広葉樹(白)  
  バックナンバー2008/1/3〜2010/1/1

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2008年1月3日 掲載
終末期ケアでは親族問題の解決が肝要
第27回日本医学会総会(2007年4月5日〜4月8日)、大阪で開催 終末期に求められる医療・ケアとは
担当医の誤解と懸念もオピオイド処方の障壁に
第12回日本緩和医療学会総会開かる
過大に評価されることが多い終末期患者の生存期間
米国の在宅医療 医師の関心低いが独自のホスピス制度も
ホスピスを有効に利用しない米国医師
2008年2月10日 掲載 
終末期緩和医療のガイドライン改訂
【サイコオンコロジーとメンタルケア】 グループ療法
慢性呼吸器疾患の終末期医療−苦痛・苦悩の緩和に看取りを組み込む
終末期医療:延命治療の意識調査へ 一般と医療関係者に--厚労省検討会
2008年3月3日 掲載 
ビタミンが癌に伴う疼痛に有効である可能性
家族の要請で延命中止、日本学術会議が終末期医療に提言
終末期の難治性悪心・嘔吐の管理 病歴と診察による原因特定が重要
2008年4月6日 掲載 
終末期医療ガイドラインを発表 質の改善を目指す
プライマリケア医がホスピスケアを能動的に動かせる
 2008年5月11日 掲載 
モルヒネによるがん疼痛管理 緩和ケアにおける意義を明確に
 2008年6月10日 掲載 
終末期患者の延命治療の差し控え・中止にどう対応するか
市立豊中病院 来月にも「がん手帳」の運用開始 がん治療に関する「啓発」と「管理」を狙いに
第6回日本臨床腫瘍学会学術集会ランチョンセミナー Medical Oncologistが知っておきたい緩和・支持療法
2008年7月13日 掲載 
がんの倦怠感に精神刺激薬が有効
WHO方式が効かない激しい疼痛 モルヒネのボーラス投与も選択肢
2008年8月12日 掲載 
「胃瘻や人工呼吸器は希望しない」が9割超 国立長寿医療センターの「事前指示書」調査で明らかに
がん患者のうつ病は,研修を受けたがん専門看護師による複合的な介入によって改善する
終末期の延命治療、病院3割が中止・不開始
苦悩する家族 「死」語り合う場を
癌患者の半数近くが十分な疼痛管理を受けていない可能性
2008年9月7日 掲載 
第49回日本神経学会 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の治療決定プロセスにおける倫理を探る
生命予後不良な新生児の「看取りの医療」 「命をいつくしむ医療」への発想転換を
2008年10月5日 掲載 
がん性疼痛の神経ブロック療法―ガイドライン作成に望まれる方向性は
終末期医療における患者・家族にとっての最善策を探る
がん長期生存者の管理は不十分 適切な支持療法モデルの開発を
がん告知、「治る見込みがあってもなくても、知りたい」は72.1%
2008年11月9日 掲載  
これからの緩和ケア スピリチュアルケア,家族ケアの重要性を強調
呼吸器外しの意思尊重を 倫理委が異例の提言 ALS男性の要望受け 千葉、病院長は難色
「最期はホスピス」過半数が希望 男女1,000人アンケート
オーストラリア、子どもホスピスを訪ねて
在宅緩和ケアの充実へ人材育成が課題
2008年12月9日 掲載  
2008年度ライフ・プランニング・センター国際フォーラム「終末期医療・介護の倫理問題にどう取り組むか」 終末期医療・緩和ケアでは倫理的配慮が重要
第13回日本緩和医療学会 症状緩和のための最新の技とその活用法を探る
マッサージが進行癌患者の疼痛を緩和し、気分を改善する可能性
終末期についての話し合いによって末期患者の積極的治療が減少する可能性あり
がんの子の終末期支えよう
死を前にリビング・ウイル示す、「賛成」6割超える 余命半年「延命」1割
第22回日本臨床内科医学会 IT導入で変わる地域医療連携
第34回日本診療録管理学会 医療訴訟と診療録管理を終末期医療の事例から考える
2009年1月6日 掲載  
第63回QOL研究会 医療崩壊阻止へQOLの観点で考察
「安楽死」の瞬間を放送へ 英テレビ、自殺美化と批判
テレビに賛否の意見相次ぐ 英国の「安楽死」放送
尊厳死の法制化を訴える 厚労省・終末期医療懇談会で関係団体をヒアリング
終末期患者 医師との対話で死亡直前のQOL向上
2009年2月8日 掲載   
第33回日本死の臨床研究会 がん対策基本法から2年〜在宅ホスピスケア推進に向けた議論
在宅終末期患者:苦痛緩和のため、医師の車を緊急車両に--国交省と警察庁
がん患者「死後の世界」「生まれ変わり」信じる割合低く 東大が死生観調査
脳死状態の女性から女児 英、2日後に帝王切開
米国胸部学会が緩和ケアに関する臨床方針について声明を発表
2009年3月8日 掲載  
がん患者の6割が「痛み感じる」
植物状態のイタリア人女性死亡 延命停止後、国民に衝撃
がんを生きる:住みなれた家で 在宅療養、どう実現?
東京大学調査:がんと「さいごまでたたかう」意識 患者と医師に開き
2009年4月7日 掲載  
東東京緩和ケアネットワーク 広域型「緩和ケア地域連携パス」開発へ 症状別薬剤パス併用で作成
終末期の高額薬剤認めず 英国立臨床評価研究の改訂ガイドライン
緩和ケア研修、7割が未実施 がん拠点病院の指定要件
2009年5月6日 掲載  
尊厳死,意思決定に影響せず医師も守れる法整備は可能か リビング・ウィルを巡り議論
末期がん患者往診車:緊急車両に指定--栃木「在宅ホスピスとちの木」
脳腫瘍に伴う問題には早めの対応を 頭痛・てんかん様発作・せん妄
2009年6月9日 掲載
がん患者へのエリスロポエチン投与の是非を考える スイスで行われたメタ解析から
広島県・呉地域 「がん性疼痛管理マニュアル」作成 推奨する治療を掲載/呉市での緩和ケアの標準化を目指す
第109回日本外科学会 期待される外科医による緩和医療
慢性疾患若年患者の終末期 本人参加の"事前ケア計画"が重要
第38回日本慢性疼痛学会 がん疼痛には多くの治療手段を選択肢に
2009年7月7日 掲載  
Dr.中川のがんから死生をみつめる:痛みはゼロにできる
終末期医療を考える…「どう生きる」医師と話そう 医療ルネサンス 仙台フォーラム
2009年8月4日 掲載  
肺がん末期の中枢気道狭窄 テーパー型スパイラルZステントが有用
緩和ケアチームの課題に焦点 終末期がん患者への対応も話題に
腹水をろ過、再び体内へ 改良型で目詰まり解消
透析を希望しない超高齢女性への緩和ケアの工夫
2009年9月1日 掲載  
緩和ケアとプライマリケアの融合を目指す 第14回日本緩和医療学会
終末期医療を巡る新たな知見 患者と家族の不安にどう対処するか
患者の痛み(ペイン)
腫瘍外科医・あしの院長の地域とともに歩む医療 〔 第11回 〕地域緩和ケア支援ネットワーク
2009年10月4日 掲載  
Dr.中川のがんから死生をみつめる:余命を生かす
がんサバイバーを地域で支える―がん診療連携を強化 第17回日本ホスピス・在宅ケア研究会
緩和ケア科病棟の消える日
アロマで緩和ケア 宝塚市立病院
市民公開講座:がんとの向き合い方 ホスピス医・山崎さんが講演
2009年11月3日 掲載  
安楽死は緩和ケアの障害とはならない ベルギー,安楽死法施行後の調査から
医師・看護師は緩和ケアチームを有用と評価
望む「最期」を求めて 尊厳死 関心高く
在宅ホスピス、選べた祖父
「子どもホスピス日本にも」…創設者が重要性訴え大阪市でセミナー
認知症は致死的な疾患であるとの理解が必要
古代ギリシャや中世に起源 20世紀後半、米で再現確立
ホスピスの説明を受けていない末期がん患者多い 医療提供者とのコミュニケーション不足が一因
電子システムでがんの疼痛治療が改善 ガイドラインに沿った意思決定を支援
2009年12月6日 掲載  
精神腫瘍医が持つスキルの共有を サイコオンコロジストの介入環境づくりも−第22回日本サイコオンコロジー学会
第47回日本癌治療学会−がん対策基本法後,病院の連携や予算の確保を
終末期での治療中止を考える−第68回日本脳神経外科学会
2010年1月1日 掲載  
生きる:小児がん征圧キャンペーン 第25回日本小児がん学会・合同シンポ ◇10代の死、悩み深く どう向き合い、支えるか
ものの始まり・なんでもなにわ:ホスピスケア/大阪
◇73年、末期患者に取り組み 全人的チームアプローチ−−淀川キリスト教病院
呼吸器外しで医師不起訴 富山地検「殺人認定困難」 7患者死亡の射水市民病院
厚生労働省で,第5回終末期医療のあり方に関する懇談会

終末期ケアでは親族問題の解決が肝要
 ケースウェスタンリザーブ大学(オハイオ州クリーブランド)看護学のMaryjo Prince-Paul助教授は,疼痛管理が適切であると述べる末期癌患者を調査したところ,社会的健康状態の問題と家族関係のトラブルが,患者のQOLに否定的な影響を与えていることが判明したと,米国ホスピス緩和医療学会の年次集会で報告した。

疼痛管理よりも重要

  Prince-Paul助教授によると,終末期に感情的,心理的苦痛を経験する患者を治療する医師は,親族関係の問題を正面から評価し,家族に関連する議論を促すことにより患者のQOL改善を手助けすることができるという。

 このような努力により,患者が自ら追求してきた人生の達成感が得られるようになるが,これは疼痛や生理的な症状の管理よりも重要な場合があると述べた。

精神的健康状態がQOLに最重要

 Prince-Paul助教授らは,認知状態に問題がなく,自ら許容できる疼痛の発症率を報告できるホスピス患者50例(平均年齢60歳)を対象としたパイロット研究により,QOLサブ尺度の相関を評価した。特に人生の達成感,死への準備,伝達行為,精神的健康状態・社会的健康状態が総合的QOLにどのように影響するかを評価した。

その結果,精神的健康状態は総合的QOLに関して最大の予測因子であった。一方,ホスピスのスタッフが患者を苦しめている可能性のある親族関係の問題に正面から取り組むことで,心理的健康状態の改善に重要な役割を果たせることが明らかになった。

 同助教授は,今後の研究で学際的なアプローチを用いて,これらのインターベンションの効果を調べ,親族関係のコミュニケーションを促進することでQOLが次第に改善するかどうかを調べるべきであると報告した。

メディカルトリビューン 2007年4月12日
第27回日本医学会総会(2007年4月5日〜4月8日)、大阪で開催 終末期に求められる医療・ケアとは
 終末期(ターミナル)を迎えた患者に尊厳ある生を全うしてもらうためにはどのようなケアが求められるのか。

 第27回日本医学会総会のシンポジウム「終末期医療〜尊厳のある死の医学〜」(座長=金城学院大学・柏木哲夫学長)では,終末期医療および生命倫理に関する意識調査の結果が報告された。また,患者・家族と接することの多い看護師が看護の立場から見たターミナルケアにおける生命倫理について発表し,看取りの最前線にいる実地医家とホスピス医が,終末期医療・ケアについて経験を語った。

陰性感情表す言葉を会話に入れる

 わが国のホスピス・緩和ケアのパイオニアである座長の柏木学長は,これまでに約2,500例をホスピスで看取っている。同学長は基調講演で,ケアの本質について概説した。

 医学のなかにケアという概念が出てきたのはそれほど昔のことではない。キュア(cure:治療,治癒)はある程度のところで限界がくるが,ケア(care:配慮,援助,介護など)は提供し続けることができる。ミルトン・メイヤロフは,ケアの本質として「双方向性」と「ともに成長する関係」を挙げている。だれかをケアするということは,相手に提供するだけでなく,相手からも多くのものを教えてもらうという意味だ。そして,ケアを提供する人とされる人が,お互いにケアを通して人間的に成長することができるとしている。

 同学長は,ホスピスに入所した多くの患者が「ここへ来て癒された」と話したことを紹介。その言葉の裏には,もうすぐ死が訪れるというつらさや不安を,ホスピスに来て初めてわかってもらえたという気持があるという。末期患者の共通の願いは「症状のコントロール」と「気持の理解」だが,特に後者については,「それはつらいですね」といった陰性感情を表現する言葉を,会話のなかに入れていく必要があるとした。

 また,末期患者とのコミュニケーションにおいて犯しやすい間違いの 1 つが「安易な励まし」だという。さらに同学長は,理解的態度によって患者に「死ぬことが怖い」などの弱音を吐かせてあげることも,ケアの本質につながるとの考えを示した。

 最後に,同学長はcoping humorに触れ,末期癌患者の言葉「俳句より川柳がいいです。俳句は春夏秋冬,四季にうるさいでしょう。私のような末期患者は四季(死期)を考えなくてもいい川柳がいいです」を示し,「ケアの場にこうした小さなユーモアを持ち込むことが,大きな力になることがある」と締めくくった。

ほとんどが延命医療中止を肯定

 大阪市南医師会の顧問を務める大島内科医院の大島久明院長は,終末期医療および生命倫理に関するアンケートの結果を報告した。

 アンケートは2000〜06年に計 4 回行われており,調査対象は医事懇話会の会員と,同会員の医療機関に通院する患者である。

 医師,患者とも 8 割以上が仏教または仏教的無宗教と回答。あの世の存在については医師がより懐疑的だった。日本人共通の死生観があると思うのは医師で 6 割,患者で 4 割。しかし,より踏み込んだ質問「美しい壮大な自然のなかにたたずむと,何か神秘的なものとか,自然のなかに 1 つの“いのち”といった感覚を覚えたことがあるか」に対しては,患者の 7 割が「ある」と答えていた。

 植物状態での延命医療中止は,医師,患者ともほとんどが肯定していた。終末期医療や看護・介護を受けたい場所として,医師は圧倒的に自宅が多く,患者では自宅と病院が相半ばしていた。患者の年齢別でも違いが見られ,自宅は30歳未満と80歳以上に,病院は60〜70歳代に,ホスピスは30〜50歳代に多かった。

 わが国では現在,死亡場所の 8 割が病院である。看取りに対する家族の満足度が最も高いのは自宅だが,病院でも緩和主体医療のほうが延命主体医療よりも満足度が高かった。

 終末期医療を受けたい施設として,医師では2000年に比べて2006年では自宅が減り,ホスピスが増えていた。6 年間で癌の告知に対する積極的姿勢が進んだことも明らかとなった。その一方で,世界保健機関(WHO)式癌疼痛治療の認知や,モルヒネ使用時の患者への説明,終末期在宅医療への参加については 6 年前と変わらず,同院長は「啓発と研修が望まれる」と語った。

 2006年のアンケートでは看取りの現状が調べられている。看取られた患者の85%が70歳以上で,90歳以上も23%を占めた。高齢者が多いためか,4 割が自宅での看取りであった。いずれかの処置・治療を選択した患者よりも一切の処置・治療を拒否した患者のほうが満足度は高かった。高齢者の終末期における医療措置の選択決定については主治医の考えや説明などの重みが大きいが,一切の処置・治療を拒否したケースでは本人のリビングウィルも大きな要素であることがわかったという。

メディカルトリビューン 2007年5月24日
担当医の誤解と懸念もオピオイド処方の障壁に
 ダナ・ファーバー癌研究所(ボストン)のJanet Abrahm博士は「オピオイド処方に関して医師は誤解しているだけでなく,過剰投与あるいは薬剤乱用の懸念など心理社会的な障害もあるため,効果的な疼痛管理が妨げられている」と米国ホスピス緩和医療学会年次集会のシンポジウムで報告した。

医師自身が上限を設定

 同研究所とBrigham and Women's病院(ボストン)の疼痛緩和医療プログラムの管理者であるAbrahm博士は「患者の自己申告による痛み,あるいは表情で明らかに我慢できない痛みであるとわかっても,医師はオピオイドの増量をためらうことが多い。これが疼痛管理における最大の障壁である。われわれ緩和医療専門医の役割の1つは,オピオイドの高用量使用で患者の快適度は上がるということを他の医師にも教示することだ」と述べた。

 さらに,同博士は「担当医の多くは,慢性疼痛あるいは重度の急性疼痛を訴える患者に短時間作用型オピオイドを使用する際に“除痛ポイント”閾値を医師自身のなかで決めている傾向がある。もし単独の薬剤で疼痛管理が不十分な場合は他の薬剤を併用するが,それらはいずれも有効投与量を下回っている。医師が満足する最大投与量に達しているときには,必ず別のオピオイドも投与され始めている。そのため,例えば2〜3種類のオピオイドとフェンタニルパッチなどを用いた間に合わせの治療に終わってしまうことになる。十分な疼痛コントロールが提供されていないというよりも,むしろ医師の自己満足の範囲から外へ踏み出していないことを裏づけているだけである」と説明している。

メディカルトリビューン 2007年5月31日
第12回日本緩和医療学会総会開かる
 去る2007年6月22、23日、第12回日本緩和医療学会総会が岡山市で開催された。
 「地域をつつむ緩和医療」と題した今回の総会には約4000名の参加者があった。
 チーム医療、在宅医療、緩和医療教育、スピリチュアルケア、倫理と法、ベイシックサイエンス、小児緩和医療、がん以外の疾患に対する緩和医療、医療ボランティア等のテーマで、特別演題と一般演題をあわせて700題を上まわる発表があった。

 また、がん対策基本法の施行などの追い風にも恵まれ、国会議員、厚労省・文科省の人々も講演・シンポジウム・懇親会に参加し、行政と現場の互いの理解と信頼を深めることができた。

・第12回日本緩和医療学会総会事務局2007年6月23日
・日本緩和医療学会ホームページ
過大に評価されることが多い終末期患者の生存期間
 終末期患者の生存期間について,医師が過大に評価しがちであることが,この問題に関する最初の大規模プロスペクティブ研究を行ったシカゴ大学医療センターの研究チームによって明らかにされた。

実際より5.3倍も長く予測

 終末期患者をホスピスに送った医師が患者の予後について評価したところ,医師たちは死に直面している患者の生存期間について,平均して実際よりも5.3倍長く予測していた。医師の予測が正しかったのは,患者の20%にすぎなかった。

 この研究のリーダーであるシカゴ大学内科および社会学科のNicholas Christakis准教授は,「患者の希望と一致する死を迎えるためには,ある程度の事前警告が必要だが,現実はそうなってはいない」と述べている。

 同准教授らはシカゴ地域の 5 病院の外来部門で,医師343人,患者468人に関するデータを集め,新患者の到着通知から死亡まで連続130日間にわたり患者の経過を追跡した。さらに,医師に対して 4 分間の電話調査を行い,患者の生存期間がどのくらいと思うかについての医師の推測値を聞いた。

 実際の生存期間〜 3 分の 1 で予測できたものを「正確な予測」と定義すると,予測の63%は生存期間を過大評価し,20%が正確,17%は過小評価していた。

 さらに幅を広げて,実際の生存期間の半分〜 2 倍までと予測したものを「正確な予測」に含めたとしても,やはり医師の予測は過度に楽観的であった。医師は468人の患者の半数以上(55%)について,実際の生存期間よりも 2 倍以上長く生存するものと予測した。

メディカルトリビューン 2007年7月6日
米国の在宅医療 医師の関心低いが独自のホスピス制度も
 日本とは医療保険システムが異なる米国の在宅医療の現状を探った。同国では,在宅医療で必要となる人工呼吸器や点滴機材といった医療器具が保険でカバーされないため,このような設備を要する状態での在宅医療の提供は困難となっている。

 シカゴ大学老年医学部のDeon Cox-Hayley准教授は,同国の在宅医療について「入院治療をするほどではないが,医療機関に通院できない人が利用するもの」とする考え方が一般的で,利用は低率にとどまっていると指摘する。

 また,米政府の調査では,国民の80%以上が在宅死を希望していることが示されたが,実際に在宅死を迎える割合は20%程度である。一方で,キリスト教を背景にしたホスピス制度や,専門性の高い看護師が活躍するなどの特徴もある。

院外医療設備は自己負担

 日本のような国民皆医療保険制度がない米国では,原則的に自分で民間保険に加入する必要がある。ただし,65歳以上の高齢者,身体障害者,人工透析患者,および年齢に限らず経済的支援が必要な人は,国がそれぞれMedicare,Medicaidと呼ばれる皆保険を供給している。しかし,人工呼吸器や点滴などの医療設備は,院外ではいずれの保険でも自己負担となるため,医療処置が必要となる在宅医療への経済的ハードルの高さから,在宅医療で提供される医療は必然的に限定される。

 Cox-Hayley准教授は,在宅医療の普及が低率にとどまるその他の要因として,医療者側の関心が低い点も指摘している。医療技術の進歩とともに医療者側の高度医療を提供する専門意識が高まったことから,在宅医療や高齢者医療に対する関心が特に専門医の間で低く,プライマリケア医との連携が取りにくい状況にあるという。例えば,通院ができなくなった患者はプライマリケア医に在宅での診察を依頼することができるが,プライマリケア医が対応できない高度な専門技術を要する耳鼻科や眼科などの専門科の診察が必要になったときは,救急車を利用するなどして受診するか,あきらめるしかない状況だ。

 実際に,同准教授は在宅医療に取り組むなかで,医療者間の「連携」に対する関心が乏しい点を実感することが多いという。同准教授が訪問診療を行っている患者が緊急で医療機関を受診した場合に,医療機関が患者に渡す処方せんの記載が不十分であるため,プライマリケア医は患者の情報をもとにしたり,受診した医療機関に治療内容を確認したりする必要性が生じる。同准教授は「医療が連続的なものであって,患者がプライマリケア医に引き継がれるという意識が低いのではないか」と分析する。現段階では,在宅医療は医学教育でもほとんど取り上げられることがなく,学会などの全米組織も設立されていない。

宗教的背景をもとに根付くホスピス制度

 在宅での高度医療の実現が難しい米国であるが,日本よりも在宅死の割合が高い背景には,キリスト教の考えに基づくホスピス制度の浸透がある。日本では一般的に,「ホスピス」とはターミナルケアを行う施設を指すが,米国では専門チームによる在宅での看取り支援を意味する。医師に「積極的治療による病状の改善が見込めず余命 6 か月」と診断された段階で患者が望めば,ホスピス専門チームによる支援が開始される。ホスピスを専門とする社会福祉士がリーダー的な役割を果たし,訪問看護,ヘルパーによる介護が受けられるほか,ボランティアや宗教関係者も加わった心身両面での支援が行われる。週 1 回の頻度でホスピスチームの会議が開かれ,支援内容が話し合われるという。

メディカルトリビューン 2007年10月4日
ホスピスを有効に利用しない米国医師
 ハーバード大学Brigham and Women's病院(ボストン)のGail Gazelle博士は,ホスピス・ケアは多くの点で医師と患者の双方から誤解されたままであるとする見解をNew England Journal of Medicine(NEJM 2007; 357: 321-324)に発表した。これは医師にホスピスの有効な利用法を説明することを目的としている。

ホスピス・ケアの半数は癌患者

 その問題の 1 つは,米国医師の多くは,ホスピス・ケアを癌以外の患者に考慮しないことである。米国では,ホスピス・ケアは癌ばかりでなくアルツハイマー病,あるタイプの肺疾患や心疾患の患者にも適用される。さらに,さまざまな疾患で引き起こされる衰弱でもホスピス・ケアが受けられる。例えば,肺炎,上部尿路感染症,敗血症,進行性の体重減少,嚥下障害,進行性で深在の褥瘡性潰瘍などである。

 ボストン地域のホスピス数か所の医療ディレクターを兼任しているGazelle博士は「現状でも,ホスピス患者の半数近くは末期癌患者である。そのほかは,約40%が心疾患の末期患者,認知症末期患者,衰弱者,肺疾患,脳卒中患者である」と述べている。

短い利用期間

 もう 1 つの問題は,米国医師はホスピス・ケアを余命数か月の患者に考慮せず,余命数日の患者が当てはまると考えていることである。つまり,多くの患者は現在の慣習的な時期よりもっと早くホスピスに転院されるべきである。

 ホスピスでは 6 か月間以上のケアを受けられるが,患者の利用期間の中央値は26日間で,米国内のホスピスでは患者の 3 分の 1 が残りの人生の最後の週にホスピスに紹介され,転院している。このため,2005年には120万人以上の患者がホスピス・ケアを利用したものの,その多くは妥当な期間より短かった。

 ホスピスへの入院が遅くなる原因には,病院側が不治の病の終末期患者に治癒のための治療を行うことが挙げられる。さらに,ホスピスに入る患者は,蘇生拒否した患者でなければならないという誤った見解も原因の 1 つである。Gazelle博士は「しかし,入院が遅れる最も重大な原因は医師自身の考え方であろう」と指摘している。

ホスピス・ケアの認識に誤解

 では,医師自身のどのような考え方が問題となるのか。第 1 に,米国医師の多くは,患者の死は自分たちの診療の失敗とみなしていることである。第 2 に,ホスピスのことを切り出したら,患者の望みを壊してしまうと恐れることで,これはQOLを向上させるより生存期間を延長するように努力するのが正しいと医師が考えているためである。第 3 には,米国医師は望みのない状態であることを患者に伝える際に思いやりのある対応をするための適切な訓練を受けていないことである。

 Gazelle博士は,第 4 の点が最も重大とし,「ホスピス・ケアは不治の病の進行期に直面したときに,できる限り患者が快適に生きられるよう援助する目的でデザインされたケアであるのに,米国の医師はホスピス・ケアは死が迫ったときのための最後の手段と考えていることだ」と指摘している。

メディカルトリビューン 2007年11月15日
終末期緩和医療のガイドライン改訂
 米国内科学会は終末期の疼痛、呼吸困難、うつ病の緩和ケアガイドライン改訂版を発表した。

 同ガイドラインで取り上げられた各勧告、ならびに各勧告の強度と付記されたエビデンスのレベルは次の通りである。

* 重篤な疾患を有する終末期患者に対しては、疼痛、呼吸困難、うつ病について定期的に評価すべきである。

* 重篤な疾患を有する終末期患者に対しては、疼痛管理への有効性が証明された治療薬を処方すべきである。癌患者の場合、こうした治療薬には非ステロイド性抗炎症薬、オピオイド、ビスホスホネートがある。乳癌患者および骨髄腫患者では、ビスホスホネートは骨痛の緩和に有効である。

* 重篤な疾患を有する終末期患者に対しては、呼吸困難の管理への有効性が証明された治療薬を処方すべきである。これには、軽減されない呼吸困難患者に対するオピオイドや低酸素血症の短期的軽減のための酸素などがある。

* 臨床医は、重篤な疾患を有する終末期患者におけるうつ病の治療には、有効性が証明された治療薬を処方すべきである。癌患者に適した治療法には、三環系抗うつ剤、選択的セロトニン再吸収阻害剤、心理社会的介入などが考えられる。

* 臨床医は、重篤な疾患を有する患者全員に対して、事前指示書などで今後のケアの方針について書面を作成すべきである。具体的には、認知症の管理、経管栄養、癌患者における化学療法の継続または中止、末期うっ血性心不全患者における植込み型除細動器の停止の是非などがある。

m3.com 2008年1月18日

【サイコオンコロジーとメンタルケア】 グループ療法
保坂隆 東海大学医学部教授・精神医学

 サイコオンコロジーの領域の中で,がん患者さんへの心理社会的介入が注目されています。

スピーゲル・モデルの集団精神療法
 スタンフォード大学のスピーゲル(Spiegel D)らは,遠隔転移を起こした乳がん患者さんを数名ずつのグループに分け,「集団精神療法」を行いました。これは90分間のプログラムを毎週1回,1年間にわたり行ったもので,ファシリテーター(進行役)は精神科医,ソーシャルワーカーなどが務めています。10年の追跡の結果,介入群では平均生存期間が36.6ヵ月と,対照群の18.9ヵ月に比べ,約2倍の延長がみられました。

ファウジー・モデルの構造化された介入
 UCLAのファウジー(Fawzy FI)らは,初期の悪性黒色腫の患者さんを数名ずつのグループに分け,全6回の集団介入を行いました。これは,何でも自由に話すというのではなく,毎回決められたテーマの話を聞いたり,リラクセーションの方法を学ぶというもので,特に,前向きで積極的なコーピング(対処様式)を獲得することを目標の1つにしていました。その結果, 6週間の介入プログラム終了直後では,介入前と比較し,情緒状態の改善,免疫機能の増強がみられ,6年後では再発率ならびに死亡率に有意差が生じました。

東海大式「乳がん患者さんへの構造化された介入」
 40名の検討の結果,介入後では介入前に比較して,情緒状態に有意な改善がみられました。さらに6ヵ月後のフォローアップ調査では,参加者の2/3は,介入が終了してからも定期的に会ったり,例会をつくったりするなど,他の患者さんと連絡を取り合っていることもわかりました。これは第5回で触れた,がんの経過によい影響を与える「ソーシャルサポート」,または「ソーシャルネットワーク」をつくることになります。つまり,このような介入は「ソーシャルネットワークを提供する場」としての意義ももつことになるのです。

 集団で介入を行うと,同じ病気をもった患者さん同士で支援し合うことが可能になります。そのため,患者さんの孤立感の軽減や,具体的な問題を解決するのにすぐに役立つ情報交換が可能になったり,さらには医療者の人的・時間的効率を高めることにもつながる方法であると思われます。
 このような介入が,研究レベルでなく,日常のがん診療の場でも当たり前のように治療方針の中に組み込まれていくことを期待しています。

cancercareonline 2008年1月24日
慢性呼吸器疾患の終末期医療−苦痛・苦悩の緩和に看取りを組み込む
 第17回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の特別講演「終末期医療においての呼吸ケアはどうあるのがよいのか」で、ガラシア病院(大阪府)ホスピスの藤川晃成氏は、「慢性呼吸器疾患では長期にわたる終末期の苦痛・苦悩に対する緩和ケアに看取る医療を組み込んでいく必要がある」と述べた。

 藤川氏は「緩和ケアとは,治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対する心理・精神面を含む全人的ケアを言う。終末期にある患者は,近い将来の自分の死を意識しつつ生きるとき,身体的苦痛だけでなく,さまざまな苦痛や苦悩を感じる。緩和ケアの目標は,患者とその家族にできる限り最高のQOLを実現することにある」と定義した。

 終末期医療は,日本では末期癌患者のための医療というイメージが強い。米国では近年,癌患者以外にも緩和ケア適応が拡大され,全米の約3,000の認可ホスピスを利用する約70万人のうち32%が非癌患者である。

 慢性呼吸器疾患の終末期は癌と比較して長期にわたる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎など慢性呼吸器疾患の末期患者に必要な緩和ケアには,呼吸困難や咳,痰などの症状と不安や恐怖,孤独への対応,長期介護者への支援も必要となる。回復不能な患者への過剰医療の問題もある。さらに,重篤な呼吸不全状態では,長期人工呼吸管理希望の有無や蘇生処置拒否(DNR)指示の自己決定が不可能なため,事前に患者や家族とよく話し合う必要がある。

 同氏は,呼吸器疾患入院患者の死亡症例に関する緩和ケアの実態や慢性呼吸器疾患患者の意識調査のデータを示しつつ,非癌疾患の終末期医療の改善や訪問看護ステーション,在宅ホスピスなどの充実が今後の課題であることを強調した。

メディカルトリビューン 2008年1月24日
終末期医療:延命治療の意識調査へ 一般と医療関係者に--厚労省検討会
 厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会」(座長、町野朔・上智大教授)の初会合が2008年1月24日開かれ、延命治療を希望するかなどについて、一般と医療関係者双方を対象に意識調査を年度内に実施することを決めた。結果を基に、終末期医療の質の向上へ向けた報告書をまとめる。

 調査は約1万5000人を対象に実施。▽意思表示できなくなった時に誰に判断してもらいたいか▽治る見込みがないとき、どこで過ごしたいか--などを聞く。

 医療関係者には終末期の定義や延命治療中止等に関する一律な基準が必要かどうかについても尋ねるという。

m3.com 2008年1月25日

ビタミンが癌に伴う疼痛に有効である可能性
 高力価のビタミン、メラトニンサプリメント、その他の補助的治療法が、進行膵臓癌患者の多くにみられるやっかいな疼痛および倦怠感の緩和に有効である可能性が新しい研究で示唆されている。

「多くの患者がひどい痛みのために鎮静されてしまう用量の麻薬を必要とする場合も多い。倦怠感が強いために起き上がったり、動き回ったりすることができない患者も多い。このような患者は一日の大半を座った状態や、ベッドに横たわった状態で過ごしている」と、Cancer Treatment Centers of America(イリノイ州)の統合医学部門副責任者であるTimothy C. Birdsall博士は語る。

 Birdsall博士らは、進行膵臓癌で、化学療法を受けた患者(一部の患者は放射線療法も併用)50例を対象とした試験を実施した。

 被験者はすでに疼痛のため麻薬および抗炎症薬の投与を受けていた。「倦怠感のためにできることはまったくない」とBirdsall博士は述べる。

 被験者50例中36例は、主として緑茶抽出物、メラトニン、高力価マルチビタミン(ビタミンC 1,000mgおよびビタミンE 400国際単位以上を含む)からなる補助療法を受けた。

