状況でした。しかし、ご家族が「少しでも元のきれいな肌になってくれたら」と希望されたため、デルモベート?+亜鉛華軟膏による重層塗布療法を医師へ提案したのです。5日後に男性患者が退院する際、皮膚炎はある程度改善されてご家族も大変喜ばれました。薬剤師として医師とのコミュニケーションも重要ですし、患者さんの将来を予想しながら、服薬のアドバイスを行うことを大切にしています。

高宮 加藤さんが化学療法に長年従事し、習得した副作用対策が、患者さんや家族の満足度に寄与したのですね。緩和ケアは、患者の病期によらず横断的な関わりが重要であると改めて考えさせられました。本日はどうもありがとうございます。


 いかがでしたか。薬剤師の目線から見る緩和ケアの話は、医師である私にとって大変興味深いものでした。20数年前、昭和大学で緩和ケアチームを始めた頃は、薬剤師は調剤室にこもっていました。しかし、近年は次第に病棟に進出し、医療チームの新たなパートナーとなりつつあります。ただし、薬の専門家として知識を持っているだけでなく、加藤さんのように医師や看護師と横断的に関わってその専門性を発揮し、患者さんやその家族と人間対人間として関わっていくことが重要です。それによって薬剤師の負担が増えるかもしれませんが、その先にはやりがいや温かみといった“人生のギフト”が待っています。さらに、薬剤師という職業を通して、人生の意味や役割を感じる機会があるかもしれません。これからも、薬剤師が医療チームの要として力を発揮することを願っています。

専門家プロフィール/高宮 有介(たかみや ゆうすけ)

昭和大学医学部 医学教育推進室
1992年 昭和大学医学部卒業、英国ホスピスで研修後、昭和大学院緩和ケアチーム、昭和大学横浜市北部病院緩和ケア病棟の専従後、2007年より現職
【学会役員】
大学病院の緩和ケアを考える会 代表世話人、
日本緩和医療学会 理事、第20回日本緩和医療学会学術大会 大会長

◆主な著書
「がんの痛みを癒す」・「臨床緩和ケア(第3版)」

m3.com 2016年年2月12日

死に寄添う「臨床宗教師」 医療現場で増える宗教的ケア
 死を目前にしたとき、その恐怖や悲嘆を乗り越え、穏やかに逝きたい……。今、終末期医療や看取りの現場で、死に臨む患者や家族に寄り添って心のケアをする「臨床宗教師」が注目されている。活動現場を訪ねてみた。

「こんにちは。具合はどうかな?」

 のどかな田園地帯が広がる岐阜県大垣市。庭に面した縁側に沼口医院の沼口諭院長(54)が姿を見せ、慣れた様子で家に上がってきた。定期的な訪問診療である。

 出迎えたのは、患者の小川和子さん(87)。若いころに直腸がんの手術を受け、その後は元気だったが、最近、別のがんが見つかった。再び手術を受けたところ、経過は順調で、退院して家に戻ることができた。だがその後、息子が腎臓病で亡くなり、いまは古い一軒家で独り暮らしだ。

 小川さんは、がん再発と息子の死のショックで生きる気力を失い、重いうつ状態に陥っていた。

 沼口院長が言う。

「医師は、病気を治療できるし、身体の痛みやつらさも緩和ケアで何とか取り除くことができる。でも、患者の深い悲しみや絶望感といったスピリチュアルペイン(※1)を和らげるには、医学だけでは力不足。そういう場面では、宗教的なアプローチが重要な役割を果たすのではないかと思っています」

 ピンピンコロリで死ぬのは奇跡に近い。多くの医師がそう断言する。人の身体は、長く生きれば生きるほど経年疲労を起こし、あちこちに不具合を起こす。死に直面すると、身体のつらさに加え、スピリチュアルペインに苦しむこともある。

 沼口医院では2014年4月から、スピリチュアルペインのケアを担当する専任スタッフとして、臨床宗教師の田中至道(しどう)さんを採用している。田中さんは浄土真宗本願寺派の僧侶で、岐阜市にある寺の後継ぎである。


 田中さんはこの日も、沼口院長に先立って小川さん宅を訪ねていた。

「心の痛みや苦しみを抱える患者、家族に傾聴と祈りを基本としたケアをするのが私の役割です。死を意識した患者さんの多くは『自分は死んだらどうなるのか』という不安を感じています。それに対し、私たち宗教者は、死や死んだ後の世界について語り、そばに寄り添うことができます」

 田中さんは週に3〜4回、小川さんの元に通い、息子に先立たれた悲しみや先行きへの不安など様々な言葉に耳を傾けた。生と死、魂について語り、仏壇の前で読経もした。

 小川さんは今、時折ベッドから出て仏壇に手を合わせ、田中さんと一緒にお経を口ずさむこともある。この日も仏間で沼口院長の診察を受けながら、昔話を語り、笑顔も見せていた。

「今でも夜などにかなり落ち込むようですが、以前よりは随分よくなった。田中さんのケアで癒やされ、心が安らいでいる感じですね」

 沼口院長も寺に生まれ、自身も僧籍を持つ。医師と宗教者という二つの立場を理解する者として、終末期や看取りなど死にかかわる医療介護の現場に宗教者が介入する意義は、決して小さくないと考えている。

 臨床宗教師の原型は、米国などで活動する「チャプレン」と言われる。

 チャプレンは病院や軍隊、警察、消防、学校などに配された聖職者で、礼拝や儀式のほか、人々の悩みを聞いたり相談に乗ったりする。家族や友人を亡くした人に対するグリーフケアも重要な役割である。

 チャプレンはキリスト教が基盤だが、仏教にも同じような役割を担う人たちがいて、ビハーラ僧と呼ばれる。一方、臨床宗教師は、特定の宗教を想起させることを避け、様々な現場で宗教的な心のケアをする人の名称として生まれた。

 きっかけは東日本大震災だった。震災後、全国各地から僧侶、牧師、神職らが続々と被災地に入り、遺体の安置所や海岸などで祈りを捧げた。心の相談室やカフェ・デ・モンク(※2)など、心のケアをする活動にも取り組んだ。

 臨床宗教師は、そうした宗教者たちと、宮城県名取市で長く在宅緩和ケアに努め、震災時には宗教者の活動を支援した故・岡部健医師の思いが結実して誕生した。

※1 スピリチュアルペイン/終末期患者の人生の意味や死への恐れなど、死生観をめぐる悩みに伴う苦痛のこと。世界保健機関(WHO)による緩和ケアの定義の中で、身体的な苦痛などとともに、軽減に努めるべき苦痛の一つとされている。

※2 カフェ・デ・モンク(Cafe de Monk)/宮城県栗原市の僧侶、金田諦應さん(臨床宗教師)が中心となって運営する傾聴移動喫茶。かつては被災地の避難所や仮設住宅で開催されていたが、今では各地に広がっている。

dot.ドット 2016年年2月14日

28年度診療報酬改定:メッセージを読み解く
佐々木淳 医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長

 今回の診療報酬改定は、メッセージが明確。ちょっと複雑すぎるかなと思うところもあるけど、細かい数字の一つひとつに緻密な計算を感じる。

●在宅医療に特化したいなら「在宅」にしっかり取り組むべし。

 在宅医療専門という医療機関が認められたのは画期的。地域医療における在宅医療の専門性を位置づける一つのマイルストーンになると思う。

 しかし、在宅医療専門を謳うためには、いくつかのハードルがある。

@全患者数に占める在宅患者の割合が95%以上
A年間看取りが20人以上
B要介護3以上+別に定められた状態(医療依存度の高いケース)の患者が50%以上
C居宅患者が30%以上・・・・

 逆に在宅患者の割合が95%以上なのに、A以下を満たせないクリニックは「在宅専門もどき」の烙印を押され、診療報酬も2割カットされる。施設診療に特化しているクリニック、緊急対応せずに救急搬送してしまうクリニックなどを狙い撃ちした感がある。

 ここが今回の診療報酬改定の最大のポイントではないかと個人的には思う。

●在宅+外来ミックスのススメ。

 在宅患者の割合が95%を超えると厳しいハードルが課されるが、逆に在宅患者の割合が95%未満だと、これらのハードルが消失する。

 これは、まだ在宅医療に取り組んでいない地域の開業医に対するアドバンテージの提供ではないかと思う。少なくとも施設在宅医療は、在宅医療専門クリニックはやりにくくなる(施設患者の割合が70%を超えるとペナルティ)。逆に、在宅患者の割合が95%未満なら、施設患者の割合にしばりはない。

 今後、施設への訪問診療は、近隣の開業医が担当すべき、ということになるかもしれない。

 しかし、施設診療における診療報酬上の「うまみ」は少なくなっている。きちんとした連携体制を作ることができない施設は、訪問診療医を確保することが難しくなるかもしれない。

●診療の品質と効率を両立せよ。

 施設に入居している患者さんの診療報酬は、その建物に何人の患者さんがいるかで決まる、というのが今回のルール。1人の場合、2〜9人の場合、10人以上の場合で3通りの診療報酬が設定されている。

 人数が多ければ多いほど、一人あたりの移動時間や交通費などの間接的な所要時間やコストが圧縮されることを反映したものと思われる。

 居宅患者の訪問診療を考えると、診療効率という視点からは合理的な設定になっていると思う。

 前回の改定では、施設診療の大幅減額を示す一方で、「1日1人診察だったら居宅並みの特別診療収入」という激変緩和措置があったが、これは2年の移行期間を経て今回は完全に廃止。

●月1回の訪問診療でも医学総合管理料を認める。

 在宅医療の主たる収入源は医学総合管理料であるが、これは月2回以上の訪問診療が算定要件であった。したがって、比較的安定しているケースにおいても、月2回の診療を行われることが多かったと思うが、今回は月1回の訪問診療でも医学総合管理料の算定が認められた。

 僕らのクリニックでも、安定していて月2回の訪問診療は過剰だなあ・・・というケースについては、月1回の訪問診療料のみ算定していたが(もちろん24時間対応込みで)、今後は医学総合管理料もきちんといただけることになった。

 管理体制のよい老人ホームに入居されている患者さんたち、あるいは介護力の強いご家族のいる患者さんなどは、月1回でも十分な医学管理ができそう。

 診療収入としては、月2回訪問診療に行った場合の半額プラスアルファくらいだが、これで新しい患者さんの受け入れ余力を増やすことができる。

●重症度に応じた診療報酬の設定。

 在宅酸素、経管栄養、気管切開、人工呼吸器、末期がん、難病、エイズなどのケースは、それ以外のケースよりも診療に時間がかかったり、衛生材料の手配など、特別な準備が必要になったりする。

 このようなケースにおいては、医学総合管理料がこれまでよりもかなり高く設定されている。

 同じ診療収入なら軽症患者のほうが楽でいいよね・・という安易な流れがこれで少し変わるか。

●質の高い在宅緩和ケアに取り組め。

 高度な緩和ケアが提供できる医師の配置、実際に高度な緩和医療を提供した実績があれば、「在宅緩和ケア充実診療所」として大幅な加算が新たに設定されている。
 
 質の高い在宅緩和ケアの定義については議論があるが、がん患者さんの看取りなど、相応のスキルと経験が必要な領域について、その専門性を評価する方向性としては非常に妥当だと思う。

●多職種連携が進むといいなあ・・・

 在宅医療は単独では結果が出せない。また在宅医が増えない中、高齢者や死亡者が増加していく現状においては、一人の在宅医が関われる在宅患者数を増やすことも考えなければならない。

 いずれの観点からも、多職種や病院との連携が今後さらに重要になると考える。

 在宅患者の将来のQOLを左右するのは予防医学的介入であり、在宅患者の再入院(緊急入院)のリスクを軽減することは在宅医の使命の1つである。訪問リハビリテーションの医療保険適応範囲の拡大は検討すべきと思うし、訪問管理栄養指導、訪問口腔衛生指導の普及を加速させるもうひと工夫があればさらによかった。

 それでも、疾病管理において、問題となっているポリファーマシーに対し、薬剤師が薬物治療に一歩踏む込むことが評価されたのはとても大きいと思う。

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「利益ではなく理想を追求する」

 これは悠翔会の基本理念の1つ。

・診療依頼は病状を理由に断らない。
・365日×24時間、確実に対応する。
・看取れる地域づくりに取り組む。
・施設診療は多職種連携しやすい集団診療を基本とする。
・安定している患者は月1回の訪問診療でも対応する。

 これらの取り組みは、今回の診療報酬の改定とは関係なく、これまで実践してきたこと。もちろんまだまだ取り組みとして不十分なこともたくさんあるけど、診療報酬で評価されているかどうかは、私たちが行動する上での判断基準の1つに過ぎない。

“The needs of the patients come first.”

 地域や患者さんから自分たちは何を求められているのか。
誰かに指示されるのではなく、自分たちの頭で考えて行動することが一番大切なこと。

 医師としても、経営者としても、目的と手段を混同しないよう常に意識していきたいと思う。

プロフィール

佐々木淳 医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。

QLife Pro 2016年2月16日


ティム・ロス主演、カンヌで脚本賞に輝いた終末医療映画「或る終焉」5月公開
 「父の秘密」で第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリを獲得したミシェル・フランコの監督最新作「Chronic」。本作が「或る終焉」の邦題で公開されることがわかった。

 本作は「海の上のピアニスト」のティム・ロスが主演と製作総指揮を務めたヒューマンドラマ。終末期の患者をケアする看護師デヴィッドが、患者から安楽死の手助けを頼まれ苦悩しながらも、ある決断を下すまでを描く。暗い過去を持つデヴィッド役をロスが務めるほか、共演にはサラ・サザーランド、ロビン・バートレット、マイケル・クリストファーらの名が並ぶ。なお本作は、第68回カンヌ国際映画祭にて脚本賞を受賞した。

 「或る終焉」は、5月より東京のBunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開。

映画ナタリー 2016年2月18日

長寿時代の“看取り図”−幸せな「最期」迎えるために
ニッセイ基礎研究所社会研究部 主任研究員 土堤内 昭雄

 人はどこで死ぬのだろう。厚生労働省「人口動態統計」をみると、2014年に死亡した127万人のうち医療機関である病院と診療所で死亡した人(以下「病院死」)が77.3%、福祉施設である老人保健施設と老人ホームで死亡した人が7.8%、自宅で死亡した人(以下「在宅死」)が12.8%となっている。今とは逆に1951年の「病院死」は11.6%、老人ホームを含む「在宅死」は82.5%だった。その後、「病院死」が増加し、1976年に「在宅死」を上回り、1999年に8割を超えた。2011年以降は減少傾向にあるのだが、医療機関における死亡が5割程度である欧米諸国に比べると日本の「病院死」の割合は非常に高い。

 その背景には戦後の医療の発展および皆保険制度により多数の国民が過大な負担なく終末期医療を享受できたことがある。また、核家族化の進展で一人暮らし高齢者が増え、在宅での看取りが難しくなったこともあろう。高齢化が進展した今日、自宅で最期を迎えたいと願う高齢者が増えているが、訪問診療や訪問介護が十分ではないために、なおも「病院死」が大半を占めているのかもしれない。

 かつて「在宅死」が普通だった時代、多くの人が親や祖父母などの近しい人の最期を自宅で看取り、その経験から「死の迎え方」を学ぶことができた。今では「死」を病院に委ね、家族や自らの死について考える機会が乏しい時代になってしまった。長生きすれば体のどこかに不具合が生じるのは当然で、それに医学的に病名を付与し、治療と投薬を行うことは可能だ。よく「老化」は病気ではないと言われるが、長寿による「老衰」は徐々に身体機能を低下させながら「死」に向かう自然のプロセスなのだろう。

 医療の目的は、人間を総体としてより良い状態に回復させることであり、個別の検査結果に基づき対症療法を重ねるような「病気を診て人を診ない」ことではない。医療が発展した現在、終末期医療は人工呼吸器の装着など延命治療である場合も多い。しかし、人生の看取りに大切なことは本人や家族が望む「最期」をサポートすることであり、すべての医療行為を受けることが本人や家族にとって常に最善の選択とは限らないのではないだろうか。

 私たちは単に長く生きたいのではない。幸せに生きて、幸せに逝きたいのだ。そのためには自らのリビングウィル(生前の意思)を明確に示すことが必要だ。寿命が延びて長い老年期を生きるようになった現在、心安らかな穏やかな人間らしい「最期」とはどのようなことかを考えることが重要である。自分らしい「死」を迎えるQOD(Quality of Death)は、自分らしい生き方QOL(Quality of Life)の実現と表裏一体だ。幸せな「最期」を迎えるために、長寿時代の“看取り図”が求められている。

ニッセイ基礎研究所 2016年3月8日

47.3%が終末の必要資金が足りるか不安と回答
終活に関する意識調査
 終活情報メディアの運営から高齢者見守りサービス、葬儀、墓までワンストップ終活サポートを提供するAmazingLife株式会社(所在地 : 東京都武蔵野市、代表取締役 : 篠原 豊)は、「終活」についての意識調査を実施しました。

調査結果のポイント

 70歳になる前から「終活」を意識しはじめた人は44.6%

 5人に1人が家族の死をきっかけに自身の終活を意識

 52.7%が「物の整理」を、45.5%が「残りの人生で必要な資金計画」を行いたいと回答

 9.1%が終活で準備した事を託せる人がいないと回答

 47.3%が「終末の必要資金が足りるかどうか不安」と回答

 18.2%が看取ってくれる人がいないと回答

調査結果からの考察

 近年の終活に対する意識の高まりから、自分の終末期についての関心度が具体的になってきていると共に、終末期に対する不安が具体化していることが分かりました。

 日本人の平均寿命が男女ともに80歳を超える現代において、70歳になる前から終活を意識し始める方が多く、不安や準備しなければならないことにお金の問題を挙げる方が多かったことから、老後資金の計画を早めに準備しはじめる方が多い一方で、終活しても頼れる人や看取ってくれる人が周囲にいないといった方も多く、孤独死が社会的な問題となっている今、そうした課題の解決も急務となっているようです。

調査結果詳細

調査実施時期 2016年3月

調査方法 インターネットで110名の方へアンケート方式で調査を実施

回答者の属性

回答者の男女比



回答者の年齢



調査結果 1 あなたが終活について意識しはじめたのはいつごろですか?



調査結果 2 終活を意識しはじめたきっかけは何ですか?



調査結果 3 何について終活しようと思っていますか?



調査結果 4 終活で準備したことは誰に託しますか?



調査結果 5 終活において不安な事は何ですか?


AmazingLife 2016年3月9日

「在宅、専門診療所を含め、多様な主体で」
全国在支診連絡協議会、全国大会でシンポ
 全国在宅療養支援診療所連絡協議会の第3回全国大会が3月12日、13日の2日間の日程で、都内で開催された。13日のシンポジウム「緊急討論!2016年度診療報酬改定について議論する」で話題になったのが、2016年度改定で新設された、在宅専門診療所の扱い。その存在意義を認め、診療報酬上での制度化は評価する声が多かったが、落下傘的に在宅専門診療所が開業した場合、地域包括ケアシステムの構築に支障を来す懸念も呈せられた。

 厚生労働省大臣官房審議官 (医療介護連携担当)の吉田学氏は、在宅医療に関し、「全国的に見ると、まだサービスは不足している」と現状を分析し、多様なサービス主体を整備する必要性から、今改定を実施したと説明。外来診療を手掛けている診療所に対しては、在宅医療への取り組みを促す狙いがある一方、在宅専門診療所に対しては、集合住宅や施設の入居・入所者だけでなく、地域の患者も広く診るよう促す狙いがある。在宅専門診療所の施設基準は、「軽症患者ばかりを診る」「(外来診療をやっていないため)拠点が分からない」といった批判を踏まえ、重症患者の要件などを設定したという。

 首都圏で在宅医療を主に行う診療所を9カ所運営する、医療法人悠翔会理事長の佐々木淳氏は、「患者の利益を最大限考えると、かかりつけ医が最期まで診るのが理想」としつつ、専門的な在宅医療が必要になった場合や24時間対応の必要性を考えると、現実には難しいとした。「私たちは、専門性を持った在宅医療に取り組んでいる」と語る佐々木氏は、人工呼吸器を装着する患者や、緩和ケアが必要な患者などを専門的に診る体制を構築し、地域の一つのセーフティーネットの役割を果たしているとした。さらに悠翔会では、「救急診療部」という部門を持ち、地域の他の14カ所クリニックとも連携して、休日や夜間等の対応をバックアップしていると説明。こうした対応を取るには、一定の事業規模が必要だとした。なお、悠翔会の9カ所のクリニックのうち、7カ所は在宅専門診療所の要件を満たし、残る2カ所は施設等の入居・入所者への在宅医療が多いことから、現在対応を検討中だ。

 坂の上ファミリークリニック(静岡県浜松市)などを運営する医療法人心理事長の小野宏志氏は、在宅医療が発展してきた一因として、在宅専門診療所の登場が挙げられ、「今回評価されたのは素晴らしいこと」と認めつつ、一方で、在宅専門診療所が地域に落下傘的に開業すると、地域包括ケアシステムの構築、地域に根差した在宅医療の発展に支障も来しかねないと懸念した。

 出水クリニック(大阪府岸和田市)院長の出水明氏は、在宅専門診療所の要件について、「非常に厳しく、クリアできるのはどの程度があるのか」と問いかける一方、在宅医療の担い手の養成や研究は、在宅専門診療所がけん引してきたことは間違いないと認めた。さらに在宅医療の提供体制は、大都市と地方都市、地方都市の中でも大学病院がある地域とそれ以外の地域など、地域性が大きいとも指摘。

 吉田氏は、2025年に向けて構築が進む地域包括ケアシステムについて「『ご当地システム』。制度ではなく、実践が形作るネットワーク」と説明。この言葉に表われているように、在宅医療体制についても、地域の実情に応じて整備する必要があると言える。

24時間対応、複数医師・チームで


 シンポジウムでは、在宅医療における24時間対応についても議論された。24時間対応の必要性には異論は出なかったが、その対応法は地域によってバリエーションがある。共通しているのは、医師一人ではなく、複数あるいはチームを組み、24時間対応に当たっている点だ。

 岸和田市医師会の在宅担当理事でもある出水氏は、「岸和田在宅ケア24」の取り組みを紹介。これは、在宅医療に取り組む7カ所の診療所がネットワークを組み、24時間対応、看取りへの対応などを行う仕組みだ。通常は、各患者のかかりつけ医が担当するが、休日や夜間などに他の診療所が対応した場合には、依頼元の非常勤医という位置付けになる。「24時間対応は、医師一人で対応する必要はない」と語る出水氏は、訪問看護チームと連携する重要性も指摘。なお、出水クリニックでは、「単一建物」の患者が95%、重症対象者が65%といずれも高率で、2016年度改定で在宅緩和ケア、医療機関からの訪問看護などが評価されたことから、数%のプラス改定になる見通しだという。

 前述のように、「救急診療部」を設け、法人内の診療所に加え、地域の診療所の24時間対応を支援しているのが、悠翔会。9カ所の診療所を常勤、非常勤を含め、76人の医師、約100人のコメディカルなどで運営している。夜間等は医師2、3人が当直。14の連携クリニックが悠翔会に支払う「待機料」は、患者1人1晩50円だ。

 在宅患者からの電話連絡に対し、電話再診で済むのが3分の2。残る3分の1の往診のうち、看取りが3分の1、3分の2が緊急医療ニーズだという。「一人の医師が24時間対応するのは、患者にとっては安心感があるが、持続可能性という意味では不安定」と佐々木氏は指摘する。夜間や休日などに、かかりつけ医以外が対応する体制は、医師にとっては「『何かあったら電話して』ではなく、何かが起きないように、昼間のうちに管理しておく」(佐々木氏)という意識になるため、1人の医師が対応するよりも在宅医療の質が上がる面があり、カルテ記載なども充実するという。「都市部では、患者の医師へのこだわりはそれほど強くない。チームで診ていく体制は都市部ではある程度、有効なのではないか」(佐々木氏)。

 佐々木氏は、施設入所者の在宅医療も、診療前後の施設職員との申し送り、診療、薬などの各種オーダー、家族への説明など、相応に時間がかかる現状を説明。その上、施設職員への研修等の実施により、平均要介護度の減少や施設内看取り率の向上、誤嚥性肺炎発症の低下など、在宅医療のレベルが向上する実例も紹介。ある施設では、施設内看取り率が2013年は36.8%だったが、2015年には89.5%まで上昇した。
シンポジウムは、約3時間にわたり、2016年度診療報酬改定に限らず、在宅医療をめぐる諸課題について多角的に議論された。

へき地・離島の在宅に配慮を

 そのほか、今改定への評価として、坂の上ファミリークリニックの小野氏からは、休日の往診の点数アップなど評価すべ点もあったものの、点数体系が複雑である上、「在宅医療を頑張っている診療所、重症患者を診ている診療所の評価は手厚いものの、一般の診療所が在宅医療に取り組もうとする意欲を削いでしまわないか」との懸念も上がった。

 医療法人鳥伝白川会ドクターゴン診療所(沖縄県宮古市)理事長の泰川恵吾氏は、へき地・離島で在宅医療に取り組む難しさを紹介。有資格者の確保が困難な上、在宅医療に取り組む医療機関が少ないことから遠距離まで対応しなければならない現状を訴え、へき地・離島の在宅医療について保険診療上の配慮を求めた(『「善意の在宅」が仇、2200万円を返還』を参照)。

m3.com 2016年3月13日

認知症高齢者の“看取り”−介護施設での「最期」を考える
ニッセイ基礎研究所社会研究部 主任研究員 土堤内 昭雄

 先日、認知症高齢者が徘徊中にJRの列車にはねられて死亡した事故で、遺族に監督責任者としての賠償責任があるかどうかを争う訴訟の判決があった。最高裁第三小法廷は、「家族が高齢者を監督できる状況になかった」として妻に賠償を命じた2審判決を破棄、「家族の責任を認めない」と判断した。最高裁は、認知症高齢者の介護を家族だけに委ねておくことに限界があることを示したのだろう。

 厚生労働省によると、2012年の認知症高齢者は約462万人、2025年には約700万人前後と、高齢者の5人にひとりになると見込まれている。急増する認知症の人たちが重度の介護状況においても住み慣れた地域で暮らし続けるために、同省は平成27年、「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を策定し、認知症の人と家族を支援する「認知症サポーター」の養成に力を入れている。

 また、近年では老々介護が増え、介護疲れから介護者による悲惨な殺傷事件が多く発生している。このように認知症高齢者の家族介護の負担がきわめて大きいことから、政府は受け皿として特別養護老人ホーム(以下、特養)の増設を進めている。特養の入所者の介護度は年々重くなり、ここが認知症高齢者の“終の棲家”にもなりつつあり、特養で最期を迎える人は入所者の6割を超えているのだ。

 特養での看取りの大きな課題は、入所者の多くが認知症で、どのような最期を望むのか意思確認が難しいことではないだろうか。先週の本欄で、『私たちは単に長く生きたいのではない。幸せに生きて、幸せに逝きたいのだ。そのためには自らのリビングウィル(生前の意思)を明確に示すことが必要だ』と書いたが、認知症高齢者の場合、本人の意思とは異なる形で最期を迎えざるを得ない人も多い。

 特養の常勤医である石飛幸三氏は、著書『「平穏死」のすすめ』(講談社文庫、2013年2月)の中で、特養で自分らしい最期を迎えることが難しい理由のひとつは、ほとんどの特養に常勤医が不在であることだと述べている。人の尊厳ある看取りを行うためには、老衰の果ての死に対して医療がどのようにかかわるべきなのか、終末期医療との適切な連携が欠かせないからだ。

 特養など介護施設で最期を迎える場合も、看取りのあり方は本人の意思、家族の意向、医療・介護の状況から判断されるべきだろう。終末期には、病気を治療するキュアではなく、心と体のケアがより重要になることもある。また、介護職員の看取りのスキルの習得や職員自身の心のケアを行うことも重要だろう。認知症高齢者がますます増える今日、認知症になっても、長く生きてきた人間が尊厳を持って「最期」を迎えるために、介護施設での“看取り”の体制の整備・充実が必要ではないだろうか。

ニッセイ基礎研究所 2016年3月15日

モロッコ:人生の終末期に必要のない痛みに耐える幾千もの人びと
 モロッコでは数万人規模の終末期にある患者が、衰弱するほどの痛みなどの症状に不必要に苦しんでいる、と本日(編注:2016年2月4日)ヒューマン・ライツ・ウォッチHuman Rights Watchは、世界がんデーにあわせて発表した報告書内で述べた。

 報告書「私を切り裂く痛み:モロッコにおける緩和ケアへの権利保障の課題と前進」(全77ページ)は、毎年6万2,000人超のモロッコ人が緩和ケアを必要としていると推定。

 緩和ケアとは、痛みなどの症状を治療することで、終末期にある人びとの生活の質の向上に重点をおくものだ。モロッコ政府は終末期ケアを改善するために数々の重要な手段を講じてきた。

 しかし本報告書の調査で、必要不可欠なこの医療サービスを提供する特別病棟をもつ医療施設は、カサブランカと首都ラバトにあるわずかふたつの公立病院にとどまり、その対象もがん患者に限られていることが明らかになった。

 これらの都市以外の場所で激しい痛みに苦しむ患者は、これらの医療施設に大変な思いをして通院するか、効果的な疼痛治療薬なしの治療を続けるよりほかない。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチ保健と人権プログラムのアソシエート・ディレクター、ディデリク・ローマンは、「モロッコ政府は早急に緩和ケアサービスを拡大する必要がある」と述べる。 「現在モロッコでは、がんやその他の深刻な健康状態にある何千人もの人びとが、治療可能な症状で不必要に苦しめられている。」

 ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまで、不治の病を患った人びとに対し国がどのような医療サービスを提供しているかについて、一連の報告書を発表しており、本報告書は9番目となる。これまで報告してきたのは、アルメニア、インド、ケニア、メキシコ、セネガル、およびウクライナだ。

 モロッコでは2014年9月から2015年1月の間に、5つの地域で計85人の患者および医療従事者に対して綿密な聞き取り調査を実施。加えて、緩和ケアに関連する国内法、規制、政策の広範に及ぶ分析を行った。

 調査結果からみえてきたのは、症状が進んだ心臓・肺・腎疾患など、がん以外の病気のために緩和ケアを必要としている人びとが特に悲惨な状況にあり、その数は毎年4万人にのぼるという実態だった。モロッコではこうした患者を対象にした緩和ケアサービスがまったく存在しないためだ。

 緩和ケアサービス不足の結果、実に多くの患者が適切な治療を受けられないまま、激しい痛みに苦しんでいる。わずか50人に1人ほどの医師しか、外来患者のためのモルヒネを処方できない。

 モルヒネは人生の終末期の激しい痛みに対する主力治療薬だが、モロッコではこれを必要とする5人のうち4人が処方されていないと推定される。 カサブランカと首都ラバトの外にでてしまえば、在宅の緩和ケアは皆無である。

 足と腹部に腫瘍ができていたが、緩和ケアへのアクセスがなかったある29歳の男性は、「痛みで眠ることも友達と話すこともできなかった」と話す。「頭を壁に打ちつけたいと思ったほどです。」

 一方で、近年モロッコ政府が緩和ケアサービスを発展させるために、意味のある前進を果たしてきたことも調査結果から分かっている。 2010年と2012年に、緩和ケアに関するしっかりとした条項を含む国民健康政策を採択。

 2013年には、問題となっていたモルヒネのアクセス制限を、薬物法から削除した。そして2015年、モロッコは医学部のカリキュラムに疼痛緩和ケアを履修単位として盛り込んだ、中東・北アフリカで最初の国のひとつとなった。

 しかしながら、その実行は遅れている。

 政府が2013年にモルヒネを処方するための規制を簡素化した一方で、様々な法的・教育的障害がその実用を妨げているのである。政府は2011年から2013年の間にフェズとマラケシュで緩和ケア病棟の開設を予定していたが、まだ実現していない。

 強力な鎮痛剤のストックがある薬局や病院はごく一部で、それらを処方する医師も限られている。加えて、医療サービス提供者のための継続的な医学教育プログラムも限定的なままだ。

 世界保健機関(WHO)は、緩和ケアを医療の一部をなす不可欠のものと考えており、国の医療制度に統合するよう勧告している。

 モロッコが1979年に批准した経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)の第12条は、政府には緩和ケアの可用性、モルヒネなど緩和ケアに必要不可欠な医薬品へのアクセス、および医療従事者の適切な訓練を保障する義務があると定めている。

 これを怠れば健康への権利の侵害につながるかもしれず、かつ特定の事例では、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱いの禁止に抵触する可能性も出てくる。

 モロッコの緩和ケアにおける先駆者であるマティ・ネジミ(Mati Nejmi)博士は、「モロッコは、フランス語圏のアフリカ地域において緩和ケアの分野でリーダーになるチャンスを与えられている」と指摘する。

「しかし、これらの医療サービスを確実に利用可能なものにするために、努力を大幅に増す必要があるだろう。」

Huffpost Japan 2016年3月15日

幸せにする、ホスピスで味わう“人生最後のごちそう”
 大阪市にある『淀川キリスト教病院 ホスピス・こどもホスピス病院』は、日本では珍しい完全独立型のホスピスだ。

 成人15床、子ども12床がすべて個室で、ゆったりとした院内では、末期がんの患者に緩和ケアを行うとともに、毎週土曜の夕食は患者の希望に沿った“リクエスト食”を作っている。

 その取り組みについて、ライターの青山ゆみこさんは、14人の患者と、それを支える病院スタッフの声を中心に『人生最後のご馳走』という1冊にまとめた。

「取材で通うようになり、ホスピスは死を待つところではなく、最期までその人らしく、よく生きるための場所だと知りました。ホスピスで行われるケアは、“わたしはあなたを大切に思っている”というメッセージを患者さんに伝える表現方法で、リクエスト食は、食を通したそのひとつの形なのです」(青山さん)

 リクエスト食は金曜の午後、管理栄養士が病室を回って患者ひとりひとりに「何が食べたいですか?」と聞き取りをするところから始まる。

 聞き取りは単に「天ぷら」「お好み焼き」といった希望のメニューを知るだけではない。

 ゆっくりと質問を重ね、その料理にまつわるエピソードや思い出に耳を傾けながら、味つけや食材など細かな情報も得ていく。

「そうして患者それぞれの“人生の一食”を再現していきます」

 リクエストは豪勢な食事というより、日常の一品や思い出深いメニューなどが中心。青山さんは聞き取りに同席し、さらに取材を重ねたという。

「何の気なしにリクエストしたメニューでも、実はその家族だけの味だったり、幼少期の思い出に結びついていたり、これは食を楽しむのと同時に人生を振り返ることもできる食のケアなのだと気づきました。

 例えば、食べ歩きが好きだという竹内三郎さんは、貧しかった幼少期、3日に1度しかお弁当を持って行けず、おかずは焼いて裂いたスルメイカだけだったと苦労話までが懐かしく楽しい思い出のようでした。 食の記憶には幸せな気持ちがついてくる。それを語ることは自浄作用のようなものがあるのかもしれません」

 また、リクエスト食が土曜の夜に出されるのは、家族が見舞いに訪れやすいからだという。

 頼んだメニューから話が広がり、親子の間で、あらたまって語られることのなかった会話を生んだり昔話に花が咲く。親密で温かな時間をともに過ごすうち、大切な思い出が家族の間で引き継がれていく。

 本書に登場する方々は余命わずかと思えないほど、明るく穏やかな様子が感じられる。

 青山さんによれば、入院当初は抗がん治療の副作用などで心身ともに大きな苦痛を抱えているが、ホスピスでこまやかな緩和ケアを受けることで「元気になった」と感じる人が多いそうだ。

 苦痛が和らぐと同時に食欲もアップ。しかも、このホスピスでは、料理は家庭で使われているような陶器のお皿にきれいに盛りつけられ、日本料理出身の調理師が心を込めた味つけで、なにより押しつけではない自分の食べたいご飯が食べられる。

 食べることが幸せと感じられる人が多いのは、スタッフによるケアの賜物と、食べる喜びが秘める力のなせるワザだろう。

「人を元気にするのは栄養だけではない。家族や親しい友人と囲む食卓や誰かの思いの込められた料理には、人を幸せにする力があります。

 家庭での食事にも、同じような可能性があるはず。贅沢な食事でなくてもいい。家族が共有してきた味が、忘れていた思い出をよみがえらせることもあるでしょう」

 食の豊かさや大切さをはじめ、たくさんのことを教えてくれる本書は、自分にとっての最後の食を考える大きなヒントとなるはずだ。

週刊女性PRIME [シュージョプライム] 2016年3月26日

浸透しつつある「診断時からの緩和ケア」
 診断時から始める緩和ケアが臨床に浸透しつつある。「緩和ケア」というとターミナルケアのイメージが強くネガティブな側面が強調されることも多かったが,2012年に閣議決定された「第2期がん対策推進基本計画」で「がんと診断された時からの緩和ケア」との文言が盛り込まれ,体制整備が進められてきたからだ。しかし,医師に対する患者の遠慮や医師・病院管理者の誤解などから正しく理解されていない面も多い。3月5日に東京で開かれた「徹底討論! 『診断時からの緩和ケア』これからどうする」(主催=日本緩和医療学会,座長=京都府立医科大学疼痛・緩和医療学講座教授・細川豊史氏,市立札幌病院精神医療センター副医長・上村恵一氏)での討論からトピックスを紹介する。

医療側からのアプローチが介入の鍵に

 がん診療での疼痛管理には,かつては大きな誤解があった。緩和ケア医が「放射線療法や抗がん薬治療の効果が分からなくなるので,鎮痛薬の投与を中止してほしい」と要望されることも過去にはあった。また,患者側も副作用が出ないと抗がん薬の効果がないと思い込んでいるケースがあったという。

 緩和ケアの進歩と普及によって「疼痛は緩和するもの」という概念が一般的になってきたものの,いまだに「緩和ケア=ターミナルケア」のイメージが完全には払拭できておらず,診断時からの緩和ケアが理解されないこともある。

 この問題に対し聖路加国際病院(東京都)緩和ケア科部長の林章敏氏は「がんと初めて診断されるときに,患者は精神面も含めて苦痛,衝撃を受ける。そのために診断時から緩和ケアが提供されるべき」と意義を強調する。患者の立場で参加をしたNPO愛媛がんサポートおれんじの会理事長の松本陽子氏も「医師から最初に『痛みは取らなきゃね』と言ってもらったことがその後の治療の支えになった人もいる」と緩和ケアの早期介入を望んでいる。

 一方で,同じく患者の立場から参加した全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介氏は,「診断時は患者も混乱しており治療のことのみに意識がいきがちで痛みを我慢してしまうことが多い。患者の実情として,診断時から痛みを訴えることが難しい」と本音を吐露した。このため医療スタッフ側からの働きかけが介入の鍵になるが,さらに継続していくことにも難しい面があるようだ。

 腫瘍内科で専門看護師として初診に同席をして患者相談を受けている昭和大学保健医療学研究科教授の梅田恵氏によると,継続的な支援が必要でも次回の面談の約束を取らないと会ってくれなくなる患者もいる。「こちら側からアプローチしないと相談に来てくれない人にどうアプローチするかが大切」とした。

「鎮痛薬の処方」も緩和ケアになる

 討論では具体的に誰が緩和ケアを行うかも課題とされた。患者側の参加者である天野氏と松本氏は「どの医療スタッフでもいい」と口をそろえるが,医療側にとっては多職種間で問題となるケースもある。フロアから発言した緩和ケア医は,患者が望んでいても主治医が許可しないので提供しにくいという医療現場での悩みを訴えた。

  これに対し国立がん研究センター理事の堀田知光氏は施設管理者の視点から「病院長が正しく指導すれば解決する。緩和ケア研修会に施設管理を行っている医師も参加が義務付けられている」と発言。有明病院(東京都)名誉院長の門田守人氏も「全てのスタッフが緩和医療を理解し行うことが望ましい。全ての医療従事者への教育が重要」とした。細川氏は病院長を対象にした緩和ケア研修会を行うと,緩和ケアの重要性を認識し病院として取り組む施設が多いと自身の経験談を披露,スタッフが緩和医療を理解することの重要性をアピールした。

 また同氏は「誰が緩和ケアを行うかが問題ではなく,誰かが実行できることが大切。専門スタッフがいるなら任せるべき」と細川氏は主張する一方で,「主治医が患者に鎮痛薬を処方すること,医療費に困っている患者に経済面の支援をすること,患者が相談しやすい窓口をつくることなど,こんなことも緩和ケアになることを認識してほしい」と価値観の変化を促した。  

 最後に,座長の上村氏は「診断時からの緩和ケアの普及にはまだまだ課題があり,患者,主治医,緩和ケア医など関係者が話し合うことが重要だ」と締めくくった。

MedicalTribune 2016年3月26日

「尊厳死」法制化に揺れる日本、高齢化と財政難が拍車
 定年退職した元航空会社職員、丹澤太良さんにとって、84歳の母親が迎えた安らかな死は自分自身の終末の姿を考える重い体験でもあった。

 悪性リンパ腫として限られた余命を宣告された母親は、診断を受けた病院を出て介護施設に移った。延命治療は拒み、痛みを緩和する措置だけを受けながら、静かに息を引き取った。

 「(母の死は)まだ早いと思っていたが、同時にこういった死に方もあると思った」と68歳の丹澤さんはロイターに語った。

 その後まもなく、丹澤さんは自分自身の「リビング・ウイル」(遺言書)を作成し、病気や事故などの結果で死期が迫ったり、植物状態になったりした場合でも延命措置は望まないと明記した。

<「死のありかた」へ高まる関心>

 尊厳死の選択を宣言する「リビング・ウイル」。日本は世界でも最も速いスピードで高齢化が進む国のひとつだが、丹澤さんのように、意に反した延命措置を拒み、自ら望む終末期の姿を生前に書き残す人はまだ少数派だ。カリフォルニアやカナダ、ベルギーなどで合法化されている医師による自殺ほう助(physician-assisted suicide、PAS)だけでなく、「リビング・ウィル」に関しても、日本では何の法律も整備されていない。

 しかし、団塊世代の高齢化が進み、死のあり方への関心が高まる中で、延命拒否をタブー視する伝統的な考え方は少しずつ変わりつつある。テレビや新聞、雑誌、書籍などで「老衰死」が取り上げられるようになり、高齢者の間では「終活」セミナーが人気だ。医療の専門家によれば、衰弱した高齢患者への栄養チューブ利用も減っているという。

 「いま考え方を見直す転換期にいると思う」と民進党の増子輝彦参議院議員は語る。医療措置によって生かされているだけでは人間としての尊厳が損なわれる。そうした考えが日本人の間で一般的になりつつあると指摘する。

