広葉樹(白) 
        
    

 ホ−ム > 医学トピックス > バックナンバ−メニュ− > 2014年11月〜2015年12月



2014年11月 文献タイトル
肝臓がん 日本人特有変異 遺伝子解析で判明 国立がんセンターなど
幹細胞でがんを退治
「ペプチド」でがん治療 熊本大が臨床成果
末期がんから自力で生還した人たちが実践している9つのこと 全米ベストセラー『がんが自然に治る生き方』
肥満原因のがん、年50万人 WHO、女性高リスク
2014年12月 文献タイトル
高い効果、少ない副作用 C型慢性肝炎の新薬 神戸で治験報告
肉食べ過ぎ、実は2割
母の子宮移植し出産 スウェーデンで2例
大腸がん転移、タンパク質の変化で予測 京都大グループ
ペプチド3種混合、がん治療に効果 熊本大グループ
日本人のためのがん予防法 女性は痩せ過ぎに注意
大腸がん抑える食品成分 パパイアの種、岡山大
がんカフェ 広がる共感 患者も医師も、対等に対話
酵素投与し増殖抑制 胃がん治療に大阪市大
野菜多く食べる男性、胃がんリスク低下
2015年1月 文献タイトル
豪が日焼けマシン禁止 皮膚がん対策で
ピロリ菌、中高生も検査 北海道9市町で実施 胃がん予防に効果
縦隔腫瘍をロボット「ダヴィンチ」を使い手術 静岡県立静岡がんセンター
体験コラム充実させ第2版 「がんと仕事」QA集
がん転移促す遺伝子特定 京大、治療薬開発に期待
がん攻撃するリンパ球投与 三重大治験、実用化目指す
一見ウイッグ、実は帽子 がんセンターなどが開発
採血だけでがんリスク評価 アミノ酸解析
2015年2月 文献タイトル
進行大腸がんの腹腔鏡手術、生存率90%超
ビッグデータ活用に期待と課題、日医シンポ DPCデータを活用した研究成果などを紹介
メトホルミン、非喫煙者の肺癌3割減 非喫煙者でリスク下げ、喫煙者でリスク増加
「医療否定本」との向き合い方 『がんが自然に治る生き方』について
脳卒中で発癌率増、死亡リスクも3倍に 脳卒中患者に早期癌スクリーニングを
2015年3月 文献タイトル
心臓ホルモンに癌転移予防効果 国立がん研究センター、ANPの血管作用から確認
メトホルミンが癌攻撃T細胞を回復 岡山大、細胞数の増加と機能回復が顕著
NHKの癌医療に関する番組を見て
癌細胞増殖を人工遺伝子で抑制 海洋研究開発機構が新技術開発
嗅覚訓練犬が尿検体の匂いで甲状腺癌を検出
抗癌剤の効き目、飼育温度で差 ニューヨーク州立大、マウスで確認
肥満で女性のがんリスクが40%上昇 4人に1人が体重関連のがんを発症
深酒で5種類のがんのリスクが高まる そのほか12種類の部位では関係なし
2015年4月 文献タイトル
膠芽腫も消えた! ポリオウイルスでがんを治す新療法が登場
臓器守り病巣狙い撃ち がん粒子線治療新手法開発中 神戸大
砂糖、実はがんや糖尿病の原因に?
コレステロールを下げる薬、大腸がん手術後の生存率を上げた 飲み薬「スタチン」、台湾での検証結果
化学療法が効かない大腸がんに、たちの悪い「がん幹細胞」を殺す有望な新薬候補 米ペンシルベニア州立大学、ネズミの実験で証明
ロンドン大学「コーヒーが肝臓がんに効果的かも」
抗がん剤に意外にもアルツハイマー病の治療効果、新薬の開発に? 動物実験で記憶喪失の回復を確認
米国では子どものがん生存者は増えている、その大半が別の病気にかかっている がんだけではなく、「治療後」の強化が必要に
乳がんや脳の老化も!? 「睡眠不足」が引き起こす予想以上のリスクとは
チョコレートをもっとおいしくし、抗がん作用も高める方法が発見される
なぜアンジェリーナ・ジョリーは健康な乳房、卵巣・卵管を切除したのか
2015年5月 文献タイトル
リンパ節転移巣のDDSを東大開発 キャリア径50ナノ以下、薬剤が血管を有意に透過
「緑」「オレンジ+黄色」「赤+紫」「白」、大腸がん減らす野菜と果物の色とは? 4つのパターンのうち3つはリスク低下に関連
2週間で大腸がんになりやすい体に?!食事の変更でまたたく間に腸内フローラなどが一変 食事は「西洋型」よりも「高食物繊維と低脂肪のアフリカ型」
がん細胞への近赤外光線免疫療法による治験がFDAに承認される
がんの樹状細胞療法をステップアップ 「キラーT細胞」の攻撃力を高める方法
がんと闘う新発見、ビタミンA関連の「ATRA」が効果、米国ハーバード大学が報告
子宮頸がんのリスクを理解してますか? 1回のセックスで発症する可能性も
ガルデルマ、皮膚潰瘍部位の殺菌で臭いを軽減
デンカ生研が東大医科研の藤堂教授から委託
授乳歴が乳がんの再発を低減する ER陽性乳がんの転帰に有意差
進行したがんにも効果アリ! キューバ製「肺がんワクチン」に世界が注目
テロメアの短縮速度からがんリスクを予測 がんになる人で速くなることが判明
「がんが自然に治る生き方」を実践しています 『がんが自然に治る生き方』翻訳者のレポート
出生時の父親の年齢が血液がんリスクに関連 ただし生涯リスクは低値、心配の必要はなし
がん治療はお金がかかる? がん保険はホントに必要?
前立腺がんのホルモン療法が思考障害をもたらす 特定の遺伝子変異でリスク14倍に
ビタミンサプリメントで皮膚がんリスクが低減か ニコチンアミドで効果
2015年6月 文献タイトル
米国、遺伝子変異に合った抗がん剤を探す治験を開始
10代で太っていると、その後の大腸がんリスクは2倍に、米国ハーバード大学が報告 スウェーデンの男性のデータから
ウイルスを用いた免疫療法が進行メラノーマに有効
食生活直せば大腸がんのリスクが減る ヒントは和食とアフリカ料理にある
若年者の大腸がんは高齢患者とは遺伝的に異なる 治療薬の代謝にも違い
前立腺癌死リスク、食事内容で倍増 診断後の食事パターンは死亡リスクを左右
1滴の血液で「がん発見」診断たった3分! すい臓がん、胃がん、大腸がん・・・年内にも実用化
コーヒーに体の炎症を抑える効果、「飲んでいる人でがんのリスクが低い」理由にも 多く飲む人は5つの炎症物質が少ない
大腸菌を注射したらがんが消滅!?画期的ながんの治療法となるか? 大腸菌を利用したがん免疫療法の開発を目指して
がん細胞だけを狙った、中性子線による新しい粒子線治療、東大を含む研究グループが報告 MRIでがんを特定して攻撃
脂質異常症の治療薬「スタチン」が卵巣がんを抑制 慶大がマウスで確認
2015年7月 文献タイトル
ビタミンDとがんとの関わりに注目 卵巣がん女性の生存を延ばす?
実用化近い!? 血液、におい、唾液でがん超早期発見!臓器別に一発判定
世界初、「夢のがん診断」技術 血液1滴、たった3分で結果がわかる! 医学知識ゼロのベンチャー企業が起こした奇跡
「がんが消える」患者は決してゼロではない 『がんが自然に治る生き方』を医師として読んで
血液、唾液の検査で頭頸部がんの早期発見が可能に 非侵襲的ながん検出に期待
がんができる新たな仕組みを発見! 細胞分裂の鍵となるタンパク質「サイクリンE」、多すぎると乳がんや白血病に
微小乳癌を術中に迅速可視化 東大など、蛍光試薬用いた検出技術を開発
iPS癌免疫細胞療法、千葉大研究開始 理研と共同、3年内の医師臨床試験目指す
ストレス強いほど下痢や腹痛、がんにもつながる「炎症性腸疾患」
「がんからの生還者」から学ぶ「治る人」の共通点 『がんが自然に治る生き方』を医師として読んで
定期的なマンモグラムが乳がんの「過剰診断」につながる可能性 スクリーニングで死亡率に有意差なし
医者のがん告知を「冷静に受け入れる」と早死にする
2015年8月 文献タイトル
がん検診は人工知能で! Deep Learningが悪性腫瘍を見逃さない
がん診療、 理不尽な施設格差 エビデンス明確でも保険適用されず、患者が不利益
「マイクロDNA」という断片、がんの目印になるかもしれない さまざまな細胞に固有のマイクロDNAができる
世界初ロボ手術、ICV(下大静脈)内腫瘍血栓腎癌で【米国泌尿器科学会】 レベル3血栓で全例生存、開腹手術の移行なし
がん治療のためのデータをリアルタイムで取得できる小型の生化学センサー
がん細胞が消滅した人も確認、米国で開発中の新型免疫療法「TCR療法」とは? 治療困難な「多発性骨髄腫」で効果を発揮
炎症からがん、漂白剤と同じ成分に関与、米国MITが報告 突然変異を招く「5クロロシトシン(5CIC)」
早期乳がんには高線量・短時間の放射線療法がベター 副作用が少なくQOL向上
がん細胞を直に集中攻撃 極小カプセル「ナノマシン」の威力
がん治療に光明?
ガン細胞を元の良性細胞に戻すことが可能である研究結果が明らかに
乳癌後の筋トレが虚弱化抑制に効果【米国癌協会】 身体機能の喪失防ぎ、早期死亡も予防か
大腸がんの早期発見に繋げたいと、美少女ゲームの開発に取り組む医師がいます。 美少女と一緒に便を観察
2015年9月 文献タイトル
胃癌10年罹患確率の予測モデルを作成 国立がん研究センター、生活習慣リスク因子とABC分類を活用
乳癌リスクがn3系不飽和脂肪酸で低減 国立がん研究センター、n6系摂取多いとリスク上昇も
下流老人になる可能性も がん治療の“お金Q&A”
マンモ偽陽性、心理的影響1年継続 不安や落胆、行動や睡眠にも悪影響を報告
血中がん細胞をインプラントで捕捉、転移抑制に一助 米研究
家にもある!膵臓がん発見の新兵器はあの「飲み物」
MRIの力は診断だけじゃない!磁力でがんに免疫細胞を導く新手の治療が登場 「型破りな発想」から医療に新風
大腸内視鏡検査の時間を長くするとがんリスクが低下 検査時間が6分以下でリスク2倍に
国がん、がんの5年相対生存率を発表 - 全がん64.3%、肝臓35.9%
西日本で多い“肝がん” 原因は肝炎ウイルス感染の多さ
50〜60歳代に心血管疾患と大腸がん予防のためのアスピリン使用を推奨
ほくろと思ったらがんだった 皮膚がんの一種・メラノーマの見分け方とは
ホルモンの影響で増える前立腺がんの治療強化、コレステロールの薬スタチンが効果あり 「アンドロゲン遮断療法」の効果を高める
ただの1人もがんにならない中国奥地の村 その理由が明らかに―台湾メディア
メトホルミン服用が頭頸部がんリスク低下と関連か 非服用群に比べ発症率が34%の低下
細胞傷害性T細胞をiPS細胞で若返り メディネット−東大、新たな免疫細胞治療で共同開発基本合意
肝細胞癌再発予測に「新マーカー」 血中循環腫瘍DNAで癌の重症度を予測
2015年10月 文献タイトル
家庭用殺虫剤の使用が小児がんリスクに関連 室内の曝露で血液がんリスクが4割上昇
大腸癌とCVD予防にアスピリン勧告 米作業部会、50-59歳に推奨勧告B
もし私がいま、がんになったら...? 慌てないための5つの心構え
抗がん剤の副作用軽減に新しい方法、大豆油などを乳化した栄養補給剤が効く 「イントラリピッド」がプラチナ製剤の毒性を軽減
ゾウにがんが少ない理由を解明、米研究
がんが心臓にもたらす隠れた危険 新規診断のがん患者で心臓組織の損傷が示唆される
身長が高い人はがんリスクも高い可能性 10cm高くなると女性で18%、男性で11%リスク上昇
正しい知識でがんを防ぐ 子どもたちに必要な「がん教育」とは
多能造血前駆細胞を体外で無限増幅 理研など、癌療法応用に期待
「加工肉の発がん性」WHO組織が正式に認定
微量血液で癌免疫療法効果を定量評価 メディネットなど、診断薬で実用へ
肺癌を呼気で識別する検知器開発 フィガロ技研−産総研、呼気中VOCから複数肺癌マーカー物質の組み合わせ見出す
大腸癌スクリーニング勧告案公表 50-75歳の全成人スクリーニングを強く推奨
2015年11月 文献タイトル
男性向けサプリメントは前立腺がん患者に無益 疾患増悪や死亡のリスク低減せず
膵癌診断のバイオマーカーを発見 国がん、検査キットも開発
TVの見過ぎが主要疾患による死亡リスクに関連 1日3〜4時間の視聴でリスク15%上昇
髪の脱毛を、諦めない抗がん剤治療
腫瘍溶解性ウイルスの国内P2実施 タカラバイオ、米国治験データ活用
子どもの多い女性は卵巣がんリスクが低い 卵管結紮でも予防効果
男性不妊で精巣がんリスクが高い可能性 精子数が異常に少ない男性ではリスク10倍
2015年12月 文献タイトル
カーター元米大統領、脳腫瘍の治療成功を発表
科学界のタブー、がん“予防”に「細胞競合」という新しい研究分野から挑む
ALL(急性リンパ性白血病)のCAR-T療法で9割完全寛解 6カ月後も76%で再発せず
加工肉でがんになる? 本当はどんな報告だったのか 誤解だらけの加工肉・赤肉問題
2016年から始まる「全国がん登録」 将来のがん治療にどのように役立つのでしょうか
新たな癌治療標的発見、国がん 合成致死のメカニズムを利用
がん検診が死亡率高める?危険な現実
マンモ偽陽性、後の癌リスク4割増 診断後生検群ではリスクが76%増加
スマホで抗癌剤副作用モニタリング 英AZ、臨床試験で有用性検証
前立腺がんのホルモン療法がアルツハイマー病リスクに関連 3年間の追跡期間中に診断される可能性が88%上昇
資生堂、がん治療中の人に向けメーキャップ方法をまとめた小冊子を無料配布

2014年11月
肝臓がん 日本人特有変異
遺伝子解析で判明 国立がんセンターなど
 日本人の肝臓がんの患者だけに特徴的な遺伝子の変異があることを、国立がん研究センター、東京大などの研究チームが、患者らの遺伝子解析から見つけた。チームは「日本人だけが持つ新たな発がん要因の解明に役立てたい」と説明している。2日付の米科学誌(電子版)に掲載された。

 研究は日米共同で実施され、肝臓がんの9割を占める「肝細胞がん」の患者のがん組織を調べた。対象は日本人414人▽欧米人103人▽米国在住アジア人38人――など計608人。解析の結果、加齢による遺伝子の変異は共通して見られたが、日本人には、この他に特徴的な変異のパターンがあった。

 一般に肝臓がんの原因は、B型・C型肝炎ウイルスへの感染が多いとされるが、ウイルスが関係しない非ウイルス性のがんも増えている。見つかった日本人特有の遺伝子の変異はウイルス感染とは関係なく、いずれの患者にも見られ、新たな治療法の開発に役立つ可能性があるという。

 国立がん研究センターの柴田龍弘・分野長(がんゲノミクス研究分野)は「患者の食事など生活環境のデータと合わせれば、日本人の肝臓がんの新たな原因が分かるかもしれない」と話す。

m3.com 2014年11月4日

幹細胞でがんを退治
 がん細胞を退治する幹細胞を開発したという研究結果を米ハーバード幹細胞研究所などのチームが米科学誌に発表した。

 チームは、正常な細胞には働かず、がん細胞にだけ働く毒素に着目。遺伝子工学の技術を使い、人の神経幹細胞に毒素への耐性と毒素を放出する機能を持たせた。

 マウスを使った実験で、脳腫瘍の大部分を除去した後、体内で分解するゲルに包んで、この幹細胞を入れたところ、毒素でがん細胞が死滅し、マウスの生存率が改善したという。

 チームはさらに効果を上げる方法を研究して人への応用を目指す計画で、5年以内には臨床研究を始めたいとしている。

m3.com 2014年11月11日

「ペプチド」でがん治療 熊本大が臨床成果
 他に治療方法のない頭頸部のがんに対して、アミノ酸が連なった物質「ペプチド」3種類を投与して、がんを攻撃する免疫力を高め、延命やがん消失の効果を得たとする臨床研究の成果を、熊本大大学院生命科学研究部の西村泰治教授らのグループが12日、米医学誌(電子版)に発表した。ペプチドを使うタイプのがん治療薬は未開発で、同タイプとして世界初の実用化を目指す。

 西村教授と同大名誉教授で伊東歯科口腔病院(熊本市中央区)の篠原正徳医師によると、手術や放射線での治療ができない患者37人に対して、3種類のペプチドを混合して注射で投与。すると、投与した患者の生存期間は約4・9カ月で、投与していない患者(18人)の約3・5カ月より長かった。投与した患者のうち1人は、がんが完全に消失して生存中という。

 効果が見られた患者では、ペプチドが抗原提示細胞を介して免疫細胞の一種「キラーT細胞」を活性化させていることを確認。活性化したキラーT細胞は、がん細胞の表面に顔を出すペプチドを目印に、がん細胞を攻撃するという。また、キラーT細胞を活性化するペプチドの種類が多いほど、治療効果が高いことも分かった。

 3種類のペプチドは、前東京大ヒトゲノム解析センター長で米シカゴ大の中村祐輔教授が、がん細胞の遺伝子を解析して特定した。

 現在、国内の製薬会社が医薬品としての実用化を目指して治験中。篠原名誉教授は「ほとんど副作用がなく、患者の生活の質を保てる治療法」と話している。シカゴ大の中村教授は「複数のペプチドの混合が有効なことが分かり、今後のがん治療の方向性を示す成果」としている。

m3.com 2014年11月13日

末期がんから自力で生還した人たちが実践している9つのこと
全米ベストセラー『がんが自然に治る生き方』
がん治癒を目指して実行していた9項目

 劇的な寛解について記した医学論文は1000本以上分析しました。博士論文の研究を終えてからもさらにインタビューを続け、その対象者は100人を超えました。

 わたしは、質的分析の手法で、これらの症例を何度も詳細に分析しました。その結果、劇的な寛解において重要な役割を果たしたと推測される要素(身体、感情、内面的な事柄)が75項目、浮かび上がりました。

 しかし、全項目を表にして出現頻度を調べると、75のうちの上位9項目は、ほぼすべてのインタビューに登場していることに気づきました。

 たとえば登場回数が73番目に多かった「サメ軟骨のサプリを摂取する」。これは調査対象中の、ごくわずかな人が話してくれただけでした。かたや語られる頻度のもっとも高かった9つの要素については、ほぼ全員が、「がん治癒を目指して実行した」と言及していたのです。

 その9項目とは次のとおりです。

・抜本的に食事を変える
・治療法は自分で決める
・直感に従う
・ハーブとサプリメントの力を借りる
・抑圧された感情を解き放つ
・より前向きに生きる
・周囲の人の支えを受け入れる
・自分の魂と深くつながる
・「どうしても生きたい理由」を持つ

 この9項目に順位はありません。人によって重点の置き方が異なるものの、インタビューで言及される頻度は、どれも同じ程度でした。わたしが話を聞いた劇的寛解の経験者はほぼ全員が、程度の差はあれ9項目ほぼすべてを実践していたのです。

 そこで本書は9章に章立てし、1章で1項目ずつ説明していきます。

 各章では、まずその章のテーマについての解説と、それを裏付ける最新の研究報告を紹介します。次に、劇的な寛解を遂げた人の実話を記します。章末には「実践のステップ」と題して、その章のテーマを実践しやすいかたちにして、いくつかの方法をご紹介します。

President ONLINE 2014年11月16日

肥満原因のがん、年50万人 WHO、女性高リスク
 世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(本部フランス・リヨン、IARC)は27日までに、過体重や肥満が原因でがんを発症する人が世界で年間約50万人に上るとの研究結果を英医学誌ランセット・オンコロジーに発表した。男性より女性の発症リスクが高いという。

 IARCは「肥満ががん発症の主要なリスク要因になっている」と警告。発展途上国の経済成長に伴い、肥満が世界的に深刻な問題となる中、対策を急ぐよう各国に促した。

 IARCによると、2012年の新たながん発症者の推定3・6%(約48万1千人)が過体重や肥満が原因だった。全体に対する肥満由来のがんの割合は、女性が男性より3倍近く高かった。

 肥満は食道や大腸、腎臓などのがんのリスク要因とされている。

 IARCは「例えば閉経後の乳がんなどの10%は健康的な体重を保つことで発症を防ぐことができる」と指摘、肥満対策の重要性を強調した。

m3.com 2014年11月28日

2014年12月
高い効果、少ない副作用 C型慢性肝炎の新薬 神戸で治験報告
 C型肝炎ウイルス(HCV)によって起こるC型慢性肝炎の新しい経口治療薬について、厚生労働省に製造販売の承認が申請されている。神戸市中央区で開かれた「日本消化器関連学会週間」で、専門医による新薬の臨床試験(治験)の報告があった。標準的なインターフェロン治療より効果が高く、副作用も少ないといい、治療の選択肢が広がると期待される。

 HCVに感染している人は全国で150万〜200万人。多くは血液からの感染で、1988年以前の集団予防接種や92年以前の輸血のほか、入れ墨、ピアスの穴開けなどで感染者と器具を共用することが主な感染経路として知られる。肝細胞の破壊と再生が長年繰り返され、放置すると肝硬変、ひいては肝がんにつながる。

 C型慢性肝炎の標準的な治療はウイルスの増殖を抑える注射薬「ペグインターフェロン」と抗ウイルス薬「リバビリン」の併用だが、ペグインターフェロンは発熱やだるさ、全身の痛みなどの強い副作用を起こす。また、日本人のC型慢性肝炎の約7割を占める「1b型」というウイルスの型には効きにくいという問題もある。

 新薬はこの1b型が対象で、ウイルスの遺伝子の複製を妨げて増殖を止める「ソホスブビル」(一般名)と、ウイルスのタンパク質生成を阻害する「レジパスビル」(同)を配合。米医薬品企業ギリアド・サイエンシズ社の日本法人が9月に承認申請した。

 治験の結果をまとめた、国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター(千葉県市川市)の溝上雅史センター長によると、肝硬変患者76人を含む341人に1日1錠を12週間経口投与し、338人が完治。この中にはインターフェロン治療の効果を得られなかった患者88人も含まれていた。副作用は鼻や喉の炎症、頭痛、だるさなど、いずれも軽いものだった。

 ウイルスに直接作用する薬は開発が盛んになっているが、使われている間にウイルスが変化し、耐性が生じる危険性がある。ただ、新薬についてはウイルスへの作用の方法が他の薬と違い、既に治療に使われている米国では、今のところ耐性が生じたという報告はないという。

 溝上センター長は「経口薬なので治療がしやすい。副作用がほとんどなく、インターフェロンが効かなかった人にも有効なのは朗報だ」と期待を寄せる。

m3.com 2014年12月2日

肉食べ過ぎ、実は2割
 「日本人はいませんでした」

 海外の大事件、事故を伝えるニュースの最後に付く一文に、「日本人さえ無事ならいいのか」というメディア批判があるそうだ。残念な誤解だが、批判したくなる理由も分かる。「日本人は……」の簡潔な一文が「その他の国の人」という比較対象のある文脈に置かれると、対比の意味合いを帯びる。「お手伝いはしました」と言えば、「宿題はしませんでした」とばれてしまうように。

 科学的真実を追求して得られた研究成果も、「社会」という文脈に置かれると、研究の意図を超えた理解を生むケースがあるように感じる。

 「肉を多く食べる男性は糖尿病になりやすい」。国立がん研究センターなどの研究チームが日本人6万人以上を長期追跡し、肉食と病気の関連を報告している。研究では、牛や豚などの肉を多く食べる人ほど影響が大きかった。こう聞けば、肉食を控えたくなる。しかし、どれくらい食べると病気になりやすいのか。

 疑問を津金昌一郎・同センターがん予防・検診研究センター長にぶつけると「高リスク群に当たる毎日100グラム以上の肉を食べている人は、日本人の5分の1程度でしょう」との答えが返ってきた。日本人の8割はリスク群に達していない。肉100グラムの献立に当たるのは「焼き肉弁当の薄切り肉5枚」「しょうが焼きの肩ロース3枚」などだという。