 試験開始時には、補助的治療を行った群では、疼痛が耐えられる範囲と判定された被験者は40%であり、6ヵ月後には67%で疼痛が耐えられる範囲となった。

 対照的に、補助的治療を行わなかった群では、開始時に疼痛が耐え切れる範囲であったのは35%で、6ヵ月時にはこの数字が22%に低下したことが本試験から明らかになった。

m3.com 2008年2月14日

家族の要請で延命中止、日本学術会議が終末期医療に提言
 病気の悪化で死を免れなくなった患者に対する医療のあり方を検討していた、日本学術会議の「臨床医学委員会終末期医療分科会」(委員長=垣添忠生・国立がんセンター名誉総長)は2月15日、報告書を公表した。

 学術会議は1994年の「死と医療特別委員会報告」で「患者の意思が不明な時は、延命治療の中止は認めるべきではない」としていたが、今回、昨年5月に国が示した「終末期医療に関する指針」を追認するかたちで、家族による患者の意思の推定を認めた。

 報告書では、患者の意思が確認できないまま、家族から延命治療の中止を求められた際の対応について、詳しく記述。▽家族全員の意思が一致しているか▽中止を求める理由は何か――などを、様々な職種で構成する医療チームが繰り返し確認、記録すべきだとした。

 家族の求めを受け入れる判断は医療側に任せたが、「客観的な判断も望まれる」として、医療機関に、終末期医療に対応する制度や倫理委員会などの機関の常設を求めた。

読売新聞 2008年2月15日

終末期の難治性悪心・嘔吐の管理 病歴と診察による原因特定が重要
 ピッツバーグ大学のGordon J. Wood博士らは,終末期における難治性悪心・嘔吐管理の臨床研究に関するレビューを発表した。

 同博士らは,この基本となるのは詳細な病歴聴取と診察で,両者により症状の重症度を決定し,根底にある原因についての手がかりを引き出すことができると解説している。

 Wood博士らは「最も可能性の高い原因が特定されると,臨床医は悪心・嘔吐の原因となっている機序,特定の伝達物質,受容体を識別する。その後の薬剤治療は,関連する受容体に対して適切な拮抗薬を処方することが中心となる」と述べている。

 しかし,投与量が十分で,24時間予防的投与を行っている場合でも,症状の緩和が得られないことがある。そうした場合には,複数の嘔吐経路を抑制するために,いくつかの治療法を組み合わせた経験的で試験的な治療を行うべきである。

 また,経口投与が賢明でない場合には,坐剤,皮下注射,口腔内溶解錠などの代替投与経路を考慮すべきである。

 複数の研究で,念入りな病歴聴取や診察により,必要不可欠な情報が得られることが示されている。ホスピス患者61例を対象とした 研究では,これらの患者の75%で,悪心・嘔吐の原因を確実に突き止めることが可能であった。最も多い原因は,化学的異常(代謝,薬剤,感染,計33%),胃内容排出障害(44%),内臓や漿膜の問題(腸閉塞,胃出血,腸炎,便秘,計31%)であった。

 緩和ケアにおいて40の患者エピソードの悪心・嘔吐を検討した他の研究では,可逆性の原因が59件特定され,薬剤(51%)と便秘(19%)が最も多かった。

 同博士らは「患者が食欲不振を訴えている場合は,恒常的に低度の悪心を呈している可能性があるため,特に注意を払うべきである。また,終末期の全患者では便秘を取り除かなければならない」と述べている。

メディカルトリビューン 2008年2月21日

終末期医療ガイドラインを発表 質の改善を目指す
 米国内科医学会は,終末期における緩和医療に関する新たなガイドラインを作成した。

 この新しいガイドラインでは,重度の疾患を有する終末期患者に対して疼痛,呼吸困難,抑うつの有無を定期的に評価し,効果が証明されている治療を行い,すべての重度疾患患者について事前に終末期ケアの計画を立てることを求めている。

 米国内科医学会の医学教育・出版部門臨床プログラム・クオリティー・オブ・ケア部のAmir Qaseem博士は「米国人の多くは終末期に重度な疾患が発症し,家族がケアに当たる。終末期の症状を軽減・緩和する治療法について最良のエビデンスを収集して検討した結果,疼痛,呼吸困難,抑うつが最も多い症状であることがわかった。そのため,今回のガイドラインではこれらの症状を取り上げた」と述べている。

 ガイドラインは,疼痛,呼吸困難,抑うつに対して有効性が証明されている治療法を用いるよう推奨し,医師には終末期の重度疾患患者に対して定期的な評価を行うよう求めている。
 がん患者の疼痛は抗炎症薬,オピオイドとビスホスホネートで管理可能なことが証明されている。呼吸困難を有する終末期患者に対しては,通常の治療法で緩和されない場合はオピオイドで改善可能であり,低酸素血症の短期改善には酸素療法を行う。抑うつの患者には抗うつ薬と心理社会的介入による治療が可能である。

 終末期の疼痛,呼吸困難と抑うつに対する緩和医療の改善に向けた米国内科医学会の診療ガイドラインのおもな推奨事項は以下の通り。

 推奨事項1:重度疾患を有する終末期患者に対しては,医師は疼痛,呼吸困難と抑うつについて定期的な評価を行うこと。

 推奨事項2:重度疾患を有する終末期患者には,有効性が証明された治療法を用いて疼痛管理を行う。がん患者の疼痛管理には,非ステロイド抗炎症薬,オピオイドとビスホスホネートなどを用いる。

 推奨事項3:重度疾患を有する終末期患者には,有効性が証明された治療法を用いて呼吸困難の管理を行う。通常の治療法で呼吸困難が緩和されない場合にはオピオイド,低酸素血症の短期改善には酸素療法を行う。

 推奨事項4:重度疾患を有する終末期患者には,有効性が証明された治療法を用いて抑うつの管理を行う。がん患者の抑うつには三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,心理社会的介入などを行う。

 推奨事項5:医師は,すべての重度疾患患者について事前に終末期ケア計画(生前指示書の作成を含む)を立てておく。

メディカルトリビューン 2008年3月13日

プライマリケア医がホスピスケアを能動的に動かせる
 『American Family Physician』3月15日の総説で、ホスピス患者の紹介と治療におけるプライマリケア医の役割が述べられた。ホスピスケアは、緩和治療を望む末期疾患患者の誰にでも利用できるものでなければならない。

 「家庭医は、人生の終わりに近づいている患者のケアにおいてかけがえのない役割を果たすことができる」とアイオワ大学病院(アイオワシティ)のMichelle T. Weckmann博士が記述している。

 「継続してケアを行い、親・子・孫にわたって人間関係を持っていて、患者の価値観、家族の問題、コミュニケーションのスタイルなど他者には分からない知識をもった家庭医だからこそ、患者と家族をホスピス紹介のプロセスに導ける。プライマリケア医は診ている患者と親しい関係にあることが多いので、ホスピスケアを勧めるのが必要な時期がいつなのかを判断できるなど、終末期医療に対して独自の役割を担うことができる。」

 「ホスピスケアに関して説明を受けた患者の介護者と家族の大半の者が、患者が終末期と診断された時にプライマリケア医からホスピスについての情報をもっと聞きたかったと答えている」と、Weckmann博士は記している。

 「ホスピスは終末期にいる患者をよりよく支援し、優れたケアを提供する手段になりうること、そして、プライマリケア医が患者の死までケア全体の指揮をとり続けていると患者へのケアが強化されることが、研究で示されている……またホスピスは、薬剤投与、症状の管理、患者とその家族とのコミュニケーションの際には医師にとってかけがえのないリソースになる。」

 臨床にかかわる個々の推奨は以下の通りである。

 * 癌と癌以外の診断を受けている患者は、ホスピスサービスでベネフィットを得ることができ、予後が2カ月以上であればホスピスに紹介すべきである。もっとも有効なホスピス入所期間については議論が残されているが、ほとんどの試算が最短で2〜3カ月間である。極端に短い入所は、むしろ介護者の体調を崩し、うつにつながる。

 * できるだけ早い時期にホスピスケアについて患者および家族と話し合うべきであり、それもケア目標の選択肢を広げる観点からなされなければならない。遅すぎる紹介は、サービスに関する家族の満足度が低くなり、介護者の体調を崩す。調査によると、ホスピスへの紹介が遅すぎたと感じている家族が11%から18%いる。

 * NYHA分類クラスIVの心不全(安静時に自覚症状あり)で、至適薬物治療でも症状が緩解しない患者には、ホスピスへの紹介が適している。

 * 日常生活のすべての活動に介護が必要で、意思疎通がもはやできないような認知症患者には、ホスピスへの紹介が適している。

m3.com 2008年3月27日

モルヒネによるがん疼痛管理 緩和ケアにおける意義を明確に
 モルヒネなどのオピオイドはQOLを改善する鎮痛薬としてではなく,"末期患者のための癒し"や"最後の手段"としてのみ使用されると誤解されていることから,がん患者は必要以上に苦しんでいる。

 ブリストル大学緩和ケアのColette Reid上級講師らは、「患者の間でオピオイドは死を早めるという考えが広まっている」と述べ,「患者はオピオイドを処方されると死期が迫ったと感じるため,疼痛管理に大きな影響がある」としている。以前の研究では,がん患者の40〜70%はさまざまな理由により正しい投薬で疼痛を適切に管理されていないと推定されている。

 同講師は,モルヒネなどのオピオイド処方を最初に勧められたとき,患者がどう反応するかを調査したいと考え,55〜82歳の転移がん患者18例を対象にがんの疼痛管理に関する綿密な聞き取り調査を行った。

 患者は全例白人で,半数が女性であった。モルヒネに対する見解と経験は,相互に関連する 4 つのカテゴリーに分類された。つまり「死の予想」,「最後の手段としてのモルヒネ」,「専門家の役割」,「仕方なく始める」であった。

 多くの患者が"最後の手段"としてモルヒネを捉えていることが判明した。Reid講師らは「がん患者はオピオイドが"最後の手段"としてのみ利用される医療行為と捉えているため,疼痛緩和のためにモルヒネを勧められた場合,自分の死期が近いと考えてしまう」と解釈した。

 また,同講師らは「患者は死ぬ覚悟ができていないため,結果として痛みを経験するとしても,鎮痛薬としてモルヒネなどのオピオイドを拒否した。専門家の役割に対する患者の意見から,患者がオピオイドに対する専門家の信頼を評価していることがわかる。したがって,患者の一部は選択を迫られるとより大きな恐怖を感じるかもしれない。なぜなら,これは鎮痛薬としてのオピオイドを患者が信頼していないことを示しているからである」と述べている。

患者と臨床医の教育が必要

 Reid講師は「われわれの聞き取り調査から,患者はモルヒネに対する専門家のためらいを感じ取り,これが患者の不安を高めることが判明した。患者はまた,専門家が(誤解であるが)モルヒネを使うことで死期を早めることを心配しているとし,この不安を親族に話していた。オピオイドと疼痛管理について医学生の教育は改善されつつあるが,現在われわれが実施している別の研究によると,専門家への教育の必要性は明確であることが示されている。緩和ケアチームは専門家と患者の双方を教育することができるので,その役割は重要である」としている。

 腫瘍治療研究ロマーニャ科学研究所(伊)の緩和ケアユニット責任者であるMarco Maltoni博士は,「患者がオピオイド治療を開始するか否かを決断するときに検討する3大要素は,専門家の能力,正しいコミュニケーション,信頼関係である」と述べている。

 同博士は「緩和ケアの誕生した場所で実施された今回の研究は,オピオイドに対する大きな不安と緩和ケアの方針がまだ十分に定まっていないという気がかりな点を示している。これは,長年の健康教育が期待されていたような結果をもたらしていないことを示唆している。現在も多くの腫瘍学者ががんの末期になるまでオピオイドの使用を控える傾向があるという問題が残されている。疼痛管理と緩和ケアは終末期だけでなく,その前の段階のがんにも積極的な選択肢とすることが必要である」と結んでいる。

メディカルトリビューン 2008年4月3日

終末期患者の延命治療の差し控え・中止にどう対応するか
前田 正一 (東京大学大学院医療安全管理学准教授)

 終末期医療に関する公的指針がないなかで,医療現場が延命治療の差し控え・中止の問題に適切に対応するには,どのような知識が必要なのか。治療の差し控え・中止が許容される要件,踏襲すべき手続きについて,医療現場が事前に把握しておくことが重要だ。

 では,治療の中止は一切できないのかと言うと決してそうではない。現時点でも,治療の中止・差し控えはなされている。治療の中止などが許容されるためには,(1)治療中止が許容される基準(2)踏襲すべき手続き―の2点について,その内容を正確に把握し,慎重に判断するとともに,その結果を記録に残しておくことが重要になる。

 東海大学事件,川崎協同病院事件、いずれの事件においても,(1)患者が末期状態にあるか(2)治療行為の中止を希望する患者の意思があるかが問題となった。

 終末期医療の現場では,家族から早い時点で治療の中止を求められることもある。患者の意思が把握できない場合には,通常は家族のなかから代諾者を選出し,代諾者が同意した医療を実施する。ただし,延命治療の中止ができない場合でも,代諾者が治療の中止を希望することがある。この場合,医療機関は患者の最善の利益を判断して医療を進めることになる。

 チームで終末期医療の進め方を検討する場合,各医療従事者は積極的に発言すべきであり,そうでなければチーム医療が成立しない。また,患者本人の意思が不明で,家族が判断できない場合,医療チームや倫理委員会で判断して延命治療を中止できるとした。

 日本救急医学会は,昨年10月に救急医療において延命治療を中止する要件や手続きをガイドラインとして学会レベルで初めて示した。終末期について,(1)不可逆的な全脳機能不全(2)生命維持に必須な臓器の機能不全が不可逆的で,移植などの代替手段もない(3)有効な治療法がなく,数日以内に死亡が予測される(4)回復不能な疾病の末期であることが,積極的な治療開始後に判明―の4つに分けて定義した。ただ,朝日新聞社が行ったアンケートの結果では,救急救命センターの多くが指針の採用を見送っているという。

 指針の内容が正確に医療現場に伝わっていないと思われるため,指針の内容について学会による解説集などがあれば,正確な理解に基づく検討が進むのではないかと思われる。

メディカルトリビューン 2008年5月1日
市立豊中病院 来月にも「がん手帳」の運用開始 がん治療に関する「啓発」と「管理」を狙いに
 大阪府の市立豊中病院を中心とする「地域緩和医療ネットワーク協議会」は、来月にもがん患者の自己管理ツールとして「がん手帳」の運用を開始する。豊中市医師会、豊中市と協力してスタートさせるもので、がん予防、検診、治療を啓発する情報に加え、自身の治療内容や検査結果の整理、日記機能などを併せ持っているのが特徴。予防や検診、セカンドオピニオン、在宅療法など11項目を整理現在までに周辺3-4病院と、診療所約40施設、訪問看護ステーション約10施設が参加する。

 協議会が来月から運用する「がん手帳」は、市立豊中病院の緩和ケアチームが作成したオリジナルのもの。

 協議会は24日にも「がん手帳」の運用に向け、地域医師会や自治体を交えた会合を開く。現在、手帳(案)について患者や患者団体へのアンケート調査を実施中で、アンケート結果や医師会などの意見を取り入れながら、最終的ながん手帳の形式を決める。

 同病院緩和ケアチームの林昇甫氏は、がん手帳について「2人に1人ががんになる時代になった。がんになる前に知ってもらいたいことを整理したのも大きな特徴で、がん患者でない人にも使って欲しい」と話す。

m3.com 2008年5月19日
第6回日本臨床腫瘍学会学術集会ランチョンセミナー Medical Oncologistが知っておきたい緩和・支持療法
向山 雄人(癌研有明病院 緩和ケア科)

 従来,がんの化学療法を行う場合は入院が必須であったが,近年,副作用の少ない抗がん剤の開発により,外来での化学療法が可能となった。患者は自宅での生活を続けながら治療を行うことができるようになり,QOLの向上も期待されている。その一方で,外来で治療を担当する医師は疼痛管理の経験が少ないために,患者の痛みに対して十分な配慮が行きとどかないこともある。

がん緩和医療は抗腫瘍治療と並行して行うべきもの―早期からの緩和ケアの導入を―

 がん緩和医療・緩和ケアに関し,「緩和医療は終末期のみの医療である」といった誤解が患者のみならず医療者の側にもいまだに存在する。世界保健機関(WHO)によれば,緩和ケアは終末期だけではなく早い時期から抗腫瘍治療と並行して開始するものとされている。実際の臨床においても,早期からの適切な緩和ケアによって退院や化学療法の再開に結びつく場合や,逆に抗腫瘍治療の効果によって,例えば鎮痛薬の減量など,いわゆる苦痛に対する治療を軽減できる場合もあり,両者はボーダレスな関係にある。

 緩和ケアにおいて薬物療法は重要な位置を占めることから,『がん薬物療法専門医』にとっても,痛み,呼吸困難感,消化管閉塞などに適切に対処することが求められる。

 進行・再発期のがん患者に合併する消化管閉塞は,嘔気・嘔吐,腹部膨満感,腹痛などの消化器症状をきたし,患者のQOLを著しく低下させる。このような消化管閉塞に対し,薬物療法としては消化管分泌抑制作用を有する抗コリン薬(臭化ブチルスコポラミンなど)やステロイド,制吐作用のあるドパミン受容体拮抗薬(ハロペリドールなど)が用いられてきたが,近年,ソマトスタチンアナログ製剤であるオクトレオチドの有効性が数多く報告され,本邦では2004年に「進行・再発癌患者の緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状の改善」について保険適応が承認された。

 消化管閉塞の治療について,消化管閉塞と診断された場合には早い時期にオクトレオチドによる症状軽減を積極的に検討し,同時に手術適応を判断するのが望ましい。

―骨転移を有する場合には,ビスホスホネートや放射線治療を含む集学的治療が重要―

 乳癌,前立腺癌,肺癌などにおいて高頻度に認められる骨転移は,著しい骨痛や病的骨折,脊髄圧迫による神経症状を伴うとされる。

 最近,1年以上の予後が期待される症例に対して,高いQOLを維持しつつ可能な限りがんと共存するための戦略を指す「予防的がん緩和ケア(protective cancer palliative care)」が重要視されてきている。このような観点からも骨転移に対する集学的治療の必要性が高まっている。骨転移を有する患者に対しては,WHO方式がん疼痛治療法に加え,放射線治療やビスホスホネートの併用など,積極的な治療が求められている。

メディカルトリビューン 2008年5月22日
がんの倦怠感に精神刺激薬が有効
東札幌病院化学療法センター長 平山泰生

 がん患者の多くはその経過中に倦怠感を自覚する。その一部は特異的要因(うつ,不眠,感染症,電解質異常,抗精神病薬など)であるが,多くはいわゆる“癌性悪液質”による非特異的倦怠感と考えられており,臨床現場では対処に難渋するために有効な薬物療法が待ち望まれていた。

 昨年(2007年)筆者は,がんの倦怠感に有効性が証明されているのは精神的サポートプログラム,運動療法,エリスロポエチン製剤のみであり,その時点では精神刺激薬メチルフェニデート(商品名リタリン)の有効性は証明されていない,ことを報告した。

 メチルフェニデートはHIV患者の倦怠感を改善することから,がん患者のそれも改善するのではないかと期待されていた薬剤であるが,プラセボを対照とした単独の臨床試験では有用性が示されていなかった。

 今回,Mintonらはメタ解析の手法を用いて,単独の臨床試験では有効性が示されなかった2報告を合わせて解析した。これらの2報告では,有意差こそ得られなかったが,いずれもメチルフェニデート投与群で倦怠感の改善傾向があり,症例数が少ないことによる検出不足が推測されていた。

 がん患者の倦怠感において,メチルフェニデート投与群ではプラセボ群に対し,有意に良好な改善を示した。

 メチルフェニデートは,わが国ではがんの倦怠感に保険適用がなく,現在,一般病棟や外来での投与は困難であるが,十分な知識や経験を有する緩和ケア医に限り投与できるようなシステムが必要かもしれない。

 また,わが国で汎用されている副腎皮質ステロイドはQOL全般を軽度改善するが,今回の論文ではその副作用のために使用は制限されるべきである,と記載され,倦怠感をターゲットにした副腎皮質ステロイド投与の論文が少ないため,メタ解析の対象となっていない。

メディカルトリビューン 2008年6月4日
WHO方式が効かない激しい疼痛 モルヒネのボーラス投与も選択肢
 シャリテ病院(ベルリン)学際的疼痛センターのBarbara Schlisio,Andreas Kopfの両博士は,WHO方式の疼痛治療法が奏効せず,オピオイドを組み合わせても十分な成果を得られない患者への対処法について報告した。

 Schlisio博士らは,激痛のために救急外来に搬送された45歳の女性患者に対し,フェンタニル150μg/時,モルヒネ徐放剤90mg/日,novaminsulfone 1gの1日4回投与を実施したが,疼痛は疼痛スケールで安静時に8,負荷時には10(max)に達していた。

 そこで10分ごとにモルヒネ10mgをボーラス投与したところ,45分後の安静時疼痛は疼痛スケールで4まで緩和されたが,負荷時疼痛は変化せず10のままであった。そのため,患者は全く動けず,必要な褥瘡治療すらできない状態であった。モルヒネの影響で徐々に鎮静できたため,疼痛緩和療法が奏効しない原因はモルヒネ耐性の発現ではないことが判明した。

 また,随伴する精神疾患(うつ病)などの他の要因も認められなかった。同症例においては,疼痛が完全にはオピオイド感受性ではないことが原因と考えられた。

 さらに,MRI検査で仙骨脱臼骨折が判明し,負荷時の激痛の説明が付いた。このような場合には,全身性オピオイドの効果には限界があることが経験上知られている。

 そこで,モルヒネとブピバカインを脊髄硬膜外カテーテル経由で投与したところ,最悪の状況から脱することができた。患者の眠気はそれほどひどくなくなり,車いすに座ることも褥瘡治療をすることも可能になった。

モルヒネのボーラス投与
 モルヒネのボーラス投与は持続投与より効果が高い。疼痛の50%緩和効果が得られるのは持続投与では約7時間後であるのに対し,ボーラス投与では約60分後である。10分間隔で投与する際の必要量は,患者がそれまでに投与されていた薬剤の非経口モルヒネ相当量の合計から算出される。
 今回の症例では,フェンタニル150μg/時はモルヒネ150mg静注,モルヒネ徐放剤90mg経口はモルヒネ30mg静注に相当するため,合計は180mgである。ボーラス用量は基準薬剤の約10%とされることから,1回の投与量は同症例では10〜20mgということになり,それを10分間隔で投与する。

メディカルトリビューン 2008年6月12日
「胃瘻や人工呼吸器は希望しない」が9割超 国立長寿医療センターの「事前指示書」調査で明らかに
「自分が終末期を迎えても、胃瘻や人工呼吸器は着けないでほしい」そう考える患者が9割を超えていることが、国立長寿医療センターの調べで明らかになった。

 この調査は、国立長寿医療センター病院に外来通院中の患者が提出した「私の医療に対する希望(終末期になったとき)」という書類の内容を集計したもの。胃瘻や人工呼吸器は希望が少ない一方で、点滴については3割の患者が希望しており、処置の種類によって希望する患者の割合が異なることも分かった。

 同院では昨年5月から、終末期に患者本人の意思をできるだけ尊重したいとの考えから、元気なうちに希望者に上記の書類(いわゆる「終末期の事前指示書」)を記入させ、それを院内で保管するという試みを始めている。この「事前指示書」は、本人が終末期に意思疎通困難になったときに取り出し、その内容を参考にしながら、医療者と家族等の代理人とで治療方針を検討する考えるという仕組みだ。

希望する  希望しない
胃瘻による栄養補給 4.7%  93.8%
延命のための人工呼吸器 4.7%  93.8%
鼻チューブによる栄養補給 4.7%  93.8%
心臓マッサージなどの心肺蘇生 9.4%  89.1%
抗生物質の強力な使用 9.4%  90.6%
点滴による水分の補給 31.2%  65.6%

 終末期の疼痛緩和やセデーションについては、希望する患者が比較的多いが、希望しない患者もいた。具体的には、「できるだけ痛みを抑えてほしい」と回答した患者は70.3%で、そのうち「必要なら鎮静薬を使ってもよい」としたのは62.5%だったが、一方で18.8%の患者は「(鎮痛薬などを使わずに)自然なままでいたい」と回答していた。

 国立長寿医療センターの三浦久幸氏は、「疼痛緩和や延命処置に関する希望は、必ずしも『all or nothing』ではなく、どのような処置を希望するかは人によって大きく違っている。患者個々に細かな希望を聞くことができる体制を作ることがことが重要だ」と話している。

日経メディカル オンライン 2008年7月10日
がん患者のうつ病は,研修を受けたがん専門看護師による複合的な介入によって改善する
 がん患者が,抑うつや不安を持つことは一般的であるが,その一部はうつ病と診断されるレベルに達する場合も多い。しかし,がん患者のうつ病は,気付かれないまま見過ごされたり,治療されないまま経過することもしばしばである。

 一方,がん患者のうつ病治療についてのエビデンスは乏しく,有効な治療法についての研究はほとんどなされてこなかった。英国のStrongらは,がんセンターに通う患者を対象に,看護師が実施するうつ病への複合的な治療介入の効果を検証した。

 看護師による特別な介入によって,患者がうつ病であることを自覚し,対処技能を身に付け,医師とうつ病についてのコミュニケーションを図ることで,うつ病に対して適切な治療が施され,患者の抑うつ,不安,倦怠感の症状が軽減された。

 今回の研究では,通常治療においても担当医にうつ病であることが報告されており,その結果として,見過ごされていたうつ病に対する治療が開始された可能性がある。したがって,介入による効果は,実際の現場ではさらに高いかもしれない。

 本研究では,患者に対する特別な介入を,メンタルヘルスの専門家ではなく,がん専門看護師が実施している点は注目すべきである。がん診療にメンタルヘルスの専門家が常時かかわる環境を整備することは望ましいのかもしれないが,人的資源や医療経済的な観点からすると,実際にはそのためのハードルはかなり高い。

 むしろ,今回の研究で行われたように,がん診療に普段携わっているスタッフを訓練し,既存の医療資源を活用しながらうつ病治療の効果を複合的に高めていくことのほうが現実的であろう。こうしたモデルは,がん患者におけるうつ病治療のみならず,その他のあらゆる身体疾患に合併するうつ病治療にも適用できる可能性がある。

メディカルトリビューン 2008年7月10日
終末期の延命治療、病院3割が中止・不開始
 終末期医療の実態や課題について、読売新聞社が全国の病院を対象に実施した調査で、最近1年間に末期患者への人工呼吸器の装着などの延命治療の中止・差し控えをしたのは回答施設の31%に当たる117病院で、事例は少なくとも1902件に上った。

 これらの病院の40%が医師だけの判断が多いとし、昨年5月公表の国の終末期医療に関する指針が求める、複数職種による検討が確立していないことがわかった。国が進める医療費削減などのあおりで十分な医療ができず、終末期医療に問題があるとした病院は91%に達した。

 人工呼吸器や人工透析、栄養補給などの延命治療を中止したのは86病院、それらを行わない「不開始」は90病院が経験した。いずれかがあったのは117病院。件数を答えた施設だけで中止は計395件、不開始は計1507件あった。これらのうち、単独の医師による判断が多かったのは19病院(16%)、複数の医師は28病院(24%)だった。

読売新聞 2008年7月26日
苦悩する家族 「死」語り合う場を
 6月25日付のニュースUP欄で、脳梗塞で5月に88歳で亡くなった祖母をみとった体験を「幸せな死に方とは」というテーマで掲載したところ、40〜60代の女性から手紙や電話、メールなどで反響が寄せられた。

 東大阪市の主婦(65)の手紙には、101歳の母を急性肺炎で先月亡くした体験がつづられていた。今年1月に入院し、点滴、輸血、酸素マスクなどの措置を受け、マスクを取ってしまうからと、左手はベッドに縛り付けられた。女性の長兄(80)は延命措置に同意したが、女性は「老いた体にここまでしなければ?」と疑問を抱いたという。

 医師である私の父(71)は、主治医として祖母の延命措置をやめた。この女性のケースについて聞くと、「101歳の方に輸血や酸素マスクなどの治療は理解できない。病院はしっかり説明したのだろうか?」と疑問を示した。

 このほか、脳梗塞の夫(69)の延命を中断した女性(70)、意識の戻らない状態の母(69)を1年間、延命し続けた女性(60)――など、迷った末に決断した事例もあった。

 身内や自身の死は、誰しも直視したくない。まして家族で語り合うことは少ない。27歳の私自身、祖母が火葬場で骨になるのを目の当たりにして、はじめて死を実感した。

 死についてオープンに話し合える環境が、病院との意思疎通、ひいては終末期ケアの充実につながる。皆さんからの手紙などを読み、そう痛感した。

m3.com 2008年7月31日
癌患者の半数近くが十分な疼痛管理を受けていない可能性
 癌患者の半数近くが十分な疼痛管理を受けていないことを示す大規模文献レビューの結果が報告された。この研究では、疼痛を左右する重要な決定要因として、地理的地域、国家経済の低水準、癌治療/管理の非専門施設が挙げられている。

「癌患者にとって疼痛は重大な医療上の問題である。癌患者の疼痛管理に関するガイドラインがあるにもかかわらず、十分な治療が行われていないという問題が蔓延している」とMario Negri薬理学研究所(イタリア)のDr. S. Deandreaらは記している。「疼痛管理指標は、患者が報告する疼痛程度と鎮痛療法の強度との合致度を評価する尺度である。負のスコアは、鎮痛薬の処方が不十分であることを意味する」。

 レビュー担当の研究者らは「疼痛管理(pain management)」、「指標(index)」、「測定(measure)」という用語を用いてMEDLINE(医学情報サイト)を検索し、癌患者の不十分な疼痛管理について評価した研究を特定した。

「疼痛を伴う癌患者2例のうち1例近くが、十分な疼痛管理を受けていない」とレビュー担当の研究者らは記している。「この割合は高いが、研究および医療施設間で不十分な治療について大きなばらつきがみられる」。

「大規模患者サンプルを対象に鎮痛療法の質を評価する上で、疼痛管理指標は有用であると考えられる」と本研究の著者らは結論付けている。「疼痛の高い有病率を是正し、疼痛管理が無視されている状況下の障壁を取り除くため、指針を実行に移すにあたっては、今回の研究結果は重要な意味をもつ」。

m3.com 2008年7月31日
第49回日本神経学会 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の治療決定プロセスにおける倫理を探る

〜終末期医療のガイドライン〜人工呼吸器外しは危険


 仙台往診クリニックの川島孝一郎院長は,厚生労働省の終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会の委員を務めた経験から,昨年5月にまとめたガイドラインについて,「現在の法律では死ぬ権利は認められない」などの重要項目を解説,難治性疾患の終末期を考えるうえでの今後の課題を示した。

エビデンスを超えた議論を

 川島院長は「終末期医療の決定プロセスのあり方に関するガイドライン」について「検討はまだ始まったばかりで結論には達していない」との認識を示したうえで,(1)ものの見方には多様性があるので,終末期を限定することはできない(2)緩和医療ですべての痛みは鎮静を含めて緩和できるので,積極的安楽死は対象としない(3)人工呼吸器を外すことは崩壊行為に当たり危険である(4)死ぬ権利は権利として認められない―などを重要項目として提示した。

 同院長は,各重要項目について具体的な例を挙げて次のように解説した。

(1)人間の意思がいかに瞬間的に変わるかを例示。温かいまぶしい太陽を見ていても,目の前をカラスが横切れば,一瞬にして不吉な気持に変化する。また,植物状態にある人間をかわいそうだと思っても,本人にとっては生きているという「仕事」を100%行っている存在であり,脳死状態の人でも家族にしてみれば,存在しているだけで意味があるのかもしれない。人間は調和した全体のなかで生きている存在なので,終末期を限定することはできない。

(2)現在の日本では医師に知識があれば鎮静を含め,すべての痛みは完全に緩和できることを患者に伝えなければならない。患者が絶え難い肉体的苦痛を持つことはありえない。

(3)人工呼吸器は装着したとたん,全身に酸素を供給する特殊な存在となるので,それを外すことはその全体を崩壊させる行為に当たる。着けたものを外すという足し算引き算的考え方をすべきではない。

(4)日本の法律には生きる権利はあるが死ぬ権利はない。もし死ぬ権利を認めたら,死を希望していない人に対しても死ぬことが強制されたり,具体的な死の方法を決めなければならなくなるなどの危険性があるため,慎重に考えなければならない。

すべての治療を緩和ケアに QOL向上のためのケアを考える

 (独)国立病院機構新潟病院の中島孝副院長は「延命治療か死かという選択ではなく,すべての治療は全人的苦痛の緩和であるという緩和ケアフレームに変えていく必要がある」と述べ,今後神経学会として倫理の問題への議論を深めていく必要性を訴えた。

多専門職種がチームで

 中島副院長はまず,治療法が確立していない難病は,現代医療の科学モデルであるEBMやクリティカルパスのみを当てはめることが不可能で,医学教育や診療報酬体系のなかで十分に扱われていないことを指摘し,患者が「なおらない病気なら生きていくのはつらいし,意味がない」と考えたとき,本人や家族,医療者がどう対応したらよいのか,羅針盤がない状態では医療を続けられなくなる可能性があると問題提起した。