 増子議員が会長を務める超党派の議員グループ「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」は、患者の同意を得て延命措置をしなかったり、中止したりした場合、医師を法的責任から守るための法律の制定を積極的に働きかけている。しかし、昨年、同グループは新たな法律の原案をまとめたものの、未だに国会提出に至っていない。

<「薄情な治療中止」恐れる声>

 厚い壁の一つは、伝統的な家族観に基づいた心理的な抵抗だ。これまでも日本では、家族がお年寄りの面倒をみるべき、という昔からの考え方が、延命治療を拒否したり中止したりする際の障害になってきた。患者が望んだとしても、多くの家族は薄情にも治療を放棄したと責められるのを恐れているのだ。

 医師も、家族から裁判で訴えられるとの危惧を抱いている。厚生労働省は2007年に「終末期医療」のガイドラインを作成、患者本人や代理人が医師などからの適切な情報提供や説明に基づいてケアのあり方などを決定する、医療行為を中止・変更する決定は複数の専門家で構成する医療ケアチームが慎重に検討する、などと定めている。

 しかし、医師側の懸念は払しょくできていない。「医師はそうした治療を中止した場合、刑事上、民事上いずれでも責任を問われないよう何らかの保証を求めている」。医師でもあり、かつて終末期のがん患者を担当したこともある自民党厚生労働委員会の古川俊治参議院議員は語る。

 さらに、 障害者の権利を守ろうとする団体が、安楽死合法化の第一歩になりかねないとの懸念から、強く反対している。

 法制化推進派が主張するのは、人間は尊厳を保って死に至ることを望む、ということだ。しかし、法制化推進派が「リビング・ウィル」の普及を働きかけているのは医療費削減が目的だ、と障害者の自立を支援するヒューマンケア協会の中西正司氏は手厳しい。

 こうした法案が通れば、「安楽死(の推進)につながってしまう」と72歳の中西氏はいう。同氏は21歳の時に脊髄を損傷、その時に医師からは3カ月の命と告げられた。以来、車いすの生活が続く。

<遅れる法案提出>

 日本の国民医療費は2013年度、初めて40兆円に達した。75歳以上の高齢者の医療費が全体の3分の1を占め、高齢化に伴ってその割合はさらに増える傾向にある。

 この話題がいかに微妙な問題であるかは、麻生太郎財務相が2013年、高齢者の高額医療と関連して、終末期の高齢者は「さっさと死ねるように」してもらわないと、などと発言し物議をかもしたことでも明らかだ。

 尊厳死法案は、7月に予定される総選挙前に提出されることはないだろう。議論を巻き起こすような法案をこの時期に進める利点はほとんどないからだ。

 「私のような団塊の世代が高齢になりつつある。現実問題として、死に直面せざるを得ない」。老母の尊厳死を見届けた丹澤さんの言葉は、命の終わり方をめぐる議論が日本社会でさらに広がる可能性を示唆している。

トムソン・ロイター 2016年3月31日

書評・新刊案内
小児緩和ケアガイド
大阪府立母子保健総合医療センターQOLサポートチーム 編
《評 者》細谷 亮太(聖路加国際病院特別顧問・小児科)

病気の子どもたちに「痛くなく苦しくない日常」を贈るための実践的ガイド


 緩和ケアは小児がん治療と深くかかわっています。小児がんの治療のきっかけを見いだしたのは,ボストン小児病院のFarber教授でした。成人のがんのほとんどが上皮性の悪性腫瘍(癌腫)であり,早期に診断して外科処置をすれば古くから治し得たのに対し,小児にみられる悪性腫瘍は間質性の悪性腫瘍(肉腫)であり,多くの場合,診断時,既に体内のあちこちに微小転移が存在してしまっていて,局所的な治療は治癒をもたらすことができませんでした。

 そのような中,全身的化学療法の導入で新しい時代の扉を開けたのがFarberだったのです。それでも,1947年から始められた彼らの試みが結実し,治癒が実現されるまでに30年近い月日を要しました。その途上で,Farberはトータルケアの概念を創り上げていきました。がん,そして治療に伴う痛みや苦しみなどの身体的な苦痛だけではなく,精神・心理的な苦痛,経済的な問題や家庭内の問題のような社会的な苦痛についても,医療チームが初めから一丸となってその子をケアすることの重要性を説いたのです。そして結果としての治癒の時代が来たのです。

 トータルケアの中で,苦痛を緩和する領域が「緩和ケア」として発達しました。しかし,あくまで「緩和ケア」はトータルケアの概念の中で必須なものであることを忘れてはならないのです。

 小児がんのトータルケアのうち,ハードの部分は化学療法,免疫療法,放射線療法,外科的療法であり,ソフトの部分が「緩和ケア」ということになります。小児がんの子どもだけでなく,広く病気の子どもたちに心身ともに痛くなく苦しくない安楽な日常をプレゼントすることは,小児医療のソフト面での重要な目的と言えます。本書はその実現のための有用なガイドです。編集は大阪府立母子保健総合医療センターのQOLサポートチーム,執筆は,医師(血液・腫瘍科,こころの診療科),看護師,薬剤師,臨床心理士,医療ソーシャルワーカー,ホスピタル・プレイ士の皆さんです。特にチームの中堅・若手が書いているだけに非常に実践的であるのがうれしいところです。

 冒頭にピンク色のページがあり,そこに2行,「子どもの苦痛は最小限に笑顔を最大限に」と書いてあります。泣かされる一言です。

 この言葉に触れ,今から30年あまり前,私が同じ医学書院からLynn S. Baker著“You and Leukemia”の訳書『君と白血病』1)を出版したときのことを思い出しました。扉のページには「この1日を貴重な1日に」とありました。時代の流れを実感します。

 訳者の私は当時34歳。医学書院の編集者も同年代で,2人とも孤軍奮闘感のある刊行でした。当時は,家族や患児本人に病気のことを詳しく伝えることは,自分たち(医療者)の首を絞めることになるという考えが医学界の大勢を占めていました。さまざまな逆風にもかかわらず,私も編集者もよく生き残ってこられたなぁという感慨を持ちながら,本書を詳しく読んでみました。

 第1章ではコミュニケーションを取り上げ,子どもとのコミュニケーション,治療が困難な状況などでのコミュニケーション,医療者のコミュニケーション・スキルと留意点が解説されています。そこでは,子どもの思いや理解力を尊重しながら接するのが基本だということが強調してあります。伝えるための準備,実行のタイミング,実際に気を付けねばならないポイントなどが解説されています。また再発時や治らないということが明らかになったときの話の仕方についても言及されています。相手のことを知り,自分のことを知り,開かれた質問をして共感的な応答をするのが極意ということがわかるようになっています。

 第2章は家族へのケア。その後第3章・第4章では,疼痛,疼痛以外の身体症状(嘔気・嘔吐,下痢,便秘,倦怠感・虚弱,食欲不振・体重減少,呼吸困難・息切れ,死前喘鳴・気管分泌物過多)の緩和について,原因,評価法,ケアの工夫,薬物療法を丁寧に述べています。

 第5章は精神症状(不安,せん妄,うつ症状など)の緩和,第6章では子どものこころのケア,第7章は在宅ケアについて。第8章では,医療者のメンタルヘルスにまで考えを進めています。

 これだけの情報が,多職種の執筆者によって一冊の本にまとめられたことに大きな意味があります。それも本文が140ページほどのコンパクトなガイドブックであることがとてもありがたい。

 私たち小児の臨床にかかわる者が,まず心しなければならないのは,子どもたち一人ひとりを一人の人間として大切にしなければならないことと,もう一つ,人間はそれぞれがそれぞれの特性を持っていてバラエティーに富んだ存在であるということです。

 このようなマインドを持った上で,このガイドブックを手にしたなら,最強のケアギバーが誕生するはずです。

週刊医学界新聞第3170号 2016年4月11日

緩和ケアの施設間格差の是正や、緩和ケア研修会の受講推進を―緩和ケア推進検討会
 緩和ケアチームや緩和ケア外来の実績について、がん診療連携拠点病院間でも格差が大きなことから、他施設との交流や実習を伴う実地研修の実施が必要ではないか。また、緩和ケア研修会について「受講率9割以上」という目標を達成するために、単位型研修や関連団体の認定医制度との連携などを図るべきである―。

 厚生労働省の緩和ケア推進検討会は、8日に公表した報告書の中で、こういった提言を行っています。

 第3期のがん診療連携推進基本計画の中でも、緩和ケアの推進は継続して重要事項になるため、今後の具体的な方策などが注目を集めます。

ここがポイント!

1 第3期がん対策推進基本計画に向けた提言

2 緩和ケアチームなどは設置されているが、実績には拠点病院間で格差も

3 苦痛のスクリーニング、「診断時からの実施」に向けた体制整備が課題

4 緩和ケア研修会、2017年6月までに主治医・担当医の9割受講を目指す

5 緩和ケアへの正しい理解・普及に向け、医学生などへの教育も重要テーマ

6 緩和ケアの地域連携に向け、コーディネーターや訪問看護師の育成を


第3期がん対策推進基本計画に向けた提言


 わが国のがん対策は、概ね5年を1期とする「がん対策推進基本計画」に沿って進められています。現在、第2期の基本計画(2012−16年度)が動いており、第3期基本計画の策定に向けた検討が本格化しています。

 がん対策基本計画の概要、(1)がん予防及び早期発見の推進(2)がん医療の均てん化の促進など(3)研究の推進など―の3点を基本施策に据えている

 第2期基本計画の中では、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重要な柱の1つとなっており、厚労省は「緩和ケア推進検討会」を設置して具体的な方策を検討しています。

 検討会は2013年8月に第2次中間取りまとめを行い、そこでは(1)がん診療連携拠点病院に緩和ケアチーム、外来緩和ケア体制、緩和ケア体制(都道府県拠点病院のみ)の整備(2)拠点病院が中心となった緩和ケア研修会の開催と、がん医療に携わるすべての医療従事者の研修受講―などを提言。これらは拠点病院の指定要件にも盛り込まれました。

緩和ケア推進検討会の第2次中間取りまとめ(2013年8月)



 検討会では、今後策定される第3期基本計画に向けて、現状の課題を整理した上で更なる緩和ケアの推進に向けた提言を行っています。

緩和ケアチームなどは設置されているが、実績には拠点病院間で格差も

 前述のように拠点病院には、緩和ケア体制の整備が義務付けられています。具体的には、「緩和ケアチームを設置し、週1回以上、定期的な病棟ラウンド・カンファレンスを実施、苦痛のスクリーニングや症状緩和に努める」「都道府県拠点病院では、緩和ケアセンターを設置し、定期的ながん看護外来や地域の医療機関などと連携した月1回程度のカンファレンス実施」などが必要です。



 この点について、検討会が実地調査を行ったところ、▽緩和ケアチーム・緩和ケア外来について、施設間で実績の格差が大きい▽緩和ケアセンターが「地域連携部門と連携して主体的な活動を行う」までには至っていない▽苦痛のスクリーニング結果やがん患者の療養生活の質に関する評価までは行っていない―という課題が浮上してきました。

 このため検討会は、▽他施設との交流や緩和ケア病棟・拠点病院などにおいて「実習を伴う実地研修」の実施▽地域連携の積極的な推進▽外部評価者が参画したピアレビュー(拠点病院間における相互評価)などによる質の総合的な評価―などを行うべきと提案しています。

苦痛のスクリーニング、「診断時からの実施」に向けた体制整備が課題

 また拠点病院には、「がん診断時から身体的・精神的・社会的苦痛のスクリーニングを外来・病棟で行う」「緩和ケアチームと連携し、がん患者の苦痛を迅速かつ適切に緩和する体制を整備する」ことが求められています。

 しかし、人員不足などのため、「診断時からのスクリーニング」を実施できている拠点病院は少数派なのが実際です。

 そこで検討会では、▽スクリーニング実施体制の整備をどう図っていくかを検討する▽がん看護専門看護師や認定看護師、これらを補助する事務職員の確保をどう図るか―を検討するとともに、「スクリーニングの好事例」に関する情報提供を推進することを提案しています。

緩和ケア研修会、2017年6月までに主治医・担当医の9割受講を目指す

 一方、拠点病院には緩和ケア研修会を実施することが求められており、「初期臨床研修2年目から研修終了後3年目までのすべての医師」がすべて研修を修了するという目標が立てられています。

 しかし、2014年9月1日時点で、研修会を修了した医師の割合は33%に止まっています。検討会では「2017年6月までに、がん患者の主治医・担当医となる医師の9割以上が研修会の受講を完了させる」という目標を新たに立てました。

 さらに検討会では、▽単位型研修▽学会などの認定医制度との連携―など受講しやすい環境づくりにも配慮することを要望しています。

緩和ケアへの正しい理解・普及に向け、医学生などへの教育も重要テーマ

 ところで緩和ケアは、前述のとおり「がんと診断された時」から実施することが必要です。早期の介入が、がん患者の予後を向上させるという研究結果も出ているためです。



 しかし、一般国民のみならず医療従事者にも「緩和ケア」の正しい理解が浸透していないという現状があります。

 こうした状況が緩和ケアの推進を阻んでいる面もあることから、検討会では▽医師・薬剤師・看護師からの「正しい緩和ケア」の説明▽緩和ケアの普及啓発用ポスターの積極的な配布▽緩和ケア研修修了者へのバッジ配布▽医学生・臨床研修医はもとより、看護学生・薬学生・看護師・薬剤師などへの緩和ケアに関する教育・研修▽学校教育の中でのがん専門医やがん患者の活用―を積極的に推進していくことを強く要望しています。

緩和ケアの地域連携に向け、コーディネーターや訪問看護師の育成を

 さらに検討会では、「施設間での格差是正に向けた、共通の疼痛指標の活用」や「施設間連携を進めるために、コーディネーターの育成や多職種による情報共有、緊急緩和ケア病床の確保、緩和ケアを提供できる訪問看護師の育成」なども提言しています。

 ちなみに共通の疼痛指標として、「がん診療連携拠点病院におけるがん疼痛緩和に対する取り組みの評価と改善に関する研究」班は、(1)11段階の痛みの強さ(NRS:Numeric Rating Scale、患者自身が0から10段階で痛みを評価)(2)11段階の痛みの及ぼす生活への指標(NRS)(3)5段階の痛みに対する医療者の対応(POS:Palliative Outcom Scale、医療従事者が評価)(4)5段階の看護師から見た痛みの度合い(POS)―の4指標が提案されています。

 また今後の検討課題として、▽拠点病院における緩和ケア提供(緩和ケアセンターの運営や苦痛のスクリーニング実施体制など)▽拠点病院以外の医療機関における緩和ケア提供体制▽すべての医療従事者が基本的な緩和ケアを身につけるための方策―についても検討する必要があるとも訴えています。

メディ・ウォッチ 2016年4月12日

末期がん患者、「自宅で最期」が生存期間少し長い
「入院」と比較、筑波大・神戸大調査で明らかに
 自宅で最期を迎えたがん患者と、病院で最期を迎えたがん患者の生存期間には、ほとんど違いがないか、自宅の方がやや長い傾向がある――従来のイメージを覆す研究結果を、2016年4月1日、筑波大学医学医療系・浜野淳講師と、神戸大学医学部・山口崇特定助教らの研究グループが発表した。

 研究では、国内58医療機関の緩和ケア病棟に入院した患者、または、緩和ケアチームが関わった患者、もしくは、在宅緩和ケアを受けたがん患者2069人を対象に、2012年9月〜2014年4月にかけて調査を実施した。

 解析対象となった患者を、「PiPS-A」という、がんの転移の有無や食欲、倦怠感、体重減少といった健康状態で、客観的な予後(病気の経過や結末)を予測する指標を使い、生存日数が「日単位」「週単位」「月単位」の3グループに分類。それぞれのグループにおいて、自宅で亡くなった患者と病院で亡くなった患者の生存日数を比較している。

 その結果、生存日数が日単位もしくは週単位と見込まれたグループは、自宅で亡くなった患者のほうが、病院で亡くなった患者に比べ、生存期間が有意に長かったことが確認された。

 月単位と見込まれたグループは、亡くなる場所によって生存期間の有意な差は確認されていない。 また、自宅で亡くなった患者は、亡くなる3日前以内に行った点滴と、自宅での緩和ケアを開始してから3週間以内の抗生剤投与の頻度が、病院で亡くなった患者より有意に少ないことも明らかになっているという。

 研究チームは、今回の研究では患者ごとに異なる条件を調整できておらず、医療行為のすべてが記録されていないといった限界もあり、自宅の方が長生きするとは言えないとしつつ、今後さらにさまざまな因子を加味し、死を迎える場所が生存期間に与える影響を検証する必要があるとコメントしている。

参考文献
Multicenter cohort study on the survival time of cancer patients dying at home or in hospital: Does place matter?
DOI: 10.1002/cncr.29844 PMID: 27018875


Aging Style 2016年4月13日

がんを宣告された女性
「もっと今を生きよう」と『世界の7不思議』を13日で制覇する
 アメリカ人女性のミーガン・サリヴァンさんは、ヨセミテ国立公園でロッククライミング中に15mの高さから落下し、車にはねられ、さらには病院で検査を受けると、皮膚がんを宣告されました。

 精神的に思いつめるほど悪い出来事が続いた彼女は、「もっと今を生きよう」と、命の洗濯をすることを決断。

 なんとたった13日間で「新・世界の7不思議」(2007年に世界中からの投票で選出)を、すべて巡ることにしたそうです。

 無謀とも思える弾丸旅行をご覧ください。

1.
チェチェン・イツァ(メキシコ)
マヤの最高神ククルカン(羽毛のあるヘビの姿の神。ケツァルコアトルのマヤ語名)を祀るピラミッド。

2.
マチュピチュ(ペルー)
空中都市として知られるインカ帝国の遺跡。

3.
コルコバードのキリスト像(ブラジル)
1931年のブラジル独立100周年を記念して建てられた。

4.
コロッセオ(イタリア)
ローマ帝政期に造られた円形闘技場。コロシアムの語源。

5.
ペトラ遺跡(ヨルダン)
紀元前2世紀ごろ、ナバテア人によって建設される。「インディージョーンズ・最後の聖戦」の舞台。

6.
タージ・マハル(インド)
ムガール帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーンが愛妃のために建てた霊廟。

7.
万里の長城(中国)
歴代の中国王朝が北方民族から防衛するために建設。世界最長の建造物。

 以上7か所。これらを13日で巡るということは、1か所につき1泊2日でも足りない計算になります。

The New 7 Wonders of the World in 13 Days - YouTube
After Being Diagnosed With Cancer, I Traveled To The 7 Wonders Of The World In 13 Days

らばQ 2016年4月18日

難病とともに暮らす子どもの成長に“友人のような立ち位置”から寄り添う
日本初の「コミュニティ型子ども向けホスピス」が誕生
小児がんなどの難病を抱えて暮らす子どもは約20万人

 日本には、小児がんなどの難病を抱えて暮らす子どもが約20万人いる。そのうち、生命をおびやかされる状態(LTC=life-threatening condition)にある子どもの数は約2万人。医療の進歩で多くの命が救われる一方、完治の難しい病気を抱えたまま生活する子どもの数は年々増加傾向にある。そのため、これらの子どもたちが入院治療を終えて退院した後の自宅看護における家族の負担の増大は、解決すべき社会的課題となっている。

 建物の周りの「原っぱエリア」は誰でも自由に遊ぶことができる
4月1日、大阪市鶴見区花博記念公園緑地内に、こうした子どもたちとその家族を支援するための施設「TSURUMIこどもホスピス(以下、TCH)」がオープンした。運営主体は難病の子どもをもつ親たちや小児科医らでつくる一般社団法人「こどものホスピスプロジェクト」(大阪市)。日本財団とユニクロから建設費など計5億4千万円の支援を受けたTCHは、世界初の小児ホスピスとしてスタートした英国の「ヘレン&ダグラスハウス」を参考に作られている。

 従来ある国内の成人向けホスピスは、末期がん患者などの緩和ケアを主眼とした終末期医療のため施設だった。それに対し、TCHは難病を抱える子ども自身の成長を持続的に支援する機能と、家族の看護負担を軽減してリフレッシュしてもらう「レスパイト(小休止)ケア」の機能をあわせ持つのが特徴だ。

 利用を想定しているのは、小児がん・心疾患、神経筋疾患、代謝性疾患・先天性異常、重度脳性麻痺などの難病を抱える18歳までの子どもとその家族。民間からの寄付とボランティアで運営する「コミュニティ型の子ども向けホスピス」は日本で初めての取り組みだ。

「みんなとバーベキューをしたい」という子どもの希望にも寄り添う

 同施設は鶴見緑地駅南東エリアの「あそび創造広場」の中に立地する。全体で4300uの敷地のうち、2300uの「原っぱエリア」は一般の利用者も自由に利用できる。残りの2000uの建物エリアに建てられた延べ床面積979.11uの2階建て施設には、音楽室や学習室、おもちゃの部屋、家族で入れる大きなお風呂、リビングやキッチンを備えた宿泊部屋などが整備された。初年度は運営予算の都合上、日帰り利用のみで宿泊利用は行わないが、体制が整えば宿泊も可能になるという。

 「こどものホスピスプロジェクト」の高場秀樹理事長は、重い病気を抱える子をもつ親の一人でもある。高場理事長は4月1日に行われたオープニングセレモニーで同施設のコンセプトを次のように語った。

 「生命を脅かされる病気とともに暮らす子どもの成長を、友人のような立ち位置から寄り添うことを目的とした民間の慈善活動です。兄弟やご家族も同様に、日々の看護生活をリフレッシュしていただくことも大切な取り組みとして位置づけています。

 誰もが自由に利用できる原っぱエリアは、遠足の場所になったり、子育てママや子育て家庭を支援するセミナーなどが開催される予定です。そうした地域の方々と重い病気を持つ子どもたちが自然に融和していける空間を用意することで、優しい地域を作っていくことを大切にしています」  同施設の運営は、医療・教育・保育の専門家を中心とした約100名のボランティアが主導する。看護師や保育士も常駐し、安心・安全が保障された環境で「第二の家」ともいえる空間が提供されることになる。初年度は約120世帯の利用を想定しているが、運営資金は企業や個人からの寄付でまかなうため、利用料は無料。完全に民間の善意によって支えられるプロジェクトである。

 「こどものホスピスプロジェクト」理事の一人で、大阪市立総合医療センターで緩和ケアに携わる多田羅竜平氏が言う。

「医療機関として子どもに関わるのか、慈善団体として関わるのかでホスピスのコンセプトは大きく変わってきます。たとえば医療制度の中では、診療報酬の対象となるのは、がんおよびエイズに限られてしまいます。そうした医療制度では応えられないニーズを補完していくのがこの施設です。

 医療機関であれば治療を優先しなければなりませんが、この施設では『友人のようにそばに寄り添う』ことを優先できます。それが可能なのは、運営が慈善団体の寄付によって行われるためです。社会、地域によって維持されていくのも世界的な子どもホスピスの特徴です」

 日本では子ども向けホスピスの取り組みはまだ始まったばかりだ。そのため具体的なイメージがわきにくい。「公的な支援だけではカバーしきれない」というのはどんな点なのか。

 「たとえば『みんなとバーベキューをしたい』というときに、病院ではできません。子どもの『こういうことがしたい』という希望、家族の『こういうことを叶えてあげたい』という希望も、自由度の高いこの場所なら可能になるのです。『たくさんの人を集めてお誕生日会をしたい』という場合にも『じゃあ、しようよ』と言える。これは医療機関や教育機関ではなかなか実現できません。税金から独立したフリースタンディングな立場、民間だからこそできることが広がるんです」(高場理事長)

「子どもの成長を支えるための施設」「新たな仲間とつながる場」への期待

 「ホスピス」という言葉の響きから、「看取りの場」という印象を受ける人も多いだろう。しかし、TCHは入院治療や終末期医療の緩和ケアを主目的とする施設ではない。あくまでも「子どもの成長を支えるための施設」であり、同時に「家族の看護負担を軽減し、リフレッシュしてもらうこと」を大切にしているという。そのためTCHが利用家族との交流で目指すのは、「子どもやご家族と一緒に過ごした『共通の記憶』を有する関係」である。

 オープニングセレモニーでは、同施設を利用する予定の北東紗輝さん(13歳)からも期待の声が寄せられた。北東さんは、脳腫瘍、急性骨髄性白血病という重い病を乗り越え、現在は自宅から学校に通っている。

「私はこの『TSURUMIこどもホスピス』ができるのを楽しみにしてきました。こどもホスピスで私がしたいことは、遊んだり、一緒に病気を闘った仲間としゃべったり、悩みごとを相談したり、勉強をいろいろな人に教えてもらったりすることです。そして、新たな仲間をつくりたいです」

 北東さんの母・恭子さん(45)も言う。

「親としては、同じ悩みを相談できる人が集まってくる場所ということに期待しています。つまり横のネットワークですね。入院中は病棟でいろいろ話もできますが、退院後はなかなか機会がない。こういう場所ができて、親同士の交流が持てたらいいなと思います」

今後の課題は年間6千万の運営資金の確保

 TCHの建物には木材がふんだんに使われており、円形でガラス張りの廊下からは日当たりのいい中庭が見わたせる。バリアフリーの室内は暖かみのある印象と安心感を与えながらも、家庭では味わえないような「非日常のワクワク」を感じさせる工夫が施されている。

 オープニングセレモニーには、同施設を支援している日本財団の笹川陽平会長、ユニクロの柳井正会長兼社長、施設の設計と施工を担当した大成建設の山内隆司会長も出席。いまや世界的な経営者として名を馳せる柳井社長は「ホーム・アウェイ・フロム・ホーム」(home away from home=まるで自分の家のようなところ)という言葉を用い、次のように祝辞を述べた。

「家庭の延長線上で、しかもそれは開かれた家庭。一部屋一部屋、工夫に満ちた素晴らしい場所ができた。これが世界中の『ホーム・アウェイ・フロム・ホーム』のモデルになって、ぜひ世界中に広まることの一助になってほしい」

 柳井氏はセレモニー終了後も記者団の取材に応じ、TCHへの支援を決めた理由を次のように話した。

「(TCHは)従来の『ホスピス』という定義を超えたものだと思います。やっぱり子どもたちがこの国の将来だし、世界の将来を担う。その人達が幸せになるということが、世界中が幸せになるということに通じるんじゃないでしょうか。

 これからもボランティアでウチの社員が常時何人かくると思いますし、ぜひ、全社員が体験してもらえればいいなと考えています。

 世界に行く時には、3つの問いがあるんです。一つ目が『あなたはどういうことをしに、どの国からきましたか』。その次に『この国に来て、何かいいことをしてくれますか』。三つ目が『世界中であなたはどういういいことをしていますか』。単純にお金儲けだけでは喜ばれません。世界に出て行くということは、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)と事業の両輪がなければやっていけないということです」

 この日、来賓から何度も繰り返されたのが、「こうした施設を作るのはわりと簡単だが、運営していくことが難しい」という指摘だ。今後、THCには年間6千万円の運営資金(おもに人件費)を継続的に集めていけるかどうかという課題が残る。支援の輪が広がらなければ、意義ある取り組みも実践できない。

 難病を抱える人、障害を抱える人、そうではない人が自然に共生できる「インクルーシブな社会」を日本は作っていけるのか。その試金石となる取り組みに今後も注目したい。

BLOGOS 2016年4月15

がん患者が嬉しい言葉、つらい言葉
命を紡ぐ 現場の声
ファイブイヤーズ代表 大久保淳一 

 がんになってみなければわからない気持ちがある――。がん患者が投稿する患者用コミュニティサイト「5years-ファイブイヤーズ-」は、自らが精巣がんを経験したという大久保淳一さんが立ち上げました。ご自身の闘病中、社会復帰した先輩患者を探すのに苦労したという体験から、患者が欲しい情報を共有しあえる場をネット上で始め、今では1000人近い登録者がいます。患者の気持ち、患者が欲しい情報とは何か、大久保さんに聞きました。
普段どおりに接してほしいのに……

 9年前、マラソンの練習中に足を怪我したことがきっかけで精巣がんが見つかりました。そのとき私は100キロのウルトラマラソンに参加するほど体力があったのですが、幾度もの手術や抗がん剤治療などで何度も死を意識することになりました。しかし、そこから体力づくりをして、2年前、北海道サロマ湖100キロウルトラマラソンに復帰できるまでになったのです。

 自分が患者になったとき、身体的な辛さもありましたが、それ以上に辛かったのは周囲の人たちからかけられる何気ない言葉でした。がん患者になると、誰しも孤独を感じ、死を意識するようになります。皆、なるべく死のほうに意識が引っ張られないよう心の中で葛藤して頑張っているのに、周りから死を意識するようなことを言われると恐ろしくなります。これは患者と近しい関係の人が、本人を心配するあまり言ってしまうことが多いようです。私の場合は両親でした。母に「私より先に逝かないでくれ」と泣かれ、父からは、「(手術の)麻酔の事故だって怖いから気を付けて」と言われました。それで親との関係がギクシャクしたこともありました。自分の病気のせいで親に泣かれると、まるで自分が親不孝をしている気持ちになって辛かった。

 治療法に口出しをされるのにも閉口しました。親戚から「抗がん剤治療ではなく、週刊誌に載っていたこっちの○○療法にしたら」と言われたことがあります。何とか私の力になりたいという気持ちはありがたいのですが、こちらは担当医と相談し、いろいろと調べて考え抜いた結果、抗がん剤治療を受け入れたにもかかわらず、それを覆すような意見は大きなストレスになります。

 自分のために家族が我慢をしたり、犠牲になるのも嫌でした。当時、小学生だった子どもが、休日に映画を観に行きたいのに、私のお見舞いのために我慢して病院に来るなんて、父親として不甲斐なく感じたので、子どもが行きたいところがあれば遊びに連れて行ってあげてほしいと妻に頼んでいました。親が子に我慢を強いるなんて、したくなかったからです。

 友人や知人からいろんな言葉もかけられました。「かわいそう」、「気の毒だ」、「君みたいな良い人が、なぜ……」とか。でも、がんって人を裁くものではありません。誰もがなりうる病気で、哀れに思われるとみじめになります。がん患者に言葉をかけるのは難しいかもしれませんが、患者としては、やっぱり普段どおりの普通の会話が一番嬉しいのです。

 あるとき、病室で心細くなって、妻に電話をかけたことがありました。弱音を吐く私に、妻が、「子どもたちが学校から帰ってきて、お腹、すかしていているのよ。大急ぎで晩御飯つくらなくちゃいけないの。あなたも大変かもしれないけど、私も大変なのよ。じゃあ、切るね」と言われたとき、なんだかとてもホッとしたのを覚えています。「あー、自分の病気なんて、妻の忙しさに比べれば、たいしたことないんだ」って。

 確かに、病気になると、精神的に不安定になりますが、うつ症状は抗がん剤治療の副作用でもあるのです。ですから、浮き沈みがあって難しいかもしれませんが、そんなものだと思ってつきあっていけばいいと思います。

社会復帰した人の情報が欲しい

 闘病中にインターネットでいろいろと調べていたとき、本当に困ったのは、治療の辛さとか亡くなった人の情報ばかりで、病気を乗り越え社会復帰した人たちの情報がなかったことでした。治療内容よりも、それからどうなったのか、どうやって会社に復帰したのか、など、その後の情報を知りたかったのです。

 実は、こうした先人の情報は闘病中の患者にとっては何よりの希望の光です。同じ病気で社会復帰したロールモデルがいることがわかれば、辛い治療を乗り越えられる希望になるのです。

 だから、患者と家族が情報を共有できるコミュニティサイト「5years」(http://5years.org)をつくりました。5yearsでは、患者さんが病歴、治療内容、リハビリ歴、復帰歴、現在の状況など、自分の経験を掲載できます。辛い気持ちの人はそれを表現してくれてかまいません。ハンドルネームや匿名でもかまいませんし、掲載する情報は、患者さんが限定して見せたい人だけに閲覧してもらうことができるようにもなっています。家族やサポーターも情報の公開条件が選べます。情報の扱いには特に注意を払ったつくりにしてあります。登録料は無料です。

 昨年3月の開設以来、これまで(4月18日現在)に965人が登録しています。登録している患者さんには、会社員や自営業者、パートの主婦やアルバイトの学生、がんになった医者や看護師、年金生活者などさまざまです。ニートもいます。まさに社会の縮図ですね。5yearsの情報を閲覧することで、治療法、病歴、年齢、性別、職業など、自分と同じような人を見つけてもらって互いに励ましあえたり、自分のロールモデルになる人を見つけて目標にしてもらったり、勇気が持てるようになってくれれば本望です。予備校に行って同じ試練を経験している受験生同士のように、お互いを身近に感じて頑張れるような場になってほしいと思っています。

 何事も“トレードオフ”で、失うものもあれば、得るものもあります。

 私は、がんを経験したことで、弱い人の立場がわかるようになりました。闘病中、青信号の間に横断歩道を渡り切れなかったことがありました。昔はヨボヨボ歩いている人の気持ちがわからなかったけれど、今では頑張ろうとしても体や心が頑張れないこともあるのだと理解できるようになりました。

 がん患者が普通に扱ってもらえる社会をつくりたい。5yearsの活動をもっと広げて、がんを経験しても人生は下り坂じゃないことを社会に示し、がん患者が普通に社会復帰を果たせる、そんな世界を目指しています。

5years 代表 大久保淳一(おおくぼ・じゅんいち)
1999年シカゴ大学MBA修了。同年〜2014年まで米国投資銀行ゴールドマン・サックスに勤務。2007年精巣がんと間質性肺炎を発症。10ヶ月に及ぶ入院、手術、抗がん剤治療により奇跡的に一命を取り留める。2008年同社に復職。2013年サロマ湖100kmウルトラマラソンに復帰。2015年サロマ湖100kmウルトラマラソンでは、がん発症前の記録を塗り替え、自己ベストタイムを更新した。著書に『いのちのスタートライン』(講談社)。

President ONLINE 2016年4月23日

患者や医療者のFAQに,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ 緩和ケアのエビデンス
 今回のテーマ 緩和ケアのエビデンス

【今回の回答者】白土 明美(聖隷三方原病院緩和ケアチーム・医師)

 緩和ケアというと,エビデンスとは程遠い領域のように思われるかもしれませんが,世界各国から次々と新しいエビデンスが生まれています。緩和ケアの「こんなとき,どうしたら良いの?」に答えるヒントになるかもしれません。

■FAQ1

 がんの終末期でだんだんと衰弱が進み,食事がほとんど取れなくなってきた患者。1日1000 mLの輸液が行われていましたが,最近むくみがひどくなってきたために輸液量が500 mL/日に減量されました。輸液を減らすことで患者がさらに衰弱してしまうことにはならないのでしょうか?

 終末期のがん患者では,胸水・腹水や浮腫といった体液貯留傾向が出現する患者が増えてきます。近年,輸液量とがん終末期の身体症状の関係,さらに予後への影響についてもわかってきています。胸腹水,浮腫については,終末期に1000 mL/日以上の輸液を行うと悪化します1)。さらに終末期の輸液量が1000 mL/日でも100 mL/日でも,脱水に関連した身体症状(倦怠感,眠気,幻覚,ミオクローヌス)には差がないこと,そして両者の生命予後にも差がないことが明らかにされました2)。つまり,終末期(予後1か月程度と予測する場合)に輸液量を減量しても予後は短くならない,脱水の症状は輸液をしても改善しないということがわかります。

 このようなエビデンスがあっても,終末期の輸液は一律に中止する,という結論にならないのは,輸液に対する患者や家族の思いはさまざまであり,輸液の持つ意味が医学的治療の側面だけではないからです。輸液は最低限の治療だととらえている患者・家族に,輸液のデメリットを強調して中止したとしても,「最期に点滴もしてもらえなかった」という後悔を残してしまいます。終末期の輸液量について考えるときには,患者の予後や身体状況とともに,患者・家族の意向,価値観を考慮に入れて,個別に対応する必要があります。

Answer…予後数週単位の場合は輸液の有無が予後に影響することはない。胸腹水・浮腫は輸液により悪化するが,脱水による症状には,良くも悪くも関係しない。ただし輸液が患者・家族に対して持つ意味はさまざまなので,個別の対応が望まれる。

■FAQ2

 肺がんの骨転移による疼痛に対して,モルヒネ30 mg/日を内服している患者なのですが,ほぼ毎日2〜3回レスキューを使用しています。レスキューをできるだけ使わなくて済むように,ベースアップした方が良いのでしょうか?

 ベースのオピオイドの増量を考えるとき,何をもって増量の判断をしたら良いのでしょうか? まず考えなければならないことは,持続痛がまだコントロールされていないのか,突出痛があるのか,ということです。持続痛のコントロールが不十分な場合,つまり1日を通して同じような痛みが残っている場合はベースアップする必要があります。突出痛とは,持続痛が適切にコントロールされている患者に一過性に痛みが増強することを言います。例えば体動に伴う骨転移痛の増強は代表的な突出痛で,安静時の痛みはコントロールされていても,動くと痛みが増強します。このような突出痛にベースアップで対応すると,安静時には痛みはないわけですからオピオイドが過量となり,眠気が強まるといった副作用が出現する可能性があります。したがって,突出痛に合わせてうまくレスキューで対応することが必要です。オピオイドを使用している患者の約半数は,突出痛を経験しています3)。レスキューは使用しないほうが良いのではなく,上手に使用することが必要なのです。

 また,突出痛と間違えられやすいのですが「薬の切れ際の痛み」といって,定期的なオピオイドを内服する時間帯に,鎮痛薬の血中濃度が低下して痛みが増強することがあります。この場合はベースアップや,内服回数を分2から分3にするなどの方法で対応します。同じ1日2〜3回レスキューを使用するという状況でも,持続痛なのか,突出痛なのか,また薬の切れ際の痛みなのかで対応は異なりますから,これらをしっかり評価してベースのオピオイド量の調整をすることが必要です。

Answer…持続痛がコントロールされていないのか,突出痛なのか,薬の切れ際の痛みなのかを判断する。突出痛はゼロにすることが目標ではなく,レスキューをうまく使用して対応する。

■FAQ3

 終末期がん患者の苦痛症状がどうしても緩和されないときに,「鎮静」を行うことがあります。時々患者の家族から「薬で眠らせるということは,寿命が短くなるということですか?」と聞かれ返答に困るのですが,「鎮静」を行うことは,実際に患者の寿命を短くしているのでしょうか。家族にどのように説明すれば良いですか?