 牛や豚などの肉は鉄分が豊富なため赤い。こうした赤肉がインスリン分泌に影響し、糖尿病リスクを高めるとのデータが欧米の研究にあった。「では日本人は?」と調べたのが、この研究だ。一連の研究では肉食が大腸がんリスクを高める一方で、肉に豊富な飽和脂肪酸を多く摂取するほど脳卒中リスクが低下することも分かった。これに対し、現実の日本人の平均的赤肉摂取量は1日約60グラム。昔より増えたといっても欧米の3分の1程度だ。津金さんも「1日80グラムまでなら健康的」と指摘する。

 これらの研究を聞くと、特定の食材の長所や短所ばかりに意識が向きやすいが、それぞれの研究は食材同士の優劣までは判定していない。「『○○は悪い(いい)』と決め付けたい人がどこかにいるんでしょう」。津金さんの「皮肉」が耳に残る。

m3.com 2014年12月4日


母の子宮移植し出産 スウェーデンで2例
 スウェーデンで、母親の子宮を移植された女性2人が男児1人ずつを出産した。子供が祖母の子宮から誕生した例は初めてという。12月3日付の英紙デーリー・メールが伝えた。

 同紙によると、出産したのは、生まれつき子宮がない女性(29)と、がん治療のため自らの子宮を摘出した女性(34)。2人は、イエーテボリ大の医師らにより、出産目的で生体子宮移植を受けていた。同大はこの女性2人を含む計9人に子宮を移植し、これまで4人が妊娠したという。

 男児2人は約1カ月前に帝王切開で生まれ、自宅で順調に育っている。

 スウェーデンでは9月、60代前半の知人女性から提供された子宮の移植を受けた女性が世界初の出産に成功。今回も含めると、子宮移植による出産の成功は計3例になる。

 同紙は「娘のためにできる最高の特別な贈り物だ」と子宮を摘出して提供した母親を称賛する英大学教授のコメントを紹介。子宮がなく、出産を望む多くの女性に希望を与えると強調した。

 英国でも、脳死に至った女性から提供された子宮を出産目的で移植する計画が進められているという。

m3.com 2014年12月4日

大腸がん転移、タンパク質の変化で予測 京都大グループ
 大腸がんにあるタンパク質の変化で手術後の経過を予測できることを、武藤誠・京都大名誉教授や園下将大・京大医学研究科准教授らのグループが見つけ、3日発表した。変化があると、死亡率が高まる転移が起こりやすくなるといい、診断法として数年後の実用化を目指している。

 大腸がんは女性でがんの死亡原因のトップを占める。大腸がんでは特に転移すると死亡につながるため、転移の仕組みの解明とそれを抑える方法の確立が課題となっている。

 グループは、大腸がんの細胞にあるタンパク質Trioの特定部分に変化(リン酸化)があると、細胞の運動性が増して転移しやすくなることを突き止めた。転移のある重度の患者57人のがん細胞を調べた結果、約8割の46人に変化があった。また、手術後の生存率も変化がある場合は、ない場合に比べて低くなった。

 変化のある大腸がんの細胞を抗体で見分ける手法も既に開発している。武藤京大名誉教授は「がん細胞に変化のある患者は転移の恐れが高く、早期に抗がん剤を投与するなどの治療が考えられる」と話している。

m3.com 2014年12月4日

ペプチド3種混合、がん治療に効果 熊本大グループ
 熊本大大学院生命科学研究部の西村泰治教授(免疫識別学分野)らのグループが、アミノ酸が連なった物質「ペプチド」を使ったがん治療薬の実用化を目指している。

 ペプチドは20年以上前、がん治療薬の有力候補として研究されたが、効果が低く、実用化されなかった。西村教授らは11月、3種類のペプチドを混合して投与し高い治療効果を得た臨床研究の結果を、米医学誌「クリニカル・キャンサー・リサーチ」(電子版)で発表した。

 西村教授によると、がん細胞をはじめとする細胞の中では、遺伝子を設計図に多種多様なタンパク質が作られる。そのタンパク質の断片が「ペプチド」。ペプチドは、HLA(ヒト白血球抗原)と呼ばれる分子に結合して、がん細胞の表面に顔を出す。

 西村教授は、米シカゴ大の中村祐輔教授(前東京大ヒトゲノム解析センター長)の協力を得て、口腔と食道上部の扁平上皮がんの遺伝子を解析。体内の20種類以上の正常な細胞と比較し、がん細胞だけで活発に働いてタンパク質を作る遺伝子を特定。そのうち三つのタンパク質に由来するペプチドを、臨床研究に使うことにした。

 ペプチドは、患者の脇の下などリンパ節の近くに注射で投与すると、免疫を担う「抗原提示細胞」の表面にあるHLAに結合する。抗原提示細胞は免疫細胞の一種「キラーT細胞」に、攻撃の目印となるペプチドの種類を伝達して活性化。活性化したキラーT細胞は、がん細胞の表面に顔を出すペプチドを目印に攻撃する仕組みだ。

 臨床研究では、手術や抗がん剤、放射線での治療ができない患者37人に、週1回のペースで9回投与。その後は、4週に1回投与した。すると、投与した患者の生存期間は約4・9カ月で、投与していない18人の約3・5カ月より長かった。投与した患者のうち1人は、がんが完全に消失した。研究グループで臨床を担当した篠原正徳名誉教授は「大きな効果」と評価する。

 また、キラーT細胞を活性化するペプチドの種類が多いほど、治療効果が高いことも判明。西村教授は「以前は1種類のペプチドでは効果が低く、薬として実用化できなかったが、複数を混合すると効果が高まることが分かった」と話す。

 ただ、HLAには多くの型がある。今回は日本人の6割が持つ「A24型」を対象としたが、型が合わなければペプチドの種類が異なるため、治療できない。今回の臨床研究でも、型が合わずに投与できない患者がいた。

 西村教授は「キラーT細胞を活性化するには、時間がかかる」と話し、余命の少ない末期の患者よりも、手術後の再発予防の方が効果は高いと期待する。

 ペプチド薬の研究は一時、下火になっていたが、2012年から再び過熱しているという。ペプチド薬に13年間取り組んでいる西村教授は「今回の成果は、基礎から応用まで純国産の技術によって得られた。別の種類のペプチドを用いたり、がん細胞による免疫抑制の働きを解除したりして、さらに効果を高めたい」と話している。

m3.com 2014年12月4日

日本人のためのがん予防法 女性は痩せ過ぎに注意
 科学的な根拠があり、現状で日本人に推奨できると考えられるがん予防法を、国立がん研究センターの研究班が「日本人のためのがん予防法」として、インターネットで公開している。

 研究の進展に伴い内容を更新することにしており、今年9月の改訂で、中高年女性が目標とすべき体格指数(BMI)を「19〜25」から「21〜25」に改めた。中高年男性は従来通り21〜27。

 BMIは体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った数値で、22が標準、25以上は肥満とされる。日本人を対象とした大規模研究で、肥満だけでなく痩せ過ぎもがんのリスクを上げることが示されたのを踏まえた。

 6項目にまとめられた予防法は驚くような新しさはないが、見落としがちなこともありそう。

 例えば、熱い飲食物は冷まして食べる。食道の炎症やがんにつながる可能性がある。

 また、B型、C型肝炎ウイルス検査を受けたことがない人は、一度は検査を受けるよう勧めている。感染者は非感染者に比べ発がんリスクが非常に高い上、早く感染が分かれば、がんを防ぐ効果が期待できる治療法の開発も進んでいるためだ。感染していたら肝臓の専門医に相談しよう。

 たばこは吸わずに他人の煙も避ける。飲酒はアルコール量換算で1日23グラム(ビール大瓶1本)程度までが適量とした。運動は、歩行やそれ以上の活動を1日60分程度。

 各項目の詳しい解説や、がん予防について内外の研究でどこまで明らかになったかは「がん情報サービス」(http://ganjoho.jp/public/pre_scr/prevention/)で読める。

m3.com 2014年12月9日

大腸がん抑える食品成分 パパイアの種、岡山大
 パパイアの種などに含まれる成分に、大腸がんの増殖を抑えるタンパク質の働きを高める機能があることを岡山大と鹿児島大のチームが突き止め、18日発表した。治療や予防に有効な薬剤の開発に役立つとしている。

 岡山大の中村宜督教授によると、大腸がんは大腸の細胞にタンパク質が過剰に蓄積することで、細胞を増殖させる遺伝子の働きが活発化し、がんの増殖が進む。

 チームは、大腸がんの増殖を抑制する中心的な役割を担うタンパク質に注目。

 パパイアの種やキャベツ、クレソンの一部に含まれる食品成分「ベンジルイソチオシアネート(BITC)」を人の大腸がん細胞に加えると、がん抑制タンパク質が、がんを増やす、過剰蓄積したタンパク質に結合し、がん増殖遺伝子の働きを邪魔した。その結果、がんの増殖も抑えられた。

 BITCはすりつぶすことで効果が出るが、大量に摂取すると体に悪影響が出るという。

 中村教授は「自然界の成分から安全性の高い抗がん剤を開発できる可能性がある。作用は弱いかもしれないが、安心して使用できる薬になることが期待できる」と話す。

 成果は英オンライン科学誌に掲載された。

m3.com 2014年12月19日

がんカフェ 広がる共感 患者も医師も、対等に対話
 がん患者や家族、医療関係者らの対話の場「がん哲学外来 メディカル・カフェ」が関西各地で開かれるようになり、注目を集めている。多忙な病院など治療の現場に代わって患者に対話の機会を提供する活動が、「医療の隙間(すきま)」を埋めると共感を呼んでいるが、関西では低調だった。今年に入り、一般社団法人「がん哲学外来」(東京都)が初の地域支部を大阪に発足させ普及に乗り出したところ、京都と奈良、兵庫でも開催が相次いだ。

 がん哲学は「病気や死と向き合い、どう生きるか」を考える姿勢を指す。樋野興夫(おきお)・順天堂大教授(病理・腫瘍学)が提唱。診察でもカウンセリングでもなく、医師と患者が対話する無料の「がん哲学外来」を2008年に同大に開設したところ、予約が殺到した。医療が進歩する半面、病気や苦悩とともに生きる時間が長くなった患者らに、先人の哲学を伝える「言葉の処方箋」が注目された。

 医師が個人面談をする外来に対し、カフェは8人ほどのグループ対話の場だ。がん哲学の理念に賛同する医師やがん体験者らが全国約50カ所で運営している。

 関西は昨年まで、大阪の2カ所しかなく、「患者の多い関西にもカフェを増やしたい」と同法人が3月に支部を発足させた。医療機関や患者団体が相次いで賛同し、10月末までに大阪府で3カ所、京都府で1カ所、奈良県で1カ所の計5カ所で継続的な開催にこぎ着けた。兵庫県でも樋野教授の講演などに合わせて開かれ、2府2県で400人が参加した。

 関西支部長の東英子医師(46)は「患者は主治医に遠慮したり、家族に心配かけまいと考えたりしがち。安心して思いを語れる場は意外に少ない」と指摘。カフェが共感されるのは、参加者全員の気持ちに上下関係がなく対等に対話することで、癒やしや気付きがあるからという。同支部の沼田千賀子・神戸薬科大教授(53)は「白衣をまとっていては聞けない本音が聞ける。医師や看護師ら治療する側の学びにもつながる」と話している。

◇結論なくとも表情和み

 10月下旬、大阪府守口市で開かれた「大阪がん哲学外来 メディカル・カフェ あずまや」。「再発の場合、抗がん剤治療をする意味ってあると思いますか。今の体にはきつ過ぎる気がするし、家族は受けてほしいと言うし、決断できないんです」。がんが再発したという女性が苦しい胸の内を明かした。

 「抗がん剤はベッドに沈み込むようなしんどさ。嫌ですよね」「がんで精神的に落ち込むと、何かを決断するのが本当に難しい」「今を楽しめなかったらもったいない」「治療をしてもしなくても後悔は残る。一番後悔するのは、自分で決めないことでは」

 この日の参加者の多くは、がん患者やがん体験者。それぞれの経験を踏まえ、女性に言葉をかけた。結論はないが、対話が進むにつれ女性の表情が和らいだ。

 あずまやは「がん哲学外来」関西支部長の東英子医師が在宅医療クリニックを営む傍ら、2年前に開設した。月に1回、カフェ専用に借りたワンルームマンションに参加者が集い、コーヒーなどを飲みながら2時間以上語り合う。白血病で薬を服用しつつ会社勤めを続け、あずまやに1年半通う40代男性は「家庭や職場では『本当につらさを分かってもらえているのか』と感じてしまう。ここは多くを語らなくても、どこか察してもらえる気楽さがある」と話す。

 予約不要で無料。決められた話題もなく、参加者たちはがんとともに生きる苦悩や近親者との死別の悲しみを語る。東医師は言う。「心の痛みは人それぞれ。カフェではお互いが共感し合い、『そのままでええやん』となればいい」

m3.com 2014年11月28日

酵素投与し増殖抑制 胃がん治療に大阪市大
 特定の酵素を投与することで、がん細胞内にある物質をがん増殖を抑える物質に変化させて治療する手法を大阪市立大のチームが発見し、25日発表した。

 人の胃がんを移植したマウスへの投与実験ではがんが大きくならず、新たな胃がんの治療法として実用化を目指す。がん細胞が増殖を自ら抑制する、これまでにない治療法になるとしている。

 チームの八代正和(やしろ・まさかず)准教授によると、この酵素は、がん抑制効果があるプロスタグランジンD2(PGD2)をがん細胞内に作り出す働きを持つ。実験でマウスに投与すると、がん細胞膜にあるリン脂質を分解することでPGD2ががん細胞内で作られるなどした後、がんの細胞核に増殖抑制の信号を送る受容体と結び付き、効果を示す。

 酵素を投与しなかったマウスのがん細胞は2週間で3倍に増殖したが、投与したマウスでは大きさに変化はなかった。

 チームは、手術が難しい進行がんの患者を対象として想定。がん細胞に受容体が多い場合に効果があり、全ての胃がんに有効なわけではないという。実験では食道がんや膵臓がんの細胞でも効果が確認された。

m3.com 2014年12月26日

野菜多く食べる男性、胃がんリスク低下
「抗酸化」影響か

 野菜を多く食べる男性は、少ない男性よりも、日本人に多い下部胃がんを発症する割合が低いという調査結果を、国立がん研究センターが発表した。

 生活習慣とがん発症の関連などについて1988年から追跡している四つの大規模調査の参加者約19万人を分析。野菜や果物を食べる量で5グループに分け、それぞれ胃がん発症の危険性を比べた。

 平均11年間の追跡期間中に2995人が胃がんになり、野菜も果物も最も多く取ったグループで発症の危険性が低下する傾向があった。

 一方、がんの部位別に分析できる約15万人について調べると、胃の上部3分の1に発症したのは258人、その下の部分に発症したのは1412人で、下部胃がんについては、野菜を最も多く取った男性は、最も少なかった男性に比べ、発症の危険性が78%に下がった。男性より野菜を多く取る女性については差が見られなかった。

m3.com 2014年12月27日

豪が日焼けマシン禁止 皮膚がん対策で
 オーストラリアのほとんどの州で1月から、人工的に紫外線を当てて小麦色の肌をつくる日焼けマシンの商業利用が禁止された。同国は皮膚がんの発症率が世界で最も高い国の一つで、規制推進派は禁止を歓迎している。ブラジルのほか、米国の一部などでも利用が禁止されている。

 地元メディアによると、35歳になる前に日焼けマシンを使うと、悪性の黒色腫になる確率が大幅に高まるとの調査がある。オーストラリアでは約20年前から若者を中心に日焼け用機械が人気となったが、同国のがん評議会が10代の男女に調査したところ、日焼けしたいと答えたのは、10年前は6割だったのが、最近では4割弱まで減っているといい、意識の変化もうかがえる。

 禁止したのは最大都市シドニーがあるニューサウスウェールズや、ビクトリア、クイーンズランドなどの各州と首都特別地域。同評議会は、日焼けした肌を望むなら、機械の代わりに、日焼けしたように見えるスプレーなどの利用を勧めている。

m3.com 2015年1月6日

ピロリ菌、中高生も検査 北海道9市町で実施 胃がん予防に効果
 胃がんの原因となるピロリ菌の早期発見と除去に向け、中学生や高校生を対象とした検査が道内で進んでいる。北大の医師らが中心となり、本年度は稚内市など少なくとも9市町で行われた。中高生は感染してからの期間が浅く早期に除菌することで「確実な胃がん予防につながる」として、専門医らは実施を広げたい考えだ。

 中高生を対象に検査を進めているのは、北大大学院医学研究科がん予防内科学講座や渡島医師会など。

 検査の手順は、まず自治体などが保護者らに説明をした上で、希望者の尿検査をして、胃の粘膜にすみつくピロリ菌の有無を調べる。陽性となった生徒には、呼気検査を再度行い、再び陽性だった場合、希望者には除菌治療を行う。

 除菌治療は成人の場合と同様で、2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬の計3種類を1日2回、1週間服用する。これで8割が除菌できるという。

 がん予防内科学講座の間部(まべ)克裕特任講師(44)によると、費用は尿検査が1人700円。陽性の場合は、呼気検査と除菌治療でさらに1万2千円ほどかかる。保険は適用されない。

 本紙の取材では、本年度の検査は、稚内市をはじめ渡島管内福島、松前、木古内、知内、七飯の各町、オホーツク管内美幌町、空知管内由仁町、十勝管内芽室町の計9市町で実施されたことが確認された。

m3.com 2015年1月6日


縦隔腫瘍をロボット「ダヴィンチ」を使い手術
静岡県立静岡がんセンター
 県立静岡がんセンター(長泉町)で、左右の肺の間の縦隔に発生する腫瘍を手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使って切除する手術が始まっている。縦隔腫瘍のダヴィンチ手術を行うのは県内施設で初めて。将来的には、縦隔腫瘍より手術のリスクが高い肺がんへの適用も目指す。

 ダヴィンチ手術は大腸がん、胃がん、前立腺がんなどの分野が先行し、縦隔腫瘍や肺がんなど呼吸器分野では導入が進んでいない。呼吸器分野で取り入れているのは、全国でも大学病院を中心に十数カ所という。

 同センターでの手術は、有効性や安全性を検証する臨床試験として、2014年3月からこれまでに3例を実施した。縦隔腫瘍分野のダヴィンチ手術の資格を持つ2人の医師が執刀している。今後数年で計23例を実施し結果を分析する計画。

 縦隔腫瘍の手術は現在、開胸か胸腔鏡(内視鏡)で行うのが一般的。ダヴィンチ手術は胸腔鏡と同様に手術の傷が小さくて済む上、術野を映す画像が鮮明で、鉗子(かんし)の動きの自由度も高いことなどから、精度の高い手術が可能という。

 同センターは縦隔腫瘍の臨床試験を進めながら、心臓周辺の血管に近く、手術が難しい肺がんでも臨床試験の実施を検討する。大出泰久呼吸器外科部長は「より安全で確実な手術ができる。コスト面など普及に課題はあるが、効果と安全性をさらに確認し、実際の治療に役立てていきたい」と話す。

m3.com 2015年1月7日

体験コラム充実させ第2版 「がんと仕事」QA集
 がん患者が治療を受けながら仕事を続けることを支援する機運が少しずつ高まっている。そうした中、国立がん研究センターが、患者や家族向けの冊子「がんと仕事のQ&A」第2版をインターネットの「がん情報サービス」(http://ganjoho.jp)で公開した。全82ページを無料でダウンロードできる。

 この冊子は、厚生労働省の「がんと就労」に関する研究班が2011年度に実施した患者らへのアンケートを基に、13年2月に初版を公表。これに多くの反響があったため、追加取材をして患者の体験コラムを大幅に増やして内容を充実させた。

 多くの患者がぶつかる問題や悩みを計81の問いと答えにまとめ「診断から復職まで」「復職後の働き方」「新しい職場への応募」「お金と健康保険」「家事や子育て」の5章に整理して掲載。患者の体験を中心としたコラムが計47ある。

 例えば「迷惑をかける前に自主的に降格や退職を申し出るべきか」という問いには「職場と自分の双方にメリットがある打開策を考えるのがポイント」と答え、「責任者の私がいなくても業務は回った」という体験コラムを配するなど、現実的な解決策をイメージしやすいよう、構成を工夫した。

 すべてのQ&Aに(1)正社員(2)非正規雇用者(3)自営業者(4)求職者―のどれに関係する内容なのかが明示されているため、自分の就業状況に関係する項目だけを拾って読むこともできる。

 「診断されたらはじめに見る」が副題。支援団体や公的な制度の情報が得られるサイトも紹介している。

m3.com 2015年1月13日

がん転移促す遺伝子特定 京大、治療薬開発に期待
 がん細胞の転移を促す新たな遺伝子を、京都大の原田浩特定准教授(放射線腫瘍生物学)のチームが特定し、23日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子版に発表した。原田特定准教授は「がん転移を抑制する治療薬の開発につながる可能性がある」と話している。

 がん細胞の転移にはこれまで、遺伝子「HIF1」が重要な役割を果たすことが知られていた。HIF1が活性化すると、多くのタンパク質が生成され、がん細胞の成長に必要な酸素や栄養を運ぶ血管が新しく作られるが、その仕組みが働く詳しい理由は不明だった。

 チームは、人の全遺伝子を解析し、HIF1を活性化させる遺伝子が「UCHL1」であることを突き止めた。多量のUCHL1を入れて活性化させたがん細胞をマウスに移植したところ、肺に多くのがん細胞が転移したことを確認。UCHL1が働かないようにしたマウスに比べ、転移したがんの数は約2・5倍だった。

 また、人の乳がん患者で、病巣を取り除いてから5年後の生存率を比較。病巣内のUCHL1が活性化していた患者約20人の生存率は約50%だったが、働きが弱かった患者約130人の生存率は約70%だったという。

m3.com 2015年1月26日


がん攻撃するリンパ球投与 三重大治験、実用化目指す
 三重大などの研究グループが、がん細胞だけを攻撃するよう遺伝子操作した免疫細胞のリンパ球を患者に投与する臨床試験(治験)を始めた。治験担当の影山慎一教授(腫瘍内科)は「難しいとされる食道がんの治療に効果が期待できる」と強調している。

 治験は今年1月中旬から実施。国立がん研究センター(東京)なども参加し、今後2年間で計12人に投与。効き目を確認できれば、食道がんの治療薬として5〜10年後の実用化を目指す。

 リンパ球は通常、ウイルスなどの外敵を攻撃するが、数万個に1個の割合で、がん細胞に現れる特定のタンパク質を攻撃するものが存在する。このタンパク質は食道がんの細胞に多いという。

 三重大は2005年に、がん細胞を攻撃するリンパ球を特定。08年には民間企業と共同で、このリンパ球の中にある特有の遺伝子を、患者の血液から取り出したリンパ球に組み込み、大量培養することに成功した。

 10年から13年にかけて、余命が半年程度と想定された末期の食道がん患者10人に投与し、臨床研究を行った。大きな副作用がないことを実証し、国から治療薬開発に向けた治験を開始する承認を得ていた。

 これまでも患者のリンパ球を培養して体に戻す治験は試みられてきた。ただ、がん細胞を攻撃するリンパ球の数自体が少なく、投与しても効果は限定的だったという。

 影山教授は「自分の体から取り出したリンパ球を使うため、抗がん剤と違い、患者への負担が少なくなるはずだ」と説明している。

m3.com 2015年1月27日

一見ウイッグ、実は帽子 がんセンターなどが開発
 抗がん剤治療の代表的な副作用である脱毛を、ウイッグ(かつら)よりも楽にカバーできるウイッグそっくりな帽子。名付けて「ウイッグなぼうし」を国立がん研究センター中央病院(東京)などが開発した。昨年8月の発売から年末までに約1600個が売れ、予想以上に好評だという。

 綿とアクリル混紡のニット帽に人工毛を付けてあり、一見ショートヘアのウイッグ。だがウイッグより毛量が少なく、65グラムとスカーフのように軽い。フリーサイズで、帽子の縁に通したゴムで大きさを調節できる。

 ウイッグは数十万円と高額な商品もある上、長時間かぶると頭が締めつけられて不快だと訴える人もいる。バンダナや帽子もよく使われるが、かぶった姿が病気であることを思い出させてつらいという患者や家族も少なくない。そこで同病院の野沢桂子(のざわ・けいこ)アピアランス支援センター長が、医療用かつらメーカーの東京義髪整形と約1年かけて開発に取り組んだ。

 「あくまで隠すことを目的としたウイッグと違い、自宅などで快適にかぶれることを重視した」(野沢さん)ため、強い風に当たると髪がめくれて帽子の縁が見えることもあるが、購入者からは「外出時にかぶって重宝した」などの声も寄せられている。野沢さんは「他人は意外に気にしていない。もっと気楽に生活していいんだと思ってもらえればうれしい」と話す。