 そのうえで,同副院長は「無駄な延命治療か尊厳ある死か」という葛藤をやめる方法として,緩和ケアモデルの有用性を強調した。緩和ケア概念のなかでは,「死」を受容するのではなく,死に至る病気とともに生きることを肯定する。治療は身体的苦痛や障害,心理的苦痛,社会的苦痛や問題,霊的苦痛を含めた全人的な苦痛に対する緩和療法として位置付ける。つまり,治療のあきらめイコール死,あるいは治療からターミナルケアに180度切り替えて延命治療を行わないという考え方ではなく,診断時点から緩和ケアが始まるという考え方である。このモデルに従えば,必要な治療やケアは無駄な延命治療ではなくなり,不安が消え,苦痛が解消され,死に至る病気や難病とともに生きることを肯定できるようになる。

 特定疾患患者の生活の質の向上に関する研究班が2007年度にまとめた「ALSの包括的呼吸ケア指針」では,緩和ケアフレームへの変更を明確に示している。それによると,ALSの呼吸器ケアは呼吸器装着を延命治療と考えるのではなく,緩和療法と位置付け,呼吸理学療法,摂食嚥下サポート,理学療法,作業療法による日常生活動作(ADL)の調整,痛みのコントロール,スピーチセラピーによるコミュニケーションサポート,心理療法,ケースワークなど多専門職種ケアとしてチームで行っていく方針が示されている。

 そのうえで,同副院長は「自分に合った緩和ケアに関する自己決定はケアチームとの交流のなかで行われ,病態の変化,ケア内容,時間の変化によって内容は常に変化していくもの」という,QOL向上のための新しいインフォームド・コンセントの考え方を提示。「医療のなかの問題を倫理問題に替えるのではなく,ケアを深める議論をすべき」と述べ,本来の緩和ケア概念を正しく普及することに積極的に取り組んでいく姿勢を示した。

メディカルトリビューン 2008年8月7日
生命予後不良な新生児の「看取りの医療」 「命をいつくしむ医療」への発想転換を

船戸 正久  淀川キリスト教病院小児科部長

 最近,生命予後不良な新生児の治療方針を巡って,新生児医療に携わる病院の8割以上が治療の差し控えや中止を経験しているとの調査結果が報告されており,わが国でも「過剰な延命治療」を見直す動きが広がりつつある。淀川キリスト教病院では生命予後不良な状態に陥った児の治療指針として,1998年10月に「新生児の倫理的,医学的意思決定のガイドライン」を作成した。同ガイドラインは,それぞれの症例に対する医療チームの治療方針と,家族との話し合いの長年の蓄積から生まれ,同院倫理委員会の承認を得て作成された。

「やりすぎの医療」は非倫理的

 1986年の朝日新聞で「仮死のまま新生児2年半」という記事が掲載された。この児は,他院で重症仮死状態で出生後,新生児集中治療室(NICU)での治療のために東京国立小児病院に搬送された。しかし,治療のかいなく意識も呼吸も回復不能な状態が続いたまま人工呼吸器で2年半生かされており,今後の児の治療を巡り,両親「安らかに逝かせて」・病院「外せぬ人工呼吸器」の間で深刻な対立が続いた。この事件は,淀川キリスト教病院において生命予後不良な新生児の倫理的問題を考える直接の契機となった。

 船戸部長は「近年の医療技術の急速な発展は,従来救命不能であった重症患者に対しても医学的に介入し,時に完治できるようになった。一方,生命予後不良で回復不能な末期患者に対しても機械的な延命が可能な時代になってきた。特に1950年代から60年代にかけて急速に発展した人工呼吸器を代表とする生命維持装置の開発は,生命至上主義に基づく延命治療に大きな貢献をした。しかし,この事実は,同時に患者の『生と死』が今までのように自然な形で経過するものではなく,発達しすぎた医療技術によって操作できる人工的な過程に変わってしまったことを意味する」と指摘する。これは,新生児医療の分野も例外ではなくなっている。

倫理的許容範囲を示す

 船戸部長らは「より人間らしい医療とは?」という観点から,同院の小児医療に携わる職員63人にアンケートを行った。その結果をもとに,他の病院ではどのような考えかを知るため,大阪の新生児診療相互援助システム(NMCS)に属する30施設の職員427人にアンケートを行った。その結果,「もし自分の子供であったならどうしますか」という問に対しては,治療の中止が167人と最も多く,次いでわからないが119人,緩和的治療が108人,積極的治療が59人の順であった。

 東京女子医科大学母子総合医療センターの仁志田博司教授らは,医学的意思決定における具体的な治療行為の分類を行った。Class Aはあらゆる治療を積極的に行う,Class Bは手術,血液透析など大きな負担のかかる一定限度以上の治療を制限する,Class Cは現在行っている以上の治療は行わず,一般的養護に徹する,蘇生術は試行しない,Class Dは人工呼吸器を含めたこれまでのすべての治療を中止するという分類である。船戸部長らはClass Aを積極的医療,Class Bを制限的医療,Class Cを緩和的医療,Class Dを看取りの医療と定義し,NICUにおける具体的な倫理的,医学的意思決定に応用している。

意思決定後の対応に配慮,家族中心の緩和ケアが大切

 同ガイドライン導入後の変化について,船戸部長は「看取りの医療を導入したからといって,必ずしも死亡率は増えておらず,むしろ減少している。同時に最期のとき,児の最善の利益を医療チームと家族が率直に話し合うようになってClass A(積極的医療)の適応は徐々に減少し,Class C(緩和的医療)またはClass D(看取りの医療)が増えてきた。そして倫理的許容範囲のガイドライン作成(1998年)以後は,ほとんどがClass CまたはDで亡くなっている」とし,同時に「最後は家族,特に母親の胸で児が息を引き取る率が年々増えている。過剰と思われる蘇生医療は差し控えられ,ほぼ100%母親の胸で看取られている」と付け加える。

 では,もしClass CやDを適応した場合,その後の対応をどうするか。患児への配慮としては,最高の緩和ケア,痛み,不快,QOLなど,家族への配慮としては,死の受容に対する準備教育,面会時間や個室,快いスキンシップやケアへの参加などを挙げる。また,看取りへの配慮としては,できれば家族全員の立ち会い,最後は家族,特に母親の胸のなかでの看取り,家族の希望により信頼できる宗教家などの立ち会いを挙げ,「将来的には家庭での看取りということも課題となる」と同部長。死後への配慮としては,十分な悲しみの表出,死後処置への参加,記念撮影や形見の品,お別れ会などを挙げる。

胎児緩和ケアの研究も必要に

 一方,最近,胎児診断が大きくクローズアップされている。2004年に米国のLeuthner SRは,胎児診断後の新しい選択肢として,「胎児緩和ケア」の概念を紹介している。

 船戸部長は「今後胎児診断が飛躍的に進歩することが予想される。そうなると,胎児治療の可能性を探索すると同時に,Fetus as a patient,Fetus as a humanとして,その人権と尊厳を大切にする胎児緩和ケアの選択肢の研究も新たなテーマとなってくるだろう」と展望する。

メディカルトリビューン 2008年8月28日

がん性疼痛の神経ブロック療法―ガイドライン作成に望まれる方向性は
 第42回日本ペインクリニック学会などによる「福岡ペイン2008」が福岡市で開かれた。注目されたセッションの1つがシンポジウム「がん性疼痛治療のガイドライン作成に向けて」。神経ブロック療法を含むがん性疼痛治療で豊富な経験を持つ3人のシンポジストが,ガイドライン作成に向け,がん性疼痛管理の現状や課題を報告した。

緩和ケアの中心はがん性疼痛管理 ペインクリニシャンに期待

 兵庫医科大学病院ではペインクリニック部のなかに緩和ケアチームを設け,コンサルテーションだけでなく,介入的治療を積極的に行ってきた。活動状況が同大学疼痛制御科学の村川和重教授(ペインクリニック部長)から紹介された。同院では早くから,ペインクリニック部ががん性疼痛管理に取り組んできた。

 同教授は,終末期の緩和ケアでは最近,より専門的なケアが求められる傾向にあり,その中心となるがん性疼痛管理において,高いレベルの知識や技術を持つペインクリニシャンが緩和医療の担い手として期待されていることを指摘。そのために,がん性疼痛だけでなく,疼痛全般の系統的治療への取り組みが重要になるとの考えを示した。

ペインクリニシャンの関与 緩和ケアに多くのメリットが

 がん性疼痛管理の草分けの1人として知られる昭和大学病院緩和ケアセンターの樋口比登実センター長が、ペインクリニシャンが緩和ケアに携わることは多くのメリットがあると強調した。

 同センター長は,ペインクリニシャンが緩和ケアに携わることで,痛みの確実な評価,薬物療法と神経ブロック療法による的確な疼痛管理が可能になり,患者のQOL向上とともに,経済的負担の軽減も図れるとした。

 実際,ペインクリニシャンである同センター長が専従の形で就任した2001年以降,疼痛管理などの症状マネジメントの依頼が増加。2004年以降は2000年の約4倍に跳ね上がった(表)。全体の依頼件数は2002年の緩和ケア診療加算開始に伴ってさらに増加したが,モルヒネ製剤使用量は逆に著しく減少した。

神経ブロック療法の機会減少 ガイドライン通じ医療者の理解を

 佐賀大学麻酔・蘇生学の平川奈緒美准教授は,がん性疼痛の治療法として多くの利点を持つ神経ブロック療法の機会が減少する傾向にあるとし,ガイドラインを通じ,関連する医療者の理解を深めていく必要性を訴えた。
 同大学病院では2005年8月,麻酔科ペインクリニックとは独立した形の緩和ケア科が新設された。

 このような診療システムの変化に伴い,ペインクリニシャンはがん性疼痛患者とかかわる機会が減った。紹介患者の多くは終末期例で,既に神経ブロック療法の時期を逸している。このため,神経ブロック療法の施行件数も減少する傾向にあるという。同様の変化が他施設でも起きている。

 同准教授は「神経ブロック療法には,痛みに関与する神経のみの選択的ブロック,長時間の鎮痛,鎮痛薬使用量の減少,薬物の意識や精神活動への影響排除など,多くの意義がある」とし「ガイドラインを通じ,がん性疼痛にかかわる医療者の神経ブロック療法に対する理解を深め,よりよい治療を目指したい」と述べた。

メディカルトリビューン 2008年9月4日

終末期医療における患者・家族にとっての最善策を探る
 第13回日本緩和医療学会のシンポジウム「終末期医療における臨床倫理:こんな時どう考える?」
 当日は座長から呈示された仮想症例を巡り,終末期において輸液・鎮静をどうすべきかについて各分野の専門家が討議を繰り広げた。

【症例1】家族の意向が異なる場合,輸液をどうするか

 2年前に卵巣がんにて骨盤内臓全摘出術を行った50歳代女性。化学療法施行もがん性腹膜炎が進行し,3か月前からサブイレウスを繰り返し,保存的治療(一時的絶食・輸液)で改善してきたが,2週間前からは経口摂取を制限,輸液1,000mL/日でも回復せず,1週間前から腹水が悪化,意識混濁のため明確な意思表示ができなくなった(呼吸困難はなし)。医療者は,輸液継続による腹水・呼吸困難の悪化を懸念し,家族に輸液減量の相談をしたところ,娘・息子(継続希望)と夫(中止希望)の意見の一致が見られない。

必要十分な医学的情報の提供を

 池永昌之淀川キリスト教病院ホスピス長は,夫も子供も延命の希望と苦痛緩和のなかで葛藤しているのは同じ。1,000mL以上の輸液で腹水が悪化した前向き観察研究の結果から,同症例で最も推奨できない対応は「輸液の増量」だと指摘。逆に推奨すべき対応は,意識混濁中にある患者の意思を推定しつつ,家族間の希望を調整し,家族にできることを一緒に考えていきながら,患者状態を繰り返し評価して,輸液量や治療内容を検討していくことだとの考えを示した。

 二見典子(財)ライフ・プランニング・センターピースハウス病院・看護部長も,医療者として現状を把握し,病状の判断と見通しを説明することが大切だとし,ケアの際には,(1)家族メンバー各人の患者に対する思いを聴く(2)患者ならどうして欲しいと思うかを聴く(3)可能であれば家族も一緒にケアをする―ことが重要で,家族だからこそ知りえる患者の好みに合った環境に整備することやケアを通じて家族も体の様子を知ることも考慮すべきだとした。

患者・家族の理解や意向を聞き取る姿勢が大切

 明智龍男名古屋市立大学大学院准教授 は,同症例について「輸液の減量が生命予後に悪影響を及ぼすのではないかなど,お子さんの病状認識に誤解がある可能性がある。医療側から患者側に伝える情報にしても,輸液を従来の量で継続したら生命を長く保てるのか,腹水・呼吸困難が悪化する恐れはどうなのか,減量・中止したらどうなのかを,すべて患者・家族にわかるように日常レベルの言葉で整理して伝え,患者・家族の理解や意向を聞き取ることが重要になる」と述べた。

【症例2】精神的苦痛に対する鎮静をどうするか

 2年前に腎がんで腎摘出術を行った50歳代男性。3か月前に胸椎転移と診断された。1か月前から自宅での介護が困難となり,緩和ケア病棟に入院。患者は「生きる価値と思っていた仕事もできず,家族に負担もかけている。やり残したことはなく,安楽死させて欲しい。無理ならずっと眠らせて欲しい」と要求する。

力付け,支え,勇気付けるケア

 池永ホスピス長は,苦痛緩和は意識水準や身体機能に与える影響が最も少ない方法を優先すべきであり,一般的には間欠的鎮痛や浅い鎮痛を優先し,十分な効果が得られない場合に持続的・深い鎮痛を考慮するという姿勢を示した。

 実際,同症例のような"心理社会的な苦痛"に対するわが国の鎮静の現状を,緩和ケア病棟医に調査した結果によると,持続的な深い鎮痛を行った患者で,心理社会的苦痛が鎮静の理由となった者は1%にすぎない。持続的鎮痛は大部分が生命予後1週間未満の患者に対して行われている。

 二見看護部長は,呈示された範囲では家族の意向が不明だが,「患者・家族の病に伴う喪失のプロセスと悲嘆を知り,患者と家族の関係性やそれぞれが患者を大切にしたいと思っていることを考慮すべき。もちろん,麻痺に伴う不快感や合併症に対するリスクを最小限にするケアも重要」との見解を示した。

うつ病も想定すべき

 明智准教授は,「ずっと眠らせて欲しい」という訴えが意味することを患者自身とともに検討すべきだと指摘。「本当は助けを求めているのかもしれないし,患者が認識している医学的状況は正確でないかもしれない。家族が重荷に感じているのは思い過ごしの可能性も強いし,遺言や葬儀の準備のことを指摘したらすませておくべきことに気付くかもしれない」と言う。

 同症例の場合,持続的な鎮静を行ったとき(苦痛からは解放されるが,一方まだ十分可能と思われる人間としての生活ができなくなる),間欠的鎮静を試したとき(しばしの間苦痛から解放され,覚醒時に再び尊い気持になる可能性もある。半面,しばしの間でも意識のある時期を放棄することになる),精神的苦痛に対する通常ケアを強化したとき(人間的生活を続けながら最期のときを過ごせるが,効果が出なかった場合,つらい生活を送ることになる)のさまざまなメリット・デメリットを検討するところから始め,患者本人および明らかにされていない家族の理解と意向を確認する必要がある。

メディカルトリビューン 2008年9月18日

がん長期生存者の管理は不十分 適切な支持療法モデルの開発を
 現在,がんとともに生きる人は世界中で約2,500万人と推定され,新たにがんと診断される成人の60%以上は5年以上の生存が期待できるとされる。しかし,長期生存者の多くは,がんのさまざまな症状や治療とともに生きるうえで必要な管理が適切に行われていないのが現状である。

 エディンバラ大学(英)緩和医療部門のMarie Fallon教授らは,「がん長期生存者のための特別な支持療法モデルの開発が必要だ」と訴えている。

 Fallon教授は,「がん長期生存者の多くは,緊急に対処されるべき要求が満たされず,治癒と非治癒の狭間で置き去りにされたまま生きている」と述べている。

 同教授は「これまで緩和ケアで目指してきたことは,症状スペクトルの最期にある,すなわち死期が迫っている患者を援助することであった。しかし,がん長期生存者の数は増加しており,その多くはさまざまな症状を抱えながら生きているのが実状だ。自分の疾患は治癒するのか,自分が体験している症状は治療に由来するものなのか,あるいはいまだ診断されないがんの再発に関係があるのか,わからない患者もいるだろう」と指摘している。

 さらに,同教授は「生存者はがん専門医による治療が終わった後,終末期患者が受けるようなケアや支援を受けていない。しかし,がんとその治療が生存者の長期の健康に及ぼす影響は重大である。ほとんどのケースで多くの症状が残り,QOLは低い。また,不幸にもがんの再発を診断される患者もいる」と述べている。

 同教授は「がん患者のための特別な支持療法モデルを開発することが必要だ。そして,従来の緩和ケアの専門知識がこのモデルにインプットされることが望ましい。生命と疾患は1つの連続体で,患者が必ずしも枠組みの明確なモデルにおさまるとは限らない。専門医としてのわれわれの課題は,この連続体を区分けすることではなく,その全体を受け入れ対応することだ」と指摘している。

メディカルトリビューン 2008年9月18日

がん告知、「治る見込みがあってもなくても、知りたい」は72.1%
 財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団はこのほど、全国の男女1000名を対象に行った「余命が限られた場合、どのような医療を受け、どのような最期を過ごしたいか」など、ホスピス・緩和ケアに対する人々の意識をアンケート調査した結果を公開する予定だ。

 この資料は、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が(株)第一生命経済研究所に委託して調査した結果のレポートの要約。

 調査結果から、がん告知の希望については、「治る見込みがあってもなくても、知りたい」人は72.1%であり、30代、40代で高い傾向であることが明らかになった。

 また、余命が1-2ヶ月に限られたら、「自宅で過ごしたい」人は8割だが、それが「実現可能だと思う」人は、男女で17ポイントの大きな差がある、と報告している。

厚生政策情報センター 2008年9月26日

これからの緩和ケア スピリチュアルケア,家族ケアの重要性を強調
 "喪失と回復―QOLの視点から"をテーマに掲げ,神戸市で開かれた第10回QOL研究会夏期セミナーの特別講演「これからの緩和医療」では,金城学院の柏木哲夫学院長が,緩和ケアを巡る最近の話題について講演し,これからの緩和ケアは対象疾患が拡大し,対症的な側面から予防的側面も含めるようになるほか,スピリチュアルケアや家族ケアがますます重要になることを強調した。

難しいスピリチュアルケア

 柏木学院長は「スピリチュアルケアも家族ケアも簡単に行えるものではない」と訴えた。スピリチュアルペインとは,死を自覚しなければならないような病状になったり,他の人に世話にならなければ生きていけなくなったりしたときに,自分の存在意味や価値への"問"を持つことで生じる苦悩を意味する。例えば,こんなになって生きていてもしょうがない,私だけがなぜこんなに苦しまなければならないのか,どうせ死ぬのだから頑張っても仕方ない,こんな私をだれも受け入れてくれないなどという"問"である。こうした"問"への対応がスピリチュアルケアであるが,多くが安易な励まし,間違った助言により患者のスピリチュアルペインを強くしている。

 また,家族ケアの3大要素は予期悲嘆のケア,死の受容への援助,死別後の悲嘆のケアであるが,ここでもスピリチュアルケアで見られる同様の過ちが繰り返されている。事実,約4割の遺族が死別後のつらかったこととして「周囲に自分の気持を理解してもらえなかった」,「周囲から思いやりのない言葉をかけられた」ことを挙げている。同学院長は「思いやりがないと言っても,悪意からではなく,善意からのもの。ここに悲嘆ケアの難しさの要因がある」と指摘する。善意による行為は正しようがないからである。

理解的態度と受け身の踏み込みが鍵

 では,どうすればよいのか。柏木学院長は「理解的態度と受け身の踏み込みにそのポイントがあるように思う」と述べる。
 理解的態度とは「あなたが言いたいことを私はこのように理解しましたが,これでよろしいですか」と,患者の言葉を自分の言葉に言い換えて患者に返していくこと。このような態度に受け身の踏み込みを加え,患者のリードで会話を継続させ,患者に前述した"問"(弱音)をすべて吐き出してもらえばよい。
 家族に対する予期悲嘆のケアや死の受容への援助も同様である。この場合は,患者の目の前で行えないため,場所や時間も提供して,悲しみをとことん表現してもらう。そうすることにより,死別後の悲嘆からの回復プロセスがスムーズにいき,また死別後の悲嘆ケアには,遺族同士の支え合い(自助グループ)が有効なことが多い。

 同学院長は「これからの緩和ケアでは,スピリチュアルな痛み,家族の痛みにも積極的にかかわっていく必要がある」と結んだ。

メディカルトリビューン 2008年10月2日
呼吸器外しの意思尊重を 倫理委が異例の提言 ALS男性の要望受け 千葉、病院長は難色
 千葉県鴨川市の亀田総合病院の倫理委員会がことし4月、全身の筋肉が動かなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性患者が提出した「病状が進行して意思疎通ができなくなった時は人工呼吸器を外してほしい」という要望書について、意思を尊重するよう病院長に提言していたことが10月6日、分かった。

 ALS患者のこうした要望について病院の倫理委が判断したのは異例という。

 同病院の亀田信介院長は「現行法では呼吸器を外せば(殺人容疑などで)逮捕される恐れがあり、難しい。社会的な議論が必要」として、呼吸器外しには難色を示している。難病患者を支援する関係者らも「自分の意思で外すことを認めれば、患者が周囲に気兼ねして死を選んでしまう恐れがある」と懸念している。

 患者は同県内に住む68歳の男性で、49歳でALSを発症。1992年に呼吸困難に陥り、同病院で呼吸器を付けた。現在はかすかに動くほおにスイッチを付けてパソコンを操り、執筆活動などをしている。

 院長の諮問を受けた倫理委は今年3月まで3回にわたって議論。委員長の田中美千裕脳神経外科部長によると、慎重意見もあったが、最終的には14人の委員全員が「前向きに生きる本人と家族が十分考えた上で望んでおり、意思に沿う形で動いてはどうか」との意見でまとまり、4月に院長に口頭で伝え、留意点を書面にまとめた。

 書面は「意向は真摯に受け止めた」とした上で、(1)本人の意向や周囲の状況は変化する可能性があり、継続的に把握する(2)意思疎通ができなくなった時にも本人の意向を確認する必要があり、可能性を模索する-ことなどを提案。「倫理委もこれからも共に考え続ける」としている。

m3.com 2008年10月7日

「最期はホスピス」過半数が希望 男女1,000人アンケート
 わが国では終末期のQOL向上へ,ホスピスや緩和ケアの対策が課題となっている。(財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が全国の男女約1,000人に実施したアンケートでは,最期の療養生活で必要に応じホスピス・緩和ケア病棟に入りたいと答えた人が過半数にのぼり,終末期医療施設への関心が高いことがわかった。一方,自宅での最期を望むものの「実現は難しい」とする人も6割おり,制度や費用,家族の問題を心配して在宅医療をあきらめている実態が明らかになった。

8割が「自宅での最期」を願う

 アンケートは,同財団が今年2月12日から2週間かけて、第一生命経済研究所生活調査モニターから抽出した20〜89歳の男女1,010人に対して郵送で実施。有効回答率は97.2%(982人)であった。

 がん告知は72.1%がなおる見込みの有無にかかわらず希望すると答えた。年齢層別では30歳代が80.2%,40歳代が73.9%と,6割台だった他の年齢層を上回った。余命1〜2か月の場合に「実現するかどうかは別にして自宅で過ごしたい」は80.1%にのぼった。しかし内訳を見ると,実現可能と考える人は18.6%にすぎず,特に女性は10.3%と男性の3分の1程度であった。

家族と在宅医が不可欠

 自宅で最期を過ごすための条件として66.5%が「介護してくれる家族がいること」を挙げた。これと「急変時の医療体制があること」(46.7%),「家族に負担があまりかからないこと」(43.5%)が上位を占めた。「往診してくれる医師がいること」も42.8%と4割を超え,同財団は「介護する家族の負担軽減と在宅医療体制の整備が今後の重要課題」と分析した。また,前回調査(2005年)に比べ「往診してくれる医師がいること」が5.5ポイント,「家族の理解があること」が32.3%から5.3ポイントと,それぞれ5ポイント以上増えたことから,同財団は「自宅で最期を過ごすためには家族と在宅医の存在が不可欠」との見方を示した。

 死に直面したときの心の支えは1位が配偶者(77.4%),2位が子供(71.4%)で,それぞれ3割以下だった友人や医師,同じ病気を持つ仲間などとの差が際立った。残された時間の過ごし方も「家族と過ごす時間を増やしたい」が61.5%で最多であった。ちなみに「ぽっくり」と「ゆっくり」のどちらが理想の死に方かという問には,73.9%が「ぽっくり」を選んだ。その理由で最も多かったのは「家族に迷惑をかけたくないから」(79.3%)で,家族と過ごしたいと思うものの,迷惑はかけたくないと考えていることが背景にあると見られる。「ゆっくり」派の最多理由は「死の心づもりをしたいから」(80.9%)で,「少しでも長生きしたい」(30.3%)を大きく引き離し,死を見つめる時間を望む声が圧倒した。

メディカルトリビューン 2008年10月16日
オーストラリア、子どもホスピスを訪ねて
 「死生学」を専門とするアルフォンス・デーケン上智大名誉教授が9月上旬、医療関係者らの研修としてオーストラリアのホスピスを訪れ、日本にはない子ども専門のホスピス2施設も視察した。同行取材から、子どもの終末期医療についてオーストラリアの現状を報告する。

 子どもホスピスは英国が起源で、82年にオックスフォードに「ヘレン・ダグラス・ハウス」ができたのが始まり。英国には50施設以上あるとされ、オーストラリアには3施設ある。視察したのは、最大の都市シドニーにある「ベア・コテージ」と、メルボルンにある国内最古の「ベリー・スペシャル・キッズ」。

 子どもホスピスの対象は、がんに限らず、回復を見込めないさまざまな病気の子どもたち。付きっ切りで介護する家族も支える。最期を迎える場として利用するケースはむしろ少なく、入院先を離れて地域に帰り、家庭で最期を迎えるための手助けをするのも大切な役割だ。施設の名称や看板に「ホスピス」の文字はなく、暗さや苦しさを連想させる言葉は使わない。

 その1つ、シドニー北部の海水浴場に近い丘の上にある「ベア・コテージ」は、シドニーの民間子ども病院が01年に開設した。施設名には「キャンプ場のコテージのような感覚で楽しんでほしい」との願いが込められ、入り口では愛くるしい大小のクマのぬいぐるみが出迎える。施設で暮らす犬「スクーター」もスタッフの一員という。

 生後すぐから18歳までの子どもが滞在し、今年8月までに347人を受け入れた。神経の難病や神経筋疾患が全体の4割超で、小児がんや脳性まひなどの先天性障害が続く。ここで最期を迎えた子どもは一部で、家族で短期宿泊する「レスパイト」や、子どもと死別した家族が対象の「悲嘆ケア」もある。

 終末期の滞在期間に制限はないが、レスパイトなどに使う場合は最長8日間。介護する親の精神的・肉体的負担の軽減と、家族で過ごす限られた時間を大切にするため、家事はすべて職員やボランティアが代行し、24時間手当てや精神ケアが受けられる。子どもに対しては、遊びを通して病気や障害から気持ちが解放されるよう取り組む。同じ病気を持つ子どもを集め、ボランティアがキャンプに連れていくこともある。

 第2の家庭として利用してもらうのが理念で、宿泊料や食事代など費用はすべて無料。建設費約10億円と年間約1億7000万円の運営資金のほとんどは地域住民らの寄付で賄われ、不足分は子ども病院が補てんする。

 施設には、子どもの個室10部屋と、家族も寝泊まりできる2部屋がある。部屋では医療行為はせず、処置室を使う。共用スペースにはテレビやDVDを楽しむ視聴覚室、おもちゃの倉庫のほか、温水が循環する小型プールのある「スパルーム」がある。

 スパルームには水のせせらぎが響き、「ハイドロセラピー」と呼ばれる癒やしに利用される。外出が難しい車いすの子どもには、気分転換の効果があるという。

 別棟の「クワイエット・ルーム」にはプライバシーを保つため防音設備があり、親が思い切り怒りや悲しみをぶつけ、大声で泣くことができる。子どもが親と離れて1人で遊ぶ時間に使うこともできる。「悲嘆ケア」にも必要という。

 シドニー郊外に住むヘレン・カニングハムさんは5年前から、寝たきりの娘ナタリーさん(8)と年4回ほど利用している。「食事や薬をあげることからおむつ交換まで、素晴らしい介護を受けている。バルコニーで夜空を眺める時間を持てることで心が安らぐ。もし子どもをみとるなら病院ではなく、ここがいい。安らかな気持ちになれるでしょう」と話した。

m3.com 2008年10月20日
在宅緩和ケアの充実へ人材育成が課題
 昨年施行されたがん対策基本法で在宅緩和ケア体制を整備する方針が示され,入院・外来診療から在宅療養に移行する末期がん患者が増加しているが,受け皿が十分でない地域では医療現場の混乱も生じている。千葉県で開かれた第19回日本在宅医療学会のパネルディスカッション「在宅終末期医療」では,在宅緩和ケアで患者の自己決定をどのように支援していくのかが話し合われた。

在宅緩和ケアのあるべき姿 自律支援が苦痛緩和につながる

 コーディネーターを務めた大岩院長は,がんの在宅終末期ケア(以下,在宅緩和ケア)における自律支援の重要性について述べた。そのなかで,住み慣れた家で1日の大半を患者と家族だけで穏やかに過ごすためには,患者自らがケアチームから適切な情報提供を受け,自己決定できることが大切と強調。このことは疼痛などの苦痛緩和にも効果があり,結果としてモルヒネ使用量の安定化につながるという。

訪問看護師不足 在宅緩和ケアの質の確保が課題

 横浜市港北医療センター訪問看護ステーションの乙坂佳代氏は,都市部を中心に急速な高齢化が進むなかで,在宅緩和ケアを支える訪問看護のマンパワー不足が深刻化する懸念を述べた。2006年度に7対1の看護師配置基準を満たす医療機関の診療報酬加算が導入され病院の看護師採用が増えた影響で,訪問看護師の不足が強まった感があるという。
 今後,関東の都市部では急速な高齢化が進行し,2004年と比較した2015年の高齢者人口は東京都で約4割,埼玉,神奈川,千葉の3県ではそれぞれ6?8割増加すると予測されている。一方,全国の訪問看護ステーションの総数は約5,470か所と2000年ころからほぼ横ばいで,今後急増が見込まれる介護施設や在宅での緩和ケアのニーズに対応できるか不安な状況にある。

事前指示書作成を通して患者とのコミュニケーション促進

 東京大学大学院医療倫理学分野の箕岡真子氏は,患者の自己決定の権利を尊重し,医療関係者と患者・家族とのコミュニケーションを促進させるツールとして事前指示書を作成する意義について述べた。同氏は,米国で100万人以上が利用している"Five Wishes"を参考にした事前指示書"私の4つのお願い"を提唱しており,医療機関などでの書式の改変・使用を許可している(ホームページのアドレスは,http://www1.ocn.ne.jp/~mbt/)。

メディカルトリビューン 2008年10月23、30日
2008年度ライフ・プランニング・センター国際フォーラム「終末期医療・介護の倫理問題にどう取り組むか」 終末期医療・緩和ケアでは倫理的配慮が重要
 高齢人口がますます増えるなか,終末期医療や緩和ケアの倫理問題も重要な課題となってきている。東京都で開かれた2008年度ライフ・プランニング・センター国際フォーラム「終末期医療・介護の倫理問題にどう取り組むか 看護・介護・高齢者医療におけるQOLの確立」では,米国と日本で終末期医療や緩和ケアに長年携わっている医師および看護師らは,患者だけでなく患者の家族とのかかわり,治療とともにコミュニケーションや倫理的な配慮が必要であることが強調された。

終末期医療は患者中心に
 ベスイスラエルディーコネス医療センター(ボストン)緩和ケア看護師のJulie Knopp氏は,同センターで行っている終末期医療,緩和ケアについて解説し,終末期医療は常に患者中心で,死は敵でないと結論した。

患者と家族もケアの一員
 緩和ケアとは,(1)痛み,症状のコントロール,最善の機能改善に重点を置いた活動的,全人的な治療であり(2)医療チームと患者,その患者間の生きたコミュニケーションを含んだケアの目標について話し合うもので(3)患者とその家族もケアの一員として扱い(4)ケアがどこで行われるかも考慮(5)患者の死後の周りのケアも含むとした。

 また患者のケアの目標は,(1)何を目指すか(2)焦点が合っているか(3)全人的かが重要である。ケアに関するディスカッションは,(1)機能的な変更(2)精神面の変化(3)新しい診断(4)急性期病院への入院?などの可能性もあるため必要である。それは,(1)プライマリケアオフィス(2)急性期病院(3)リハビリテーションや長期ケアなどの介護施設などで行い,書類に残しておく。

 医療従事者は,(1)予後(2)疾患の経過(3)評価の指標(4)意思決定の代理,リビングウィル,ケアのゴールに関する話し合いなどを通して患者・家族の意思決定過程で手助けができる。

「心にかける」が終末期医療の源
 大阪大学大学院緩和医療学の恒藤暁教授は,これまで20年間ホスピス緩和ケアに携わってきた経験から,わが国の終末期医療の問題点について講演。「心にかける(care)」ことが終末期医療の源であると述べた。