 終末期がん患者の一部には,あらゆる手を尽くしても緩和することができない難治性の苦痛症状を伴う場合があります。このような場合に,患者の苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬剤を投与することを「鎮静」と呼びます。

 「鎮静は予後を縮めるのではないか?」という疑問に対し,世界各国で研究が積み重ねられ,鎮静を受けた患者と受けなかった患者の生命予後には差がないという結果が示されています。国内の大規模な前向き観察研究4)でも,鎮静を受けた患者と受けなかった患者の生命予後(研究への登録から死亡までの日数)は,前者が27日,後者が26日と予後に差はありませんでした(図)。さらに,患者の年齢や性別,PS,輸液量といった生命予後に影響しそうな患者背景を考慮した上で比較しても,やはり生命予後に差はなかった,という結果が報告されています。

 このことからも,「苦痛緩和のための鎮静で寿命が縮まることはない」とはっきり言えます。家族の心の中に「このために寿命を縮めてしまうのではないか」という思いがあれば,後々「あのとき鎮静を行わなかったらもう少し長く生きていたかもしれない」という後悔につながるかもしれません。そうならないためにも,医療者が自信を持って説明することが重要です。

 ただ,いくら「寿命は縮まりません」と言われても,家族にとっては大切な患者との別れが迫っているつらい局面であることには変わりありません。実際に終末期に鎮静を受けた患者の家族の半数は,「患者と話ができなくなることがつらかった」と感じています5)。鎮静についての話し合いを持つ場合は,このような家族の気持ちに寄り添った,丁寧なコミュニケーションの中で正しい情報を伝えることが求められます。

Answer…鎮静で寿命は縮まらないことを自信を持って説明する。家族と鎮静に関する話し合いを持つ場合は,患者との別れが迫っているつらさ,患者と話ができなくなることのつらさに配慮が必要である。

■もう一言

 緩和ケアにおけるエビデンスは,その通りに行っていれば正解というものではありません。基本的なこととしてエビデンスを知った上で,個々の患者背景や患者・家族の価値観,希望を十分に考慮に入れて,個別に治療やケアを組み立てることが大切です。

参考文献・URL
1)Ann Oncol. 2005[PMID:15684225]
2)J Clin Oncol. 2013[PMID:23169523]
3)J Pain Symptom Manage. 2014[PMID:23796584]
4)Lancet Oncol. 2016[PMID:26610854]
5)J Pain Symptom Manage. 2004[PMID:15645586]

白土 明美
2002年宮崎医大医学部卒。治療期における化学療法中止のコミュニケーションや,終末期の見極め・ケアへの悩みから「緩和を学びたい」という思いに至り,08年聖隷三方原病院ホスピス科,10年宮崎大病院緩和ケアチームを経て,13年より現職。日本緩和医療学会緩和医療専門医。

週刊医学界新聞第3172号 2016年4月25日

小学校の生徒、がん治療をした同級生のために一斉に丸刈りにする
 アメリカ、コロラド州のブルームフィールドにあるメリディアン小学校の生徒たちが、一人の生徒の学校への復帰を素敵な方法でお祝いした。

 その生徒とは9歳のマーリー・パックさんだ。ガンの化学療法を受けるため、数週間学校を休んでおり、治療の副作用で髪の毛がない状態となっていた。

 そんなマーリーさんを気遣った何十人もの生徒たちが、彼女を支えると表明、自分の頭を丸刈りにした。ブルームフィールド・ニュースによると、約80人の生徒たちが、「Be Bold, Be Brave, Go Bald.(大胆になろう、勇気を出そう、丸刈りにしよう)」と呼ばれるチャリティに参加し、切った自分の髪を寄贈したり、頭を剃り上げたりすることを選んだ。

 3月16日に行われたイベントでは、2万5000ドル(約280万円)の寄付が集まり、小児がんの治療研究を支援するセント・ボルドリックス財団に贈られた。

髪の毛を剃ってもらう、メディリアン小学校の生徒と、マーリー・パックさん(右)

 「こんなに多くの人々が、自分の頭を剃ってくれるなんて思いませんでした。学校に戻って来て、髪がないのが自分1人じゃなくて心強く感じます」と、マーリーさんはToday.comに語った。

 髪の毛を剃ったのは生徒だけではなかった。3人の女性教諭と、男性の校長と副校長、それにある一人の生徒の母親もマーリーさんのために髪を剃った。マーリーさんの担任教員だったエリン・ダッパーさんは、自分で髪を切っただけでなく、マーリーさんにも髪の毛を剃ってもらったという。

 「病気の少女を想像していたにのに反して、マーリーが明るく幸せそうで、意気揚々としていたので、生徒たちはお祝いムードになりました」 ダッパーさんはToday.comに述べた。

 ブルームフィールドニュースによると、マーリーさんの母親、シェリー・パックさんが、娘の左足にこぶがあるのに気付いたという。マーリーさんはサッカーをしていたので、シェリーさんはそれをサッカーによる怪我のせいだと思っていた。しかし、1カ月たってもこぶが消えないことを不安に思った家族は、病院に駆けつけた。

 すぐにマーリーさんは、胞巣状横紋筋肉腫であると診断された。これは体の軟組織の中にできる稀なガンであり、こぶは悪性の腫瘍だった。マーリーさんは足を切断することになり、40週間の化学療法を始めた。

 Fox31デンバーによると、3月の初旬、マーリーさんは、自分の体が快方に向かっていることを知った。

 クラスメイトたちの反応を見て、マーリーさんは自分でも信じられないほど感動したという。

 「私はただ驚くしかありませんでした。だって、皆が私のために、頭を剃ってくれているんですから」と、彼女はブルームフィールドニュースに述べた。「私はただ、ありがとうと言いたいです」。

Huffpost Japan 2016年4月30日

「死にたい」「死なせたくない」に一石? 終末医療で筑波大など調査
 国民の60%以上が自宅での療養を望んでいるそうだ。しかしケアマネジャーの50%近くが医師との連携が取りづらいと感じており、医療と在宅介護の連携は十分とはいえない。高齢者だけの単独世帯や夫婦世帯が増加していく今後、環境の整備が急がれる。

 癌の最期を自宅で迎える場合と病院で迎える場合とで、生存期間にほとんど違いがないとする調査結果を筑波大と神戸大のチームがまとめた。緩和ケアを行う国内の58医療機関で1年半にわたり調査されたもので、自宅の方がやや長い傾向もみられたという。調査を実施した筑波大の講師は「自宅の方が長生きするとまでは言えない」としながらも、「家を選んでも余命が短くなる可能性は低いと説明することで、患者の不安を和らげることができるのでは」としている。「病院で生まれ病院で死ぬ」が当たり前となった現代の人の生き死に。そのような中この調査結果は今後の終末医療のあり方に影響を与えそうだ。

 厚生労働省による人の死亡場所についての統計では、1951年は自宅の82.5%に対して病院はわずか9.1%。その後差は徐々に詰まっていき、1977年に割合が逆転。最新のデータでは自宅は12.4%、病院が78.4%となっている。背景には少子高齢化に代表される人口形成の変化があり、高齢者を支える若い世代の人数が絶対的にも相対的にも減っていることがあげられる。

 しかし、同省の終末期の療養場所についての希望調査では、国民の60%以上が「自宅で療養したい」と回答している。さらに「要介護状態になっても自宅や子供の家での介護を希望する」と答えた人も4割を超え、希望と実態との激しいギャップが発生していることが分かる。「愛着のある家に帰りたい」「家族に囲まれて旅立ちたい」-。そんな当たり前で単純な願いすら、叶えられる人は少数なのだ。

 原因は様々ある。そのひとつにあげられているのが、「死にたい」患者と「死なせたくない」家族の存在だ。ある医師によると、末期の癌患者には最期が近いことを悟り死を受け入れている人も多いそうだ。しかし家族の強い勧めでて本人が乗り気でない延命治療を我慢して受け続けてしまう例が後を絶たない。背後には介護してくれている家族に対してわがままを言えないという患者の「優しさ」があるという。家族のほうも「少しでも長生きしてほしい」と患者を思う気持ちから病院での治療を望んでしまう。両者に思いのズレが生じてしまっているのだ。

 厚労省は現在、在宅医療の充実を図るため、地域包括ケアシステムの整備を進めている。地域において医療、福祉、介護の連携を強め、家で介護をする家族のバックアップを強化するものだ。しかしノウハウや人材、財源不足によりなかなか進んでいないのが現状だ。患者にとっても家族にとっても後悔のない最期を迎えるために、迅速な環境の整備が望まれている。

財経新聞 2016年5月8日

在宅患者様をお薬の面から支える「訪問薬局」を探せる冊子「在宅訪問薬局ガイド2016さいたま市版」発行開始
株式会社エス・エム・エス
 介護・医療の情報サービスを提供する株式会社エス・エム・エス(代表取締役社長:後藤夏樹、東証一部上場、以下「当社」)は、近隣で訪問対応が可能な「訪問薬局」を探せる冊子「在宅訪問薬局ガイド2016さいたま市版」を発行し、無料配布を開始しました。同冊子はこれまで、東京都内(練馬区、品川区、世田谷区版など)で発行しており、今後も横浜市などを中心に発行エリアを拡充予定です。

 訪問薬局は地域包括ケアを服薬面から支える役割を担っていますが、これまでその情報は十分に整理されていませんでした。「在宅訪問薬局ガイド」では、編集部が地域ごとに徹底調査を行い、各訪問薬局の特徴や、そこで働く薬剤師のインタビュー記事も掲載し、「本当に使える」訪問薬局情報を提供しております。

※PDF版を右記URLよりご確認いただけます→ http://pharma-navi.net/column/guide_index/

【「在宅訪問薬局ガイド」の特徴】

■地域ごとに訪問対応可能な薬局が、地図入りで一覧に

 訪問薬局では、医師・ケアマネジャー・訪問看護師などと連携して、薬剤師が患者の自宅や高齢者施設へ訪問し、服薬状況の管理・薬の効用の説明・他職種との情報共有などを行います。従来、情報が集約されていなかった訪問対応可能な薬局が地図入りで一覧になっており、近隣の訪問薬局がひと目でわかります。

■訪問可能地域や緩和ケア対応の有無などもひと目でわかる

 訪問薬局の連絡先や営業時間など基本的な情報はもちろん、訪問可能な地域、緩和ケアやオンコール(緊急連絡に対し24時間対応の実施)対応状況など、必要な情報がひと目でわかります。

■勤務する薬剤師のインタビューも掲載。訪問薬局選びのガイドに

 一部の薬局では、勤務する薬剤師のインタビューも写真付で掲載。実際に訪問対応する薬剤師の「日々の仕事で大切にしていること」「在宅訪問の経験」などがわかるので、訪問薬局選びの強力なガイドとなります。

■ウェブサイト「訪問薬局ナビ」と完全連動!詳細な地図や情報がわかる

 冊子に記載されているQRコードを読み込むことで、当社ウェブサイト「訪問薬局ナビ」で詳細な地図や訪問薬剤師の人数など、更に詳しい情報を得ることができます。

<訪問薬局ナビとは>

地域で訪問対応が可能な薬局を探すことができる情報サイトです。              http://pharma-navi.net/?release

*薬局の在宅訪問体制を詳しく調べて薬局を選択できる
「対応内容」や「実績」、「対応可能範囲」などの情報を詳しく調べて、薬局を選択できます。医療・介護従事者の方が、訪問対応の薬局を探す際に必要な時間を大幅に削減します。

*本当に在宅訪問を実施する薬局のみ掲載
当社が情報収集・掲載のフィルタリングを行い、実際に在宅訪問に対応している薬局の情報のみを表示しています。

*ケアマネジャーや訪問看護師などに訪問薬局とのつながりを提供
当社が運営するケアマネジャー向けコミュニティサイト「ケアマネドットコム」や訪問看護ステーション を探すことが出来る「訪問看護ステーションナビ」などと連携し、多くの医療・介護従事者と訪問薬局をつなぎます。

【「在宅訪問薬局ガイド2016 さいたま市版」の概要】
・発行地域:さいたま市
・配布先:病院・クリニック・地域包括支援センター・居宅介護事業所・訪問看護ステーション・調剤薬局 など
・ページ数:24ページ
・今後の発行予定:2016年8月に横浜版(掲載地域:横浜市全域)を発行予定

【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社エス・エム・エス(東京都港区芝公園2-11-1 住友不動産芝公園タワー)
・広報担当  経営企画グループ 平島(ひらしま)
 電話  :03-6721-2403
 e-mail : smsinfo@bm-sms.co.jp
 URL : http://www.bm-sms.co.jp/

・事業担当  在宅医療メディアグループ 大浦(おおうら)
 電話  :03-6721-2410
 e-mail:info@pharma-navi.net
 URL  :http://pharma-navi.net/?release


PR TIMES 2016年5月10日

「最期は自宅で迎えたい」
認知症高齢者の在宅終末期について考える
中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身
介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他


 こんにちは、理学療法士・介護福祉士の中村です。2015年5月の国別平均寿命ランキングで、日本の男性は世界第6位(80歳)、女性は第1位(87歳)という結果が発表されました。長寿大国日本が超高齢社会を迎えようとしている今、終末期とどのように向き合っていけばよいか、お話したいと思います。ご自分の最期を考えるきっかけとなり、また、残されるご家族に対しても思い巡らせるきっかけになればと思います。

最期を迎える場所に「自宅」を選ぶ人が過半数

 2012年、全国の55歳以上を対象に行われた内閣府の調査によると、最期を迎えたい場所を「自宅」と回答した人は、約55%で過半数をこえたと報告されています。
参照元:内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)

 同調査では、「自宅で介護して欲しい」という方も多く見受けられ、ますます在宅での療養が増えていくことを示唆しています。また、介護保険法や新オレンジプランから、認知症であっても、住み慣れた場所で生活・療養することや、最期を迎えることが望ましいと考えられています。在宅療養の必要性は今後さらに重視されていくのではないでしょうか。

重要になってくる家族への支援

 今後、終末期に対する考えが浸透し、自分の意思を予め伝えたのち認知症になる方が多くなるのではと予想されます。しかし、家族への予後予測説明が不十分であると、起こりうる変化に対し、家族はその都度突発的に対応しなければなりません。その結果、心身の負担が大きくなり、家族の介護疲れも考えられます。

 また、リビングウィル(※)が一般的に浸透していないことで、ケアの方向性について家族はどうして良いか分からず、看取り後も達成感を得られずに「これで良かったのだろうか」と悩み続けることもあります。

■リビングウィルとは…自分らしく生を全うし、自然な死を求めたいという希望を明示した生前発効の遺言書

地域で行える支援

 地域包括支援センターや介護支援事業所等の相談機関を活用し、ケアの方向性や終末期について相談することをおすすめします。また、介護保険のような公的サービスだけではなく、ボランティア団体などの非公的サービスを組み合わせたサービスの活用も、視野に入れておく必要があります。

医療関係者が行える支援

 認知症高齢者本人の身体機能低下につれて、外出が困難となります。そのため外来受診が少なくなり、医療機関側で身体機能や病状を把握することが困難となります。かかりつけ医が訪問診療を行っていないケースも多く、安心した在宅療養を送るためにはまだまだハードルが高い現状があります。

 そこで、24時間体制の訪問看護の利用も検討することをおすすめいたします。その際は、療養や看取りの方法や意向を医療関係者と予め相談し、訪問看護利用中も常日頃から意思疎通を図っておくことをお勧めします。

 容態急変時や一時的な入院、入所を行うことで、認知症高齢者の苦痛や家族の介護疲れの軽減が図れる事もあります。これらに対応するためには、何でも相談ができる「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ相談処」を見つけておくことも大切です。

その他利用できるサービスについて


 心理的負担を軽減する目的として「認知症の人と家族の会」など、ピアサポートを利用することも良いでしょう。相談先が多岐にわたると新たな視点が生まれてくることもありますし、同じ立場にある方との交流は心の支えともなることも多いです。

関係者毎の役割を学ぶ

 最近は認知症ケアに特化した施設(グループホームや認知症病棟等)が増えております。人間らしく終末を迎えるために、終末期リハビリテーションが必要だと筆者は考えます。しかし、実際の介護サービスでは、職員が全て介助してしまうのも見られます。上げ膳下げ膳ばかりが介護ではなく、高齢者が持つ現存機能をできるだけ活かした介助が必要です。これらは認知症高齢者本人だけではなく、家族、医療福祉関係者、それぞれの間でどのような終末期を望むのか、またその介護方法についてのスタンスを共有し理解する必要があります。

 高度認知症においては意思疎通が非常に困難なことが多いですが、認知症高齢者ひとりひとりに人格があり、尊厳を守る事が求められます。終末期であるからこそ、サービス提供者側は認知症高齢者の尊厳を重視していくことが求められます。

相談関係者

 身体的なケアに医療の比重が高まってくることも想定し、かかりつけ医との連携、また急な状況変化に伴う家族及び本人からの相談に対応できるような体制、関係機関との連携が必要です。

介護従事者

 食事、排泄、入浴、整容などの日常生活における基本的なケアが中心となりますが、褥瘡や拘縮の予防、保清等の清潔ケアが重要となります。わずかな変化も見逃さず、医療関係者との連携を常に行うことが求められます。

医療関係者

 介護従事者と連携し、褥瘡や拘縮などの予防、また治療が必要となります。可能であれば24時間対応できる体制が望ましいです。家族は予後に不安を抱えていますので、家族に対するケアも必要となります。認知症高齢者の状況だけではなく、家族介護者の変化についても目を配ることが求められます。

在宅で看取りを行う場合の注意点

 家庭内で死亡すると変死扱いになる場合があり、警察の現場検証と家族への聴取が行われます。必ずしも警察の検視が必要というわけではなく、問題ないと分かってはいても、形式上家族への聞き取り(捜査)が必要なためです。その後問題なければ、医師の死亡診断書記入となります。筆者の聞いた話では、ドライアイスを入れて保管するまでに10時間程かかったという話もありました。夏場だとゾッとするような出来事ですが、医師法第21条には死亡後24時間以内に医師による遺体の診察において、異状死(※)が認められる場合には警察に届けなければならないとあります。

■異状死とは…犯罪に関わる死や、診療行為に関連した予期しない死亡及びその疑いがあるもの
引用資料:日本法医学会:異状死ガイドライン

 悲しみに暮れる間もなく、警察からの聴取が行われるご家族の心情を察すると、何よりもスムーズに事が運ぶことが必要かと思います。容態急変時に救急隊へ連絡を行うか、往診が可能なかかりつけ医に連絡を行うのか、あらかじめ医療関係者と十分に話し合う必要があります。その結果、現場検証等におけるご家族の心労は軽減されるかと思います。

違法性阻却(いほうせいそきゃく)について認識する

 認知症高齢者の看取りについて述べてきましたが、我々福祉医療に携わる者として違法性阻却という認識を改めて考えて頂きたいと考えます。

 違法性阻却とは、違法と推定される行為について、特別の事情があるために違法性がないとすることです。つまり、他人の身体に針やメス、薬の投与などを行うと傷害罪、医師法及び薬事法の違反となることもありますが、特別な事情があるために、医療者や介護士が行った場合許されるということです。

 認知症高齢者に対し、介護看護の不作為により褥瘡を発生させたり、拘縮を発生させたりすることが違法性阻却では無いのです。法的な根拠はありませんが、筆者はご遺体にも人権が存在する(存在して欲しい)と考えています。生のあるときに拘縮を発生させ、ご遺体が棺桶に入らない、死装束を着用させられない等といったことはあってはならないと思いませんか?

尊厳死について

 日本では「尊厳死」について、様々な議論が行われています。尊厳死の法律が無いことで行われた裁判もございます。(川崎協同病院事件;横浜地裁判決 2005年3月25日)

 本人の意思に基づき死期をただ延長させるだけの措置を断り、自らの意思において死を迎えることは、自己決定における最大の決定事項だと考えられます。どこで最期を迎えるか、「病院(施設)のベッドの上で」「自宅の畳の上で」などの希望があるかと思います。予め、自らの意思を示すことができたら良いでしょうが、認知症高齢者の場合は自分の意思を伝えることが非常に困難な状況であることがほとんどです。

さいごに


 認知症高齢者の元気な頃の姿を思い出し、献身的に在宅介護されているご家族の姿に、本当に頭が下がります。

 自宅で認知症高齢者を看取ることに、非常に多くの課題があります。多くの手段を我々が提供し、認知症高齢者本人やご家族に提案することが求められます。我々は多くの引き出しを持つことと他職種・多職種との連携が必要です。安心して認知症高齢者と家族が在宅で生活を送るために、また人生の終末、生の終焉が人間らしくあるためには我々が無知であってはなりません。

 産まれた時は産科医師をはじめ、専門職に囲まれて母親は安心して生を授けます。認知症高齢者の生の終焉時にも同じく専門職によるサポートを受けながら、望む場所で安心して生を全うすることが大切なのではないかと筆者は考えています。

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身
介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他
病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及びクリニックでの理学療法士として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。

ガジェット通信 2016年5月15日

終末期医療への切り替えを説得するには?

Q.終末期医療への切り替えを説得するには?

A.終末期医療は諦めることではない。よりよく生きるための選択肢。

 回復の見込みがない病気の末期状態になった患者に対し、治療・延命より、心身の苦痛を和らげ生活の質を高めることに重点を置いた医療を終末期医療という。

 延命が至上命題とされた時代には、がんの治療には抗がん剤などによる想像を絶する痛みや吐き気、脱毛などがつきものだった。しかし、近年は終末期医療の考えもかなり定着してきている。

 「亡くなる3日前に会ったばかりだったんです。多少ぼーっとしているようでしたが、世間話も普通にしていました」と語るのはAさん。死の間際という様子はまるで感じられず、訃報を聞いたときは驚いたという。

 病気の具合や家庭の状況により、終末期医療のあり方は千差万別だが、Aさんの知人のように最後の瞬間までこれまで通りに生活することも不可能ではないということだ。

 そうはいっても、見方によっては「治療を止める」ことが「生きることを諦める」こととも考えられ、本人や家族には決断に勇気がいる局面でもあるだろう。そこで立ち返りたいのが「残りの人生をどのようにより良く生きるか」という終活の基本原則だ。

 長生きすることばかりでなく、苦痛から解放され、自由が利く中でより良い余生を送る。終末期医療をそんな前向きな選択肢の1つと考えてみれば、心の負担も和らぐのではないだろうか。

ZAKZAK夕刊フジ 2016年5月16日

看取りに特化した「医療型サ高住」の可能性
ライフデザインゼロ・吉田代表に聞く
 1カ月当たりのベッド単価が100万円以上、利益率が40%超え−。そんな高収益を実現できる高齢者住宅事業のモデルがある。看取りに特化し、手厚い医療ケアを提供するサービス付き高齢者向け住宅(医療型サ高住)だ。今、病院や介護施設の経営環境が厳しさを増す中で、在宅での看取りを促進したい国の後押しもあることから、こうした事業に注目が集まる。

 「病院は看取りの場ではない。それが厚生労働省が出した指針です。それはつまり、病院以外に看取りの場をつくっていく必要があるということです」

 早くから潜在的なニーズをつかみ、医療型サ高住のモデルをつくり上げた株式会社ライフデザインゼロ代表取締役の吉田豊美氏は、そう話す。

 吉田氏は、急性期病院や医療法人の訪問看護ステーションでの勤務を経て、2005年に独立。名古屋市に、当時としては珍しい24時間365日対応する訪問看護ステーションを開設したことで知られる。「行き場のない終末期のがん患者を支えたい」。そんな思いに駆られての決断だったという。

 質の高いケアはすぐに評判を呼び、開業から1年でステーションを増設。2カ所の拠点で、3年間に120人を超える利用者の看取りを支援した。しかし、在宅での看取りに手応えを感じた一方で、「訪問看護の限られた時間では患者や家族を支え切れないとの思いや、職員の疲弊を何とかしなければならないという焦燥感を持ちました」と吉田氏は当時を振り返る。

 そこで、吉田氏は次の一手に出る。今で言うところのサ高住に当たる「高齢者専用賃貸住宅」事業への参入だ。08年に、「ナーシングJAPAN」を設立。医療ニーズが高く、在宅生活を送るためには何らかの支援が必要な終末期のがん患者や難病患者に特化した住宅事業をスタートさせた。その後、同事業を通じ、「医療型サ高住」というモデルに可能性を感じた吉田氏は、その考えやシステムを普及するため、14年にコンサルタントへ転身。現在に至る。

■病院の延長で考えると失敗する

 吉田氏は、医療型サ高住を経営するポイントについて、次のように話す。
 「高収益だからこそ、使う社会資源が多岐にわたり、中でも医療保険と介護保険のすみ分けには注意を払う必要があります。終末期のがんの方は平均76日ほどで亡くなられますので、ベッド管理も大変です。経営的には難しい側面もあり、さまざまな工夫が必要です」

 また、医療法人が運営するサ高住の場合は、人員配置やケアの方針を病院の延長線上で考えがちな点にも注意が必要だと指摘する。

 その上で、単なる「病院の後方支援ベッド」のような場所になるのか、「終の棲家」としての機能を果たせる場所になるのか、それは経営者が「在宅での看取りを支援するための施設として造る」との強い覚悟ができるかどうかに懸かっており、それ次第では事業の収益性も変わってくると吉田氏は強調した。

■「医療型サ高住」のモデルが素晴らしい理由

 吉田氏は、コンサルタントに転身して以降、各地で講演を行ったり、現場に入り込んでコンサルティング活動をしたりしている。その中で必ず気を付けていることがあるという。それは、吉田氏自身の「体験」を織り交ぜて話すこと。

 「高収益だね。こういうやり方をしたらもうかる、もうからない。そんな考え方だけでは感動してもらえませんし、共感を呼ぶことはなかったと思います」と吉田氏。自身の経験を話すことで、人の生死にかかわってきた医療者や介護者には必ず看取りをめぐる類似体験があり、「必ず腑に落ちるものがある」と言う。

 そして、収益性に注目されがちなビジネスモデルだが、その裏には、患者や家族が死を受け入れていく過程で生まれるさまざまな物語や、そこに自分たちがかかわることで得る数多くの気付きがあるとし、「なぜ、こうした場所が必要なのか」という原点を忘れないことが何よりも大切だとした。

cabrain.net 2016年5月16日

連載: 廣橋猛の「二刀流の緩和ケア医」
若い医師ほど誤解が少ない緩和ケア
廣橋 猛(永寿総合病院)

 皆さん、こんにちは。『日経メディカル』5月号に、「緩和ケア 7つの誤解」と題して特集が組まれました。自分も取材を受けたのですが、診断時からの緩和ケアに必要なこと、医療用麻薬の適切な使い方、終末期における苦痛緩和のポイントなどが記され実践的な内容になっていますので、ぜひご一読ください。

 さて、今回「誤解」というキーワードに絡めていえば、私自身が緩和ケアに対する誤解だと感じていることに「特別視」があります。すなわち、「緩和ケアは特別なもので、一般の臨床医がするものではない、できることではない」という誤解です。よく院内外の主治医から「緩和ケアをお願いします」という紹介状が届くのですが、お願いしますではなく、一緒にやろうよって思うのです。治らない病を抱える患者の苦痛を緩和する役割は、関わる全員にあるはずです。

 図に示すとおり、緩和ケア診療は1次〜3次に分類されます。救急医療の1次〜3次に似ていますね。2次緩和ケアは拠点病院等にある緩和ケアチームが主に、3次緩和ケアは緩和ケア病棟を有する専門医療機関が中心に行うものであり、いずれも専門的な研修を終えている医療者が主役です。ですが1次緩和ケアは全ての援助者が行うものです。患者に少しでも関わる人全てです。

 困っている患者、苦痛を抱えている患者に何とかしてあげたいと思い、何らかの行動をする行為は緩和ケアです。必要に応じて専門家が緩和ケアを行いますが、それ以前に、通常の診療やケアにおいて、全ての援助者が緩和ケアの視点で関わることは基本といえます。

 さて、このように自分でも緩和ケアをしよう、と考える医師は若手の方が多い印象を持っています。医学教育の賜物なのかは分かりませんが、治療だけではなく、治らない患者にどう関わればよいか、ということに興味を持つ医師は増えているように思います。

 自分が勤務する永寿総合病院では、初期研修医・専修医(後期研修医)が希望すれば緩和ケア科をローテート研修することができます。緩和ケア病棟や緩和ケアチームで、一緒に診療に参加してもらい、苦痛緩和のスキルや患者家族との関わり方について学びます。また、往診に同行してもらい、在宅医療の雰囲気を感じることができます。

 今ではほとんどの若手医師がローテートを希望してくれるので、なぜ希望するのか聞いてみました。すると「緩和ケアを専門にしたいとは思わないけれど、将来に必要なスキルだと感じている。せっかく専門施設にいるのだから選びました」と答えてくれる医師がほとんどでした。そして、将来必ずしも癌治療に関わるつもりのない医師でも、緩和ケアは癌でなくても必要だからと研修を希望してくれています。

 なるほど、研修医の方がよく分かっているなと実感しました。緩和ケアを自分でもやりたい、やらなければならないと、感じてくれているのです。「緩和ケアは専門家だけが行う特別なもの」という誤解から、一番かけ離れているのは研修医かもしれません。彼らが一人前の治療医として成長する頃、はびこる緩和ケアの誤解は薄れているに違いありません。でも、少しは緩和ケアの専門家を目指す医師も増えてほしいなぁ。

著者プロフィール

廣橋猛(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)●ひろはし たけし氏。2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。


BPnet 2016年5月24日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解1◆緩和ケアは癌治療後に開始
満武 里奈=日経メディカル

 今春の診療報酬改定では在宅緩和ケアの充実が評価されるなど、プライマリ・ケア医の緩和ケアへの関与が求められている。しかし、いまだに「緩和ケアは治療後や終末期に行うもの」「主目的は痛みの緩和」「モルヒネは命を縮める」といった誤った認識を持つ医師は多い。緩和ケアにありがちな7つの誤解を取り上げ、それを払拭する「正解」を取材した。

 「いまだに『緩和ケア』は癌治療後や終末期に行うもの」と思っている医師が多いのが現状」──。こう指摘するのは埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長の余宮きのみ氏だ。

 2012年に日本緩和医療学会が緩和ケアチーム登録された施設を対象に、癌患者への緩和ケアを行うよう緩和ケアチームに依頼があった時期を尋ねたところ、半数以上が癌治療終了後だった(図1)。もちろん、緩和ケアチームに相談していなくても、癌治療医が治療中に適切に緩和ケアを患者に提供している可能性はあるが、「癌治療終了後に緩和ケアチームに相談するケースの割合が予想以上に多かった。適切に緩和ケアチームに相談されていない可能性がある」と余宮氏は指摘する。

図1 がん緩和ケアチームへの依頼時期
(日本緩和医療学会の「2014年度緩和ケアチーム登録解析」より、n=7万257人)



 一昔前の「緩和ケア」といえば、死を直前にした患者の痛みを取る行為を指していた。しかし、世界保健機関(WHO)が2002年に示した緩和ケアの定義は「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、QOLを改善するアプローチ」。つまり、緩和ケアが提供される時期は必ずしも癌末期ではないこと、そして痛みを取る行為だけに限らないことが示された。日本でも2012年に閣議決定された第2期がん対策推進基本計画で「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が掲げられている。

早期からの介入で予後良好

 実際に癌の痛みは、進行・再発時だけではなく、治癒切除後にも存在することが報告されている。全国575施設の看護師にアンケートを行い、4万人弱の癌患者の有痛率を調べた大規模研究によると、病院の種類にかかわらず、患者の有痛率は根治的治療期で約2割、保存的治療期で約3割、末期状態では約7割だった(2003年度厚生労働科学研究費補助金医薬安全総合研究事業より)。癌性疼痛に初期から適切に対処しないと、「感作」が起きて痛みが複雑化し、少量の鎮痛薬では痛みが取れない状態に陥ることも知られている。

 一方で、緩和ケアを早期から実施すると予後良好となることを示したエビデンスが2010年にNEJM誌に掲載された。進行・再発の非小細胞肺癌患者を対象にした臨床試験で、治療と同時に緩和ケアを実施した患者の生存期間中央値が、治療後から実施した患者よりも有意に長かった(11.6カ月対8.9カ月、P=0.02)(N Engl J Med.2010:363;733-42.)。

 永寿総合病院(東京都台東区)がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛氏は、この結果について「生存期間が延長したのは、患者さんと主治医の間で十分な意思疎通ができて、適切な時期に積極的な癌治療を止められたためではないか」と解説する。

 緩和ケアの提供開始時期は「治療後」ではなく「診断時」が正解だ。癌患者が経験する痛み、吐き気や便秘などの副作用、精神的な苦痛にも対処することが求められる。

 治療中や治癒切除後も痛みがある場合は、必要に応じて鎮痛薬を処方する(図2)。1人で対処しきれないときは、必要に応じて緩和ケア専門医に相談することが大切だ。

図2 問診による痛みの種類の見分け方(余宮氏による)


 名古屋市立大学病院の明智龍男氏は、「精神状態をサポートするコミュニケーション能力は、医療者にとって大切な技術」と訴える。

告知に伴う精神的苦痛に対応

 盲点として特に配慮したいのが、 「告知」に伴う不安や落ち込みなどの精神的苦痛。名古屋市立大学病院緩和ケア部部長の明智龍男氏は、「薬物療法や手術にスキルが求められるのと同様に、精神状態をサポートするためのコミュニケーション能力は医療者にとって大切な技術だ」と指摘する。

 実際、癌の告知に伴って自殺リスクが著しく上昇することが分かっている。日本人の男女約14万人を20年以上追跡したコホート研究によると、癌に罹患していない患者に比べ、癌と診断後1年以内の患者の自殺リスクは約24倍だった(Yamauchi T,et al,Psycho-Oncology2014;23:1034-41.)。明智氏は、「多くの人は癌と診断されると、精神的に混乱する。癌になることで健康や将来の計画、社会的役割を喪失することを余儀なくされ、うつ病を引き起こすリスクが高まる」と指摘する。うつ病は自殺リスク因子の1つとして知られているが、国内の研究では、初発や再発の告知を受けた癌患者の15〜40%がうつ病だったことが報告されている。

 告知時の注意点として明智氏が挙げるのは、癌である事実、実際の病期、選択できる治療法、治癒の可能性──などについて、どこまでの情報を患者が知りたいと思っているのかを十分に探ることだ。たとえ患者が「全部教えてほしい」と言ったとしても、事実を受け止めるだけの「心の準備」ができてない可能性もある。患者の様子を十分に観察しながら段階的に説明を行い、患者が事実を受け止められる状況でないと判断した場合は、告知を一時的に中止する。「続きを聞きたくなったらいつでも聞いてください」と補足することも有効だ。

 また、血液内科医から緩和ケア医に転身した愛和病院(長野市)副院長の平方眞氏は、告知時など患者の精神的苦痛が想定される話をする際には、初めに「厳しい話になって申し訳ないのですが」「ご心配されていることかと思いますが」などの言葉を用いて、患者が告知を受け入れるよう心の準備を促す。今後に予想される転帰を説明する場合は、「あなたはこうなります」と断定せず、 「こういう病気のときには一般的にこうなることが多いです」といった言い方を選択する。「一般的な言い方をすることで『自分はそうじゃないかもしれないが、一般的にはそうなんだ』と第三者的な立ち位置で理解できる」(平方氏)からだ。

 最も重要なのは説明後に「これからも私たちが支え続ける」ということを明確に伝えることだという。平方氏は「今日の説明だけでは十分ではないかもしれないので、分からないことがあればいつでも遠慮なく聞いてください」と話し掛ける。こうした一連の声掛けによって、患者自身のペースで告知を理解し、受け入れることが可能になるという。

BPnet 2016年5月24日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解2◆予後は予測できない
満武 里奈=日経メディカル

 「ちょっと前までは元気だったのに、急に体力が落ちてあっという間に亡くなってしまった」──。こんな最期を見て、癌患者の予後は予測できないと感じている医師は少なくない。

 一般的な慢性疾患では、時間とともに徐々に体力が低下するのに対し、癌患者の場合は「ある頃から急激に体力が落ちて思うように動けなくなり、そこから1〜2カ月ほどで死亡するといった転帰をたどることが多い」(廣橋氏)。さらに、終末期の癌患者の予後予測は実際の予後より楽観的になることや、医師の経験にも左右されることが報告されている。

限界を踏まえた上で予測する

 とはいえ、1カ月内の短期なら経験によらず、客観的な予後予測がある程度可能だ。客観な予後予測を可能にするツールとして注目されているのが、聖隷三方原病院(浜松市北区)の森田達也氏らが開発した、予後3週間未満である可能性を示すPPI(Palliative Prognostic Index、表1)だ。PPIは、医師の主観を入れずに経口摂取の低下、浮腫、安静時呼吸困難、せん妄などの患者の症状から予後を算出する。スコアの合計点数が6点以上の場合、3週間以内に死亡する確率が高い。

表1 PPI (Palliative Prognostic Index)
合計点数が6点以上の場合、3週間以内に死亡する確率が高い(感度80%、特異度85%)
(出典:Morita T.Support Care Cancer 1999;7:128-33.)



 複数の予後予測ツールの予測精度を検討した試験では、PPIは在宅、緩和ケア病棟など使用環境を問わず、その予測精度は69%以上で、使い勝手の良さを示す実施可能性は90 %以上という結果だった。血液検査を必要としないため、日常的に使用しやすい予後予測ツールといえる。

 3週間以内に死亡する確率が高いのかどうか、予後予測の結果によっては最善な緩和ケアの内容も変わってくるため、「余命が日、週、月単位なのか。予後予測の限界を踏まえた上で、どのような緩和ケアが最善かを考えることが重要だ」と余宮氏は強調する。

 その他にも身体所見からおおよその余命を推測できる。例えば、「動けなくなって食欲が乏しくなると、大体1カ月以内」(余宮氏)や「呼吸が苦しくなり、血圧が低下して、物が食べられなくなり、寝ている時間が長くなると余命1週間程度の可能性が高い」(立川在宅ケアクリニック[東京都立川市]院長の井尾和雄氏)。

 また、死の1週間前から徐々に出現する「早期死亡前兆候」にはパフォーマンスステータス低下、意識レベル低下、水分の嚥下困難が、「晩期死亡前兆候」には尿量減少、死亡喘鳴、無呼吸、下顎呼吸、チアノーゼ、チェーンストークス呼吸、動脈触知不可などがある。

BPnet 2016年5月25日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解3◆緩和ケアは痛みの緩和
満武 里奈=日経メディカル

 取材した緩和ケア医から挙がった「緩和ケアの誤解」の中でもとりわけ多かったのが、「緩和ケアは痛みの緩和をすること」という誤解だ。癌患者に表れる症状は痛みだけでなく、悪心・嘔吐、消化管閉塞、呼吸困難など様々だ。

 余宮氏によると、悪心を訴える患者に対して原因検索もせずに、漫然と制吐薬を処方しているケースが散見されるという。オピオイド投与中で下痢を起こしていた原因が、実は便秘だったというケースも少なくない。余宮氏は「緩和ケアでも、原因検索、原因治療、症状緩和を行う点は日常診療と何ら変わらない」と説明する。癌患者の悪心の原因は複数ある。余命と患者の希望を踏まえた上で原因治療を行うかどうかを検討することが大切だ。

 すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳氏は、在宅での緩和ケアについて「瞬時に情報収集して判断する能力が必要」と指摘する。

 在宅患者の場合は容易に検査ができないことも多い。すぎもと在宅医療クリニック(名古屋市千種区)院長の杉本由佳氏は、「瞬時に情報を収集して、限られた環境でどう対応するかを判断する能力が必要」と話す。患者が貧血を訴えている場合は、トイレに黒色便が付いていないか、ゴミ箱に血を吐いた跡がないかを確認するといった観察眼も求められる。

在宅医は看取りまで行う覚悟を

 「自宅で穏やかに死を迎えたい」という患者の思いを叶えるため、緩和ケアを提供できる在宅医に往診を依頼していた。にもかかわらず、息を引き取る直前の様子がとても苦しそうに見え、家族が慌てて救急車に連絡。患者は病院に搬送されて蘇生処置を受けるはめに──。

 立川在宅ケアクリニックの井尾和雄氏は、「緩和ケアのゴール症状緩和でなく、看取り。24時間対応する覚悟を持つように」と訴える。

 そんなケースをこれまでいくつも見てきた立川在宅ケアクリニックの井尾氏は、「緩和ケアのゴールは症状緩和でなく看取り」と訴える。上記のような、在宅での緩和ケアでよくある悲劇を起こさないためには、在宅医から患者と家族への十分な説明が欠かせない。井尾氏は、患者が安らかな最期を迎えられるようにするため、最初の面談で1時間以上を掛け、詳細に説明するようにしている。具体的には、在宅での看取りは基本的に点滴などの延命治療はしないこと、痛みや苦しさは十分に取り除けること、緊急対応はするが看取りは家族が行うこと、24時間いつでも死亡確認に訪問して死亡診断書を書くこと──を家族に伝える。

 例えば、家族による看取り方法については、「家族みんなで看取ってください。呼吸が徐々に弱くなり一生懸命呼吸するようになった後、無呼吸の時間が長くなり、やがてスーッと最後の呼吸が来て手足が冷たくなってきます。1分間ほど呼吸がなかったら、私に連絡してください」と教えている。

 近年は独居老人を在宅で診るケースも増えており、在宅で緩和ケアを提供する医師は、死亡診断書まで書く覚悟を持つ必要がある。

 井尾氏によると、十分な覚悟を持たない在宅ケア医が増えた結果、途中まで在宅医が診ていたにもかかわらず、最期は誰に看取られることもなく独りで死亡する「孤独死」が続出しているという。緩和ケアも十分に行われずに1人死んでいくのは、「穏やかな死」からほど遠いといえるだろう。同クリニックが存在する立川市における2012年の自宅死亡数は270件。このうち、72.6%(196人)は自宅死といっても死体検案された孤独死事例であることが明らかになっている。「緩和ケアを在宅で行う医師は24時間対応して、死亡診断書まで書くのだという覚悟を持つべき」(井尾氏)

 永寿総合病院の廣橋猛氏は、患者とその家族に、これからどこで過ごしたいか、最期をどこで迎えたいのかをそれぞれに確認している。

患者に「理想の最期」を聞く

 緩和ケアを行う上では、患者やその家族がどういった最期を迎えたいと考えているのかを把握することが欠かせない。最近では、患者がどのようなケアを望んでいるのか、終末期は誰とどこで過ごしたいと考えているのかなど、事前に将来のケアについて患者・家族と多職種チームが十分に話し合う「アドバンス・ケア・プランニング」という取り組みが注目されている。

 例えば廣橋氏の施設では、患者とその家族に対し、(1)これからどこで過ごしたいか、(2)最期をどこで迎えたいか──について、それぞれの希望を確認。両者の希望がずれていた場合は、在宅医や病院ができるサポート内容を紹介し、患者の願いを実現できるような提案を行っている。

 余宮氏の施設では患者・家族の緩和ケアへの理解を助けるために「緩和ケア★ポケットガイド」を2015年12月に院内に設置。患者・家族が自由に手に取れるようにしている。余宮氏は「今後の経過を知りたい」という患者には図2のような図を見せながら、「今、あなたがどの時点にいるのかは誰にも分からない。でもこの段階になると、体力が急激に落ちて、食欲がなくなる。だからやりたいことは先延ばしせずにやっておいたほうがよい」と説明している。

痛み以外の諸症状への対処法
様々なつらさを和らげる選択肢を知っておく


 癌の終末期には、疼痛の他に腹水や食欲不振、呼吸困難、悪心・嘔吐、消化管閉塞、せん妄、全身倦怠感など様々な症状が出現する。このとき、各症状に対してそのつらさを緩和する手法を知っていれば、患者にその選択肢を提示することが可能だ。このとき、「これが最善」と患者に押し付けるのではなく、患者の状態と希望を踏まえることが大切だと平方氏は説明する。同氏による、終末期に出現する各症状への対処法を表Aにまとめたので参考にしてほしい。

表A 呼吸困難や腹水、消化管閉塞への緩和ケアのアプローチ(平方氏による)


BPnet 2016年5月26日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解4◆医師の説明を患者は理解している
満武 里奈=日経メディカル

 最後の抗癌剤治療が奏功しなかった患者に、「もう治療選択肢はないので本格的な緩和ケアを行いましょう」と医師が説明する。すると患者は「先生を信じて治療を続けてきたのに治療選択肢がないとはどういうことか」と嘆き、深い絶望に陥る──。よくある事例だ。

 なぜ上記のようなことが起こってしまうのか。それは医師が患者に治療選択肢を十分に説明したつもりになっていても、実際に患者は理解していないことが多いためだ。「次の抗癌剤へと切り替えるときに、『次にはこの薬がありますよ』とさも治るように説明しているケースがある。治療効果が得られなかったから次の抗癌剤に変更することや、その抗癌剤が最後の選択肢であることを明確に伝えていないことが原因だ」と立川在宅ケアクリニック(東京都立川市)の井尾和雄氏は指摘する。

 愛和病院の平方眞氏は、患者が話を理解しているかこまめに確認しながら話すほか、大切なことは繰り返し説明するようにしている。

 埼玉県立がんセンターの余宮きのみ氏が勧めるのは、治療前に今後の見通しと治療選択肢を分かりやすく伝えておくこと。「最初にAという抗癌剤を使用します。もしこれで治療効果が得られなかった場合はBを検討しましょう。それでも腫瘍が小さくならなかった場合にはCか、緩和ケアを本格的に開始することを検討しましょう」といった形で説明することで患者の理解を促進できる。

 治療選択肢が複数あった場合は、単に並列に提示するだけでは不十分だ。患者が医療用語を十分に知らないために、十分に理解できていない可能性があるためだ。愛和病院(長野市)の平方眞氏は、「患者さんが理解できているか、理解の度合いを確認しながら話したり、大切なことは繰り返し話すよう気をつけるとよい」とアドバイスする。また、選択肢を横並びで示さずに、各選択肢の合理性を分かりやすく解説する必要があると話す。

情報提供だけでなく情報収集も

 患者に分かりやすく情報提供するためには患者からの情報収集に力を入れることが大切だ。「医療者は情報提供することばかりに陥りがち。患者さんがどう感じているのか十分に理解した上で情報提供するよう心掛けた方がよい」と余宮氏は指摘する。

 例えば患者が「本当に、朝晩にオキシコドンを飲まないといけないのでしょうか」と聞いてきた場合、「そうですよ。これは鎮痛薬で、これを飲んでいるから痛みが取れているのですよ」と回答するのでは不十分。正解は「何か気掛かりなことがあるのですか」と聞くこと。そうすれば、患者がなぜその質問をしてきたのか、背景にある不安や心配を聞き出すことができる。

BPnet 2016年5月27日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解5◆レスキュー薬はできるだけ制限
満武 里奈=日経メディカル