 東京義髪整形が送料、消費税込み1万6848円で販売し、売り上げのうち本体価格1万5千円の10%が国立がん研究センターに寄付される。問い合わせは、 フリーダイヤル(0120)210903。

m3.com 2015年1月27日


採血だけでがんリスク評価 アミノ酸解析
 血液中に含まれる20種類のアミノ酸の濃度を測定・解析し、そのバランスの変化から、がんの可能性を探る検査を導入する施設が増えている。1回約5ミリリットルの採血だけで複数のがんを同時に調べられる簡便さが特長で、受診者はリスクが高いと判定されたがんに絞って次のステップである精密検査を受けられる。全国に先駆け2011年秋に導入した三井記念病院(東京)で、筆者(54)も検査を受けてみた。

 ▽9万人が受診

 同病院の総合健診センターを受診したのは昨年9月下旬のことだった。受け付けを済ませ、待合室で約10分。名前を呼ばれて採血してもらう。たったそれだけ。病院到着からわずか30分ほどで、すべてが終わった。

 この検査は「アミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)」と呼ばれる。味の素が開発した技術を臨床応用したもので、現在、男性は胃、肺、大腸、前立腺の4種類、女性は胃、肺、大腸、乳房の4種類のがんに加え、個別には判定できないものの子宮頸(けい)がん、子宮体がん、卵巣がんのいずれかであるリスクを評価できる。

 味の素によると、実施する医療機関は現在全国に約900。年を追うごとに増えている。受診者数は延べ約9万人に達した。今春には新たに膵臓(すいぞう)がんも加わる見込みで、メタボなどがん以外での実施も検討されている。

 ほんの軽い気持ちで受けた検査。だが、半月ほどたって自宅に届いた結果報告書は、ちょっと気になるものだった。

 ▽ランクCの意味

 健康な人では血中アミノ酸の濃度比率はほぼ一定に保たれているが、臓器に異常が起きると比率が微妙に変わる。変化のパターンは臓器や病気によってそれぞれ特徴があるため、がんのリスク判定に利用できる。

 リスクは0・0〜10・0までの数値で示され、さらにリスクの低い方からランクA(0・0〜4・9)、ランクB(5・0〜7・9)、ランクC(8・0〜10・0)の3段階に分類される。

 筆者は胃と肺がランクA、前立腺がランクB。問題は大腸だ。数値が8・4でランクCだった。

 がんの種類で差があるが、ランクCのリスクは一般の4・0〜11・6倍まで高くなる。大腸は8・2倍。一般の有病率が千人に1人だとすれば、122人中1人ががんという計算になる。

 AICSは、がんの有無を直接調べる検査ではない。リスクの高い人を見つけ出し、精密検査に結びつけるのが役割。ランクAでもがんでないとは言い切れないし、逆にランクCでも、必ずしもがんとは限らない。

 ▽定期的に検査を

 とはいえ「リスクが高い」と言われれば不安になる。早速、総合健診センター特任顧問の山門実(やまかど・みのる)医師の勧めに従い、12月中旬、大腸内視鏡検査を受けた。結果は「異常所見なし」。がんも、その前段階のポリープも見つからなかった。

 だが山門さんは言う。「たとえがんが見つからなくても、ランクCの人は定期的に精密検査を受けてほしい。画像で発見できない小さな病変が今もある可能性はあるし、現在の体質が、がんになりやすい状態であるとも言える。食生活や運動などの生活習慣を見直し、がんに対する免疫力を高めることも大切です」

 日本人の2人に1人ががんになる時代。がんの克服には、多くの人が受診できる簡便で体の負担が少ない検査が欠かせない。現在、AICS以外にも、さまざまな病院や研究機関が新たな検査法開発に取り組んでいる。

 ちなみにAICSに健康保険は適用されず、検査自体の料金は2万円弱という施設が多い。(共同=赤坂達也)

m3.com 2015年1月27日


進行大腸がんの腹腔鏡手術、生存率90%超
 がん治療を多く手がける国内30病院が参加した研究で、進行した大腸がんの手術を受けた患者の5年生存率が開腹手術と腹腔鏡手術でどちらも90%を超えたとの調査結果を、日本臨床腫瘍研究グループが発表した。

 米国で先月開かれた消化器がんシンポジウムで明らかにされた。調査は、国立がん研究センターを中心とする同グループが、腹部に開けた小さな穴から、カメラや切除器具を入れて行う腹腔鏡手術の長期成績を、従来の開腹手術と比較するために行った。

 大腸の多くを占める結腸と、直腸の一部にできたがんを対象とした。進行度は、がんが大腸の壁の筋肉層を超えているがリンパ節転移はないステージ2と、リンパ節転移があるステージ3。2004〜09年に30病院で受診した大腸がん患者1057人が協力。患者を無作為に開腹手術(528人)と腹腔鏡手術(529人)に分け、ステージ3の患者には抗がん剤治療も行って5年間追跡した。

 その結果、手術後の5年生存率は、開腹手術が90・4%、腹腔鏡手術が91・8%で、同等の治療成績となった。過去の国内研究では、開腹手術と腹腔鏡手術を合わせた5年生存率はステージ2で約80%、ステージ3で約70%とされ、今回の成績はこれを大きく上回った。

 手術後、5年間再発せずに生存した割合も、開腹手術79・7%、腹腔鏡手術79・3%で両者は同等だった。
 発表した大分大学消化器・小児外科の猪股雅史教授は「大腸がんは、熟練した医師が手術を行えば、開腹でも腹腔鏡でも、同等の高い生存率を得られることが確かめられた。国際的にも誇れる成績だ」としている。

m3.com 2015年2月6日


ビッグデータ活用に期待と課題、日医シンポ
DPCデータを活用した研究成果などを紹介
DPC(診断群包括分類)とは、「Diagnosis Procedure Combination」の略で、Diagnosis(診断)とProcedure(治療・処置)のCombination(組み合わせ)をいう。DPC(診断群包括分類)に基づく診療情報データは、ビッグデータとなる。

 日本医師会総合政策研究機構が主催するシンポジウム「日本における医療ビッグデータの現状と未来」が2月12日に開催され、医療界でも急速に進むビ ッグデータの活用の在り方について議論された。DPCデータを使うことで、病院や地域での診療傾向を分析できるようになるなど治療や政策立案への貢献が期待される一方、会場からは医療現場の萎縮につながりかねないとの不安の声が寄せられた。

活用のため新たな仕組み不可欠

 最初に登壇した東京大学大学院医学系研究科医療経営政策学講座特任准教授の山本隆一氏は、「医療情報大規模データベースとプライバシーの保護」と題して、日本にある医療情報の現状と今国会に提出予定の個人情報保護法案などについて解説した。レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)や国保データベース(KDB)、介護認定データベースなど、日本は世界に先駆けて医療関連の電子化が進んだが、一方で「データを蓄えて利用しようという考えに乏しかった」と指摘。解決すべき課題として「目的の異なるデータベース結合のための共通IDの整備」「データ指向時代のプライバシー保護の仕組み」などを挙げ、将来はエビデンスに基づいた政策立案ができるようになると期待した。

 2015年4月に、東京では厚生労働省と東京大学、関西では京都大学にそれぞれ設置されるNDBのオンサイトリサーチセンターについても紹介した。センター内では研究者が必要なデータを分析できるようになり、セキュリティ確保の手間が省けるようになる。

個人情報保護で研究に支障も

 一方で、個人情報保護のルールが整備されるに従って、欧米では疫学調査がやりにくくなっているという。日本でも「情報の保護が優先され、どう活用されるかが考えられてない。日本には約2000の個人情報保護ルールがあるとされ、連携した研究の際には非常に大きな障壁になっている」と指摘。私案として、医学・医療情報ネットワークを作り、その中でだけ医療医学分野のデータベースを結び付けられるような仕組みを作ることを提案した。

 国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部がん医療費調査室長の石川ベンジャミン光一氏は、「医療ビッグデータの研究利用:その現状と課題」として、DPCデータを使った分析の実例を紹介した。DPCデータは1800を超える病院で作成され、年間1000万件の退院患者の入院データと外来データが厚労省に提出されている。

 厚生科学研究班では厚労省に提出したデータのコピーを集めて研究を行っている。2012年度に実施した癌化学治療の分析では、肺癌(4.51万人、延べ退院数9.98万回) の治療法を分析した。カルボプラチンとパクリタキセルの組み合わせは4834人の患者に行われたが、入院日数の分布は3日、10日、17〜24日の3パターンあることが分かった。石川氏は「患者特性の影響というよりも、施設間格差があるのでは」と指摘した。

 また、マクロ的な分析の視点としてDPCデータに含まれている郵便番号を使って、急性心筋梗塞での救急搬送状況を分析した実例なども紹介した。治療成績の評価や詳細な部位別の解析などに適さないとしつつ、石川氏は「DPCデータを核として、必要なデータを追加・補足することで分析の効率化・迅速化を図れる」と話した。

 医師で、健診データの分析などを行うミナケア社長の山本雄士氏は「ビッグデータ時代の医療と臨床家のあり方」として、臨床現場でどのように医療情報と向き合うべきかについて議論を展開。医療の複雑化や情報過多が進んでいる現状として、心臓超音波検査の論文を1日5本読んでも20年かかるだけの蓄積が既にあり、さらに大量の知見が日々積み重なっていると例示した。

 一方で、2010年度の調査では、LDLコレステロール値が160mmHg以上だった1万5665例中、 9割が治療を受けておらず、「医療へのベストアクセスを生み出すにはどのような情報をどのように伝達すべきかを考える必要がある」と指摘。どんなにデータが積み重なっても「専門職として、データ化された将来像を、生身の人の未来へと還元する責任は変わらない」とまとめた。

DPCデータの使途に懸念も

 パネルディスカッションでは最初に、日本医師会常任理事の石井正三氏が、世界中で議論が進んでいる「データベースとバイオバンクにおける倫理的考察に関する世界医師会宣言案」について説明した。当初はヘルシンキ宣言に補足する形だったが、世界中で反響が大きかったため、パブリックコンサルテーションを求めることになったとして、日本でも積極的な意見投稿を求めた。

 会場からは「DPCデータの分析が患者の早期退院を促すために使われないようにしてほしい。現状ではもろ手を挙げて賛成できない」という意見が寄せられた。山本隆一氏は「誰かが独占して何かをすることは避けなくてはならない」と指摘。石川氏も「第三者の研究機関から中立的なオピニオンがでるように、データの解析の場を提供して、いろいろな人に使ってもらう」、山本雄士氏も「情報の活用が広がっていくのは避けられない。出てきた結果をどうやって国の施策にしていくかという、利害のすり合わせをやらなくてはいけない」と答えた。

m3.com 2015年2月15日


メトホルミン、非喫煙者の肺癌3割減
非喫煙者でリスク下げ、喫煙者でリスク増加
 米国癌学会(AACR)は2月2日、非喫煙の糖尿病患者でメトホルミンにより肺癌リスクが約3割低下することを示した研究を紹介した。Cancer Prevention Research誌に掲載。

 同研究は、40歳以上の糖尿病患者4万7351人(男性54%)を対象に、メトホルミンの処方と肺癌リスクの関連性を後ろ向きコホートで検討。1994-1996年の糖尿病治療薬に関する情報を収集し、6カ月以内に2回以上メトホルミンを処方された約46%を「使用者」と定義した。

 15年の追跡期間中、肺癌と診断された747人のうち、80人が非喫煙者で、203人が現時点も喫煙者だった。全体としてはメトホルミンの使用と肺癌リスク低下に関連性は見られなかったが、 非喫煙の糖尿病患者群では43%、5年以上メトホルミンを使用していた非喫煙患者では52%の肺癌リスク低下が見られた。

 統計学的には有意差はないが、5年以上のメトホルミン長期使用で、非喫煙者に最も多い腺癌リスクが31%低下し、喫煙者に多い小細胞肺癌リスクは82%増加した。

 研究者は「メトホルミンが非喫煙者ではリスクを下げ、喫煙者ではリスクを高めるという、喫煙歴によりリスクが異なる可能性が示唆されたのは予想外だった」と研究結果を分析。今後、大規模研究により特定の部分集団(特に非喫煙者)において、肺癌やその他の癌予防にメトホルミンが有効か検討する必要性を強調している。

m3.com 2015年2月17日


「医療否定本」との向き合い方
『がんが自然に治る生き方』について

西 智弘(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科)

 近藤誠をはじめとした、いわゆる「医療否定本」の類は、ここ数年で書店に急速に増えている。

 これは、日本だけの現象なのかと思っていたら、海外でこの『がんが自然に治る生き方――余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのこと ケリー・ターナー (著)』が飛ぶように売れ、日本でも翻訳本がアマゾンでベストセラー1位になった、ということを聞き、「これも医療否定本の類かなあ〜」と思いつつ購入してみた。

 読んだ感想として、一言で言えば「危険」。 ただ、いろいろと思うところもあったので、まず何が「危険」と思ったかから書いていこうと思う。

●「抗がん剤や放射線を否定しない」と書きながら結局否定的な印象を抱かせること

 この本の大まかな要点だが、世界には「がん」と診断され医師から厳しい余命を告げられながらも、そこから劇的な回復をみせ、がんが消えたり、長期生存した方達がいる。その方達は、これまでほとんど注目されていなかったのを、この著者が世界中を回ってインタビューや調査を行い、共通する行動パターンを明らかにしたというもの。

 結果的に、9つの共通点と実践を明らかにし、それを患者さんのエピソードを交えながら書き連ねているのが本書である。

 著者は、冒頭で「この本は手術、抗がん剤や放射線治療(いわゆる3大療法)を否定しない」と書かれているのだが、結果的に書かれている内容は「3大療法をしたけどダメだった。この9つの実践を行ったら治った」というもので、(意図はしていないにせよ)結果的に読者が3大療法について否定的な印象を抱くようなつくりになっている。

 これまでの「医療否定本」は、過激な論調で医療を否定するものだから、「ちょっと極端だなあ」という印象を抱いて、結果的に(ちょっと慎重になりつつも)適当な医療を受ける、というパターンは多かった。

 しかし、本書はそういった過激さが一見少ないところで(オカルトな部分はあるが)、結果的に西洋医学を否定するような流れを本の中で生み出しているところが「危険である」と私が考えた第一の理由である。

 また、他の医療否定本やがんビジネスの方々と一緒で、3大療法を受けて治った事例なのにそうは書かず、併用した他の方法が効いて治ったのだ、と書いている事例も散見される。

●「これは仮説である」と言いながらも「明日から実践しましょう」の論調

 もうひとつの「危険」は、これまた冒頭に示された「これは仮説である」の一文。 実際、この著者が行った研究は、がんになって治った人達の事例を集めて「共通点をまとめた」だけであり、確かに「仮説」の息を出ない。

 しかし、これもまた本書を読むとそんなことは頭から抜けてしまうようなつくりだ。 仮説、という一文があるからといって、この本を読んで医療を受けることをやめ、この本の通りに実践してもし生きる時間を短くした例があったとしたら、それは免責されるものではない。

●「それってどうなの」な代替療法を多数紹介している点

 本書では、3大療法ではなく他の代替療法で治った、とうたっている事例がいくつか出てくるが、その全てが科学的には検証されていない、もしくは否定されたような内容である。中には宗教がかった、ちょっと背筋が寒くなる部分もある(瞑想などそのものを否定はしないが)。

 代替療法を受けながら健康的に過ごしている例がある、ということを私は否定しない。しかし、その影でそれら治療法を受けながらも亡くなっていく方々が本当にたくさんいるのだという事実は厳然としてある。そのことに触れず、一部の「まれな事例」ばかりを取り上げ、それが万人にとって効果がありそうな書き方をするのは、やはり「危険」と見なさざるを得ない(先ほども述べたように「仮説」と思えないような書き方だから)。

 数々の医療否定・代替療法礼賛系の本を読んでいて思うことだが、テーマは全て「治るか、治らないか」で、治れば勝ち・幸せ、治らなければ負け・不幸、という価値観があるように思える。それは本書においても見受けられる価値観である。人はみな、すべからく死に向かっているというのに?だとしたら、人間はどうやっても幸せにはなれないということではないか。

 3大療法では幸せになれない、ということをこういった本などでは繰り返し主張されることだし、巷ではそれが真実だと思わされている面もあるかもしれない。

 しかし実際には、3大療法を受けて治った方々は、少なくともこういった代替療法などで治った方々よりも間違いなく大勢いるし、何かと悪者にされがちな抗がん剤ではあるが、かなり厳しい余命と言わざるを得ない全身にがんが転移した患者さんでも、これで治るという方も決してゼロではないのである。

 そして、これら3大療法+緩和ケアで、治らないまでも、生きている時間を延ばしたり質の高い生活を追求することで、結果的に幸せと思われる人生を全うする方々もいる。

 本書は、海外の誠実そうな心理士の方が書いていて信頼できそうという印象を抱かせる点、これまでの医療否定本と異なる優しげな装丁、そして先に述べた「3大療法否定しない」「仮説」と言いながらも読後にはそれを忘れさせるような構成、といった点から、個人的にはより注意を払って読むべき本であると考える。

●幸せとは何か、という命題

 ここまで、本書に否定的な意見を書き連ねてきたが、じゃあこの本は読むべきではないか、というと、読んでおいて悪くない本ではあると思う。

 私たち医療者は、毎日のように患者さんやご家族に厳しい言葉を伝えている。病名の告知、短い予後、予想される治療の副作用、だんだんと体力が落ちていく経過など・・・。

 ある医師はそれらの言葉をもって「呪い」と表現していた。我々医療者は日々、患者さんに「呪い」の言葉を吐いているのだと。確かに、呪いのようなものかもしれない。これらの言葉をもってして、患者さんの気持ちを下げこそすれ、前向きにする要素はひとつとしてないのだから。

 患者さんが代替療法などを受けたい、という希望を出したときもそれを頭ごなしに否定していないか。それもある意味「呪い」で、患者さんがその治療法と前向きに生きていこうという気持ちまで萎えさせていやしないか。

 「もう先は長くないので、あとは自分の時間を大切に過ごして下さい」という類の言葉をかけられて、いったいどれほどの人が「自分の時間を大切に」過ごせるのだろうか。死に向かって、前向きに生きる、というのは並大抵のことではない。我々医療者は、この無配慮を反省すべきである。

 がんサロンなどで出会う患者さんは、前向きな方も本当に多いが、死に向かって前向きというよりあくまでも生に向かって前向き、自分の人生を生き抜く、という決意を感じる。こういう方々と接していると、緩和ケアで教えられる「死を見つめ、受け入れることが大切」といった表現が本当に嘘くさく思える。

 ただ、その方々も何もせずに突然そういった心境になるわけではない。皆さん、多くの葛藤や苦しみを乗り越えた上で、そういった生き方を選んだ、というところである。誰しもが簡単に乗り越えられるような道程ではない。その歩みの手助けとして、本書は助けになる部分もあるのではないかと思えるのである。

 特に「治療法は自分で決める」「より前向きに生きる」「『どうしても生きたい理由』を持つ」といった部分は、私も同意できる部分も多々ある。

●医療の目的は命を延ばすことか

 答えは「No」である、と私は考える。医療の本当の目的は「人生を幸せに生き抜いてもらう手助けをすること」である。

 実際、「幸せ」はそれぞれの人によって違うものであるし、量的に(厳密には)計測できるない。一方で、命の長さは明確に計測ができる。なので、長く生きることは「幸せ」を測る代替指標のひとつに過ぎないのだと思う。

 本書では、がんが治って長く生きる、ということを絶対的な価値としている。しかし、この9つの実践で万人が治るわけではない「仮説」である以上、この本をそういった「治療の手引き」としてとらえるならそれはやはり危険である。ただし、その点に注意して、前向きに生きるためのヒント、がんを持ちながら生ききるためのヒントを得るための本としては、読む価値がある。

 我々医療者は、科学者として伝えるべきことはきちんと伝えるべきだし、危険な治療法や詐欺に患者さんが向かおうとしているのなら、それは止めるべきである。しかし一方で、患者さん達がいかに前向きに人生を生ききることができるかを常に考え続けないとならない。それは「自分らしく生きて下さい」と通り一遍の言葉をかけることでは決してない。私自身にもまだ答えはないが、科学者である人間として、患者さんと向き合う覚悟がまずは大切であると思う。

m3.com 2015年2月21日


脳卒中で発癌率増、死亡リスクも3倍に
脳卒中患者に早期癌スクリーニングを
 米国心臓協会(AHA)は2月12日、脳卒中患者の発癌率が非脳卒中者より高いことを示した研究を紹介した。2015年度国際脳卒中学会で発表。

 この研究は1997-2001年のVISP多施設試験から、癌に罹患していない軽度虚血性脳卒中患者(35歳以上)3247人のデータを解析したもの。一般母集団の発癌率には米国癌研究所のデータを用い、脳卒中患者と非脳卒中患者の発癌率を1カ月、6カ月、1年、2年の時点で比較した。

 発癌率を年齢で調整したところ、脳卒中患者は一般母集団よりも発癌率1年で1.2倍、2年で1.4倍高く、癌を発症した脳卒中患者は発症しなかった者より死亡リスクが最大3倍高いことが分かった。

 また、50歳を超える脳卒中患者が2年以内に癌を発症する可能性は、50歳以下の患者より1.4倍高かった。被験者が発症した癌は、皮膚癌、前立腺癌、乳癌、肺癌、膀胱癌など多岐にわたった。

 癌患者は血栓を形成しやすいため、脳卒中発症リスクが高いことが知られている。一方、血管閉塞によって細胞が損傷されると、正常な生理機能に変化をもたらす一連の事象が起こり、発癌につながることが考えられるという。研究者は「喫煙、飲酒、癌の家族歴など発癌リスクを高める因子を持つ脳卒中患者には、癌スクリーニングを早期に行うべき」と述べている。

m3.com 2015年2月26日


心臓ホルモンに癌転移予防効果
国立がん研究センター、ANPの血管作用から確認
 国立循環器病研究センターペプチド創薬研究室長の野尻崇氏らの研究グループはこのほど、心臓から分泌されるホルモンが血管を保護することでさまざまな種類の癌転移に対する予防、抑制効果が認められたと発表した。心房性ナトリウム尿ペプチド(ANP)投与マウスの肺転移が対照群より有意に少なかったほか、血管内皮細胞に接着する癌細胞数を抑制するメカニズムが確認されたという。同センターでは肺癌手術が対象の多施設共同試験を予定しており、新たな癌治療の確立に期待を寄せている。

 ANPは1984年に発見された心臓ホルモンで、主に心不全治療で用いられている。同センターでは、これまでに肺癌手術中からANPを低用量で3日間持続投与すると術後不整脈を有意に抑制できることや、閉塞性肺疾患を合併する肺癌患者でさまざまな心肺合併症が予防可能なことを報告してきた。

 その追跡調査の結果、合併症予防目的のANP投与群(手術+ANP)は、手術単独群より術後2年無再発生存率が良好な成績であった。両群で年齢や性別、癌進行度などを統計解析しても同様の結果であったことから、ANPが癌転移、再発抑制に何らかの効果をもたらしているのではないかと考察。マウス悪性黒色腫を移植した肺転移モデルマウスを作成し、対照群とANP投与群で比較した。

 その結果、ANP投与群は有意に肺転移が少なかった。ANPの作用についても検討したが、癌にはANP受容体が発現していなかったことから、ANPが癌以外に作用している可能性が示唆された。そこでANP受容体遺伝子が血管内皮細胞で特異的に欠損したマウスを作製し、同様の実験を繰り返した。遺伝子欠損マウスでは肺転移が有意に多いことが判明したため、ANPの癌転移予防効果は血管への作用結果であることが分かった。また、ANPによって最も抑制される遺伝子が、血管に特異的に発現する接着分子のEセレクチンであることも同定した。

 以上から、同センターは「手術で血中放出される遊離癌細胞は、手術時の炎症で惹起されたEセレクチンの発現亢進によって血管へ付着、浸潤することがあり、これが術後早期の再発、転医の一因となっている。ANPは、このEセレクチンの発現を抑えることで癌の術後再発、転移を抑制していると考えられる」との見方を示している。

m3.com 2015年3月3日

メトホルミンが癌攻撃T細胞を回復
岡山大、細胞数の増加と機能回復が顕著
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の研究グループは、2型糖尿病治療薬「メトホルミン」にがん細胞を殺傷するエフェクターCD8T細胞の疲弊現象を回復させ、がん細胞を攻撃する作用があることを明らかにした。

 CD8T細胞は、疲弊分子からの負のシグナルによってがん細胞の殺傷能力、増殖能力の消失により、その多くが細胞死する。疲弊分子の機能を阻害する抗体をがん患者に繰り返し投与すると、CD8T細胞が疲弊から回復、劇的な治療効果がみられるケースがある。メトホルミンには疲弊分子阻害抗体と類似する作用があり、従来のがん治療と組み合わせることで治療効果が向上することが期待されるという。

 糖尿病でない正常なマウスにがん細胞を移植、メトホルミンを自由飲水させた。その結果、がん塊が縮小した。がん塊に浸潤したCD8T細胞を解析、細胞数の増加と機能回復が顕著だった。T細胞欠損マウスやエフェクターCD8T細胞を除去したマウスでは、がん塊の縮小はみられなかった。

m3.com 2015年3月12日

NHKの癌医療に関する番組を見て
中村幸嗣(危機管理専門血液内科医)