 ケアに適応と限界はない  まず,恒藤教授は「心にかける(care)ことは,適応と限界のないもので緩和ケアの本質なのではないか」と述べた。

 現代社会の価値観として,富,若さ,健康の3つが重視されている。その一方で,貧困者,高齢者,病人が差別されている。今後は,これらの価値観について考えていく必要があると疑問を投げかけた。また死がタブー視されているが,命には限りがあり,よりよく生きるためには,死を意識して生きていくことが重要だ,と同教授は指摘した。

 現在の終末期医療は治療が中心であり,治療できない場合は症状緩和やケアが不十分になり,精神的支援が不足するため,患者は孤独と不安のなかで最期を過ごすことが少なくない。そこで,治療とケアの適正な配分が求められている。

 また,現代医療では診断や治療による治癒が優先され,症状緩和は積極的に行われず,教育や研修も十分に行われていない。入院せずに症状緩和が可能になれば,外来通院や自宅療養が可能になる。しかし,終末期の1?2か月に複数の症状が出現すると,入院を余儀なくされることになる。そこで,医療チームは患者・家族と話し合い,納得のうえで適切な症状の緩和を行っていく必要がある。

メディカルトリビューン 2008年11月6日
第13回日本緩和医療学会 症状緩和のための最新の技とその活用法を探る
 がんに伴う心身の苦痛に対する緩和医療の立ち遅れが指摘されている。静岡市で開かれた第13回日本緩和医療学会のワークショップ1「集学的オンコロジー:症状緩和における最新の技」では,緩和医療スタッフとして知っておきたい"最新の技"の概略が紹介された。

感染症対策 まず何が起こっているかを明らかにする努力を
 緩和医療を受ける患者に起こる感染症は悪性疾患などに合併するものが多く,市中感染とは様相が異なる。静岡県立静岡がんセンター感染症科の大曲貴夫部長は,緩和医療における感染症のうち特に対処に注意を要するものとしてカテーテル関連血流感染症,単純ヘルペスによる粘膜・皮膚感染症,C. difficile関連腸炎などを挙げ,その具体的な対処法を解説した。また同部長は,緩和医療における感染症にうまく対処するための方法としては,「まず,何が起こっているかを明らかにする努力が求められる」と述べた。

適切な診断と治療で症状が改善する症例は多い

 緩和医療の現場では,患者が突然,原因不明の発熱を起こすことが少なくない。大曲部長は「その原因として見落とされがちなものにカテーテル関連血流感染症がある」と言う。これはカテーテルの留置部位が中心静脈か末梢かにかかわらず発症する。発熱,悪寒戦慄だけで局所所見に乏しいことも多いが,逆に言えば,局所所見に乏しい発熱ではカテーテル感染症を疑うべきだと言える。おもな原因微生物としてはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などのグラム陽性菌,緑膿菌などのグラム陰性菌が挙げられる。診断は血液培養により確定する。治療はカテーテルの抜去が第一で,抗菌薬としてはバンコマイシンにセフェム系薬などを併用する。

 緩和医療の現場で発生する単純ヘルペス感染症には,免疫抑制やストレスの影響などから,きわめて重篤なものが多い。したがって緩和医療に従事する医師は,日ごろからこのことに留意し,そうした重篤なケースに遭遇しても沈着に対処することが求められる。

 緩和医療における院内発症の下痢の最大の原因はC. difficile腸炎である。診断はC. difficileトキシン検査によるが,これが陰性でもC. difficile腸炎を否定できない確率は高い。したがって,C. difficile腸炎を想定した診断的治療が容認されている。治療にはメトロニダゾールやバンコマイシンの内服が推奨される。

 同部長らは,これまでに緩和医療の現場から感染症科に寄せられたコンサルテーションの理由を分析し,緩和医療における感染症診療で何が問題となっているかを検討し,その成績について紹介した。

 それによると,合計105件のコンサルテーションのうち抗菌薬未使用例は53件,抗菌薬使用例は52件であった。抗菌薬未使用例のうち36件は「感染症かどうかわからない」というもので,17件は「適切な治療がわからない」というもの。抗菌薬使用例のうち43件は「治療したが改善しない」というもので,9件は「治療中に新たな問題が発生した」というものであった。つまり,コンサルテーションのうちのかなりの部分が,「何が起こっているのかわからない」という理由で占められていることになる。

 ちなみに,感染症科へのコンサルタント後の105件の症状の変化を見ると,64%に改善が認められた。すなわち,感染症と診断が付き,適切な治療を行えば,多くの症例で症状が改善することが示された。

 以上の成績を総括して,同部長は「緩和医療における感染症にうまく対処するためには,問題の臓器・微生物を同定する,あらかじめ傾向を知っておくなど感染症診療の基本ともいうべき努力がさらに求められる」と述べた。また,同部長は,感染症予防には院内感染対策も重要であると付け加えた。

メディカルトリビューン 2008年11月6日
マッサージが進行癌患者の疼痛を緩和し、気分を改善する可能性
 マッサージが進行癌患者の疼痛と気分を即時的に改善する可能性を示す、多施設共同ランダム化試験の結果が報告された。

「様々な質の小規模試験において、マッサージ療法が疼痛や他の症状を緩和する可能性が示唆されている」とコロラド大学デンバー校医学部のJean S. Kutner博士らは記している。

「進行癌に伴う疼痛は、身体的・精神的苦痛の原因となり、患者の機能的能力とQOLを低下させる。マッサージは、セラピストによる介入(存在感、コミュニケーション、治療効果を得たいという欲求)、リラクゼーション反応の誘発、血液・リンパ循環の亢進、鎮痛作用の増強、炎症と浮腫の低減、人の手による筋けいれんの解放、内因性エンドルフィンの放出増加、疼痛シグナルを無効にする競合的な感覚刺激を通じ、苦痛のサイクルを遮断する可能性がある」。

 本研究の目的は、マッサージが進行癌患者の疼痛と苦痛症状を低減し、QOLを改善する効果について評価することであった。

「マッサージは、進行癌患者の疼痛と気分を即時的に改善する可能性がある」と本研究の著者らは記している。「持続的な効果がないことと、両群で改善がみられたことから、患者への気配りと簡単な身体への接触という手法が、本患者集団に有用である可能性も検討すべきである」。

m3.com 2008年11月6日
終末期についての話し合いによって末期患者の積極的治療が減少する可能性あり
 前向き長期多施設共同コホート研究の結果によると、終末期について臨床医と話し合うと、末期患者のストレスが軽減し積極的治療が減少するという。

「終末期についての話し合いは、患者が死が近づいた時に受けたい医療に関する目標と期待を明確にする機会となる」と、Dana-Farber癌研究所(ボストン)のAlexi A. Wright博士らは論文で述べている。「しかしこれらの話し合いは、医学的治療の限界と、生命が限られているという現実に直面することも意味しており、これらは両方とも心理的ストレスを引き起こす可能性がある。

 終末期についての話し合いによって患者の転帰が改善するというエビデンスがない状態では、医師らは患者の自律性を尊重したいという願望を、心理的な害を及ぼすという懸念と比較検討しなければならない」。

 本研究の目的は、終末期についての臨床医との話し合いが、積極的治療がより少ないことと関連したかどうかを評価することであった。2002年9月から2008年2月まで、332組の進行癌患者と非公式な介護者を登録時から死亡時まで(中央値、4.4カ月間)追跡調査した。さらに、後に残された介護者の精神疾患と生活の質を中央値で6.5カ月後に評価した。

 解析によると、「終末期についての話し合いは、死期が近づいたときに積極的な治療を減らすこと、およびホスピスへの紹介の時期が早いことと関連する」と、研究著者らは述べている。「積極的治療は患者の生活の質の低下および死別への適応不良と関連する」。

m3.com 2008年11月6日
がんの子の終末期支えよう
 治療のすべがなくなったがんの子供のため、親や医療従事者が"最期の日々"にできることについて話し合う集会を15日、患者家族でつくる「がんの子供を守る会」(東京)が千葉市の幕張メッセで開く。

 同会は、小児がんの終末期ケアに詳しい聖路加国際病院の小沢美和医師らと協力して、国内初の取り組みとなる指針「ターミナル期の緩和ケアのガイドライン-この子のためにやれること」(仮称)の作成に取り組んでいる。

 集会では厳しい現実に直面する子供たちの「死」への理解や権利、在宅や病院などでの残された日々の過ごし方、苦痛の軽減、死別後の親のケアなど指針に盛り込む内容について話し合う。

 指針は来年度中に完成予定で、同会の樋口明子さんは「道は1つではなく、どれも正解。親や医師、学校の先生などがその子のために議論するきっかけに使ってほしい」と話している。

m3.com 2008年11月10日
死を前にリビング・ウイル示す、「賛成」6割超える 余命半年「延命」1割
 死期が迫ったときの治療方針を事前に書面に示す「リビング・ウイル」に賛成する人が6割を超えることが厚生労働省のアンケート調査で分かった。自分が余命半年以内の末期状態になったとき、延命治療を望むのは10人に1人だった。

 調査は今年3月、一般国民5000人と医師ら医療従事者9000人を対象に実施。終末期医療のあり方を考えるために5年ごとに行われ、今回は3回目で、全体の46%が回答した。

 それによると、リビング・ウイルに「賛成する」と回答した一般は61・9%で、過去の数値をいずれも上回り最初の98年に比べ14・3ポイント増えた。医師は79・9%が賛成した。このうち、「法制化すべきだ」と答えた一般は33・6%にとどまり、「医師が家族と相談し、その希望を尊重する」との考えは62・4%に達した。ただし、医師では法制化を求めたのが54・1%と過半数に達している。

 一方、自分が治る見込みがないと告げられた場合、延命治療を望むのは一般が11%、医師は7%。家族の場合では、一般で24・6%、医師で11・6%となり、自分の2倍程度に増えた。

m3.com 2008年11月13日
第22回日本臨床内科医学会 IT導入で変わる地域医療連携
 電子カルテ導入やネット活用が広がるなか,地域医療連携や医事会計のシステムが様変わりしつつある。長崎市で開かれた第22回日本臨床内科医学会のシンポジウム「ITと医療」では,メーリングリストを活用し,在宅での看取りをグループ診療で支える長崎在宅Dr.ネットの活動が注目を集めた。

一両日中に主治医を決定
 長崎市近郊で医師の相互協力による在宅医療の受け皿となる組織として2003年,NPO長崎在宅Dr.ネットが設立されてから5年。グループ診療とメーリングリストの活用を柱とする活動の実際について,長崎在宅Dr.ネット事務局長を務める白髭内科医院の白髭豊院長が発表。今年2月までに175例の主治医紹介の依頼を受け,平均0.81日で主治医が決定しており,在宅緩和ケアの普及などへの効果が現れているという。

頑張らない在宅ケアを目指す
 NPO長崎在宅Dr.ネットは,開業医が外来診療しながら,大きな負担感なく訪問診療ができるシステムづくりを目指し,(1)24時間・365日対応可能(2)電子メールによる連携可能の2つを参加条件とし,主治医を複数の医師がバックアップするグループ診療体制を構築。2008年4月現在,訪問診療に対応する連携医(主治医,副主治医)65人,眼科,皮膚科などの協力医37人,病診連携に携わる病院医師36人,総計138人がメンバーとして活動している。

 事業内容は,退院後に在宅療養に移行する患者の主治医が見つからない場合に,登録メンバーのなかから主治医,副主治医を紹介する。事務局が依頼を受けた患者情報を市内5地区に配置したコーディネーター医師に伝達。コーディネーター医師は患者個人が特定されないよう配慮して疾患,居住地などの情報をメーリングリストに提示し,手上げ方式で主治医,副主治医を募り決定する。今年2月までに175例の依頼があり,その8割以上は一両日中に主治医が決定した。また,追跡できた154例中116例が死亡しており,うち在宅死が48例と約4割を占めていた。

 2007年春からは,がん診療連携拠点病院の緩和ケアカンファレンスにメンバーが参加し,在宅移行を検討中の患者情報を電子メールで報告するようになった。2008年からは地域連携に熱心な拠点病院の医師らがメンバーに加わり,電子メール上で直接在宅主治医を募るようになった。このように患者の情報源が広がり,2008年春以降は在宅移行の登録症例が月間平均3例から9例へと3倍に増えたという。

メディカルトリビューン 2008年11月20日
第34回日本診療録管理学会 医療訴訟と診療録管理を終末期医療の事例から考える
 東京都で開かれた第34回日本診療録管理学会の特別企画「医療訴訟と診療録管理 終末期における一事例から考える」では,実際の終末期患者の診療録に対して,終末期医療に関するガイドラインによる検証がなされた。

家族の意思を受け消極的治療へ
 昭和大学病院診療録管理室の鎌倉由香氏は,某年4月に心肺停止に陥り緊急入院してきた92歳の男性患者の事例を紹介した。それによると,診療録は外来診療録,入院診療録,看護記録があり,主治医の所見や看護師の記載,患者の様子,検査記録などが忠実に記述されていた。

 事例の経過を見ると,入院当日の午後9時に男性が入居していた療養施設で倒れているところを施設のスタッフに発見され,救命救急センターへ搬送された。搬送当時は心肺停止と診断され,その後アドレナリン投与などにより心拍が再開し,徐脈状態におさまった。頭部CT検査の結果,脳萎縮,左前頭部に挫傷痕が,また胸腹部CTでは両側背部に硬化が認められたという。

 第6病日には,患者の家族にインフォームド・コンセントを実施したとの記述がある。そのなかで,主治医は採血やX線の結果を示して経過を説明し,微弱な自発呼吸が人工呼吸管理下に認められるものの,瞳孔も散大し対光反射がないことを告げたという。

 その説明を受けた家族からCT検査が依頼され,検査結果を説明した後,家族から点滴の使用制限および使用中止が要望された。

 また,心肺蘇生を行わないこと,確認は家族立ち会いのもとに行うこと,そして病理解剖の希望もあった。

 第7病日午前11時50分には,脳幹反射が認められないことが判明。さらに,第13病日午前10時10分にも再び検査を行ったが,脳幹反射は同じく確認されず,同日に神経内科医による脳波検査も行われたが,有効な活動電位は示されなかった。ここで同日午後6時,主治医から患者の家族に「臨床的には脳死と言えなくても回復が見込めるとは考えづらい状態」と再度インフォームド・コンセントに関する説明がなされ,家族から人工呼吸器を外して欲しいとの要望があった。

 そのとき主治医は,現時点では人工呼吸器取り外しが即時的に対応できないことを説明した。それを受けた家族からは,前述の点滴使用制限と同様に酸素濃度を下げる要望があり,主治医は可能であると答えた。

 翌日から酸素濃度を下げるなどの措置が実際に行われ,第15病日,家族からの手紙によりさらに酸素濃度を大気分圧まで下げることが希望され,家族立ち会いのもとに実施された。第17病日午前1時8分,患者の死亡が確認された。ここまでの医療措置に関する外来,入院診療録と看護記録はほぼ同内容であった。

主治医含む医療チームによる終末期の判断が必要
 鎌倉氏により提示された診療録について,日本医科大学高度救命救急センターの横田裕行教授らは終末期治療が適切に行われたかどうかを観点にガイドラインに照らし合わせて検証した。検証の順序としては,複数の医師(主治医と主治医以外の医師)による終末期の判断,本人の事前指示および生前意思の確認,家族の意思確認,医療チーム(複数の医師,看護師らを含む)による延命措置中止の選択の順番で行った。

 同教授は,まず緊急入院した患者の容態を記載した第7病日および第15病日のカルテに着目した。第7病日のカルテには深昏睡,瞳孔散大,脳幹反射消失などの記載があり,続いて第15病日には脳波が平坦であること,聴性脳幹反応がないことなどが記述されていた。

 これらの記載により,自発呼吸の消失に関しては確認ができていなかったことから脳死とは診断できないまでも,脳死に近い状態であると主治医により判断されたことがうかがえた。患者家族の意思としては,第13病日の記録に患者の人工呼吸器を止めて欲しいと述べている部分が確認できた。第14,16病日の診療録には,家族の意向を受けた主治医が酸素濃度を低下し,1回換気量を少なくする措置を取ったと記されている。

 上記患者の診療録を検証したところ,同教授は「主治医が取った処置や患者の家族が示した考えなどが明確に記載されている」と評価した。しかし,日本救急医学会の同ガイドラインにおいて,終末期の判断は主治医と主治医以外の複数の医師によって判断されるべきとしていることに触れ(表),「複数の医師が合同して出した結論であるとは十分な確認ができなかった」と指摘した。

メディカルトリビューン 2008年11月20日
第63回QOL研究会 医療崩壊阻止へQOLの観点で考察
 東京都で開かれた第63回QOL研究会では,特別講演の出演者や参加者らがQOLの観点から医療崩壊の予防を考察した。

「生きがい」など4つの原則を提示

 聖路加国際病院の日野原重明理事長は,高いQOLと医療環境を構築し,持続させる手順について講演した。同理事長は,QOLには(1)社会生活の能力(2)感性・知性が保たれる(3)苦しみの緩和(4)生きがい―の4つの原則があると前置きした。そして「人は自分が命を与えられている,自分の命が有用に使われていると実感できなければならない。目標(ゴール)への達成感など,つらくても生きがいを感じて乗り越えることで生を感じられる」と,終末期の患者にとっては生きがいが何よりも重要であることを強調した。

医師は言葉を扱う職人であれ

 日野原理事長は米国と日本の緩和ケア病棟の違いから,終末期に対する捉え方を論じた。日本では患者に個室を用意するが,米国は4〜5人の相部屋が主流であるという。このため「米国では部屋にだれでも入れ,観賞を楽しめる美しい花も簡単に置ける。患者を孤独なまま死なせないようにしている」と述べた。また,米国の緩和ケアにおける保険診療はあらゆる疾患に対応しているが,日本は法律でがんなど一部疾患に限られている点も解決すべき課題とした。

 医学者ウイリアム・オスラーの「医学はサイエンスではなく,アートである」という言葉を例に「病名などを告知することも,ある意味ではアートである」と主張した。同理事長は「『余命が1週間』だとか簡単に言う若い医師もいるが,医師は言葉を扱う職人でなければならない。どこまで言うべきか,言うべきではないかなど,自分のなかで少しずつ積み上げながら患者の心を解きほぐすことが肝要」と訴えた。

 最後にQOLの向上には他者の命を守るという姿勢が不可欠であり,「医師こそが平和の維持へ声を大にすべき立場にある。社会的なQOL向上には命を守る大切さを訴えなければならず,それをどう子供たちに伝えるかを考えて欲しい」と呼びかけた。

メディカルトリビューン 2008年12月4日
「安楽死」の瞬間を放送へ 英テレビ、自殺美化と批判
 英テレビ局が、自力で呼吸ができなくなる原因不明の病を患い、2006年に「安楽死」した英国人男性の死亡の瞬間を初めて放送する予定だと発表、自殺を美化するとの批判を受けている。

 スカイニューズ・テレビが12月10日午後9時(日本時間11日午前6時)から放送する。安楽死は英国では違法とされており、スカイ側は反安楽死の活動家らの批判に対し「男性が放送を望んだ」と反論している。

 番組は議会でも取り上げられ、ブラウン英首相は「微妙な問題で放送の規制当局が判断する」と答弁した。

 この男性=当時(59)=は5カ月の闘病の末、一定の条件下で安楽死を認めているスイスの病院で、妻が見守る中、タイマーを使って人工呼吸器を止め「自殺」した。

m3.com 2008年12月11日
テレビに賛否の意見相次ぐ 英国の「安楽死」放送
 英スカイニューズ・テレビが12月10日、2006年に「安楽死」した英国人男性の死亡の瞬間を予定通り放送した。視聴者の関心は高く、賛否さまざまな意見が寄せられた。

 肯定派からは「何年も苦しんで亡くなった夫を思い出した。状況によっては自ら命を絶つ権利を持つべきだ」との意見が寄せられたが、「安楽死を撮影することには同意できない。恥を知れ」などの批判的な声も上がった。

 英国では最近、けがをしたラグビー選手が安楽死することを選び、これを手伝った両親が法的責任を問われない見通しとなったことで議論を呼んだ。その直後とあって、安楽死に反対する団体が「視聴率を稼ぐ悪質な試みだ」と反発を強めている。テレビ局側は「人々が関心を高めているテーマについて議論を刺激するのは重要だ」などと弁明した。

m3.com 2008年12月11日
尊厳死の法制化を訴える 厚労省・終末期医療懇談会で関係団体をヒアリング
 12月15日,厚生労働省(厚労省)の第2回終末期医療のあり方に関する懇談会が開かれ,日本尊厳死協会など5団体からヒアリングが行われた。同協会理事長の井形昭弘氏は,尊厳死の法制化をあらためて訴えた。

 同懇談会の目的は,患者の意思を尊重した望ましい終末期医療のあり方を検討することで,2回目の今回は終末期医療に関係の深い5つの医療・患者団体の代表者が参考人として招致され,意見を述べた。

 日本尊厳死協会は1976年の発足以来,リビング・ウイル(尊厳死の宣誓書)を介して自分の死様に関与できる権利,自然に死を迎えられる権利を主張してきた。井形氏はそのような活動を通して,尊厳死は国民の間に少しずつ受け入れられつつあることを指摘。厚労省が2007年に公表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」でも,本人の意思を最大限尊重することが盛り込まれている。

 しかし,同氏によると,ガイドラインどおりに終末期医療が実施され,延命措置の不開始や中止が選択されたら,現状では医師の法的責任が問われる可能性があり,尊厳死の普及を阻んでいる。このような状況に対して,同氏は「本人の意思に反して延命措置が続けられるのは,第三者の価値観の強制で人権問題としても許されるべきではない」と主張。尊厳死を法制化し,安らかな死の権利が守られる社会の重要性を強調した。

メディカルトリビューン 2008年12月16日
終末期患者 医師との対話で死亡直前のQOL向上
 ダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)のAlexi A. Wright博士らは,医師と対話をした終末期患者では,対話をしなかった患者と比べて精神的苦痛を味わうことが少なく,生前の最後の週に積極的治療は行われない傾向があり,QOLも高い傾向にあると発表した。

 終末期における対話から,患者は自分が望む治療の在り方や,そのゴールを明確にする機会が得られる。しかし,このような対話で患者は医療の限界と人生には限りがあるという現実に直面することになるため,心理的苦悩の原因ともなりうる。

 これまでの研究では,医師と患者は死について語ることをためらうことが多い傾向が明らかにされている。しかし,実際にこのような対話が,患者の心理的苦悩および末期の治療内容と関連しているか否かについて検討した研究はなかった。

 そこで,Wright博士らは,末期患者を対象に,終末期における医師との対話が死亡前に受ける治療内容と関連するか否かを検討した。今回,進行期のがん患者とその親族の介護者332組を調査対象とし,患者を登録時から死亡まで追跡した。追跡期間の中央値は4.4か月で,死亡して6.5か月後(中央値)には介護者の精神疾患とQOLを評価した。対象患者332例中123例(37.0%)が実際に医師と終末期対話を行った。

 これらの対話は,医師と対話をしなかった患者に比べて,人工呼吸(1.6%対11.0%),蘇生術施行(0.8%対6.7%),ICU入院(4.1%対12.4%)の回数が有意に少なく,死亡前の積極的な医療介入が有意に減少していた。

 また,終末期対話を行った患者では,より早期にホスピス施設に入院していた(65.6%対44.5%)。ホスピス入院日数の増加は患者のQOL改善と関連し,積極的な医療介入の増加は患者のQOL低下と関連していた。

メディカルトリビューン 2008年12月18日
第33回日本死の臨床研究会 がん対策基本法から2年〜在宅ホスピスケア推進に向けた議論
 一昨年施行されたがん対策基本法以降,ホスピスケアは急性期病院や在宅へと広がりつつあるが,在宅ホスピスケア(在宅ケア)の普及は各地域で大きな課題であり,これには地域連携が欠かせない。

 天使大学大学院ホスピス・緩和ケア看護学の季羽倭文子教授によると,ホスピス医療先進国である英国のベッド占有率は全国平均で76%,平均在院日数は同12.9日。ある施設では60%が退院して在宅ケアへ移行する。入院の受け入れは在宅死希望者が優先される。

 在宅ケアでは,自宅に置かれる緊急時使用薬剤の利用が可能で,麻薬処方が可能な看護師も症状の管理に当たる。訪問回数の制約や条件はなく,家族の精神的支援も含めて看護師が判断し,泊まり込みで看護が行われる場合もある。

 一方,わが国では厚生労働省(厚労省)「終末期医療に関する調査等検討会報告書」によると,痛みを伴う状態の療養で在宅ケアが困難である理由は,介護する家族への負担が最も多かった。また,今年発表された訪問看護事業協会「高齢者のターミナルケア・看取りの充実に関する調査研究事業」では,終末期を介護する家族の不安やとまどいの声が報告され,訪問看護師はターミナルケアを開始するに当たって家族内の意向を把握するよう努めることが明記された。

 さらに,医療経済研究機構「訪問看護利用者における終末期ケアに関する調査」では,在宅で死亡した約半数は本人と家族ともに在宅死を希望していたことが報告された。

 同教授は「意思決定の当事者は本人とその家族であり,そのプロセスが丁寧に行われることが,在宅での看取りが進むための重要な基本的条件である。死の迎え方を話し合う土壌を社会に広めていくことが,地域連携および在宅ケアを推進する基盤になる」と結論した。

メディカルトリビューン 2009年1月1,8日
在宅終末期患者:苦痛緩和のため、医師の車を緊急車両に--国交省と警察庁
 在宅医療を受ける終末期患者の苦痛を和らげるため、国土交通省と警察庁は09年度から、緊急治療に駆けつける医師の専用車両を、緊急自動車に認定することを決めた。救急車と同様に交通規則の一部が免除され、優先走行などが許可される。従来は渋滞に巻き込まれ医師の到着が遅れることが問題化していた。国交省は「医療の場が多様化する中、必要な対策。不足しがちな救急車の補完にも有効だ」と話している。

 道路運送車両法の保安基準と道路交通法の施行令の一部を改正する。公布は3月で、施行は4月1日の予定。

 国交省自動車交通局によると、(1)医療機関の所在地が終末期患者の自宅と離れている(2)医師に終末期医療の実績がある--ことが要件。車種は問わないが、他の車両に注意喚起できる赤色の警光灯とサイレンを備え付ける必要がある。塗色には制限がない。「周辺住民に知られたくないとの患者の要望もあり、一般車との区別をつきにくくするため」(技術企画課)という。

 厚生労働省は08年3月に終末期医療に関する調査を5000人に対して実施。2527人(回収率50・5%)が回答した。自分が余命6カ月以内の末期状態になった場合、63%が自宅療養を希望した。一方で66%は実現困難と回答。理由は▽家族に負担がかかる(約8割)▽症状が急変したときの対応が不安(約6割)--だった。

m3.com 2009年1月13日
がん患者「死後の世界」「生まれ変わり」信じる割合低く 東大が死生観調査
 がん患者は一般の人に比べて、死後の世界や生まれ変わりなどを信じない傾向が強いことが、東京大の大規模調査で明らかになった。また「望ましい死」を迎えるために必要なこととして、がん患者が健康時と変わらない生活を望んだのに対し、医師や看護師がそれを期待する割合は低く、認識の差も浮き彫りになった。

 調査は、がん患者の死生観を知るため東京大の研究チームが昨年1月から1年間かけて実施。東大病院放射線科に受診歴がある患者310人と同病院の医師109人、看護師366人、無作為抽出した一般の東京都民353人の計1138人が協力した。患者は75%が治療済みで、治療中の人は20%だった。

 「死後の世界がある」と考える人の割合は一般人の34・6%に対しがん患者は27・9%、「生まれ変わりがある」は一般人29・7%、患者20・9%で、患者の割合が目立って低かった。生きる目的や使命感を持つ割合は患者の方が一般人より高く、「自分の死をよく考える」という人も患者に多かった。

 「望ましい死」に関しては、患者の多くが健康な時と同様の生活を理想とし、「(死ぬまで)身の回りのことが自分でできる」(93%)「意識がはっきりしている」(98%)--などを望んだ。一方、医療関係者はこれらについての期待がそれぞれ30-40ポイント低かった。また、「さいごまで病気とたたかうこと」を望む患者が8割に達したが、医師は2割にとどまった。

m3.com 2009年1月14日
脳死状態の女性から女児 英、2日後に帝王切開
 英国で、脳死状態と宣告された妊娠中の女性(41)に帝王切開手術を施し女の赤ちゃんが生まれた。

 英紙タイムズによると、妊娠25週だった女性は自宅で頭痛を訴えた後に倒れ、病院に運ばれたが医師から脳死を宣告された。脳にできた腫瘍による出血が原因という。

 医師は胎児の肺の成長を促した上で、2日後に帝王切開手術を行い、体重約1000グラムの女の子が生まれた。女の子は現在、集中治療室に入っている。女性はその後、死亡した。

 友人の1人は「(女性の夫が妻の)生命維持装置を止めた後に、生まれたての娘に会いに行くなんて」と語り、夫の複雑な心境を思いやった。

m3.com 2009年1月14日
米国胸部学会が緩和ケアに関する臨床方針について声明を発表
 ペンシルベニア大学医療センターのPaul N. Lanken教授らは,米国胸部学会の緩和ケアに関する臨床方針声明を発表した。

 臨床方針声明によると,緩和ケアの定義はこの数年で変化している。当初,緩和ケアは終末期ケアとして開始されたが,現在では終末期であるか否かにかかわらず,適切な場合にはすべての病期に対して適用される。また,緩和ケアは患者だけでなく患者の家族と友人のケアや,治療に当たる医師と医療専門家のケアも含むものと理解されている。

 声明では,緩和ケアは苦痛の予防と軽減を目的とすると定義されている。方法としては症状のコントロールや支援の提供があり,目標はQOLの維持と改善である。

 Lanken教授らは「声明では,緩和ケアはすべての病期の患者が利用でき,患者とその家族の要望と意向に応じて個別化されるべきであるという概念を強く推奨している」と説明している。

 米国胸部学会は,緩和ケアを行う際には以下の11項目の専門的価値観を組み込むべきであるとしている。

 (1)患者とその家族に重点を置くことが最も重要である。成人患者は治療の目標を決定する権利を有する
 (2)患者と家族の意向を確認・尊重する
 (3)ケアの計画と実施に関して,患者自身が要望する範囲まで家族の関与を奨励し,支援する
 (4)緩和ケアは,患者が症候性となった場合に開始すべきで,通常,回復治療と延命治療を併用する
 (5)特に慢性または進行性の呼吸器疾患,または重症疾患の患者など,症候性疾患または致死的疾患のすべての患者には,年齢や社会的環境にかかわらず,緩和ケアへのアクセスを提供すべきである
 (6)家族に対する死別ケアは緩和ケアにおける不可欠な要素である
 (7)医療提供者は一定の緩和ケア能力を持つべきである。これには教育,訓練が必要である。また,緩和ケア専門家から適宜助言を受けることも大切である
 (8)緩和ケアを提供する専門家と家族の心理的,感情的なニーズを認め,支援すべきである
 (9)患者と家族のニーズに適切に対応し,患者と家族の文化や精神的な価値観を尊重して緩和ケアに取り組む努力をする
 (10)緩和ケアに関する公的教育を行う
 (11)緩和ケアに関してさらなる研究を行う

メディカルトリビューン 2009年1月29日
がん患者の6割が「痛み感じる」
 慶応大学などが、がん患者2895人を対象に痛みに関するアンケートをしたところ、回答した1634人の6割が痛みを感じ、うち8割強が治療をしても痛みが残っていたことが分かった。がんの痛みに関する大規模な実態調査は初めてという。政府はがん対策推進基本計画の中で緩和ケアの推進を重点課題に挙げているが、一層の充実が求められそうだ。08年6-7月、69の患者団体の会員にアンケート用紙を配布した。

 痛みの経験については、「今感じている」(24%)、「かつてあった」(39%)と6割超の患者が経験。このうち、半数以上の患者が日常生活に支障を来していた。

 また、痛みの治療を受けた669人に尋ねたところ、「完全にとれた」と答えたのは17%のみ。「ある程度とれた」(52%)、「あまりとれなかった」(10%)、「まったくとれなかった」(4%)--など、8割以上の患者に何らかの痛みが残っていた。痛みの治療の満足度でも、満足感を得られたのは57%にとどまった。

m3.com 2009年2月5日
植物状態のイタリア人女性死亡 延命停止後、国民に衝撃
 17年前の交通事故で植物状態となり、家族の要請で2月、延命措置を停止されたイタリア人女性、エルアナ・エングラロさん(38)が9日、北東部ウディネにある入院先の病院で死亡した。延命停止をめぐっては、ローマ法王庁(バチカン)を抱える同国の世論を2分していただけに国民は衝撃を受けている。

 入院先の病院は既に栄養補給管からの栄養と水分の補給を止めていた。直接の死因は不明だが、延命停止処置が影響したとみられる。

 延命停止を求める家族の訴えは昨年、最高裁で認められた。中道右派ベルルスコーニ政権は、事実上の安楽死として反発するバチカンなどの意向に配慮し、延命停止を阻止するための緊急政令を閣議決定した。