 埼玉県立がんセンターの余宮きのみ氏は、「痛みで苦しんでいる患者をその場でレスキューできる投与量でなければレスキュー薬といえない」と説明する。

 「レスキュー薬」(定期鎮痛薬では十分に痛みがコントロールできない際に臨時で服薬するオピオイド速放性製剤)を処方する際、薬が効き過ぎて副作用が生じるのではないかと考えて、「レスキュー薬は1日に4回まで」「定時薬の1日投与量の6分の1量まで」などと、使用制限を設けていないだろうか。

 日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」では、「がん疼痛に対してオピオイドを長期間使用しても精神依存はまれである」と記載。経口薬では1時間、注射薬では15〜30分の投与間隔を空ければレスキュー薬は何度でも使用してよいほか、効果が不十分だった場合は、眠気などの副作用が許容できる範囲でレスキュー薬を増量するよう推奨している。「痛みで苦しんでいる患者をその場で『レスキュー=救済』できる投与量でなければ、レスキュー薬とはいえない」と同ガイドライン作成に関わった余宮きのみ氏(埼玉県立がんセンター)は説明する。

痛みの種類を問診で見分ける

 レスキュー薬の使い方の正解はこうだ。レスキュー薬が必要となっているのであれば、その痛みは持続痛なのか突出痛なのか、もし突出痛ならばその種類は何なのかを特定(図1)。体動時痛であれば動く30分前にレスキュー薬を服薬するように指導する。発作痛もレスキュー薬を使用するよう患者に説明する。一方、薬の切れ目の痛みであれば、定時薬の増量を検討することが必要だ。

図1 問診による痛みの種類の見分け方


 実際のレスキュー薬の用量は、痛みの取れ具合と眠気を基に用量調整する(図2)。ただし、定時薬を調整している段階では、血中濃度が定常状態になるまで時間が掛かるため、レスキュー薬が頻回にわたり必要になることがある。余宮氏が勧めるのは、患者にレスキュー薬を使用した時間をメモするように指示すること。レスキュー薬を1日何回使用したかを確認することで、定時薬をどれくらいベースアップすればよいのかが分かるという。例えば、定時薬が40mgで、1日3回20mgのレスキュー薬を使用していた場合、次回の定時薬は100mg(40+60)を目安(眠気が強ければ7割程度)にベースアップする。

図2 レスキュー薬の効果判定による対処方法



 また、処方の仕方だけでなく、患者への説明法にも工夫が要る。「痛いときだけ飲んでください」では、服薬タイミングやその量が分からないため、説明として不十分だ。「我慢せず早めに飲みましょう」「外出したり、何かをしたときに痛いのであれば、早めに服薬しましょう」などと事前に患者に説明することが求められる。

BPnet 2016年5月30日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解6◆モルヒネは命を縮める
満武 里奈=日経メディカル

 「患者だけでなく、医療者の中にも『モルヒネは命を縮める』といまだに誤解している人がいる」。こう話すのは永寿総合病院(東京都台東区)の廣橋猛氏だ。医療用麻薬の1つであるモルヒネは、呼吸回数を減らして呼吸しやすくする作用を持つ。「緩和ケア講習会の普及で、医療者間のモルヒネに対する誤解は減ったが、研修会に出たことのない医師も多く、モルヒネ使用に尻込みする医師も少なくない」と愛和病院(長野市)の平方眞氏は指摘する。

 廣橋氏はこうした誤解について、そもそも余命わずかな患者にモルヒネを投与したことで「早いスピードで亡くなった」という印象を持つからではないかとみる。ただし、呼吸抑制が起こり得るモルヒネを、適量より多く投与することで、死期を早めてしまう恐れはある。「モルヒネは決して命を縮める薬ではなく、苦痛を和らげる薬。適切に使用することで、確実に苦痛を和らげ、生活の質を高めることができる」(廣橋氏)。

 もっとも、医療者以上にモルヒネに不安感を持っているのが患者と家族だろう。患者がモルヒネに誤解を抱いているとき、平方氏はその誤解を解いた上で医療用麻薬を投与するようにしている。投与前には次のように説明しているという。

 例えば、「今使っている薬では痛みは十分に抑えられないので、次の段階の痛み止めが必要です。『医療用』麻薬の一種で、多くの患者さんが今のような状態のときに使用して痛みを取っています。今までの痛み止めとは異なる副作用(便秘、初期の吐き気、初期の眠気)が出ることがありますが、副作用で困らないようにする薬も一緒に処方します。最初から痛みが止まらなくても、痛みに応じて増やすことができる薬剤です」。

 また、「『つらそうだからモルヒネで寝かせます』という考えも間違っている」(廣橋氏)。モルヒネ投与で眠くなるようであれば、副作用が出ていると見なす。患者を鎮静(セデーション)するのであればモルヒネではなく、注射剤のミダゾラムやフルニトラゼパム、坐薬のジアゼパムを使用するとよいという。「モルヒネは鎮静薬ではなく、寝かせる薬でもない。鎮静薬をうまく使用してほしい」と廣橋氏はアドバイスしている。

BPnet 2016年5月31日

特集◎緩和ケア 7つの誤解
誤解7◆点滴しないと死期が早まる
満武 里奈=日経メディカル

 「『輸液を絞ると死期が早まってしまう』という誤解が医療者にも患者にもある」と今回取材した緩和ケア医たちは口をそろえて指摘する。死を前にして食欲減退を示す患者に対し、体力が減少した状態では受け止められない高カロリー輸液や過剰な維持輸液を漫然と投与しているケースが見られるという。その結果、腹水や胸水、浮腫などによる苦痛を悪化させることがある。

 日本緩和医療学会の「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン」では、推定余命1カ月以内の終末期癌患者に対する輸液での水分投与について、「それだけでは必ずしもQOLの改善や症状の緩和に役立たない」としている。

 終末期では、ある程度、体力がありそうでも1日500mL、体力がなさそうであれば1日200mLを目安に維持輸液を投与することを愛和病院副院長の平方眞氏は勧めている。少量から開始して喘鳴などの悪い反応がなければ継続。浮腫や胸腹水の増加、喘鳴や気道分泌物の増加など水分過剰徴候が生じたら、水分を受け止められない状態であると判断して補液を減量するか中止する。

 輸液量を絞る上で最も大事なことは、患者とその家族に輸液量を絞ることが最善の選択肢であると説明することだ。平方氏は、輸液量を絞ることを不安がる家族に対して、「体力が少なくなると、栄養や水分を受け止める力が少なくなり、無理に輸液すると受け止められず、逆に体への負担になります。これまでに比べてうんと少ない量しか入っていないかもしれませんが、現在の体力にはこの量が一番良いバランスだと思います。このバランスを保てるようにこれからも調整します」と説明している。医療者だけでなく、患者とその家族の誤解を解くことで、より良い緩和ケアが行える。

BPnet 2016年6月1日

栄養摂取でがん成長説は誤り
医師の栄養管理の知識欠如
 「がん患者はがんで死ぬわけではない」というのは、緩和ケアの第一人者、東口高志氏(藤田保健衛生大学医学部教授)。

「がん患者が亡くなる本当の原因が栄養不足であるという現実を治療に役立てることができれば、がん患者はもっと長生きできるはずです」(東口氏)

 こうしたがん医療現場の問題点を明らかにした東口氏の著書『「がん」では死なない「がん患者」』(光文社新書)が注目されている。東口氏は、2003年に余命1か月程度と思われる患者108人を調査した。その結果、がんとは関係なく栄養不足に陥っている人が82.4%もいることが判明した。そして、その大半は感染症などで亡くなったという。同様の問題は米国の調査でも指摘されている。

 がん治療で入院すれば当然、栄養管理が整っていると思うのが普通だが、なぜこんな状況が起きてしまうのか。問題は「患者さんだけでなく、栄養管理のことを知らない医師が多過ぎることです」と東口氏は指摘する。

 がん治療に携わる多くの医師はいまだに、「がん細胞は栄養を与えると大きくなる」と考えている。それは、がん細胞が体内の栄養を取りこんでしまうからだ。しかし、これは間違いだという。

「がん細胞は、栄養を入れようが入れまいが、勝手に大きくなります。そのことを病院の医師さえ知らないのは、日本の医学界が栄養管理をきちんと教育してこなかったことが原因です。その誤解のせいで患者さんの知識も歪曲され、適切な補給ができずに栄養不足に陥ってしまい、感染症などでお亡くなりになる。哀しい連鎖です」(東口氏)

 日本の医学界で栄養学が軽視され、正しい知識が教えられていないと指摘する医師は東口氏だけではない。1万人の患者を診てきたがん治療の専門家で、健康増進クリニック院長の水上治氏も証言する。

「私も医学部ではほとんど栄養学を教わっていません。卒業後に、自分で勉強するしかありませんでした。そうすると、栄養摂取でがん細胞がかえって成長するという考え方は正しくないことが分かった。でも大半の医師は専門外の勉強などしないので、栄養管理に関する知識が欠けている」

 その背景には、経済成長で日本人の栄養摂取が満たされたことで、医学部のカリキュラムや医師国家試験で栄養が重視されなくなったことがある。今も栄養管理に関する講義は各大学の自主性に任されている。

 日本静脈経腸栄養学会が2001年に医師を対象に行なったアンケート調査でも、「栄養療法について、どのように勉強しましたか?」という問いに対し、「大学の講義で習った」と答えたのは、わずか18.3%にとどまっている。

NEWSポストセブン 2016年6月2日

膵臓がんに多いRNA測定=採血で早期診断期待−東大
 膵臓(すいぞう)がんに多く存在し、血液中にわずかに流出している特定のリボ核酸(RNA)を測定する方法を開発したと、東京大付属病院の大塚基之特任講師らが2日付の米医学誌JCIインサイトに発表した。将来は膵臓がんを採血で早期に診断できるようになると期待される。 

 患者と健康な人の血清で、このRNAの量を測定したところ、患者の方が明らかに多かった。膵臓がんの前段階の病変がある患者もRNAが多く、膵臓がんを手術で切除した患者では減少が確認された。

 このRNAが膵臓がんに多いことは2011年に米マサチューセッツ総合病院の研究チームが報告していたが、既存の方法では増幅が難しく、血液中の量を測定できなかった。

時事ドットコム 2016年6月2日

緩和ケアで希望を 認定看護師養成へ
 岩手医大病院高度看護研修センター(盛岡市)で1日、東北唯一の緩和ケア認定看護師を養成する教育課程講座の開講式があった。山形を除く東北5県と大阪府の医療機関に所属する看護師11人が、来年1月まで座学や実習で専門知識と技術の習得に励む。

 寺山靖夫センター長は「緩和ケアチームの一員として患者の心を支え、希望を与える存在になってほしい」と式辞を述べた。

 研修生を代表し、秋田赤十字病院(秋田市)の伊藤知佳さん(33)は「認定看護師として実践や指導、相談の役割が発揮できるよう自己研さんに努めていく」と決意を表明した。

 大崎市民病院(大崎市)の千葉祥子さん(30)は「苦痛緩和などの技術を学び、患者が日常生活に戻る手助けをしたい」と話した。

 緩和ケア認定看護師は、がん患者と家族が抱える心と体の苦痛を和らげる役割を担う。1日現在、全国で約1800人、東北6県では計約140人が登録。教育機関は全国に10施設ある。課程を修了した研修生は日本看護協会の審査に合格すると認定看護師となる。

2016年6月5日日曜日

なぜヒーリングはがん患者に生きる希望を与えるのか
著者 NPO法人国際ヒーリング看護協会理事長 中 ルミ

 医療機関に入院せず自宅で療養する在宅患者が増える傾向にある現在の日本。在宅で医療従事者による手厚い看護は心強いものです。中ルミさんは、患者さんの体だけでなく心も癒やしたいという思いで訪問看護ステーションを立ち上げました。海外では当たり前になっているホリスティック医療(統合医療)を用いて、患者さんに寄り添い、心身のサポートをしています。

海外ではホリスティックケアは当たり前

 もともと、放射線医学総合研究所でがん患者さんを担当する看護師をしていました。

 がん告知をされた患者さんとどう向き合えばよいかで悩んでいたとき、研修で訪れたカナダの医療機関で、西洋医療以外のさまざまなセラピーが取り入れられていたり、牧師さんがスピリチュアルなお話をしに病棟を回って患者さんに声かたりするということを知りました。初めて見る海外の医療現場にはとても驚きました。

 カナダは現代医療と代替補完医療とを混合して行う「ホリスティック医療」が進んでいて、その病院でも、音楽療法士や芸術療法士らが専門家として医療チームの一員として組み込まれていました。セラピーも複数あり、患者さんはそれぞれ自分に合ったセラピーを治療の中に組み込んでいました。日本だと入院患者さんはパジャマを着て、まさに“病人”という感じですが、カナダでは女性は化粧をしたりして着飾って、まったく病人らしくありません。患者さんたちは自分の病気のことをよく勉強していて、死生観もしっかりしていました。

 その理由は、彼らにはセラピーやケアといったフォローアップがあったからだとわかりました。セラピーでは、人は肉体と心と魂の三位一体で存在し、誰しも自分の存在価値や魂の役割があると教えられます。これが腑に落ちると、患者さんは自分の人生を生きるようになり、その後の生き方ががらりと変わっていきます。

 当時、職場で告知後の患者さんに、どんな声をかけたらいいのか、何をしてあげられるのか、何年間も自問自答していました。その結果、その人のことを思えば思うほど、逆に足が遠のいてしまっていたこともありました。でも、セラピーを取り入れたら、患者さんに寄り添える、そう考え、海外での看護現場での取り組みを学び、日本でも実践していきたいと考えるようになりました。

 たとえば、イギリスでは皇室が率先してアロマセラピーやリフレクソロジー、ホメオパシーなどの代替補完療法を取り入れていますし、アメリカも統合医療を取り入れている医療機関が多くあります。中には、保険で前世療法を5回まで受けることのできる機関もあります。オーストラリアでは、大学に「ヒーリング学科」があるそうです。

 このように海外でヒーリングが発展している背景には、それぞれの国の医療制度の充実度合いが関係しているようです。

 日本では国民皆保険がしっかりしていて、保険で受けられる医療のレベルが高いことが利点です。一方、海外では、国民皆保険がなかったり、あっても受けられる医療に限度があったりします。そのため、おのずと自分の体は自分で守るという意識になり、ヒーリングや自然療法、代替補完療法が発達してきたのです。

在宅看護で患者さんにできることはたくさんある

 世界的に医療のレベルは上がっていますが、現代医療は細分化が進みすぎて、体の部位や細胞で病気を見て、全人的には見なくなっています。痛みがあると痛み止めのお薬、不安が増したら抗不安薬、と患者はますます薬漬けになっています。ホリスティック医療だと、痛みは不安によって発生することが多く、不安の元となる事柄を見つけ出して解決することで、痛みを消そうと考えます。

 患者さんが簡単に薬漬けになってしまうことに、現場の看護師も心を痛めています。かといって、看護師がヒーリングを習い、それを実践したくても、実施できる機会がありません。医療システムの問題もありますが、看護師たちは、常に人手不足で忙しく、業務に追われているからです。

 ヒーリングの必要性を強く感じるようになり、退職して、自ら訪問看護ステーションを立ち上げることにしました。訪問看護にすると症状観察、リハビリなどをしながら、アロマセラピーやヒーリングタッチなどのケアも保険で行うことができるのです。

 私が担当したある患者さんのことは忘れられません。彼女は末期のすい臓がんで病院から見放され、在宅医療になった80代の女性でした。退院時は腹水が張ってお腹も手足もパンパン、抗がん剤も利尿剤も効かない状態でした。ご飯も食べられず、ご本人もため息ばかり。医者に見放されたと落ち込んでいたのです。毎日訪問して入浴の介助などをしながら、アロマを使ったタッチなどのヒーリングをして、その方の気持ちに寄り添うようにしていました。すると、彼女は若い頃、気功を習っていたことがわかりました。ぜひ気功を教えてくださいとお願いしたのです。

 徐々に彼女に変化が見えるようになり、「来てくれてありがとう」「親に感謝している」など、肯定的な言葉が出るようになりました。食事の量も増え、起き上がって絵を描くまでになりました。人が、“自分が誰かの役に立っている”と感じることは、生きる上でとても大切なことなのだと感じた瞬間でした。自分の社会的な役割を見出せたことで、彼女の目には光が戻っていたのです。

 ヒーリングを活かしたこのような変化は、これまでの在宅看護の中でいくつも事例があります。アロマセラピーなど簡単に使えるものはひとつのツールとして、ご家族にも活用していただけます。香りで癒やしの空間ができますし、ご家族が患者さんに触れるきっかけにもなります。

 ホリスティックケアと現代医療を組み合わせて上手に活用してください。訪問看護だと、保険でまかなえるので、経済的な負担も軽くすみます。患者さんにもご家族にも、ケアやヒーリングが、人生に希望をもたらすきっかけになればと思っています。

中 ルミ(なか・るみ)
国際ヒーリング看護協会理事長。ルミナス訪問看護ケアステーション、ルミナスホリスティックケアアカデミー代表。
千葉県医療技術大学校第一看護学科卒業後、元科学技術庁放射線医学総研究所にてがん看護を務めた後、2011年、国際ヒーリング看護協会(http://npo-ihan.net/)とルミナス訪問看護ケアステーションを立ち上げた。国際ヒーリング看護協会ではホリスティックケアの啓蒙と普及を行い、和光大学の伊藤武彦教授とヒーリングタッチの効果について共同研究を行っている。今年3月、ホリスティックケアのできる看護師、介護士らの育成と普及に向けた学校、ルミナスホリスティックアカデミーを立ち上げた。


President ONLINE 2016年6月5日

がん関連倦怠感へのアプローチ
緩和ケア医の視点から
松尾 直樹(外旭川病院ホスピス医)

 がん患者の倦怠感は,“がん関連倦怠感(Cancer Related Fatigue;CRF)”と言われ,全米総合がん情報ネットワークにより「苦痛を伴う持続性疲労の主観的感覚,あるいは,がんやがん治療に関係した,行った運動に比例せず,通常の運動機能を妨げるような極度の疲労」と定義されている。倦怠感は化学療法中,放射線療法中にも高頻度で見られるが,終末期ではほぼ全例に生じるとも言われ,痛みよりも頻度が高い。特に予後1か月頃から,急速に程度が増強するのが特徴である1)。高頻度で症状の程度も強いものの,薬物療法が確立していないため緩和ケア医も対応に難渋する。

 本稿では事例をもとに,倦怠感をどうとらえ,治療していくかを考えるヒントをお伝えする。

全身状態が比較的良い一次的倦怠感にはコルチコステロイド

事例

 58歳女性。主婦。膵体部癌。

 化学療法を繰り返していたが,多発性肝転移が増大し,化学療法は無効となり中止。オキシコドン徐放錠により痛みは緩和されていたが,化学療法中止後もNRS(Numerical Rating Scale)で4程度の倦怠感が持続していた。

 化学療法終了から1か月後,NRSは6まで増強。PPS(Palliative Performance Scale,註1)は50まで低下し,動くのがおっくうになり,思うように家事をできなくなった。食欲も低下したが,体力を維持しようと通常の半分程度の食事を頑張って摂取している。体重は1か月で5 kg減少。化学療法中止による気持ちの落ち込みや不眠は一時的にはあったものの,まもなく回復した。

 血液検査ではアルブミン3.0 g/dLと低下,ヘモグロビン9.8 g/dLと軽度の貧血を認めた。肝・腎機能,電解質は正常。PiPSモデル(Prognosis in Palliative care Study predictor models,註2)では月単位(56日以上)の予後予測であった。


 CRFは,主に炎症性サイトカインが関連する一次的倦怠感(primary fatigue)と,貧血や感染症,薬剤,うつ病,電解質異常などが原因となる二次的倦怠感(secondary fatigue)に分けて考えることが欧州緩和ケア協会より提唱されている2)。一次的倦怠感のバイオマーカーは特になく,二次的倦怠感を除外した上で成立する。治療にあたっては,まず二次的倦怠感の原因を検索し,改善が可能な病態が同定されれば,その病態に対して適切な処置を行うのが原則である。この事例では二次的倦怠感の原因は見当たらず,がんの進行による一次的倦怠感を考えた。

 倦怠感の薬物療法は限られている。海外で多く研究されている薬剤は精神刺激薬メチルフェニデートである。以前は国内でも,CRFに対して使用されていたが,現在はナルコレプシーのみに適応が限定されているため使用できない。そのため,現在国内でCRFに対して最も使用されているのはコルチコステロイドである。倦怠感に対するコルチコステロイドの効果はあまり研究されていなかったが,最近海外の無作為化比較試験で,予後4週以上の外来通院患者において,デキサメタゾン8 mg/日という比較的高用量のコルチコステロイドの有効性が示された3)。しかし,国内の緩和ケア病棟での投与量は1.5〜6 mg/日4)であり,現時点では国内の投与量を参照にするほうが無難である。

 コルチコステロイドの開始時期,投与期間に統一した見解はないが,国内では予後1〜2か月を開始の目安としていることが多い4)。最近の研究5)では,終末期の倦怠感に対するコルチコステロイド有効例は有意に生存期間が長く,有効性の予測因子として,PPS>40(オッズ比4.4),眠気がないこと(オッズ比3.4),腹水がないこと(オッズ比2.3),胸水がないこと(オッズ比2.2)が抽出された。腹水や胸水といった体液過剰徴候がなく全身状態が比較的良い患者においてコルチコステロイドが有効な可能性が示されたと言える。この事例では月単位の予後予測であり,PPSは50に保たれていたことから,倦怠感と食欲不振に対して,ベタメタゾン2 mg/日の内服を開始。数日後から倦怠感と食欲不振が改善,PPSも70まで回復し,家事や外出が再びできるようになった。

コルチコステロイドが無効になったら減量・中止を検討

事例つづき

 1か月後,倦怠感と食欲不振が再び急速に増強し,歩行するのもつらくなってきたため入院。PPSは30。トイレまでの歩行は介助が必要。血液検査ではアルブミン2.6 g/dL,ヘモグロビン8.8 g/dLと低下し,貧血も進行。肝転移による黄疸に加え,下肢の浮腫と腹水貯留を認めた。PiPSモデルでは日単位(14日以下)の予後予測。ベタメタゾンを4 mg/日に増量したが,倦怠感と食欲不振の改善はなく,不眠を訴えるようになった(日中に眠気はあるものの,ぐっすり眠れない感じ)。臥床して休息していても,「常にだるい」「身の置き所がないようなだるさ」との訴え。

 全身状態が極めて不良な予後数日の段階になると,コルチコステロイドはしばしば無効になる。予後予測が数日の段階でコルチコステロイドが倦怠感に対して無効となった場合,国内の緩和ケア医の半数は投与を中止するとの報告がある4)。無効なまま投与を継続することで,不眠やせん妄といった副作用を助長しないようにという考えである。

 また,予後1〜3か月の段階の倦怠感と予後数週,さらに予後数日の倦怠感では感じ方が異なるという報告もあり6),倦怠感の表現の変化に注目する必要がある。例えば,予後数か月の段階で,倦怠感の表現が「動くのがおっくう」「動くと疲れやすい」であっても,予後1〜2週以内になると,臥床していても「常にだるい」「身の置き所のないようなだるさ」に変化することがある。倦怠感の表現が変化する時期が,倦怠感に対するコルチコステロイド治療の継続を再考するポイントかもしれない。

 国際的には終末期でのコルチコステロイドの減量・中止についての統一した見解はない。しかし,少なくとも倦怠感の表現が変化し,不眠やせん妄が出現した時点で,漫然と使用し続けるのではなく,患者・家族の希望や価値観を考慮した上で,減量するかどうかを検討する必要はあるだろう。

予後数日以内となったら,休息を重視した対応を

 予後数日以内のCRF治療では目標の設定が重要である。この時期では意識が保たれたまま倦怠感を取り去ることは困難である。オピオイド治療が確立している痛みの治療とはこの点が異なる。

 コルチコステロイドが有効な予後1〜2か月では倦怠感をできる限り軽減し,少しでも活動的でいられることを目標とする。しかし,予後数日以内では衰弱が進行し,活動的であることは困難になる。その変化を患者,家族,医療者が受容し,目標を再設定できるかが鍵となる。また,終末期になると倦怠感があっても苦痛として感じにくくなり,倦怠感の重症度とQOLの相関は低下するという報告がある6)。予後数日以内では,倦怠感を取り去ることではなく,体力を温存しながら倦怠感と上手に付き合うことを目標にすると良いだろう。

 本事例では,倦怠感の変化とベタメタゾンによる不眠の影響を考え,ベタメタゾンを2 mg/日,さらに1 mg/日に減量した。その後患者は,倦怠感はあるもののウトウトしながら過ごし,眠気を心地よく感じられていた。次第に傾眠となり,入院の2週間後に穏やかに永眠された。予後数日以内の可能性を念頭に,コルチコステロイドを減量し,休息できることを重視した対応を行うことで最後の数日の苦痛緩和につながった。

註1:緩和ケアを受けている患者の全身状態を,起居,活動と症状,ADL,経口摂取,意識レベルから評価する指標。
註2:英国で近年開発された新たな予後予測指標。予後予測因子を入力すると予後日単位(14日以下),週単位(15〜55日),月単位(56日〜)と予測結果が示される。
http://www.pips.sgul.ac.uk/index.htm


◆参考文献・URL
1)Seow H, et al. Trajectory of performance status and symptom scores for patients with cancer during the last six months of life. J Clin Oncol. 2011;29(9):1151-8.[PMID:21300920]
2)Radbruch L, et al. Fatigue in palliative care patients――an EAPC approach. Palliat Med. 2008;22(1):13-32.[PMID:18216074]
3)Yennurajalingam S, et al. Reduction of cancer-related fatigue with dexamethasone:a double-blind, randomized, placebo-controlled trial in patients with advanced cancer. J Clin Oncol. 2013;31(25):3076-82.[PMID:23897970]
4)Matsuo N, et al. Physician-reported corticosteroid therapy practices in certified palliative care units in Japan:a nationwide survey. J Palliat Med. 2012;15(9):1011-6.[PMID:22734663]
5)Matsuo N, et al. Predictors of response to corticosteroids for cancer-related fatigue in patients with advanced cancer:a multicenter prospective observational study. J Pain Symptom Manage.(in press)
6)Hagelin CL, et al. Fatigue dimensions in patients with advanced cancer in relation to time of survival and quality of life. Palliat Med. 2009;23(2):171-8.[PMID:18952749]

まつお・なおき氏
1996年秋田大医学部卒。埼玉県立がんセンター緩和ケア科を経て,2012年より現職。日本緩和医療学会緩和医療専門医。日本緩和医療学会オンラインジャーナル編集委員。日本死の臨床研究会編集委員。診療,臨床研究の傍ら,「外旭川病院ホスピスさんぽみちBLOG」ではホスピスでの日常と患者の笑顔を紹介している。

週刊医学界新聞 第3179号 2016年6月20日


末期癌の医師・僧侶 「宗教は阿片」の意味は
医師・僧侶 田中雅博氏

 2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、カール・マルクスの「宗教は人民の阿片である」という言葉の意味についてお届けする。

* * *

 「宗教は阿片」はカール・マルクス(1818?1883)の有名な言葉です。『ヘーゲル法哲学批判序説』で彼は当時のドイツ人民が宗教聖職者と貴族によって支配されている状況を批判しました。批判とは「良いものを選ぶ」という意味で、非難とは違います。

 周知の通り、マルクスの著作は後に共産主義革命を起こしました。マルクスが思い描いた社会は共産主義という民主主義でした。しかし、その後の歴史では共産圏は官僚主義となり、むしろ資本主義の国家が民主主義に近い形になりました。最近は「世界がもし100人の村だったら」が指摘するように資本主義にも限界が来ています。今後のインターネットによる情報拡散は民主主義の実現に貢献するでしょう。

 さて、マルクスは「宗教は阿片」と表現することで、政治を病気の治療に見立て、阿片を比喩的に用いました。要約すれば、「痛みの原因が治せるのに、それを治さずに、痛み止めの阿片だけ与えている。今の政治はそれと同じだ。貧困という病気の原因を治さずに、それを放っておいて、対症療法としてキリスト教という宗教を与えている、それは良くない」と言っているのです。

 つまり、貧困に対して、労働に賃金を払うという根本的な解決法を取らずに、代わりにお金に換算できない価値である宗教を与えていたということです。

 『ヘーゲル法哲学批判序説』でマルクスは合理的な解決が可能な場合、病気で言えば治癒可能な場合についてだけ論じています。それでは治癒不可能な病気の場合はどうでしょうか。その場合には、マルクスも「阿片と宗教」の重要性を認めたことでしょう。

 現在、治癒不可能な病気の緩和ケアにおいて「阿片と宗教」は非常に重要です。先ず前提として身体的痛みが緩和されることが必要であり、ここでオピオイド(阿片類縁物質)が役に立ちます。オピオイドは通常の痛み止めよりも桁違いに作用が強いので、上手に使えば有用です。

 しかし日本ではオピオイドの多くが麻薬扱いなので、外国に比べて消費量が桁違いに少ないというのが現状です。治癒不能の病気で、強い痛みがあるのにオピオイドを処方してもらえない場合には、医師を変えたほうが良いでしょう。

 自己の命が無くなるという状況で役立つのは、本人にとって「自己の命を超えた価値」としての「宗教」です。そして、人生の物語を完成していく中に本人が見出す「本人の人生の価値」、それこそが本人の「宗教」なのです。

 素晴らしい人生の物語は、人類の歴史の中で選ばれ、古典となります。個人の「宗教」を見出すには、古典が参考になるでしょう。

●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵会医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医・僧侶として患者と向き合う。新刊に『いのちの苦しみは消える 医師で僧侶で末期がんの私』(小学館)。

BIGLOBEニュース 2016年6月19日

『「平穏死」を受け入れるレッスン 自分はしてほしくないのに、なぜ親に延命治療をするのですか?』
刊行のお知らせ [株式会社誠文堂新光社]
 株式会社誠文堂新光社(東京都文京区)は、2016年7月4日(月)に、『「平穏死」を受け入れるレッスン』を刊行いたします。

「いつまでも生きていてほしい」、けれども、「できるだけ楽に逝かせてあげたい」

 悩み苦しむ家族のジレンマに医師が答える

◎老衰による死に苦痛は伴わないことが科学で証明された。
 メカニズムを正しく知ることで「死」の恐怖は和らぐ。

◎介護士や医師、関係者と繰り返し話し合って、
 悩んだことこそが、家族の心を癒してくれる。

◎自然に逆らわない老衰死を迎えた人の死に顔は、
 まるで仏さまのように穏やかで美しい。

 2010年に石飛幸三医師が提唱して以来、自然な老衰死のあり方とその穏やかな看取りとして「平穏死」の考え方が徐々に浸透してきました。胃ろうをつけた寝たきりの人も、この6年で60万人から20万人に減りました。しかし現在でも、無理な延命治療によって穏やかな老衰死が妨げられてしまう実情があります。それは皮肉にも、家族の「情念」が大きな要因なのです。

 多くの人が、「自分の終末期には無理な延命をしないでほしい」と望んでいます。しかし自分の親が年老い、老衰や病気になると、本人にとって苦しみでしかないと頭ではわかっていながら、医師の勧めに従い延命措置を受け入れてしまうことも多いのです。自然の摂理としての死が、家族にとって「悲劇」という受難になってしまうのです。

 親や配偶者との別離は悲しい。家族が悩み、迷うことは当然です。しかし、「命より大切なものはない」という考えにとらわれてしまうと、当人の尊厳が失われてしまいます。延命治療を決断した家族自身も、また苦しんでいるのです。

 本書では、親や配偶者の死と向き合う家族の声に耳を傾け続けてきた石飛医師が、悩み苦しむ家族に向けて、大切な人を幸せに見送る心の持ちようや看取り方を提示します。

【目次】
はじめに
第1章 人には「安らかにいのちを閉じる力」がある
 ・食べなくていい、飲まなくていい、眠って、眠って、さようなら
 ・そのとき苦痛はないのか
 ・自然死が社会的に受け入れられる時代になった ほか
第2章 終末期医療、家族のジレンマはなぜ起きる?
 ・人の生き方の問題は刑法でも裁けない
 ・意見が割れた、心が揺れた
 ・人生最後の時間をどう楽しく生きてもらうか ほか
第3章 日本人の医療依存を考える
 ・医療保険制度の功罪
 ・医療依存―日本人はなぜこんなに検査・検診が好きなのか
 ・病気を見つけてどうするつもりだ? ほか
第4章 いま必要なのは、「老い」と「死」を受け入れる姿勢
 ・死をタブー視し、嫌ってきた社会
 ・「いのちは大切なもの」と考えすぎるな
 ・老いとは、安らかに逝くための自然からのギフトである ほか
第5章「その人らしさ」を尊重したケアで人生をハッピーエンドにする
 ・高齢者に必要なのは、医療よりも質のよいケア
 ・胃ろう六年、願いが通じて奇跡が起きた ほか
第6章「最善」の医療とは何か
 ・いのちは救えた、しかしあきらめてもらったことがある
 ・誰のための医療なのか、何のための医療なのか ほか
第7章 試練は「人生で本当に大切なもの」に気づくためにある
 ・悲嘆の底を抜けた先には希望がある
 ・どんな状況でも、人間としての尊厳と生きる希望があればいい ほか
終章 幸せな死を思い描いて、今日一日を楽しんで生きる
 ・人生一〇〇年時代、下り坂をどう降りるか
 ・自分のためより、誰かのために―「忘己利他」のすすめ ほか
おわりに


【著者プロフィール】
石飛幸三(いしとび・こうぞう)
特別養護老人ホーム・芦花ホーム常勤医。1935年広島県生まれ。61年慶應義塾大学医学部卒業。同大学外科学教室に入局後、ドイツのフェルディナント・ザウアーブルッフ記念病院、東京都済生会中央病院にて血管外科医として勤務する一方、慶應義塾大学医学部兼任講師として血管外傷を講義。東京都済生会中央病院副院長を経て、2005年12月より現職。著書に『「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか?』(講談社)、『「平穏死」という選択』『こうして死ねたら悔いはない』(ともに幻冬舎ルネッサンス)、『家族と迎える「平穏死」 「看取り」で迷ったとき、大切にしたい6つのこと』(廣済堂出版)などがある。

【書籍概要】
書 名:『「平穏死」を受け入れるレッスン』
著 者:石飛幸三
仕 様:B6変形判、216ページ、ソフトカバー
定 価:900円+税
配本日:2016年7月4日(月)
ISBN:978-4-416-71627-4


時事ドットコム 2016年6月20日

カナダで医師による自殺ほう助が合法に
“自殺ツアー”は許さないなど厳格な基準
 カナダで遂に“医師のほう助を受けた自殺”が合法となった。これにより、長らく続いてきた同国上院・下院の争いに決着がつけられた。ただし、新制度の適用は治る見込みのない終末期疾患患者のみを対象としている。さらに、他国からの“自殺ツアー”を防止するために、カナダ政府出資の医療サービス資格保持者に限定されるという。

 非常にセンシティブな問題ゆえに、この新制度の内容も様々な側面において批判を受けている。批判や懸念が多い一方で、今後の制度拡充への期待も強い。カナダにとっては今回が“自殺ほう助合法化”に関する初の試みとなるため、今後は徐々に範囲が拡大されて制度が充実していくだろう、と予想されている。

◆高齢者や身体障害者へのプレッシャーなどの懸念も多い

 昨年2月、カナダの連邦最高裁は終末期疾患の患者について医師のほう助による安楽死を認める判決を下した。このニュースは日本の主要メディアでも報じられた。同判決では、連邦と各州政府に対し1年以内の法制化を命じていた。

 新制度の具体的な手続きとしては、まず証人2名の署名入り申請書を提出し、その後2名の医師または看護師による審査を受けることになる。

 生命を人の手で終わらせるというこの制度は、倫理的な観点からみて様々な懸念があり、慎重に議論が重ねられてきた。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ウィルソン・レイボールド法相の新制度に対する評価を紹介した。「今回の法制化では、医師のほう助による憲法上の“死ぬ権利”行使と、高齢者や身体障害者が他者からサービス利用のプレッシャーを受けないよう保護するためのセーフガード設定との間のデリケートなバランスがうまくとれている」

 一方、「適用の範囲が狭すぎる」と指摘するのは英デイリー・メール紙。一部の上院議員や批評家らの「激しい痛みを伴う変性疾患の患者はこの制度を利用できないため、苦しみ続けることになる」という意見を紹介し、終末期疾患のみに限定されるカナダの制度では不十分だとするスタンスを示した。

◆「精神疾患は対象外」「患者自身の手で致死薬を飲まない」カナダと他国との相違点

「耐えがたい痛み」に苦しんでいる患者への自殺ほう助を認めている国は、カナダ以外にも複数存在する。しかし、カナダと他国の制度には大きな相違点がいくつか存在している。

 英エコノミスト誌はその違いをいくつか挙げており、一つ目は、“最終的に誰の手で命を絶つのか”という点。「患者自身の手で致死薬を飲むオレゴン州やワシントン州とは異なり、カナダでは医師や看護師がその役目を果たす」。二つ目は、“居住者に限定されるか否か”。「スイスでは、非居住者が安楽死を目的として同国にやってくるのを認めている。一方、カナダでは同国政府のヘルス・プランの有資格者たる居住者のみに制限される」。三つ目は、“終末期疾患以外への適用”。「ベルギーでは、子供や精神疾患患者でも安楽死を申請できるが、カナダにおいてはいまだに違法だ」。

 米ニューヨーク・マガジン誌は、上記二つ目の“居住者に限定されるか否か”という点に焦点を当てながら、カナダと米国における両制度を比較して解説した。

「カナダ版の“医師による自殺ほう助”制度における興味深い側面のひとつとして、カナダ人のみが制度を利用できる点が挙げられる。これは、医師の自殺ほう助がすでに合法となっている米国内の多くの州(ワシントン州、オレゴン州、バーモント州など)の内容と似ている」としながらも、「米国人が居住州を変更するよりも、カナダで市民権を獲得するほうが(もちろん)難しい」と指摘。カナダの方がより厳格な基準を設けていることを示した。

 一部懸念などはあるものの、冒頭で説明したとおり、カナダにとって今回が初の法制度化となるため、慎重な姿勢もやむを得ないのではないだろうか。

ニュースフィア 2016年6月27日

これで痛みを取り除く
「がんの痛み」 医療法麻薬は内臓痛に対して劇的に効く
「内臓痛は、胸や腹部が『絞られる』『押される』などと表現される鈍痛が多く、痛い場所が曖昧です。一方、体性痛は痛い場所が明確で、主に体を動かしたときに痛みが強くなるのが特徴です」

 神経障害性疼痛は、がんが直接、神経を圧迫したり、浸潤して生じる痛み。しびれ感を伴う痛み、ピリピリと電気が走るような痛み方をして、知覚異常や運動障害を伴う場合が多い。

 痛みを取る緩和ケアで、よく使われるのがモルヒネに代表される医療用麻薬(オピオイド)だ。神経にあるオピオイド受容体に作用して痛みをやわらげる効果がある。かつては「中毒になる」「寿命を縮める」などと言われたが、そんなことはない。がんの痛みに対するオピオイドを含めた薬の選択はWHOによって指針が出されており、より安全で効果的な治療が行われている。ただし、オピオイドはどんな痛みにも効く万能薬ではない。

「オピオイドが劇的に効くのは内臓痛で、体性痛や神経障害性疼痛に対しては必ずしもそうではありません。特に神経障害性疼痛はオピオイドを使っても難治性で、鎮痛補助薬との組み合わせが大切になります」

 どの痛みに対しても基本的には、非オピオイド鎮痛薬やオピオイドといった鎮痛薬をベースに使う。その上で体性痛には、体を動かしたときの突出痛には即効性のある鎮痛薬(レスキュー薬)をうまく使いこなすことが重要だ。神経障害性疼痛では鎮痛補助薬として抗うつ薬などを併用するという。うつを治して効くのではなく、痛みをやわらげる神経を活性化して作用する。

「オピオイド一辺倒ではなく、いまは数多くの鎮痛補助薬があるので痛みの性質に合わせて除痛できます。がんの痛みは治療に影響するので、どんな痛みでも我慢せず、早い時点から緩和ケアを利用する。それが賢いがん治療なのです」

日刊ゲンダイDIGITAL 2016年6月27日


「かかりつけ医の定着に最も尽力」、横倉日医会長
終末期医療の在り方についても検討を開始
 日本医師会は6月29日の定例記者会見で、6月25日の役員選挙で3期目の当選を果たした横倉義武氏は、かかりつけ医を中心とした医療提供体制、地域包括ケアシステムの構築に取り組み、地域の実情に即した国民の安全、安心に寄与していくことが医師会の果たすべき役割とし、「かかりつけ医の定着に、今後2年間、一番力を入れていく」と表明した。

 終末期医療の在り方も検討課題であるとし、「患者の尊厳、生活の質をより重視した対応が、終末期医療に当たって考慮すべきだろう」と指摘、リビングウイルの啓発、普及に取り組むとともに、宗教家や法曹界などさまざまな関係者とともに議論を開始するとした。日医の生命倫理懇談会は2008年に「終末期医療に関するガイドラインについて」を答申している。同懇談会か、あるいは新たな委員会を発足させるのがふさわしいのかなども検討、「まだ取りまとめの目途は考えていないが、(会長職の2年の)任期中に結論を得たい」と横倉会長は語った。

代議員会、4つの注目論点を紹介

 横倉会長は会見で、6月26日の臨時代議員会での所信表明と同様に、消費増税が2年間見送られたものの、持続可能な医療や介護の提供体制の構築に向け、必要な財源確保を政府に働きかけていくとし、イギリスが国民投票でEUからの離脱を決めるなど、国際経済の先行きが不安な時期こそ、セーフティネットとしての医療を確立していく重要性を強調した。

 その上で、同臨時代議員会の議論を紹介。特に、高額医薬品の薬価の問題、新専門医制度、医師需給問題、療養病床の問題――の4つを重要な論点として紹介した。

 高額医薬品の薬価の問題 安全性や有効性が確立された医薬品は速やかに保険収載されることが望ましいものの、高額医薬品の場合、保険財政を揺るがしかねないことから、イノベーションと費用対効果などを踏まえた合理的な薬価算定が可能になるよう、中央社会保険医療協議会の判断機能を飛躍的に高めていくとした。同時に、適正な処方のためにガイドラインを作成、生涯教育を通じて示すことも日医の役割であるとした。

 新専門医制度は、地域医療への影響が懸念されたことから、2017年度の全面実施が見送られている。臨時代議員会の翌27日に、日本専門医機構で新理事が選任されたことを踏まえ、横倉会長は、「新しい執行部でまずは検討の場を設け、専門研修プログラムの集中的な精査を行い、今度、どのように実行していくか、各学会と協議の上、決定することを期待する」と述べた。新執行部に、医師以外の人が学識経験者として入ったことについて問われると、「地域医療の観点から、医師、それ以外の立場の両方から議論して結論を出してもらえれば、と考えている」と回答。