 NHK 特報首都圏より 「がん医療 あふれる情報にどう向き合う」を見ました。

 番組は1人の55歳の乳癌患者の例示から、がんに対するあふれる情報に困惑する患者の現状を示す構成ではじまります。

 きっかけは医師とのコミュニュケーションのズレでした。モニターをみながら、治療について話す医師。患者の意見を聞いてくれない、自分のことをわかってくれないと患者が不信感を抱いた時、言い切る言い方の標準治療の否定(近藤誠氏に対する反論の歴史 今回のテレビ出演に対する反応 極端な断言)にみせられ彼女はとんでも医療、がん放置療法に邁進しました。

 とんでも本をいっぱい読む、抗がん剤は増がん剤と思い込み、がんに効く健康商品等を買いあさり2年が過ぎます。

 2年後再診察した際には、乳がんは両胸に進行し、しこりの痛みが出現し、胸水が溜まり病状は悪化していました。そして乳がんは完治が難しい状態に進行していたのです。

 増がん剤と信じきっていた抗がん剤の標準治療を受け、彼女の痛みは改善し、CTにて胸水や腫瘤がほぼ消失するという治療の効果が現れました。抗がん剤の恩恵です。彼女は過去の後悔を口にします。

 標準治療を否定する医師にも取材をしたようです。ここでは手記のみで近藤先生と思われるセカンドオピニオンを受けた患者さんを提示していました。この患者さんは満足な治療を受けることができず痛みで死亡したようだという報告です。緩やかながら否定的な立場でした。

 日本医大の勝俣医師がコメントしています。患者さんが医師への不信感を抱くのは医療者が押し付けの医療を行うことで、患者さんの本当の希望を取り込めていないからだと。

 人生観、医療に対する価値観を考え、病気としてのがんではなく人生としてのがんを医療者は受け止めなければいけないと。そしてその解決策として医療者のコミュニュケーション教育の場面を提示しました。

 また帝京大野先生がエビデンスに基づいた情報の信頼性を説明します。そして乳がん治療のサイトを玉石混合の1280000件から本当に役立つ269件へ絞り込むサイトをつくったと活動を報告します。情報を専門家としての取捨選択をおこなったという成果です。でもほとんどの一般の方はこのサイトを知りません。近藤先生の本に比べれば、明らかに広報不足です。

 一部患者の成すべきことにも言及されていました。いつでも質問し、その場で決心せず持ち帰る。そして医療者に過度に期待しすぎない、依存しすぎないという提言です。情報も含めて自分の体は自分で守る必要があります。

 概して患者に寄り添うための時間、能力を医療者が作るべきとのオーソドックスなまとめです。

 ただ私は最近セカンドオピニオンも行っていますが、医師に不信感を抱く方はいくら医師が丁寧に説明しても納得できない方がいらっしゃいます。精神的に不安定な方等はそれこそメンタルケアーを行わないとがん治療どころではありません。

 もちろん一般的に頑固という方もいらっしゃいます。それは御自身の考えですのでしょうがないですが、例の患者さんのように病院から離れるとか緩和療法を行うのならば医療者は対応可能ですが、患者さんが自分の思い込んでいる標準治療以外の医療を医療者に要求されることも少なくありません。

 こういう患者さんに対応することは、一般的説明をする時間すらほとんどとれない医師に要求するのは現実離れを感じます。

 セカンドオピニオンは時間が取れます。でも一般診療でこういう患者さんに寄り添うための長時間の外来診療は他の患者さんの診療をしている医師には現状不可能だと思います。

 もちろん、コメンテータのような看護師の方やソーシャルワーカー、臨床心理士、薬剤師等の医療者チームを活用すれば可能と思いますが、医師だけに説明の改善策を求めることは現実性に乏しい提言だと思いました。

 抗がん剤が効果があった症例を提示していただけたことは幸いでした。これで陰謀論も少し消えてくれればありがたいです。

m3.com 2015年3月16日

癌細胞増殖を人工遺伝子で抑制
海洋研究開発機構が新技術開発
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、人工合成した緑色蛍光たん白質(GFP)産生遺伝子をつくり、これをがん細胞やウイルス内部に発現させて増殖抑制させる技術を開発した。

 人工遺伝子導入により正常な遺伝子発現システムを示す「脆弱性」を攻撃して、本来作られるたん白質合成を阻害させてしまう方法。今後、医療研究機関と連携し検証を進め、がんや感染症に対する遺伝子治療法への応用を目指す。

 JAMSTECの研究グループが新技術開発で着目したのは、細胞がたん白質をつくる過程で、重要な遺伝子暗号「コドン」。コドンは3つの塩基配列から成るmRNAの遺伝暗号のこと。DNAから翻訳される、たん白質の構成材料であるアミノ酸を正確に選ぶことに関連する機能を担っている。

 複数あるコドンのなかから使用頻度の少ない「低頻度コドン」を選び、これを人工GFP遺伝子の発現と関連付けてGFPたん白質が作られるように技術操作を行った。同人工遺伝子を大腸菌に導入すると、低頻度コドンが優位性を発揮して、コドンを認識してたん白質合成に働くtRNA(アミノ酸を運ぶ役割をする)を独占してしまい、結果として大腸菌本来のたん白質を作れなくし、増殖を阻害する。遺伝子発現システムの脆弱性を攻撃して操作技術に利用した。

 そこで、実験用アデノウイルスやヒトがん細胞にも試したところ増殖抑制効果がみられた。

m3.com 2015年3月19日

嗅覚訓練犬が尿検体の匂いで甲状腺癌を検出
 米国内分泌学会(ENDO)は3月7日、嗅覚訓練犬が患者の尿検体の匂いを嗅いで甲状腺癌または良性(非癌性)のいずれを有するかを88.2%の確率で特定できることを示した新たな研究を紹介。サンディエゴで開催の第97回年次会合で発表された。

 本研究では、腫瘍が疑われる甲状腺結節の生検と手術未実施の患者34人から、大学病院甲状腺科初回来院時に尿を採取。グローブをした訓練士が嗅覚訓練犬に尿検体を一つずつ提示して匂いを嗅がせた。訓練士と試験コーディネータのいずれも34の尿検体に対する腫瘍の状態を知らされていなかった。

 その結果は、34検体中30検体において、外科病理による確定診断(15人が甲状腺癌、19人が良性甲状腺疾患)と合致。感度(真の陽性率)は86.7%で、甲状腺癌であることが病理学的に示された検体の約87%を正確に特定したことになる。また、特異度(真の陰性率)は89.5%で、10回のうち約9回で良性検体を正しく認識したことを意味する。

 現在の甲状腺癌診断法は精度不十分のため治療を繰り返したり不必要に甲状腺手術が実施されるケースが非常に多いなかで、上級責任医師のDonald Bodenner氏は、「嗅覚訓練犬を利用すれば、医師は甲状腺癌を早期検出できるのみならず、必要のない手術を回避できる」と指摘。さらに、「嗅覚訓練犬を用いる方法は穿刺吸引細胞診を用いた場合の診断精度をわずかに下回るレベルに到達している。訓練犬の嗅覚を用いることで、非侵襲性で費用を抑えられることが利点になる」と説明している。

 今後、研究チームはAuburn University College of Veterinary Medicineと提携してこのプログラムを展開していくことを計画中。大学側は、UAMS患者の検体を用いて、甲状腺癌を検出できるように2匹の犬の嗅覚訓練を実施する予定という。

m3.com 2015年3月19日

抗癌剤の効き目、飼育温度で差
ニューヨーク州立大、マウスで確認
 米ニューヨーク州立大学ロズウェルパーク癌研究所の研究グループは、抗がん剤による化学療法の効果が、モデルマウスの飼育温度によって左右される知見をまとめた。低温状態だと抗がん剤の効き目が落ちる結果が得られた。

 抗がん剤の前臨床研究で、マウスの実験データにばらつきがみられた理由の一部が、今回の研究によって説明できる可能性がある。このため、臨床研究などマウスを用いた抗がん剤の効果を確認する実験に飼育温度を考慮するべきとしている。

 研究グループは、膵臓がんモデルのマウスを用いた研究を実施。平均気温が30度Cを上回る環境で飼育したマウスの場合、通常の温度22度Cで飼育されたマウスに比べて抗がん剤の効き目がよかったと研究報告している。抗がん剤に利用したのは「シスプラチン」。

 低温状態で飼育したマウスの場合、その環境がマウスにとってストレスになり、ストレスホルモンが上昇したためとしている。

 ストレスホルモンであるノルエピネフリン濃度が上昇すると、生体内の代謝を活性化し体温を維持させてストレスに適応する。研究グループでは、この適応反応によってシスプラチンに対するがん細胞の抵抗性が高まったとみている。

 対策として、同ストレスホルモンの作用をβ遮断薬プロパノールを使って阻害すれば、低温で飼育したマウスも高温状態で飼育したマウス並みにシスプラチンに対する高い反応性を期待できるとしている。

 マウスのがん細胞の増殖と治療効果にストレスを与える影響を温度環境の視点から捉えた研究成果は珍しく、抗がん剤の反応性が従来考えられていたよりも柔軟である可能性を示している。

 この成果は、英オンライン科学雑誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。

m3.com 2015年3月30日


肥満で女性のがんリスクが40%上昇
4人に1人が体重関連のがんを発症
 肥満女性のがんリスクは痩せた女性よりも40%高いことが、英キャンサー・リサーチUKのJulie Sharp氏らの研究でわかった。

 今回の研究では、肥満女性の約4人に1人は、生涯のうちに体重に関連するがんを発症するリスクがあることが判明した。体重関連のがんとは、大腸がん、胆嚢がん、子宮がん、腎臓がん、膵臓がん、食道がん、閉経後の乳がんなどだ。英国において、肥満女性1,000人中274人が生涯のうちに体重関連がんを発症したが、健康体重の女性では1,000人中194人だった。

 同リサーチによると、肥満が女性のがんリスクを高める方法は多数考えられるという。例えば、脂肪細胞のホルモン、特にがん発現を促進するとされるエストロゲン産生などが関連する方法だ。ただし、ウエストを細くすれば誰でもリスクを軽減できると、ある専門家は述べている。

 Sharp氏は、「禁煙、健康体重の維持、健康的な食事、節酒といったライフスタイルの変更は、あなたのがんリスクを低減する大きなチャンスだ。この変更でがん予防が保証できるわけではないが、有益だとは言える」と述べている。

 「減量は簡単でないが、スポーツジムに入会したり、毎日何マイルも走ったり、大好物を永久にあきらめたりする必要はない。一駅手前でバスを降り、脂肪や糖分の多い食品を減らすなど、長期にわたり持続できる小さな変化が大きく影響する」と同氏はアドバイスする。

m3.com 2015年3月30日


深酒で5種類のがんのリスクが高まる
そのほか12種類の部位では関係なし
 深酒をすると5種類のがんのリスクが高まると分かった。

 米国カリフォルニア州のオークランド・メディカルセンターを中心とする研究グループは、その結果をパーマネンテ・ジャーナル誌オンライン版で2015年3月1日に報告した。

中程度までの飲酒と過度の飲酒で比較

 過度の飲酒は、身体の特定部位におけるいくつかのタイプのがん発症のリスクの増加と関連していると報告されている。一方で、部位によっては結果が矛盾して出てくる場合もある。ワイン、蒸留酒またはビールのどれを飲むかによっても結果に差が出てくる。

 研究グループは、12万4193人を対象として、軽度から中程度の飲酒と、過度の飲酒の比較、お酒の種類とがんのリスクとの関連性を検討した。

深酒で5種類のがんのリスクが増加

 その結果として、お酒を飲まない人と比較して、過度の飲酒(1日に3杯以上)をする人は、「上気道/消化器」「肺」「乳房」「結腸直腸」「メラノーマ」の5種類のがんのリスクが増加した。

 軽度から中程度の飲酒でも、肺がんを除く4種類のがんと関連があった。

 この5種類以外の12種類の部位のがんについては、飲酒とがんのリスクは関係していなかった。なお、12種類とは、「胃」「膵臓」「肝臓」「脳」「甲状腺」「腎臓」「膀胱」「前立腺」「卵巣」「子宮体」「子宮頸」「造血系」。

 結論として、過度の飲酒は一部のがんのリスクを増大させるが、別のがんではリスクは増加しないと明らかになった。軽度から中程度の飲酒の影響は未知の関連した要素がリスクに関わる可能性もあり、がんとの関係については明確ではないと説明している。

 普段から飲酒の習慣があるとすれば、気にすると良さそうだ。

Medエッジ 2015年3月31日

膠芽腫も消えた! ポリオウイルスでがんを治す新療法が登場
 悪性腫瘍をポリオウイルスに感染させて殺す――そんな毒をもって毒を制すなデューク大学の新療法を米CBS報道番組「60ミニッツ」が特集しました。臨床実験のフェーズ1からいきなりがんが治る人たちが現れ、「奇跡としか言いようがない」と衝撃を呼んでいます。

 番組の流れに沿って、訳しておきますね。

 最初に登場するのは2012年に悪性の脳腫瘍の「膠芽腫(glioblastoma)」と診断されたナンシー・ジャスティスさん(58)です。2年半に渡って放射線療法や化学療法で抑えてきたのですが、腫瘍が再発しました。

 この腫瘍は2週間で倍に成長します。再発後は「余命長くて7ヶ月」と診断されましたが、その半分になる恐れもあります。治療法はもう何も残されていなかったため、デューク大学の臨床試験の被験者に挑むことにしました。

 昨年10月、小さじ半分のポリオウイルスを脳腫瘍に注入。注入しながらこう語っています。「1日1日を生きる、それだけ。これでほかの人たちに希望が与えられるなら怖くなんかない」、「大学生の息子2人の卒業式も、結婚も、孫の顔も見たいんです」

ウイルスは脳内に拡散しないの?

 3DのMRIでターゲットの腫瘍に狙いを定める経路の割り出しは、神経外科長ジョン・サンプソン医師が担当しました。チームの中ではスナイパーの役回り。

サンプソン医師「アタックするのも大事だが、攻撃対象でないものに当たらないようにするのも大事。ほかを感染させたら大変だからね」

スコット・ペリー記者「脳内に拡散しないんですか?」

医師「そんなに遠くまではいきません。ポリオは比較的大きな分子ですからね。脳はタイトなスペースなので移動距離にも限りがあるんですよ」

 被験者はナンシーさんが17人目です。小さじ半分のポリオウイルスの浸透には6時間半もかかりました。が、治療はそれでおしまいです。手術も放射線もなし。小さじ半分を1回注入する、それだけで終わりなんです。あとは数ヶ月後にもう1回MRI検査をやって、膠芽腫とポリオ、どっちが強いのかをチェックします。

 大学のロゴのフーディーとジーンズのおっさん、この人はナンシーさんに治療を勧めたヘンリー・フリードマン(Henry Friedman)医師、同大附属脳腫瘍研究センターのお偉方です。

フリードマン副所長「これは私の全キャリアで最も期待できる治療法だ、以上ピリオド」

記者「がん治療を変えるターニングポイントになると?」

副所長「だといいね。いける手応えはある」

秘密はポリオ

 実はこのポリオ。普通のポリオとは違うんです。分子生物学専門のマサイヤス・グローマイヤー(Matthias Gromeier)医師が25年間かけてつくった苦労の結晶で、遺伝子組み換えが施されています。

記者「『わかった! ポリオでがん細胞を殺せばいいんだよ 』って同僚に言うと、みなさんなんておっしゃいますか?」

グローマイヤー医師「クレイジーだとか、嘘だろとか、まあいろいろ言われますね(笑)。みんな共通して言うのは、リスキーすぎるということです」

副所長「私だって最初はナッツ(頭おかしい)としか思いませんでしたよ。んなもん、麻痺(まひ)になるだけだってね」

 グローマイヤー医師はほかにもHIV、天然痘、麻疹のウイルスも試しました。が、選んだのはポリオでした。ポリオだと腫瘍の受容体にしっかり受け入れられるからです。もう、がんを殺すためにあるんじゃないかってぐらいピッタシだったんです。

 遺伝子組み換えでは、ポリオの基本的な遺伝子配列の一部をインフルエンザウイルスのものと組み換えました。こうしておけば普通の細胞ではサバイブできないので、麻痺(まひ)や死亡を引き起こす心配はありません。逆にがん細胞ではサバイブできる。そして分裂を繰り返す過程で毒素を生成し、細胞を毒殺するというわけです。

 医師は米食品医薬品局(FDA)に、このフランケンシュタインみたいな継ぎ接ぎウイルスの認可を求めました。が、FDAは一般市民に感染が広まるのを警戒して慎重でした。そこで7年間に渡って安全性の研究を行い、猿39匹に注入してもポリオが発症しないことが実証されて初めて、2011年にようやく人体への臨床実験にFDAから認可が下りたのです。

被験第1号

 最初に被験者になったのは、20歳で余命数ヶ月を宣告されたステファニー・リプスコーム(Stephanie Lipscomb)さんです。やはりナンシーさんと同じ膠芽腫で、頭痛で病院に行った時にはもうテニスボールほどまで成長していました。

 大量の化学療法で腫瘍の98%は摘出できたのですが、2012年に再発。再発した膠芽腫にはもう治療法はありません。そこで「人間に試すのはあなたが最初だ」と説明を受けた上で納得ずくで臨床にのぞみました。

ステファニーさん「正直、もう失うものは何もなかったんです」

記者「お母さんはなんて言ってましたか?」

「医師に言われても『…はあ? なに? 今なんて?』っていう感じだったので、『いいから、やろうよ、ね!』って言ったんです(笑)。怖がる家族の気持ちはよくわかっていたから、私が怖がるところは見せたくなかった」

記者「本当はもちろん、怖かったんだよね…」

「…はい(涙ぐむ)」

副所長「そりゃそうですよ。サイコロ転がすようなものだから。良い方に転がるか悪い方に転がるかは転がしてみないとわからない」

 5月に注入して2ヶ月後。残念ながら腫瘍はむしろ大きくなってました。サイコロは悪い方に転がってしまった…。「これはダメだ」と判断した医師は普通の療法に戻して手術もやろうと進言します。が、ステファニーさんは「もう少し様子が見たい」と止めました。

 注入から5ヶ月後。恐る恐る見てみたら腫瘍はなんと成長が止まっているではないですか! 注入後すぐ大きくなって見えたのは単に腫瘍が炎症を起こしていたからだとわかりました。身体の免疫系が覚醒し、がんと戦っていたのです。

がんはなぜ免疫系が働かない? ポリオ療法の原理とは?

記者「そもそも最初から免疫系ががんと戦ってれば済む話なのに、なぜ人体はそれができないんでしょう?」

グローマイヤー医師「がん細胞というやつは自分の周りにシールドを張り巡らして、免疫系からは見えなくなってしまうんです。そこをリバースする、それがこの療法です。腫瘍を感染させることでこのシールドを剥ぎとって、免疫系にこっちだよ、と教えて導いてやるんですよ」

記者「なるほど。ポリオにわざと感染させて免疫系にアラームを発動するわけですな」

医師「その通り」

 がん殺しをスタートするのはポリオウイルスのように見えますが、実際に殺す部分は体内に備わった免疫系がメインでやる、というわけです。

そして腫瘍は消えた

 こうしてステファニーさんの腫瘍は21ヶ月連続で縮小を続け、しまいには……消えてしまいました。これは注入3年後のMRI。腫瘍はすっかり消えてなくなってます。残っているのは初期に行った手術痕だけです。

記者「こうして今ここにステファニーが立ってること自体、従来の療法では考えられないことなんでしょ?」

医師「そうです」

記者「ステファニー、これを最初見せられた時はどんな気持ちだった?」

ステファニーさん「泣いてしまいました、うれしくて」

失敗

 フェーズ1の臨床では注入量を少しずつ上げてゆき、適量を割り出さなければなりません。3人目で悲劇は生まれました。初めての失敗。

 3倍に上げた第14号のドンナ・クレッグ(Donna Clegg)さん(60)の場合は、炎症が激しくなり過ぎて脳が圧迫され体が一部麻痺し、途中で注入を中断せざるを得ない結果に。苦しみながら3週間後に亡くなりました。

 でもこれはフェーズ1の性質上、避けようがないことではあります。一方、ステファニーさんは3年経った今も元気で再発もないままです。第1号が成功したんだからもうそれで良し…というわけにはいかないのが医学の厳しいところですね…。

内側からがんを破壊

 この知見を糧に、冒頭のナンシーさんでは注入量を85%カットしました。

 注入後4〜6ヶ月は炎症期。免疫系が目覚めて、腫瘍を殺し始める時期です。確かにナンシーさんもドンナさんのようにろれつが回らなくなり、右半身が弱まる症状が出ました。注入3ヶ月後に急患でMRI検査に戻ったところ、注入前の2倍に膨れ上がっていました。腫れを抑えるためAvastinというガン薬を服用したところ、すぐ効いて症状は落ち着きました。

 ポリオ注入から4ヶ月半。通常なら2、3週間で倍に成長するはずの膠芽腫は、腫れも成長も悪化もないままです。MRIで調べてみると、腫瘍の真ん中には、ぽっかりと穴が…

 ポリオで免疫系が覚醒し、内側からがんを突き崩していたのです。

これまでの結果

 これまでの治験でポリオウイルス療法を試したがん患者は合計22人。うち死亡された方は11人で、ほとんどは注入量が多い試験でのことでした。それでも余命宣告よりは長く生きたというのがせめてもの救い…。

 残る11人は回復を続けており、うち4人は「寛解」の状態で半年以上クリアしています。平均半年寿命が伸びた計算。ステファニーさんやアンダーセン博士のように33、34ヶ月もピンピンしてるなんて従来の療法では考えられないことだとセンターの所長は言ってますよ。

ギズモードジャパン 2015年4月1日

臓器守り病巣狙い撃ち がん粒子線治療新手法開発中 神戸大
 がん細胞に水素の原子核や炭素イオンのビームを当て死滅させるのが「粒子線治療」だ。ただし病巣のそばに腸や胃などビームで傷つきやすい臓器があると治療は難しい。病巣だけにビームを当てる手法の開発を神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)の肝胆膵外科(具英成(グヨンソン)教授)、放射線腫瘍科(佐々木良平教授)などのチームが進めている。

【穴の開く危険も】

 粒子線治療では、水素の原子核である陽子や炭素原子から一部の電子をはぎ取った炭素イオンを「粒子加速器」で加速し、ビームにして使う。

 ビームはエネルギーによって体内のどこまで届くかが決まる。浅い部分はすり抜け、最終到達点近くでエネルギーを放出して止まり、がん細胞にダメージを与える。

 そこで前もってコンピューター断層撮影(CT)で病巣の位置や形状を把握してから、ビームのエネルギーを調節し病巣を集中的にたたく。

 だが胃や腸など消化管はビームで穴が開きやすく、それらが病巣に接していると影響が避けられない。このため、おなかのがんは一部を除き、粒子線治療が難しかった。

【有望な結果】

 問題解決に向け、神戸大病院肝胆膵外科は兵庫県立粒子線医療センター(たつの市)と共同で2006年、病巣と消化管の間に「スペーサー」と呼ばれる物を挟み込む手術をし、その後に粒子線を当てるという手法の臨床試験を始めた。

 肝臓や胆のう、膵臓など腹部や骨盤部のがんで、切除など他の方法で根治が見込めない進行した症例が対象。スペーサーには体にあまり悪影響を及ぼさないとされるゴアテックスやおなかの脂肪組織「大網」を使った。

 昨年12月までに136例を実施。粒子線照射部分にがんの再発がない割合を示す局所制御率は全体で80%を超えた。2年生存率は肝がん(13例)で50%、膵体尾部がん(8例)で44%。胆道がん(12例)では46%と化学療法の19%を上回った。

 チームを率いる肝胆膵外科の福本巧准教授は「他の方法との比較試験がもっと必要だが、有望な治療法になるのではないか」と言う。

【素材を改良】

 福本准教授によると、臨床試験を通じ、消化管との間を最低1センチほど空ければいいことが分かり、スペーサーの適切な入れ方も確立できた。

 問題はゴアテックスが体内に残ること。カルシウムが沈着して硬くなり、臓器を傷つけることもある。そこで素材を改良することにした。

 国内企業の協力を得て、傷口の縫合に使う手術用の糸の素材でスペーサーを試作。体内では約3カ月で吸収され、含水性がよく、粒子線を止める効果も高いのが特徴だ。

 動物実験で有効性を確認。経済産業省の支援も受けて開発が本格化した。約40の医療機関と研究会をつくり、今年から臨床試験に取り組む。

 研究会に加わる根本建二山形大教授(放射線腫瘍学)は「スペーサーはエックス線による一般的な放射線治療にも使える。実用化されれば治療の効果も安全性も飛躍的に高まると思う」と語る。

 福本准教授は「今より少しでも多くの患者さんを、より安全に治療できるよう研究を進めたい」と話している。

神戸新聞 2015年4月2日

砂糖、実はがんや糖尿病の原因に?
南清貴(みなみ・きよたか)フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事