 しかし、左派出身のナポリターノ大統領は政令に署名せず無効になったため、同政権はあらためて延命停止阻止の法案を国会に提出、審議が始まっていた。

 エングラロさんの死は9日、審議中の上院で発表され、議員らが黙とうした。

m3.com 2009年2月10日
がんを生きる:住みなれた家で 在宅療養、どう実現?
◇病院、地域の医師らと連携して

 ●準備

 「従来は、がん患者が入院しても処置がすぐ始まらず、そのまま病院で亡くなるケースが多かった」。がん患者の在宅療養に詳しい大阪府豊中市の市立豊中病院の林昇甫医師は問題点を指摘する。

 改善に向けて、厚労省研究班は昨年末、医療者向けに「在宅緩和ケアのための地域連携ガイド」を作成した。それによると、在宅療養の準備は入院の瞬間から始まる。患者は医師や看護師に退院後の希望を伝え、必要な準備や情報収集を依頼する。病院は、患者の退院後の生活を見据えながら、症状を早期に把握し、治療を進める。

 在宅療養では、病院の主治医に加え、地域の診療所医師や訪問看護師、ヘルパーなど介護事業者、薬剤師ら多様な立場の人の連携が必要だ。退院前に、これらの関係者と患者、家族が集まる打ち合わせを開き、役割分担や患者の不安への対応策を確認することが望ましい。

 読者からの投書には「独居でも在宅療養は可能か」との質問があった。豊中市の藤田医院(藤田泰彦院長)は市立豊中病院と連携し、在宅療養のネットワーク作りを進める。藤田さんは「独居の患者は『家族に迷惑がかかる』と遠慮しがちだ。しかし、最初に家族が準備を手伝い、その後はヘルパーやボランティアらの協力を得ることで在宅療養は可能になる」と訴える。

 ●費用

 費用は症状や地域によって異なるが、それほど高額ではない。厚労省などの資料によると、在宅死亡率が高い都道府県ほど1人当たりの老人医療費が安かった。

 在宅療養の主な費用は、医師の往診料、訪問看護・介護の利用料や薬代だ。東京都新宿区で訪問看護ステーションを運営する秋山正子看護師によると、ある患者(医療保険1割負担)は、訪問看護を1カ月のうち17日計20回利用して、自己負担は月約1万6000円だった。40歳以上の末期がん患者は介護保険も利用できる。

 ●課題

 課題は、病院側の理解だ。地域に信頼できる診療所や訪問看護ステーションがあることも求められる。厚労省が全国の総合病院やがんセンター医師を対象に実施した調査では、在宅療養の適用となる患者のうち約半数が転院させられていた。がんセンターの医師でも「在宅療養の十分な知識や理解がある」と答えたのは57%だった。

 厚労省は在宅療養を推進するため、24時間対応などを条件に06年から在宅療養支援診療所制度を始め、現在1万カ所を超える。だが、実際は在宅に対応しない診療所も多い。訪問看護ステーションも全国に約5400カ所(07年現在)あるが、07年は初めて前年数を下回った。

 また、在宅療養に対する患者側の理解を高めようと、各地で患者向けの相談窓口「在宅緩和ケア支援センター」の設置も始まった。東京都在宅緩和ケア支援センターを運営する東京厚生年金病院(東京都新宿区)の川畑正博・緩和ケア部長は「病気になっても家で過ごすという選択肢に気づいてほしい。必ず家にいなければならないわけではなく、症状が悪化したら病院へ戻ればいい。患者が希望に応じて家と病院を行き来できる仕組みを作っていきたい」と話す。

m3.com 2009年2月24日
東京大学調査:がんと「さいごまでたたかう」意識 患者と医師に開き
 東京大学の研究グループによる「死生観」と「望ましい死」に関するアンケートで,自らが末期がんになった場合に「さいごまで病気とたたかう」と答えたがん患者の割合は81%で,医師の19%と大きな開きがあることがわかった。最期までふだん通りに自分らしく生きたいと願う患者の思いと,何人もの死を看取ってきた医師の考えが影響しているようだ。

患者は「自分らしさ」を重視

 同アンケートは昨年1〜10月に,同大学病院緩和ケア診療部長で放射線科の中川恵一准教授と同大学大学院健康科学・看護学専攻緩和ケア看護学分野の宮下光令講師らが,医療従事者やがん患者の死に対する意識の把握を目的に行った。同放射線科外来受診中のがん患者310人(男性59%)と層化二段階無作為抽出した一般市民353人(同38%),同院でがん診療に携わる医師109人(同88%)と看護師366人(同4%)からの回答を集計。患者は75%が治療ずみで,20%が治療中であった。

 望ましい死に関する「さいごまで病気とたたかう」との問には,患者81%と市民66%が「絶対に必要」,「必要」,「やや必要」とした。医師は19%,看護師は30%にとどまった。患者や市民が医師と看護師より重視した項目は「やるだけの治療はしたと思える」(患者92%),「明るさを失わずに過ごす」(同95%),「死を意識せずに,ふだんと同じように毎日を送れる」(同88%)などである。

医療従事者は「死に備える」傾向

 逆に,医療従事者が患者や市民より重視したのは「残された時間を知っておく」(医師89%),「会いたい人に会っておく」(看護師92%)などであった。患者や市民が死を意識せずに過ごして最期を迎えたいと考える一方,医師や看護師は余命を把握することで死を迎える準備を整えたいとする傾向にあった。

 どの回答者も同程度重視していたのは「体に苦痛を感じない」,「自宅や病院など,自分が望む場所で過ごす」,「信頼できる医師に診てもらえる」などであった。

 宮下講師は望ましい死に対する認識の開きについて,「闘病を,患者はがんを患いながらも前向きに毎日を過ごすことと考え,医療従事者は化学療法などの積極的な治療を終末期になっても続けることと捉えているのかもしれない」と分析。「あくまでも医療従事者個人の考えであり,決して患者の気持に対する無理解や治療姿勢の表れではない」と述べた。そのうえで「医療従事者は患者とのギャップを踏まえ,個々の患者が重視することを一緒に考えて終末期療養を支える必要がある」とまとめた。

「死への恐怖」は医師が強い

 死生観について「死後の世界はある」,「霊やたたりはある」の問を肯定したがん患者は2割強で,一般市民より約10ポイント少なかった。看護師はいずれも4割以上であった。全体的に,男性よりも女性が伝統的な死後の世界観を有する傾向にあった。運命論的な見方については「寿命は決まっている」,「生死は運命などで決まる」とした患者が35%超で,4群で最も高かった。

 中川准教授は「がん患者は死後の世界や霊魂など伝統的死生観を持たず,運命論的な傾向が見られる」と指摘した。

 「死が怖い」と答えた医師は64%で,患者の51%と一般市民の56%を上回った。類似する「死は恐ろしい」との問でも,ともに37%であった患者や市民よりも,医師のほうが48%と多かった。同准教授は「医療者は『生物学的に死は無となる』など,死を科学的に捉える意識があるからではないか」と述べた。

メディカルトリビューン 2009年2月26日
東東京緩和ケアネットワーク 広域型「緩和ケア地域連携パス」開発へ 症状別薬剤パス併用で作成
 東東京緩和ケアネットワークは、緩和ケア地域連携クリティカルパスの開発に向け協議をスタートさせた。パス作成部会がこのほど発足、3月の会合では、症状別薬剤パス併用型の緩和ケアパスの素案作りを進める予定だ。これによって東東京地域から緩和医療の基盤作りが進められる見通しだ。広域の地域連携を前提にした緩和ケアパスの運用はまだ事例がなく、その成果が注目される。

 これまでがん医療は治療が優先され、「癒やす」ケアが十分提供されてこなかった。それが結果的に、緩和ケアパスの作成を遅らせた。がん患者の増加に伴い、患者・家族のがん治療への意識の高まりに後押しされ、緩和ケアの需要が高まってきた。

 そうした中、2007年10月に発足した東東京緩和ケアネットワークは、中央区、千代田区、港区、文京区、台東区、江東区、墨田区、足立区、荒川区、葛飾区などから医師、薬剤師、看護師、MSWなどが参加し、緩和医療のネットワークの構築を進めている。1月末の幹事会では、地域連携緩和ケアパスを開発することを決定した。

  この決定を受け、19日には地域連携パスの作成部会の初会合が行われ、3月の次回会合までに、後藤光世氏(日本臨床唾液学会理事、国際医療福祉大大学院博士課程)らが、症状別薬剤パス併用の地域連携緩和ケアパスの素案を提示することが決まった。

  症状の1つとしてがんの疼痛管理パスは、すでに特定の施設とクリニック間で運用している事例はあるが、広域連携の緩和ケアパスの作成は初めての試み。これが成功すれば、5大がんで活用することができる。

薬剤パスは症状コントロールがカギ

 具体的に緩和ケア地域連携パスの適応基準について後藤氏は、患者、家族が緩和ケアの理解と受け入れができていることや、患者のパフォーマンスの低下、例えば意識状態、自覚症状の有無(呼吸苦、疼痛、浮腫、嘔気・嘔吐、排泄障害、不安)などを挙げている。

  それを踏まえがんの緩和ケア地域連携パスとしては、大きく3段階に分けて考えられる。<1>積極的治療(化学療法など)開始時期の早期介入の緩和ケアパス<2>早期介入以降の中間期の緩和ケアパス<3>サポーティブケア中心の看取りの緩和ケアパス−の3段階。緩和ケアパスは、従来の疾患の地域連携パスと違い、症状をコントロールする症状別薬剤パスを中心に置き、緩和ケアパス全体を作成することが必要になる。

  例えば、疼痛に関する症状別薬剤パスでは、自覚症状が「ある」場合、「ない」場合だけで、非オピオイド・オピオイド、非ステロイド・ステロイド性消炎鎮痛剤などの多種・多数の薬剤使用スケジュールが、少種・少数・シンプルにアルゴリズム化されている。また、排便障害に対する薬剤パスでは、腸管狭窄が「ない」場合、「疑いあり」の場合、そして「完全狭窄」の各症状に応じた薬剤選択の目安を示す薬剤パスを作成する計画だ。

  さらに、これらの症状別薬剤パスの利用で、ネットワーク的にも患者の状況変化に他職種の連携作業に従事するスタッフが、柔軟に対応可能と考えられる。

m3.com 2009年3月4日
終末期の高額薬剤認めず 英国立臨床評価研究の改訂ガイドライン
 英国立臨床評価研究所はこのほど,終末期患者の治療ガイドラインを改訂したが,サウサンプトン大学医療技術評価学科のJames Raftery教授は「ガイドラインが改訂されても高額な薬剤が使用しにくい現状はほとんど改善されず,むしろ治療が受けられなくなる患者群がほかに出てくるなど別の問題が起こる可能性もある」と指摘している。

 英国立臨床評価研究所は,1999〜2008年にQOLで調整した生存年数(Quality adjusted life year;QALY)に対する費用効果が英国立臨床評価研究所の定める基準額"3万ポンド"をはるかに上回っていたことを理由に11種類の薬剤を除外してきた。しかし,この判断が倫理上,法律上,政治上のジレンマを生み出しており,英国立臨床評価研究所は終末期患者の治療薬に対し費用効果の閾値を見直すよう求められていた。

 今回の改訂ガイドラインは,余命2年以内と診断され,現在の英国保険サービス(NHS)の治療に比べ,少なくとも余命を3か月は延長できるなど,生存率に明らかな効果があると証明できるごく一部の治療を対象としている。

 Raftery教授は,これまで英国立臨床評価研究所が費用効果を理由に除外してきたすべてのがん治療薬について,新しい改訂がどの程度影響するかを検証した。その結果,同教授はこれまで除外された薬剤で新基準を満たす薬剤はほとんどなく,同等の利益をもたらす代替の薬剤も存在しないことを明らかにした。

 また,同教授は「ある集団に"特例"を設ければ,それが他の集団で前例となる。総予算を変えないまま,特定の集団に対し使用できる金額の閾値を高く設定すると,治療を受けられなくなる別の集団が出てくる」と指摘している。

メディカルトリビューン 2009年3月19日
緩和ケア研修、7割が未実施 がん拠点病院の指定要件
 がん診療連携拠点病院の約7割が、指定要件として定められた2次医療圏での緩和ケア研修を定期的に実施していないことが3月19日、厚生労働省のまとめで分かった。

  厚労省は都道府県に対し、毎年10月末現在の拠点病院の現況報告を求めており、2008年10月末の指定要件の充足状況に関する回答をまとめた。08年4月1日現在の拠点病院数は351病院。

  厚労省健康局がん対策推進室によると、充足率が低かった指定要件は「2次医療圏での緩和ケア研修を定期的に実施している」(108病院、30.8%)のほか、「院内がん登録の集計結果を毎年がん対策情報センターに情報提供している」(162病院、46.2%)、「緩和ケアチームに専門的な知識と技能を持つ常勤の専従看護師がいる」(204病院、58.1%)、「相談支援に関して患者団体との連携協力体制の構築に積極的に取り組んでいる」(212病院、60.4%)、「外来で専門的な緩和ケアを提供できる体制を整備している」(240病院、68.4%)などだった。

  一方、すべての病院が満たしていたのは、「相談支援を行う部門を設置している」「『標準登録様式』に基づく院内がん登録を実施している」など3項目しかなかった。

m3.com 2009年3月25日
尊厳死,意思決定に影響せず医師も守れる法整備は可能か リビング・ウィルを巡り議論
 4月14日,厚生労働省で第4回「終末期医療のあり方に関する懇談会」が開催された。

 尊厳死には,現場の医療従事者にとって刑事罰のリスクがある以上,ガイドラインとともに法整備は必要という声がある一方で,法整備の副作用として,患者の意思よりも“法”に基づいた理論で意思決定が左右される危惧もある。

 また,尊厳死の意思決定で最も重要なのは,患者本人の意思だが,議論のなかではその意思確認の難しさも示された。

 終末期医療における尊厳死についての議論では,現在,医師,法学者も一定のコンセンサスに至っていない状況だ。

 一方,医療現場では,患者・家族から尊厳死を望む意思も実際に示されている。

 厚労省が2007年に公表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」では,そうした患者本人の意思を最大限に尊重することを主眼としており,本人,家族,医療ケアチームなど,徹底した合意主義の重要性を示している。

 しかし,実際の医療現場では,リビング・ウィルや患者家族との話し合いにより尊厳死の意思を示されても,実際にどのような行為が刑法に抵触するのかが不明なことで,ニーズに応えることが困難なことも指摘されている。

 こうしたことから,医療従事者からは,ガイドラインに併せ,尊厳死にかかわる医療従事者を守るための法整備を求める声が上がっている。

米国の意外な実態 法整備はなされている一方で,法より医療倫理を尊重

 そうしたなか,「国民の多くはリビング・ウィルには賛成なのに,なぜその法制化には消極的か?」という疑問も呈されており,東京大学大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏は「不明確な法の伝える明確なメッセージ」と題した発表を行った。

 同氏は,米国の法を専門としており,リビング・ウィルの法制化が行われている米国における,尊厳死にかかわる法解釈の実情について紹介した。

 まず,米国のロースクールの教材であるcasebookのなかから,37歳の肺がん末期患者から「化学療法とペースメーカを止めてくれ」という意思を示された医師からの相談について紹介。casebookでは,「(院内の)倫理委員会で相談しなさい」と助言をしており,これが法律家としての最善の答えとして示されており,「嘱託殺人という類の記述につながっていない」という。

 また,同様に米国の医師国家試験問題のなかから次のような問題例を示した。

 事故に遭った男性が,人工呼吸器を装着されて集中治療室(ICU)に運び込まれ,脳死状態と判断された。男性はドナーカードを所持しており,臓器提供の意思表示が明示されていた。しかし,臓器移植チームが家族に連絡を取ったところ,臓器提供に反対された。どうすべきか?

 これに対する正答は「家族の意思を尊重し臓器提供をやめるべきである」というもので,樋口氏は「米国では法律上,脳死を死としており,臓器提供は本人(だけ)の意思によると明記されているが,(米国では)法律だけで医療は動いていないことが示されている」という。

 また,米国では,法と医療(倫理)の役割は異なり,後者こそ重要だと考えられているとし,リビング・ウィル法の適用がなくても,(1)患者本人の意思を尊重,(2)うつ病や自殺願望の場合は別,(3)問題があれば倫理委員会でも相談?といった点に従って医療の方針が決まり,法に頼る態度は取られていないと述べた。

 さらに,米国では,リビング・ウィルをつくる人は少数で,つくっている人でも適用除外例も多いのが実態だという。

メディカルトリビューン 2009年4月16日
末期がん患者往診車:緊急車両に指定--栃木「在宅ホスピスとちの木」
 自宅での療養を望む末期がん患者を往診する「在宅ホスピスとちの木」(栃木市箱森町)の所長で、医師の渡辺邦彦さん(49)が患者宅を緊急に往診する際に使用する乗用車が、道路交通法上の緊急車両に指定された。きっかけは「一秒でも早く患者の痛みを取ってあげたい」という渡辺所長の強い願いだった。

 緊急車両の指定は道路運送車両法の保安基準と道路交通法施行令の一部改正によるもので、08年10月に政府の構造改革特区で認められた。渡辺所長の車には赤色灯とサイレンが取り付けられ、緊急時には救急車と同様に優先走行が許される。

 県内にはモルヒネなどの薬物で痛みを和らげる緩和ケア専門医が少ない。渡辺所長が08年中に看取(みと)った患者は計82人。緊急時の往診でお盆の帰省ラッシュに巻き込まれ、車が動かなくなることもあった。そこで、構造改革特区で緊急車両の指定を認めるよう提案し、今回の改正につながった。

 渡辺所長は「患者が『苦しい』『痛い』と訴えているのに、交通渋滞で到着が遅くなってしまうのは、患者の家族にとってもストレス」と指摘する。そのうえで「がん患者に対して、緩和ケア専門医が少なすぎるのが根本的な原因。医師をもっと増やせばサイレンを使わなくても済むようになる」と話している。

m3.com 2009年4月24日
脳腫瘍に伴う問題には早めの対応を 頭痛・てんかん様発作・せん妄
 脳腫瘍患者の多くでは根治的治療が存在せず,患者の余命は短いことが多い。ケルン大学緩和医療科のHeidrun Golla博士らは「脳腫瘍では頭蓋内という限られたスペースで脳が圧迫されるため,症状はきわめて重く,早い段階から緩和ケアの実施を検討すべきである」と発表した。

ステロイドの適応を定期的に確認

 原発性脳腫瘍または転移性脳腫瘍の患者では,頭痛,悪心,嘔吐,てんかん様発作,麻痺,感覚障害などの身体症状に加え,人格の変化,認知障害,意識障害,せん妄などの重い精神症状も発現する。

 身体症状については,脳腫瘍患者の約50%で緊張型頭痛様の頭痛が発現する。腫瘍の増殖,浮腫,または髄液の循環障害によって脳圧が上昇するにつれて痛みも増強する。腫瘍による脳浮腫は血管性浮腫であり,一般にステロイド薬(例 デキサメタゾン4mg/日)が奏効する。ただし,副作用リスクを伴うため慎重に投与し,適応については定期的に確認しなければならない。

 ステロイド投与後も頭痛が十分に軽減しなければ世界保健機関(WHO)が提唱する段階的方法に従って疼痛緩和を試みる。

 多くの脳腫瘍患者では,疾患の経過中にてんかん様発作を生じるが,腫瘍の増殖速度が緩やかなほうが急激に増殖する場合よりも,同発作の発現頻度は高くなる。

 発作が連続して発現する場合やてんかん重積症がある場合は同療法の適応となる。ジアゼパム,ロラゼパム,クロナゼパムの効果はほぼ同等だが,ロラゼパムのほうが効果の持続時間が長いため,重積症の治療には適している。

 ベンゾジアゼピン系薬を繰り返し投与しても十分な効果が得られない場合は,フェニトインまたはバルプロ酸の急速飽和を検討する。また,初めててんかん様発作が生じた脳腫瘍患者には,抗痙攣薬を予防的に投与する。

 脳腫瘍患者で高頻度に合併する精神疾患には,うつ病,不安,せん妄が挙げられる。せん妄に対する薬物療法ではベンゾジアゼピン系薬と抗精神病薬を併用する。後者における第一選択はハロペリドールである。

メディカルトリビューン 2009年4月23,30日

がん患者へのエリスロポエチン投与の是非を考える スイスで行われたメタ解析から
東札幌病院副院長・化学療法センター長 平山 泰生
私の考察:エリスロポエチン投与は利益とのバランスにおいて考慮すべき

 がん患者の貧血および倦怠感に対し,わが国では概ねHb 8g/dL以上を保つ程度に輸血が行われることが多いが,欧米ではその簡便性,安全性,臨床試験で裏付けされた倦怠感への効果によりHb 12g/dLを目標にエリスロポエチン製剤が投与されることが多い。

 Bohliusらは上記疑問に対し,53 のランダム化比較試験をメタ解析し,確かにエリスロポエチン投与で死亡率を引き上げていることを示した。

 対照群に対しエリスロポエチン投与群で,なぜ死亡率が高い結果になったかは不明であるし,化学療法を施行した患者で影響が少ない理由も不明である。

 各症例の死因を解析すればよいと思われるかもしれない。しかし,終末期がん患者の場合,急変したにせよゆっくりと全身状態が悪化したにせよ,死亡した場合は原因を特定する努力はせず「がんによる死亡」と診断するのが一般的である。この傾向は,わが国でも緩和ケア病棟で顕著であるが,実際の死因は感染症,心疾患(虚血性および不整脈),播腫性血管内凝固症候群による出血,各種血栓症などが多いと思われる。

 これらの病態を特定しても生存期間およびQOL改善につながることは稀であるので,私としても終末期がん患者に積極的に各種検査を行うことは避けるべきだと考える。

 このような背景から,エリスロポエチン投与による死亡率増加の原因は特定されていないが,エリスロポエチンによる腫瘍増殖や血栓症の増加などが推測されている。

 本研究の結果から,今後はHb 12g/dLを目標にエリスロポエチン投与を推奨することはできなくなったが,全生存率の悪化はわずかであることから,論文の結論にもあるように,エリスロポエチン投与は倦怠感の改善と利益とのバランスにおいて考慮することになろう。

 わが国においては倦怠感が強い貧血のがん患者には主として赤血球輸血をするという現状の対応のままでよいと思われる。

メディカルトリビューン 2009年5月19日
広島県・呉地域 「がん性疼痛管理マニュアル」作成 推奨する治療を掲載/呉市での緩和ケアの標準化を目指す
 このほど広島県の呉地域保健対策協議会は、緩和ケアの標準化を目指し、「がん性疼痛管理マニュアル」を作成した。マニュアルには、疼痛の評価方法をはじめ、オピオイド鎮痛薬の使用方法など、推奨する疼痛緩和治療を記載した。5月12日には、緩和ケアマニュアルの導入説明会が呉市医師会館で開かれた。今後は簡易版マニュアルを作成する予定で、将来的には地域連携パスへつなげることも視野に入れている。

 同地域には、呉医療センターのほか、呉共済病院、中国労災病院など400床以上の公的病院が3つ、200床以上の公的病院が2つ存在する。

 呉地域保健対策協議会は、これまでに、脳卒中のほか、C型肝炎、急性心筋梗塞など6つの疾患の地域連携パスを作成している。現在、同協議会では、緩和ケアを含めた5大がん(胃・肺・大腸・肝臓・乳がん)のマニュアル作成に取り組んでおり、今回は呉医療センター緩和ケア科長の砂田祥司氏が中心となって緩和ケアマニュアルを作成した。呉地域の緩和ケアの標準化を目指す。

 マニュアルでは、WHO方式マニュアルについて記載しているが、砂田氏は、「WHO方式にこだわり過ぎると患者のQOLが低下する。患者ごとに細かな配慮をすることが重要」と注意を促した。

 非オピオイド鎮痛薬のNSAIDsについては、「非常に使いやすい薬だが、胃潰瘍の予防が一番重要」とした。

 マニュアルには、患者のオピオイドに対する誤解を解くためのポイントも記載している。

 オピオイドは、使用量と予後には相関がなく、命を縮める副作用はないことや、医師の指導の下で適切に使用すれば中毒になる可能性は非常に低いことなどを解説している。そのほか、オピオイドの使用目的や副作用を患者に説明するよう記している。

 砂田氏は、「オピオイドを使用するに当たり、最低20-30分の説明が必要。ケースによっては、薬剤師・看護師の協力が必要」とし、関係者らに協力を求めた。

m3.com 2009年5月20日
第109回日本外科学会 期待される外科医による緩和医療
 外科医はがん患者のすべての経過を見られる立場にいる。特にわが国ではその傾向が強い。このため,緩和医療における外科医の役割には,専門分化が進みつつある今日でも大きな期待が寄せられている。福岡市で開かれた第109回日本外科学会のシンポジウム「外科医にとっての緩和医療の位置づけ」では,外科医による緩和医療の現状が報告された。

総合的な緩和医療導入で生存期間,経口摂取期間が約2倍に

 2003年,わが国で初めて緩和医療学講座を開設した藤田保健衛生大学外科・緩和医療学の東口高志教授らは,代謝,栄養,免疫,疼痛,精神心理など,あらゆる観点からがん患者の緩和医療を行い,QOLや生命予後が著しく改善する成績が得られたことを明らかにした。

術前後に抗酸化栄養素投与

 東口教授らが目指しているのは「身体にも精神にも優しいがん治療」だ。これを達成するため,患者それぞれに対して,エネルギーバランスの維持,代謝亢進の制御(蛋白異化の抑制),生体侵襲の軽減(抗酸化作用の促進),創傷治癒の促進,臓器再生能・蛋白合成能の促進,免疫能の維持・促進および感染抑制など,総合的な取り組みを行っている。

 例えば,エネルギーバランスを是正,維持するために,分岐鎖アミノ酸(BCAA)の経腸栄養を実施している。肝切除後などの患者では,免疫能と正相関するエネルギーバランスがマイナス側に傾いており,一般的なアミノ酸点滴はもとより,BCAAの点滴を行っても改善することは難しいが,BCAA経腸栄養法ならプラス側へ是正することができる。

 生体侵襲の軽減を図る目的では,抗酸化作用がある栄養素を投与している。アルギニン,グルタミン,グルタチオン,またはビタミン類,微量元素,ポリフェノール化合物など,抗酸化作用を有するさまざまな栄養素を手術4時間前まで投与し,さらに術後15時間以内に再開する。

 創傷治癒を促進するためには,多価不飽和脂肪酸の投与を行う。ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といったn-3系脂肪酸と,もう一方の多価不飽和脂肪酸であるn-6系脂肪酸を同時に投与すると,それぞれ単独投与の場合と比べて,創傷治癒までの期間を有意に短縮できることがわかっている。

 免疫能の維持・促進と感染抑制への対策としては,前出の各種栄養素や核酸,インスリン様成長因子(IGF)-1,食物繊維,オリゴ糖などを経口・経腸投与する免疫学的栄養療法を導入した。こうした治療を導入すると,術後感染症の発生率が外科手術全体で約4分の1に低下することが確認されている。

新規褥瘡が41%から2〜6%に減少

 東口教授らはさらに,緩和ケア栄養サポートチームを立ち上げ,実践してきた。おもな活動内容は次の通り。栄養障害(医原性)の解析・是正,食欲・経口摂取の回復,微量栄養素による症状緩和・知覚異常是正・褥瘡予防,コエンザイムQ10・高脂肪含有食による呼吸症状緩和,輸液実施基準の設定(悪液質の有無評価含む),間接熱量計による安静時エネルギー消費量の測定。

 同時に,癒し環境の構築,疼痛緩和を含む全人的医療の実践,患者間・家族間コミュニティーの構築なども緩和医療の柱とした。

 今回,こうした新システム導入後5年間における効果を,緩和ケア病棟に入院した終末期がん患者699例で検討した。その結果,入院2〜4週後には患者の54%で栄養状態を良好に維持でき,導入前に比べて生存期間や経口摂取可能期間が2倍近くに延長した。

 また,疼痛管理を積極的に行ったが,麻薬使用量は明らかに減少した。新規褥瘡は導入前に41%で認められたが,導入後2年以降は2〜6%であった。カテーテル関連血流感染症も導入前の8%から,導入後には4〜5%に減少し,皮下埋め込み型カテーテル使用後は1%台に抑えられたという。

メディカルトリビューン 2009年5月21日
慢性疾患若年患者の終末期 本人参加の"事前ケア計画"が重要
 重篤なイベントが生じる前に終末期の計画を立てておくことで,患児やその家族,医療提供者との間の信頼感やコミュニケーションが強化できる。米国立小児医療センター若年成人医学部門のMaureen E. Lyon博士らは,慢性疾患の若年患者と家族が重篤なイベントが発生する前に終末期の希望についてよく話し合うことは,若年患者の回復を望む気持をくじいたり,情動的あるいは精神的な痛手を負わせることにならないと発表した。

子供は医学的決定への参加を希望

 この研究は,若年患者と家族が専門家の助けを得て建設的な計画を立てることができれば,慢性疾患に関する医学的決定と治療に関する親子間の意見が一致しやすくなり,良好なコミュニケーションが取れるとの考えに基づき行われた。同研究は"事前ケア計画"を検討するランダム化コントロール試験としては初めてのものとなる。事前ケアには,終末期に生じる有害事象や緩和ケア,下すべき決断についての説明が含まれる。

 Lyon博士らは,家族と生活している若年HIV感染者とその親(38親子ペア)を対象に,専門的に構築されたプログラムを用いて,家族間の結束が強まるか,会話の質が上がるか,決断がスムーズに行えるか否かを検討した。その結果,終末期の決定について話し合うことが,家族間の結束,若年者の満足感などを高めることがわかった。

 同博士は「われわれは以前から,若者が自身の慢性疾患に対し自分で医学的決定を下したいと望んでいることを知っていた。多くの親と医療提供者は,将来起こるかもしれない生命を脅かすイベントについて考えることさえ困難であるのに,ましてや,そのことを当の本人である子供と話し合うことなど考えられないかもしれない。しかし,専門家のアドバイスを受けることにより,希望を失わずに思いやりをもって話し合うことができるだろう」と述べている。

 研究責任者で同センターのAdded Lawrence D'Angelo博士は「今回の研究から,若年者は一連の終末期ケアを理解し,決断に参加できることがわかった」と述べている。

メディカルトリビューン 2009年5月21日
第38回日本慢性疼痛学会 がん疼痛には多くの治療手段を選択肢に
 がん疼痛治療は,1986年に発表された世界保健機関(WHO)方式がん疼痛治療法により,薬物療法が中心となっているが,放射線療法や神経ブロック,手術療法なども含めた多くの手段を駆使した対応が重要となっている。神戸市で開かれた第38回日本慢性疼痛学会のシンポジウム「がんの痛みに対する多面的治療」では,各領域からがん疼痛に対する治療が発表された。

薬物療法を基本に難治性疼痛には他の治療法も考慮

 がん疼痛治療における薬物療法として,種々のオピオイド製剤が臨床導入され,現在も新たな製剤の開発が進められている。昭和大学病院緩和ケアセンター・樋口比登実センター長は,がん疼痛治療における薬物療法の現状を示し,薬物療法のみで多くの疼痛管理が可能であるが,それだけでは解決できない難治性疼痛には,他の治療手段も考慮すべきであると述べた。

薬物療法のみでは約2割に疼痛残存

 がん疼痛に対する薬物治療を巡る背景として,1986年にWHO方式がん疼痛治療法が発表され,オピオイドの使用が推奨された。わが国でも,この10年間における麻薬消費量の推移を見ると,モルヒネは減少傾向にあるものの,オキシコドンとフェンタニルが増加傾向を示し,諸外国と比べてまだ少ないが,全体としての麻薬の使用量は増加の一途をたどっている。国内の動きとしては,2006年度の病院・診療所における麻薬管理マニュアルの改訂により,麻薬の取り扱いが緩和され,2008年度には診療報酬改訂により,がん性疼痛緩和指導管理料が新設され,WHO方式がん疼痛治療法に基づいて「麻薬」を処方する場合に算定が可能となり,これらは麻薬の使用増加を後押しするものと思われる。

 こうした状況を踏まえ,樋口センター長は「オピオイド消費量の増加は,同薬の使用に対する抵抗感がなくなってきたためと思われるが,逆に痛みのアセスメントが十分になされないまま,安易に処方されることが多くなっているのではないか。薬物療法の基本は痛みのアセスメントであり,それによって適切に薬剤を選択しなければならない」と強調した。

 がん疼痛に対する薬物療法に関しては,WHO方式がん疼痛治療法に基づいてモルヒネを中心とする鎮痛薬を適切に使用することにより,がん疼痛の約8割はコントロール可能であるとされている。しかし,約2割は薬物療法だけでは改善できない難治性疼痛であり,こうした場合は再度,痛みのアセスメントを行い,ペインクリニシャンや他科の医師と相談することが重要であり,必要に応じて神経ブロックや放射線療法などが施行される。

 同センター長は「治療選択肢が多く,各科と連携が取れており,また,療養体制の調整がきちんとできているほど,良好な疼痛コントロールが可能であり,患者のQOLは向上すると思われる。がん疼痛管理において薬物療法が基本であることは間違いないが,多くの治療選択肢を備えておくことも重要である」と述べた。

メディカルトリビューン 2009年5月28日
Dr.中川のがんから死生をみつめる:痛みはゼロにできる
中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長

 今回も、東京大安田講堂で開催された公開講座で寄せられた質問に答えたいと思います。

 「米国でがん検診の受診率が高いのはなぜか。数字が間違っているのでは」という質問をいただきました。

 間違ってはいません。がん検診は、日本の場合、子宮頸がん、大腸がん、乳がん、肺がん、胃がんに有効といわれています。どんなに生活習慣に気をつけても、がんができる場合があります。そのようながんも、検診で早期発見できれば、治すことが可能です。ところが、最も有効と考えられる子宮頸がんでも、日本の受診率は2割程度です。一方、米国の女性の84%が受けています。乳がんなども、同様の傾向です。