 医師需給の問題については、日医と全国医学部長病院長会議の2015年12月の提言で打ち出した、「医師キャリア支援センター(仮称)」の実現に向け取り組むと説明。厚生労働省の社会保障審議会「医療従事者の需給に関する検討会」の医師需給分科会の5月の「中間取りまとめ」では、医師の偏在解消に向け「規制的な手法」も検討課題に上がっているが、まずはプロフェッショナルオートノミーと地域の実情に基づき、偏在解消に取り組む必要性を指摘、国による規制ではなく、医師会を中心とした自立的な取り組みが求められるとした。

 介護療養病床と医療療養病床(看護職員の人員配置25対1)は、2018年3月末が設置期限となっているが、日医は現行制度の再延長を主張していると説明。厚労省の検討会では、療養病床に代わる新類型が提案されている。現場が混乱しないように、新類型などへの経過措置の中での再延長を求めていく方針。

m3.com 2016年6月29日

進行がんの余命宣告は必要か
 進行がんであることがわかると多くの患者は医師にこう聞くそうだ。「あと、どれくらい生きられますか」。日本医科大武蔵小杉病院の勝俣範之教授(腫瘍内科)は「そこで医師は『実は○カ月です』と言ってはいけない」と余命宣告の廃止を提唱する一人だ。

 かつて勝俣さんも患者の強い希望で伝えることはあったそうだ。だが、悟りきったような聖職者、あるいは度量のありそうな社長や政治家であっても、具体的な余命期間を告げられると、がっくり肩を落としたり、ぼろぼろと涙を流したりする。ショックでうつ状態になる人もいたという。

 勝俣さんは「一方的な余命宣告は患者を傷つけるだけ」と指摘する。さらに医師の告げる余命は当てにならないというデータもある。勝俣さんが、自身を含む医師14人の担当した進行がん患者75人の余命予測を検証したところ、実際の期間と一致したのは約3割にとどまったという。

 医師がいくら「不確かだ」と強調しても、患者は数字にとらわれる。

 勝俣さんは余命宣告の代わりにこう言うそうだ。

 「最善を期待し、最悪に備えましょう」

asahi.comアピタル 2016年7月6日

平方眞の「看取りの技術」
がんの看取りをどうやって「老衰」に近付ける?
平方 眞(愛和病院)

 がんになると、病気を抱えた臓器だけに問題が生じるのではなく、年を取る速度が速くなるような変化が体全体に加わり、多くは「十分長生きした」と思える年齢まで命が持ちません。この「年を取るのが速くなるように見える」現象は、医学書では解説されていませんが、多くの患者さんに実際に現れる変化です。
 
 事実、がんでは体力が速いスピードで落ち、通常の何倍もの速度で老化が進むように感じます。年の取り方は病状によって大きく異なりますが、30歳代の人でもがんの進行が急速な場合には、1週間で10歳くらい年を取った感じになることがあります。

 このイメージを持っていると、患者さん・家族に説明するときに大変役立ちます。「できるだけのことはしているけれども、がんを抱えていることによって体は余分に年を取り、病気がなかった場合と比べると寿命がかなり早く来てしまいます」という説明をすると、起きている現象を理解し納得しやすくなります。

がんは急速に年を取り寿命を迎える病気

 寿命は誰にでも訪れるものであり、寿命だと思えれば、たとえがんなどの病気で亡くなったとしても「理不尽な死」という思いは少し薄れます。40歳代でがんで亡くなった私の友人がいます。彼と電話でさまざまな話をする中で「がんがあると、すごいスピードで年を取ると考えていた方がいいと思うよ」と説明したことがありました。彼の葬儀に行ったとき、彼のお父さんは、私の「がんによって余分に年を取る」という言葉を彼から聞き、息子である彼に「じゃあ、今のお前の年は俺よりも上なのかもしれないな」と話したと教えてくれました。

 親として子を亡くすことはとてもつらいことです。子が若くして亡くなってしまったことに「順番が違う」という思いがつきまとい、理不尽さを抱き続けることになります。しかし、病気が体に取り付いて、それによって「息子の年齢が自分の年齢を追い越してしまった」と理解すれば、納得はできないまでも、受け止め方が随分違うように思います。

 がんによって早く年を取れば、生きる時間が短くなることは避けられません。これは老衰とは大きく異なります。それを「仕方ない」と言ってしまうと、老衰に近づけることができません。がんによるダメージはあっても、多くの場合は穏やかに老衰のように亡くなっていくことは可能です。

 それにはまず、本人が苦痛と感じるつらい症状を取り除くことが大原則です。痛みや呼吸困難などの症状緩和に加え、体と意識の力のレベルが大きく離れてしまわないように両者のバランスを保つことも重要なポイントです。

 老衰で亡くなる場合には徐々に意識も体力も少なくなり、体の力と意識(頭、神経)のレベルのバランスが保たれたまま命が細って終わっていきます(下図左)。しかしがんの場合、多くは意識のレベルは保たれているものの、体の力の減り方が速く、両者のレベルが乖離してしまうことがあります(同右)。両者のズレが大きいと、身の置き場のない倦怠感やだるさが強く現れ、つらくなります。がん末期の患者さんで体が急速に年を取り、意識のレベルとの間にズレが生じてしまった場合には、それを解消する視点を持つことも必要です。


図 老衰とがんの場合の「身体」と「意識」の力の減り方の違い

 このように、緩和ケアをしっかり行った上で、患者さん・家族が理解可能でかつ納得できる説明を十分に行うことが、自然な死に近づけていくために医療者に求められるスキルです。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP社)がある。


著書『看取りの技術』好評販売中
看取りの技術

 
これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

BPnet 2016年7月6日

希望で痛みを和らげる 
慶大病院緩和ケアセンター 白波瀬丈一郎氏
 病気、そして病気が引き起こす死への恐怖は人から笑顔を奪う。対して、病気を抱えて死を意識することの多い病院で患者たちを絶望から救い出し、笑顔にする仕事をしている人がいる。慶應義塾大学病院緩和ケアセンターでは、病気の全段階で生じるさまざまな痛みを和らげ、より良い生活を送るための支援が行われている。そこに携わる、精神科医の白波瀬丈一郎氏に話を聞いた。

 「痛み」には、身体的な痛みと精神的な痛み、社会的役割など人間の尊厳を維持できないことで生じる痛みがある。緩和ケアセンターでは麻酔科・精神科の医師や看護師、薬剤師、臨床心理士などが協力して、患者それぞれの痛みを軽減するための支援をしている。

 中でも、精神科医は患者と話をして、どのような痛みなのかを見極めるということを行っている。同じ「心が沈んでいる」という症状でも、身体的痛みが強いことが原因の場合や、仕事に行けないことによる経済的な問題が原因の場合などがあり、支援の仕方も異なってくる。だからこそ、しっかりと話を聞くことが大事なのだ。

 患者に対し具体的なアドバイスも行う。ディグニティー・セラピーという手法では患者の人生を歴史のように書き出し、手紙にして、自分の歴史を受け継いでくれる人や知ってほしい人に渡す。こうして、次の世代に何かを残すことで患者の尊厳を守るのだ。

 また、「外傷後成長」という考えを用いることもある。これは、人は辛い経験からも学び、人間として成長できるという考えだ。病気になるということは絶望的な経験だが、人はその経験をもとに、新たな価値観や生きる意味を見出していける。絶望を乗り越え成長しようとする患者の心の動きを捉え、支えていくという。

 かつて、緩和ケアは積極的治療が望めなくなった患者を対象とするホスピスや終末期医療と同じに捉えられていた。しかし現在は、たとえ治療が十分望める段階であっても患者がストレスを受け、苦しんでいれば、積極的に提供されている。また、緩和ケアは患者本人だけでなく、患者の家族や治療に携わる医療スタッフも対象に行われている。無力感に苛まれたり、自分を責めたりする家族や医療スタッフにも支えが必要だからだ。

 白波瀬氏はこんなことも語った。「患者さんから痛みを取り除いて穏やかに最期を迎えられるように支援することが緩和ケアの重要な役割です。ただ、それだけではなく、患者さんの死を看取り、その後も生きていく人のためにも必要だと思います」。家族や医療スタッフがやがて来る患者との別れを受け止め、支え合い協力して見送ることができたと感じられれば、これからの人生を前向きに生きていこうと思えるという。

 「笑顔とは希望を持つこと」。緩和ケアで行っているのは、多少無理してでも希望を見つけ、絶望させないことだという。絶望的な状況においても、現実を見つめ、忘れがちな希望を見つける。そうして辛いことや悲しいことに向き合い乗り越えた先に、笑顔はあるのだ。

慶應塾生新聞会 2016年7月9日

なぜスイスは緩和ケアの後進国なのか 専門家に聞く
 がんなどの病気による体と心の痛みを和らげる緩和ケアにおいて、スイスは後進国だ。病気の根治を目指す治療や救急医療、末期患者の自殺ほう助に関しては高い技術を持つが、緩和ケアに力を入れ出したのはつい最近だ。ベルン大学病院の緩和医療部門に教授職が新設され、今年2月にドイツ人医師シュテフェン・エイヒミュラー氏が就任。スイスインフォが同氏に、緩和ケアの今後について聞いた。

 同様の教授職はローザンヌ大学病院(CHUV)に続き2人目で、ドイツ語圏では唯一。スイスインフォはエイヒミュラー氏が責任者を務めるベルン大学病院緩和ケアセンターを訪れ、話を聞いた。

 経験豊富な医師である同氏が自分の仕事に情熱を持っていることは見て取れる。高齢化社会が進むにつれ、他分野にわたる医療知識を駆使して末期患者と家族をサポートする緩和ケアへの需要は高まる一方だ。課題はコスト面だが、緩和ケア先進国の英国やオーストラリアを見習い、適切に計画を構築すればコスト減は可能だ。

swissinfo.ch : スイスが緩和ケアの後進国なのはなぜでしょうか。

シュテフェン・エイヒミュラー:
 スイスは救急医療と治療措置に重点を置いている。この国では、最も高額だが最高の技術を備えた延命治療が受けられる。

一方で、慢性疾患医療や病と生きる点は、あまり重要視されていなかった。おそらくスイスの医療制度が統一されていないせいだろう。病院は経済主体であり、高齢者施設の介護は大半が保険の適用外のため、自宅で介護する。スイスはホスピスが極めて少ない。人々が期待するのは、病気にかかったら素晴らしい病院で治療すること。例えば国民保健サービスにあるような、病院以外を含む包括的な医療ネットワークでケアするという観点には全く目が向けられなかった。

英経済誌エコノミストが昨年発表した世界の死の質(QOD)指数ランキングで、スイスは15位。前回の19位からは改善したが、英国(1位)やオーストラリア(2位)には大きく差をつけられている。上位国は国民保健サービスが整備されている傾向がある。
swissinfo.ch: 他国に比べ、スイスの緩和ケアに足りない部分は。

エイヒミュラー: 経験だ。英国などは30年かけて緩和ケアを強化し、国民に浸透した。スイスは6年前からとかなり遅れた。しかし、私は緩和ケアが今後広く普及し、患者や家族が、他に選択肢が残されていないからではなく質の良い治療方法として受け入れるようになると思っている。

swissinfo.ch: スイスでは死や終末期はタブー視されているのでしょうか。

エイヒミュラー: タブーではない。例えば(スイスでは合法の)医師による患者の自殺ほう助について、メディアや政治家の間で盛んに議論されている。死や終末期は個人の自主性の問題であり、どのように尊厳ある死を迎えるかということに尽きる。病院などで、納得できる生の終え方が見つからない患者にとって、医師による自殺ほう助を選択できるのはメリットだろう。

 死を想像するとき、多くの人は、スイスの自殺ほう助提供団体「エグジット」や医師の自殺ほう助をとるか、現代医療で終わりのない苦しみに耐えるかの二択にせまられる。例えばそこに、友人や家族に囲まれ、専門家のサポートの下で尊厳ある死を迎えることができたらどうだろう。緩和ケアは人々に新たな選択肢をもたらしてくれる。

 不治の病であれ、生きるのに疲れたのであれ、死について議論する際、自己決定が最も重要であり最後の論拠となる。大多数の人が生の終え方を自分で決めたいと望む。スイスで広く受け入れられている自殺ほう助は、致死量の薬を摂取することで死を迎えるが、この最期の行為は患者本人が行わなければならない。

swissinfo.ch: スイス国民に緩和ケアが浸透しないのは、自殺ほう助が広く受け入れられているからでしょうか。

エイヒミュラー:
 我々が、緩和ケアと医師による自殺ほう助を比較する公開討論によく呼ばれることを鑑みれば、一般的にはそういう見方なのだろう。今後確実に議論が盛んになることが見込まれるのも一因だろう。

 だが私は、生の終え方を考える上では非常に限られた見方だと思う。アジアでは、生の終わりは人生のピークと考え、人生の終盤に差し掛かった高齢者に尊敬のまなざしを向ける。他方、スイスでは、アジアのような死生観は存在しない。

swissinfo.ch: 緩和ケアを普及させる手立ては何でしょうか。医療制度が統一されていないスイスでは、国の包括的な戦略は現実的でないようにように見えますが。

エイヒミュラー: その通りだ。これは政治問題であり、医療提供者である我々が立ち入れる部分ではない。はっきりしているのは、国民保健サービスの下では、医療制度のあらゆる部分に課せられた責任がはるかに重いことだ。私は、スイスの緩和ケアはもっと混合的な制度になり得ると考える。国民保健サービスにのような医療ネットワークの構築に向けて慢性疾患医療を促進する一方、救急医療を必要に応じて維持する。こうすれば両者の良い部分を最大限生かせる。

swissinfo.ch:
 ご自身はなぜ緩和ケアの世界に?

エイヒミュラー: 本当の意味での人間医学ができる素晴らしい分野だと思ったからだ。医療面のあらゆる問題に関心が向く。問題の中には極めて複雑なものもある。他方で、そこには一人の人間がいて、その人の人生があって、家族がいる。我々はそのような状況の中で、患者と一緒にベストの方法を探す。そこにやりがいを感じる。

 周りには驚かれるが、緩和ケアに従事することは少しもつらくないし、過労からくるバーンアウトに陥るケースは極めてまれだ。緩和ケアは私たちにとって非常に意義深い何かがある。この分野に関われることは、私にとっては非常に名誉なことだ。

自殺ほう助

 スイスでは、末期患者を苦しみから解放するために致死量の薬を投与することは、積極的な自殺ほう助として犯罪になる。一方で、患者自らが致死量を服薬する行為は、ほう助する側の第三者が患者の死に利害関係を持たない場合に限り容認されている。こうした背景から、自殺ほう助を支援する非営利団体「ディグニタス」と「エグジット」が生まれた。

 医師による自殺ほう助は安楽死とは意味が異なり、スイスでは合法化されている。今年初めに出された調査では、ドイツ語圏で2013年、何らかの形で医師による自殺ほう助を施した末期患者は5人のうち4人に上った。通常は延命治療の中止か薬の投与による方法がとられ、モルヒネなど鎮痛剤の投与量を増やすこともある。ほとんどの場合、患者本人と家族の合意の上で行われている。



第21回日本緩和医療学会開催
 第21回日本緩和医療学会学術大会(大会長=京府医大・細川豊史氏)が6月17〜18日,「あなたらしさに寄り添って――“愛と思いやり……そしてユーモア……”」をテーマに,国立京都国際会館,他(京都市左京区)にて開催された。

疾患の特徴から,意思決定支援の在り方を考える

 シンポジウム「非がん疾患における意思決定支援の問題点」(座長=北里大・荻野美恵子氏,いきいき在宅クリニック・横江由理子氏)では,緩和ケアに従事する医療者が,非がん疾患の患者や家族にかかわる際のポイントについて議論された。

 初めに登壇した看護師の高田弥寿子氏(国循)は,集中治療領域における心不全患者の意思決定支援について発表した。循環器疾患の「病みの軌跡」は,急性増悪を繰り返しながら最期は急速に悪化して亡くなる特徴があるため,ACP(Advance Care Planning)のタイミングが難しいとされる。また,急変により家族に悲嘆反応が生じることもある。そこで氏は,慢性心不全の場合は患者・家族と共に医療者が,「入院のたび」に将来のケア目標を再評価し,患者の望む人生を支えること([PMID: 22392529])が大切だと強調した。

 在宅の観点から心不全患者の緩和ケア推進について述べたのは看護師の多留ちえみ氏(神戸大大学院)。在宅療養の患者の生活背景はさまざまであり,状況によっては病院と自宅を行き来しての治療も必要になる。患者が自分の病態を理解した意思決定を可能にするには,在宅でも意思決定支援に継続的にかかわれる人材が求められると語った。その上で氏は,「心不全にも,緩和ケア診療加算の適応が必要」との見解を示した。

 続いて登壇した看護師の長江弘子氏(東女医大)は,エンド・オブ・ライフケアの概念に基づくプロセスとして,認知症患者の意思表明支援をモデル化する試みを紹介した。氏は,「ACPは心身状態の悪化や病状変化を前提にさまざまな局面で繰り返し行われるもの」と位置付け,病状変化に合わせて意思表明支援を継続していく必要性を図示。意思表明支援の特徴を時間軸で把握することによって,ケアプランとして計画的かつ意図的に意思表明支援を進めることができると期待を述べた。

 1945年の透析医療の開発により,臨床倫理の分野も進展したと言われる。その歴史を踏まえ,患者・家族への意思決定支援をいかに広げるかについて語ったのは医師の三浦靖彦氏(慈恵医大柏病院)。腎不全患者の医療選択の例から,“自分自身の物語”を自分で考え,自分の言葉で書く「エンディングノート」の活用や,終末期の不安を取り除くACPの周知を進めることが,患者の意思決定を支援する上で有用と述べた。

 総合討論では,「“日本人は決められない”と言われるがどう意思決定を支えるか」との荻野氏の問いに,シンポジストからは「患者に対する病状理解の促進」や,「情報提供をする医療者側のリテラシー向上が必要」との意見が挙がった。

週刊医学界新聞 第3183号 2016年7月18日

末期癌の医師・僧侶が解説 ソクラテス「無知の知」の真意
 2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載 「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、ソクラテスの「無知の知」という言葉の意味を紹介する。

 * * *
 ソクラテスは自身の裁判の最初に、本当の告発者は「風説を広めた人たち」だと言いました。なかでも、喜劇作者のアリストファネスによる戲曲『雲』の影響は大きかったようです。この喜劇の中で、ソクラテスは詭弁を弄して青年を腐敗させる者、として描かれていました。

 これらの讒謗に対抗する証人として、ソクラテスはデルフォイの神を立てました。

 かつて、友人のカイレフォンがデルフォイの神殿で「ソクラテス以上の賢者がいるか」と伺いを立て、「ソクラテスは万人の中で最も賢い」との神託を得ていました。

 これは間違いであろうと考えたソクラテスは、自分よりも賢い人を探し始めました。それぞれの分野で勝れた人たちに会って質問してみると、自分の専門とすることに関しては勝れた知識をもっていても、それ以外のことに関しては何も知らないことにソクラテスは気づきました。

 ソクラテスが質問したのは、徳について、そして善や美についてでした。皆、知らないのに知っていると誤解している。ソクラテスは、知らないことを知っている。この「無知の知」によってデルフォイの神託は正しかったことが明らかになり、後年、裁判で神託を用いたのです。

 フランシス・ハッチソンの言葉「徳は善の量であり、最大多数の最大幸福をもたらす行為が最善である」も、彼が美と徳の理念の起源を探究する中で到達した考えであり、古代ソクラテスの問いに対する近代啓蒙主義の答えであったとも解釈できます。

 さて、ここからは私の考えです。私は幸運にも、医学という科学の研究職に携わった後で、仏教学という人文学を大学と大学院で計7年間も学ぶ機会を得ました。そして「科学と人文学」という、互いに補いあう二つの知識の体系があることを知りました。

 実験と観察で間違いを検証できる事柄に関しては科学、それ以外に関しては人文学です。間違っているかどうかではない領域では、良い物語が長い歴史の中で選ばれて古典となります。古典を学んで如何に生きるかを問う学問が人文学です。

 日本の医療現場にも「無知の知」と似ている状況があります。医学という専門分野の知識をもって、それ以外の分野についても優れていると誤解している傾向です。

 医師免許を得るための国家試験は、医学という科学が試験範囲であり、人文学は無関係です。特に末期がん患者などの緩和ケアにおいてNBM(物語に基づく医療)が重要ですが、患者の人生の物語を完成する手伝いをする担当者が、日本の大部分の医療現場に不在です。

 日本の医師のほとんどが、このように患者のいのちのケアを行なう人文学の専門家が医療現場に必要だということに気づいていません。現在育ちつつある臨床仏教師や臨床宗教師の活躍に期待しています。

●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。 1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医、僧侶として患者と向き合う。2014年10月に最も進んだステージのすい臓 がんが発見され、余命数か月と自覚している。新刊は『いのちの苦しみは消える』。

ガジェット通信 2016年7月18日

看護師直伝 がん治療と笑顔で付き合う
緩和ケアスクリーニング「3つのメリット」
 がん診療連携拠点病院で、緩和ケアに関する「スクリーニング」(緩和ケアスクリーニング)が診断時から外来や病棟で行われるようになりました。

 2015年に始まったばかりで課題も多いのですが、今回はこの制度のメリットについて伝えたいと思います。

 皆さんは、診察で医師に症状や苦痛を十分に伝えられなかった経験はありませんか? いざとなると緊張してしまったり、聞きたいことを聞けないうちに別の話題になったり……。消化不良の思いを抱いたことは一度や二度ではないのでは?

 一方、医療者側も患者さんに事細かに説明をしたいと思う半面、診療の待ち時間を少しでも短縮したい気持ちもあり、悩みます。

 緩和ケアスクリーニングとは、簡単にいえば、これらの問題を解決するもの。患者さんやご家族は、外来診療の前に苦痛の程度に関する問診票の記入などを行います。医療者側はそれを見て、診察前に患者さんの情報を得ます。

 がん治療では、体のつらさだけでなく、経済的な不安も生じます。これについても、事前に「相談希望」と記せば、がん看護外来、緩和ケア外来、ソーシャルワーカーなどにスムーズにつながります。

 問診を書くのが大変だったり、書いたことをまた聞かれたりするのが面倒という方もいるかと思いますが、「より多くの情報で多角的に診察を受けられる」「必要な外来や社会資源の導入などがスムーズになる」「自身の変化を把握できる」「医療者とのコミュニケーションが増える可能性がある」などのメリットが考えられます。皆さまの声もいただきつつ、この制度が活用されるといいなと個人的には思っています。

 最後にもう一点。緩和ケアというと「末期がん患者に対して行われるもの」と考えている人が多いですが、@診断時からAがん患者とご家族に対して行われる、が正解です。ですから、緩和ケアスクリーニングは、早期がんの患者さんも対象になります。

日刊ゲンダイDIGITAL 2016年7月25日

告知で絶望しないために。現役医師による「病名なんて要らない」論
 病院で診察を受けると、症状に「病名」がつけられ、病名がわかって初めて治療法が決まります。メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で早大教授の池田先生は、旭川医科大学・緩和ケア科の医師である阿部泰之さんの著書を引用しながら、現代の医療においてごく当たり前になっている「EBM」(根拠に基づく医療)という手法について、そのメリットとデメリットを明らかにしています。はたして、医者が病名を付けることはいいことなんでしょうか、悪いことなんでしょうか?
 
病名を付けるのはいいことなのか

 旭川医科大学の阿部泰之さんという緩和医療の専門医が書いた『ナニコレ?痛み×構造構成主義』(南江堂)と題する本を読んだ。阿部さんは長年痛みを治療する経験を通して、同じ病名がついていても、同じような痛みを訴えてきても、最も優れた対処の方法は一義的に決まらず、状況ごとに異なることを学び、上記の本を書かれたという。

 医学の主流は、まず病名を確定して、その病気に対する最も適切な標準的な治療法を施すやり方だ。一般的にEBM(evidence-based medicine 根拠に基づく医療)と呼ばれるものがそれで、膨大なデータを統計処理して、どんな治療法が最も治る確率が高いかを調べ、適切な方法を選択しようというものである。

 もちろん、EBMで治る病気も多い。病気の原因がはっきりしているもの、例えば、感染症やケガなどは、このやり方で、ほとんどの人は治るだろう。原因と病名と治療法がほぼ1対1対1対応している場合が多いからである。しかし原因が多岐に渡るものや、原因がよくわからない、あるいは原因がわかっても取り除くことができない病気は、そう簡単にはいかない。たとえば、がんの治療である。がんの究極原因はがん関連遺伝子の異常にあることはわかっていても、遺伝子の異常を修復する方法は今のところないので、手術、放射線,抗がん剤といった様々な治療法が試みられている。しかし、一番適切な治療法はあらかじめわからず、たまたま、治る人もいれば、よけい悪化して死期を早める人もいる。

 著者の専門である慢性疼痛はさらに複雑で、標準的な治療法であるオピオイド(モルヒネ様活性を有する合成ペプチド)をどのくらいどのように投与するかは、患者の個別の状況によって異なり、一般的な解はない。著者の考えでは、慢性疼痛は現象であって、病名をつけるのは好ましくないという。阿部は次のように書いている。

病名をつけることには「デメリット」もある

「私は、たとえば繊維筋痛症という診断名を使いません。繊維筋痛症は原因不明で、全身の痛み、不眠、抑うつ、過敏性大腸炎などを合併する疾患群です。もちろん、このような患者さんがいることは知っていますし、それに近い人を診た経験もあります。しかし、繊維筋痛症に保険適応の通っている薬剤を使うため、という理由以外で繊維筋痛症という名づけをするメリットを私は感じないのです。それが、繊維筋痛症という定義にあてはまる人であれ、そうでない人であれ、慢性痛症として大きく認識したうえで、あとはそれぞれの志向を探り、志向を変える契機を個別に考えていくということになるわけですから」。

 ここで言う志向とは患者が自分の痛みについてどのように考え、どうしたいかという、患者が痛みに向き合っている癖のようなもので、それをいい方向に変えることで、痛みがずっと和らぐことを、著者は主張しているのである。契機は様々で、薬剤であったり、カウンセリングであったり、患者自身の経験であったりするわけで、一般的な解はない。病名をつけてしまうと、あたかもその病気に対する最適な治療法があるかのように医者も患者も考え勝ちなので、病名はつけないほうがいいのである。

まぐまぐニュース! 2016年7月25日

なぜ?希望していなかった全患者に延命治療
救急搬送された終末期がん患者を調査
 「どこで、どのように死を迎えるか」―余命わずかと診断されたがんの終末期は、その判断を迫られる時期でもある。近年、終末期の治療について事前に決めておこうとする動きが広がっており、その一環として、主治医が患者やその家族に「もし心臓が止まったり、呼吸ができなくなった場合に、心肺蘇生術(心臓マッサージや人工呼吸など)で延命を試みることを希望するか」を確認することが多い。医療現場では「心肺蘇生術を試みない」という方針は英語の"do not attempt resuscitation"の頭文字をとって「DNAR」と呼ばれている。

 ところが、半田市立半田病院(愛知県)麻酔科の杉浦真沙代氏が、同院の救命救急センターに心肺停止で搬送されてきた終末期のがん患者の記録を調べたところ、「DNAR」の意思表示をしていた患者の全てに心肺蘇生術が行われていたことが分かったという。6月17〜18日に京都市で開かれた日本緩和医療学会の会合で同氏が報告した。なぜ、患者の希望に反して延命治療が行われるのか―。その背景には、患者の家族などに「救急車を呼ぶ行為が心肺蘇生の希望を意味している」ということが認識されていない現状があるようだ。
 
59人中30人にDNARの意思

 杉浦氏が勤務する半田病院の救命救急センターには、1年間に約6,700人もの患者が救急車で運ばれてくる。この中には、事前にDNARの意思表示をしていたにもかかわらず、心肺停止後に救急車で運ばれてくる終末期のがん患者が少なくないという。救急車が呼ばれ、その場に心肺停止状態の人がいれば、救急隊はほぼ必ず心肺蘇生術を行う。したがって、DNARの意思があっても救急車が呼ばれれば心肺蘇生が行われることになる。

 今回、同氏が2012年4月1日〜15年11月30日に同センターに運ばれてきた心肺停止患者のうち、がん終末期と診断されていた59人(平均77.1歳)の記録を調べたところ、このうち30人は事前にDNARの意思表示をしていた。また、11人については救急隊にDNARの意思を示していたことが伝えられていた。

 それでも、例えば胸膜がんを患っていた80歳代の女性は自宅で心肺停止となった際、家族が救急車を要請。救急隊にDNARの意思があったことが伝えられたものの、心肺蘇生術が行われていたことが分かった。この女性は、いったんは蘇生に成功。その後、集中治療室(ICU)に入り、29日後に亡くなったという。

 また、大腸がんの70歳代の男性は、入所している施設で心肺停止となり、施設で看取る予定だったが、かかりつけの医師と連絡が取れなかったために「死亡診断書を発行できない」という理由で救急車が呼ばれた。この男性もDNARの意思を示していたことが救急隊に伝えられたが、心肺蘇生術が行われたという。ただ、結果的には蘇生には至らなかった。

家族もDNARの意味理解して

 なぜ、DNARの意思を示していたことが救急隊に伝えられても、心肺蘇生が行われるのか―。杉浦氏によると、現状の消防法などでは、救急車が呼ばれた以上、救急隊は心肺停止状態の患者に心肺蘇生を行わざるを得ないという。

 このことから同氏は「患者やその家族、施設の職員などに『心肺停止後の救急車の要請は、延命治療の優先を意味する』ということを理解してもらうことが重要」と指摘。また、医療従事者に対しては、DNARの意味を患者本人だけでなく家族にも十分理解してもらえるように、患者が自分の考えをはっきりと示すことができる時期に話し合いの場を設けるなどの配慮を求めた。

 さらに同氏は、患者が終末期に希望する治療と希望しない治療を明確に示してもらうツールとして、「事前指示書」が役立つと説明。半田市が公式サイトで公開している事前指示書を紹介し、「こうした事前指示書をいかに普及させ、活用してもらうかが今後の課題」とした。

メディカルトリビューン 2016年7月27日


摂食を正しく理解し認知症終末期の高齢者の食事介助に備える
 こんにちは、理学療法士・介護福祉士の中村です。今回は、認知症終末期の中でも、筆者が重要と思う口腔ケアについてお話いたします。「医食同源」という言葉があるように、食事が持つ意味はとても大きいです。生命維持のためにも、「摂食」という行為はとても重要です。

認知症終末期の基準を考える

 まずは、認知症終末期の基準項目について、お話いたします。

狭義の基準:1〜4の全てを満たす

認知症である

意思表示の確認が困難か不可能である

認知症の原因疾患に伴って嚥下が困難か不可能である

 上記の1、2、3の状態が非可逆的(改善や治癒が見込めない)である

広義の基準:1または2を認める

狭義の終末期の状態である

治癒しない認知症であり、認知症の原因疾患によらない身体疾患による終末期の状態である

出典:日本神経学会,「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同員会(編):認知症疾患治療ガイドライン2010,pp216-218,医学書院,2010.


 
認知症高齢者の終末期の期間は比較的長く、介護の3大行為(食べる、排泄、入浴)に困難を伴う事が多いです。特にコミュニケーションを図ることが難しく、家族介護者は高齢者の意思を確認できないことから不安を募らせてしまう事となります。
 

終末期の食事介助について

 開口しない、口唇が小刻みに震えている(口唇ジスキネジア)、給仕してもすぐに舌で押し出されるなどが、認知症終末期に見られる状態です。理由は様々なのですが、おもに脳血管障害などが原因疾患としてあると、顕著に出現します。食事摂取が困難な状況が続くことで、食事摂取量低下による栄養不足となり、体力(筋力)の低下、抵抗力の低下、寝たきりへ…と悪循環を招いてしまいます。

 認知症高齢者を支えるご家族や介護職員は、たとえ認知症終末期となっていても「良くなってほしい」と考えるのは当然の事であり、私自身もそう考えています。しかし、目の前の認知症高齢者が開口しない、舌で押し出す等の行動により、我々介護者は食事介助を行うにあたり、「これで良いのだろうか」と不安を覚えます。「食べて欲しいのに、食べてくれない…」と言った介護者の気持ちは本当によく理解できます。

 そこで、一度立ち止まって欲しいのです。どうして摂食しないのかという理由を探るために、立ち止まって介護を展開させて欲しいと思います。
 
日常の会話も口腔ケアの一環

 筋肉の話になりますが、人間の筋肉は動かし続けなければ本来のパフォーマンスは発揮しません。皆さん、隣にいる方の協力を仰ぎ、お互いの手を写真のようにして、1分間力一杯引き続けて下さい。

 1分後、指を決して拡げる事なく、そのままゆっくりと相手の手から外します。そして手のひらを上に向けて下さい。この際、テーブルなどの上に腕を置いてリラックスする事が重要です。リラックスして力を抜いた状態でゆっくりと指を拡げて下さい。どうでしょうか?指が動かないはずです。

 これは、人工的に作り出した拘縮です。つまり、筋肉を動かさないでいると、口も拡げにくくなるのです。認知症高齢者だから会話が成り立たないから…と言って会話の機会が減れば、おのずから開口する筋肉は固まります。奇声は迷惑な事もありますが、視点を変えると開口させる筋肉が動いている証拠でもあります。また、食事前に行うマッサージも有効です。
 
何気なく行っているケアを見直す

 我々介護者は、給仕する際に何気なくスプーンを使いますが、そのスプーンにも落とし穴があります。よだれをスプーンで処理したり、また唾液が含まれているままでご飯をすくうと、唾液に含まれる消化酵素(アミラーゼ)により、お米の硬さは柔らかく(液状化)なります。これを離水現象と言います。

 とろみが付けられている方や、ミキサー食などの高齢者の食事において、離水現象が起こるとどうでしょうか?ゾッとしますよね。誤嚥性肺炎の可能性が一気に浮上しますものね。食事介助を行う介護者によって、食事の硬さが「次第に違ってくる」という事が起こります。食思の低下の要因は色々なところに隠れています。
 
脳血管性認知症の高齢者の場合

 味覚が低下している事もあります。栄養価を考え、薄味も大切ですが、主体はどこにあるのでしょうか?1品だけでも味に変化をつけるといった工夫も必要かもしれません。
 
口腔ケアの本当の意味

 口腔ケアも非常に重要です。口腔内が乾燥し上顎などに痂皮が見られたり、痰が付着していたり、舌苔があったり…と認知症終末期における高齢者の口腔内の環境はうまくいっていない、また認知症高齢者の拒否などによりうまくできない事も多々あるかと思います。

 最近は歯科衛生士さんが介護の現場にも登場するようになりましたが、まだまだ少ないと筆者は考えています。積極的に歯科衛生士さんの協力を仰ぎ、口腔ケアにも力を入れることも大切だと考えます。口腔は人体最大の最近培養器です。口腔ケアは単なる口腔衛生維持改善だけではなく、最期の一口をより良い状態で「食べる」ためにも欠かせません。
 
さいごに

 人間は生まれてすぐ肺呼吸に切り替わりますが、口を大きく開けて産声を挙げます。すべて口から始まります。食事だけでなく、構音や呼吸も担っている口腔に対して更に注目し、「最期の一口」が望んでいるものを食べられるようにこの記事を参考にしていただけると幸いです。

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身
介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他
病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及び居宅介護支援事業所、訪問看護等の介護保険事業を手掛ける会社の共同代表として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。


ガジェット通信 2016年7月27日

医師の7割、終末期に胃ろうや点滴望まず
3割以上が「一切の延命治療」を拒否
 高齢者への人工的に栄養を補給する胃ろうや中心静脈栄養の是非をめぐって、意見が分かれている。日本は諸外国と比較して胃ろうの造設件数が多く、嚥下機能の評価を十分にしないまま安易に造設するケースが多いとの批判を受け、胃ろう造設術の減少を目的に、2014年度診療報酬改定で点数の引き下げが行われた。しかし、造設件数はほとんど減少していない。

 社会保障費の増加抑制が迫られる中、高齢者と医療費の問題についても厳しい目が注がれている。胃ろうなどの終末期医療を「不必要な医療」だと認識している医師も少なくない。しかし、人工栄養補給で回復するケースもあり、病院の経営上の問題や、家族からの強い要望があるなど、さまざまな理由で、実際の医療現場ですぐに減らすことは難しい状況だ。

 もし、自分が高齢による疾患で、日常生活が困難になり、治る見込みもない、全身の状態が極めて悪化した終末期を迎えた場合、どの程度までの医療を望むのか。また、自分の家族だったらどの程度までの医療を望むのか。医師509人(勤務医503人、開業医506人)に尋ねた。

Q.「ご自身」が高齢となり、脳血管障害や心疾患、認知症などによって日常生活が困難となり、さらに、治る見込みがなく、全身の状態が極めて悪化した場合、どの程度までの医療を望みますか。(下記5つから1つを選択)

1.可能な限り、全ての延命医療を望む
2.人工呼吸器等、生命の維持のために特別に用いられる治療は中止してほしい
(胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給、水分補給は続けてほしい)
3.胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給も中止してほしい
(点滴の水分補給などは続けてほしい)
4.点滴の水分補給など、一切の延命治療を中止してほしい
5.分からない

Q.「ご家族」が高齢となり、脳血管障害や心疾患、認知症などによって日常生活が困難となり、さらに、治る見込みがなく、全身の状態が極めて悪化した場合、どの程度までの医療を望みますか。(下記5つの選択肢から1つを選ぶ)

1.可能な限り、全ての延命医療を望む
2.人工呼吸器等、生命の維持のために特別に用いられる治療は中止してほしい
(胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給、水分補給は続けてほしい)
3.胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給も中止してほしい
(点滴の水分補給などは続けてほしい)
4.点滴の水分補給など、一切の延命治療を中止してほしい
5.分からない


 勤務医では、「自分」と「家族」のいずれの場合も、3の「胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給も中止してほしい(点滴の水分補給などは続けてほしい)」が最も多く、39.5%(自分の場合)と43.5%(家族の場合)が選択した。開業医は「自分」の場合は4の「点滴の水分補給など、一切の延命治療を中止してほしい」が最も多く、37.1%が選択したが、「家族」の場合は逆転し、勤務医と同様、3の「胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給も中止してほしい(点滴の水分補給などは続けてほしい)」が最多で、36.3%を占めた。

 いずれも、3と4を合わせると7割近くになり、胃ろうや中心静脈栄養などによる栄養補給、人工呼吸器等、生命の維持のために特別に用いられる治療は、ほとんどの医師の回答者が望んでいないという結果になった。

m3.com 2016年8月1日

これで痛みを取り除く
膵臓がんの痛み対策は腹腔神経叢周囲に“アルコール注入”
 元横綱千代の富士(九重親方)が膵臓がんで亡くなった。

 膵臓は胃の後ろにある長さ15センチほどの細長い臓器。膵臓がんになると胃の辺りや背中に痛みが表れる。東邦大学医療センター大森病院・緩和ケアセンターの大津秀一センター長(緩和医療専門医)が言う。

「膵臓がんは、オピオイド(医療用麻薬)が効きにくい難治性の神経障害性疼痛を合併しやすいがんの代表格です。痛み自体が強いというより、他の臓器のがんに比べて治療で痛みが取りづらいのです」

 膵臓がんの大半は、膵臓を貫いて走る細い管の中の細胞にできる。最初は他の固形臓器のがんと同じように、内圧の上昇や被膜の伸展などによる「内臓痛」の痛みが表れる。内臓痛は痛い場所がはっきりしない鈍痛が多く、オピオイドがよく効く特徴がある。ところが進行して、徐々にがん細胞が被膜を破り、周囲に浸潤してくると、オピオイドが効きにくい神経障害性疼痛が加わってくるのだ。

「膵臓は、周囲の神経が網目状に密に集まっている腹腔神経叢と隣接しています。がんが進行すると、周囲の神経を直接、圧迫したり浸潤することで神経障害性疼痛を合併するのです。途中でオピオイドが効きづらくなるので、患者さんの中には耐性ができたと思う人もいます」

 神経障害性疼痛は、しびれ感やピリピリした異常感覚を伴う痛みで、内臓痛とは痛みの症状が異なる。膵臓のがんのできた場所によっては、背中にも痛みが表れる場合があるという。

「神経障害性疼痛に対しては、オピオイドをベースに抗けいれん薬や抗うつ薬などの鎮痛補助薬を組み合わせて痛みを取ります。それでも効きが悪い場合には、麻酔科によって行われる神経ブロックを検討します」

 膵臓がんをはじめとするがんの上腹部痛では、主に「腹腔神経叢ブロック」が有効。腹腔神経叢周囲のスペースにアルコールを注入する方法だ。日本緩和医療学会のガイドラインでは患者の70〜90%で長期の痛みの緩和を得ることができるとされる。

「ただし、行う麻酔科医には熟練した腕が必要になりますし、専門家も決して多いわけではありません。残念ながら施行できる医師がいない施設もあります。一方で、上手な麻酔科医が行えば劇的に痛みが取れて、オピオイドの使用量も減らすことができます」

日刊ゲンダイDIGITAL 2016年8月3日

36歳の末期がん患者が、娘に残すために始めた「最後の仕事」
 2015年に末期の胆管がんと診断された人材会社社員の西口洋平さん(36)は、2016年、子供を持つがん患者同士が出会うことができるコミュニティサービス「キャンサーペアレンツ〜こどもをもつがん患者でつながろう〜」を立ち上げた。西口さんはこのコミュニティを「最後の仕事」として、娘に残したいという思いで精力的にこの活動に取り組んでいる。その思いを聞いた。

――まず、がんと診断された経緯を教えてください

 体調がおかしいなと思い始めたのは、2014年の秋頃からです。ビールを飲んだり、ラーメンを食べるとお腹を下すというのがまず気づいた異変で、なんとなく白っぽい便の下痢をするようになりました。お腹も痛く、病院に行ったのですが、その時は下痢止めを処方されました。それから年末ごろまでに体重が急に5キロ落ちて、スーツのズボンがブカブカになったんです。

 そして、2015年1月末、「黄疸が出ている」とお医者さんに言われたんです。検査入院をして3日目のことでした。「驚かないでね、悪性腫瘍があるんだよね」と告げられて。何のことかわからずに、聞いたら「がんです」と。その時に、今後の治療の話もして「相当難易度が高い手術が必要です」と言われました。

――どんな思いで告知を聞きましたか

 気持ちの整理ができないまま、病院から実家の母に電話をしまして、「がんって言われた」と言ったところで、もう声が出なくなりました。階段のすみで泣きながらうずくまってしまったんですが、慌ててトイレに駆け込んで、泣き続けました。それから顔を洗って、奥さんに電話で伝えました。病気に対するショックで、仕事や生活、子供のこととかその時は全く考えられませんでしたね。

 入院前まで普通に仕事をしていたのに、急に崖から落ちたような...。奥さんも絶句していました。翌日、奥さんと一緒に病院に行ってもう一度、説明を受けて手術について聞きました。奥さんはすでに、入院期間だとか、費用とか、冷静に質問していてすごいなと思いました。

――どんながんなのでしょうか

 5年生存率が極めて低いという、胆管がんでした。診断された時には、肝臓の6割、膵臓の頭までを取る大手術をしなければならないということでした。難易度が高い「12時間コース」の手術で、体力が持たずに、手術で命を落とす人もいると。でも実際に2015年の2月、手術をしてみたら、たった3時間で終わってしまいました。開腹してみたら、リンパ節や腹膜への転移が多すぎて、すでに手がつけられない状態、抗がん剤治療しかできることはないということがわかったんです。

 いわゆるステージ4、末期の状態です。家族にだけ告知されていて、自分が教えてもらうまで、手術から3日間ありました。家族の目が腫れていたり、奥さんが気丈に振る舞っていたりして、おかしいなと思いながら過ごしたので予感はありました。「やっぱりそうか」と落胆しました。がん告知より、この時が一番ショックだったかもしれません。

――抗がん剤治療を始めて、体調はいかがですか

 だるかったり、吐き気といった副作用はありますが、よく効いているんです。幸い、仕事には2015年4月にも復帰できました。手術から1年半経ちましたが、「こんなに元気になるとは」とお医者さんも言っています。今も週に1度のペースで抗がん剤を打つために通院しています。

――お子さんは

 娘が1人、7歳です。病気だということは理解していますが、どこまで深刻に捉えているか。ちゃんと話したことはありません。奥さんとは「僕が死んだあとどうする」という話はしています。子供の将来が気がかりだし、何とかしてあげたい。何かを残したい、でも、死ぬ前提でいろいろなことをするのも違うな、と思ったり、葛藤の中にいます。お金のことももちろん不安です。

――お仕事は今どうされていますか

 2002年から新卒で、当時できたばかりの人材会社で営業やマネジメントの仕事を続けてきました。出向などをはさみ、同じグループ企業にずっと勤めています。入社当時の社員はたった40人でしたが、2008年には社員数は1200人にまでなりました。告知された当時は子会社に転籍していたのですが、がんの告知を受けて1年で退職しました。退職後は元の会社で、週に2〜3日のペースで働いて、残りの時間をキャンサーペアレンツの活動に当てています。創業当時からいる社員として、今は育ててきてくれた会社に何かお恩返しをしようとメンターなどの仕事を主にしています。

 がんについて、告知後すぐに会社には伝えました。同僚もサポートしてくれて、勤務を続けられたのはありがたかったですが、入院で有給の日数はすでに超えていますから、基本給も減ります。営業でしたから、勤務日数が少ないと成果を出しにくい。身体も、精神も、お金も不安定で三重苦でしたね。

――「キャンサーペアレンツ」を始めようと思ったきっかけは

 とにかくがんになって自分が困ったのは、周りに相談できる人がいなかったということなんです。入院先でも、がん患者というと多くはおじいちゃん、おばあちゃん。でも自分が知りたかったのは、子供をどうするか、仕事をどう続けるかということでそういう話ができる同世代はいなかった。孤独でした。同世代のがん患者と繋がりたい、そのために、たくさん若いがん患者が集まるコミュニティを作りたいと思いました。

 実際に動き始めたのは2015年の秋に友人に声をかけられたのがきっかけです。その頃には抗がん剤治療にも慣れ、仕事も随分効率よくできるようになった。でも、自分が生きた証として「最後の仕事」を成し遂げたい気持ちになりました。その時はビジネスプランのコンテストに応募したのですが、それは不採用になり、自分でやることになりました。

――「キャンサーペアレンツ」のコミュニティとは?