 オフィスで集中して仕事をした後や、営業の外回りから戻ってきた時、退屈で長い会議が終わった時に、ホッと一息つきたくて、缶コーヒーやペットボトルのジュースを一気に飲み干した――こんな経験を持っている人も多いと思います。

 しかし、その缶コーヒーやジュースにはどれくらいの砂糖が入っていて、その砂糖がどんな影響をもたらすか、というところまではあまり考えたことがないでしょう。例えば、一般的な缶コーヒーには角砂糖約3個分、「コーラ」のような清涼飲料水には同じく約10個分の糖分が入っています。

 では、スポーツドリンクのほうがいいのかというと、そうでもありません。一般的なスポーツドリンクにも、角砂糖6〜7個分の糖分が入っています。さらにいえば、ファーストフード店などで販売しているシェイク状のドリンクには、角砂糖20個分以上は入っているといわれています。

 「砂糖の取りすぎは体によくない」という事実は知られていますが、世界保健機関(WHO)のガイドラインによると、成人および子供の1日当たりの糖類(炭水化物とは別)の摂取量は、全カロリー中の5%未満にすべきとされています。一般的な成人の1日の摂取カロリーは、1800〜2200キロカロリーといわれています。仮に2000キロカロリーとした場合、その5%となると100キロカロリーで、缶コーヒー1〜2本分に当たります。

 計算上、缶コーヒーを2本も飲めば、その日はもう糖類を摂取できないことになってしまいます。ただし、実際にはそれで済むわけはないので、摂取カロリーに占める糖分の割合はどんどん増えてしまいます。そして、それが結果的に体に大きなダメージを与えてしまうのです。

 砂糖にはカロリーはありますが、私たちの体に必要な栄養素はほとんど含まれていません。そういった食品のことを「空のカロリー」といいます。アルコール、白米や白く精製された小麦粉なども空のカロリーの一種です。一部で「空のカロリーは体内に残らないので太らない」などと考えている人もいますが、これは大きな間違いです。

 必要な栄養素を含まない空のカロリーは、体内に摂り込むと大きな負担になってしまいます。カロリーがあるということは、体のエネルギー源になるということであり、なんらかの経路でブドウ糖に変化するということです。ブドウ糖がエネルギー源になるには、体内のさまざまな機能や物質を使う必要があります。

 その一つが、クロムという必須ミネラルの一種です。このクロムが、細胞膜にあるブドウ糖を受け入れるドアを開ける鍵の役割をすることで、ブドウ糖を細胞の内側に取り込むことができます。砂糖(アルコールも同じ)には、クロムはまったく含まれていないので、砂糖に含まれるブドウ糖をエネルギー化するためには、他の食品から摂取したクロムを使うことになります。

 つまり、砂糖はクロムを体内にもたらさないどころか、他から摂取したクロムを浪費してしまうのです。その上、エネルギー化のために必要なもうひとつの栄養素であるビタミンB1も含まれていないので、体には多くの負担がかかります。

砂糖の過剰摂取で脳機能にも変化

 アメリカの保健指標評価研究所が2010年に発表した「世界疾病負荷調査報告書」によれば、糖分を含む飲み物の過剰摂取が原因とされる死亡例のうち、糖尿病は13万3000人、心血管疾患は4万4000人、がんは6000人となっています。注目すべきは、その78%が低〜中所得国で発生しているということです。今、日本では貧困率の悪化が問題になっていますが、この仲間入りだけは避けたいところです。

 また、アメリカのプリンストン大学で行われた、ラットを用いた実験では、砂糖を過剰摂取することによって明らかに依存性が認められた上、一度砂糖の投与をやめて再び与えた際には、以前よりも摂取量が増加したそうです。さらに、砂糖の供給を絶たれたラットはアルコールの摂取量が増え、脳機能に変化が起きていることがわかったといいます。空腹時に多量の砂糖を摂取するラットの脳内では、コカイン、モルヒネ、ニコチンなどの依存性薬物による変化と同様の神経化学的な変化が起こっていることもわかっています。

 ラットの実験がそのまま人間に当てはまるわけではありませんが、まったく無視するというわけにもいかないでしょう。そもそも、無視するぐらいなら最初から実験をする意味がありません。こういったことを鑑みると、仕事の合間や息抜きに砂糖たっぷりの缶コーヒーなどを飲み干す習慣は、やめたほうがいいのではないでしょうか。

砂糖より高リスクな合成甘味料の罠

 4月3日付当サイト記事『命を蝕む砂糖、がんや糖尿病の原因に…栄養素なく高カロリー、コカインと同様の依存性』では、缶コーヒーやペットボトルのジュースに入っている砂糖の問題についてお伝えしましたが、「砂糖が入っていないゼロカロリーの飲み物を飲んでいるから大丈夫」などと言っている人は要注意です。

 ゼロカロリーの飲み物は、実は砂糖を摂取するよりもリスクが高いかもしれないからです。アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムなどの合成甘味料が、ゼロカロリーの飲み物には使われています。

 アスパルテームの構成成分の一つにメタノールがあります。このメタノールは劇物に指定されており、体内でアスパルテームから分離されて吸収されますが、摂取量によっては死に至ることもあります。実際に戦後の食糧難だった時には、酒類にメタノールを混ぜて売っていたそうですが、飲んだ人が命を落としたり、失明するということが頻繁に起きたようです。

 アスパルテーム入りの缶コーヒーやジュースを飲んだからといって、すぐに重大な疾患につながるわけではありませんが、そういった事実を知っておいたほうがいいでしょう。また、アスパルテームはがん、脳腫瘍や白血病との関連も強く疑われています。

 スクラロースとアセスルファムカリウムは、自然界には存在しない完全な化学合成物質で、私たちの体内では分解することができません。したがって、そのまま吸収されて異物として体内をめぐり、肝臓や腎臓に多大なダメージを与え、免疫力を低下させてしまいます。

 スクラロースもアセスルファムカリウムも、強い甘みがありますが、分解されて糖分が吸収されるわけではないので、カロリーとしては計算できません。これが「ゼロカロリー」の意味なのです。「カロリーがないので、体によさそう」と思う人もいるかもしれませんが、決してそうではないということを肝に銘じておきましょう。

恐ろしい高果糖コーンシロップ

 さらに、私たちが日常的に口にする甘味料で注意しなければならないのが、高果糖コーンシロップです。これは異性化糖、果糖ブドウ糖液糖、あるいはブドウ糖果糖液糖などとも呼ばれます。呼び名によって、ブドウ糖や果糖の含有量などに多少の違いはありますが、ほぼ同じと考えていいでしょう。

 高果糖コーンシロップは、飲み物だけでなく、スイーツ、惣菜や冷凍食品などの加工食品にも幅広く使われています。アイスコーヒーやアイスティーなどに入れるガムシロップも、この高果糖コーンシロップです。原材料はコーン、つまりとうもろこしですが、そのとうもろこしは遺伝子組み換えによって作られたものです。

 高果糖コーンシロップは、実は砂糖よりも激しく血糖値を上昇させるといわれています。しかし、コストが安いため、あらゆる食品に甘みをつけるために使われているのです。血糖値の問題だけではなく、その延長線上にある肥満や糖尿病などの原因になることもあり、アメリカでは使用禁止の運動も展開されています。

 ただし、果物などに含まれている果糖と、高果糖コーンシロップの甘みの主体である果糖は違うものなので、果物は安心して食べてください。果物などに含まれる果糖は、食物繊維などの働きもあり、体内にゆっくり吸収されていきます。果物には、私たちの体に必要なビタミンやミネラル、植物栄養素などが豊富に含まれており、健康的な食べ物といえます。

 一方、高果糖コーンシロップは私たちの体に多大な負担をかけるので、飲み物や加工食品などを通じた取りすぎに注意したいところです。高果糖コーンシロップは低温で甘みが増すという特徴があるため、アイスクリームや清涼飲料水、冷たい菓子類などにもよく使われており、知らない間にたくさん摂取してしまう危険性もあります。

 高果糖コーンシロップの日本での市場規模は、年間約800〜1000億円といわれていますが、日本スターチ・糖化工業会に加盟している十数社で約9割のシェアという寡占状態にあります。砂糖と同様に利権がからんでいるため、この問題がマスメディアで取り上げられることはほぼありません。だからこそ、私たちは自主的に高果糖コーンシロップを遠ざけなければならないのです。特に、子供たちには摂取させないような配慮が必要です。

 国際糖尿病連合(IDF)の報告によると、世界の糖尿病人口は爆発的に増え続けており、2014年現在で糖尿病有病者数は3億8670万人、世界人口の8.3%が罹患しています。また、このまま有効な対策を施さないと、その数は35年までに5億9190万人に増加すると予測しています。

 糖尿病の増加率は先進国で20%、発展途上国では69%にも上るといわれています。厚生労働省の発表によると、日本人の5人に1人は糖尿病およびその予備軍です。糖尿病は決して対岸の火事ではありません。糖尿病との縁を断ち切るために、まずは高果糖コーンシロップ入りの飲み物を手に取らないことから始めましょう。

Business Journal 2015年4月3,10日

コレステロールを下げる薬、大腸がん手術後の生存率を上げた
飲み薬「スタチン」、台湾での検証結果
 大腸がんの手術をした人が、コレステロールを下げる飲み薬「スタチン」を飲んでいた場合、飲んでいなかった人に比べて生存期間が延びていたと分かった。台湾人での研究結果だ。

スタチンは大腸がんに?

 台湾の国立台湾大学医学院附属病院の研究グループが、大腸がんの専門誌クリニカル・コロレクタル・キャンサー誌で2015年2月21日に報告した。

 コレステロールを下げる飲み薬「スタチン」は、脂質異常症の治療に広く使われている。最近、スタチンに抗がん作用もあると示す報告が、いくつか出てきている。

 今回研究グループは、大腸がんの手術を受けた人がスタチンを飲んでいた場合、その後の生存期間に影響があるかどうかを、台湾人を対象として検証した。

国の医療データベースから検証

 まず、台湾のがん登録システムから、結腸直腸がん(CRC)の進行ステージ1、2、3で、根治を目的としたがんの切除手術を受けた人のデータを集めた。該当した約1万7000人を今回の検証の対象とした。

 次に、国民健康保険制度のデータを調べ、その人たちが、大腸がんと診断されたときからさかのぼって1年以内にスタチンを処方されて飲んでいたかどうかを調べた。その結果、13%に当たる約2000人がスタチンを飲んでおり、残りの約1万5000人は飲んでいなかった。

 集めたデータを統計的に解析し、スタチンを飲んでいた人と飲んでいなかった人で、がんで死亡していない人の割合(がん特異的生存率)と、全体的な生存率を比較した。データは、年齢、性別、診断を受けた年、通院歴、入院歴、併発している病気の影響を外すように、計算で補正した。

飲んでいた方が長く生存

 結果、スタチンを飲んでいた人の方が、飲んでいなかった人に比べてがんで死亡した人の割合が23%少なかった。原因を問わない死亡についても死亡した人の割合は18%少なかった。

 さらに、性別、がんの進行ステージ別、年齢別に解析しても、やはりスタチンを飲んでいた人の方が手術後の生存率が高かった。また、糖尿病や高血圧がある人でも同じ結果だった。

 スタチンの服用は、台湾人では大腸がんの予後に良い影響を与えていた。同じアジア人の日本人でも同様の効果が見られるだろうか。

Medエッジ 2015年4月3日

化学療法が効かない大腸がんに、たちの悪い「がん幹細胞」を殺す有望な新薬候補
米ペンシルベニア州立大学、ネズミの実験で証明
 最近注目の新しい分子標的薬が、化学療法が効かない結腸直腸がんの有望な治療薬となりそうだ。この新薬は、がん細胞を殺すだけではなく、抗がん剤が効かない原因の1つである「がん幹細胞」をも狙い撃ちにできると分かったのだ。

画期的な新薬

 米国ペンシルベニア州立大学ハーシーがん研究所を中心とした研究グループが、がんの専門誌キャンサー・リサーチ誌で2015年4月1日に報告した。

 「がん幹細胞(CSC)」は、次々にがん細胞を生み出し、いろいろな種類のがんに変化する能力も持つ。たちの悪い特殊な細胞だ。CSCは大腸がんにも存在している。

 そのため、がん幹細胞を殺す治療ができれば、がんを縮小したり生存期間を延ばしたりできる。研究グループは今回、「ONC201/TIC10」という新しい抗がん剤に注目した。

 ONC201/TIC10は、副作用を起こさないで、がん細胞だけを殺す画期的な新薬だ。「TRAIL」と呼ばれるタンパク質が、がん細胞を自殺させる仕組みを応用している。

ネズミで検証

 研究グループは以前、ONC201/TIC10を作用させたがん細胞では、「Akt」「ERK」というタンパク質を邪魔することができて、この変化により「Foxo3a」というタンパク質を作り出して、結果的にがん細胞の自殺を促す「TRAIL」を作り出せると報告した。

 「Akt」「ERK」「Foxo3a」は、どれもがん幹細胞にとって非常に重要なタンパク質。そこで研究グループは、この新薬が結腸直腸がんの「がん幹細胞」を狙い撃ちにできそうだと予想して、ネズミで検証を行った。

 検証実験では、がん幹細胞の目印になるタンパク質である「CD133」「CD44」「ALDH」が表面に出ている細胞を「がん幹細胞」とした。

がん幹細胞を殺した

 実験の結果、ネズミの結腸直腸がんでも、シャーレで培養したがん細胞でも、ONC201/TIC10はどちらにおいてもがん幹細胞を死滅させた。

 この新薬の成分「TIC10」は、抗がん剤「フルオロウラシル(5-FU)」の効かないがん幹細胞がシャーレの中で増えて塊となるのを阻止する作用を持つと分かった。

 がん幹細胞は、違う種類のネズミに移植しても、拒絶反応を起こさずにがんとして成長できる特徴を持っている。しかしONC20/TIC10を投与すると、がん幹細胞は、違う種類のネズミには生着できなくなった。この生着を阻止する効果も、5-FUよりONC20/TIC10の方が優れていた。

 さらに詳しく調べたところ、ONC201/TIC10は予想通りに、がん幹細胞でも「Akt」「ERK」の働きを邪魔していた。さらに「Foxo3a」を作り出し、結果的に「TRAIL」およびTRAILが作用するためにくっつく相手の「DR5」を生じ、がん幹細胞を自殺に追いやっていた。

 ONC201/TIC10は結腸直腸がんの根治に有望な薬となるだろうと研究グループは見ている。

Medエッジ 2015年4月6日

ロンドン大学「コーヒーが肝臓がんに効果的かも」
 現在、日本人の総死亡数の3割ほどを占め、80年代から死亡原因の1位となっている“がん”。そのうち、肺、胃、大腸に次ぎ、近年では平均年齢の上昇に伴い、増加しつつあるすい臓がんと死亡者数4位を争っているのが“肝臓がん”だ。がん治療は日々進歩を続けているが、依然として克服が難しいのが現状だ。

 そのため、科学的根拠に基づく予防が改めて重要視され、各種のガイドラインも示されているが、つい先日にはコーヒーの摂取に肝臓がんのリスクを低減させる可能性があることが発表され注目を集めている。

コーヒーと肝臓がんの関連が新たに発見

 世界がん研究基金はこのほど、がんリスクや生存率への、食物や栄養、身体活動、体重の影響を分析するプログラムの最新の結果をまとめて報告。プログラムでは、世界中から集められた34の研究データ「男女800万人から集められ、肝臓がん24,600ケースを含む」を調べたという。

 2007年以来となった肝臓がんセクションのアップデートで、明白な証拠が得られたのは以下の4点。体重超過や肥満が肝臓がんのリスクを増加させること、日におおよそ3杯以上のアルコール飲料の摂取が肝臓がんの要因になること、アフラトキシンに汚染された食物の消費が肝臓がんのリスクを増加させること、そしてコーヒーを飲むことが肝臓がんのリスク減少と結びつけられることだ。

 このうち、体重および肥満、コーヒーについての発見は新たなものだという。

生体防御の活性化に可能性を探る

 体重や肥満と肝臓がんの関連が発見されたことで、体重ががんの要因として関連付けられるケースが初めて10を超えることになった。肥満はインスリン、インスリン様成長因子、エストロゲンといったがんの成長を促す環境を作りだすホルモンのレベルに影響を与え、また肝臓がんの発生と発達を助長する体の炎症反応を活性化させることが分かっている。

 今回の発表でとくに注目を集めているコーヒーについては、含まれる化合物が生体防御を活性化させることが分かり、ほかにも炎症を減らしDNAへのダメージを防ぐこと、またDNAを修復する能力を増加させ、インスリンに対する敏感度を改善させることの可能性があるということだ。

コーヒーで癌

 しかし、現状ではコーヒーの摂取を肝臓がん予防の決定的なアドバイスとするためには、まだ答えの出ていない疑問もあるようだ。例えば、コーヒーを飲む量やミルク/砂糖の有無、あるいは調査で使われたコーヒーにカフェインが入っていたか、レギュラーかインスタントかといった点も明確ではないという。今後はこうした問題を明らかにする必要があるほか、体の他の部位への影響も慎重に調べなければならないようだ。

 私たちが日常的に摂取することが容易なコーヒーなだけに、実際の予防法として確立されれば極めて有益といえ、今後のさらなる研究を待ちたいところだ。なお世界がん研究基金では肝臓がんのリスクを減少させるために2つのことを推奨している。それは、健康的な体重を維持すること、そしてアルコールを摂る場合も一日に男性で最大2杯、女性は1杯に制限することだ。将来の健康を考えていくうえで参考にしてはいかがだろうか。

FUTURUS(フトゥールス) 2015年4月7日

抗がん剤に意外にもアルツハイマー病の治療効果、新薬の開発に?
動物実験で記憶喪失の回復を確認
 抗がん剤として開発された薬が、アルツハイマー病に効果がある可能性が出てきた。米国のアルツハイマー病共同研究(ADCS)・エール大学を含む研究グループが、2015年3月31日に報告している。

アミロイドβのプラーク形成を遮断

 「AZD0530」と呼ばれている薬は、塊になるがんである固形がんの治療のために開発された。がんの治療では成功しなかったものの、アルツハイマー病を発症させたマウスに与えたところ脳細胞に働きかけて、記憶を回復させる効果があると確認できた。

 研究グループは、AZD0530がアルツハイマー病の指標とされるアミロイドβが固まるときに引き起こされるダメージをブロックすると想定している。アルツハイマー病の初期段階の「FYN酵素」の活性化の邪魔により、脳細胞間のシナプス連結を失わせる変化を阻止する効果もあり得るようだ。

人での臨床試験が始まる

 研究グループによると、今後は人での臨床試験が始まる予定となっている。臨床試験によって、安全性や有効性などが確認されれば、アルツハイマー病に苦しむ人には朗報をもたらすことになりそうだ。

Medエッジ 2015年4月9日

米国では子どものがん生存者は増えている、その大半が別の病気にかかっている
がんだけではなく、「治療後」の強化が必要に
 米国で子どもの時代にがんになった人の調査が行われ、がんを克服して生存した人が増えているという実態が分かった。一方で治療を終了した後に、別の慢性的な病気になっている場合も多く、治療後の対応も重要だと分かった。

2005年から6万人増加

 米国ノースウェスタン大学を含む研究グループが、米国がん研究会議(AACR)が発行するキャンサー・エピデミオロジー・バイオマーカーズ&プリベンション誌の2015年4月号で報告した。

 0〜19歳という子ども時代にがんと診断された人がどれくらいいるかを調べた研究報告は少ないようだ。

 研究グループは、2つの大規模なデータベースを対象として、米国の小児がん長期生存者数やどれくらいがんになった人がいるのかを調べた。

 2つの大規模なデータベースとは、米国立がん研究所(NCI)の統計データである「SEER」と呼ばれるデータベース、米国とカナダの小児がん長期生存者1万4000人以上の研究である「CCSS」のデータベースだ。SEERでは、1975?2011年のがん発生率と生存率についての情報を取っている。

がん生存者は39万人と推定

 その結果、米国の小児がん生存者数はおよそ39万人と推定され(米国がん研究所のチームが2005年に行った推定より約6万人の増加)、およそ84%が診断から5年以上生存していた。

 生存者のおよそ70%が軽〜中程度の慢性的な病気にかかっていた。32%は重度の障害、命に関わる慢性的な病気にかかっていると推定された。

 20〜49歳の年代では、生存者のおよそ35%が「神経認知障害」という脳の問題を抱えていた。この年齢グループの13〜17%が機能/精神障害、活動の制限、痛み、不安/恐れを報告していた。

 がんを治療することだけに集中してしまいがちだが、慢性的な病気の発生率や重篤度は重大な問題という。

 子ども時代にがんを克服した人が病気になりやすい要因を調べて、有効な治療後の対応、リハビリのモデルを作る必要があると研究グループは指摘する。

Medエッジ 2015年4月11日


乳がんや脳の老化も!? 「睡眠不足」が引き起こす予想以上のリスクとは
 いくら寝ても眠い……。気温差が激しい春は体調を崩しがちな季節です。花粉症に悩まされ、なかなか寝付けない人も多いことと思います。

 そんな中、良質な睡眠をとるのは難しいものですよね。知らず知らずのうちに寝不足になっていませんか?

 そこで今回は、小林弘幸さんの著書『快眠したければ「首」を緩めなさい』を参考に、“睡眠不足によるリスクと適切な睡眠時間”についてお伝えします。

寝不足だと太りやすくなる?

 人は寝ている間に、様々なホルモンを分泌し、細胞のダメージを修復しているといいます。そのため、寝不足になると体がだるくなりますね。ホルモンバランスの崩れから食生活が乱れて太りやすくなるのだそうです。

 食欲を上げる“グレリン”というホルモンの分泌が増え、逆に、食欲を抑える“レプチン”というホルモンの分泌が減るため、高カロリーのジャンクフードばかりを食べてしまうといいます。そういえば寝不足だと、ついついポテトチップスやケーキ、ピザなどのこってりした料理に手が伸びてしまいますね。

寝不足が前立腺がんや乳がんのリスクを上げる!?