 米国の場合、医療費を抑える意味からも病気の予防が重視されています。がん検診は基本的に無料、かかりつけ医やボランティアも受診を後押しします。日本でも、今後は開業医の役割が重要になるでしょう。

 乳がんは、「自己検診」ができる唯一のがんです。風呂でタオルやスポンジを使わないで、手でお乳を洗ってみてください。脇の下にしこりがないかもチェックしてください。ご自身で乳がんを見つけた山田邦子さんの言葉ではありませんが、早期の場合、「肉まんに梅干しのタネ」のような感触が特徴です。

 がんの症状をとる緩和ケアへの質問も目立ちました。まず、がんの痛みはゼロにできることを覚えましょう。切り札は、モルヒネなどの「医療用麻薬」です。飲み薬など普通の薬と同じように使います。がんの痛みはとった方が長生きする傾向もあります。しかし、日本の1人あたりの医療用麻薬の消費量は、米国の20分の1にすぎません。

 「セカンドオピニオンを受けたいが、担当医が応じてくれない」という相談もありました。車など高価な商品を買うとき、多くの人がカタログを集めるでしょう。命がかかったがんの治療を納得して受けるには、なおさら「2番目の意見」が必要です。勇気を出してお願いしてみてください。そして、がんについての日本の実情を変えていくため、今必要なのは、学校でのがん教育と考えています。

毎日新聞 2009年6月9日
終末期医療を考える…「どう生きる」医師と話そう 医療ルネサンス 仙台フォーラム
 どうやって、自分らしい最期を迎えるか。納得できる理想的な最期とは――。「終末期医療を考える」をテーマとした「医療ルネサンス仙台フォーラム」が5月21日、仙台市青葉区の電力ホールで開かれた。終末期医療や在宅ケアに詳しい3人の専門家が、自らの取り組みや意見を紹介しながら白熱した議論を交わし、集まった600人余りの市民は、真剣な面持ちで聞き入った。

◇ パネルディスカッション ◇

パネリスト
 名古屋学芸大学長、井形昭弘さん

 仙台往診クリニック院長 川島孝一郎さん

 穂波の郷クリニック・ゼネラルマネジャー(宮城県大崎市) 大石春美さん

コーディネーター
 前野一雄・読売新聞東京本社編集委員


◆医療の役割
 ――患者が死の間際に満足感を得られれば理想的ですが、医療はどんな役割を果たせるのでしょうか。

 井形 痛みが解決しても、死んだらどうなるのかなどの精神的な悩みは尽きません。健康寿命を全うして、その人なりの安らかな最期を迎えられるように支えるのが医療の責務でしょう。これからの医療倫理には、延命がその人の幸せにつながるのかという視点が必要です。

 ――医療が逆に最期の瞬間の満足を妨げているところはありませんか。

 大石 満足は、自分の運命を受け入れ、悔いのない生き方をした先にあります。でも、医師や看護師に遠慮して、意思表示ができなかったという話もよく聞きます。患者が胸の内を素直に伝え、新しい自分や感動を発見できるような環境作りが大切です。

 ――患者の希望を実現するために、どんな努力を心がけていますか。

 川島 死の瞬間は、自分では知ることができません。つまり満足な生は経験できても、満足な死かどうかは判断できない。だから、患者と腹を割って一生懸命話し合い「ああよかった」と共感できる生き方を探していく。その積み重ねの中で、ある日、死が訪れると考えています。

 ――「こんな最期を迎えたい」と自ら提案する患者はいますか。

 大石 きょう会場にみえた筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症の佐々木すみ子さんは、人工呼吸器をつけない道を選びました。地元の中学校で講演し、生の意味を問いかけるなど挑戦の日々を続けています。どう死ぬかではなく、どう生きるか。その勇気に感動するばかりです。

◆「在宅」支援
 ――自宅での最期を望んでも、現実には「やむを得ず病院で」という方も多いのでは。


 井形 高齢者は、最期はやはり住み慣れたところを望みます。国はこうした要望に応えるため、新しいタイプの高齢者住宅の充実を推進しています。高齢者住宅は医療と福祉を完備し、最期まで自分らしい生活をサポートする。みじめな死を迎えるような事態は、いずれなくなるはずです。

 ――在宅医療を普及させる上で課題は。

 川島 国は2006年に「在宅療養支援診療所」という制度を作りました。しかし、実際には、在宅医療にたどりつけずにいる人が大部分です。その原因は、生きることを十分に説明しない医者にあります。説明が不十分なまま、リビングウイルを作成するのは本末転倒で、安易に同意してはいけません。

 ――日本の家庭では、死は話題から遠ざけられがちです。本当にそれでいいのでしょうか。

 井形 延命を拒否するのではなく、徹底して続けてほしいというのも、またリビングウイルです。重要なのは本人の意思を尊重することです。考えが変われば撤回や変更もできます。みなさんが健康なうちに、家族ともよく話し合いながら、ぜひ自分の死について考えてみて下さい。

読売新聞 2009年6月18日
肺がん末期の中枢気道狭窄 テーパー型スパイラルZステントが有用
 進行肺がんなどで中枢気道狭窄を来し,重症の呼吸困難を呈した症例への対処として,気管支鏡を用いた気道ステント留置術が行われている。日本大学練馬光が丘病院内科の細川芳文教授は,テーパー型スパイラルZステント(TSZS)を挿入した25例の臨床成績を示し,この方法が肺がん末期の中枢気道狭窄例における緊急避難的な窒息回避だけでなく,QOLの改善にも有用であると報告した。

短時間で留置可能で,直ちに効果

 TSZSはスパイラル形状によって屈曲部への留置が可能であり,かつ径が先細りしたテーパー形状によって気管から主気管支にかけての留置が可能な金属ステントである。細川教授は,長い1個のTSZSを気管下部から左右いずれかの主気管支にかけて挿入した25例(男性17例,女性8例,平均年齢66.2歳,51〜88歳)について成績をまとめた。

 対象はいずれも酸素吸入を受け,強度の呼吸困難を呈して来院した患者で,原疾患は肺がん23例,食道がん(術後)1例,大腸がんの肺転移1例であった。

 ステント留置後にがん治療ができた症例は25例中10例のみで,化学療法のみが9例,化学療法と放射線療法が1例。以上から,末期の肺がん患者がおもな対象と言える。15例では気管から左右いずれかの主気管支にかけて1個のTSZSを挿入し,10例ではそのほかに対側主気管支にも短いスパイラルZステントを挿入して,λ型留置または人字型留置とした。

 結果として,13例で酸素吸入を中止でき,6例が減量,4例が継続または増加であった。呼吸困難度を表すHugh-Jones分類は,ステント挿入前に全例が最も重いV度以上であったが,挿入後は I 度9例,II度5例,IV度11例と改善が認められた。16例が退院し,9例は退院に至らなかったが,退院可能であっても患者本人の希望により入院を続けた例もあったという。23例が既に死亡しており,死因は悪液質9例,がん死3例,その両者10例,肺炎1例であった。生存日数は平均105.5日(7〜528日)。

 同教授はTSZSの長所として,(1)硬性気管支鏡や全身麻酔の必要がない(2)短時間で留置ができ,直ちに効果が見られる(3)湾曲が可能で,気管支側枝を閉塞しない(4)留置後に分泌物を頻回に吸引する必要がない―ことを挙げた。ただし,全例にマクロライドの少量長期投与を行っているという。

 一方,短所としては,(1)留置後に位置の修正ができない(してはいけない)(2)ステント内に再狭窄を来すことがある(3)抜去が難しい(抜去の必要のない例に適用する)―ことを指摘した。

 今回の25例ではTSZSの挿入・留置に伴う重大な合併症は全く見られなかったことから,同教授は「悪性疾患の終末期で気道狭窄を来した例に対する窒息回避,およびQOLの面から見た場合,TSZSは有用なairway stentと言える」と結論付けた。

メディカルトリビューン 2009年7月16日
緩和ケアチームの課題に焦点 終末期がん患者への対応も話題に
 第14回日本緩和医療学会学術大会が19、20日の2日間にわたり、大阪市で開かれた。今大会のテーマは「緩和医療−原点から実践へ−」。緩和ケアチームの課題を取り上げた報告があったほか、NBM(Narrative Based Medicine)の観点から緩和医療の在り方を考えるシンポジウムも組まれた。終末期がん患者への対応も話題となった。

 学会2日目には「患者の心に寄り添う〜緩和医療におけるNBMの観点〜」をテーマにシンポジウムが開かれた。京都大医学部付属病院がんサポートチームの岸本寛史氏は、病を患者の人生の中で展開する1つの「物語」ととらえるNBMについて、患者からの物語の聞き出しを重視する考えを紹介。富山大保健管理センターの齋藤清二氏は、医療の現場でNBMがEBM(Evidence Based Medicine)を包括し得るとの持論を展開した。

  岸本氏によると、NBMとは病を患者の人生の中で展開する1つの「物語」ととらえ、患者を物語の語り手として尊重する手法。同時に、医学的な疾患概念や治療法を「医療者側の物語」ととらえ、両者の物語をすり合わせて「新しい物語」を作り出すプロセスを治療と位置付ける。

 岸本氏は「痛みをめぐる物語」と題して、尿管がん患者のエピソードを紹介した。患者はオピオイドで嘔気があった経験から、痛みを我慢してでもオキシコドンの使用を拒否し続けていた。しかしNBMに基づいたアプローチによって、最終的にオキシコドンの投与を受け入れたという。

 齋藤氏 は、岸本氏は患者と医師との具体的なやり取りの中から、患者の物語(=病)をまず聞き出すことをポイントとして指摘。このケースでは“痛みを消したい”というのは医療者側の物語であり、そのことに影響され過ぎると、「(患者の物語を無視して)痛みばかりを気に掛ける聞き方になってしまう」と注意を促した。

 また、仮に両者の物語がずれていても、擦り合わせて新しい物語を作り出すことは可能であるとの見解を提示。ただそれには、両者の違いや、擦り合わせの必要性を自覚しておくことが不可欠であるとした。

 齋藤氏はNBMとEBMの関係について、二項対立的な理解が主流であると説明。その上で、両者の世界観は異なるものの、患者と医師との対話の現場において、NBMはEBMを包括・統合し得るとの考えを強調した。

「NBMにエビデンス取り込める」

 NBMの手法がうまく機能すれば、医療者と患者との間で対話が進み、その結果、治療に関する共有の物語が作り出される。その物語を構築する外部からの要素として、エビデンスもNBMの中に取り込まれるという。

 齋藤氏はエビデンスの具体例として、インフォームド・コンセントなどを提示。「NBMの構造の中にエビデンスは十分に取り込むことができる」と力説した。

m3.com 2009年7月17日
腹水をろ過、再び体内へ 改良型で目詰まり解消
 がん性腹膜炎などのため、がん細胞が腹腔に広がり水がたまる難治性腹水の治療に、腹水を抜いてろ過し、栄養分や免疫成分は体に戻す「腹水ろ過濃縮再静注法」(CART)が注目されている。装置の目詰まりが多かった従来の方式を改良。患者は腹部の張りや息苦しさが改善した。「腹水は抜くと体が弱る」との考えが根強いが、開発者らは「抜いたら元気になる」と呼びかけている。

▽栄養も体外に

 難治性の腹水は、胃がんや卵巣がんなどによるがん性腹膜炎のほか肝硬変でも見られ、おなかがぱんぱんに膨れて息苦しくなったり食事が取れなくなったりする。

 水分や塩分の制限、利尿剤投与のほか、腹腔に針を刺し腹水を抜く治療が行われてきたが、効果は1週間程度と短い。防府消化器病センター (山口県防府市)研究所長の松崎圭祐医師は「栄養状態に関係するアルブミン、免疫に関係するグロブリンも一緒に捨ててしまうため、さらに腹水がたまりやすくなり、繰り返すたびに全身状態が急速に悪化する」と説明する。
 この欠点を補うのがCART。抜いた腹水を特殊な膜に通し、血球や、身体に有害ながん細胞、細菌などをろ過して除去する一方、アルブミンやグロブリンは回収し、約10分の1の量に濃縮して静脈から患者に戻す。1981年に保険も適用された。

▽外側から

 だがこの方法は「肝硬変なら問題ないが、がん性腹膜炎の腹水では、がん細胞や白血球などの細胞成分が多いため膜が目詰まりし、中止するケースも少なくなかった」と、松崎さん。

 松崎さんは2001年から医療機器メーカーと共同で改良に着手。合成高分子化合物のポリスルホンなどでできた中空糸膜のフィルターを使い、腹水を内側から外側に押し出してろ過する従来の方法を、外側から内側にろ過して詰まりにくくする方式に変えた。

 昨年夏時点で40人の患者に計130回実施。1回に抜く腹水は3千〜7千ミリリットルで、最も多かった肝硬変・肝がんの男性患者には、3年3カ月の間に28回治療を行った。アルブミンを補う血液製剤は一度も使わずに栄養状態は徐々に改善、実施間隔も長くなった。

 松崎さんは「がんの腹水の場合、モルヒネなど効果の高い鎮痛薬でも腹部の張った感じが軽減されない場合が多いが、CARTなら呼吸困難なども含めた自覚症状はすみやかに改善し、苦痛を取り除ける」と説明。

 患者は食欲が増して行動範囲も広がる。副作用として軽い発熱などが見られる場合があるが、ショックなどの重い症状はこれまでにないという。

▽積極治療

 松崎さんは昨年、多くの医療機関にある輸液ポンプなどを使った手軽なCARTシステムを開発した。治療前の準備が10分ほどで済み、腹水処理の効率も高く、膜の目詰まりを除去する機能で粘液の多い卵巣がんなどにも使えるようになった。

 現在、東京大のグループに協力して進めているのが、胃がんによるがん性腹膜炎患者の腹腔内に抗がん剤を投与する治療と、CARTとの併用。これまで、抗がん剤投与前に抜いた腹水はすべて捨てていたが「新開発のCARTを組み合わせ、効率よく栄養、免疫成分を回収して血管内に戻せば、より治療効果が高まるのでは」と松崎さん。

 今年4月にはCARTの普及などを目的にした研究会も設立された。松崎さんは「従来は緩和ケアの一環としてほそぼそ行われることが多かったCARTを、がん性腹膜炎に対する積極的な治療と位置づけ、標準治療の脇役に育てたい」と話している。

共同医療健康ニュース 2009年7月21日
透析を希望しない超高齢女性への緩和ケアの工夫
磯崎 泰介 聖隷浜松病院腎センター長

@末期腎障害患者に対する治療の選択肢は血液透析だけではない。特に超高齢者への透析はプラス面よりマイナス面のほうが大きいこともある 。利尿剤などによる対症療法で改善することもある。

A腎性貧血にはエリスロポエチンが有用だが使用頻度は低く、普及が望まれる 。

B自宅介護の際は、嚥下障害や認知症といった高齢者ならではの障害も含めたADL評価が必須 。

Cケアプランの決定には、家族の事情や意向も考慮する。

D遅すぎる紹介は治療の選択肢を奪う。最低でも腎機能が15%を切ったら腎専門医に紹介する。

メディカルトリビューン 2009年7月23,30日
緩和ケアとプライマリケアの融合を目指す 第14回日本緩和医療学会
 日本緩和医療学会では緩和医療の専門医認定制度が始まり,緩和医療の専門性あるいは一般性が問われている。また,行政主導型の大規模研究「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」が全国4地域で開始され,緩和ケアは地域医療のなかに広がってきている。大阪市で開かれた第14回日本緩和医療学会のパネルディスカッション「緩和ケアとプライマリケアの接点」では,地域医療と接点を持ちつつある緩和ケアの現状が報告され,今後の方向性は緩和ケアとプライマリケアの融合であることが示された。

〜初期臨床研修のプライマリケア研修〜

緩和ケアの基本的態度の習得に有用

 2004年4月から新たな形で開始された初期臨床研修制度では,プライマリケアの基本的診療能力の習得が目的に挙げられている。佐久総合病院(長野県)総合診療科・地域ケア科の山本亮医長は,同院でのプライマリケア研修,緩和ケア研修への取り組みを紹介し,初期臨床研修でプライマリケアを習得することは,緩和ケアに必要な基本的態度の習得につながると述べた。

プライマリケアと緩和ケアはオーバーラップ

 プライマリケアの基本的診療能力は「目の前の患者の気がかり」にアプローチできることであり,緩和ケアは病期や疾患にかかわらず苦痛の予防と軽減を図り,QOLを向上させることであると定義されている。山本医長によると,このプライマリケアの理念と緩和ケアの基本原則はオーバーラップするという。すなわち, QOL・コミュニケーションの重視,全人的アプローチ,家族も含めたケアの点である。そして,これらを初期臨床研修期間において学ぶことが重要であり,将来どの専門領域に進むにしても必要な能力であることから,医療者としての基礎となる部分であるという。

 こうしたことを踏まえ,同院では総合診療科を中心にプライマリケア研修と緩和ケア研修が行われている。

 研修では,担当医として患者を受け持つことを通じて基本的診療能力の向上,回診や面談の場を通じてコミュニケーション能力の向上を図っている。また,特に非がん患者の臨終の場の経験を重視している。

 非がん患者のEnd of Life Careが困難な点として,(1)どこまでが回復可能な状態でどこからが回復不可能なのかの判断が,がん患者に比べて難しい(2)非がん患者では予後予測が難しく,終わりの見えない介護が続く可能性がある(3)コミュニケーションが取れない場合が多く,治療目標をどこに定めるのか,患者が何を望んでいるのかがわからないために患者のQOLを向上させることが難しい〜ことが挙げられる。このような場合には,多職種で臨床倫理カンファレンスを行い,検討する。そのなかで研修医は,医学的な正解がいつも正しいとは限らないことを学び,医師の視点と他の職種の視点の違いについて知ることができる。

 地域ケア科の地域医療研修においては,研修医が実際に在宅ケアの現場を経験できることから,その後,病院で働くにしても,在宅療養のイメージを持ちやすくなると考えられる。

 同医長は「初期臨床研修において重要なことは,プライマリケアの基本的な診療能力の獲得である。これは緩和ケアを行ううえで必要な基本的態度を身に付けることにつながり,将来どの専門分野に進んでも重要である」と結論付けた。

メディカルトリビューン 2009年8月13日
終末期医療を巡る新たな知見 患者と家族の不安にどう対処するか
 終末期医療に関する複数の研究が発表された。延命治療の在り方を巡る医師との事前の話し合いや,終末期に必要な医療費の相談,人種・民族による終末期医療費の差,終末期における患者・家族の医師に対する心理的変化などを明らかにしたものである。

医師との事前協議で医療費削減

 65歳以上の高齢者を対象とした米国の公的医療保険であるメディケアによる支払いの3分の1は,毎年死亡する5%の受給者に費やされている。また,死亡前1年間に要した医療費の3分の1が死亡した月に費やされているなど,終末期医療に支出される医療費の不均衡が指摘されている。先行研究により,これらの医療費の多くは,蘇生術や人工呼吸器の装着など延命処置によるものであることが明らかとなっている。

 ダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)精神腫瘍学・緩和ケア研究部のBaohui Zhang氏らは,終末期医療の在り方について事前に医師と話し合っていた患者では,死亡直前の1週間に要する医療費が低くなると発表した。これは,米国立精神保健研究所と米国立がん研究所による,進行がん患者を対象とした多施設縦断研究であるCoping With Cancer研究の参加者627人中603人を対象にした聞き取り調査の結果,明らかとなった。

 同氏らは,ベースラインとして同研究が開始された2002〜07年に,終末期医療の在り方について医師と話し合ったかどうかを調査し,死亡するまで追跡した。

 その結果,ベースライン調査では188人(31.2%)が終末期ケアについての希望を医師と話し合ったと報告した。終末期医療の在り方について医師とあらかじめ協議していた被験者では,死亡直前の1週間に要した平均総医療費は1,876ドルであったのに対し,協議していなかった被験者では2,917ドルであった。

 被験者の死亡後に,介護者に行った聞き取り調査の結果,終末期にかかった医療費が高い被験者ほど,死亡直前の1週間の「死の質(quality of death)」が低いことが示された。

「見捨てられた」と感じるとき

 ワシントン大学内科のAnthony L. Back教授は,死を目前に控えた患者や家族が医師から「見捨てられた」と感じるのは,(1)死の目前で治療の継続性が途切れ(2)死の直前または死後に心の整理が付いていない〜という2つの要素から生じると報告した。

 同教授らは,(1)治療不能のがんまたは進行性肺疾患で,余命1年以下と診断された患者55人(2)これらの患者の治療・介護に当たった医師31人(3)家族介護者36人(4)看護師25人―を対象に,研究登録時と4〜6か月後および12か月後の時点で聞き取り調査を行った。

 同教授らは「患者や家族介護者は,早い段階から担当医から見捨てられることを恐れ,患者・家族が頼みの綱にしてきた医師による専門的な治療が受けられなくなるのではないかと危惧していた。医師は患者や家族が抱える恐怖に気付いており,安心させたり,継続的に治療に当たることで,不安を解消しようと試みていた。しかし,それでもなお,死期が迫るにつれ,担当医による定期的な診療の機会が減り,関係性が薄れることから,見捨てられたという感情を抱く患者や家族もいた」と述べている。

 さらに,同教授は「死期が迫ったときや死後には,どのように心の整理を付けるか悩むこともある。一方で多くの医師は,患者や家族の心の整理がすんでいないと感じていながらも,患者や家族を見捨てたとは自覚していない」と述べ,「この知見から,臨床医は,看護師などチーム医療のメンバーとともに,ホスピス施設外での緩和ケアや患者や家族の看取りに際する心の整理の付け方を支援することにより,患者に対し『医師として決して見捨てていない』という姿勢を示すことの必要性を認識できるだろう」と述べている。

自殺幇助希望の陰にある不安

 オレゴン州では,全米で唯一,医師の幇助による自殺が法的に認められている。オレゴン保健科学大学精神科のLinda Ganzini博士らは,医師による自殺幇助を希望している患者の動機は現在の症状ではなく,むしろこれから先に予想される苦痛や自律性を失うことへの不安であることを明らかにした。

 同博士らは,医師による自殺幇助を希望しているか,あるいは関連の患者の権利擁護団体に接触した56人の患者に対して聞き取り調査を行い,動機となりうる29の設問に対し1(重要ではない)〜5(最も重要)の5段階で評価した。

 その結果,最も重要な理由として挙げられたのは,(1)死に際して身辺整理をし,自宅で死にたいから(2)自律性が失われるから(3)これから先の苦痛やQOLが下がること,自分で自分の世話ができなくなることへの不安―などであった。現在の身体的な症状に関しては,理由として重要ではないと評価された。

 同博士は「この知見は,初めて患者が臨床医に自殺幇助を希望した際には,身体的な症状,あるいはそのときのQOLが理由ではなく,この先に被るであろう耐えがたい苦痛に対する予見から,自殺幇助を希望していることを示唆している。患者の死に対する希望はそれほど強いものではなく,自分の人生は質が低くて意味がなく,無価値であると信じているわけではない。むしろ,耐えられそうにないこれから先のリスクから身を守っているようだ」と分析。「医師による自殺の幇助を依頼される事態に直面した際には,医療者は患者が物事を自らコントロールできる感覚を支え,これから予見される症状をどのように管理するかについて教育し,安心させる必要がある」と述べている。

メディカルトリビューン 2009年8月20日
患者の痛み(ペイン)
患者の痛み(ペイン)
 (1)身体的痛み(2)精神的痛み(3)社会的痛み(4)スピリチュアルな痛みからなる「全人的」なものとされる。定義したのは、世界初のホスピス病院を英国に開設したシシリー・ソンダース(1918―2005)。体の痛みを取り除くのがホスピス医療(緩和ケア)の大前提だが、現在はスピリチュアルな痛みのケアが重要視されている。定義は定まっていないが、死に直面して生じる自己消失の恐怖や、人生への悲痛などを指すとされる。

 末期がんなど重い病にある人が「生きる意味がない」「死にたい」と口にしたとき、どう受け止めればいいのだろう?。ホスピス医療の実践者として知られる山崎章郎医師と、医療倫理が専門のカール・ベッカー京都大大学院教授が、死に直面した患者・家族の「痛み」について対談した。カウンセリングや傾聴の研修などに取り組んでいる「市民ホスピス・福岡」の主催(西日本新聞社など後援)。「自分らしく生きるということ 人間どこからきて どこへいくのか」と題し、8月1日に福岡市であった対談を紹介する。

 ●本当の話を
 
 山崎 章郎氏 ホスピス医(以下、山) たくさんの患者の人生に同行してきた。がんの痛みは時に人間性を奪うほど強いが、(鎮痛薬で)取り除くことができる。しかし次第に体力が衰え、ベッド上で排せつせねばならなくなったり、シャワーを浴びたりできなくなると、死が近いと分かる。「もう終わりにしたい」と周囲に訴える場面が出てくる。スピリチュアルペインだ。
 
 カール・ベッカー氏 医療倫理研究者(同、ベ) 私は末期のがん患者に「終わらせるべきことを終わらせましたか」と尋ねてきた。会場の皆さんも、遺言を書いていますか? 尊厳死宣言は?(数人のみ挙手) このように、やるべきことは残っている。特に尊厳死を望むのか延命治療を選ぶのかについては、決めておかないと後々まで家族を悩ませることにもなる。
 
  亡くなるまでの数週間は体力の低下が著しく、話すことも書くことも難しくなる。私も「大切な話は今のうちに」と助言している。

  感謝したり、仲直りしたい人はいませんか、とも聞く。「あなたは伝えたいことを伝えることができます」と。
 
  やるべきことはたくさんある。自分の葬儀や、骨つぼを決めておきたいという患者もいた。死を認めるのはつらいが、認めてしまうと大事な話ができる。
 
 「私はあとどれくらいですか」と患者によく聞かれる。その場合、私は逆に「あなたはどう思いますか」と尋ねる。「あと○日くらいでしょうか」と返ってくると「私もそう思います」と認めてしまう。本人は体が弱ってきたことを十分感じている。そんなことありませんよ、と否定してしまったらコミュニケーションは成立しない。
 
  確かに死を認めるのはつらい。でも患者本人が一番話したいことは、自分はこれからどうなるのか、あの世とは何か、そして自分の人生は何だったか。本当に話したいことを口に出せないのはもっとつらい。
 
  家族が本人の死期を認めず、本当の話ができなかったために後悔している家族はたくさんいる。重要なことは、うそをつかないことだ。

 ●そばにいる
 
  「死にたい」と言われたら「一生懸命看病してきたのに」と自己否定されたと感じる家族もあるかもしれない。でも、あなたの訴えを私は理解していますよ、と受け止めることでつながりができる。
 
  死にたい、という言葉は「一緒にいてほしい」ということではないか。病を治すことはできなくても、そばにいることはできる。
 
 「生きる希望がない」と訴える患者もいるだろう。希望はかつて治療だったが、もはや治療はかなわない。私は「あの世で会いたい人はいるか」と聞く。「あの世なんてあるか分からん」と答える患者はいない。誰もが「○○に会いたい」と話してくれる。それもひとつの希望ではないか。
 
  人は生きる意味を見失ったとき、自分の力を超えた大きなものとつながったり、または自分の内面に希望を見いだす力を持っている。「死にたい」と言い出したときは、本来持っている力を発揮し始めたととらえることもできるのでは。
 
  人類はネアンデルタールの時代から、あの世があると考えてきた。宗教宗派の問題ではなく、死は終わりではないことを知っていた。阪神大震災の後には、亡くなった人の声や気配を感じた人がたくさんいる。それは否定すべき体験ではなく、大事な体験だ。
 
  お盆に迎え火、送り火をするように、私たちは文化的情緒の中で生きている。死は別れではなく、また会いましょう、ということ。病は治ったとしても死は必ず訪れる。有限の時間の中で「次なる希望」を見いだしながら私たちは生きている。

西日本新聞 2009年8月24日
腫瘍外科医・あしの院長の地域とともに歩む医療
〔 第11回 〕地域緩和ケア支援ネットワーク
蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

 地域緩和ケア支援ネットワークの医療支援システムは,“黒子”としてネットワークを支えます。このシステムを支えるチームには,医師,看護師,薬剤師を含め,医療に関係する多職種が参加しますが,最も重要な役割を果たしているのが訪問看護師です。

 訪問看護師の役割は,病状の観察,苦痛症状の評価,症状緩和治療の効果の評価,約束指示に基づく治療の実施,医療機器の管理と家族への指導,家族に対する看護および介護の指導,清拭,看取りの指導などのほか,医師と患者家族との橋渡しなど多岐にわたります。有能な訪問看護師が対応することで,患者や家族そして医師も不安なく毎日を送ることができるわけですが,このような訪問看護師の役割や重要性に私が初めて気付いたのは1996年7月ごろです。

 同年4月に前任地の福島労災病院に訪問看護室が開設され,専従の訪問看護師3名が在宅の現場に赴き始めて3か月後のことです。それまで約9年間,私一人で在宅ホスピスケアを行い,自宅での症状緩和治療の知識や技能を高めていましたが,その知識や技能を訪問看護師が短期間で覚えたことで,医師としての私の業務がかなり軽減されました。また,訪問看護師から報告される患者や家族のさまざまな情報(病状に対する不安,家庭の問題,経済的な問題など)は,私自身に多くの学びをもたらしました。

 このような訪問看護師の働きぶりをみて,私は「在宅ホスピスケアを含む在宅医療の担い手は訪問看護師である」と,結論付けました。そして,その延長上で,「病棟における終末期緩和ケアの担い手は看護師である」とも結論付けています。現在,多くの病院でがん終末期患者が苦悩を抱えたまま入院しています。この苦悩に適切に対応できていない大きな理由が医師の無関心であると言われ,医師の緩和ケア教育が進められていますが,私はむしろ看護師の教育が重要だと考えています。

 2007年10月から連携を始めた5つの訪問看護ステーションはいずれも24時間対応で,約1年半以上経過した今は安心して任せることができます。当初問題となったのは,患者の病状が急に変化したときの対応が遅いことでした。それまで,比較的安定した人の介護中心の訪問看護を行っていたためだと思います。対策として,家族には病状に少しでも変化があるときは訪問看護師に伝えるよう念を押すことにしました。私の訪問は大体週1回ですが,病状が悪くなったときには家族の了解を得て訪問看護師に頻回に訪問してもらっています。担当している訪問看護師と顔を合わせるのは,ケアカンファレンス,月1回の十和田緩和ケアセミナー,そして,死亡確認のときですが,最近では比較的顔を合わせる機会が多くなっています。

 訪問看護ステーションの相談役は当院の病診連携室配属の緩和ケア認定看護師で,薬剤処方の仲介,病状への対応方法の指導,私と訪問看護ステーションとの橋渡しなどの業務で多忙となっています。このように,緩和ケアが地域に広がってゆくと,病院緩和ケアチームの専従看護師の地域緩和ケアチームとの連携業務が重要となります。

 さらに,医療支援チームとして存在感が次第に高まりつつあるのが保険薬局の薬剤師です。現在,注射薬を含めた薬剤は保険薬局の薬剤師が配送し,自宅で服薬指導を行っています。モルヒネ,サンドスタチンなどの注射薬の需要も多く,複数の薬局で無菌調剤(インフューザーポンプへの補充など)も行える体制が整備されています。保険薬局の課題は24時間体制の確立ですが,今後薬剤師会と相談しながらぜひ実現したいと考えています。


[連載] 腫瘍外科医・あしの院長の地域とともに歩む医療

週刊医学界新聞 2009年08月24日
Dr.中川のがんから死生をみつめる:余命を生かす
中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長

 原爆被爆当時、広島には約35万人の市民と軍人が住んでいました。終戦の年の1945年末までに、そのうち約14万人が死亡したと推計されています。

 爆心地から1・2キロの地域では、その日のうちにほぼ半数が亡くなり、より爆心地に近い地域では8割以上が死亡したと推定されています。被爆直後の爆風や熱線で即死した人は計7万人にものぼると言われます。

 原爆投下の日は、空襲警報も出ませんでした。一瞬で命を奪われた7万もの方々は、巨大な閃光(せんこう)を疑問の目で見上げた次の瞬間、ほとんど同時に死亡したことになります。このように、たった一瞬に何万もの人間が同時に死んだ例は過去にはありません。

 原爆とは次元が違いますが、突然の心臓発作など、思いも寄らない突然の死がある一方、がんによる死には、死までの時間がかなりあります。よく「余命3カ月」などという話を耳にしますが、がんが治らないと分かってから、多くの場合は年の単位の時間が残されています。実際、余命半年と宣告された患者さんが、その後何年も生きているといった例は、めずらしくはありません。ただし、どうも最近は、医師の口から出る「余命」が、昔より短くなっているように思えます。

 僕は、軽々しく余命を告知することに反対です。そもそも、余命を予測するのはとても難しいことです。医療に対する社会の目が厳しくなり、訴訟も増える中で、医師が「自己防衛的」に余命を短く話す傾向もあるように感じます。告知より早く亡くなれば非難されますが、余命を短く言って結果として長く生きられれば、「名医」になれるわけです。病院での同意書に悪いことばかりが書いてあるのと同根といえるでしょう。

 がんは、仮に治らなくても、人生の仕上げをするだけの時間を与えてくれます。米国では、「心臓病で一瞬のうちに死ぬのはゴメンだ。がんで死にたい」という人が多いと聞きます。

 がんは、思ったより長い時間が残される病気です。その時間を「苦しい時間」から「人生の集大成の時間」に変えることが、緩和ケアの大きな役目です。

毎日新聞 2009年9月8日
がんサバイバーを地域で支える―がん診療連携を強化 第17回日本ホスピス・在宅ケア研究会
 現在の医療システムでは,がんの診断から治療,時には死の看取りまでを1か所の医療機関で一貫して行うことが困難になってきている。そのため,診療連携を図り,がんと共存しながら生きる「がんサバイバー」を地域で支える取り組みが行われている。高知市で開かれた第17 回日本ホスピス・在宅ケア研究会のパネルディスカッション「がんサバイバーサポートの取組と診療連携」では,病院や在宅医療それぞれの立場から見たがん診療連携の現状と今後の課題について報告された。

拠点病院と診療所がパスでがん診療連携へ

 高知県のがん診療連携拠点病院は県の中央に偏在し,県全域から患者が受診する。高知大学医療学講座医療管理学分野の小林道也教授は「都道府県がん診療連携拠点病院から診療所まで,県全体で共通の目的を持ってがんサバイバーのサポートに取り組む必要がある」と述べた。

8種のがん診療連携パスを作成

 2001年に地域がん診療拠点病院制度が創設され,その後の第3次対がん10か年総合戦略により2006年2月に「がん診療連携拠点病院の整備に関する指針」が出された。同指針では,都道府県がん診療連携拠点病院は都道府県に1か所程度,地域がん診療連携拠点病院は2次医療圏に1か所程度が望ましいとしている。同年8月,高知大学病院は国立大学法人として初の都道府県がん診療連携拠点病院に指定された。責務は診療・研修・情報提供体制の整備,医療スタッフの研修の実施や診療支援,がん診療連携協議会の設置と地域のがん診療の支援などだ。

 小林教授は,同県のがん診療拠点病院と地域のチーム体制の理想図を提示。4つに分かれる同県の保健医療圏に1か所ずつ拠点病院が存在し,地域中核病院や診療所などと有機的に連携することが望ましい。しかし実際には,同県の3か所のがん診療連携拠点病院は,県人口の約70%が集中する高知市と南国市を中心とする中央保健医療圏に偏在している。そのため,がん患者の外来受診は,中央保健医療圏在住の患者は自圏内で完結するが,県東部の安芸保健医療圏では約3分の1,県西部の高幡保健医療圏では約4分の1が中央保健医療圏で受診。さらに,がん患者の入院は,安芸保健医療圏の約半数,高幡保健医療圏の約3分の2が中央保健医療圏であるという。

 同教授は「がん医療の均てん化の実現には,高知県全体で診療連携を考える必要がある」と考え,がん診療の地域連携クリニカルパスを整備し,連携強化の取り組みを進めている。2009年2月にはがん種別にワーキンググループを構成。都道府県および地域のがん診療連携拠点病院,基幹病院,診療所の医師などが参加し,5大がん(胃,大腸,肺,乳,肝)に加えて婦人科のがん,前立腺がん,在宅緩和ケアの計8つのパスを各グループで半年間かけて作成中だ。テーマは術後のフォローアップとし,9月に発表と討論を経て確定。今秋,8つのパス誕生後,新しいテーマを選んで半年間で作成し,来年3月にはまた8つのパスが誕生する予定だ。これを繰り返し,絶えず新しいパスの誕生を目指すという。

 同教授は「高知県全体で継続的に検討することが重要だ。大学や医局を超えた横のつながりを持ち,互いの顔が見えるネットワークを構築したい。がん診療に携わる人々が共通の目的を持ち,地域でがんサバイバーをサポートしていく」と結んだ。

メディカルトリビューン 2009年9月17日
緩和ケア科病棟の消える日
KKR札幌医療センター腫瘍センター長 磯部 宏

 当院は四年前の全面改築・施設名の変更を機会に,がん診療のシームレスな対応を目標として,全室個室二十二床からなる緩和ケア科病棟を開設した.長く肺がん診療に携わってきた私にとっては,緩和ケア科病棟は症状緩和や終末期の管理に大変有益な病棟である.