 まずは、がん患者に会員登録してもらって、繋がりたい人と繋がって、お互い、いろいろと相談できるという仕組みを作りました。困った時に、仲間がいるという安心感を抱いて前向きに生きて行く糧にできたらいいと思います。

 例えば先日は、30代後半の女性のがん患者さん2人がメールのやり取りを経て、スカイプで話す機会をセッティングしました。お互い、年齢も近くてがんの種類も同じ、子供がいるところも同じで、でもそんな人は周りにいなかった。2人が出会えたという感動がすごかったです。「自分たちに何かあったらそのあとは、子供同士が支え合っていく関係になれたらいいね」という話もしていて、なるほどと思いました。

――西口さん自身がお子さんに残したいものとは?

 僕もいろいろ考えました。お金なのか、ビデオレター?それとも手紙?でもそれよりも、「僕が色んなことを思って、こんなことをやったんだよ」と、父親がこういう仕事を最後にしたんだと、物心がついた時に知ってくれて「私も頑張ろう」と思ってくれたら、めっちゃ嬉しいなと思いました。だから、そのためにも「キャンサーペアレンツ」を長く残したい。コミュニティとともに、この活動でなんとかお金を生み出して、事業としてちゃんと回る仕組みを作ってやりたいんです。

――事業にするとはどんな?

 世の中にはがん患者の情報が欲しい人もいるんです。生命保険会社とか、病院、自治体とか国とか。がん患者の声が聞きたいという人と、そういう会社などをつなぐビジネスをしたい。例えば、わかりやすいところでは、製薬会社であれば新薬の副作用について調査したい時に、直接ではなく調査会社を利用します。ただ、その新薬が対象としている形や条件のがん患者を見つけるのは大変なのだそうです。こういった時にコミュニティを利用して、謝礼金を還元するような仕組みがあればいいなと思います。

――「がん患者を集めてお金儲けするなんて」と感じる人もいるかもしれません

 もちろん、コミュニティの部分と事業とは切り離して希望者だけが参加するような仕組みで考えています。でも、働きざかりでがんになった人は、治療で勤め続けることが難しくなる人もいるでしょう。子供のいるがん患者は今後の家族の生活も本当に心配。働きたくても働けない人が、少しでも自力で稼ぐことができる道が開ければいいなと思うんです。それが自分の最後の仕事として成し遂げたい目標です。

Huffpost Japan 2016年8月6日

いざ宣告を受けた時あなたは
がんの「生存率5年」を考える
 男性特有の前立腺がんのように、『5年生存率』が末期を除いてほぼ100%のものもあれば、すい臓がんのようにステージ1でも30%強というものもある。また、一概に生存率と言っても、調査対象者特性(性別や年齢)、進行度などによってバラつきが出るうえ、統計を取っている病院側でも診断が異なっている。

 「例えば国立がん研究センターや、がん研有明病院、聖路加国際病院、東大病院でも、それぞれ違う。さらに途中で追跡不能になる場合や、他の病気で死亡する例もあり、集計方法によっても違いが出てきます。そんな中で、全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)のデータは、患者にとって必見です」(前出・健康ライター)

 全がん協のホームページでは、全国32の医療機関の症例から算出されるデータを公開しており、知りたい条件を入れて検索すれば、個別の生存率を知ることができる。

 「5年生存率」を知ることがなぜ重要か。それは、その数値いかんで残された時間をどう過ごすかを考えることにもなるからだ。数値が悪いからと言って悲観することはないが、それでも数値が低ければ人生の選択肢は変わってくるだろう。
 「例えば現役サラリーマンで、すい臓がん“ステージ2”と診断されれば、即座に会社を辞めるでしょう。そして“終活”を考える。がんは、心筋梗塞や脳卒中と違い最後の時間が与えられる病気です。加えて、どこにできたのかによって、助かるケースと助からないケースに分かれもする。残酷な病気ですが、敵を知ることこそ心構えが備わり、命を守ることにもつながるのです」(同)

 東京社会医療研究所の片岡智彦医師は言う。

 「ステージで言えば、0〜2期ぐらいまでは治療率がいい。医師は手術でがんを取り去ったら『よし』とします。あとは5年間、経過観察です。もちろん、抗がん剤も使わない。そのため再発の傾向が強くなるのは3期あたりからです。再発は、ほとんどの場合5年以内に起こり、3年以内が多い。ですから、5年間はきっちり見る必要があるわけです。それで再発がなければ、治癒したとみなし『寛解しました』とお伝えしています」

 ただし、3期からは手術の前に化学療法でがんを叩くことも行われるという。4期の場合、肝臓や肺などは遠隔転移しているがんを切除し、大腸の原発巣も、取れるものは徹底的に取り去る。原発巣が取れなければ化学療法になる。また、原発巣と遠隔転移したがんの両方とも取れない場合にも化学療法で、小さくなったら手術する、というケースも最近は増えているという。

 この後期から末期の大腸がんの5年生存率はどうなっているのか。ステージ分類とともに用いられるデュークス分類C(ほぼ3期に相当)は70%なので、大腸がんの助かる確率は、やはりがんの中では高いといっていい。
 「3〜4期の5年生存率は、近年確実に上がっています。ただし、治る、治らないということとは、また別問題なのです。4期の場合、抗がん剤でかなり延命するためで、治ったということではありません」(同)

 突如受けるかもしれない、がん宣告。その時、あなたは何を考えるか。

niftyニュース 2016年8月7日

緩和ケアが進歩 がん死が一番楽という医療関係者も
 日本人のがんに対する恐怖心は大きい。多くの人は「がんにだけはなりたくない」「がんになると痛い……」と口を揃え、がんで死ぬことは不幸だと思い込みがちだ。

 だが、本当にそうだろうか。意外にも、「がんで死ぬのが一番楽だ」と話す医療関係者は少なくない。米山医院院長の米山公啓氏はこう語る。

「ひと昔前と比べ、がんの緩和ケアは格段に進歩しています。モルヒネによるペインコントロールで痛みが軽減され、多くのがん患者は苦しまずに最期を迎えている。肝臓がんや腎臓がん、胃がんなど、痛みをコントロールするのが比較的容易ながんは多いのです」

 発生する部位によってがんの痛さの程度は異なってくる。

「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓は、がんが発見されたときには末期に至っていることが多いとされる。しかし沈黙の臓器であるゆえに肝臓がんは、痛みが少ないがんでもある。

 肝臓がんが進行すると腹水が溜まるため、血液が滞ったり、血圧低下が起こる。だが、そうした体調不良を除けば、「軽い腹痛」を疑う程度で、痛みをほとんど感じない患者もいるという。

 胃がんも痛みが少ないがんの一つとされる。腫瘍が大きくなると胃酸が流れ込み、沁みるような痛みを覚えるケースが稀にあるという程度で、こちらもがんそのものが与える痛みは少ない。

 膵臓がんは、年間約3万人が亡くなり、5年生存率が10%を切ることから「最も危険ながん」と恐れられている。だが、これも痛みの少ないがんである。臓器が腰の神経の近くにあるため、腫瘍が浸潤すると、「ちょっと腰が痛いなァ」と腰痛を訴えることがある程度だという。

ガジェット通信 2016年8月11日

「愛犬に会いたい」末期がん女性の最期の願い
病院も協力(ブラジル)
ざっくり言うと

 ブラジルで末期がんを患う女性が愛犬に会いたいという願いを病院側に伝えた

 病院側は特別な部屋を用意し、そこでなら犬に会わせてもいいと許可を出した

 愛犬と会えたことで、女性の気力に変化が見られたという

 ペットを愛する家族にとって、その子はもはや家族の一員だ。我が子のように可愛がり大切に世話をする飼い主は、ペットとの間に特別な絆を築いている。そして多くのペットが飼い主の心情を察し、愛と忠誠心をもって応えているのではないだろうか。飼い主もそんなペットが可愛くて仕方なく、もし離れ離れになってしまったら寂しさが一層募るだろう。

 ブラジル南部のポルト・アレグレ市で末期がんを患うレバーネ・チリさん(49)はこれ以上闘病を続けることにほとほと疲れてしまったのだろう、医師にこれ以上の治療を受けないことを伝えた。だが、死期を待つ彼女にとって切に会いたいと願うのは可愛がっていた愛犬“リッチー”だった。

 長い間入院していたためにもう随分と会っておらず、レバ-ネさんは我が子のように可愛がってきたリッチーが気がかりだった。そこで息子ジェイムズさんは母の最期となるであろう願いを叶えるべく、病院側にレバーネさんの気持ちを伝え、母と愛犬を会わせてもらえるように頼んだ。通常は病院内に動物を持ち込むことは衛生の問題もあり考えられないことだが、病院側は特別な部屋を用意し、そこでなら犬に会わせてもいいと許可を出したのだ。

 後日、家族が見守るなか特別にあてがわれた部屋でレバーネさんは久しぶりに愛犬リッチーとの再会を果たした。酸素マスクをつけながら弱々しくベッドに横になっているレバーネさんを見たリッチーは、ちぎれるほど尻尾を振りレバーネさんに飛びついて愛情を示した。

 レバーネさんの姉は『Globo.com』に「レバーネにとってこの犬は我が子も同然なんです。リッチーが生後3か月の頃からずっと可愛がってきました。今回、痛みをこらえながらでもリッチーに会えたことで妹はとても喜んでいます」と語っている。

 また、その時のレバーネさんは大好きなリッチーに会うために服を着替え口紅までつけたという。「ママは元気よ」というレバーネさんなりの精一杯の気持ちをリッチーに伝えたかったのかも知れない。

 病院の精神科医バーバラ・ヘック医師は、「私たち医療チームは、レバーネさんの気力に変化が見られたことに気付きました。患者は誰かとの深い愛情を認識した時に、病に打ち勝つ気力を見せることがあります。それは人であっても動物であっても同じです。レバーネさんはリッチーに会って以来、話がよくできるようになり、行動もアクティブになったことを感じました」と述べたという。

 末期がんの症状に変わりはなかったレバーネさんだが、大好きなリッチーと最期に会えたことでほんの少しでも変化が見られたことは、家族はもちろんレバーネさんにとっても大きなことだろう。がんを治すことはできなくとも、愛犬の姿がレバーネさんにとっては心からの癒しになったことは間違いない。

 昨年10月に撮影されたレバーネさんとリッチーの最期の対面はYouTubeで公開され、その再生回数は65万を超えている。

出典:http://aidjournal.com

ライブドアニュース 2016年8月15日

高額先進医療 後に引けぬため本人・家族とも疲弊する例も
 誰しも「痛みのない死に方」「苦しくない死に方」ができればと願うものだが、死の「痛み」は当人だけのものではない。それを看取る家族にもそれぞれの苦しさがある。

 死に直面する病に罹った時、家族のために少しでも長く生きたい、という思いが湧くのは当然だろう。だが、そうした心情が、皮肉にも愛する家族に不幸をもたらすこともある。

 2年前、肺がんを患った山口克史氏(70・仮名)は、これまで放射線治療や抗がん剤治療などを受けてきた。しかし改善傾向が見られないため、ついに先進医療の重粒子線治療に踏み切った。

 放射線治療の一種だが、がん病巣だけを狙い撃ちできる。しかし、高額な自費診療となる。山口氏が言う。

「治療費は314万円。これは照射回数に関係なく一律で決まっています。妻や娘と“もっと一緒にいたい”という思いから蓄えを取り崩し、今も治療を続けています。

 先進医療の効果は人それぞれで、費用対効果を考えるならやるべきではないと言う人もいました。妻にも娘にも負担をかけていることはわかっています。それでも今は治療をやめることが、死を意味するような気がして止めることができない」

 経済的な負担だけでなく、看病をする家族の精神的、肉体的な負担を考えると、その治療法を続けることが本当に幸せなのかどうかはわからない。医学博士の中原英臣氏が語る。

「完治が疑わしい状態で治療を続けることは、延命治療と変わりありません。一度、延命治療を始めてしまうと止めることは難しくなる。将来的に食事が取れなくなると胃ろうを作り、首や鼻にもチューブを差し込んで強制的に栄養が注入される状態に陥る可能性が高い。意識が朦朧とする中、ただ生きながらえている、という状況。

 本人が延命治療を望んでいない場合でも、この時点で家族はチューブを抜けない。“自分が殺してしまった”と思いたくないからです」

 多額の治療費を払い、治療に手を尽くした患者の家族ほど、後に引けなくなる。その結果、本人は望まぬ治療を受け続け、家族は疲弊していく。

「後悔しない死に方」を自分で選ぶにはどうしたらいいのか。江別すずらん病院認知症疾患医療センター長の宮本礼子氏が言う。

「私は『リビング・ウィル』という、終末期にどのような医療を望んでいるかを家族に伝え、書き残す行為を推奨しています。現状、日本ではリビング・ウィルは法的な効力がないため、全ての医師が尊重してくれるとは限りません。今のうちから自分が望む死を尊重し、終末期の医療について相談できるかかりつけ医を見つけておくことが良いと思います」

 そうすれば、仮に大病院に転院した場合でも、そのかかりつけ医を介してリビング・ウィルに沿った治療が受けられる。

 リビング・ウィルとは生きる意思のこと。「どのように死ぬか」を考えることは「どのように生きるか」を考えることでもあるのだ。

ガジェット通信 2016年8月15日

法制化議論の中で「平穏死のススメ」を考える
中途半端とは根本的に異なる「何事もほどほど」に
古畑正・古畑病院院長

「やりすぎの医療」、「やらなさすぎの医療」は許されず

 1967年に医学部を卒業後、インターン・大学病院勤務と並行して父親の救急病院を手伝ってきました。国道246号線に面しているためか、交通事故の若い患者さんが多く、また今のようにある程度病状により搬送先の病院が決められているわけではなかったので、専門以外の病気でも何でも診療をしていたものでした。

 当時と比べると、今は患者さんの年齢構成も高くなり、100歳の方が入院なさることも時折あります。認知症の方も多いために看護師さんはじめ、スタッフが色々と苦労している毎日です。

 2016年の日本の総人口1億2702万人の内、65歳以上の割合は26・9%となっています。58年には40%近くになるという推計もありますから、患者さんの高齢化はさらに進んでいくでしょう。

 さらに数字をみると、日本の年間死亡数は14年に127万3020人となっています。老化という生理的変化による死亡、老化した状態に加えて臓器不全などの症状悪化による死亡、すなわち「老人」の終末期医療が問題となっています。

 医療として大きく分けると在宅での医療と病院での医療の二つがあります。また、介護としては、在宅介護と施設などでの入所介護があります。介護施設でのお看取りは随分多くはなってきましたが、それでも多くの方が病院に転院して死亡しているのが現状です。

 国は、医療費と介護費を抑制する為、家族に過度の負担のかかる在宅医療・在宅介護を推進して、病院の介護療養病床を廃止しようとしています。

 また、尊厳死法制化も議論されています。末期患者の状態は無意味で無益な生であるから、不要な老人は迷惑な存在であり、早期に生を終わらせてもよいと考える危険な優性思想がちらちら見え隠れしています。

 “生老病死”は人間の避けがたい宿命であり、“不老不死”はありえません。死を受け入れ、どのような終末期医療をするのか、もっともっと議論されてしかるべきと考えています。決して画一的に決めるのではなく、患者さんのリビングウイル(生前の意思)を基に、医師から病状の十分な説明を受けて納得した上での終末期の医療がなされるべきと考えています。

 その際、「やりすぎの医療」、「やらなさすぎの医療」は、決して許されず、中途半端とは根本的に異なる「何事もほどほど」がよいと思っています。国民一人ひとりが安楽死・尊厳死・平穏死について熟慮し、議論することが必要と考えます。

 是非、石飛幸三先生の「平穏死のすすめ」の御一読をお勧め致します。
 
日刊工業新聞 2016年8月20日

胃ろうを続けると水死体のように顔と体が膨れ上がる例も
胃ろうの患者数は40万人とも60万人とも

 衰弱が進み、口から食事を摂ることが難しくなった患者の腹部に穴を開け、チューブを通じて人工的に水分や薬、栄養剤を注入する「胃ろう」。麻酔が使われるため手術による痛みは少なく20分ほどで済むこともあり、日本で最も普及している延命治療である。

 患者数は全日本病院協会による推計で約26万人(2011年)だが、実数はもっと多く40万とも60万人とも言われる。しかし、患者の死後、胃ろうを選択したことを後悔する遺族は多い。

「胃ろうを長く続けると、こんなことになるなんて……亡くなる直前の主人の姿は、まるで水死体のように顔も体もふくれ上がっていました。息を引き取る数週間前からは肺の中に水が溜まって喉がゴロゴロと鳴るようになり、カニのように口から泡を噴くこともありました。見たことのないピンク色の痰まで出てきて……とにかく呼吸が苦しそうで、看取るのが辛かったです」

 昨年、臓器不全で亡くなった田辺敏夫さん(仮名・82)の妻はそう話した。認知症を患っていた田辺さんは今から4年前、風呂場で転倒し大腿骨を骨折。近くの大学病院に搬送されたものの、寝たきりになってしまった。

 衰弱とともに食事を摂ることがままならなくなったため、入院から2週間ほど経った頃、担当医師から勧められたのが「胃ろう」だった。終末期医療に詳しい長尾クリニック院長の長尾和宏氏の指摘だ。

「現在、多くの病院や介護施設では高齢の胃ろう患者に1日約2リットル、1600キロカロリー程度の栄養剤が注入されています。しかし死を目前にした人にそんな量が必要でしょうか。老衰の終末期ならその半分程度の量で必要十分と考えます」

 過剰な水分やエネルギーを最期まで注入され続けると、活性酸素が増え、寿命を縮めるとともに水ぶくれのような状態で早死にします。心不全から肺水腫となり口から泡を噴きます。ベッドの上で溺れ死ぬのです」

 もう一つ、胃ろう患者に多いのが、胃に注入される栄養剤や水分の逆流である。都内の療養型病院に勤務する医師が語る。

「注入された水分や栄養剤が喉まで逆流すると、それが気管に入る誤嚥が起こり、肺に細菌が侵入して肺炎となることがあります。誤嚥が原因で起こる誤嚥性肺炎は、胃ろう患者に目立っています。こうなると息苦しさと発熱を伴いながら絶命する患者も少なくありません」

 本来は誤嚥しないために胃ろうをつくる高齢患者において、誤嚥性肺炎が多発しているというのは、なんとも皮肉な現実です」

NEWSポストセブン 2016年8月24日

終末医療 QOD(死の質)について語られること少ない
 厚労省は2014年3月、〈人生の最終段階における医療に関する意識調査〉の結果を公表した。それによれば、終末期に望まない治療として、(胃に穴を開けて管を通す)「胃ろう」が71.9%、(心臓や呼吸が止まった場合の)「心肺蘇生処置」が68.8%、(器官に管を入れる)「人口呼吸器の使用」が67.0%、(鼻に管を通して流動食を入れる)経鼻栄養が63.4%など、主な延命治療に多くの人が拒否反応を示している。

 患者自身が望まないにもかかわらず延命医療が施される背景には、家族と医師の事情がある。関西の大学病院で日々、高齢患者を看取っている医師が語る。

「例えば自分の親や妻が中心静脈栄養を付ければ、あと3か月延命できると言われたら、ほとんどの親族は処置を希望する。特に遠方に住む親族ならなおさらです。入院期間を知る近くの親族は、死を覚悟できるが、遠くの親族は患者の延命による辛さが理解できず、“生きているだけで嬉しい”と自分本位な考えで、延命治療を選んでしまうのです」

 医師は延命治療を始めれば、中断することができない。江別すずらん病院認知症疾患医療センター長の宮本礼子氏が語る。

「医学教育では患者の命を救うこと・延ばすことを教えられます。しかし、終末期の患者に対し、無用な苦痛を与えず、どうすれば安らかな最期を迎えさせてあげられるかは考慮されない。『QOL(生活の質)』についてはよく言われるようになりましたが、『QOD(死の質)』についてはまだ語られない」

 昨今は自分がどんな終末期医療を受けたいのかを事前に書き残す「リビング・ウィル」も浸透し始めているが、それが医療現場で反映されるケースは少ないという。

 そんななか、患者の意思を尊重して延命治療を拒んだ家族もいる。昨年、92歳の母親を看取った高田実氏(仮名・64)がそうだ。

「病院嫌いの母は、自力で食事が摂れなくなるほど衰えても、“体に管は入れない”と延命治療を拒み続けました。点滴すらしませんでしたが、苦しむことなく眠るように逝った。医師は“理想の老衰死です”と言ってくれました」

 入院患者の9割以上を高齢者が占める木村病院院長の木村厚氏はこう話す。

「私は自分の口から食事ができなくなったら、人生は終わったと考えています。食事ができるかどうかが、QOLを担保する重要な構成要素と考えるためです。食べられなくなったら、自分に延命治療をしてほしくない。これが本音です」

 苦しくても長く生きること、楽に早く逝くこと。幸せなのはどちらだろうか。

ガジェット通信 2016年8月25日

在宅医療におけるがん疼痛治療についての現状
がんの在宅医療について
 がんを治療する際に、病院や診療所に入院するだけではなく、在宅でも治療が受けられることをご存知でしょうか。

 在宅医療は、専門の医師や看護師が定期的に自宅を訪問し治療を行う医療です。がんの在宅医療は、従来の病院に入院して行う治療とは異なり、ご自身が慣れ親しんできた自宅で過ごすことで、精神的にも穏やかに過ごすことができます。

 がんの在宅医療を始めるにあたり心配なことの一つとして、がん疼痛治療があげられます。がん疼痛はがん末期だけに限らず、初期症状を始め、どの期間においても現れる可能性があります。

 在宅医療の場合、がん疼痛治療は一体どのように行っているのでしょうか。在宅医療におけるがん疼痛治療についての現状をご紹介します。

在宅医療におけるがん疼痛治療

 国立研究開発法人国立がん研究センターの統計によると、生涯でがんに罹患する確率は、男性62%、女性46%となっています(2011年データ)。それほど発症例の多いがんですが、在宅で療養される方は極めて少ないのが現状です。主な理由としては、介護に伴う家族への負担や病状が急変したときに対処できない、といったことが挙げられます。

 また、がんの在宅医療において極めて重要な要素に疼痛治療が挙げられます。自宅での療養は、体の状態が安定していれば、決して難しいことではありません。在宅療養についての専門的な知識を持ったかかりつけ医や看護師、ホームヘルパーなどが協力して、療養のサポート体制を整えます。このように、さまざまな医療スタッフが連携することにより、自宅でも継続して疼痛治療を行うことができます。

在宅医療におけるがん疼痛治療薬とは

 在宅医療におけるがん疼痛治療薬として、鎮痛薬や麻酔薬があります。現在、痛みの治療に多く用いられているWHO方式がん疼痛治療法は、最も効果的で安全な治療法と言われています。がんの痛みには強弱があり、痛み止めの効力もそれに合わせなくてはいけません。近年は、医療の進歩によって在宅でも使用しやすい麻酔薬が登場するようになりました。

 強い痛みの場合は、モルヒネなどの医療用麻薬を使うことになります。医療用麻薬は、悪いイメージがある人がいると思いますが、医師の指示通り使用していれば、誤解されているような副作用は出ないことが認められています。麻酔薬・鎮痛薬の投与経路は、口から飲む、座薬として肛門から投与する、貼り薬、注射などの方法があります。注射以外の方法は、ご自身やご家族の助けを借りて行うことができます。医師が訪問診療する際に、薬の使用方法を教えてくれますので、安心して使用することができるでしょう。

がん疼痛とうまくつきあい、ご自宅で自分らしい過ごし方を

 がんの在宅医療は、ご自宅で過ごすことで入院での治療よりも眠りやすくなることや、ご家族と過ごす時間が増え、気持ちが安らぐ機会が増えて精神的な負担が緩和されることがメリットです。薬以外にも、マッサージや鍼(はり)・灸(きゅう)を使用するなど、さまざまな疼痛ケア方法があります。

 がん患者さんの痛みの表現方法は、表情に表れることや患部をさするなどの行動で見ることができます。ご家族の方は、そういったしぐさがないか気にかけてあげることや、患者さんとコミュニケーションを取ることなどで、痛みを理解することができるでしょう。

 がんの在宅医療はがん疼痛とうまくつきあっていくことが大切です。痛みの「期間」「箇所」「程度」など、具体的な痛みの症状を患者さんと周りの方たちがしっかり共有できるようにしておきましょう。

healthクリック 2016年9月12日

【座談会】緩和ケア医をめざすあなたへ

森 雅紀氏(聖隷三方原病院 緩和ケアチーム)

山口 崇氏(神戸大学医学部附属病院 腫瘍センター緩和ケアチーム/先端緩和医療学分野特定助教)

西 智弘氏(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 副医長)=司会

松本 禎久氏(国立がん研究センター東病院 緩和医療科医長)

 「第2期がん対策推進基本計画」において,がん診療に携わる全ての医療従事者が基本的な緩和ケアを理解し,知識と技術を習得することが目標として掲げられてから4年。2015年9月までに6万3528人の医師が緩和ケア研修会を修了し,日本緩和医療学会専門医は2016年7月現在136人が認定されている。重い病を抱える全ての患者・家族のさまざまな苦痛を和らげ,より豊かな人生を支えるために,緩和ケアの能力は今後ますます重要になるだろう。

 本紙では,『緩和ケアレジデントマニュアル』(医学書院)の編者であり,さまざまなキャリアを経てきた4人の若手緩和ケア医に,緩和ケア医をめざす研修医が学ぶべきことをお話しいただいた。

西 最初に,皆さんが緩和ケア医になる前の経歴を教えてください。

 私たちが研修医だったころは,緩和ケア医になるための決まったキャリアパスがなく,それぞれ独自の道を歩んできましたよね。私の場合,最初は家庭医をめざしていました。緩和ケアに興味を持ったのは,初期研修中のことです。痛みや苦しみといった患者さんの症状が緩和ケアによって魔法のように良くなり,寝たきりから歩けるまでに回復した現場を見たときの感動は忘れられません。

松本 私は麻酔科出身です。緩和ケアに携わることを決めたのは医学生時代に自分の進む道を考えたときです。患者さんのつらい症状を取ることは医療者の大事な役割だと考え,重い病気にかかったときにこそ見える患者さんの生き様や哲学といった部分にかかわりたいと感じました。私が卒業した金沢大では,当時から麻酔科が痛みのコントロールを中心としたがんの緩和ケアに熱心に取り組んでいたので,まずは痛みをしっかり和らげられるようになろうと,麻酔科に進んだんです。

山口 私は総合内科で,特に高齢者の重症肺炎などの救急患者や,心不全などの臓器障害患者に多くかかわっていました。緩和ケアを専門にするつもりはなかったのですが,高校三年生の受験勉強のときに柏木哲夫先生(淀川キリスト教病院理事長)がホスピスケアについて話す番組を見ていたことや,医学生時代に加藤恒夫先生(かとう内科並木通り診療所理事長)が開催するセミナーや学生実習に触れる機会があったことから,緩和ケア的な視点は総合内科医時代から大切にしていたように思います。

 私は医学生のころから緩和ケア医を志していたのですが,最初に受けたのは内科研修です。臨床力を高めようと思い選びました。内科にも痛みに苦しむ患者さんがたくさんおり,なんとかしたいという思いを強めました。

西 私も同じような現場を目の当たりにしました。当時の日本の臨床現場では,がんですら痛みへのアプローチの方法論が浸透していませんでしたよね。

 WHOの3段階除痛ラダーなどを参考にして緩和ケアに取り組むものの,精神的苦痛やスピリチュアルペインなどには対応できず,悔しい思いをしました。そうした事情もあり,系統的に腫瘍内科やホスピス・緩和ケアのトレーニングを受けられる米国に留学したんです。

「理路整然とした」緩和ケアを

西 日本の緩和ケアはつい最近まで,「当院では/私はこのようにしている」という耳学問が中心で,治療法にエビデンスがあるのかも不確かなことがままありました。10年前の米国ではどうだったのでしょうか。

 MDアンダーソンがんセンターでは,入院・外来,初診・再診を問わず全ての患者さんに対して,「No measurement, no treatment」が基本でした。

 研修ではまず,@研修医が患者さんの苦痛を包括的にアセスメントする,A治療プランを立て,指導医にプレゼンする,B指導医とのディスカッションの中で,考えられる病態やエビデンスを基にしたフィードバックを受ける,C患者さんの状況に最も合った適切な方針を選択する,という実践的な学習を反復しました。アセスメントにはESAS(Edmonton Symptom Assessment System)やMDAS(Memorial Delirium Assessment Scale)といった評価ツールを用いており,筋道立てて診ていけば,患者さんの苦痛を緩和し得ることを体験できました。

西 緩和ケアというと,「物語を重視して感覚的に行うもの」というイメージが強い。しかしそれだけではないということですね。きちんとしたエビデンスに基づいて理路整然と治療を行えば,その通りによくなる。

 もちろん,患者さんの感情など,理路整然としない部分もたくさんあります。また,緩和ケアにはエビデンスが少ないのも事実です。

 大切なのは,定量的に評価できる部分もそうでない部分も,それぞれどのように解釈し治療につなげるのかの筋道を明確にすることです。その筋道の手掛かりの一つがエビデンスなのだと思います。

山口 適切なアセスメントや治療を行うためにはエビデンスの確認が必須ですよね。解釈や治療にはバリエーションがありますが,根っこ(標準治療)が生えていない状態で枝葉(治療選択肢)だけ多くなっても,不安定になってしまいます。スタート地点において,ある程度定まった標準治療を知ることが重要です。軸となる治療や処方を身につけることで,「ブレ」ではなく「バリエーション」として学べるようになります。

 その上で,思考過程をブラックボックスの中に置くのではなく,自分自身にも,周囲にもわかるように言語化(可視化)すると良いですね。それによって教育時にもチームで取り組むときにも,お互いの考えを共有でき,議論できるようになります。

 当院では,さまざまな観点を学べるよう,緩和ケア病棟,コンサルテーションチームにおいて複数の指導医から経験やエビデンスに基づく指導が受けられる体制が整えられています。

西 聖隷三方原病院は日本で最初に緩和ケア病棟ができた病院ですから,症例も豊富そうですね。

 ええ。抄読会や勉強会を中心に,座学の機会も用意されています。さらに主治医としての経験を積むホスピスでは,日々の回診やカンファレンスを通じて受け持ち患者さんの問題点の検討などを指導医と行っています。

松本 私ががん専門修練医(シニアレジデント)として研修した国立がん研究センターでは,各分野の専門医を取得した医師がさらなるスキルアップをめざして研修することが多く,当時から研修体制が整っていました。がんの集学的な治療も学べて,とても勉強になりました。私が赴任する以前には,これから緩和ケア病棟を開設する病院の医師たちが志真泰夫先生(現・筑波メディカルセンター理事/在宅事業長・緩和医療科)の下で緩和ケアを学び,自施設に緩和ケアを広げていったと聞いています。

山口 患者さんのさまざまな症状や疾患に対応するには,基礎領域の知識・技術の習得も重要です。緩和ケアが必要となる患者さんは医学的なリスクが非常に高い方が多いので,難しいケースに対応できるようになるためにも,初期研修では基礎的な臨床力を磨いてほしいと思います。

西 治療やケアには,それを行う根拠や予測される結果がある。そして,予測される結果が得られなかった場合の次の策も,理路整然と考えていく必要がある。エビデンスの有無や標準治療をきちんと踏まえた上で,科学的な考え方を持って緩和ケアをしていくことが重要だということですね。

指導医との対話から学ぶ


西 その他に,緩和ケアにおいて大切な能力はありますか。

山口 患者さんは何がつらいのか,ご家族や周辺のことを含めたその人全体に興味を向けて対話し,チームや患者さん・ご家族と一緒にその人にとって適切な対応を考えることが大切だと思います。エビデンスを重視しすぎると,ともすれば「木を見て森を見ず」になりかねません。特に緩和ケアでは,患者さんの価値観なども踏まえないと,その人にとっての良い医療が提供できないこともあります。

 同感です。米国でも,ヒストリーやフィジカルから患者さんの全体像を把握するプロセスは重視されていました。評価やエビデンスも重要,物語も重要で,どちらか片方で成り立つものではありません。

西 患者さんやご家族との会話の仕方というのは,言葉では表現できない部分もあり,教えるのが難しいです。何かコツはありますか。

山口 確かに難しいですね。筑波メディカルセンター病院での研修中,志真先生の病棟回診を見学する機会がありました。志真先生は患者さんとの対話の中で,まさにクリーンヒットな一言を掛けたり,“深い”受け答えをされたりしており,感銘を受けました。しかし,志真先生が使われる言葉ややり方を私がそのまま真似しても,患者さんに同じように響くことはないだろうとも思いました。

西 緩和ケアのスタイルは,その人の雰囲気や積み上げてきた人生を含めて作り上げられている面がありますよね。年齢や経験に応じても変わってくるし,患者さんによってもかみ合うやり方は違うので,他の人の方法は真似できません。

松本 ただ,完全には真似できなくても,自分に合うスタイルを模索する手掛かりにはなると思います。

 緩和ケアにおけるコミュニケーションでは,本人が無意識にやっている部分と,意識的にやっている部分があります。指導医の診察を見ていて気になった話し方や仕草があったら,なぜそうしたのかを聞いてみると良いのではないでしょうか。「意識していなかった」と言われるかもしれないし,意図を教えてくれるかもしれない。

西 その中に自分が取り入れられる部分もあるかもしれませんね。

松本 指導医の診察を見られる機会も指導医に自分の診察を見てもらえる機会も,年齢が上がるとともに減っていきます。若手の皆さんにはぜひ,指導医と一緒に診察できるうちに悩んでいる部分を相談し,積極的にフィードバックをもらってほしいです。

山口 指導医の診察を見て気付いたことを聞くこと,診察の中で自分が悩んだことを指導医に聞いて次に生かすこと,指導医に自分の診察を見てもらうこと,この3つが大切ですね。

松本 逆に指導医には,「私はこう考えてこうしている」と研修医に意識的に伝え,「君はどう思うか」と,ディスカッションしやすい雰囲気を作ってほしいです。

 自分の背中は常に見られていることを意識して診療に当たると良いと思います。指導医が患者さんと向き合う姿勢そのものが後輩への指導になれば,理想的なのではないでしょうか。

See one, Do one, Teach one 各段階の学習にどう生かすか

 私は緩和ケア医には3つの能力が必要だと思っています。

 1つは臨床力。患者さんのさまざまな苦痛についてアセスメントし,専門家としてケアプランを立てられる能力です。2つ目はEBM。どこまでエビデンスがあって,どこからはないのか。日々刻々とアップデートされるエビデンスを学び,それを実臨床に落とし込んでいく能力。そして最後の1つはコミュニケーション力。患者さん・ご家族への対応はもちろん,他科の医師や他職種とのかかわりも非常に重要です。近年はほとんどの病院で多職種チームによる医療を提供していますよね。自分一人がどんなに頑張っても包括的なアプローチはかないません。チームが有効に機能して初めて,苦痛の緩和やQOLの向上につなげられます。緩和ケアも他領域も専門性が高まっていますので,知らないことは謙虚に教えてもらいながら,良いコラボレーションを築いてほしいです。

西 1つ目と2つ目の能力を養うのには,今回発行した『緩和ケアレジデントマニュアル』(以下,マニュアル)が役立つと思います。標準治療となっているもの,エビデンスがあるもの,私たちが聞いてきた耳学問的なものを分けながらも,全部含めて利用できる形にまとめました。

 エビデンスに偏りすぎても現場で使えないし,コツ集では根拠に乏しい。研修医にとってちょうど良い落としどころにできましたよね。

西 研修期間中,本書をこう使うと良いというアドバイスはありますか。

 学習における「See one, Do one, Teach one」の全段階で本書が生かせると思います。まず「See one」では,指導医の診療を見たり,やり取りしたりする中で学ぶベッドサイドティーチングの際に,処方や指示の背景となる考え方を本書で確認します。そして「Do one」の際には本書の処方例等を確認しながら実践してください。その後の「Teach one」の際にも,緩和ケアの枠組みや重要事項を整理できるので,わかりやすく教えられます。

山口 See oneに役立つのは,必要最小限ながらほぼ全項目にわたって掲載されている疫学,病態生理,評価方法です。患者さんの苦痛は,痛み,不眠,吐き気,倦怠感など多様ですが,それぞれの背景が示されているので,これから勉強する方や緩和ケアは専門外の医師が全体像を把握するのに最適だと思います。

 症状緩和の基本的な考え方から標準的かつ実践的な方法まで,一次緩和ケア(Primary palliative care)で必要とされる内容がまとまっています。緩和ケアを専門としない医療者にも,非常に役立つマニュアルです。

松本 緩和ケア科以外の医師,看護師や他のスタッフとも共有できるよう病棟の棚に置いて,必要なときに手軽に開いてほしいですね。知っておくべきMinimum requirementは共通なので指導医にも役立つのではないでしょうか。

山口 次のDo oneでは,目の前の患者さんに必要な項目を参照して,対応することを研修期間中に繰り返すと良いですね。

西 使用できる薬剤を全て一様に示すのではなく,できる限り害を与えない薬剤を選んでいる点もDo oneでの参考になります。初学者でも比較的安全に使えるものはどれか,副作用やケアの注意点が記載してあります。

山口 初学者や非専門医の場合,薬剤名だけ示されても,どの程度,どのように投与すべきかの判断が難しいと思いますので,具体的な処方例を可能な限り記載しました。

 Teach oneですが,専門家になると,後輩に教えるときはもちろん,なかなか苦痛が取れないときなどに主治医から相談を受けることもあります。専門家をめざす方の場合,ガイドラインの記載内容やその背景,日々進歩している緩和ケアのエビデンスまで勉強する必要があるということです。本書ではエビデンスがあるものは明示してありますし,大事な文献にはマークが付いているので,一次文献に当たるなど,専門家としてさらに一歩踏み出すための足掛かりとして役立てていただければと思います。

山口 患者さんを診る中で学んだことや,一次資料に当たったもの,最新の研究結果などはどんどん書き足して「自分の」マニュアルに改良していくと良いですね。

 日々の診療の中で本書を活用することが,緩和ケア上達の近道です。緩和ケアの専門家をめざす人にもそうでない人にも,本書と“友達”のように研修期間を一緒に過ごし,何度も何度も目を通してもらいたいです。

病棟から外来,そして地域へ

西 緩和ケアは今後,病棟だけでなく外来や地域での活躍も求められるようになると思っています。

山口 卒後3年目のエクスターンシップで行った豪州アデレードでは,急性期病院・ホスピス(緩和ケア病棟)・在宅の緩和ケア専門診療が一つの単位として機能しており,緩和ケアが必要な患者さんであっても本人が過ごしたい場所で過ごすことができていました。さらに,がん以外の疾患,例えば心疾患や神経疾患,認知症なども分け隔てなく緩和ケア専門家にフォローされていました。