 忙しすぎて寝不足という人は要注意です。たかが寝不足と侮ってはいけません。寝不足が病気を引き起こすこともあるのです。

 睡眠時間が短いほど、前立腺がんや乳がんのリスクが高くなることも報告されています。

 逆に睡眠時間が増加すると、睡眠時に分泌されるメラトニンの分泌時間が長くなり、このメラトニンが性ホルモンを抑制し、性ホルモン関連がん、とくに乳がんのリスクが低下することもわかっています。>

適切な睡眠時間とは

 睡眠不足による体への影響が深刻だということがわかりましたが、逆に寝すぎてしまうのも、睡眠不足と同様に心身に悪影響を及ぼします。7時間睡眠がもっとも死亡リスクが少ないといいますが、個人差が大きく、年齢によっても変わってくると小林さんは著書の中で述べています。

 例えば、子どものころは10時間寝ても大丈夫なのですが、特に60代を過ぎると6時間寝れば十分だそうです。寝すぎは脳の老化を引き起こすとされています。寝不足だからといって休日にまとめて寝ておこうというのも逆効果なのですね。

 大切なのは“心地よく目覚める”こと。「よく眠れたな」と思ったら、ダラダラと二度寝するのはやめたほうがよさそうです。

 以上、“睡眠不足のリスクと適切な睡眠時間“についてお伝えしましたが、いかがでしたか? 体調を崩しがちな春だからこそ、良質な睡眠について考えてみるといいかもしれませんね。

 体のだるさを感じたら、メリハリのある生活を心がけてみましょう。

Peachy 2015年4月12日

チョコレートをもっとおいしくし、抗がん作用も高める方法が発見される
 疲れを癒す嗜好品として多くの人に喜ばれているチョコレート。その原料であるカカオの実は、健康に良いとされるポリフェノールを豊富に含んでいます。

 この度、カカオの栄養素をより多く保持したまま、風味を損なわずに加工する新たな手法が発見されました。3月24日にデンバーで開催されたアメリカ化学会の会合にて、各国の研究者により構成されるチームが最新の研究成果を発表しました。

抗酸化成分を保持するために

 カカオはチョコレートになるまでのプロセスで、大きな変化をたどります。カカオの木から実を摘み、その中から苦い種子を取り出して発酵させ、日光で乾燥させます。乾燥した種子はローストされ、砂糖やミルク、その他の材料と混ぜ合わされた上で、最終的にチョコレートとなるのです。

 このような製造過程の中で、ポリフェノールなどの栄養素の一部は失われてしまうのです。ポリフェノールは、がんや心臓病への耐性を高めると言われている抗酸化成分を含んでいます。この抗酸化成分を保持するために研究チームは、チョコレートの生産工程に新しい作業をひとつ加えることにしました。

 それは、カカオの実から種子を取り出して発酵と乾燥を行う前に、数日間寝かせるというものです。この作業がどのような効果を与えるのか調査するため、研究チームは300個の実を使い、いくつかの異なる保存期間を試しました。保存期間後は通常と同じ加工工程を用います。

 結果としてわかった最良の保存期間は7日間でした。保存をしなかったものや、更に長期間保存したものと比較すると、より多くの抗酸化成分が保持されていることがわかりました。研究チームによれば、7日はカカオが外側の殻からより多くの栄養素を吸収しながらも、栄養素が壊れるほどは長くない、ちょうど良い期間だということです。

最適なロースト時間を追及

 これまでローストの工程でチョコレートの栄養分が失われると信じられてきましたが、研究チームはその影響についても触れています。今回分かったことは、少し低温で長時間ローストした種子の方が多くの抗酸化成分を含み、7日間寝かせた実から取り出した種子の出来がベストだったということです。

 出来上がったチョコレートは栄養分が豊富なだけでなく、味もより甘くなりました。苦い種子が実の中の甘い果肉と長時間接していたためと思われます。研究チームは今後も研究を続け、ローストの工程を微調整する計画を立てています。

ライフハッカー 2015年4月17日

なぜアンジェリーナ・ジョリーは健康な乳房、卵巣・卵管を切除したのか
 米国人女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(39)が、卵巣がんを予防するために、今年3月、両側の卵巣・卵管を切除する手術を受けた。2013年5月には、乳がんを予防するために、健康な両乳房を切除して再建する手術を受けており話題となった。

 「これで、私の子供たちは『ママは卵巣がんで死んだ』と言わなくて済むようになった」。アンジェリーナ・ジョリーさんは、3月24日付のニューヨークタイムズに掲載された手記の中でそう語っている。

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とは

 ジョリーさんは、細胞のがん化を防ぐがん抑制遺伝子「BRCA1」に生まれつき異常があり、何もしなければ87%の確率で乳がんに、50%の確率で卵巣がんになると診断されていた。ジョリーさんの母親は49歳で卵巣がんと診断され、乳がんも発症し、56歳で亡くなっている。

 母方の祖母が卵巣がん、叔母も乳がんで亡くなっており、卵巣に初期のがんの兆候がみられたこともあって、今回、卵巣・卵管の予防手術に踏み切ったという。3人の実子と3人の養子の存在も決断に大きく影響を与えたようだ。

 がんの多くは生活習慣、環境といった要因が複合し長時間かけて発症する。しかし、5〜10%は遺伝性のがんであることが分かってきている。その1つがジョリーさんのような遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)で、ジョリーさんのようにBRCA1に変異のあるタイプの他、BRCA2と呼ばれるがん抑制遺伝子に変異がある場合もある。日本でも、HBOCの人のうち年間約7000人が乳がんや卵巣がんと診断されているのではないかと推計される。

 海外のデータだが、HBOCの人が乳がんになる確率は41〜90%、卵巣がんは8〜62%。日本の女性が一生涯で乳がんになる確率は8%、卵巣がんは1%だからリスクは5〜60倍も高いわけだ。一度乳がんになった人が反対側の乳房や卵巣にがんを発症する確率もHBOCの人に比べて高いことが分かっている。親から子にこの遺伝子変異が受け継がれる確率は、性別に関わらず50%。男性がこの変異を受け継ぐと、約10%の確率で前立腺がんか男性乳がんになる。

 ジョリーさんが健康な乳房を切除した2年前にもHBOCに関する取材をしたが、日本の複数の専門家は異口同音に、「卵巣・卵管の予防切除も検討すべきではないか」と口にした。乳がんは、マンモグラフィ(乳房X線検査)と視触診を組み合わせた検診、若い人の場合はMRI検査を組み合わせれば早期発見が可能であるのに対し、卵巣は、骨盤の奥にある小さな臓器で腹膜に広がりやすいこともあり早期発見が難しく死亡率も高いからだ。

 3カ月から半年に1回卵巣の検査を受けていたとしても、見つかったときにはすでに進行がんだったというケースも実際にある。ジョリーさんも今回、腫瘍マーカー「CA−125」は正常だったが、医師に腫瘍マーカーは早期がんの50〜75%を見逃すとの説明を受けている。

予防手術はどこまで効果があるか

 卵巣・卵管を切除すれば、卵巣がんを80〜90%予防でき、乳がんになるリスクも50%減らせる。米国のガイドラインでは、「卵巣・卵管切除による卵巣がんリスク低減手術は、理想的には35〜40歳の間で出産が完了した時点、あるいは、家族で最も早く卵巣がんを発症した人の年齢での実施を考慮する」とされる。

 日本でも、がん研有明病院、聖路加国際病院、慶應義塾大学病院などで卵巣・卵管の予防切除が行われている。ただ、日本の場合、予防治療には保険が使えず自費で、100万円くらいかかるのが難点だ。月経がある女性が卵巣・卵管を切除すると更年期障害のような症状が出ることもあり、また、わずかだが腹膜がんになるリスクは残るといったデメリットや限界も知ったうえで、予防手術を受けるかどうか検討すべきだろう。

 ジョリーさんも手記の中で、「BRCA1陽性の女性すべてに予防手術を勧めるわけではない」と書いているように、卵巣がんの予防治療には、手術の他に、女性ホルモンのタモキシフェンを服用する方法もある。手術を受けない選択をした人には、米国のガイドラインでは、半年に1回経腟超音波検査と腫瘍マーカーの検査を受けることが推奨されている。ちなみに、乳房の予防切除についても、本人が希望すれば、日本でもいくつかの病院で受けられるようになってきている。

 HBOCかどうかは、遺伝カウセリングを受けたうえで、血液検査を受ければ分かる。HBOCの可能性があるのは、チェックシートで1つでも当てはまる人だ。

≪遺伝性乳がん卵巣がんの簡単チェックシート≫

 母方、父方それぞれの家系について、あなた自身を含め家族の中に該当する方がいる場合、チェックを入れてください。

□ 40歳未満で乳がんを発症した方がいますか?
□ 年齢を問わず卵巣がん(卵管がん・腹膜がん含む)の方がいらっしゃいますか?
□ ご家族の中でお一人の方が時期を問わず原発乳がんを 2個以上発症したことがありますか?
□ 男性の方で乳がんを発症された方がいらっしゃいますか?
□ ご家族の中でご本人を含め乳がんを発症された方が3名以上いらっしゃいますか?
□ トリプルネガティブの乳がんといわれた方がいらっしゃいますか?
□ ご家族の中にBRCAの遺伝子変異が確認された方がいらっしゃいますか?

⇒1つでも該当すれば、遺伝性乳がん卵巣がんである可能性が一般より高い。
※HBOCコンソーシアム作成


 遺伝カウンセリングと検査が受けられる病院は、専門家が作る日本HBOCコンソーシアムのウェブサイト(http://hboc.jp/facilities/index.html)で閲覧できる。原則的には、乳がんか卵巣がんになった人が遺伝子変異の有無を調べ、BRCA1かBRCA2に変異があることが分かれば、母親、姉妹、娘も検査を受けるのか検討する。検査には保険がきかず1回20万〜30万円かかる。すでに家族に遺伝子変異があることが分かっている人が検査を受ける場合の検査料は約5万円だ。遺伝カウセリングも保険が使えないところがほとんどで、例えば、がん研有明病院なら初回は7200円という。

 ジョリーさんのように影響力の強い女優が、卵巣・卵管と乳房の予防切除を選び、それを公表したことは勇気ある決断だ。HBOCの場合、遺伝子変異があることが分かればジョリーさんのように前向きに予防治療によってがんになるリスクが減らせる。ただ、若い人なら、遺伝子検査の結果が、結婚、出産、就職に影響する恐れもある。米国では、2008年に遺伝子情報差別禁止法が制定され、採用、昇進、医療保険の加入などでの不利な扱いを禁じている。HBOCの人が多額の負担をしなくても、遺伝子検査や予防治療を受けられるように、保険診療化を目指す動きも出てきており、今後は、日本でも、遺伝子検査の結果が差別につながらないように、医療体制だけではなく法律の整備を進めることも重要になってきそうだ。

PRESIDENT Online 2015年4月26日

リンパ節転移巣のDDSを東大開発
キャリア径50ナノ以下、薬剤が血管を有意に透過
 東京大学大学院工学系研究科の片岡一則教授らの研究チームは、リンパ節転移を標的とした全身投与によるドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発した。薬剤はリンパ節転移巣内の血管を有意に透過し、さらに転移巣の深部へも浸透する。

 DDSであるナノキャリアの粒径を50ナノメートル以下に制御することによって実現した。血管を介して薬剤は体内のすべてのリンパ節転移巣に対して均等に薬物を届けることができるとみられ、患者への負担が少ない新たな治療法として、がんの再発抑制と生存期間の延長のほか、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上が期待される。

 DDSは、白金制がん剤を格納した疎水性の中核と親水性の殻を持った高分子ミセル型のナノキャリア。研究グループは粒径30ナノメートル、70ナノメートルのナノキャリアのほか、粒径80ナノメートルの既存のドキソルビシン内包リポソームを用いて効果を比較した。

 30ナノメートルのナノキャリアだけが静脈投与後に選択的にリンパ節転移に集積、転移がんの成長を抑制することが確認された。リンパ節転移治療におけるナノDDS設計では粒径サイズの制御が重要としている。すでに米国でナノキャリアとともに第1相臨床試験(P1)、P2の治験を実施中。

m3.com 2015年5月1日

「緑」「オレンジ+黄色」「赤+紫」「白」、大腸がん減らす野菜と果物の色とは?
4つのパターンのうち3つはリスク低下に関連
 野菜と果物の食べられる部分の色にはさまざまある。

 このうち大腸がんのリスクを最も大きく減らしてくれる色が分かった。

 中国、中山大学のWP・ルオ氏らの研究グループが、栄養学の国際誌であるブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション誌2015年4月号で報告している。

4つのグループに分けて検証

 野菜と果物の色と、大腸がんのリスクの関連性について調べた研究はこれまでない。

 そこで研究グループは、その関連性について中国人1057人を対象として、2010年7月から2014年7月にかけて検証を行った。

 野菜と果物は、主にその食べられる部位の色によって、「緑」「オレンジと黄色」「赤と紫」「白」の4グループに分けられた。

 この色ごとに最も食べる人から最も食べない人までを4つのグループに分けて、大腸がんのリスクとの関係を検証した。

緑は関連性なし

 「オレンジと黄色」「赤と紫」「白」の野菜や果物を多く食べている人は大腸がんのリスクが低くなっていた。

 最も食べるグループを最も食べていないグループと比べたときに、リスクを一番減らしたのは、オレンジと黄色で84%減らす効果が確認できた。次は赤と紫で77%減らしていた。白は47%減らした。緑は関係していなかった。

 野菜と果物を食べる量の全体が多いほど大腸がんのリスクは少なかった。

 最近ではクルミが大腸がんを減らすという研究報告があった(クルミが結腸がんを抑える、米国ハーバード大学の報告を参照)。イチゴも大腸がんを減らす効果を報告されている(イチゴの成分で大腸がんを予防を参照)。

 野菜や果物を食べるときに、少し色を意識してしまいそうだ。

Medエッジ 2015年5月4日

2週間で大腸がんになりやすい体に?!食事の変更でまたたく間に腸内フローラなどが一変
食事は「西洋型」よりも「高食物繊維と低脂肪のアフリカ型」
 大腸がんの少ないアフリカの人に、2週間だけ食べものを変えてもらったところ、またたく間に大腸がんになりやすい腸の状態に変わってしまった。

 食事の影響は怖い。

 米国ピッツバーグ大学医学部を含む、英国、フィンランド、南アフリカ、オランダの国際共同研究グループが、オンライン科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ2015年4月28日に報告した。

大腸がんに国による差

 南アフリカの農村地域では1万人当たり5人未満で、がん化する場合もある大腸ポリープすらめったにない。一方で、アフリカ系米国人では、大腸がんの発生率は1万人当たり65人と10倍以上もの開きがある。同じアフリカを起源とするにもかかわらず大幅に異なる。西洋ではがんによる死亡で2番目に多いのが大腸がんだ。

 いったいこの差は何なのか。

 研究グループは食事に原因を求めた。

 アフリカ系米国人の食事はアフリカの食事より動物性のタンパク質と脂質が多く、水溶性の食物繊維が少ないことが、がんリスク増加の原因と考えられる。

 米国人のほうでは、大腸にある胆汁酸の水準が高まっているほか、大腸の短鎖脂肪酸量が低く、粘膜の増殖性のがんリスクにつながるような検査値が高まっていると分かっている。

 似たような話としては、大腸がんの少ない日本人がハワイに移住すると、地元民のように大腸がんが多くなるまでに1世代しかかからないと示す研究もある。

食事を変えるとどんな影響?

 研究グループは、50〜65歳のアフリカ系米国人と南アフリカの農村地域の住民20人ずつに、ピッツバーグ大学とアフリカの施設に宿泊してもらい、食事のパターンを取り替えてみた。

 がんリスクに影響を及ぼす喫煙などの要素がない環境で、それぞれの食材と調理法を使って準備した食事を交換して2週間食べてもらうというものだ。 南アフリカの田舎の人については、高線維で低タンパク質の食事から、「西洋風」の食事に、つまり低繊維で高タンパク質、高動物性脂肪の食事に変更し、アフリカ系アメリカ人にはその反対を行った。

 前後に便と腸の中を大腸内視鏡検査で調べた。2週間続けて、腸内の化学的な変化、生物学的性質の変化を測定することになる。

食事により腸内細菌も変わる

 その結果、劇的な変化が見られた。

 米国人の方は腸内の炎症レベルが下がり、がんのリスクと関係する化学物質が低下。アフリカの人は、がんに関係する計測値が劇的に増加した。

 変化した要素を具体的に見ていくと、腸内壁の細胞交替の速度、食物線維の発酵の程度、がんリスクに関連する細菌の代謝活動、炎症に関係する検査値といったものだ。それぞれお互いのものに変わってしまっていた。

 特に、アフリカ系米国人では、腸内細菌の種類が変化。がんに対抗する仕組みで重要な役割を果たすと考えられている短鎖脂肪酸の一つ、「酪酸エステル」の生産が増加したところが注目されると研究グループは説明する。酪酸エステルは、免疫の調整役である制御性T細胞(Tレグ、Treg)を増やすとして関心を集めている(遺伝子、食物繊維、腸内細菌の3つに意外な関係、腸内フローラの新しい研究を参照)。

 腸内フローラの働きについては見逃せないだろう。

 アフリカ系米国人では、食物繊維がおよそ10gから50g以上に増えたことが、がんリスクの低下を反映した検査値の変化につながっていると見られている。

 動物性の脂肪とタンパク質の減少も役立った可能性がある。

逆に食事の改善を

 西洋型の食事から高食物繊維、低脂肪の伝統的なアフリカの食事にわずか2週間変えただけで、がんリスクにつながる検査値に減少が見られた。逆に言えば、大腸がんのリスクを減らそうと思えば、食事については内容を変えると思いのほか早期に成果は出てくるというわけだ。決して遅すぎるということはなさそうだ。

 研究グループは、今回の研究が20人ずつの少人数だった点を踏まえ、さらに大人数を対象とした長期間の研究を行う必要がありそうだと指摘している。

Medエッジ 2015年5月8日

がん細胞への近赤外光線免疫療法による治験がFDAに承認される
 体の外から光線を当ててがん細胞を死滅させる新しいがん治療法「光免疫療法」を、米国立衛生研究所(NIH)の日本人研究者らが開発したと報じられている(読売新聞、日本アイソトープ協会の「展望」PDF)。近く米国の3大学で安全性を確認するための臨床試験を始めるという。

 がん細胞に結合するたんぱく質(抗体)に、近赤外線で化学反応を起こす化学物質(IR700)を追加。この抗体を注射で体内に入れ、がん細胞に抗体が結合した後で体外から近赤外線を当てると、光を吸収したIR700が、周囲の温度を急速に上昇させることによって水の膨張が起こり、その圧力波によって細胞膜が障害されると考えられているようだ。

 近赤外光線免疫療法は、短時間の近赤外光照射で広範に散らばったがん細胞を消滅することができるので、例えば手術で取りきることが難しかった膵臓癌や悪性中皮腫、卵巣癌の腹膜転移などのがんに対して縮小手術を行って、手術終了前に、近赤外光線免疫療法で取り残し部分のがん細胞を完全に消滅させて治療を終わることも可能であろう。

 また、血液中を流れているがん細胞や白血病細胞などは、抗体の注射とリストバンド型や毛布型の照射装置などでの就寝時の長時間照射などを行って、手術前後の血中がん細胞の除去による転移抑制や血液がんの治療に応用することも可能である。

スラッシュドット・ジャパン 2015年5月9日

がんの樹状細胞療法をステップアップ
「キラーT細胞」の攻撃力を高める方法
 がん免疫療法についての最近の論文を読むと、これまでやってみないと結果の分からなかったがんの免疫療法が、論理的に結果を予想できる治療へと確かな一歩を踏み出したと実感する。

「キラー細胞」の攻撃力を高める

 今回紹介する米国スタンフォード大学からの論文も同じようにがんの確実に攻撃できる「キラーT細胞」を作り出そうとするもので、臨床応用も近いと思わせる独自の方法を提案している。

 有力科学誌ネイチャー誌オンライン版に掲載された。

 タイトルは「遺伝的系統の異なる個体からのIgGと樹状細胞の刺激を組み合わせるとT細胞免疫を誘導できる(Allogeneic IgG combined with dendritic cell stimuli induce antitumour T-cell immunity.)」だ。

 いくらがん細胞とはいえ、例えば、ある人のがん細胞を別の人に移植するとそのがん細胞が生き残るのは難しい。遺伝的系統の異なる個体のキラーT細胞の攻撃力は強い。このようなキラーT細胞を人工的にうまく作り出せばがんを完全に克服できると示した。

従来の方法は手間が掛かる

 従来、キラーT細胞を作り出すため、(1)正常の細胞とがんの細胞を区別するために必要ながんの細胞だけが持っている「がん特異的ペプチド」を特定する(2)樹状細胞によって攻撃するターゲットをうまく見極められるようにする(3)がんだけを攻撃するキラーT細胞を誘導する。こうした手順が必要とされてきた。

 特に最近、このコンセプトが正しく、キラーT細胞を使ってがんを完全に治し切ることができると示す論文が続々と発表され、メラノーマ(悪性黒色腫)については臨床研究まで始まった。

 確かにこの方向は究極の「プレシジョンメディシン」だ(コレステロールを下げる薬は末期の人に意味なし、「不要」を認める動きに注目を参照)。

 結果を予測できる論理的な治療法だが、プロトコルが複雑だ。普及には時間がかかる。

なぜがん細胞は攻撃されるのか

 もう少し簡単なキラーT細胞を作り出す方法がないか検討したのがこの研究だ。

 まず拒絶されるとはっきりしている、遺伝的な系統の異なるがん細胞が攻撃される過程を詳細に分析している。

 その結果、他系統のがん細胞が出現すると、免疫を担う抗体「IgG」ががん細胞に結合する。がん細胞の表面でお互いに結合した「抗原抗体複合物」が作られるのが鍵になると突き止めた。

 この抗原抗体複合体が、がんを察知する樹状細胞を活性化する。がん細胞を取り込んで、樹状細胞はがんならではの特徴をT細胞に伝え、がんだけを攻撃するようにする。

 次に樹状細胞を活性化するための条件を検討している。増殖するがんに対して3つのタンパク質を注射するとがんを完全に除去できると示すことに成功した。「がんに結合するIgG」と樹状細胞を刺激する「TNFα」と「CD40L」である。

 活性化された樹状細胞はがんを消滅させる。

樹状細胞を活性化するとよい

 さらに、薬を使ってIgGをがん細胞に結合させても、樹状細胞を活性化できると示している。IgGによって樹状細胞を活性化するためには、必ずしもがん表面に抗体が結合できる抗原が存在する必要はない。

 実際に臨床応用するときに役に立つ情報だ。

 この研究はまだ動物モデルの前臨床段階。人への応用を視野に入れて、最後に人でも同じ現象が起こると示している。

 結論は適切に活性化した樹状細胞にがん細胞を処理させると、自己のがんにも強い免疫反応を起こせるというものだ。

人への応用は近い

 重要なのは、このプロトコルは明日にでも人に応用できる点だ。健康保険は使えないが、樹状細胞によるがんの免疫療法は我が国でもずいぶん普及している。この治療を専門に提供している施設の数も多い。これまでの方法は、原理は正しいが、うまくいくかやってみないと分からなかった。

 その意味で、現在普及している樹状細胞治療を少し変えるだけで、より確実な方法へと技術をステップアップさせられる可能性がある。

Medエッジ 2015年5月10日

がんと闘う新発見、ビタミンA関連の「ATRA」が効果、米国ハーバード大学が報告
 がんの大元を断つ新しい治療が実現するかもしれない。

 ビタミンAの関連物質である「オールトランス型レチノイン酸(ATRA)」ががんの大元となる細胞を殺す可能性があると分かった。

 米国ハーバード大学が発見した成果で、幅広いがんに効果を示し得る新しい治療になりそうだ。「急性前骨髄球性白血病(APL)」と呼ばれる白血病の一種では初めての標的薬の候補になるかもしれない。

がんの幹細胞を撃つ

 国際的医学専門誌ネイチャー・メディシンのオンライン版で2015年4月13日に報告しているものだ。

 研究グループが着目したのは、がんの大元となる幹細胞だ。

 幹細胞は、がん化から転移や薬物耐性にも影響する。がんの幹細胞を根絶する大きな意味を持つが、そこだけを攻撃できる薬はなかなか見つからなかった。

 研究グループでは、「Pin1」と呼ばれるタンパク質を邪魔する物質を特定した。Pin1は多くのタイプのがんをコントロールする遺伝子の一つとして注目されるもの。50種類以上のがん遺伝子やがん抑制遺伝子を統率する。「がん遺伝子の大元締め」といった位置付けにある。がん幹細胞にも欠かせない。

 従来、Pin1は注目されていたが、働きを邪魔する研究に成功してこなかった。

 研究グループは、世の中にある8200もの化学品を網羅的に調べて、Pin1を邪魔できる物質を突き止めた。

 効果ありと判定されたのが、「オールトランス型レチノイン酸(ATRA)」と呼ばれるものだ。ビタミンAの一部が変化した化学物質だ。がん細胞で活動中のPin1だけを選んで押さえ込み、分解していくと分かった。

がん遺伝子の融合を阻止する

 従来、ATRAが白血病の一種である「急性前骨髄球性白血病(APL)」に効果を示すと報告があった。この白血病は2つのがん遺伝子が互いにくっつくと白血病を起こす。ATRAはこの融合を邪魔するのだ。今回、Pin1とATRAが関係するというわけで、がん遺伝子がくっついて悪さをするような場合にほかのがんでも効果を示す可能性もあると研究グループは考えている。

 「融合遺伝子」と呼ばれる現象で、がんの原因としてこのところ注目されてきている。新しい治療として発展してくるかもしれない。

 さらに、乳がんの中でも治療の困難な「トリプルネガティブの乳がん」のがん細胞に対して、ATRAを使って効果を検証。トリプルネガティブとは、がん治療の標的になる3つのタンパク質のいずれも持っていないがんを指す。女性ホルモンに反応するエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体のほか、HER2というタンパク質がない。薬が効きにくいのが問題だ。結果として、ATRAによって、トリプルネガティブ乳がんの細胞の成長を抑制できると示している。

 がんを抑え込む新しい治療として重要になるかもしれない。

Medエッジ 2015年5月11日

子宮頸がんのリスクを理解してますか?
1回のセックスで発症する可能性も
 MSDはこのほど、メディアセミナー「『子宮頸(けい)がん "私の問題"』〜本当の怖さは『知られていないこと』かもしれない〜」を都内にて開催した。同セミナーでは、「子宮頸がん 〜産婦人科医になって感じたこと〜」と題し、NTT 東日本関東病院 産婦人科医長・近藤一成医師が講演した。

日本では1日に約10人の女性が子宮頸がんで死亡

 子宮に発生する上皮由来のがんは、子宮の奥(子宮体部)に発生する「子宮体がん」と、子宮の入り口(子宮頸部)にできる「子宮頸がん」に分けられる。子宮体がんは閉経後の50代以降の女性に多くみられるのに対し、子宮頸がんは20〜30代の若い女性に急増しているという。

 子宮頸がんは、毎年世界で約50万人が新たに発症し、約28万人が亡くなっていると推定されている。日本だけで見ても、毎年約1万人以上の女性が新たに子宮頸がんにかかり、約3,000人が亡くなっているという(「国立がん研究センター がん情報サービス」より)。

 "女性特有のがん"と呼ばれるものの中でも、子宮頸がん(上皮内がんを含む)は乳がんに次いで罹(り)患率が高く、特に20〜30代のがんでは第1位に。若い女性の発症が増えている理由としては、性交渉の低年齢化などが考えられるとのこと。「子宮頸がんは性交渉のある女性なら、誰にでも起こりうる病気です。今日も日本のどこかで10人もの人が子宮頸がんで亡くなっているのです」と近藤医師。

子宮頸がんの原因は?