 この間,総合病院の中の緩和ケア科病棟の在り方を模索してきた.その後,「地域がん診療連携拠点病院」に指定され,緩和ケア研修会も開催した.日医監修の「がん緩和ケアガイドブック」が発行されたのも,緩和ケアという言葉が患者・家族や行政に広く浸透してきたのもこの時期である.

 しかし,最近気になることがある.緩和ケアとホスピスケアが同義語とは私は思っておらず,緩和ケア科病棟では症状緩和を積極的に行い,在宅支援も念頭に置いてきたが,看取りの場としての紹介や相談がいまだに多いのも事実である.また,緩和ケア科病棟に入院したならば,バラ色の終末期を過ごせると誤解している患者や家族がいることも事実である.

 積極的治療を行う病棟から在宅療養への移行を支援する,苦痛緩和を専門とする病棟が緩和ケア科病棟と考えている.この苦痛はがん性疼痛だけではなく,心理的・社会的疼痛等の全人的苦痛を意味していることは言うまでもない.この目標達成のため,診療所の医師と顔の見える連携を培ったり,訪問看護師との連絡を密にしたりしている.がん終末期の緊急対応にも日夜心している.

 この全人的苦痛の緩和は何も緩和ケア科病棟でしか出来ないことではない.一般病棟でも全人的苦痛の対応が当たり前となり,緩和ケア科病棟の存在意義がなくなった時に初めて,わが国に本来の緩和ケアが根付き,良質のがん診療が提供出来ると考えている.

日医ニュース 第1153号(平成21年9月20日)
アロマで緩和ケア 宝塚市立病院
 宝塚市立病院(宝塚市小浜4丁目)が、がん患者の緩和ケアとしてアロマの香りを使った芳香浴やマッサージに取り組んでいる。院内の外来受付や各病棟にはアロマランプも登場。オレンジやラベンダーなどの香りにあふれ、患者からは「病院独特のにおいと違ってうれしい」と好評だ。

 アロマに取り組むのは、医師や薬剤師、看護師ら約20人でつくる「アロマセラピー委員会」。全国の公立病院では初めて設置されたという正式な委員会だ。

 宝塚市立病院がアロマセラピーに注目し始めたのは06年。がん患者のストレスや苦痛を和らげるため、緩和ケアチームの「代替補完療法委員」として活動を始めたのがはじまりだった。

 その後、職員を対象に手足のマッサージの勉強会を重ね、08年1月にがん患者やその家族を対象にアロママッサージを導入。その年の7月には、各病棟や外来計15カ所でアロマランプを使った芳香浴を始めた。

 病床でマッサージを受けるがん患者のなかには眠ってしまう人も多く、一定のリラックス効果が表れているという。来年3月には、宝塚市医師会の医師も参加して「宝塚アロマセラピー協議会」を設立する予定だ。松田良信委員長は「今後は全病棟で緩和ケアの一環としてマッサージを導入していきたい」と話している。

アサヒ・コム 2009年09月21日
市民公開講座:がんとの向き合い方 ホスピス医・山崎さんが講演
 ◇国民病「私もか」の余裕を

 がんとの向き合い方について考える市民公開講座がこのほど、甲賀市水口町のあいこうか市民ホールで開かれた。東京都の「ケアタウン小平クリニック」院長で、緩和ケアの専門家として知られる山崎章郎院長が講師として招かれ、「がんと向き合う〜地域で支える」をテーマに講演した。

 山崎氏は91年から、ホスピス医としてがん患者とかかわっている。著書も多数あり、代表作は「ぼくのホスピス1200日」「ホスピス宣言」など。

 講演で山崎氏は、がんが国民病と言われる現状を背景に、「(がんになっても)『何で私が……』ではなく『やっぱり私もか』とワンクッション置いてとらえた方が良い」と、余裕のある心構えの重要性を説明。その上で「一人の医師だけでなく、セカンドオピニオン、サードオピニオンを受け、納得いく治療法を選択すべきだ」と話した。

 また、ホスピス医の経験から学んだこととして、苦痛症状緩和の大切さ▽インフォームド・コンセント(説明と同意)の大切さ▽生きる意味を見失った人へのケア--などを挙げ、特にインフォームド・コンセントについて「がん患者の人生は期間限定。その中で『人間らしく』『自分らしく』生きるには、自分で考え、判断することが重要。医師が告知でウソをつけば、その人の人生を損なうことになる」と話した。

m3.com 2009年9月30日
安楽死は緩和ケアの障害とはならない ベルギー,安楽死法施行後の調査から
 ブリュッセル自由大学終末期医療研究グループ(ブリュッセル)のLieve Van den Block博士らは,2002年にいわゆる「安楽死法」が制定されたベルギーでは,同法の施行後も緩和ケアを受ける患者は減少していないことが示されたとBMJ(2009; 339: b2772)に発表した。

安楽死を合法化

 これまでの研究から,終末期には生命の短縮を伴う医学的判断が下されることが多いことが明らかにされている。つまり,致死的な薬剤の使用や,継続的な鎮静薬の投与,または症状緩和のための薬剤投与の強化など,結果的に死期を早める処置がなされているということである。

 ベルギーでは,2002年に安楽死が合法化されたが,緩和ケアを実施する医療体制の整備も進んでいる。Van den Block博士らは,2005〜06年のベルギーにおける突然死を除く死亡例2,000件を分析した。今回の研究は,終末期の意思決定と実際に受けた終末期医療の関係を初めて明らかにした大規模研究である。

 患者のうち32%は85歳以上で,男女比はほぼ半数ずつ,死因の43%はがんであった。がん患者では他の疾患の患者に比べて,死の幇助として食物や水分を投与せずに鎮静薬の処方量を増やして鎮静状態が維持されることが多い傾向にあった。

 死の直前の3か月間にスピリチュアルケアを受けた患者は,ほとんどまたは全く受けていない患者に比べ安楽死または医師による死の幇助を選択する傾向にあることも示された。これらの知見は,安楽死と緩和ケアは決して矛盾するものではなく,互いに相補の関係にあることを示している。

 さらに集学的な緩和ケアを受けた人ほど,症状緩和を目的とした投薬を受け,食物や水分を摂取せずに鎮静薬の処方量を増やして鎮静状態を保つことで死期を早めていた。また,こうした患者では総じて死期を早める終末期医療を決断する傾向が見られるなど,集学的な緩和ケアと生存期間を短縮する医学的な意思決定には関連が認められた。同時に,終末期医療における意思決定と緩和ケアは相反することなく両立することが示された。

 しかしこれらの知見は,ベルギーでは緩和ケアを受けることのできない患者が,患者自身または第三者の意思によって,過度に安楽死または医師による死の幇助を選択しているという懸念を完全に払拭するものではない。

 同博士は「他国でも同様のことが言えるか否かについてはさらに研究が必要だが,結果は,それぞれの法的状況や緩和ケアシステム,臨床現場における安楽死の在り方や考え方などに左右されると考えられる」と指摘する一方で,「医師による死の幇助が容認されている米オレゴン州では,医師による死の幇助を選択した人の多くがホスピスケアを受けていた。また,法制化によりホスピスへの紹介転院が増加し,医師に対する緩和ケアトレーニングが普及したと報告されている」と述べている。

メディカルトリビューン 2009年10月1日
医師・看護師は緩和ケアチームを有用と評価
 静岡済生会総合病院緩和医療科の須賀昭彦科長は,緩和ケアチーム(PCT)の依頼者である医師・看護師がともにPCTを有用と評価していたアンケート結果と,PCTの介入が疼痛や嘔気,不眠,不安の軽減に寄与したことを示唆する患者調査の結果を,名古屋ペイン2009で報告した。

介入により疼痛,嘔気,不眠,不安が軽減

 須賀科長によると,同院のPCTはコンサルテーションのみに徹する欧米型ではなく,ほぼ毎日患者に会い,精神的苦悩を含めた患者の苦痛を評価して,主治医や病棟看護師と問題点を共有し,主治医対応が困難な際には,主治医に連絡後,直接処方や検査も行うというスタイルを実践しているという。

 同科長は今回,同院のがん治療医79人,がん治療病棟看護師154人に対して,PCTの有用性と介入方法,カンファレンスの在り方に関するアンケートを実施した。回収率は医師62%,看護師94%だった。

 その結果,PCTが「とても有用」,「有用」との回答は医師の96%,看護師の97%と医療者の大多数を占めていたほか,介入方法も「助言のみにすべき」という回答は医師・看護師ともに見られず,「現在のままでよい」(医師78%,看護師77%),「現在よりも直接診療を増やすべき」(同 15%,16%)となっていた。

 一方,カンファレンスについては主治医,病棟看護師,PCTが一堂に会して行うことは難しい現状を医師の半数は「現状のままでよい」としたが,看護師の過半数が定期開催や増加を求めていた。

 同科長はさらに,PCTに依頼のあった患者78人のカルテに記載された各苦痛症状に関して,PCT介入前後の変化をSupport Team Assessment Schedule日本語版(STAS-J)を指標に非PCT医師が後ろ向きに調査した。

 その結果,各症状について苦痛のあった患者のうち,STAS3以上(たびたび強い症状が発現または持続的に耐えられない激しい症状)の割合は,PCT介入前後で疼痛は53.1%から0%,嘔気は76.9%から7.7%,不眠は66.7%から11.1%,不安は33.3%から6.3%と改善が見られたが,軽症例では改善が認められた呼吸困難,せん妄については中等度以上の症例では改善せず,倦怠感はPCTが介入しても悪化した。

 以上をまとめて,同科長は「主治医や病棟看護師と問題を共有するようなPCT活動を医療者の大半が有用と評価した。患者にとっては介入により,疼痛,嘔気,不眠,不安の軽減が期待できるが,中等度以上の呼吸困難,せん妄および倦怠感の改善は困難だった」と述べた。

メディカルトリビューン 2009年10月1日
望む「最期」を求めて 尊厳死 関心高く
 尊厳死について考える県民との懇談会(県医師会主催)が4日、南風原町の県医師会館で開かれた。「尊厳ある生」「尊厳ある死」を考える会に約350人が集まり、一部の聴衆が会場に入りきらないほど関心の高さをうかがわせた。

 日本尊厳死協会おきなわの源河圭一郎代表、国立病院機構沖縄病院の石川清司院長、那覇第一事務所の永吉盛元弁護士、かじまやークリニックの山里将進院長が尊厳死、緩和ケア、法律、在宅医療のそれぞれの立場から終末期の問題について講演した。その人らしい最期を迎えるために行政、医療、県民自身が取り組むべきことなどを話した。

 主催者の予想を大きく上回る参加者に急きょ、別室にモニターを設けて開催した。質疑応答では終末期医療、在宅介護に関する質問が多数寄せられた。「緩和ケアを受けたいが、必ず尊厳死協会に入らないといけないのか」という質問に対し、源河代表は「必ずしもその必要はない。主治医にいざというときは延命を断るということを申し出ておけばいい」と答えた。

 「在宅でのみとりを進めるには何が必要なのか」という質問に山里院長は「国は在宅を推進するが、増加する有料老人ホームではみとりの経験がないなど、現場は受け入れる準備はできていない。計画見直しも必要」と話した。また「家族の側は在宅を望まないことも多い」という指摘に対しては「少ない介護力でも支援できる仕組みがあればよくなる。例えば日中だけ預ける『デイホスピス』があるが、経営的に厳しく広がらない」など終末期を自宅で過ごすための現実的な支援が必要とした。

 会場からは「教育の場で人間の命について教える必要がある」「医療の側と話し合う機会が必要」などの要望もあった。

琉球新報 2009年10月5日
在宅ホスピス、選べた祖父
◇足りぬ医師、情報窓口

 私はこの春、81歳の祖父を亡くした。がんの発見が遅れ延命すらも期待できない状態だった。祖父は残る気力を振り絞って自宅で最期を迎える在宅ホスピスを医師に願い、望みをかなえた。だが、国内では祖父のように自宅での死を望んでも、かなえられない人が圧倒的に多い。人生の最期をどう迎えるかの選択ができない現状は変えられないのだろうか。

 ■家族も満足

 祖父の有富力(ありとみちから)が膵臓(すいぞう)がんと診断されたのは3月27日。既に肝臓やリンパにも転移していた。在宅ホスピスは家族も望んだ。治療はモルヒネを投与し、腹水を抜くなどの緩和ケアのみ。書斎が病室に早変わりし、翌月から家族による介護が始まった。

 日本在宅ホスピス協会によると、自宅で亡くなるがん患者は全体のわずか6%。04年の厚生労働省終末期医療に関する調査等検討会報告書によると、がん患者が終末期の療養場所として自宅を希望している割合は、「最期まで」と「必要があれば医療機関やホスピスへ入院」との回答を合わせると60%になる。他のどこでもない、わが家で最期を迎えたいというのは、ぜいたくな望みなのか。

 私は、職場の仲間たちに無理を言い、計7日間、大分県日田市の母方の実家に帰省した。祖父は正月に会った時とは別人のようにやせていたが、髪をきれいに整え、はにかんだような笑顔で私を迎えてくれた。祖父は私を唯一の男の孫ということで小さな時から可愛いがってくれたが、両親が離婚した事情から高校入学以降しばらくは顔を見せられずにいた。その時間を取り戻したい思いも強く、滞在中は四六時中そばにいた。

 往診をしてくれていた医師が、余命を告知する場面にも立ち会うことができた。神妙な顔つきで聞いていた祖父は話が終わるとにっこりとほほ笑み、「最期までよろしくお願いします」と医師の手を取った。それから9日後に祖父は帰らぬ人となった。みとることはできなかったが、私に後悔はない。いまわの際にあっても周囲への気遣いを見せ、焦りや悔い、恨み言の一つも言うことなく堂々と逝った祖父の姿を目に焼き付けることができた。そんな祖父に尊敬する気持ちも伝え、心構えもできていた。

 人の死をこれだけ温かく受け入れられたのは、私にとって貴重な体験だった。祖父の死が避けられなかった以上、家族にとっても在宅ホスピスは満足する選択だったと思う。

 ■机上の診療報酬

 自宅での死を阻んでいる背景には、往診で緩和ケアをしてくれる医師の少なさがある。都会に比べ住み慣れた家に愛着を持つ人が多いであろう地方で特に少なく、日本在宅ホスピス協会のデータベースで検索すると、私が勤務する福井県南部でも登録された病院は無かった。そうした医師が増えない背景について、04年6月の開院から600人のがん患者を往診してその8割を自宅でみとった千里ペインクリニック(大阪府豊中市)の松永美佳子理事長(45)は「現場を知らずに診療報酬が決められていることがある」と指摘する。

 常時約20人の末期がん患者を受け持つ同クリニックでは、急変などの連絡が昼夜問わずに入り、常勤だけでも医師2人と看護師5人がいるスタッフが24時間対応している。当然経費は膨らみ、外来診療で往診の赤字を補っている。

 診療報酬を見直すだけでは、人口密度の低い地方での普及にはつながらない。幸い祖父の住んでいた大分県西部にはそうした病院があり、最期をみとってくれた宮崎秀人医師は「ニーズをくみ取るため、在宅という選択肢を確実に知らせる仕組みが必要だ」と指摘する。千里ペインクリニックの在宅ホスピスを利用して夫をみとった大阪府吹田市の女性(56)も在宅という選択肢に出合うまで時間を要した経験から、「相談さえすれば情報の得られる窓口が欲しい」と訴える。

 01年から指定が始まったがん診療連携拠点病院では、情報の提供も目的の一つに掲げている。しかし、同クリニックで在宅ホスピスを利用した患者は、個人的につながりのある医者からの紹介や自力で情報を探し出した人がほとんどだといい、現状では緩和ケアの情報窓口としては十分に機能しているとは言えない。

 ■「緩和」に意識を

 医師の意識改革も必要だ。化学療法や外科手術などの「治す」医療を担う医師には、緩和ケアを治療と積極的にとらえる向きはまだ少ない。松永理事長は「臓器だけで、患者の人生全体を見ていない医師も多い。最期を見据えて逆算型の医療計画を立てることも必要だ」と訴える。

 治す手が尽きたとたんに緩和ケアへの移行を勧めても、患者が不信感を持ちかねない。松永理事長は「緩和ケアと治す治療を組み合わせ、比重を徐々に移行させる形が理想」と話す。

 一方で、在宅ホスピスの問題は個人の死生観と切り離すことができない。受ける側も家族を含め考える必要がある。祖父は敬虔(けいけん)な仏教徒だったためか、既に死に対する哲学を持っていた。祖父の死を通して、「死を極端に忌避することは積極的な生につながらない」との思いも強くした。

毎日新聞 2009年10月14日
「子どもホスピス日本にも」…創設者が重要性訴え大阪市でセミナー
 重い病気を抱えた子どもと、看護を続ける家族を支える「子どものホスピス」への理解を深めるセミナーが、大阪市北区の市中央公会堂で開かれた。日本にはまだなく、世界で初めて英国に設立した女性らが、施設の重要性を聴衆約700人に訴えた。

「深く生きること手伝う」

 国内でのホスピス設立を目指す医師や大学教授、保健関係者らでつくる実行委員会の主催。

 実行委によると、子どものホスピスは、英国・オックスフォードに1982年、「ヘレンハウス」が世界で初めて設立され、その後、ドイツやカナダ、オーストラリアなどに広がった。

 セミナーで講演した、創設者のシスター・フランシス・ドミニカさんによると、同ハウスには音楽室や温水プール、車いすで競走できるほど広くて長い廊下、遊具などを備え、年間約300組の家族が1回に数日間宿泊。医師や看護師らがチームを組み、苦痛を和らげる緩和ケアや家族・遺族のサポートに当たるという。

 フランシスさんは、家族は子どもと一緒に滞在するか、看護の疲れを癒やすために帰宅するかを選ぶことができると説明、「施設は、子どもたちが楽しいことをたくさん経験して、深く生きることを手伝う場所だ」と強調した。

 長男(9)が重度の脳障害で、同ハウスを利用している日本人女性も、「孤独になりがちな心に余裕が生まれる」と話した。

 この後、フランシスさんや小児科医、ホスピス看護師らが討論。日本での設立に向けては、▽子どもに余命を告知する是非について議論が必要▽ホスピスという言葉が死を連想させ、抵抗感がある▽運営資金を集めるのが難しい――などの課題が挙がった。

 実行委員長の原純一・大阪市立総合医療センター副院長は「ホスピスへの理解が深まれば、設立に向けて大きな力が生まれる」と期待していた。

読売新聞 2009年10月20日
認知症は致死的な疾患であるとの理解が必要
 末期の認知症は精神面だけを侵すものと考える人が多いが、実際には広い範囲に影響を及ぼす致死的な疾患であることが新しい研究で示された。患者の家族が誤った認識をもっていると、負担のかかる不必要な治療を受けさせるなど、患者にはネガティブな結果となることがあるという。

 研究著者で米ハーバード大学医学部(ボストン)准教授のSusan Mitchell博士によると、米国では認知症が主要な死亡原因の1つとなっているが、患者がどのような最期を迎えるかはほとんど知られていないという。「家族があらかじめ知識をもっていれば、患者に苦痛の少ない医療措置を受けさせることができる」と同氏は指摘している。米国では現在500万人が認知症に罹患しているが、40年後にはその数は3倍になると予想されている。

 医学誌「New England Journal of Medicine」10月15日号に掲載された今回の研究では、認知症患者の終末期についての理解を深め、ケアを向上させるべく、22件のナーシングホーム(長期療養施設)で18カ月にわたる研究を実施。対象とした323人の患者は、家族を認識できないほか、6語以上話すことができず、失禁があり、全面的に介護に依存している末期の認知症患者であった。期間中に対象者の55%が死亡。死因となった合併症は肺炎が最も多く、次いで(肺炎以外の原因による)発熱、摂食に関わる障害が続いた。施設入居者の多くが息切れ(46%)、疼痛(39%)などの症状に苦しんでいた。

 40%を超える患者が死亡前の3カ月間に少なくとも1回の大きな医療措置(入院、救急の利用、静脈栄養、経管栄養など)を受けていた。しかし、末期の認知症が死に至る疾患であり、合併症が起こりうることを家族が理解していた場合は、死亡前3カ月間に患者が負担の大きい医療措置を受ける比率が27%であったのに対し、家族の理解が不足していた場合は73%であった。

 Mitchell氏は、家族と介護者の間のコミュニケーションを向上させるとともに、認知症患者にも癌(がん)患者と同じように質の高い緩和ケアおよびホスピスを利用できるようにする必要があるとしている。米インディアナ大学医学部(インディアナポリス)教授のGreg Sachs博士は同誌の論説で、「長期療養施設では疼痛治療が十分でなく、不必要な治療を受けるリスクも高い」と指摘。進行した認知症患者は他の疾患がなくてもホスピスケアを受ける資格があるとしている。また、「家族は診断後の早い段階で終末期ケアについて話し合い、早めにどうするかを決めておくのが理想的」と同氏は述べている。

いきいき健康(NIKKEI NET) 2009年10月22日
古代ギリシャや中世に起源 20世紀後半、米で再現確立
 音楽を通じ末期患者の精神的、肉体的苦痛を緩和する試みは中世の修道院で、さらに古くは古代ギリシャの神殿でも実践されていたという。

 1970年代前半、これを再現し「音楽サナトロジー(死生学)」として確立したのが、米コロラド州の施設で老人介護に当たっていたテレース・シュローダーシーカーだった。

 彼女がコロラド州で発足させた音楽サナトロジストの育成プロジェクトは拠点をモンタナ州、オレゴン州と移しながら発展。"教え子"たちは全米各地や海外でも活動するようになった。

 音楽サナトロジーには「音楽、医学、精神性の調和」が必須とされ、医療の立場からは、末期患者に対する緩和ケアの一環でもある。

 オレゴン健康科学大学の医師ロバート・リチャードソンは、ポートランド近郊の病院で緩和ケアの研究と実践に取り組んでいる間に音楽サナトロジーに巡り合った。

 「ハープの音が患者に安らぎを与えるのは、脳波を観察していれば分かる。家族の苦悩を和らげる効果もある」。末期がん患者の医者仲間も自宅療養に音楽サナトロジーを取り入れ、妻とともに安らぎを得たという。

 訪日経験もあるリチャードソンは「文化的な違いに考慮する必要はあるが、日本でも音楽サナトロジーは受け入れられると思う」と語った。

m3.com 2009年10月28日
ホスピスの説明を受けていない末期がん患者多い 医療提供者とのコミュニケーション不足が一因
 ハーバード大学のHaiden A. Huskamp博士らは,進行がん患者の多くが診断後4〜7か月の間にホスピスについて医師などと話し合いをしていないことが明らかになったとArchives of Internal Medicine(2009; 169: 954-962)に発表した。

話し合ったのはわずか半数強

 ホスピスから恩恵を得る患者は少なくないが,その一方でホスピスに関する話題は患者の末期まで出なかったり,全く話し合われないこともしばしばある。しかし,進行がん患者では早期にホスピスを検討するのは有益であることが多いと考えられる。

 例えば,ホスピスでは侵襲性の低い治療が行われるため,患者はよりよいQOLを得ることができる。

 医師が患者に対してホスピスを紹介することは重要である。しかしHuskamp博士らが米国内の複数の地域でステージIVの肺がん患者1,517例を対象とした研究では,転移がんと診断された患者の多くは,診断後の4〜7か月間に医療提供者とホスピスについて話し合っていないことがわかった。

 同博士らは「医師とのコミュニケーションを増やすことで,ホスピスへの患者の認識不足や予後に関する誤解に対応できる」と考えている。また,ステージIVの肺がん患者の生存期間中央値は診断から約4〜8か月であるため,ホスピスについての話し合いを診断後4〜7か月以内に行うことが適切としている。

 診断の約4〜7か月後に患者または患者の代理人にインタビューを行ったところ,インタビュー後2か月以内に死亡した患者でホスピスについて主治医と話し合いが行われたのはわずか53%で,生存期間がより長い患者ではこの割合はさらに低かった。

 既婚者,パートナーと同居の患者,化学療法を受けている患者,貧困者,マイノリティ人種,英語が話せない患者などでは,医師とホスピスに関する話し合いを持たない傾向が見られた。

予後の考え方も影響

 自分の余命が2年未満と考えている患者では,余命がより長いと考えている患者と比べ,ホスピスについて話し合うことがかなり多いことがわかった。この結果から,医師は患者と予後についてのコミュニケーションを有効に行っていないことや,予後の説明を十分に理解させていないため,患者が自身の予後を楽観視している可能性が示唆された。

 疼痛または呼吸不全が最も重度の患者と,重症度が低い患者では,ホスピスについての話し合いに差異は見られなかった。

 余命の延長より疼痛緩和を希望した患者の4分の3強は,ホスピスについて主治医と話し合ったことが一度もなかった。話し合いの欠如は患者に原因があるわけではないようで,患者の4分の1強は蘇生不要(DNR)を希望していたにもかかわらず,医師と話し合う機会が得られなかった。

 末期医療に関する話し合いは,感情的になりやすく時間もかかる。そのうえ努力が報われないなど,医師にとって容易ではない。また,話し合いを遅らせたり,全く話し合いに応じない患者もいる。

 話し合われたとしても,ホスピスのすべての側面が十分に説明できるわけではない。医師とDNRについての話し合いをした患者のうち,ホスピスについても話し合った患者は,わずか3分の1であった。このことから,患者と医師が話し合いのチャンスを逸していることがうかがわれる。

メディカルトリビューン 2009年10月29日

電子システムでがんの疼痛治療が改善 ガイドラインに沿った意思決定を支援
 外来,入院を問わず,がん患者に対する疼痛治療は不適切であることが多い。ループレヒト・カール大学病院(ハイデルベルク)第VI内科臨床薬理学・薬剤疫学のWalter E. Haefeli教授らは,経験豊かな臨床薬剤師の指導と組み合わせた革新的な電子システムが疼痛緩和に有用であることが試験で示されたとPain(2009; オンライン版)に発表した。この電子ツールAiDPainCareは,疼痛治療に関する国際的ガイドラインから逸脱しておらず,患者による自己評価でも疼痛が軽減したとしている。

既存のAiDKlinikの補助的ガイド

 既存の医師向けの電子処方ガイドAiDKlinikはドイツ連邦教育研究省から助成を受け,同科が薬剤部の協力を得て2003年に開発したシステムで,ドイツ国内で販売されている6万4,000種類超の製剤を紹介しており,誤用量,副作用,危険な薬物間相互作用,処方の重複の回避を支援するツールである。AiDKlinikを使用すると,処方された治療内容を処方せんまたは医療記録に直接転送することができる。このシステムは現在ドイツの10か所の病院に導入されており,個人開業医も利用できる。

 今回Haefeli教授らは,AiDKlinikを補助するコンサルティングモジュールとして,電子疼痛緩和ガイドAiDPainCareを開発した。

 同教授は「今回の研究は,薬剤の処方から投与に至るまでの薬物治療の安全性に主眼を置いている」と述べている。研究では,同大学のHubert J. Bardenheuer教授の監督下で臨床薬学共同ユニット(Thilo Bertsche委員長)が国際的に確立された治療ガイドラインを電子形式に加工処理した。試行を繰り返した後,このシステムは同院の放射線腫瘍・放射線治療科で治療を受けているがん患者の疼痛治療に使用され,成果を上げている。

補助鎮痛薬の処方が不十分

 予備的研究から,院外で開始されたがんの疼痛治療では,総体的にモルヒネベースの鎮痛薬が過少に投与されており,抗うつ薬やコルチゾン系製剤などの補助鎮痛薬も十分に処方されていないことが明らかになった。Bertsche委員長は「なかでも補助鎮痛薬は,がん患者の疼痛治療を改善できることが多いにもかかわらず,あまり処方されていない」と指摘している。

 新たに開発されたAiDPainCareツールを使用すると,補助鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬による疼痛ピークや突出痛の緩和治療における処方の有効性が改善されることがわかった。AiDPainCareは個別の患者に対する疼痛治療を支援する目的で使用されるだけでなく,オピオイド治療の一般原則と法的情報に素早くアクセスすることもできる。その結果,麻薬性鎮痛薬の処方に関する根拠のない不安感も減少するとしている。患者に渡す情報もプリントアウト可能である。

メディカルトリビューン 2009年10月29日
精神腫瘍医が持つスキルの共有を サイコオンコロジストの介入環境づくりも−第22回日本サイコオンコロジー学会
 第22回日本サイコオンコロジー学会総会が1、2の両日、広島県のメルパルクHIROSHIMAで開かれた。総会テーマは「がん医療における心のケアの拡がり」。がん患者の増加傾向が続く中で、精神的なケアを担うサイコオンコロジストの役割についての議論が行われた。

  学会2日目のシンポジウム「緩和ケアチームにおけるサイコオンコロジストの役割」では、腫瘍内科医、緩和ケア病棟医などが、それぞれの立場から「精神腫瘍医」に求める機能、連携の在り方などについての見解を述べた。

求められる精神腫瘍医によるアドバイス

 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科の森実千種氏は腫瘍内科医の立場から、精神腫瘍医に求められる役割について解説した。難治がん患者と向き合う際には、精神的側面のサポートの重要性を痛感する場面が多いと指摘。精神腫瘍医が自然に介入できる環境づくりや、精神腫瘍医が持つコミュニケーションスキルを学ぶ重要性を強調した。