西 山口先生はエクスターンシップの翌年から,本格的に緩和ケアにかかわり始めたのでしたね。

山口 ええ。ちょうど当院で緩和ケアチームを作ることになったんです。その後,緩和ケアの専門研修を受ける際には,診療所での在宅医療ができる点を重視して研修先を選択しました。

西 当院での研修でも,在宅の視点を重視しています。自分が化学療法を行った患者さんを,緩和ケア病棟でも診て,さらに在宅まで診に行き,最後は看取りまでできるというのが特徴です。継続性のある診療を行えるだけでなく,患者さんの移り変わる心理を追えるので,包括的ケアが提供できるようになっていきます。

山口 当院の場合は,緩和ケア病棟,緩和ケアチーム,診療所の3か所での研修を必須とし,各自の興味やキャリアプランに合わせて,ペインクリニックやサイコオンコロジーでの研修もオプションとして提供できる体制にしています。初期研修後,先にプライマリケア専門医資格を取得するのが基本ですが,新専門医制度における基本領域に該当する専門医資格をすでに持っている方は,緩和ケアの専門研修に直接入ることもできます。

松本 緩和ケアの専門研修に直接入れるというのは良いですね。緩和ケアの専門性においては,core competencyが重要である一方で,多様性を維持していくことも大事だと私は思っています。冒頭に紹介があったように,今の緩和ケア医はさまざまな専門領域出身の医師で構成されていますよね。さらに緩和ケアチームには,医師だけでなく,看護師や他のコメディカルといったさまざまな職種が参加しています。異なった視点を持つ人たちが集まることで,自分ではなかなかできない見方ができたり新しいアイデアが生まれたりする面があります。特定の科を研修してからでないと緩和ケア医になれないというのではなく,多様な道を残せると良いと思います。

西 緩和ケア医としての一番の喜びは,患者さんの人生の最期を悲嘆ではなく,良い人生だったと思える過ごし方にする手助けができることです。社会の中で緩和ケアを行うためのアプローチも視野に入れながら,患者さんを全人的に診られる医師になってください。

(了)

にし・ともひろ氏
2005年北大医学部卒。家庭医療を志し,室蘭日鋼記念病院で初期研修を開始。その後,在宅医療と緩和ケアの両方を学べる川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケア研修。09年より栃木県立がんセンターで腫瘍内科研修,抗がん剤治療を受ける患者さんの思いを学ぶ。12年より現職。現在,緩和ケアチームの業務を中心に,腫瘍内科,在宅医療にもかかわる。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医,日本緩和医療学会教育研修委員会医学生セミナーWPG員。

まつもと・よしひさ氏
1999年金沢大医学部卒。緩和ケアに携わることを志し,同大麻酔・蘇生学講座に入局。手術麻酔,救急・集中治療の専門研修後,同大附属病院緩和ケアチームを中心に活動。2007年から国立がん研究センターでがん専門修練医(シニアレジデント)として緩和医療学に関する研鑽を積み,09年同院緩和医療科医員,16年より現職。現在,緩和ケア病棟,緩和医療科外来,緩和ケアチームを中心に活動している。日本緩和医療学会緩和医療専門医,日本ペインクリニック学会専門医。

もり・まさのり氏
2002年京大医学部卒。沖縄県立中部病院で内科研修後,米ベスイスラエルメディカルセンターで内科研修,07年より米MDアンダーソンがんセンターで緩和ケア研修。病期全体を通じてがん患者がどのような苦痛を抱えているのかを学ぶため,08年より米バーモント大で血液・腫瘍内科を研修。11年聖隷浜松病院緩和医療科を経て,16年より現職。帰国後は緩和ケアチームを中心に活動する。日本緩和医療学会緩和医療専門医,緩和ケアの基本教育に関する指導者研修履修,米ホスピス緩和医療専門医,米腫瘍内科専門医。

やまぐち・たかし氏
2004年岡山大医学部卒,14年筑波大大学院人間総合科学研究科博士課程修了。手稲渓仁会病院で初期研修後,同院総合内科で急性期内科診療に従事。筑波メディカルセンター病院総合診療科・緩和医療科での緩和ケア病棟・診療所勤務を通じて緩和医療研修を行う。手稲渓仁会病院総合内科・感染症科/緩和ケアチーム医長を経て,13年より現職。日本緩和医療学会PEACEプロジェクト(症状の評価とマネジメントを中心とした緩和ケアのための医師の継続教育プログラム)の立ち上げや「がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン」改訂作業などにかかわる。同学会緩和医療専門医。

週刊医学界新聞 第3190号 2016年9月12日

あなたの“理想の死に方”は? 現役医師と考える終末期医療のあり方
『サイレント・ブレス』(南杏子/幻冬舎)

「元気で長生きして、死ぬ時はコロッと逝きたい」「たくさんの孫に囲まれて、眠るように最期を迎えたい」――。そんな“理想の死に方”を考えたことはないだろうか。とはいえ、そう思い通りにならないのが現実。病気や老化により体の自由が利かなくなれば、入退院を繰り返すことになるだろう。認知症になれば、大切な人のことさえわからなくなってしまうかもしれない。誰にでも訪れる終末期をどう過ごすか、若い人にとっても文字通り他人事ではない問題だ。

 そんな終末期医療にフォーカスしたのが、連作長編『サイレント・ブレス』(南杏子/幻冬舎)だ。著者の南さんは現役の医師。多くの患者に向き合い、その生死を見つめてきたからこそ、デビュー作にして心を深く揺さぶる作品が書けたのだろう。

 主人公の水戸倫子は、大学病院から訪問診療クリニックへの“左遷”を命じられた37歳の医師。在宅で最期を迎える患者が穏やかな日々を送れるよう、彼らの家を訪ねて診察するのが彼女の仕事だ。命を助けるために医師になったにもかかわらず、死を待つだけの患者と向き合うことに最初は無力感を覚えた倫子。しかし、さまざまな患者に対峙するうち、終末期医療の意義、その大切さに気づいてゆく。

 倫子が向き合うのは、6人の患者たち。抗がん剤治療をあえて行わない45歳の知守綾子、「無理に生かされたくない」と胃瘻(腹部にチューブを入れて直接栄養を流し込む処置)を拒む84歳の古賀芙美江、時には言葉を話さない身元不明の少女を診ることもある。誰もが小さな謎を秘めており、彼らの診察を続けるうちに真実が紐解かれていく。終末期医療を描きつつも、ミステリー仕立てになっているのが面白い。

 こうした患者に触れるうち、倫子の心にも徐々に変化が生じていく。中でも、第5章「ロングターム・サバイバー」は、倫子の転機となるエピソードだ。この章の患者は、消化器がんの権威である権藤名誉教授。現役時代は「治る可能性があれば徹底的に治す」というポリシーで、治療に取り組んできた名医だ。しかし終末期を迎えた時、彼が選んだのは自然死。かたくなに治療を拒む姿は、自身がかつて行ってきた医療行為を否定しているようにも見える。確かに医師の役割は、患者を治療することだ。しかしその思いが昂じて、死を“負け”と捉える医師も少なくない。権藤も倫子も長らくこうした哲学で治療を行ってきたが、それは正しかったのか。信念を揺さぶられた倫子に対し、彼女の恩師・大河内教授は言う。「死ぬ患者も、愛してあげてよ」と。

 現代の医療をもってしても、治せない病気は存在する。老化による衰弱は、防ぐことはできない。だからこそ、治らないとわかってからの終末期医療にも、もっと目を向けるべきではないだろうか。残された人生をどう過ごすか、自分はどのような終末期を望むのか、家族とも話し合う必要があるだろう。最終章を迎えた時、倫子は施設で寝たきり生活を送る父を看取るため、ある決断を下す。それは、読者によって賛否の分かれる決断かもしれない。しかし、「こういう終末期もあるのか」と目を開かせてくれる選択でもある。

 誰のもとにも死は等しく訪れる。この本をきっかけに、“理想の死”について今一度考えてみてはいかがだろうか。

ダ・ヴィンチニュース 2016年9月14日

自分の終末期は自分で決めたい…家族に希望は伝えておこう
医療法人一成会 木村病院理事長・院長 木村厚

 皆さんは、ご自分の最期をどのようにお考えでしょうか。以前、われわれ医療従事者は、高齢者であれ、がんの末期等の不治の病であれ、病院で患者さんが亡くなるときは、すべての蘇生処置(人工呼吸、心臓マツサージ、電気シヨツク、強心剤注射など)を行いました。充分な医療処置をして亡くなったのだから、患者さんも満足されたと考え、家族も納得していました。

 しかし今は、患者さんの希望に沿った、尊厳ある終末期を考えるようになって来ています。不治の病で長年治療してきた患者さんの家族の希望で、あるいはおもんばかり、医師が人工呼吸器を外したりして死に至らしめることが相次ぎ、社会問題となったことがあります。このため、厚労省は「終末期医療のあり方のプロセスに関するガイドライン」を発表し、複数の医療団体でもガイドラインを作成しました。

 しかし、病院など医療の現場で困ることは、判断能力のなくなった患者さんの終末期医療をどこまでやるのか、その時まで、本人も家族も考えていない人が多いことです。その場合、主治医と家族で話し合って決めます。家族がいない場合もあり、そうした場合には多職種の医療者で話し合って決めます。

 自分の最期を自分で決めたい人は多いのではないでしょうか。そのためには、本人が自分の終末期医療の希望を、事前指示書(リビングウイル)に書いておくことが大切です。最近は自分がどのような医療を受けたいのか、終末期はどのようにして欲しいのかを書いておくノートを売っています。また、各医療団体でも書式をホームページに載せています。手に入れてみてはいかがでしょう。

 しかし、今からそんなことは考えられない人も多いでしょう。医療は多様であり、一律には決められないことも多いのです。自分で判断できなくなったときの「代理人」を複数決めておくこともお勧めです。代理人としては配偶者、子供、孫、あるいは友人、成年後見人等が考えられますが、成年後見人は経済的なことしか責任を取らない人もいるので、話し合いが必要です。

 また、現在の日本では終末期にどのような医療をするか(しないか)、たとえ家族であっても、本人以外が決められるという法的根拠はありませんので、自分の意思を伝えておくことが重要になります。少なくとも家族で終末期について話し合っておき、自分の希望を口頭でも家族に伝えておくことが望まれます。

日刊工業新聞2016年9月16日

進行癌患者の介護家族、2-3割に強い抑うつ【米国臨床腫瘍学会】
介護時間延長でセルフケア時間が短縮
 死亡率の高い癌患者の家族介護者のうち4分の1から3分の1が強い抑うつや不安の症状を経験している他、1日8時間以上を介護に費やす家族は介護時間の増加とともに睡眠や運動などの自分の健康維持の時間が減少し、精神的健康の悪化につながっている可能性も示唆された。米国臨床腫瘍学会(ASCO)が9月6日のリリースで、2016年腫瘍緩和ケア会議(Palliative Care in Oncology Symposium、サンフランシスコ)の発表予定演題を紹介した。

 研究グループは、膵癌、肺癌、脳腫瘍、卵巣癌、頭頸部癌、血液腫瘍あるいは第4期の癌と診断されたメディケア受給者を介護する家族294人に質問票による横断調査を実施。

 調査の結果、患者の健康状態が悪化するのに伴い介護者の自身の健康維持の能力が低下していた。また、回答者の4分の1近くが強い抑うつ症状、3分の1以上が境界線上、または強い不安症状を報告しており、自身の健康維持のための行動スコアの低下と有意に関連していた。また、同スコアの低下は介護の期間や時間の長さ、週当たりの日数の多さ、患者の健康状態にも関連していた。

 研究グループは、今回の検討を機に介護者を支援するための評価ツールやサービスの開発が進むことを期待したいと述べている。

m3.com 2016年9月21日

「死の質」低い日本 モルヒネに偏見持つ医師がいまだ多い
死の迎え方に課題が存在
 緩和ケアの専門医である長尾クリニックの長尾和宏院長は、「日本の死の迎え方は、海外に比べて20年遅れている」と断言する。先進国で医療環境の整う日本だが、「死の質」に関して後塵を拝していた。終末期医療の先進国と日本の違いはどこにあるのか。

 2015年10月に英誌『エコノミスト』の調査部門が「死の質」ランキングを発表した。緩和ケアや終末期医療の質や普及度に基づく80か国・地域のランキングで日本は14位だった。

 トップ5は1位から順に英国、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、ベルギー。以下もGDPでは日本に劣る国が続々と上位にランクした。アジアでも台湾の「6位」の後塵を拝す。

「医療先進国」の日本はなぜ、14位に沈んだのか。前述した上位国と比べて、緩和ケアのシステム作りが進んでいないことが一因だと関係者は声を揃える。

 たとえば日本では、痛み止めのモルヒネ投与が欧米に比べて少ない。10年前に肺がんで父親を亡くした40代女性が涙目で振り返る。

「末期がんの父が転院した近所の中規模病院では、モルヒネは使用禁止でした。過去にモルヒネを投与した患者が突然病院を飛び出すトラブルがあったそうです。モルヒネを止められた父の疼痛は激しかったようで、『痛い、苦しい』と眠ることもできず、朝まで訴えていました。その後、元の公立病院に戻るとモルヒネを投与され、痛みは収まりましたが、モルヒネ投与に偏見のある医師はまだ多いと肌で感じました」

 音楽療法なども日本ではまだまだ普及していないと米国のホスピスで10年間勤務した経験を持つ、米国認定音楽療法士の佐藤由美子氏もいう。

「日本の緩和ケア病棟にいたがん患者の女性に音楽療法を施すと、『こういうサービスを受けられて幸せ』とおっしゃいました。3年前にがんで亡くなった彼女の息子さんは緩和ケアを受けられず、痛みのあまり『いっそ殺してくれ』と懇願したそうです。

 私が米国で勤務した時、疼痛ケアもないままに死を望むような患者はいませんでした。この点でも日本は遅れています」

 前出の長尾院長は「教育」に問題があると話す。

「英国では医学部の卒業試験に緩和ケアの項目があり、医者になった後も勉強会などに参加します。日本では医学部で緩和ケアを教える教授がほとんどおらず、国家試験でも緩和ケアに関する知識を問うことはほとんど見られない。医学界全体として緩和ケアの意識が低い」

ニフティニュース 2016年9月29日

末期がん患者が「自宅で死ぬ時代」の生き方とは
川越厚・クリニック川越院長

 勤務医時代、自らも大腸がんになり、その体験からがん治療の問題点や緩和ケア・ホスピスや在宅医療の大切さを実感し、実際に自分が在宅医療に踏み切った医師がいます。東京墨田区で在宅緩和ケア「パリアン」を立ち上げて16年、日本で在宅医療の第一人者となっている川越厚先生は「これからは家で最期を迎えるのが当たり前の時代になる」といいます。

家で最期を迎えるのが当たり前の時代になる

 医者になって40年以上になりますが、今やっている仕事は非常に特殊な仕事だと言えるでしょう。それは、死に向かって歩まざるを得ない方たちと向き合う仕事だからです。

 末期がん患者さんの在宅医療の利用は年々増えています。多くの患者さんは病院への入院を希望されますが、終末期医療だと対応できない施設もあったり、緩和ケア病棟(ホスピス)もベッド数が限られていたり、条件が合わないなどの理由で入所ができない、などのさまざまな理由で在宅医療を選択せざるを得ない人が増えているからです。

 この背景には、国が20年以上前から進めてきた政策があります。在宅医療を普及させるために入院期間をどんどん短縮し、現在では平均の入院期間が19日程度です。患者さんは、その後は療養型施設または緩和ケア病棟への入所、外来治療、在宅医療のいずれかを選択することになるのです。

 私は自分が大腸がんになった経験から、在宅医療の必要性を感じ、16年前に勤務医から主にがん患者さん対象の在宅医に転向しました。在宅医療はクリニック単体だけでは成り立ちません。訪問看護師、ケアマネージャー、ヘルパー、地域ボランティアなどと連携をとって、チーム体制で患者さんのケアにあたります。在宅医療は患者さんとの信頼関係が最も大切なので、患者さんが不安になったり不便を感じたりしないよう、チーム全体でのサポートが不可欠です。

 在宅医療を行う際、がん患者さんか、そうでない(非がん)患者さんかで対応が大きく異なります。がん患者さんの場合は、主に次の3つの点が非がん患者さんと明らかに違うからです。それは、(1)がん患者さんは平均年齢が非がん患者さんより若い、(2)がん患者さんは残された時間がとても短い、(3)がん患者さんは最期まで比較的元気である、です。それぞれについて説明しましょう。

がん患者か非がん患者かで異なる3つのこと

(1)がん患者は平均年齢が若い

 非がん患者さんは平均年齢が85歳なのですが、がん患者さんは15歳も若く、平均年齢は70歳です。がん患者さんは若くしてがんになられるので、人生のエンディングについて考えたこともないという方がほとんどです。そういう方には人生の終わり方の精神的なサポートが必要となります。

(2)がん患者は残された時間がとても短い


 病院から「もうできることがない」と言われた場合、患者さんの残された時間が限られているということになります。全国の在宅医たちと一緒に6000人近くの在宅死をしたがん患者さんの「残された時間」を調べたことがあります。がん患者さんが在宅医療を受けた平均期間は2ヶ月でした。さらに、半分以上の方が30日以内に亡くなっています。末期のがん患者さんの残された時間はとても短いのです。

 ところが、退院が決まってから実際に退院をするまでの手続きには、1週間〜数週間かかります。これでは実際の在宅医療がさらに短くなってしまうので、パリアンでは、患者さんが在宅を決めたらすぐに手続きに入り、できるだけ早く退院ができるようサポートをします。そして、退院したその日から在宅医療が開始できるよう準備をします。

(3)がん患者さんは最期まで比較的元気

 がん患者さんの平均年齢は70歳と若く、比較的体力があります。在宅ホスピスケアを始めてもしばらくは体調が安定しているので元気そうに見えます。そのため、不治であることを本人や家族が自覚していないケースも少なくありません。医学的に見た場合、肉体は死が避けられない状態まで機能が弱っているのですが、患者さんやご家族がそのことに気づくのは死の直前ということもあります。死が近づくと、本人は体の衰えを実感し、ご家族もこの段階で死を意識し始めます。

 多くの人が不安に感じるのは、「在宅で痛みの緩和ができるのか」という点でしょう。専門の医師がかかわったら、ペインコントロールが可能です。痛みにも肉体的な痛みと精神的な痛みがあります。病院で「手の施しようがない」と言われた患者さんは、病院から見放されたことで傷つき、悲しみます。在宅医療は、そんな傷ついた患者さんの心の痛み(ペイン)も含めて、患者さんの生き方を重視したケアを行っています。

「繋がれた鎖」を外すという意味

 死が避けられないものであると説明しても、現実に受け入れられない方たちもいます。それは、小さな子供がいる若いお母さんだったり、これまで何不自由なく幸せに暮らしてきた方だったり、サイレントキャンサーが突然発見されたが、進行性がんだったために手の施しようがない方だったり……。ある日突然「死」を目前に突きつけられた人たちです。

 彼らの残された時間に限りがあることは、医師の私たちにはわかっていますから、彼らの気持ちも理解できるものの、残された大切な時間をご本人とご家族のために使ってほしいと思うので、ご本人とじっくりとお話をして、ひとつずつ「繋がれた鎖」を外すよう促します。鎖とは、ご本人が生きている上でかかわっている人や役割などとの繋がりです。家族、友人、健康、人生、仕事、希望、夢、美貌など、さまざまな鎖がありますが、それをひとつずつ外してもらって旅立ちの準備をしてもらうのです。

 残りの時間に限りがあるとわかると、人はいつまでも悲嘆に暮れてはいません。残された時間をいかに濃く生きようかと、自分のやりたいことを始めます。食べたいものを食べ、可能な限り行きたいところに行き、愛する人たちに感謝の言葉を述べ、人生を終えていく……。がんという病気はある意味、そういう準備期間を与えられた病気だと思ってもよいかもしれません。私たち在宅医療者は患者さんとご家族のサポートを精一杯させていただきたいと思っています。

川越厚(かわごえ・こう)

1973年東京大学医学部卒業。茨城県立中央病院産婦人科医長、東京大学講師、白十字診療所在宅ホスピス部長を経て、1994年から6年間、賛育会病院長を務め、退職。2000年6月、「クリニック川越」を開業すると同時に、主にがん患者の在宅ケアを支援するグループ「パリアン」を設立。16年間で2000人以上のがん患者を看取ってきた。訪問看護、居宅介護支援、訪問介護、ボランティアなどのサービスを提供している。メディア「プロフェッショナル仕事の流儀」でもその取り組みを取り上げられた。『いのちとの対話』(日本基督教団出版局)『ひとり、家で穏やかに死ぬ方法』(主婦と生活社)など書著多数。


livedoorニュース 2016年10月1日

低い日本の死の質 本人より家族や医師の意向尊重も理由
「死の質」が低い日本の現状
 2015年10月に英誌『エコノミスト』の調査部門が「死の質」ランキングを発表した。緩和ケアや終末期医療の質や普及度に基づく80か国・地域のランキングで日本は14位だった。

「医療先進国」の日本はなぜ、14位に沈んだのか。上位国と比べて、緩和ケアのシステム作りが進んでいないことが一因だと関係者は声を揃える。

 緩和ケアの専門医である長尾クリニック院長の長尾和宏氏は患者の意志が尊重されにくいことが、日本の「死の質」を低下させていると指摘する。

「欧米には自己決定の文化がありますが、日本は本人よりも家族や医師の意向が尊重されます。患者本人が延命治療を拒否すると意思表示した文書を『リビング・ウィル』といいますが、日本は先進国で唯一、これが法的に担保されていない。

 欧米では本人の意思を尊重した医療が当たり前ですが、日本は本人不在のまま終末期医療が進む。ある調査によれば、終末期医療について、自分で方針を決めたという人は亡くなった人のわずか2〜3%でした」

 日本は本人不在の終末期医療が多く、アジア諸国にも遅れをとっている。

「アジア圏トップの6位になった台湾は2000年にリビング・ウィルを法制化した。日本を下回る18位の韓国ですら今年2月に法制化しています。日本は医療の質は高いが、“死に方”に関しては世界から20年以上遅れています」(同前)

 ドイツの医療・介護事情に詳しい淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は「死の質」を高めるためには、家族にも相応の「覚悟」が必要だと強調する。…

「病院で死ぬ患者の数は、欧米諸国では約50〜60%なのに対し、日本は約80%近い。日本の場合、『命を長らえること』を優先して、終末期に在宅医療を進めていても異変があると救急車を呼び、患者を病院に押しつける傾向があります。そこには『死の責任を取りたくない』という思いもある。

 苦しくて喘ぐ親を見て、周囲が延命治療を望む気持ちも理解しますが、家族が死に立ち向かわない限り終末期医療は変わりません」

 死の質を世界水準に上げるには、家族の覚悟が必要になる。

エキサイトニュース 2016年10月1日

【乳がん緩和ケア】肉体面・精神面の痛みを和らげる方法を解説
 乳がんで闘病中のフリーアナウンサー小林麻央さんは、長い入院生活を現在も送っております。

 実はがんの治療の中には「緩和ケア」と呼ばれる、がんによって苦しめられた身体面、精神面の痛みを和らげるケアがあることをご存知ですか。

 今回は「緩和ケア」をテーマに、目的や方法、そして乳がんにおける緩和ケアはどのようなことがおこなわれているか、医師に解説をしていただきました。

がん治療における緩和ケアの目的・役割

目的

 がんの状態にかかわらず、がんそのものやその治療に関する身体面、精神面での苦痛を和らげるために行われるものです。

役割

 患者さんが少しでも苦痛を味わわずに、自分らしく闘病しつつ、生活していくことを援助する役割があります。

緩和ケアはどのような方が対象に受けられますか?

■がんにかかって何らかの身体的な痛みや苦痛がある方

■がんにかかって、悩みや精神的な苦痛がある方

■がんの治療に伴う身体の苦痛(抗がん剤による吐き気や、放射線による障害など)がある方

■がんの罹患に伴ってうつ病や適応障害といった精神的な病を発病している方

■病院ではなく自宅での闘病を選択し、緩和ケアを必要とする場合などにも、自宅で緩和ケアが実施されることがあります

がん治療における緩和ケアの方法

緩和ケア病棟

 緩和ケアを受ける患者さんのみを対象につくられた病棟で、緩和ケアに精通したスタッフや、静かに療養できる環境などがそなえられたものです。

緩和ケアチーム


 緩和ケアの専門的なトレーニングを受けた医師や看護師、心理士、薬剤師やソーシャルワーカーなどがチームを組んで、専門治療にあたるものです。

緩和ケア外来

 外来患者さんで緩和ケアを必要とされている方に、病気の治療と並行して支援していくものです。家族に対する相談やケアも行うことになります。

在宅緩和ケア

 在宅でも専門スタッフが訪問し、緩和ケアを行う場合があります。

 地域の訪問診療や、訪問看護、介護などとも連絡を取り合いながらケアを行っていきます。

乳がんにおける緩和ケア

乳がんによる痛みの緩和ケア

 医療用麻薬(モルヒネなど)を含む鎮痛薬を用いることによって、乳がんによる痛みを緩和し楽に生活できることを目指すものです。

乳がんによる精神的な緩和ケア

 告知から治療の不安や気持ちの落ち込みに対するケアや、家族の精神面でのケアを行っていきます。

和ケアを受けたい場合は、どのような機関に相談に行けばよいですか?

 病気の治療を行っている希望を伝えて主治医に紹介してもらうのが、緩和ケアチームとの連携も取りやすくスムーズだと思います。

医師からのアドバイス

 緩和ケアは病気が進行した時にのみ行うものと考えるのではなく、がんを患ったすべての方が皆さんできるだけ苦痛が少なく治療や日常生活を行えるように、ますます普及していくといいですね。

ニフティニュース 2016年10月1日

現役医師200人に聞いた「本当は寿命を縮める」延命治療
カネにはなるが、意味はない
 医療が発達し、高齢化が進んだ現代社会。多くの人は人生の終末期、もはや病気の根治を目指さない、延命を目的とした治療を受けることになる。しかしなかには、患者に苦しい思いばかりをさせ、効果も薄い「無駄な延命治療」も少なくない。

 本誌は200人の医師に、〈無駄だと思う延命治療〉について尋ねた。その結果、現場の医師たちは、延命治療の一部について、明確に「無駄」だと考えていることが分かった。その回答を表に掲載した。

 もっとも多くの医師が無駄だと思っているのは、(3)「胃瘻」、(4)「胃瘻造設」、(5)「嚥下機能の落ちた認知症患者に胃瘻を造設する」といった、胃瘻にかかわる延命治療だった(番号は表と対応、以下同)。

 高齢になると、口から直接食事を取れなくなったり、食べられたとしても、誤って食べ物を飲み込み(誤嚥)、それが気管に入って肺炎などの原因となったりすることがある。そうした場合、腹部に内視鏡で小さな穴を空け、そこに管を通して栄養を補給するという方法を取る。それが胃瘻だ。

 しかし、胃瘻をつけた人生が本当に幸せなのだろうか。内科医が言う。

 「味も何もしない経管栄養剤を、毎日決まった時間に、まるで『作業』であるかのように送り込まれます。食べる楽しみもなく、栄養だけを流し込まれる様子を見ていると、本当にこの治療は必要かと思ってしまう。

 寝たきりの認知症で胃瘻をしている高齢の患者さんを診ると、さらにその気持ちは高まります。そうした患者さんは話がほとんど通じません。コミュニケーションを取れず、ごはんも食べられない……それなのに生きる意味はあるのか、と」

 (6)「認知症で自己の意思が示せない患者で、胃瘻造設までするも全身状態が悪く、ずっと入院状態の人」はまさにこれに当たるだろう。

 さらに、一般的に「体に負担が少ない」とされる胃瘻だが、それをつけることによって、治療を受けなければならなくなるケースもある。世田谷区の特別養護老人ホーム・芦花ホームで医師を務め、『「平穏死」のすすめ』などの著書もある、石飛幸三氏が言う。

「胃瘻をつける患者さんは、老化によって胃の噴門部(食道と胃の境)が弱っています。そのため、胃の内容物が逆流して、逆流性食道炎を起こしやすくなる。さらに、それが気管にまで及び、誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあるのです。実際、私の職場でも、数人の胃瘻をつけた方が、誤嚥性肺炎のために何度も何度も病院とホームを行き来していました」

 患者を不幸にしかねない胃瘻。石飛氏によれば、この手法が行われるようになったのは'90年代後半からだという。石飛氏が続ける。

「患者の身体的負担が少なくなるように技術が改良され、'00年代に入って急速に普及しました。なかでも、重度の認知症患者への造設は、全国の多くの医師が『胃瘻をつけないと死んでしまう』と説明していた。しかし、それが本当に当事者にとってありがたいものだったかは分かりません。

しかも、胃瘻で生き続けるのに、一人当たり年間約500万円かかり、それは国が負担しています。見かねた厚生労働省も動き出し、'14年の診療報酬改定で、安易な胃瘻造設を抑制するため、胃瘻手術の診療報酬が4割減らされました。そのうえ、嚥下機能検査も条件づけられたのです」

 国も無駄な胃瘻が多いということを認めているのだ。

 ほかにも、胃瘻と似たような効果を持つ治療について疑問が上がる。(18)「中心静脈栄養」がそれだ。石飛氏が言う。

「鎖骨の下や顎にある太い静脈から、カテーテルを入れ、奥のほうにある中心の静脈まで進めて、そこに高カロリーの栄養剤を投与する延命治療です。体の奥の大静脈にまで管を通すため感染症を起こしやすく、ひどい場合には敗血症にもなってしまいます」

 自分が寝たきりや重度の認知症になったとき、ものを食べられなくなっても、チューブから栄養を補給し、生き続けたいのか?元気なうちにそれを考えておく必要がある。

 ほかに多くの医師が無駄な延命治療として挙げたのが、人工呼吸器をつけることだ。(8)「75歳以上の重症脳疾患に対する人工呼吸器による管理」、(9)「人工呼吸器の装着」、(10)「末期COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者に対する、気管挿管による酸素投与」などである。

 終末期、自発呼吸ができなくなった患者に対して、口、もしくは気管を通して酸素を投与する。

 とくに呼吸器をつけるか否かが問われるのが、体に緊急の異変があった場合である。(20)「急変時の気管内挿管」はそれにあたる。医療ジャーナリストがこんなケースについて言う。

「80代の女性の患者さんが肺炎で呼吸困難に陥って救急で運ばれてきたことがありました。彼女はぜんそくの持病、脳卒中の後遺症を持っていた。救急によって人工呼吸の管が口に入れられていましたが、そのままでは口腔ケアなどが行いにくい。医師は気管を切開して人工呼吸器を入れることを提案しました。

家族は、『もう十分闘病したので結構です。体もこれ以上傷つけたくありません』と言いましたが、医者はそこで呼吸器を外してしまったら、殺人罪となる可能性もある。しかも、医者は『もう死が近いので治療をしません』とは言えない生き物です。結局、その家族を説得して切開をしたそうです。ですが、本当にその治療が本人にとって、家族にとって必要だったのか、疑問です」

 延命治療をするか否か、医者が選択する場合、その頭にはカネがチラつくこともあるという。前出の石飛氏が言う。

「医者は延命治療をすれば、診療点数をもらえる。医師も病院経営のために稼がねばなりませんから、患者さんそれぞれの事情、生き方についての希望も、頭から飛んでしまうことが多いのです」

 カネにはなるが、患者を不幸にする延命治療が、この世にはある。

本当は寿命を縮めている

 ほかに数人からの回答があったのは、(12)「抗がん剤の使用」、(13)「高齢者に対する、末期がんの延命治療はほとんど必要ないと思う。特に意識が混濁している患者には」といった、がんに関わるものだ。

 前出の石飛氏が言う。

「抗がん剤は、元気な人ですら副作用に苦しめられるのに、高齢者がやるとどうなるか。副作用に苦しめられるだけだし、逆にそれで命を縮めてしまいかねない」

 実際、抗がん剤による治療を行って患者の寿命を縮めてしまう例は少なくない。前出の医療ジャーナリストが言う。

「80代の末期の膵臓がんの患者さんで、助かる見込みが薄い方でしたが、医者は、体力が落ちて数日間ろくに食事もとれていないその患者さんに、抗がん剤のTS-1による治療を続けたのです。結局、ひどい嘔吐感、下痢といった副作用が現れたのですが、それでも投薬を続行。患者さんは相当に苦しんだそうです。こうした治療は、確実に寿命を縮めることになるでしょう」

 一方で、末期にある患者の家族の側が抗がん剤治療を強く望むこともある。消化器外科医が言う。

「こちらが『もう薬による治療が難しい』と説明しても、抗がん剤治療を頼みにする家族は少なくありません。やはりご家族は藁にもすがる思いで病院に来られていますので……。しかしそれはむしろご本人を不幸にすることになりかねません」

 ほかの延命治療においても、こうしたケースは見られる。

「たったひとりしかいない母親、父親と別れたくないという『家族のエゴ』があると思います。非常に難しい問題ですが、治療をすべきか否かは本人が決めること。家族であっても、それを邪魔してはいけないと、私は思います」(前出の石飛氏)

 (22)「透析」も、患者の幸せな終末期を考えると、本当に必要かどうか疑われる治療法だ。内科の医師が言う。

「人工透析は、人生の最終章へ向かおうとしている患者さんにとっては、非常に大きな負担となります。いま私が診ている85歳の女性の方は、『透析なんか行きたくない』と悲しい声を出すんです。息子さんからは続けるように言われているそうですが、本人は『週に2回も3回も管につながれて……そんなのはもういい。もっと楽に生きたい』と言っています。

以前、人工透析を行っていた80代の女性は『もう病院に行くのは、やめたい』ということで、透析をやめました。息子さんも最初は『そんなこと言わないで頑張って』と泣いていましたが、女性はそれでも嫌だと訴えた。結局、彼女は人工透析をやめてから1年以上生きました。息子さんの気持ちも分かりますが、本人が受けたくない延命治療は『無駄』と言ってしかるべきだと思います」

 高齢になったときに「飲むべきでない」薬を上げた医師もいた。(27)「高コレステロール治療薬を使うこと」である。循環器科の医師が言う。

「高コレステロール症が心疾患や死亡につながるという根拠は示されていません。むしろ、いくつかの研究では、コレステロールが低い高齢者ほど死亡しやすいという研究結果すらあります」

 自分が、人生の終幕に何を求め、どういう終わりを迎えたいのか?無用な延命治療を施されないようにするためには、このことをよくよく考えておく必要がある。

週刊現代 2016年10月1日

医者の余命宣告 河合薫さんの記事から
治療するがん患者の3つの状態
 以前安楽死問題で書いた医師の余命宣告。(米国の安楽死問題 医者の余命宣告はそんなに当たらない)

 河合薫さんのこのような記事(余命宣告患者2人の対極対応…最悪情報の伝え方 悲観論の下で生まれる「ポジティブ」と、伝え方で大きく変わる心の動き)があったので少し追加して書いてみます。

 まず一般論。

 医師が余命を宣告しているのはあくまでもその疾患の50%の人の生存率を表しているにすぎません。当然早くなることもあれば遅くなることもあります。そして 90%のなくなる時期を言わないのは、早く亡くなった時に周りのみんなが納得しづらいからにすぎません。そのことを知った上でお読みください。

 2人のがん患者の実例を挙げながらその後の対応について筆者からの提言の形で文章は進みます。その中でのこの病院医師の言葉。

>「この病院では緩和ケアや、終末期医療は行っていないけれども、紹介はできます」

 もうこの病院はがん治療やってはいけない病院ですね。緩和ケアを終末期医療と並列で考えているのですから。でも3年前だから仕方ないかな。

 まあ置いといて

>「医師に言われたときは、明日はないかもって、毎日思ってた。でも、もう再発から3年が過ぎた。」

 まあ年数は告知していませんが、医師の余命宣告大外れです。そうこんなものです。治療も進歩しますし、後で書く部分も大きいです。

 また別の患者さんの投稿。

>「がんを生きる事って、患者本人の病への向き合い方や患者を支える周りの人の、がんに対する捉え方で大きくモチベーションが変わると思っています。 でも、不安で不安でどうしょうもなくなるのです。どうやって向き合っていけばいいのか、わからなくなります。心が揺れて、折れそうになってしまうのです。それでも、下を向かず、明日も前を向いて生きていきます。私は余命1年の宣告を受けてから、3年が経ちました。」

 そう、この患者さんも膵癌とともに生き、医者の予想を覆しています。

 筆者は 医師の告知の方法が異なったこの2人を出すことで

>決して楽観視することなく、「悪い情報」に冷静に向き合い、虚脱と絶望に襲われながらも、嘆き続けることをやめ、顔を上げ、前を向いて歩いていた。 真のポジティブな感情は、究極の悲観論の下で熟成される。彼女たちにの内部には、究極のネガティブな感情を引き戻すだけのポジティブな感情が、熟成されていたのである。

とまとめています。本当同意します。小林麻央さんも今この状況でしょう。周りが諦めろなんて言う権利はありません。もちろん煽ってもいけません。(がんを告白する勇気 がんと共に生きていく強さ 小林麻央さんの事象から)

 その中で河合薫さんが挙げていたこの引用。がん告知の必要条件です。

●告知の目的がはっきりしていること

●患者・家族に受容能力のあること

●医師及びその他の医療従事者と患者・家族の関係がよいこと

●告知後の患者の精神的ケア、支援ができること

 これを医療現場がどれだけ遵守されているか。少なくとも現場では後半3つはないがしろにされていることが殆どです。だって最初の医師のコメント見たら最後の部分全然ダメでしょう。

 ではなぜこのようなことが起きてしまうのか。実は治療しているがん患者には次の3つの状態があります。

1しっかりした治療ができる状態

2もうエビデンスがしっかりある治療法がないがまだある程度元気な状態

そして

3本当に後数日という終末期の状態

 1はこのまま治療しますし、3は最後の場所を選ぶことになり、現在医療の現場でまずまず動いています。(3は時折まだもめますが)

 ところがこの2の状態に対しては大きな病院がしっかりした共通の対応ができていないことが現状です。いわゆるがん難民と言われていたものになります。そして余命宣告が大きく外れるのはこの2の人達です。ただ2の状態の人がすぐに3に変化することは普通のことなものですから、みんなあんなに元気だったのにという言葉がよく出てくるのです。正直50%とはまさにこのことです。

 そして2の状態の人がいろいろなとんでも医療に引っかかります。つまりちゃんとした病院の医療がいい加減だから、もっといい加減な医師たちが患者を食い物にする。いや、一部正しいことを示すことで、全然ダメな治療も一緒に行い金儲けをする悪徳医師が生まれているのです。そしてその悪徳医師は告知後の患者の精神的ケアは行いますが、本当に後数日という終末期の状態になってしまうと絶対面倒を見ません。あれだけお金をせしめたのに自分で病院を探せと放り出すのです。

 少し話を戻します。

>状況が深刻であればあるほど人はより多くの情報を求め、情報がないことは不安を掻き立てるってこと。

>自分を褒めて、愛して、助けてあげて欲しい。たまに自分を叱り、尻を叩き、頑張れ自分!っと応援してあげて欲しい。

 このまとめ。再度同意します。患者の気持ちの問題です。患者治療において難しいけど絶対この精神状態の方がいい。ただ残念ですが今の日本の医療の現状において、まだまだ患者自らが自分の精神を整える必要があります。少しづつ変わってきていますが。この間の記事です。(がんと共に歩むために コミュニティー構築と個人情報 昔の日本の村社会?)