 子宮頸がんの原因は、「ヒトパピローマウイルス(HPV=human papillomavirus)」の感染であることが明らかとなっているという。実はHPVは、性交渉のある女性の80%以上が50歳までに感染すると言われるウイルスで、多くの場合は、感染しても免疫力によって自然に体内から排除されるという。しかし、がんを引き起こす可能性のある「高リスク型」のHPVが排除できずに感染が持続した場合、5〜10年以上かけて子宮頸がんを発症する可能性があるとのこと。

 高リスク型のHPVに長期にわたり持続感染すると、正常な細胞とは異なった形態の細胞に変化していくという。そのような異常な細胞で構成された上皮を「異形成」といい、それ自体はがんではない。異形成には程度があり、異常細胞が少ない軽度の場合には自然に治ることも少なくないとのこと。しかし、正常組織よりもがん化しやすいとされる「前がん病変」(「高度異形成」「上皮内がん」)では、浸潤がんに進行する可能性が高まるという。

治療が女性の人生に与える影響

 子宮頸がんの進行期は0期〜4期(数字が大きいほど進行している)に分けられ、それに応じて治療法も異なる。近藤医師は、「初期の子宮頸がんは全くと言っていいほど自覚症状がないことから、発見が遅れ、"気づいたときには既に進行していた"というケースも少なくありません」と語る。

 子宮頸がんを発症した場合、上皮内がんの段階(前がん病変)で見つかれば、「円錐(すい)切除」という子宮頸部の一部を切除する手術で治療することが多いとのこと。子宮を温存できることから、医学的には、その後の妊娠・出産も可能とされている。

 一方、がん細胞が基低膜(上皮・筋・神経組織が結合組織と接する所にある膜状のもの)をこえて広く体の組織内で増殖してしまっている場合は、進行期に応じて、子宮全摘手術、広汎(はん)子宮全摘出手術(子宮・卵管・卵巣・子宮周囲のじん帯・リンパ節など、広範囲に切除する手術)、放射線治療、化学療法といった治療法がとられる。

 どの治療法を選択したとしても、さまざまな後遺症を伴うリスクがあり、学業、仕事、恋愛、結婚、出産、育児など女性の人生に大きな影響を与えるという。主な影響として次のようなものがあげられる。

円錐切除術によって起こりうる主な影響
・妊娠するまでの期間の長期化
・早産や低出生体重のリスク増加
・再発の心配

広汎子宮全摘出手術や放射線治療によって起こりうる主な影響
・妊よう性の喪失(妊娠できなくなる)
・両側卵巣を摘出した場合、卵巣欠落症候群(更年期障害のような症状)
・リンパむくみ(リンパ液の貯蓄による下肢・そけい部・外陰部・腹部のむくみ)
・排尿や排便障害、腸閉塞(へいそく)
・直腸膣漏(ちつろう)や膀胱(ぼうこう)膣漏(直腸や膀胱の内容物が膣に漏れ出る)
・骨粗しょう症リスクの増加
・転移や再発の可能性
・夫婦やパートナーとの関係の悩み


 さらに患者の中には、世間の"子宮頸がんは性感染症である"といった間違った認識で苦しむ人や、病気のことをパートナーへ打ち明けられないなど、恋愛や結婚へのためらいを感じる人も多いという。

子宮頸がん検診の受診率、アメリカ85%、日本38%

 このように、発症すると治療はもちろん、治療後の負担も大きいと考えられる子宮頸がん。では、どうしたら防ぐことができるのか。近藤医師は「予防と早期発見のためには、子宮頸がん検診を受けることです」と語る。

 世界各国の子宮頸がん検診受診率を比較すると、アメリカがトップで85.0%。次いで、オーストリア、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー、ニュージーランドも、それぞれ75.0%以上と高い受診率を誇る。これらの国々に対し、日本の受診率は37.7%にとどまっているのが現状だ(「OECD Health Statidstics 2013.」より)。

 一方で、子宮頸がんには「腺がん」という進行が早い種類のものもあり、"半年前の検診では異常が見つからなかったのに発症した"というケースも。だからこそ、日頃から子宮頸がんを自分にも起こりうる病気として捉え、定期的な検診を心がけることが重要なのだという。

 病気が治っても、結果として子宮を摘出することとなり、肩を落として病院をあとにする患者を数多く見てきたという近藤医師。「私は子宮頸がん検診を義務化してもいいくらいだと思っています」と語気を強める。そして日本の女性に向けて、「子宮は生命維持に必要なのではありませんが、次世代のいのちを紡ぐ臓器です。私たち産婦人科医は子宮を守るために、予防法や治療法の開発を常に考えています。予防に勝る治療はありません。ぜひ、検診に行ってほしいと思います」と呼びかけた。

マイナビニュース 2015年5月11日

ガルデルマ、皮膚潰瘍部位の殺菌で臭いを軽減
 ガルデルマ日本法人は11日、がん性悪臭治療薬「ロゼックスゲル0・75%」(一般名・メトロニダゾール)を発売したと発表した。乳がんなどの皮膚潰瘍部位を殺菌して、がんに起因する悪臭を軽減するための薬剤。

 「がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減」の効能・効果で発売した。メトロニダゾール自体は経口剤、注射剤ですでに販売されているが、外用剤としては初めて製品化された。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を経て開発要請を受け、ガルデルマが国内臨床試験を行った。同社が日本で開発から申請、販売を自社単独で行った初めての医薬品。

m3.com 2015年5月12日

デンカ生研が東大医科研の藤堂教授から委託
 デンカ生研は12日、がん治療ウイルス製剤「G47Δ」の実用化に向けた大量生産法の開発に着手すると発表した。同製剤を開発中の東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授から委託を受けた。

 G47Δは遺伝子改変ヘルペスウイルス(HSV−1)を用いたがん治療薬。がんのウイルス療法という新しい分野を開拓する画期的な治療薬として期待されている。1月から悪性脳腫瘍の一種である膠芽腫を対象とした第2相臨床試験(P2)が医師主導治験として開始された。

 実用化に向けて大規模な製造方法や試験方法の確立、ウイルスそのものを製剤化するための技術・経験などが必要。デンカ生研はワクチンとウイルス検査試薬の製造でノウハウを持っており、大量生産法の確立を受託することとなった。

m3.com 2015年5月13日

授乳歴が乳がんの再発を低減する
ER陽性乳がんの転帰に有意差
 授乳による育児をした後に乳がんを発症した女性は、授乳しなかった女性に比べて、がんの再発およびがんによる死亡の可能性が低いことがわかった。米カイザーパーマネンテ研究部門(オークランド)のMarilyn Kwan氏らの研究で、研究論文が「Journal of the National Cancer Institute」オンライン版に4月28日掲載された。

 以前の研究で、授乳は初発の乳がん発症のリスク低下と関連することが報告されている。Kwan氏らは今回、乳がん患者1,636人を対象に、1997〜2000年に診断された群と2006〜2013年に診断された群を検討した。ほとんどはカイザーパーマネンテの患者だった。

 今回の研究は、授乳と乳がん患者のより良い転帰の関連性を示したが、因果関係は証明していない。

 この関連性は、最も一般的なエストロゲン受容体(ER)陽性乳がんを含むルミナルAサブタイプの乳がんで統計的に有意であったが、他のサブタイプでは統計的に強い関連性はなかった。

 授乳女性の乳がん再発リスクは全体で30%低く、授乳期間にかかわらずリスクは低下していたが、授乳期間が6カ月未満の女性では関連性がさほど強くなかった。また、授乳女性では乳がんによる死亡リスクが28%低かった。

 Kwan氏は、「子どもの数などの他の因子も関わるが、授乳をすると、乳がん発症リスクが約5〜10%低減する。授乳が乳児だけでなく母親の健康にも良い可能性があることが確認された。授乳には生涯の月経周期数が減るなど多くの理由で保護作用がある」という。

m3.com 2015年5月14日

進行したがんにも効果アリ!
キューバ製「肺がんワクチン」に世界が注目
 国交正常化が行われれば、食料や資源だけでなく医薬品などの輸入も可能になる。そして今、世界の研究者がキューバからもたらされる薬に期待を寄せているという。

 その薬とは「Cimavax」。肺がんのワクチンとして、非常に効果があるとされている。

進行したがんのステージも引き戻せる

 イギリスのがん研究所によれば、「Cimavax」は腫瘍の成長を妨げ、転移を防ぐ力があるという。しかも驚くことに進行したステージにある患者を、いくらか治療できる段階へと引き戻すことも可能だとか。

 実際に比較した場合、このワクチンを使った患者は、使っていない人に比べ平均で4〜6カ月長く生きる、というデータもあるそう。とはいえ、決して奇跡を起こせるものではなく、末期患者の命までは救うことはできないという。

最も恐ろしい「再発」を防ぐ可能性も

 これに似たワクチンは現在、アメリカにも存在する。しかしながら「Cimavax」の利点は、毒性の低さと、かなり手ごろな値段で入手できること、そして何よりもがんの再発を防ぐ可能性が高いところだとか。

 がんが最も恐ろしいのは「再発」。たとえ早期に発見して早い段階で手術し、切除したとしても、再発のリスクは高いまま残り続けるそうだ。

 ロズウェルパークがん研究所のCEO、キャンデイス・ジョンソン氏はWIREDの中で「将来は実験によってこのワクチンをレベルアップさせ、できれば完全に再発を防ぐものとしての可能性を探っていきたい」と語っている。

ヘビースモーカーの人にも効果がある

 4月にはニューヨーク州のロズウェルパークがん研究所と、キューバの分子免疫学センターが、「Cimavax」の研究協力に合意したと発表があり、進展の期待が高まっている。

 このワクチンは、肺がんのリスクが高いヘビースモーカーや、慢性的な肺疾患の人にも、効果があるようだ。研究が進み、苦しんでいる多くの患者が、この薬で救われることを願う。

IRORIO(イロリオ)2015年5月15日

テロメアの短縮速度からがんリスクを予測
がんになる人で速くなることが判明
 標準的な診断よりもはるかに早い段階でがんの発症を示唆するDNAの変化パターンが、初めて特定された。問題となるのは、血液中のテロメアの状態の変化だという。

 テロメアとはDNA鎖の末端を保護する「キャップ」で、加齢とともに短くなることから、生物学的年齢の重要な指標と考えられてきた。今回の研究では、がんになる人はテロメアが通常よりも速いペースで老化し始めることが明らかにされた。将来的にがんになる人のテロメアの長さは、15歳上の人と同じ程度まで短縮することがあるという。

 「このテロメアの変化パターンを解明すれば、がんを予測するバイオマーカーとなる可能性がある」と、研究の筆頭著者である米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部(シカゴ)予防医学教授のLifang Hou氏は述べ、「このパターンはさまざまながん種で強く関連することが認められたので、正しく検査すれば、最終的には幅広いがん種の診断にこの処置を利用できる可能性がある」と付け加えている。

 「EBioMedicine」に掲載された今回の研究では、13年をかけて約800人のテロメアの評価を追跡した。最終的に135人がさまざまながんの診断を受けた。その結果、がんの診断よりもはるかに前の段階でテロメアに著明な短縮がみられる一方、診断のおよそ3〜4年前には短縮が止まることを突き止めた。その正確な理由は不明だが、短縮が止まる時期は、患者の未診断のがん細胞が幅を利かせ始める時期に一致する可能性があると同氏らは示唆している。

 Hou氏は、「テロメアの急激な短縮が安定化する屈曲点が認められた。また、がんが身体内で勢力を伸ばすためにテロメアの短縮を乗っ取ることがわかった」と説明する。今後は、患者の正常な細胞を傷つけずにがんを阻止する治療の開発を目指し、この乗っ取りプロセスがどのように展開するのかを突き止めたいという。

m3.com 2015年5月18日

「がんが自然に治る生き方」を実践しています
『がんが自然に治る生き方』翻訳者のレポート
フリーライター 長田美穂

 私が翻訳した『がんが自然に治る生き方〜余命宣告から劇的な寛解に至った人たちが実践している9つのこと』(ケリー・ターナー著〜プレジデント社)は、おかげさまで多くの方々から、好評をいただいています。病にある方のみならず、健康な方からも「知っておいてよかった話が沢山載っていた」と言っていただけるのは、うれしいかぎりです。

 そしてよく、あなたはこの本をどう活用しているのですか、「9つのこと」を実践しているのですか、と聞かれます。きょうはそれについて書きます。

 本書には、「9つの実践項目」にあわせて、9章それぞれに、筆者のケリー・ターナー博士が勧める「実践のステップ」という項目があります。だれもが自宅にいながらにして9つの実践項目に取り組むための具体的な方法を記しています。

 私も、1章、2章と翻訳しながら、紹介されている「実践のステップ」はいくつも試しにやっていました。なかでもとりわけ楽しみにしていたのが、5章「抑圧された感情を解き放つ」の「実践のステップ」です。

 抑圧された感情。大なり小なり、だれもがトラウマ的な記憶は抱えているものです。それをとき放つ。ふだんは、自分を静かに保つために、あえて、そういった記憶にはふたをしているのです。そこに手を着けようと? そんなことが、だれもが自宅にいながらにして、取り組めたりするの?

 さて5章の実践のステップで紹介されていたいくつかの方法のうち、「これはいい」と思ったのは、次のものでした。

▼感情的になった瞬間のリストをつくる

 ≪夜、ゆとりのあるときに、これまでの人生で感情が高ぶったときのことについて、書き出してみてください。良いことも、悪いことも含めて。できるだけ幼いころまでさかのぼって、思い出してください。書き終えたらそのリストを読み直して、それぞれについてできるだけ詳しく思い出してください。(ティッシュをお忘れなく)。

 読み終わったらそのリストを消却する儀式を、自分でとりおこなってください。これはリストに書き出した出来事についての埋もれた感情を手放す作業です。≫

 私はB5サイズの大きなノートを使い、見開きに、5年間ごとにページを割きました。0〜4歳、5〜9歳、10〜14歳、と進んでいって、45から現在に至ります。

 そして左側のページに「いいこと」、右側に「悪いこと」を書くことにしました。

 いきなり3歳、4歳の記憶にさかのぼるのも大変なので、まずは「45歳以降」からスタート。40代、あれは何歳だっけ、30代前半ってこんなことがあったんだなどなどと感慨にひたりながら、感情が高ぶった、つまり強く記憶に残っている思い出を、一つ一つ、書き記していきました。

 辛いことを思い出すのは、いやなものです。小学校のときに、男の子にいわれた心ない言葉とか。いじめ、いじめられ、といった過酷な学級生活とか。けれどもこのように、ワークだと思って取り組むと、思いの外、淡々と書き出せました。そうそう、あれは何歳よね、ひどいことがあったもんだ、と。

 こうして赤ちゃんまでさかのぼると、自分の人生の一大年表ができあがるわけです。次はそれを眺めて、一つ一つについて、詳細に思い出していく作業です。

 著者は「ティッシュをお忘れなく」なんて記していました。これが辛いのだろうと、私は身構えていました。ところが、ところが。あらためて自分年表を前にすると、いろんなことが、つながりをもってたち現れてきたのです。

 30代に遭遇したいくつものライフ・イベント、そして仕事の山、山。これが40代のいまの私をとりまく状況につながっていたのです。こりゃ、いろいろありすぎ。いまタイヘンなのは当然だわ、と。

 眺めていくと、「悪いこと」のあとに、大きな「いいこと」が起きているのも、一つの発見になりました。

 10代後半の「悪いこと」に私が書いたことの一つに、「音楽コンクールで失敗」という事件があります。ピアノの全国コンクールの地区予選に出場し、見事に、本番で大失敗をしてしまったのです。舞台ではカネがなり(もういい、帰れ、という合図)私は大泣き、しばらくなにも手に着かない日々が続きました。

 けれども、この大失敗を機に、私はピアノを専門にしようという夢は捨てました。数カ月はぼーっと放心して過ごしたものの、高校3年生になってにわかに受験勉強を始め、なんとか現役で志望する東京の大学に合格しました。

 あれがあったから、これがあったんだ。すべてにおいて、「悪いこと」は「いいこと」につながっていた。このワークをしなければ、私は自分の人生の流れについて、これほど詳細に考えることはなかったでしょう。

 ティッシュはまるで必要なく、とてもすっきりした気分で、この作業を終えることができました。

 さて最後は、手元に残った「わが人生の大年表」ノートの焼却の儀式です。

 でもよほど広い庭でもないかぎり、自分でものを燃やすことなど、できる場所がありませんよね。私は近所のお寺に頼み、護摩供養の際に、燃やしていただきました。寸志とともにもっていって、事情をはなしてお願いすると、住職さんは快く引き受けてくださいました。

 この作業のおかげで、私は気がつきました。人生は、けっこうシンプルに流れるものなのだと。自分の記憶のなかで考えているときには、私の人生には実にさまざまな辛い思い、いやな記憶が満ちている、と漠然と、思いこんでいました。

 けれども書き出してみると、ああなって、こうなって、こうなった。なあんだ、それだけか。というわけです。なにごとも因果応報。よこしまな思いで行ったことの結果は、それなりに終わっていることもわかりました。じゃあ、これからはよいことを、よい思いをもって行えば、そう悪いことにはならないんじゃないの、身体も心持ちも、よくなっていくばかりなんじゃないの、と思えたりするわけです。

 このように、「がんの余命宣告」という窮地から立ち直った人々の語りから得た、具体的な「実践のステップ」が、本書には満載されています。病む方のみならず健康に不安を抱える方にとっても、心を軽くするために、ぜひご一読をおすすめいたします。

フリーライター 長田 美穂

1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科を卒業後、新聞記者を経て99年よりフリーに。2010年8月に『ガサコ伝説『百恵の時代』の仕掛人」(新潮社)を刊行、10月よりシアトル在住。2013年からは日本とシアトルを行き来しながら取材執筆を続けている。

プレジデント 2015年5月23日

出生時の父親の年齢が血液がんリスクに関連
ただし生涯リスクは低値、心配の必要はなし
 出生時に父親が高齢だった成人は白血病やリンパ腫など血液・免疫系のがんリスクが高い可能性があり、特に1人っ子でその関連が強いことが、米国がん協会(ACS)のLauren Teras氏らの研究で示唆された。

 論文は「American Journal of Epidemiology」オンライン版に5月11日掲載。ただし、因果関係は証明されていない。

 長期ACS研究に登録された13万8,003人のデータを分析したところ、1992〜2009年に2,532人が血液・免疫系のがんを発症していた。

 全体に、父親が高齢だった人でこれらのがんリスクが高かったが、1人っ子では特に高かった。1人っ子の場合、出生時に父親が35歳以上だった人が血液がんを発症する可能性は、25歳未満だった人に比べて63%高かった。高齢の母親とこれらのがんのリスクの関連はなかった。

 Teras氏は、「これらのがんの生涯リスクはかなり低く、生涯のどこかの時点でリンパ腫、白血病、骨髄腫と診断される可能性はおよそ20人に1人だ。そのため父親が高齢であっても心配する必要はない。だが、世界的に高齢の父親を持つ子どもが増加していることから、この関連性を確認して生物学的根拠を示すために、さらなる研究が必要だと強調された」と話す。

 1人っ子で特にこの関連性が高かったことは、小児期に軽度の感染に曝露されることが免疫系の発達を助け、免疫関連の疾患リスクを低減するという「衛生仮説」が関連する可能性が示唆されると、同氏らは述べている。

m3.com 2015年5月25日

がん治療はお金がかかる? がん保険はホントに必要?
 生涯でがんにかかる確率は男性62%、女性46%(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 最新がん統計 2015年4月22日)。CMなどでもいわれる通り、2人に1人はがんになる時代です。治療にかかる"お金"にも無関心ではいられません。

実は入院・手術以外の支出が負担になる

 病気にかかって入院した場合、いったい何日くらい入院するのでしょう。厚生労働省の平成23年患者調査によると、平均在院日数は32.8日となっています。ただし、これはすべての年代、すべての病気の平均で、精神障害やアルツハイマーといった病気、高齢の方まで含めたもの。内容をよく見ると35〜64歳・悪性新生物(がん)の場合、胃は16.2日、腸は12.3日、乳房は9.4日と、2週間前後しか入院していません。このように、最近は入院期間も短く、高額療養費制度もあるため、病気に対する備えは貯蓄で行い医療保険は不要という声も聞かれます。

 確かに、初期の段階でがんを発見することができ、入院・手術のみで治療を終えることができれば、それほど多額の費用がかかることはありません。ただ不幸にも進行した段階での発見だったり、リンパ節への転移などがあった場合は、入院の前後に抗がん剤、放射線といった治療を行うことになります。多くの場合これらは通院での治療となり、手術と違い治療にも日数がかかります。となると、高額療養費制度があるとはいえ、限度額いっぱい(もしくは近く)の医療費を数カ月にわたって支払うことになるのです。

 加えて病院へしばしば通うことになると、医療費以外のお金もいろいろ必要になります。病気と闘うためには、日常生活もこれまで通りとはいかないことも多く何かとお金がかかるのが現実。下のデータにあるように、がん治療の場合は遠方の病院へ通う人も多く、交通費や宿泊費は大きな負担のひとつ。抗がん剤には脱毛するものが多いため、ウィッグも必需品です。ちなみに、ウィッグは所得税の医療費控除の対象にはなりません。

治療は働きながら続けられる?

 お金がかかることはもちろんですが、治療中、それまでと変わらない収入が得られるかということも大きな問題です。放射線や抗がん剤治療は、どうしても副作用があります。体調が悪い中で、これまで通り仕事を続けることができるでしょうか?