 森実氏が精神腫瘍医に求める点として挙げたのは、@精神科受診に対する心理的拒絶感の軽減Aコミュニケーションスキル向上のための精神腫瘍医の視点から見たアドバイスB精神腫瘍医同士の連携や精神腫瘍医の地域偏在の是正C患者の家族への精神的サポート―の4点。

 精神科的介入については、偏見や抵抗感を持つ患者が多いことに触れ、抵抗感を持たずに受診できる存在として認知してもらう必要があるとした。その1つの取り組みとして、精神科を受診することの負のイメージを軽減することを意識した「膵がん教室」を紹介した。参加者からは「精神科の先生にも相談できることが心強いと感じた」「誤った情報もある中で、正しい知識を強化するためにも教室が役立っている」などの声が寄せられ、精神科医も受診しやすい環境づくりの一環として機能しはじめているという。

 また、腫瘍内科医は、患者にとって悪い情報を告知せざるを得ないケースが多いことも指摘した。ただ、「厳しい中でいかに本人の価値観、判断力を保たせるか。見放された感情を抱かせないようにすることが重要」と述べ、精神腫瘍医の視点からのアドバイスなどを受けながら、コミュニケーションスキルを磨く必要があるとした。

 また、大学病院やがん専門病院では精神腫瘍科同士の連携が可能であるとしたが、在宅ケア、ホスピスへの転院などの段階では「精神腫瘍医の介入が物理的に継続できない場合もある」と強調した。転院時には精神腫瘍医の医療連携が求められるほか、精神腫瘍医の地域偏在を解決するための精神腫瘍医の育成も課題に挙げた。患者家族のケアの重要性も高まっているとし、「患者の治療中だけでなく、死後も精神的サポートが必要」と述べた。

精神腫瘍医「日々のコンサルに応じることが活動の礎」

 名古屋市立大病院緩和ケア部の奥山徹氏は精神腫瘍医の立場から講演し、自らの施設の状況を紹介しながら精神腫瘍医の在り方について解説した。がん対策基本法制定以降、「多くの病院で精神腫瘍医ががん患者の心のケアを提供するようになってきている」との認識を表明。求められる役割としては、患者や家族の精神疾患、心理プロセスへの支援など「さまざまな機能があるが、日々のコンサルテーションに丁寧に対応することがすべての活動のベース」と述べ、医療チームや、患者・家族のニーズやゴールを把握することを課題に挙げた。

 また、愛知県では「精神腫瘍学研修」を展開し、県内サイコオンコロジストの均てん化を進めていることを報告した。緩和ケアチームや、緩和ケア病棟を持つ病院の「精神科医」「心療内科医」を対象として半日のワークショップで議論するもの。研修会ではメーリングリストを作成するなど交流を深める場になっており、今後はこうしたネットワークをいかに生かしていくかが課題になるとした。

 緩和ケア病棟の特徴として、@うつ病、せん妄などの精神疾患の頻度が高いA苦痛緩和の困難症例が多くスタッフが無力感を抱くケースが多いB死亡退院が多く遺族ケアが課題―などにも言及。その上で「患者の安寧を最優先するなど、病棟固有の価値観に配慮すべき」とした。

緩和ケア病棟 精神腫瘍医のフォロー率が約2倍

 国立がんセンター東病院緩和医療科の松本禎久氏は、緩和ケア病棟医の立場から、精神腫瘍医との連携の現状について報告した。緩和ケア病棟では、一般病棟に比べて精神腫瘍医のフォロー率が約2倍の18.4%で、せん妄や大うつ病の診断が多く、「症状緩和に難渋するケース」が精神腫瘍医に紹介される傾向があるとした。

 緩和医療医と、精神腫瘍医との連携を強める仕組みとしては、週2回の定例カンファレンスを運用していることも報告した。症例検討会、勉強会といったやり取りを通じて、「お互いに話しやすい関係性ができている」と述べた。また、緩和ケア病棟内での教育にも精神腫瘍医に関与してもらう必要性も強調した。

「こころ」の苦痛軽減に配慮したリハビリを 代償的リハビリの有効性も

 静岡県立静岡がんセンターの田尻寿子氏は2日のシンポジウムで、「リハビリスタッフからのがん患者の精神心理的側面へのアプローチ」をテーマに講演した。がんリハビリの目的として、疾病や治療で生じた制限の中で「身体的、社会的、心理的、職業的に最大限の機能を発揮させるべく援助すること」と指摘。喪失感や心の苦痛の軽減など、「『こころ』に配慮したリハビリ、『こころ』に影響を及ぼす事柄にアプローチすることが望まれる」との見方を示した。

 身体的喪失感などに対するアプローチの事例なども紹介した。例えば、脳腫瘍による上下肢運動、感覚麻痺などの機能障害など、病状悪化で終末期医療での緩和医療にシフトが求められるケースに触れ「この時期に機能改善目的のリハビリを行うことは、結果として動作ができなくなる現実に直面させてしまう可能性がある」との見方を表明。対処法としては、失われた機能自体の回復を目指すのではなく、ほかのものを活用して欠けている機能を補うという“代償的リハビリテーション”の必要性を挙げた。

 心理的側面に配慮したリハビリを行う際には、それぞれの患者の「社会的背景、社会的役割、仕事や趣味など活動歴に配慮し、作業活動を選択する」ことの重要性も指摘した。患者の要望や意志を尊重するほか、うつ病やせん妄などの症状があるケースでは「精神、心理的側面の正確な判断」が求められるとした。

m3.com 2009年11月17日
第47回日本癌治療学会−がん対策基本法後,病院の連携や予算の確保を
 わが国では2007年4月にがん対策基本法が施行され,がん対策が進められている。横浜市で開かれた第47回日本癌治療学会(会長=岩手医科大学産婦人科学教室・杉山徹教授)の特別企画シンポジウム「がん対策基本法,がんプロ養成プランはがん診療の質と均点化をどこまで達成しているか?その検証と提言!」(総合司会=杉山会長,徳島大学分子制御内科学・曽根三郎教授)Part1「がん対策基本法に基づくがん医療は変わったか?2年間を振り返る」(司会=国立がんセンター・垣添忠生名誉総長)では,がん対策基本法により拠点病院や認定病院が指定されたが,これらの病院や診療所などの連携の必要性や予算の確保などの課題があることが報告された。その一部を紹介する。

東京都がん拠点病院・認定病院が協力

 がん・感染症センター都立駒込病院の佐々木常雄院長は東京都のがん対策推進計画に基づいた活動について述べ,「拠点病院,認定病院が協力してがんの克服に向け活動を行っている」と報告した。

課題多いが,がん克服目指し連携

 東京都がん診療連携拠点病院は,都におけるがん医療ネットワークの中心として,地域がん診療連携拠点病院と連携して東京都がん診療連携協議会の設置,院内がん登録データ収集,地域連携の推進,がん専門医らの教育,医療従事者の質の向上などを行うことにより,都におけるがん医療の推進を目指す役割を担っている。国から都がん診療連携拠点病院として癌研究会有明病院と都立駒込病院,地域がん診療連携拠点病院として12施設が,さらに都から10施設が都認定がん診療病院として指定され,これら24施設により2008年6月には第1回東京都がん診療連携協議会が開催され,がん登録部会,地域連携パス部会,相談・情報部会,研修部会,緩和ワーキンググループを設置,活動が開始された。

 がん登録部会では,2都がん診療連携拠点病院と12地域がん診療連携拠点病院が,2009年3月から国立がんセンターへ登録を開始し,10東京都認定がん診療病院が2010年から駒込病院へ登録する予定であるが,予後調査の方法が課題となっている。地域連携パス部会では,5大がんの各病院の専門家と東京都医師会とで,都全体で統一フォームのクリニカルパス作成を目指して2010年2月から施行開始予定であるが,診療報酬が課題となっている。相談・情報部会では国立がんセンターで研修を受けた相談員を配置しているが,相談件数に施設間差があること,東京都医療機関案内サービスひまわりの活用法などが課題となっている。研修部会では5年で1万人の医師に緩和ケア研修を受講させることを目指しているが,講師不足が問題となっている。

 佐々木院長は「これまで,がん医療において大学病院や大病院が連携して活動することはなかった。課題は多いが,現在,拠点病院,認定病院は相互に協力し,医師会,診療所とも連携してがんの克服を目指し努力している」とまとめた。

島根県/患者・家族,医療関係者,行政の「三位一体」で計画を策定,推進

 島根県がん対策推進計画策定時に前職の同県医療対策課がん対策スタッフとして策定にかかわった島根県隠岐保健所の村下伯所長は,同県では患者・家族,医療関係者,行政の「三位一体」で計画を策定,推進していることを紹介した。

意見を最大限反映した計画

 島根県がん対策推進計画は,患者代表4人を含む委員15人から成るがん対策推進協議会により,患者・家族や医療関係者の意見を取り入れて策定された。計画の特徴として,(1)がん薬物療法専門医数などの数値目標を提示(2)分野別の施策の1つとして「患者・家族らへの支援」の項目を設定(3)計画の推進にかかわる各機関などの役割を明示(4)がん対策推進協議会で計画を評価―とした。さらに,患者や関係者の意見が最大限取り入れられた背景として, (1)がん対策に熱心な県議会議員の存在(2)意見を取り入れた計画策定は健康福祉部の方針(3)計画策定の文責は計画担当スタッフに任せられた(4)がん患者・家族,関係者の取り組みがたびたびマスコミに取り上げられ,県民の注目を集めた―の4点を挙げた。

 島根県では2009年度がん対策強化事業予算1億700万円のうち,4,400万円をがん拠点病院機能強化に,340万円をがん患者・家族への支援に充てている。また,民間レベルの活動として「がん対策募金」が創設されている。これは,県内のがん診療連携拠点病院にがん診療にかかる高度医療機器を整備することを目的に,2007年から3年間で7億円を目標に企業,団体,個人から寄付を募るもので,ほぼ目標額を達成する見込みである。

 村下所長は「島根におけるがん対策は,現在では患者・家族を中心に,医療関係者,行政の三者だけでなく,さらに議会,教育機関,企業,マスコミも巻き込んだ『七位一体』の活動へと広がっている」と結んだ。
岩手県ではがん対策の意識が向上

 岩手医科大学外科学講座の若林剛教授は岩手県がん対策推進協議会委員としての立場から,がん対策基本法施行後の岩手県のがん対策について「がん対策の意識と緩和ケアに対する関心が向上したが,専門医の育成が課題」と述べた。

生存率とQOLの向上目指す

 岩手県のがん医療の問題点として地域格差・病院格差,がん専門医が少ない,進行がんが多いことが挙げられる。これらの問題を解決するために,2008年に策定された岩手県がん対策推進計画では,がんによる死亡者数の減少(生存率の向上)とがん患者のQOLの向上を2つの大きな柱として盛り込み,具体的には,2012年までに死亡率10%以上減,75歳未満年齢調整死亡率20%減,喫煙率未成年ゼロ/成人20%,がん検診受診率50%,放射線治療医20人/腫瘍内科医またはがん治療認定医50人,相談支援・情報提供,がん登録の推進を目標とした。

 実際にがん対策基本法施行後,同大学が岩手県がん診療連携拠点病院として,8県立病院が地域がん診療連携拠点病院として指定され,同大学と各地域拠点病院は情報通信ネットワーク「いわて情報ハイウェイ」を構築して,緩和ケアテレカンファランスを毎月開催し,2009年9月までに2,546人が参加,緩和ケアの意識を向上させている。

 また,生存率の向上のため,市民公開講座など検診啓発のための活動を今年7月までに5回開催。同大学と県立中部病院には患者の意見交換の場として「がんサロン」を設定し,同大学のがんサロンには6か月間に1,000人以上が訪れている。

 がん登録は2005年の5,391件から2008年には7,650件に増加し,同大学外科でのがん手術件数も約600件から約800件に増加した。

 がん対策には生存率とQOLを向上させなければならないが,生存率を向上させるには早期発見・早期診断による切除率と切除を中心とした集学的治療の質の向上が,QOLの向上には医療者と患者の意識向上と緩和ケアの充実が必要である。

 若林教授は「岩手県ではがん対策の意識が向上し,緩和ケアに対する関心が高まったが,予算の確保,腫瘍内科医と放射線治療医の育成が課題となっている。また,がん対策以前に医療崩壊を食い止める必要がある」と述べた。

人材の確保,病院間の連携構築が必要

 2007年に地域がん診療連携拠点病院に指定された徳島大学病院は2006年6月からがん診療連携センターを開設し,がん診療体制の整備を進めてきた。同院泌尿器科の金山博臣教授は,地域における連携拠点病院としての取り組みについて述べ,「人材の確保・育成・派遣・研修の実施,連携病院・医院・診療所との連携の構築・強化が必要だ」と指摘した。

人材不足が深刻

 徳島大学病院がん診療連携センターにおけるがん診療体制の整備への取り組みとしては,がん診療企画部門では,月1回合同カンファランスを開き,集学的治療が必要な症例について討論を行い,がん化学療法部門では,化学療法レジメンの審査・登録・管理と,がん化学療法看護認定看護師により外来化学療法の充実を図っている。がん診療連携部門では,がん診療連携クリティカルパスの充実を目指し,5大がんおよび子宮,卵巣,前立腺,食道のがんの連携パスを拠点病院共通で完成,使用を開始し,がん診療連携セミナーを各地区医師会と共催し,連携を強化している。

 がん研究・研修部門では,がんプロフェッショナル養成プログラムとの連携により,がん専門医療従事者の育成に努めている。がん登録部門では,院内がん登録専任のがん登録実務者を置き,整備を進めている。がん予防・診療広報・相談部門ではがん心理相談・支援など,がん緩和ケア部門では緩和ケアに関する相談などを行っている。このように,同院のがん医療体制は整備されつつあるが,医師をはじめとする人材不足は深刻であり,がん医療体制のさらなる充実のためには,がん医療従事者の確保と育成およびがん診療連携システムの構築と強化,財政支援の継続と増額が必要である。

 地域の連携拠点病院の立場から今後の対策として,人材の確保・育成・派遣・研修の実施,連携病院・医院・診療所との連携の構築・強化が必要であるが,そのためには,連携病院・医院・診療所のがん医療体制の整備,連携病院への強化事業費の支給,診療報酬の充実が必要である。がん医療の均てん化には地域医療の再生が不可欠であり,それには大学医局制度の復活が最も効果的ではないか,と金山教授は述べた。

メディカルトリビューン 2009年11月26日

終末期での治療中止を考える−第68回日本脳神経外科学会
 脳神経外科疾患の終末期医療では重症の脳卒中や頭部外傷など患者本人の判断能力が失われているケースが多く,治療の差し控えや中止の判断が難しい。神戸大学病院で医療の質・安全管理部副部長を務める脳神経外科の江原一雅准教授は,治療中止に関する過去の判例やガイドラインを振り返り,現時点でのよりよい判断を検討し,同学会で報告した。

ガイドラインや複数意見で判断を

 多発性骨髄腫末期患者の治療を中止して塩化カリウムを静注した東海大学安楽死事件や,蘇生後低酸素脳症となった患者の人工呼吸器を外して筋弛緩薬を投与した川崎協同病院事件(上告審中)では,いずれも家族の要請で処置した医師が有罪判決を受けた。江原准教授は,2つの裁判によって「積極的安楽死は容認されず,がん末期で耐え難い苦痛軽減のための治療中止の用件が明示された」と分析したが,「家族の代諾については許容判断が分かれている」と述べた。

 次に1996〜2009年に新聞報道された13件の安楽死に関する事例を検証した。その結果,1例は筋弛緩薬の投与量が少なかったため死亡との因果関係はないとされた。残りは積極的安楽死ではなく治療の中止の事例で,「すべてに共通するのは,書類送検されても起訴までに至った事例は今のところない点である。射水市民病院事件のみは治療中止の決定プロセスに問題があり,記録が不備だった」と振り返った。

 来年7月に施行される改正臓器移植法では,臓器提供のための中止治療が要件となり,患者本人が書面で移植拒否を示していない場合,家族の承諾で臓器を摘出できるようになる。厚生労働省による中止決定プロセスのガイドラインでは,チームによる意思決定などが必要とし,患者が意思不明な場合は家族と相談して推定したうえで最善の医療を行うことと記している。しかし,治療中止が可能かどうかについての終末期の要件や中止方法には触れられていない。

 日本医師会や日本学術会議,日本集中治療医学会などのガイドラインでは,代諾判断の表現があいまいなものが少なくないとした。しかし,日本救急医学会については「『家族等が本人の意思や希望を忖度し,延命治療を中止する』と限定的だが代諾を許容している」と指摘。「治療中止は家族の代諾などで裁判所の判断が分かれるが,厚労省や各学会のガイドラインで判断が明確になりつつあり,特に急性期疾患では日本救急医学会のガイドラインを参考に院内での判断基準を明確に定めたうえでチームや倫理委員会などで判断すべき」とまとめた。

メディカルトリビューン 2009年11月26日
生きる:小児がん征圧キャンペーン 第25回日本小児がん学会・合同シンポ
 ◇10代の死、悩み深く どう向き合い、支えるか
 第25回日本小児がん学会が2009年11月27〜29日、千葉県浦安市の東京ベイホテル東急で開かれた。小児がんや血液疾患の患者が幸せに、元気に なってほしいという願いを込めた「君の笑顔 みんなの夢」をテーマに、日本小児血液学会や日本小児がん看護学会と同時開催された。今では7割が治る小児が んだが、後遺症や治癒後の自立など多くの問題が残されている。一方で、治癒が望めない子どもがいるのも事実だ。患者本位の医療のあり方や、支援に向けた医 師や看護師、ソーシャルワーカーの発言などを紹介する。

 学会期間中、患者支援団体「がんの子供を守る会」と日本小児がん看護学会が開いた、合同シンポジウム「10代患者の死をめぐる問題」。理解や意思決定が 可能な10代患者のケアについて、医師や看護師、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)などさまざまな立場から、意見が出された。

 ◇母性と父性が必要−−医師・小沢美和さん

 10代の患者は、大人を診ている人には理解しにくい部分をたくさん抱えている世代。自分を確立していく発展途上の時期で、とても不安定な状況に置かれて いる。その不安定な時期に、生と死を理解しようということは、さらに不安定さを抱え込むということを踏まえなければならない。

 揺れ動く彼らをしっかり受け止めて、「大丈夫だ」と支える母性と、現実に向き合うよう導く父性が必要だと思う。死の概念の発達は、10歳を超えるとほぼ 成人と同じくらいになるといわれるが、子どもによって幅もある。子どもがどれぐらい死を考えているかを個々に見極めて会話し、彼らが求めている情報を伝え ていかなければならない。信頼関係が土台となり、生と死という不安定で大きな問題を彼らは自分の中に何とか取り入れて、死を迎えているのではないかと考え ている。

 ◇答えはベッドサイドに−−看護師・田村恵美さん

 子どもは、自分自身で痛みや苦痛を訴えにくいところがある。特に思春期は心身共に成人へ移行し人間関係を形成していく時期であり、私自身も難しさを実感 している。

 エンドオブライフのなかで、看護師としてどう支えていくかと考えたとき、その子と向き合うこと▽共にいること▽看護師として自分の持っている力を最大限 出すこと▽生きる力を支えること▽希望を持ち続けること▽命を尊重すること−−などが必要なのではないか。私たち医療者は、患者などに何を言われるか分か らず不安になった時、ベッドサイドに行きづらいということを経験する。看護の専門職として自分が何かをしなければならないと迷った時は「必ず答えはベッド サイドにある」と信じ、命と向き合える自分でありたいと思っている。

 ◇同室の子どもの死への対応−−CLS・早田典子さん

 病棟で子どもが亡くなった時、年齢にかかわらず残された子どもも親もさまざまな反応を示す。メールなどの普及により、動揺は病棟だけではなく外来や訪問 学級にも広がる。こうした家族の反応を、医療者がどうサポートするのか考える必要がある。一方で、子どもを亡くした親の考え方に配慮することも大切だ。

 同室の子どもの死に、残された子どもたちはさまざまな喪失反応を示す。アルバム作りをしたりすることで、気持ちを整理し、心の中に亡くなった子どもを再 配置することの手がかりにもなる。自我確立期にある思春期の子どもへのグリーフケア(悲嘆への支援)は、友人の死を伝えるタイミングの配慮や、伝えた後の 心理、社会的背景を考慮した多職種による精神的なサポートが必要だ。

 ◇セカンドオピニオンの相談多く−−ソーシャルワーカー・樋口明子さん

 昨年度の相談件数は、延べ約1万8000件で、多くは母親からの相談だが、最近では本人からの相談も増えている。治療中から本人の相談を受けるケースも あるが、それは10代の患者が中心になっている。

 治すことが難しくなってきた段階になると、セカンドオピニオンの相談が多い。「もう治すことが難しくなった」というのをどう伝えるかという葛藤を、医療 従事者に理解してもらいたいと思う家族も多い。

 みんながお互いのことを思いやって頑張りすぎるからこそ、歯車がかみ合わないということが10代の患者の場合には多いと思う。ソーシャルワーカーは、兄 弟や親の支援をし、家族がどう患者を支えていくかを一緒に考える立場にある。今後も患者家族と一緒に、エンドオブライフの局面を考えていきたいと思う。

 ◇子どもの死受け入れられず−−患者家族・遠藤洋子さん

 娘は小学5年で白血病を発病し、6年半の闘病の間に5回の再発を繰り返した。5回目の再発の時は、いつもと違うと感じていた。

 医師に「これ以上続けると本人にとって苦痛でしかない」と言われたが、治療を止めることは死が迫ってくることだと恐怖を感じた。覚悟はあったつもりだ が、目の前に自分の子どもの死があるということを、どうしても受け入れられなかった。余命を宣告したことで、娘の気力がなくなったらと思うと怖かった。

 医師や看護師は最善を尽くしてくれたと思うが、その時はそれが分からないほど精神的に不安定だった。子どもと一緒に死と向かい合って話し合い、いい時間 を持てる家族はいると思う。一方で、精神的に不安になって話す勇気がない私たちのような親もいる。家族のことも考えてサポートしてもらいたいと思う。

 ◇ターミナル期のケア「ガイドライン」を検討−−ワークショップ

 「がんの子供を守る会」のワークショップでは、「ターミナルケアのガイドラインを作ろう」をテーマに意見が交換された。

 小児がんの治癒率が向上し、子どもが小児がんで亡くなることは少なくなってきたが、ターミナル期のケアへの意識や医療環境の整備は十分とはいえない。そ こで同会では、来年の発行を目指して検討を進めてきた。

 今回は、ガイドラインのうち「子どもの心に寄り添って」と「ターミナル期の過ごし方」の項目について文章を提示。「告知が前提になっているのでは」「緩 和ケアは、思いがあれば通じるのではないか」「『〜してあげる』という言葉はどうか」−−などと子どもを亡くした家族や医師、看護師らがさまざまな意見を 述べた。

 ガイドライン作成委員会の細谷亮太聖路加国際病院副院長は「ガイドラインができることで、治っていく子どもたちの親でも、治らなかった子どもたちのこと を考えてもらえれば」と話した。

 ◇思い届いた? がんの子ども絵画展

 大好きな家族や空の下のサッカーボール、夢をかなえてくれるクジラ−−。会場1階では小児がんの子どもたちの絵画展が開かれた。全国から集められた47 点が展示され、力強い絵に見入る人たちが絶えなかった。

 ポスターにもなった「いつでもいっしょだよ」は、東京都大田区の井田裕太君が、2歳6カ月の時に描いた作品だ。裕太君の小さな手形で、当時のえとにちな んだ鳥の「お母さん」を表し、「子どもたち」を指で表現した。裕太君は3歳7カ月で亡くなった。両親は、作品に「このにわとりさんとひよこさんたちのよう に、いつでも一緒だよ」とメッセージを寄せている。

 ボランティアで絵画展に参加した、母の正美さん(37)は、「裕太が残していってくれたものが、こういう形で伝えていけたら」と話していた。

毎日新聞 2009年12月12日
ものの始まり・なんでもなにわ:ホスピスケア/大阪
 ◇73年、末期患者に取り組み 全人的チームアプローチ−−淀川キリスト教病院
 ◇肉体的・精神的痛み緩和

 末期がん患者など死期の近い病人の苦痛を和らげながら、精神的援助を通じて生を全うできるよう看護するホスピスケア。ホスピス病棟設立は1981年の聖隷三方原病院(浜松市)が日本第1号だが、ホスピスケアの取り組みは73年、淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)で始まった。中心となったのが、同病院の柏木哲夫・名誉ホスピス長(金城学院大学長)だ。

 柏木さんがホスピスケアと出合ったのは、72年。米セントルイスのワシントン大学病院精神科に留学している時だった。3年間の留学の最終年、医師や看護師のほかに、宗教家やソーシャルワーカー、ボランティアまで参加して末期がん患者の看護にあたるチームアプローチを初めて知った。柏木さんは「目からうろこが落ちる思い。感動しました」と振り返る。

 帰国後、淀川キリスト教病院の精神神経科医長に就任。翌73年の夏、外科医から、ある患者について相談を受けた。62歳の末期の直腸がんの男性で、がんの痛みと死への恐怖感から、うつ状態になっていた。複雑な家庭事情も抱え、主治医も対応に苦慮していた。

 そこで提案したのがチームアプローチだった。主治医と柏木さん、さらにソーシャルワーカーと看護師、牧師が週に一度話し合いながら、痛みの緩和や死に対する恐怖を取り除くカウンセリングを始めた。やがて男性の痛みも精神状態も、家族関係も改善していった。手応えを感じ、同年「OCDP」と名付けた院内勉強会を発足した。「Organized Care Of Dying Patient(死にゆく人々のへの系統的な配慮)の略です。病棟は持たないけれど、我が国初のホスピスプログラムでした」

 だが、課題は残った。当時、患者の死は医学の敗北という考え方が支配的だった。「でも、末期の患者には輸血すら負担になる場合もある。治療をしないケアの概念を入れていくのは、周囲に抵抗が強かったですね」

 病室の環境も問題だった。人生の最後を過ごすには、「広くてあったかくて、ゆったりした場所」が理想。だが、大部屋の病室では実現困難だった。

 そこで、英国のホスピス病棟を目標に、病院内にホスピス病棟を建設する活動を始めた。82年から3年かけて2億円の寄付金を集める計画だったが、各地に賛同者が生まれ、1年9カ月で目標額を達成。84年に新病院の7階に個室11室4人部屋3室の23床と、キッチンやロビーを備えたホスピス病棟が完成した。

 現在、日本ホスピス緩和ケア協会登録の施設は195カ所に増えた。しかし、柏木さんは「全死亡者のうち、ホスピスが関与して亡くなる人は年5、6%程度。1割ぐらいがホスピスで死を迎えるくらいになるには、まだまだ施設は必要」と話す。

 さらには、自宅で死を迎える人のため、家庭への訪問看護をもっと増やす必要がある。「これまでは『みとりのための病棟』だったが、今後は『在宅療養を支援する拠点』という側面にも目を向けていく必要がある」と柏木さんは指摘する。

毎日新聞 2009年12月16日
呼吸器外しで医師不起訴 富山地検「殺人認定困難」 7患者死亡の射水市民病院
 富山県の射水市民病院で人工呼吸器を外された末期患者7人が死亡した問題に絡み、殺人容疑で書類送検された元外科部長の伊藤雅之 医師(54)について、富山地検は21日、呼吸器取り外しを殺人の実行行為と認定するのは困難などとして、嫌疑不十分で不起訴処分にした。

 地検は「呼吸器の装着から除去までを一連の行為ととらえると、取り外しはあくまで延命措置の中止にすぎない」と判断した上で「取り外しが患者の死亡に結び付いたとは必ずしも言えず、殺意も認められなかった」と説明した。

 問題発覚を契機に、厚生労働省は延命治療にかかわる指針を作ったが、最終的な判断は医療現場に任されている。今回の決定で、法制化を含め終末期医療の議論が今後深まりそうだ。

 亡くなったのは50〜90代の男女7人。このうち1人の呼吸器を外したとして、同容疑で別の医師(49)も書類送検されたが、地検はこの医師も嫌疑不十分とした。

 伊藤医師は21日夕、記者会見し「取り外しは志ある行為。患者のために一番良いなら、また同じ選択をする」と話した。

 富山県警は昨年、伊藤医師らを書類送検したが、患者の家族に処罰感情はなく、延命治療を望まないと医師が事前確認したケースもあり「重い処分は求めない」とする意見書を付けていた。

 同様に患者の呼吸器が外された北海道立羽幌病院、和歌山県立医大病院紀北分院でも、それぞれ医師が殺人容疑で書類送検されたが、いずれも嫌疑不十分で不起訴処分となった。

 ▽国の終末期医療指針

 厚生労働省が射水市民病院の問題を受け、専門家らで議論し2007年5月に策定した。(1)医師や看護師などのチームが患者に十分な情報提供をして治療について話し合い、本人意思を基本に合意内容を文書化(2)本人意思が確認できない場合は家族など近親者の意思を尊重-などが柱。肉体的苦痛の緩和ケア充実が最重要という立場で「積極的安楽死」は対象外とした。日本救急医学会は「延命治療の中止」を選択肢として認める指針を策定。各医療機関も独自の指針づくりをしている。

 ▽射水病院の呼吸器外し

 富山県の射水市民病院で2000〜05年、人工呼吸器を外された50〜90代の男女7人の患者が死亡。いずれも末期状態だった。調査を進めた病院側が06年3月に公表した。富山県警は08年7月、殺人容疑で当時の外科部長伊藤雅之 医師を書類送検し「重い処分は求めない」とする意見書を付けた。別の医師も1人の呼吸器外しを伊藤医師と共謀したとして書類送検された。

m3.com 2009年12月22日
厚生労働省で,第5回終末期医療のあり方に関する懇談会
 2009年12月24日,厚生労働省で,第5回終末期医療のあり方に関する懇談会※(座長=上智大学大学院法学研究科教授・町野朔氏)が開催され,全日本病院協会常任理事の木村厚氏と仙台往診クリニック院長の川島孝一郎氏がそれぞれ発表を行った。また,事務局は,昨年(2008年)10月27日以来,4回にわたる懇談会の内容をまとめた「終末期医療に関する調査等懇談会報告書骨子(案)」を提示。終末期医療の法制化については,「必要」あるいは「法に頼るべきではない」と,異なる意見が併記された。
木村厚氏と川島孝一郎氏の発表内容も対照的

 発表に先立って足立信也厚生労働政務官があいさつし「今,説明する医療が必要である。今月決定した川崎協同病院事件の最高裁の上告棄却は,情報をいかに共有できたかが問題となっている」と指摘。「インフォームドコンセントから,インフォームドチョイス,さらにインフォームドディシジョンの時代となっており,自己決定権は尊重されなければならない」とし,終末期医療をめぐる議論が広く行われることを求めた。

 木村氏は,今年(2009年)5月に全日本病院協会が中心となってまとめた「終末期医療に関するガイドライン〜よりよい終末期を迎えるために〜」の策定目的や内容を紹介した。ガイドラインには,リビング・ウィル(終末期に関する生前の意思表明)が不明確か,ない場合は,他の医師,看護師などと家族を交えて話し合い,治療を開始しない,あるいは治療を中止することを決めることができるようにすべきである,合意に至らない場合,第三者を含む倫理委員会などで検討しその結論に基づいて対応する必要があると明記されている。

 同氏は「明日から使えるというものではないが,国民に啓蒙し,周知する努力を行っている。会員を対象に,ガイドラインを使用しているかなどを尋ねるアンケートを開始したところである」と述べた。

 一方で,川島氏は「終末期」という言葉は構成概念であり実体ではないため,定型の条件や権利を定めることは危険と指摘。また,緩和医療が進歩し,終末期まで痛くない,苦しくない状況をつくることも可能になる一方,緩和医療を知っている医師が20%程度といった点に問題があると指摘した。
法制化の問題について「考え方の筋道は見えてきた」と座長

 報告書骨子(案)は,(1)終末期医療に関する調査結果,(2)終末期医療のあり方に関する懇談会の主な意見,(3)まとめ―の3項目。「リビング・ウィル,法制化」に関する意見としては,(1)本人の意思を尊重すべきであり,これに医療従事者側は対応できるよう法整備が必要である,(2)国が決めるべき問題ではなく,まずは,患者・家族が十分説明を受けることができ,患者が本音を語れる環境整備が重要である,(3)個人的な倫理の問題であるので,法に頼るべきではない―といった内容が併記されている。

 「まとめ」の項で,「終末期においてどのような医療が提供されるべきか多様な意見がある」と記された点について,参考人から「これまでの議論で進歩がなかったということでは」という意見も出た。しかし,町野座長は「例えば,インフォームドコンセントの概念は点の問題でなく,プロセスの問題であること,終末期は期限で切れないことがわかったことなど,大きな進歩があったと思う。法制化の議論でも,報告書にどうまとめられるかは今後の課題であるが,考え方の筋道は見えてきた」と個人的見解を述べた。

 また,日本難病・疾病団体協議会代表の伊藤たてお氏は「(終末期医療に関する調査結果の項目で)63%が家庭に帰りたいが,66%は家庭では困難と感じているとなっているが,その中身に一歩踏み込まなければいけない。医療は在宅の方向へ進んでいるが,少子高齢化により,単身や2人家庭も多く,在宅で終末期医療は成り立つのか。今後,家族を含めた経済的,肉体的苦痛を考え,終末期医療を議論していく必要がある」と指摘した。

 次回の開催は未定だが,定期的に議論を行う予定。

メディカルトリビューン 2009年12月25日