 がん医療における医師個人の現状に対する意見ですが、今回の記事少し参考になれば幸いですし反論なども募集しています。

livedoorニュース 2016年10月4日

ステージIVの胃がん、大腸がん、肺がん 受入数日本一の病院
 がん治療で重要なのが病院選びだ。国立がん研究センターが9月26日に公表したがん拠点病院症例数の全国集計は、重いステージのがん患者にとって、最後までケアしてくれる病院かを見定める目安になる。

 がんの進行度は最も軽い0期から最も重いIV期まで5つのステージに分類される。

「ステージIVの患者を多く受け入れる病院は、抗がん剤や放射線療法など治療の幅が広い病院で、スタッフも幅広い専門性を有した人材が揃っていると考えられます。治療が難しくても、緩和ケアを行なったり、最期まで看取ってくれる可能性も高い」(医師で医療ジャーナリストの森田豊氏)

 ステージIVの胃がん患者の受け入れ数トップは、国立がん研究センター東病院だ。2010年に腹腔鏡下手術(※1)の名医・木下敬弘氏をヘッドハンティングし、胃がん治療を強化している。

【※1:腹腔鏡下手術/腹部に数か所穴を開け、内視鏡の一種である腹腔鏡を1つの穴から入れて内部を見つつ、別の穴から入れた器具でがんの切除、摘出などを行なう手術。これまでの開腹手術と比べて患者への負担が少ない】

「2014年6月には手術支援ロボット『ダ・ヴィンチ』を用いた腹腔鏡下胃切除を導入しました。ステージII以上の進行がんの臨床研究も積極的に行なっています。また、緩和ケア病棟が地域の医療機関と連携しており、患者さんが在宅療養が困難になった場合は速やかに受け入れ対応しているのも大きな特徴です」(国立がん研究センター東病院)

 大腸がんのトップはがん研究会有明病院。手術は年間640例以上に及ぶ。大腸がん専門の外科医、内科医、化学療法専門医によるチーム医療が特徴で、かなり進行していても、化学療法と放射線療法、手術を組み合わせて完治を目指すという。“最後まで諦めたくない”人にとって心強い体制が築かれている。

 肝がんは、胃がんと同じく国立がん研究センター東病院がトップだった。

「大腸がんからの転移先として最も多いのが肝がんです。当院では、日本で初めて導入した陽子線治療法(※2)と併せ、他の化学療法も行なっています。これによってがんが小さくなれば、転移した肝がんでも切除が可能になる場合がある。このような手術をこれまでに100例以上行なっています」(国立がん研究センター東病院)

【※2:陽子線治療法/放射線治療のひとつ。水素や炭素などのミクロ粒子の中で、一番軽い水素を用いてがん部分に照射する治療法。周辺の正常な細胞にほとんど影響することなく、がん細胞に直接到達し、死滅させることができる】

 肺がんは静岡県立静岡がんセンターがトップ。進行がん患者の受け入れが多い理由について、同センター呼吸器内科部長・高橋利明氏はこう答えた。

「地域に肺がん治療の専門医が少ないため紹介が集中しています。また年齢や合併症などにより化学療法を受けることができなくても、緩和医療を希望されている場合には患者さんを受け入れているのも理由のひとつ。加えて患者さんの希望に添って転院していただくことなくお看取りまで行なっているのも当院の特徴です」

ガジェット通信 2016年10月7日

日本で「安楽死」が実現する日はやってくるのか?
法整備の課題山積み
 安楽死が合法化されているベルギーで、初めて未成年の安楽死が実施されたことが9月中旬に報じられた。

 海外メディアの報道によると、死期が間もない末期の患者だったとされているが、年齢や性別などの詳細は明らかになっていない。

 ベルギーでは2002年に本人の同意を前提に成人の安楽死が法制度化され、2014年に年齢制限がなくなり、未成年者でも安楽死の処置が受けられるようになった。

 日本でも、刑事裁判などで安楽死の違法性が争われたことがあるが、どのように考えられているのか。制度化の可能性はあるのか。櫻町直樹弁護士に聞いた。

●「殺人罪」「嘱託殺人罪」などの罪にあたる可能性


 「安楽死」とは、一般に「末期癌等の回復が見込めない病(とそれに伴う非常な痛み)に苦しむ人に対し、薬物を注入すること等によって死に至らしめること」というように理解されていると思います。

 たとえば、一般社団法人日本尊厳死協会のウェブサイトでは、「安楽死は、医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めること」とされています。

 「尊厳死」という言葉もありますが、こちらは、回復が見込めない病にある人が、単に死期を遅らせる意味しかない延命措置を拒否して死を迎えることをいい、死の結果を発生させる行為を伴う安楽死とは区別されます(ただし、ケースによっては明確な区別が難しいものもあり得ると思います)。

 現時点の日本においては、ベルギーのような安楽死を認める法律はないので、回復の見込みがない病気にかかった人を死なせる行為は、故意に人を死に至らしめたとして、刑法上の「殺人罪」または「嘱託(同意)殺人罪」の成否が問題となります。

●日本で争われた2つの裁判例

 ただし、これまでの裁判例においては、殺人罪等の構成要件に該当する場合であっても、一定の要件を満たした場合には「安楽死」にあたるものとして違法性が阻却され、罪が成立しないというルールが示されています。著名な裁判例を2つ紹介します。

 まず、名古屋高等裁判所昭和37年12月22日判決は、脳溢血で倒れ激痛に苦しむ父親に、殺虫剤を混ぜた牛乳を飲ませて死亡させた息子が、尊属殺人罪(現在は廃止)に問われたというケースです。

 裁判所は、違法性を阻却するための理由として、安楽死と認められるためには「つぎのような厳しい要件のもとにのみ、これを是認しうるにとどまるであろう」として、以下のような6つ要件を挙げました。

(1) 現代医学の知識と技術からみて不治の病に冒され、死が目前に迫っていること(2) 病者の苦痛がはなはだしく、誰が見ても忍びない程度であること(3) もっぱら病者の苦痛の緩和が目的でされたこと(4) 病者の意識が明瞭で意思を表明できる場合には、本人の真摯な嘱託または承諾のあること(5) 医師の手によることが原則。そうでない場合はやむをえない特別な事情があること(6) その方法が倫理的にも妥当であること

 もう一つの有名な裁判例が、横浜地方裁判所平成7年3月28日判決(いわゆる「東海大学安楽死事件」)です。これは、多発性骨髄腫という難病に苦しむ患者に、心停止を引き起こす作用のある塩化カリウムを注射して死亡させた医師が殺人罪に問われたというケースです。

 裁判所は、一定の要件を満たす場合には「安楽死」として許容される(つまり、殺人ではあるが違法ではない)場合があると述べました。そして、医師の行為であることを前提として、次のような要件を示しました。

(1) 患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること(2) 患者は死が避けられず、その死期が迫っていること(3) 患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段がないこと(4) 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること

 このように、裁判実務においては、一定の要件を満たす場合には違法性が阻却される「安楽死」として許容されることがあることが示されています(ただし、上で挙げた2つの裁判例では「安楽死」とは認められませんでした)。

●法整備は可能なのか?

 一方、「法律の整備」という面ではなかなか難しいように思います。

 たとえば、2011年に発足した超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」(2016年現在は「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」)は、2012年に「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」という法律案を公表しています。第1案と第2案、ふたつの案があります

 この法律案の第2案では、延命措置を講じずに死を迎えるという「尊厳死」が対象となっており、薬物を注入する等して死に至らしめる「安楽死」は対象外となっています。

 しかし、日本弁護士連合会は、この法律案について「『尊厳死』の法制化の制度設計に先立って実施されるべき制度整備が全くなされていない現状において提案されたもの」「国民的議論が尽くされることが必須」などとして、法律制定に反対を表明しています。

 このほか、障害者支援団体、難病患者支援団体などからも、尊厳死を合法化することに対して反対の意見が表明されています。

 このように、延命措置を講じないという、いわば「消極的」な形での死を迎える尊厳死の合法化についても反対があるところ、安楽死は外形的には「殺人」に該当する行為を許容する訳ですから、さらに強い反対が予想されるところです。

●「立法技術論としても難しい問題を含んでいる」

 また、安楽死を認めるとしても、どのような要件において安楽死を認めるべきか、立法技術論としても難しい問題を含んでいます。

 たとえば、さきほど例にあげた法律案では、延命措置の中止・不開始が免責される要件のひとつとして、患者が「終末期に係る判定」を受けたこと(法律案7条)と規定されています。そして、「終末期」とは「患者が、傷病について行い得る全ての適切な医療上の措置」を受けた場合であっても、「回復の可能性がなく、かつ、死期が間近であると判定された状態にある期間」とされています(法律案5条1項)。

 しかし、この規定にある「死期が間近」というのは、具体的にどの程度の期間であれば「間近」といえるのか、曖昧であると言わざるを得ません。

 また、やはり先ほどあげた裁判例で述べられている「本人の真摯な嘱託又は承諾」や「生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示」、法律案にいう「患者が延命措置の中止等を希望する旨の意思を書面その他の厚生労働省令で定める方法により表示している場合」(法律案7条)についても、「自己決定権の尊重」とみることもできますが、一方で、合法化によって「死を選択せよという圧力」が生じ、自己決定が歪められるという懸念はないでしょうか。

 さらに、患者がそのような意思表示をすることができない状態にあった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。仮に「家族の承諾」を条件とした場合には、本人による意思表示の場合以上に、経済的負担、心理的負担、周囲からの圧力等によって判断が歪められてしまう危険はないでしょうか。

 以上みてきたとおり、安楽死の合法化はきわめて難しい問題を含むものであり、月並みではありますが、慎重な議論が必要であるといえます。

櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士

石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
所在エリア:東京 千代田区
事務所名:パロス法律事務所
事務所URL:http://www.pharos-law.com/

弁護士ドットコム 2016年10月10日

がん(ステージ4)からの生還者に共通すること?小林麻央に奇跡を!
生きたい理由が奇跡を起こす
 告知を受けてから2年。今年9月からはブログも開始し、闘病生活を公表している小林麻央。その気丈さ、そして幼い2人の子供を想う母の強さには誰もが心を動かされる。

まだ希望はある

「麻央さんの場合は授乳期の乳がんという非常に特殊ながんです。授乳期は胸が張っていますので、しこりに気づきにくい。そのまま放置されたり、または乳腺炎ということで母乳マッサージをしてしまうんです。

マッサージをすると、がん細胞が皮膚全体に飛び散る。麻央さんのブログを見ると、当時、母乳マッサージをやっていたと書いてありました。遠隔転移すれば根治が不可能ですから、麻央さんはかなり厳しい状態だと言わざるをえないでしょう」(乳腺専門医でナグモクリニック院長の南雲吉則氏)

 小林麻央(34歳)は自身のブログに、9月20日、『告知日』というタイトルをつけて、こう書き込んだ。

診察室に入った時の先生の表情で、「陽性だったんだな、癌なんだな」と分かった。

心の準備は意外とできており、冷静に先生のお話を伺った。

この時点では、まだ脇のリンパ節転移のみだった。(その後、現在肺や骨などに転移あり)

 '14年10月に告知を受けた日のことをそう振り返りながら、現在は乳がんが転移していることを自ら明かした。

 ステージについて言及はしていないが、肺や骨に転移している段階はステージ4(末期がん)であり、一般的に5年生存率は約30%だと言われる。

「現在の麻央さんは、複数の抗がん剤治療を約2年間も受けて、副作用に苦しんでいます。食欲こそありますが、髪の毛はもちろん、眉毛もすべて抜け落ちていますし、顔も黒ずんでいます。またブログにあるとおり、手指の痺れに悩まされている」(歌舞伎関係者)

 麻央は9月23日のブログでこう書く。

ごめんね。

病気になっちゃった妻で。

病気になっちゃった娘で。

病気になっちゃった妹で。

きっと、病気になって、皆が一番に思う言葉かもしれない。

「ごめんなさい。。。」


 胸を打たれる文章だ。もう絶望的なのか。いや、希望がないわけではない。

 東京慈恵会医科大学附属病院・乳腺・内分泌外科の鳥海弥寿雄准教授が語る。

「これまでの報道などを見ると、麻央さんの治療は一定の効果を上げていると思います。臨床の現場では、逆転ホームランのように効果がでる薬に巡り会えることがあるんです。

私も乳がんの多発転移で手術をあきらめた患者さんが化学療法ですべてのがんが消えてしまった経験があります。10年以上経った今もその患者さんはお元気ですよ。麻央さんは若いだけに様々な治療にチャレンジできる。

性質のよくないがんであっても抗がん剤などが効くことはよくあることですし、いまは新薬が次々に発売される傾向がありますから、これからも、前向きに治療に臨んでほしいと思います」

 現在、麻央や夫である市川海老蔵、家族は最新の治療法を必死に探しているという。実際、最先端の治療法を求めて転院もしているようだ。

 乳腺外科医で新宿ブレストセンタークサマクリニック院長の日馬幹弘氏はこう語る。

「麻央さんのお母さんも乳がんの経験者なので、遺伝性のがんの可能性が高い。そうなると、ホルモン療法や分子標的薬は効果がなく、使える抗がん剤も限られる『トリプルネガティブ』だと思われます。

ただし最新の抗がん剤が効くかもしれません。遺伝性のがんに対して、一番新しいものは『ハラヴェン』と『オラパリブ』という薬の併用です。これはまだ承認されていませんが、一部の病院で治験を行っています。麻央さんもこの2つを試している可能性があります。『ハラヴェン』は比較的副作用も少ない。トリプルネガティブへの効果が期待できます」

がんが消えるとき

 さらに日馬氏は、麻央の前向きな姿勢が、大きなプラスだと指摘する。

「英国のデータで、がん患者を(1)闘争心、(2)否定、(3)受容、(4)絶望という4つの心理タイプに分けて、生存率を調査したものがあります。すると(1)闘争心という気持ちの患者さんは5年後の生存率が7割でした。今の麻央さんの姿勢が生存率を上げていることは間違いないでしょう」(日馬氏)

 麻央は別の日のブログでこうも書いている。

この子たちのママは私ひとりなんだ、という喜びと怖さに、心がふるえた。絶対治す!と誓った

 実際に進行がんと宣告されながら、手術を受けずに奇跡的に生還した例は世界中にいくらでもある。そうした患者100人以上をインタビューして著書『がんが自然に治る生き方』を書いた、カリフォルニア大学バークレー校博士でがんの研究家であるケリー・ターナー氏はこう語る。

「感情による身体への作用は驚異的です。愛やよろこび、幸福を感じると、脳内の分泌細胞から身体を治癒させるホルモンが血中へと放出されます。この作用による免疫システムが、がん細胞除去の力を向上させることがわかっています。抗がん剤治療中、笑うと免疫細胞が増加することも明らかになっているんです」

 ターナー氏によれば、乳がん患者を対象にした大規模調査で、治療に一人きりで対応した人は、10人またはそれ以上の友人からサポートを受けた人よりも、死亡する率が4倍も高かったという。

「人とのつながりは免疫システムの強化をうながします。また身体のふれあいにも治癒を促す要素があります」(ターナー氏)

生きたい理由が何より大事

 ターナー氏が出会ったダイアナは、61歳のときに子宮頸がんのステージ4と診断された。彼女はさまざまな治療を受けたものの効果がなく、最期を自宅で迎えるために退院した。

 そんなダイアナのために夫は、毎日、ひたすらそばにいたという。体調が悪いときはベッドでずっと抱きしめていた。そして友人や家族を自宅に呼び、ダイアナのために祈ってもらった。

「すると驚くことに彼女の病状は回復に向かったのです。それから5年でがんは消えました。ある研究では一日10秒のハグが血圧を下げ、治癒ホルモンの分泌を増やすことが分かっています。

そしてなにより大切なことは『死にたくない』ではなく、『どうしても生きたい理由』を持つことです。数多くの研究が、抑うつ状態にある、または無力感をいだいているがん患者は、そうではない患者より生存期間が短かったと報告しています。

強烈な生への渇望が、様々な治療に取り組む気力を与え、がんからの生還につながっていくんです」(ターナー氏)

 がんに勝てるかどうかを決めるのは、最後は免疫力=精神力である。

 元アイドルで現在も歌手活動を続けている、谷ちえ子(57歳)も乳がんから生還した一人だ。

「医師からは『ステージ4』だと言われました。その病院で、すぐに治療に入ることを勧められましたが、私は姉に相談して、別の医師を紹介してもらいました」(谷)

 その医師からこう言われたことで、谷はついていこうと決めた。

「患者さんの病気を治そうとする気持ちのお手伝いをしているんです」

 谷は抗がん剤治療を1年弱受けた後、手術を受け、さらに放射線治療やホルモン治療を続けた。そして3年前に治療をしなくてもいい段階まで回復した。

「治療期間中は、好きなことをやろうと思いました。カツラを被って派手な洋服を着て、初めてプリクラも撮りました。それまで歌をやめていたのですが、『また歌いたい』という気持ちも生まれました。

麻央さんもどんどん家族に甘えて、その一方で自分で治すんだという強い気持ちを大切にしてほしい。そのためにはとにかく楽しいことを考えることです」(谷)

 ステージ4の膀胱がんを克服したボクシングの元世界王者・竹原慎二(44歳)は麻央に激励のメッセージを送り、彼女も「どストレートに深く響きました」と送り返した。

「抗がん剤治療にも賛否両論があります。でも、最後は結果論でしかない。決めたのなら、『効くんだ』と信じて続けるしかありません。

実際にがんになると、『あのときこうすれば良かった』ということばかり、頭に浮かんできます。辛いとは思いますが、麻央さんにはいっぱい笑って、前向きでいてほしいと思います」(竹原)

 最愛の家族をはじめ、日本中が麻央を応援している。奇跡が起きる準備はできている??。

週刊現代 2016年10月15日

「低用量抗癌剤」に緩和ケア医が感じる憂鬱
廣橋 猛(永寿総合病院)

 皆さん、こんにちは。

 最近、低用量抗癌剤治療なるものをクリニックで受けている患者が、緩和ケア外来を受診するケースが散見されるようになりました。通常より非常に少ない量の抗癌剤を用いることで副作用を防ぎ、癌が大きくならないよう維持していくことを目指しているのだそうです。自分は化学療法の専門家ではないので詳細な説明は省きますが、低用量抗癌剤治療の有効性を示すエビデンスは存在せず、教科書やガイドラインにも記載されていません。

 以前、この日経メディカル Onlineの連載で「怪しい代替療法を受けたいと言われたら」という記事を掲載しました。これは、主に自費診療である自家ワクチン療法(免疫療法)等を念頭に書いたものです。今回の問題は似ていますが、ポイントは少なくとも抗癌剤であるということです。

 まず、低用量であっても標準治療で認められた抗癌剤を用いる場合、保険診療として受けている方が多いようです(中には適応外の薬剤を用いて、自費になる方もいるようですが)。ですので、高額な自家ワクチン療法と違って、金銭的なハードルが低くなっていることも、低用量抗癌剤治療を受けようとする方が増える要因である気もします。

 しかし、これは明らかにおかしいことであり、標準治療として認められた使用法以外の抗癌剤治療は、保険診療で認めるべきではないと考えます。

低用量抗癌剤治療をしている患者の緊急対応は誰が担う?

 また当院では、拠点病院等で通常の抗癌剤治療をしている方が、将来の準備のために早めの受診をされる方も少なくないのですが、そういった方に何か緊急事態が起こった際は、当然治療されている病院に対応していただきます(ちなみに、抗癌治療が終了されている方は当院で全て対応していますし、抗癌剤以外の代替療法を行っている方も受け入れています)。

 一方、低用量抗癌剤治療を行うクリニックは、救急の対応が難しく、入院することもできません。少量とはいえ、仮にも抗癌剤治療をしている方への緊急対応ができないというのは、極めて不誠実ではないでしょうか。

 低用量抗癌剤治療を受けている患者は、何かあったときの入院先を確保しようと期待して当院を受診してきます。そのようなとき、自分はとても憂鬱な気分になります。抗癌剤治療中に何かあったときは治療している病院の責任だからと、突っぱねるのは簡単です。でも、そうすると、その患者に何かあったとき、路頭に迷ってしまいますし、本当に必要なときに適切な緩和ケアを受けられないかもしれません。仕方ないからと、低用量抗癌剤治療中の緊急時対応を保証すると、そのようなクリニックの片棒を担ぐことになってしまいます。
 
低用量抗癌剤治療の一番の問題は?

 何より低用量抗癌剤治療の一番の問題は、患者が「まだ自分は治療できるんだ」と勘違いしてしまうことにあります。本来、抗癌剤治療が適切ではない時期の患者、すなわち自身の人生をどう締めくくっていくか、真剣に考えなければならない時期の患者であったとしても、低用量抗癌剤治療という選択肢のために緩和ケアの準備が進まず、結果的に急激に病状が悪化した際の受け入れ先がなく、救急病院で蘇生処置が施されたといった不幸な転帰をたどってしまった事例も聞きます(癌患者で最期に病状が急激に悪化することは以前の記事「川島なお美さんの逝去から学ぶべきこと」で述べました)。

 治療を勧める医療者は、それでも患者の希望に沿うことができた、と言い訳をするのですが、それは偽物の希望です。偽物のブランド品を安価で買ってもらい、買った本人は偽物と気付かずに満足しているから問題ない、という考えと同じことです。

 そういった意味では、低用量抗癌剤治療を受けながらでも、緩和ケア外来を受診してくれた患者さんは良い方かもしれません。でも、先ほどのような憂鬱を感じながら、我々、緩和ケア医はどうしたらよいのでしょうか。

難しい、低用量抗癌剤を中止するタイミング

 低用量抗癌剤治療を受けている患者と話していると、大抵はそれ以前に治療を受けていた病院とのコミュニケーション不足が根幹にあると気付くことが多くあります。「副作用がつらいと話していても、応じてくれなかった」「治療がもうできないと言われただけで、緩和ケアのことを話してくれなかった」など、治療医に問題があったのだろうな、と考えさせられることも少なくありません。まだ標準治療の選択枝も十分残っているだろうな、と私でも分かる状況にもかかわらず、低用量抗癌剤治療以外の選択肢は知らなかった、という方もいらっしゃいました。癌患者にとって、コミュニケーション不足、知識不足は避けなければなりません。

 こういう経緯で、低用量抗癌剤治療を受ける患者を目の前にして、私はいったいどうしたらよいのでしょうか。まずは、現状をどのように把握しているか、今後どのようにしたいと考えているか、じっくり話を聞かなければなりません。

 そして、低用量抗癌剤治療についての自分の考えをお話しします。その会話の中で、標準治療を再度検討する、または低用量抗癌剤治療を中止する、という結論が出ればよいのですが、取りあえずは副作用がほとんどない低用量抗癌剤治療ですから、いきなり止めることは患者も決めにくい。そこで、継続して緩和ケア外来でフォローする中で、体調が悪化していく兆しが出てきたときには、効いていないということですから中止にしましょう、とお話ししておきます。

 この、抗癌剤治療を中止するタイミングについて相談を受けるという緩和ケア外来の役割は、標準治療を受けている方であっても、同じように重要です。ただ、低用量抗癌剤治療を受けている患者においては、副作用が少ないから中止しにくい、という点もあるのでことさら意識しなければなりませんし、逆説的に緩和ケア医の価値観の押し付けにならないよう、常に患者・家族の受け止め方を大切にしながら進めなければなりません。

 緩和ケア医として複雑な憂鬱、ご理解いただけましたでしょうか?
 

著者プロフィール

廣橋猛(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)●ひろはし たけし氏。2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。


BPnet 2016年10月20日

「IWAOモデル」を具現する緩和ケアの臨床教育・研究拠点「まごころの杜」が名古屋で11月1日に開所
がん患者を主体に痛みの管理、理学療法、言語聴覚療法などの緩和ケアを提供
 名古屋大学発ベンチャーでソーシャルビジネスを社会に問う高齢社会街づくり研究所が主体となって、地域の医療・介護・福祉の発展に寄与することを目的に、医師会・医療機関・介護事業所と連携して在宅緩和ケアと在宅リハビリを推進すべく、「まごころの杜(もり)」(所在:名古屋市熱田区幡野町17番地)が11月1日に開所します。

 先進国では、社会保障費の枯渇や少子高齢化などによる財源不足からセーフティーネットを行政がカバーすることが困難になってきています。これまでわが国は、高度経済成長と国民皆保険により医療介護をすべての人へのコンセプトを守ってきましが、近年の財源不足により困難な状況を迎えています。今後は、ソーシャルビジネス的手法により最後の看取りを街で看る仕組み作りが求められています。

 英国で緩和ケアは、慈善団体の寄附により全額無料で安心して受けることが出来ます。わが国でも先進国にふさわしい最期をよりよく生きるための仕組み作りを創生していくことが必要となります。ソーシャルフランチャイズ、ソーシャルイムパクトボンドなどの手法により在宅緩和ケアを大学発ベンチャーも参加し産官学で組成し、日本の医療介護をソフトランディングさせることが求められています。

 現在、日本では2人に1人が癌になり、3人に1人が癌で亡くなります。しかし、医療・介護分野では、平均在院日数の急速な短縮もあり、癌末期の対応が手薄になることが懸念されています。こうした背景を踏まえ、医師で老年学分野の第一人者でもある名古屋大学大学院の岩尾聡士特任教授(高齢社会街づくり研究所代表)は、ソーシャルビジネスの視点から、低所得層の方でも安心して民間で在宅緩和ケアを受けることの出来るタウンホスピタル「IWAOモデル」を提唱してきました。

 がん患者の支援を主体に開所した「まごころの杜」は、「IWAOモデル」を具現するとともに、その教育・研究機関を兼ねそなえた施設となり、現在日本が抱える医療・介護制度の課題に対して、名古屋から全国に向けて発信するソリューションになるものです。

 「まごころの杜」は、これまで 「まごころ在宅医療クリニック」(2007年 3月12日開設)を中心として地域医療を担ってきた医療法人陽明会が運営します。また、がん末期治療のスペシャリストである経験豊な内科医、外科医を配置し、手厚い体制で、ほぼ一人の患者に一人のスタッフが対応することも同施設の特色としています。

 「IWAOモデル」に賛同するアイカ工業は、2009年に名古屋大学に寄附講座を開設し、同モデルの実現を支援してきました。「まごころの杜」においては、医療、介護に最適となる安心・安全な空間づくりを実現する以下のような建材を多数提供しています。


転倒時の衝撃を吸収する床材「メラフロアセーフティ」

消臭・抗菌効果がある壁材「セラール 消臭タイプ」

車椅子使用者でも使いやすい洗面カウンター「気くばりUD洗面」「アイカスタイリッシュカウンター」

高齢者や車椅子利用者にも使いやすく、介護者の見守りにも配慮した室内建具「気くばりUDドア」

車椅子利用者用の高さへも切り替え可能な衣類掛け付き収納「アイカハンガー収納」

高齢者の使い勝手にこだわった施設用靴箱「アイカヘルスケア玄関収納」

支えると握る、2つの機能を両立した「肘掛手摺」

温泉気分を演出する浴室用壁材「セラール バスルーム用〈ヒノキ柄〉」

癒しの空間ニーズを実現するオーダーメイド壁材「セラール グラフィカタイプ」

車椅子やストレッチャーなどがぶつかっても傷がつきにくい壁材「セラール


 世界に類のない超高齢社会に突入したわが国では、看護師、介護士不足や累計2兆5300億円に及ぶ大幅赤字で破綻状況にある高齢者医療制度などの要因もあり、病院、介護施設での高齢者ケアは限界をきたしています。医療の分野では、今後都市部を中心に2025年には全国で43万人もの要介護高齢者が病院を追われ、介護施設へも入居できない医療難民や介護難民が急増するといった最悪な事態も予測されています(2015年6月:日本創成会議調べ)。

 今回の発表について岩尾教授は、「平均在院日数の短縮など様々な要因により緩和ケアを病院で最後まで受けるのが困難となり、緩和ケアは、民間でという時代が到来しています。緩和ケアの必要な終末期の患者の方々により良いサービスを最期まで提供し、素晴らしい人生を最期までよりよく生きていだきたいとの思いで『まごころの杜』を開所しました」と述べています。

■緩和ケアの臨床教育・研究拠点「まごころの杜」の概要

所在地:名古屋市熱田区幡野町17番地

スタッフ:がん末期のスペシャリストである経験豊かな内科医と外科医、精神科医など5人の専門医師に加え、看護師、介護士、リハビリ専門職など医療介護のほぼ全職種を配置。 

3階建てフロア構成:1階は、外来と訪問診療を行うクリニックと訪問看護・介護ステーション、リハビリ室などを配置。住居部分は2、3階。1部屋約18平方メートルで全40室。家賃は50,000円〜70,000円(共益費¥10,000)。循環型の施設として、地域の病院や地域の病院や訪問看護ステーションと連携し、在宅療養時の急性増悪時や退院後の一時受け入れも行なう計画。

■高齢社会街づくり研究所株式会社の概要

 日本が世界に類の無い超高齢社会を迎えつつある中で、高齢社会街づくり研究所(CSR: Consortium for Senior Research)は、2011年(平成23年)5月11日に名古屋大学発ベンチャーとして発足。「社会保障と財政の持続可能性を確保し、健康長寿社会の実現」、「医療関連産業を活性化し、経済成長への寄与」、そして「課題解決先進国として、世界への貢献」を基本理念し、地域社会と産・官・学が連携して高齢者を街全体で看守るタウンホスピタル「IWAOモデル」普及の母体となっている。

 また、中部経済産業局 中部経済連合会、名古屋商工会議所などとのコラボレーションで出来た、新ヘルスケア産業フォーラムの事務局になっている。http://machikenhp.wixsite.com/home

PR TIMES 2016年10月31日

がん克服後、5人に1人が抗うつ薬を使用
診断後10年以上でも服用率が高い
 米国の研究で、がんサバイバーが抑うつや不安の治療を受ける比率は通常のほぼ2倍であることが明らかにされた。成人のがんサバイバー3,000人の19%が不安または抑うつ、あるいはその両方のために薬を服用していたのに対し、がんの既往のない成人4万5,000人の調査では10%であった。

 研究を率いた米国疾病管理予防センター(CDC)のNikki Hawkins氏は、「治療を終えた後でも、がんは長期にわたり深刻な心理的、情緒的打撃をもたらすことがわかる」と述べている。同氏によると、がん経験者の約5人に1人という数字は、米国全体では約250万人に相当するという。

 今回の知見からは、最近がんになった患者だけでなく10年以上前に診断を受けた人でも、こうした薬剤の服用率が一般集団の約2倍の比率であることが判明している。

 米国がん協会(ACS)のKevin Stein氏はこの知見について、「われわれがこれまで把握していなかった重要な情報である」と述べている。不安や抑うつは生活の質(QOL)、さらには生存率にも大きく影響するが、薬物療法とストレス管理トレーニングなどの介入治療によって管理することが可能だという。ただし、「どのような患者にリスクがあり、早期介入が必要なのかは、もっと理解しなくてはならない」と同氏は付け加えている。

 医師が患者の来院時に毎回、「どのくらいつらいですか」と尋ねるだけでも不安や抑うつをスクリーニングできるという。また、患者のほうからも率直に話をする必要がある。「がんが情緒面にもたらす打撃について話すことに不安や恥辱を感じるかもしれないが、心の健康は身体の健康と同じくらい重要である」と、Hawkins氏は言う。

 今回の研究では、米国国民健康聞き取り調査(NHIS)の2010〜2013年のデータを用いて4万8,000件を超える記録を分析し、不安または抑うつで薬剤を使用するがんサバイバーの数を推定した。抗うつ薬を使用する確率が特に高いのは、65歳未満の患者、白人、公的保険に加入し、かかりつけの医療機関がある人、複数の慢性疾患を抱える人であることがわかった。この報告は「Journal of Clinical Oncology」オンライン版に10月26日掲載された。

 この統計は自己申告に基づくため、薬を開始した時期や服用期間は明らかにされておらず、患者が不安障害やうつ病の診断を受けているかも不明である。わかっていることは、「がんの身体的影響に加えて、心理的、情緒的な負荷をさらによく理解し、治療するために尽力する必要があるということだ」と、Hawkins氏は述べている。

m3.com 2016年11月4日

「爆逝」 日本の終末医療に向かうマネー
本国にない「緩和ケア」
「明日は10時から主治医との面談です。今後の治療方針について希望があればその時に伝えましょう」

 がん医療では日本でも最先端の1つとされる都内の総合病院のカフェテリアで、そんな中国語が耳に入った。

 声の主は、入館証を首から下げたスーツ姿の若い女性で、テーブルを挟んで病衣姿の初老の男性とその妻とおぼしき女性が対峙する。スーツ姿の女性は「ご用があればいつでも携帯電話にお電話ください」と言い残してその場を後にした。

「おそらく中国人の入院患者さんと、医療通訳の方でしょう。うちの病院は約500床ですが、私が知るだけでも20人くらいの中国人患者さんが入院しています」

 そう話すのは、この病院の腫瘍内科に所属する女性看護師だ。

 安倍政権も医療ツーリズムを成長戦略の1つとして位置づけるなか、概算では年間5万〜6万人の外国人が、医療サービスを受けることを目的に訪日しているとされている。命にかかわることとあって、その需要には為替の変動などは関係ないようだ。

 メーンは日本での人間ドックをはじめとする予防医療ツアーだ。しかし、中国の富裕層には、治療のために日本に長期滞在する動きも出始めている。

「中国の医者からさじを投げられ、いちるの望みをかけて日本にやって来るがん患者さんが増えているようです。ただ、日本でも手の施しようのない状態であることも多いのですが」(女性看護師)

 しかし、それでもなお、日本に留まる中国人患者もいるという。中国人向けの医療通訳派遣業を営むN氏は話す。

「日本の緩和医療を気に入り、そのまま日本で息を引き取ることを選ぶ末期患者さんもいます。私がお世話した患者さんにも、自らの選択で日本で最期を迎えた方が4人いた」

 なぜ彼らは、異国の地で息を引き取ることを選ぶのだろうか。

「中国では、末期がん患者に対しては延命治療かモルヒネ大量投与かの二者択一を迫るような医師がほとんどで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という概念がない。ホスピスのような施設もほとんどなく、あっても大富豪専用。保険がない日本で自費診療を受けた方が、安上がりだったりするわけです」(N氏)

 今後、日本で最期を迎えることを選ぶ中国人が大挙するようになった場合、そのムーブメントは「爆逝」とでも呼ぶべきだろうか。それこそ爆買いの最終形態である。

ZAKZAK 2016年11月13日

救急搬送の延命治療中止36% 医師提案、終末期患者
 死期が迫った状態で救急搬送された患者について、日本救急医学会が過去5年半の間に医師から報告された159件を調べたところ、医師側が患者の家族に延命治療の中止を提案したケースが36%に当たる57件に上ることが15日、分かった。

 いずれも複数の医師らによる医療チームが、回復の見込みがない「終末期」に該当する患者かどうか判断した上で延命中止を提案しており、57件のうち48件(84%)でチームの中止方針と家族の意向が一致していた。残り9件では家族の意向は中止ではなかったが、積極的な回復治療は求めなかった。最終的な処置は57件の大半で医師側の提案通りになったという。

 調査を担当した国立病院機構大阪医療センターの木下順弘・集中治療部長は「チームが丁寧に説明したことで家族の理解を得られやすかったのではないか」としている。

 調査は全国の救急医らに任意で報告を求め、2010年10月から今年4月までに集まった159件を分析した。

 救急医学会は07年に「終末期医療に関する指針」を策定。薬物注入などによる安楽死は禁じているが、人工呼吸器の取り外しや血圧を上昇させる昇圧剤の減量、人工透析停止といった延命中止行為を選択肢として認めている。

 搬送された終末期患者の年齢は70歳以上が全体の64%を占めた。くも膜下出血や脳梗塞などの脳・神経疾患、肺炎などの呼吸器疾患が多かった。

 17日から都内で開かれる同学会の学術集会で報告される。〔共同〕

日本経済新聞 2016年11月15日

癌でも「今の医業続ける」半数以上
意識調査「医師の自分が癌になったら…」
 2人に1人が癌に罹患する時代、医師にも他人事ではないはず。意識調査「医師の自分が癌になったら…」では、半数近い医師が進行性の癌と診断された後も、現在の仕事を「できるだけ続ける」と回答。また、進行性の癌と診断された場合、現在の仕事を継続するかどうかの判断として「期待余命」を最も重視していることが分かった。一方、診療科ごとの集計では大まかな傾向に違いはないが、回答の割合に特徴が見られた。

※調査は2016年10月31日から11月7日に実施。回答総数は1353人。男性1181人、女性131人、不明41人。診療科別内訳は内科総合304人、循環器科93人、消化器科136人、小児科65人、精神科81人、外科系168人、整形外科105人、産婦人科42人、呼吸器科47人、腎・泌尿器科63人、皮膚科28人、脳・神経科80人、内分泌・血液科33人、眼科41人、耳鼻咽喉科43人。

Q. 進行性の癌と診断された場合、現在の仕事は?

「退職する」精神科、眼科で約3割

 進行性の癌と診断された場合、現在の仕事を「できるだけ続ける」と回答した割合が最も多かったのは、内分泌・血液科で72.7%。同科では「転職や異動などを検討する」との回答も21.2%、「退職する」と回答した割合はゼロであった。次いで「できるだけ続ける」が多かったのは整形外科(62.9%)、呼吸器科(61.7%)、耳鼻咽喉科(60.5%)、脳・神経科(60.0%)。最も少なかったのは循環器科(47.3%)、産婦人科(47.6%)。循環器科は「転職や異動などを検討する」と回答した割合は26.9%と、全診療科中最も高かった。「退職する」が最も多かったのは精神科(29.6%)、眼科(29.3%)だった。

Q. 癌と診断されたら、主治医以外に仕事の継続について必ず相談したいのは

診断後の「職場」への相談、診療科で違い

 「進行性の癌と診断されたら、今の仕事を継続するか否かで優先する判断基準は」の問いに対しては全診療科で「期待余命」が最多。次いで「自分の癌の5年相対生存率」を参考にする割合が多かった。ただし、眼科、脳神経科、外科、精神科、消化器科、内科では「病期」が5年生存率を上回った。

 癌と診断された場合の主治医以外の相談先は、全診療科で「家族」が最多。家族への相談割合が最も高かったのは産婦人科(88.1%)、次いで耳鼻咽喉科(83.7%)、呼吸器科(83.0%)。診療科の中で「職場の同僚・上司」への相談が多かったのは小児科(18.5%)、糖尿病(18.2%)。最も少なかったのは産婦人科(2.4%)、整形外科(3.8%)、耳鼻咽喉科(4.7%)。

 今の職場に癌治療と仕事を両立する環境は「十分ある」「一部ある」を合わせると、73%。「全くない」は27%だった。

m3.com 2016年11月17日

終末期ケアの在りかた、積極的治療の減少と早期緩和ケアの開始
 患者が若く、収容患者数が多く緩和ケア病棟がない施設で治療を受ける場合、終末期化学療法を受ける可能性が最も高い。

 デンマークのコペンハーゲンで10月8日に開催された2016年度欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された大規模検証結果によると、固形がん患者が死亡する1カ月以内の化学療法実施率が依然として高く、早期段階での緩和ケアの開始や終末期医療の明確なガイドラインの策定を検討するパラダイムシフトが求められている。

 フランスのマルセイユにあるInstitute Paoli-Calmettes腫瘍内科所属の筆頭著者Phillipe Rochigneux医師によると、化学療法は、しばしば終末期間近の固形がん患者に対して症状緩和のために実施されるが、効果がなく有害であることが多い。

 Rochigneux医師は、終末期における化学療法使用に関してフランス全土から集められたデータと化学療法使用に関連する要因についての検証結果を、同僚を代表して発表した。

 研究者らがデザインした全国規模の患者登録簿を用いた試験register-based study(登録ベースの試験)には、2010〜2013年のフランス国内入院患者のうち、転移性固形がんで死亡した20歳以上の全患者が登録された。

 研究者らは、化学療法使用に関連する患者、腫瘍、施設レベルの特性を特定するために多変量解析を用いた。

 特異的サブ解析も算出し、標準一次化学療法に対する腫瘍の奏効率30%超(文献データ)と定義される腫瘍の推定化学療法感受性の役割を調べた。

 緩和ケア病棟がない病院では、報告された終末期化学療法実施率がより高かった。

 転移性固形がんを有する終末期患者279,846人のデータが登録された。

 終末期間近の化学療法実施率は、最期の3カ月間で39.1%、最期の1カ月間で19.5%、最期の2週間以内で11.3%であった。

 最期の1カ月間で化学療法レジメンを開始した、または再開した患者は6.6%であった。

 多変量解析で判明した化学療法実施率が低い患者の特性としては、女性(odds ratio [OR] 0.96; 95% confidence interval [CI] 0.93, 0.98)、高齢者層(OR 0.70; 95% CI 0.69, 0.71 for each 10-year increase)、および慢性的併存疾患数の増加(OR 0.83; 95% CI 0.82, 0.84)があり、それぞれが単独で、低い化学療法実施率と関連している。

 標準一次化学療法に対し腫瘍が感受性を示した場合、患者は最期の1カ月間で化学療法を受ける傾向が高かった(OR 1.21; 95% CI 1.18, 1.25)。

 終末期の化学療法に単独で関連する他の要因は、2005〜2010年の間に主な治療法の革新が起きたがん種の患者であった(OR 1.17; 95% CI 1.14,1.20)。

 終末期の化学療法実施率はまた、大学病院(OR 1.40; 95% CI 1.34,1.45)や総合がんセンター(OR 1.43; 95% CI 1.36,1.50)より営利病院で死亡した患者の方が高かった。

 化学療法実施率の平均がより高かったのは、収容患者数の多いがんセンターや緩和ケア病棟がない病院で終末期間近に投与を受けたとされる患者であった(OR 1.21; 95% CI 1.18, 1.24)。

 本研究の知見を検討したStein Kaasa医師は、患者は可能な限り長く良い人生を送ることを望んでいると述べた。

 しかしながら、Kaasa医師は、そのことが死を間近にひかえて化学療法を受けることを意味するのかどうかに疑問を呈した。

 Kaasa医師はまた、最終目標は終末期に化学療法の使用を減らすことなのかどうか、そうであれば、どのように減らすのかにも疑問を呈した。

 その方法とは、患者との間に「がんだけに集中する以上」の関係(事前指示書の使用など、感情や家族の問題に対処する関係)を築くこと、症状や機能の系統的評価を行うこと、そして、患者に予後情報を伝えることである。

 早期緩和ケアは、終末期における化学療法のバランスの取れた使用、症状管理、感情機能や家族へのケアの改善に役立つ。

 緩和ケア資源の適切な使用を全体に取り込めば、慌ただしい腫瘍内科外来を助けることにもなるが、緩和ケア専門医が、がんに関する能力を備えている必要がある。

結論

 終末期間近の化学療法実施率は、転移性固形がん患者で依然として高い。

 これらの実施率は、特に、収容患者数が多く、緩和ケア病棟がない施設で治療を受けている若年患者において高い。

 終末期ケアの明確なガイドラインの策定と実施により終末期の積極的治療を減少させること、緩和ケアをより早期に開始すること、そして、がん専門医をはじめとするがん医療従事者のための支持療法研修を強化することが急務である。

参考文献:

Use of chemotherapy near the end of life for solid cancers: What factors matter?
P. Rochigneux, J.L. Raoul, L. Morin
治療困難な固形がんの化学療法感受性と死亡前の1カ月間に化学治療を受ける可能性の関連(n=182,938)

オンコロ 2016年11月22日

【上手な死に方を考える】
終末期の悩み親身に応じる「がん相談支援センター」
 がんと宣告されて心穏やかでいられる人はいない。まして「終末期」と言われれば、茫然自失になるのも当然だ。

 しかし、いつまでも途方に暮れているわけにもいかない。いや、残された時間がわずかなだけに、効率よく「準備」を進める必要がある。

 最期を迎えるその日まで、どんな医療を受けるか、旅立つ場所は自宅か、病院か、仕事やお金の段取りは、そして、自分の死後に待っている葬儀や資産の扱いは−。誰にとっても初めての経験だけに、誰もが必ずここで悩む。

 そんな時に、がん患者や家族のあらゆる相談に応じ、一緒に考えてくれる窓口がある。全国のがん拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」がそれだ。どの病院の患者でも利用でき、施設にもよるが多くは予約不要だ。患者本人や家族でなく、友人や同僚でも利用でき、個人情報が漏れることは一切ない。

 「終末期に限らず、早期でも、あるいは『がんの疑いがある』という段階でも利用できます。実際『まだ検査結果が出ていないけれど、もしがんだったらどうしよう…』と不安になって立ち寄る人もいます」と語るのは、東京医科歯科大学医学部附属病院がん相談支援センター相談員で、医療ソーシャルワーカー(MSW)の山田麻記子さん。

 ソーシャルワーカーとは、暮らしの中で起きるさまざまな不安や困りごとの相談に乗り、その人らしく過ごせるように一緒に考える仕事。MSWは特に保健医療機関に所属する相談員で、その大半が社会福祉士の国家資格を持っている。

 そんな山田さんによると、がん患者からの相談内容で多いものは、今後の療養の不安、医療費などの経済的不安、医師とのコミュニケーションの取り方など。

 「医師の話が理解できなくて困っている人は少なくない。漠然とした不安はあるものの、自分でも何に困っているのかがハッキリ分からない、という人もいます」

 そう語る山田さんの仕事は、相談者の話を聞き、相手の頭の中の混乱を整理し、悩みの実像を明らかにしていくことから始まる。

 がん相談支援センターでは、単に相談に乗るだけでなく、必要に応じて利用できる施設やサービスの紹介もしてくれる。最終回の次回は、同センターを訪れるがん患者の具体的な悩みと、その対応について検証する。

ZAKZAK 2016年11月29日