 東京都保健福祉局が平成25年10月に行った調査によると、職種にもよって大きな差がありますが、いずれの職種でも2割程度の人は退職をしています。

 退職した人はもちろんですが、退職しないまでも会社を休むことが多くなりますし、休職して傷病手当金の支給額は標準報酬月額の3分の2ですから、必然的に収入はそれまでよりも少なくなります。下のデータでわかる通り、個人で見ると6割弱、世帯としても半分弱の人は収入が減ったと答えています。

 前記の「最新がん統計」で年齢別のがん死亡率を見ると、男女とも40代半ばくらいで増え始め、男性の場合は50代半ばくらいで急速に増加します。ということは、それなりに貯蓄もできているはずの世代ですから、治療に係る支出増にも対応できるかもしれません。

 ただ最近は、特に女性の場合20〜30代で乳がん、子宮がんになる人も増えていて、若年化する傾向にあるといいます。資産が形成されていない世代にとって、がん治療のお金として頼りにするもののひとつが、がん保険であることは間違いなさそう。とはいえ、がんにかかるのは日本人の半数、さらに収入が減るのはその半分程度ですから、必要以上に心配して高い保険料を支払い家計のバランスを崩しては本末転倒です。

自分に必要な保障内容を選び、定期的に見直しを

 がん保険とひと口にいっても、診断、入院、三大治療(手術、放射線、抗がん剤)、通院といった治療全般をカバーするもの、診断時を重視したもの、年金のように分割して受け取るもの、治療費を実額で保障するものなど、その内容はいろいろあります。

 自営業だから公的保障が少ない、がんになる可能性が高そう(がんは遺伝しないといわれていますが)、一度に受け取るとムダ遣いしてしまいそう……など、自分の状況を冷静に考えて必要なことを保障してくれる商品で、なおかつ無理のない保険料のものを選ぶことが重要です。

 また、がん治療はどんどん進化していますから定期的な見直しも必要です。たとえば、20年くらい前のがん保険は、診断、入院、手術はカバーしていますが、放射線や抗がん剤治療は考慮されていないものがほとんどでした。最近人気の高度先進医療も将来は標準治療となり、さらに進化した治療方法が登場するかもしれません。がん保険も他の生命保険同様、定期的に見直すことが必要といえそうです。

<著者プロフィール>

鈴木弥生

編集プロダクションを経て、フリーランスの編集&ライターとして独立。女性誌の情報ページや百貨店情報誌の企画・構成・取材を中心に活動。マネー誌の編集に関わったことをきっかけに、現在はお金に関する雑誌、書籍、MOOKの編集・ライター業務に携わる。ファイナンシャルプランナー(AFP)。


マイナビニュース 2015年5月27日

前立腺がんのホルモン療法が思考障害をもたらす
特定の遺伝子変異でリスク14倍に
 前立腺がん治療としてホルモン療法を受ける男性では、6カ月以内に精神機能の低下がみられ、少なくとも1年以上持続する場合があることが、新たな研究で示唆された。このリスクは、特定の遺伝子変異をもつ男性で特に高かったという。ホルモン療法は、テストステロン値を低下させることで前立腺がん細胞の増殖を抑える治療法である。

 米モフィットがんセンター(タンパ)の博士研究員Brian Gonzalez 氏が率いた今回の研究では、前立腺がん患者58人を対象に、ホルモン療法の開始前、6カ月後、12カ月後に評価を実施し、前立腺摘出術を受けた84人および前立腺がんではない88人と比較した。

 その結果、ホルモン療法群には精神機能の低下が認められた。特に遺伝子変異rs1047776を有する男性では、ホルモン療法による精神障害を来す確率が、この変異を持たない男性の14倍であった。

 Gonzalez氏は、「ホルモン療法を検討する男性は、精神機能面の副作用について知っておく必要がある」と指摘する。同氏はテストステロン値の変化が思考障害の原因となった可能性があるとの見解を示しているが、ホルモン療法による倦怠感や抑うつが影響している可能性もあると述べている。

 この報告は「Journal of Clinical Oncology」オンライン版に5月11日掲載された。

 米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院(ボストン)のAnthony D'Amico 氏は、今回の研究は小規模であるため、さらに検証を重ねる必要があると指摘する一方、以前の研究で長期のホルモン療法による数学的能力への影響が認められた例を挙げ、今回の知見にはそれなりの根拠があるとの考えを述べている。ただし、現在実施される短期間のホルモン療法では大きな影響があるとは考えにくく、多数の疑問点もあると同氏は付け加えている。

 米レノックス・ヒル病院(ニューヨーク市)のDavid Samadi氏は、前立腺がん患者にホルモン療法を実施すべきではないとの見解を示す。ホルモン療法には倦怠感、男性更年期、抑うつなどの副作用のほか、心臓障害の懸念もあると指摘し、最新式の外科手術で前立腺がんを切除すれば、失禁や性機能の副作用も避けられると述べている。

m3.com 2015年5月28日

ビタミンサプリメントで皮膚がんリスクが低減か
ニコチンアミドで効果
 安価で入手しやすいニコチンアミドというビタミンB3サプリメントが、皮膚がんリスクを低減する可能性が示された。オーストラリア、シドニー大学皮膚科教授のDiona Damian氏らによる研究。

 既存の研究では、ニコチンアミドが皮膚細胞のエネルギーを高め、DNA修復を促進し、皮膚の免疫系を強化することが示されている。

 Damian氏らは、過去5年間に2種類以上の非黒色腫皮膚がんを認めた平均66歳の高リスク患者400人近くを対象に臨床試験を実施した。対象者の3分の2が男性で、多くが関節炎、高血圧などの慢性疾患を有していた。対象者の半数はニコチンアミドを1日2回、1年間服用し、残り半数はプラセボを服用した。

 皮膚科医が3カ月ごとにがん検診をしたところ、ニコチンアミド群では1年間の研究期間終了時の新規非黒色腫皮膚がんの発症率がプラセボ群よりも23%低かった。また、がんになりうる皮膚の厚い鱗状の斑も3カ月で11%、9カ月で20%減少した。ただし、12カ月後に服用をやめると、便益はみられなくなった。

 Damian氏は、「より一般的なB3であるナイアシンは、高用量服用すると頭痛などが生じうるが、ニコチンアミドではこれらの副作用がなかった。ただし、現段階でこの成分の摂取を一般集団に推奨するものではない」と話している。

 今回の研究は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で5月30日に発表される予定。なお、学会発表された知見は一般に、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

m3.com 2015年5月28日

米国、遺伝子変異に合った抗がん剤を探す治験を開始
 米国立がん研究所(NCI)は、進行したがん患者1000人を対象に、適応が承認されていない抗がん剤の中から、各患者の遺伝子変異を手掛かりに効き目のある薬を探す大規模な臨床試験(治験)に着手する。これらの抗がん剤は、単に腫瘍が発生した部位を狙うのでなく、患者の遺伝子変異に応じて腫瘍を狙える「標的薬」だ。

 「NCI-Match」と名付けられたこの臨床試験は、「プレシジョン・メディシン(精密医療)」という新分野の発展を目指し、腫瘍の増殖に関わる突然変異を正確に狙える抗がん剤の開発につなげることを目的とする。少なくとも製薬大手10社が計20種以上の治験薬をこの単一の治験に提供する。

 NCIのジェームズ・ドロショー副所長は1日の治験開始の発表で、「これは今までに実施された中で最も大規模かつ最も精密ながんの治験だ」と述べた。治験担当医師らは来月、米国各地の約2400カ所の治験実施施設で患者の選定を始める見通しだ。

 疾病の遺伝子的原因に関する理解が進んでおり、それに伴い精密医療という概念への関心が高まっている。オバマ大統領は今年1月、疾病を引き起こす突然変異を発見し、それを標的とする治療薬の開発促進を目的とした2億1500万ドル(約270億円)の構想を提案した。腫瘍学は、研究者が精密医療で最も進んでいると考えている分野で、研究者はがんが体内のどこにあるかに関係なく、突然変異を標的とする治療薬の開発を進めている。

 この発表は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次会議で行われた。ASCOは「TAPUR」というNCI-Matchと同様の治験にも着手する。この治験に関しては、これまでに製薬5社が既に販売されている13の遺伝子標的薬を治験薬として提供することで合意している。ASCOのリチャード・L・シルスキー最高医療責任者(CMO)は、その目的は「腫瘍の遺伝子配列を解析した上で(その患者のがんについて承認されていない)標的薬を投与すると、患者に何が起こるか」を見極めることだと話す。

 この2つの治験は、がんに関する遺伝学の理解が進み、DNA配列解読の費用がかつてないほどに低下していることが、患者の治療や抗がん剤開発の手法にいかに変化をもたらしているかを示している。幾つかの学術機関や一部地域のがん専門医は、患者に合った治療薬が見つかることを期待し、進行したがん患者の多くの腫瘍DNAの遺伝子解析サービスを提供している。しかし、それが病状改善に結びついたかについての情報はほとんどない。

 精密医療の推進力になっているのは、がんを生じさせる遺伝子変異がさまざまな種類の腫瘍においてしばしば共通しているという事実だ。このため、例えば乳がんの変異を標的にするのに有効な抗がん剤が、別の臓器で発生した腫瘍にも有効性を示す期待が高まっている。スイスの製薬大手ロシュ・ホールディングの乳がん治療薬「ハーセプチン」(一般名:トラスツズマブ)はHER2という受容体を標的とするが、HER2が高値の胃がんにも有効であることが判明し、後に胃がんへの適応も承認された。

 しかし、ロシュの抗がん剤「ゼルボラフ」(一般名:ベムラフェニブ)は、BRAFと呼ばれる遺伝子に特定の変異がみられる悪性黒色腫に有効なBRAF阻害剤だが、同じ変異を持つ結腸がんにはほとんど効果がないことが判明している。

 米食品医薬品局(FDA)の腫瘍担当責任者で、こうした治験の旗振り役を務めるリチャード・パズドゥール氏は、「これは多くの人々が期待するより、ずっと複雑な問題だ」と述べる。同氏は、このアプローチの幅広い成功を想定することには「私自身、幾分慎重な面がある」と話した。

 もう1つの問題は、遺伝的特徴によって腫瘍を分類すると、肺がんや乳がんといった一般的ながんが10を超える希少な疾患に分かれてしまうことで、これは製薬会社に難題を突きつける。その場合、製薬会社は希少な突然変異を標的とする単一の治験薬の臨床試験のために1万人もの患者をふるいにかけないと、十分な患者を集められない可能性があると研究者たちは指摘する。今回のように、数十種類の治験薬を調べる1つの治験のために患者を選定する方がはるかに効率的で、有望な治療薬をより迅速に患者に提供できるようになるとみられる。

ウォール・ストリート・ジャーナル 2015年6月2日

10代で太っていると、その後の大腸がんリスクは2倍に、米国ハーバード大学が報告
スウェーデンの男性のデータから
 10代で太っていると、その後の40年近くの間に大腸がんになるリスクが2倍になると分かった。

 米国ハーバード公衆衛生大学院を含む研究グループが、消化器系の病気の専門誌ガット誌オンライン版で2015年5月18日に報告した。

約24万人のデータ

 研究グループは、世界的に3番目に多いがんである大腸がんのリスク増加には成人では肥満と炎症が影響していると説明する。

 10代の肥満や炎症の影響については不明もある。肥満の指標となるBMI、炎症の指標である血液検査の値がどのようにその後のがんに影響するか。

 研究グループはスウェーデンで2010年まで行われていた徴兵制のために16〜20歳の男性で行われていた身体検査の結果から、約24万人分のデータを収集。さらに全国がん登録データも使い、BMIと血液検査の値と大腸がんとの関連を調べた。

炎症もリスク高める要因

 身体検査の時点では81%近くが正常体重だった。一方で中等度の過体重が5%、高度の過体重が1.5%、肥満が1%。

 2010年までに約900人が大腸がんになった。

 BMIと大腸がんとの関係を調べたところ、10代後期にBMIが27.5〜30の過体重の人はBMIが18.5〜25の正常体重の人と比べて大腸がんになるリスクが約2倍となっていた。BMIが30以上の肥満の場合は約2.4倍。

 血液検査での炎症については、血液検査で炎症の兆候が見られていた場合、正常範囲の人と比べて大腸がんになるリスクは約1.6倍だった。

 BMIと炎症は若い段階から注意をした方が良いのだろう。

Medエッジ 2015年6月4日

ウイルスを用いた免疫療法が進行メラノーマに有効
 遺伝子操作した無害のヘルペスウイルスがメラノーマ(黒色腫)の進行を遅らせる可能性が示された。研究グループによると、世界各地の患者436人を対象とした今回の研究は、「ウイルス免疫療法」が有益であることを示した初めての第3相試験だという。

 第3相試験は、小規模の集団で安全性と有効性が示された後に実施される、最終的な大規模試験だ。本研究は治療法を開発している製薬会社Amgenから資金提供されており、「Journal of Clinical Oncology」に5月26日掲載された。

 この研究では浸潤性の手術不能なメラノーマ患者を対象に、Talimogene Laherparepvec(T-VEC)と呼ばれるウイルス療法または「対照」の免疫療法のいずれかを注射した。T-VECは、単純ヘルペスウイルス1型の2つの遺伝子を除去することにより、正常細胞内では複製されず、がん細胞内で増殖して内側からがん細胞を破裂させるようにしたもの。T-VECはさらに、免疫系を刺激して腫瘍を攻撃させる物質を産生する。

 T-VEC群で6カ月を超える治療反応が認められたのは約16%にとどまったが、対照群の2%に比較するとはるかに優れた結果だった。T-VEC群の患者には3年以上反応が持続した者もいた。研究に参加した英ロンドン大学がん研究所のKevin Harrington氏によると、T-VECのようなウイルス療法は腫瘍に対して二面攻撃を仕掛けることができ、副作用も少ないことから期待が高まっているという。

 T-VECに対する反応は、比較的進行度の低い患者や、それまで治療を受けたことのない患者で特に強かった。同氏らは、この治療法が手術不能の進行メラノーマ患者の第一選択治療として有望だと述べている。

 ステージ3およびステージ4初期の患者では、平均生存期間はT-VEC群で約41カ月、対照群で約22カ月だった。さらに悪性度の高いがんや、進行したがんにおいてT-VECが第一選択治療となりうるかを評価する研究も進行中だという。

 米国の専門家らも遺伝子改変ウイルスを用いた免疫療法の有望性を認め、従来の皮膚がん治療に革命をもたらすものだと述べている。最も致死率の高い皮膚がんであるメラノーマの発症率は、米国でこの30年増加し続けており、米国がん協会(ACS)の推定によれば、今年約1万人がメラノーマで死亡するとされている。

m3.com 2015年6月8日

食生活直せば大腸がんのリスクが減る
ヒントは和食とアフリカ料理にある
 住む場所が変われば食生活も変わる。食の欧米化は、腸内環境をも欧米人に近づけていくのかもしれない。

たった2週間で腸内環境が変化

 2014年の米国がん協会(ACS)の調査によると、米国における大腸がんの罹患(りかん)率および死亡率は男女とも、すべてのがんの中で3番目に高い。とくにアフリカ系米国人は白人に比べ罹患率で25%、死亡率では50%も高い。では、アフリカ系の人種は大腸がんになりやすいのかというと、そういうわけでもない。WHO(世界保健機関)による2008年のデータでは、アフリカ系米国人の大腸がん罹患率が10万人に対して65人、これに対し南アフリカ人は10万人に対して5人と、大きな開きがある。

 その理由が両者の食生活の違いにあると考えた米ピッツバーグ大学のスティーブン・オキーフ教授ら研究チームは、50〜65歳のアフリカ系米国人と南アフリカ人各20人の腸内細菌叢(さいきんそう)を分析し、内視鏡検査を実施。アフリカ系米国人にのみ9人にポリープが見つかった。その後、それぞれのグループに相手国の食材と調理法を用いた食事を2週間摂取してもらい、同じ検査を行った。

 すると、驚くべき変化が見られた。たった2週間で互いの腸内環境に近づいていたのだ。アフリカ系米国人のグループでは、炎症などがんのリスクとなる因子が減少し、がんの抑制に重要な役割を果たす「ブチレート」が増加していた。一方、南アフリカ人のグループにはその逆のことが起きていた。

 オキーフ教授は「アフリカ系米国人は、普段の食事で食物繊維の摂取量を増やし、動物性の脂肪とたんぱく質を減らせば、がんのリスクを減らすことができるだろう」と言う。

J-CASTニュース 2015年6月14日

若年者の大腸がんは高齢患者とは遺伝的に異なる
治療薬の代謝にも違い
 大腸がんには高齢患者と若年患者では遺伝的差異があり、若年者には異なる治療が必要であることが、新たな研究で示された。米国では大腸がんの全体の発症率は減少しているものの、若年患者の比率は上昇している。これまでの研究で、50歳未満の患者では、高齢者に比べて大腸がんの悪性度が高いことが明らかにされている。

 今回の研究では、若い患者(半数が31歳未満)から採取した大腸がんの腫瘍5検体と、高齢患者(半数が73歳超)から採取した6検体の遺伝子を比較した。その結果、「細胞の発生・代謝・増殖に関与する2つの重要な遺伝子シグナル伝達経路であるPPARおよびIGF1Rに差異が認められた」と、米コロラド大学がんセンターのChristopher Lieu氏はニュースリリースのなかで述べている。この2つのシグナル伝達経路の変化は、数種のがんに関連することが明らかにされているという。

 研究ではさらに、若年患者から採取した腫瘍は、薬剤の代謝を担う経路が強化されていることがわかった。研究の筆頭著者である同がんセンターのTodd Pitts氏は、「化学療法薬はがん細胞を攻撃するものだが、若い人はこの化学療法薬の代謝が高齢者とは異なる。このことから、若年患者では転移性大腸がんに対する従来の化学療法の効果が低い理由を説明できる可能性がある」と述べている。

 今回の研究は、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で発表された。学会発表された知見は通常、査読を受けて医学誌に掲載されるまで予備的なものとみなされる。

 研究グループは、この知見を裏付けるための大規模研究を計画している。「理想をいうなら、われわれの最終目標は、大腸がんによるリスクが高いと思われる若年患者にもっと優れた治療を提供することである」とLieu氏は述べている。

m3.com 2015年6月15日

前立腺癌死リスク、食事内容で倍増
診断後の食事パターンは死亡リスクを左右
 米国癌学会(AACR)は6月1日、前立腺癌と診断された後、加工肉、赤肉、および高脂肪乳製品を中心に取る男性では前立腺癌関連死のリスクと全死因死亡のリスクが比較的高く、野菜や果物を中心に取る男性の全死因死亡のリスクが比較的低いことを示した研究を紹介した。本研究は、AACR会誌であるCancer Prevention Research誌に掲載。

 研究チームは、医師を対象とした健康調査の一環として行われた、臨床状態や食事に関するアンケートのデータを分析。前立腺癌の診断から平均14年追跡し、食事パターンが死亡率に及ぼす影響について評価した。

 その結果、西洋食依存度が最も高い男性四分位群で、依存度が最も低い男性四分位群よりも前立腺癌死リスクが2.53倍高く(153%増)、全死因死亡リスクが67%高いことが分かった。また、野菜、果物、魚、および全粒粉を中心に採る男性では全死因死亡リスクが36%低く、前立腺癌死リスクも低かったが、有意差は認められなかった。

 論文著者のJorge E. Chavarro氏は、「前立腺癌患者の最も重要な死因の一つが心血管系疾患であるため、全死因死亡率に関する所見は予測通りだった」と説明。その上で「心血管系疾患の予防を意図した食事勧告は、非転移性の前立腺癌の死亡リスク抑制にも適用可能であることが示唆された」との見解を示している。

m3.com 2015年6月19日

1滴の血液で「がん発見」診断たった3分!
すい臓がん、胃がん、大腸がん・・・年内にも実用化
 1滴の血液をたった3分検査するだけで身体にがんがあるかどうかがわかる画期的な方法を昭和大学の研究者が開発した。「ある」とわかったら、「どこか」を突き止めるのは容易で、早期発見・治療につながると期待される。年内にも実用化を目指すという。

さらに詳しい検査で部位特定

 昭和大学江東豊洲病院の伊藤寛晃医師(48)らと神戸市の医療機器会社がこの診断法を開発し、伊藤医師がきのう17日(2015年6月)に実際の診断手順を披露した。遠心分離機で分離させた血液成分を特殊な金属チップに乗せ、紫外線などを当て部屋を暗くすると、モニターに光る点が見えてくる。がん細胞が免疫細胞に攻撃された時に血液中に溶け出す「ヌクレオソーム」という物質だ。血液中にこれがあればがんがあるということになる。

 3分でがんの有無が診断でき、さらに詳しい検査でがんのある臓器もわかる。伊藤医師は「この診断法は健康診断の採血の余りを活用するだけでできます」と話す。

J-CASTニュース 2015年6月18日

コーヒーに体の炎症を抑える効果、「飲んでいる人でがんのリスクが低い」理由にも
多く飲む人は5つの炎症物質が少ない
 コーヒー飲んでいる人は、がんのリスクが低いと言われている。その理由の1つは、コーヒーを飲むと体の中で炎症が起きにくくなるためかもしれない。

 米国立がん研究所を中心とした研究グループが、がん領域の専門誌キャンサー・エピデミオロジー・バイオマーカー・アンド・プリベンション誌で2015年5月21日に報告した。

コーヒーが良い理由を探る

 コーヒーを飲んでいる人は長生きだという報告がある。また、子宮がん、大腸がん、皮膚がん、前立腺がん、肝臓がんなど、さまざまながんのリスクが低いという報告もある。

 全身に慢性的な炎症状態が続くと、がんや糖尿病、メタボなどのさまざまな病気につながる。これに関連して、コーヒーを飲むと体内の炎症が抑えられ、それによりがんのリスクが下がるのではないかという仮説がある。

 今回研究グループは、コーヒーを飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて実際に全身の炎症の様子が違うのかどうか、解析を行った。

 対象は年輩の非ヒスパニック系の白人1728人。普段コーヒーを飲む量は、アンケートで調べた。また、採血を行い、「ルミネックスビーズ」という蛍光ビーズを使った方法で、炎症の際に血中に放出される77種類の炎症物質を測定した。

 コーヒーを飲む量と炎症物質について、得られたデータを統計学的に解析し、関連性を調べた。

5つの炎症物質が少なかった

 結果、調べた77種類のうち10種類の炎症物質はコーヒーを飲む量と関係していた。偏りを補正したところ、最終的に5種類の炎症物質が関係しているものとして残った。

 たくさんコーヒーを飲む人は全く飲まない人に比べ、「インターフェロンγ(IFNγ)」が3分の1程度、「CX3CL1」が4分の1程度、「CCL4」が2分の1程度、「FGF-2」が3分の1程度、「TNFR2」が3分の1程度に少なかった。

 「IFNγ」「CX3CL1」「CCL4」の3つは、炎症の際に単球またはマクロファージと呼ばれる免疫細胞を活性化させたり炎症部位に集めたりするために放出されるものだ。「FGF-2」は、炎症に関わる細胞を増やす。「TNFR2」は、炎症反応を広げる物質。

 今回の結果から、コーヒーを飲んでいる人は、体の慢性的な炎症が抑えられている傾向があると分かった。このことは、「コーヒー飲んでいる人は、がんや慢性的な炎症のリスクが低い」理由の一端になっているだろうと研究グループは述べている。

 コーヒー好きにはうれしいニュースだ。

Medエッジ 2015年6月19日

大腸菌を注射したらがんが消滅!?画期的ながんの治療法となるか?
大腸菌を利用したがん免疫療法の開発を目指して
 大腸菌ががん細胞を消滅させる現象は以前から知られていたが、そのメカニズムは不明だった。このたびの解析で、大腸菌が体内に入ると体の免疫の仕組みが活性化され、それによりがんが消滅していると分かった。まだネズミでの実験の段階だが、画期的ながんの免疫療法となる可能性がある。

150年前から知られてはいた

 ドイツのヘルムホルツ感染研究所(HZI)の研究グループが、がん分野の専門誌インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー誌で2015年4月13日に報告した。

 腸の中に住む大腸菌は、酸素があってもなくても生きられる「通性嫌気性菌」に属する。

 がんの組織では、がん細胞が激しく増殖しているため、酸素不足の状態になっている。そんながんの組織に大腸菌を植え付けてやると、大腸菌はコロニーという塊となって増える。結果的に、がんの成長を遅らせたり、がんを消滅させたりもする。

 この現象が最初に発見されたのは150年以上も前だが、いまだに詳しいメカニズムについてはほとんど知られていない。しかし、新しいがん治療法になる可能性は十分に秘めている。

 今回研究グループは、ネズミの実験で、大腸菌ががん細胞を消滅させるメカニズムを解析した。

免疫の仕組みが活発に

 ネズミに実験用の大腸がん細胞(CT26細胞)を注射して、背中にがんの塊を作らせた。がんの直径が5mmになったところで、実験用の大腸菌(TOP10)を静脈注射した。

 すると、ネズミの背中のがんは消滅した。

 がんが消滅したネズミにもう一度同じがん細胞を注射したところ、がんができてこなかった。これにより、がんの消滅には、体の免疫反応が関係していると予想された。ワクチンと同じ原理で、体内の免疫の仕組みによって、ひとたび「異物」と判断され、記憶されたがん細胞は、2回目に体内にやってきたところ、速やかに排除されたというのだ。

 案の定、免疫細胞を薬で殺したネズミにがん細胞を注射し、がんができたところで大腸菌を注射したところ、がんは消滅しなかった。

2種のT細胞が鍵

 さらに解析を進めたところ、がんの消滅にはT細胞と呼ばれるリンパ球が重要であると分かった。T細胞にはいろいろ種類があるが、主なものはキラーT細胞(CD8+T細胞)とヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の2種類。免疫細胞の表面に出ているタンパク質には番号が振ってあり、「CD」と番号で表現される。このうち2つの種類の細胞が活躍しているというわけだ。

 最初のがんを大腸菌で消滅させるときに主に働くのはキラーT細胞だった。そしてキラーT細胞、ヘルパーT細胞ともにがん細胞を記憶し、2回目以降にその両者が協力して、速やかにがん細胞を殺していた。

強い免疫細胞を移植

 このメカニズムの確認のために、「養子移入」という実験を行った。がん細胞を消滅させた経験のあるネズミから、キラーT細胞とヘルパーT細胞を回収し、がんを知らないネズミの血液に移植する。このネズミにがん細胞を注射すると、がんはできてこなかった。

 さらに、がんを覚えこんだキラーT細胞は、既にがんが大きくなったネズミでも、移植してやればがんを消滅させた。

 がんを覚えこんだヘルパーT細胞を詳しく解析したところ、抗がん作用に関連深い「グランザイムB」「ファスリガンド(FasL)」「腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)」「インターフェロンガンマ(IFN-γ)」を作っていると分かった。

なるか「大腸菌がん治療」

 今回の結果から、大腸菌が直接がん細胞を攻撃するのではなく、体の免疫力を増強させる手伝いをしてがんを消滅させていると分かった。

 メカニズムが一部解明できたことにより、この画期的ながんの免疫療法の実用化に向けて、また一歩踏み出せたと研究グループは述べている。

Medエッジ 2015年6月23日

がん細胞だけを狙った、中性子線による新しい粒子線治療、東大を含む研究グループが報告
MRIでがんを特定して攻撃
 「リン酸カルシウム・ガドリニウム・中性子線」と呼ぶ、がん細胞だけを攻撃する新しいがん治療が開発されつつあるようだ。

 日本の東京大学・ナノ医療イノベーションセンターを含む研究グループが、ACSナノ誌2015年6月11日号オンライン版で報告した。

MRI検査で使うガドリウムを応用

 研究グループはMRIの造影剤などに利用されている「ガドリニウム」に注目した。

 ガドリニウムは、中性子線を照射するとこれを捕まえる。この性質を利用すると、がん細胞だけに中性子線を照射し、選択的に治療することが可能になり、がん治療に高い効果を上げる可能性がある。
ナノカプセルに収める

 次にこのグループは、「リン酸カルシウム」と「ガドリニウム-ジエチレントリアミン五酢酸(Gd-DTPA)」と呼ばれる2つの分子を組み合わせ(Gd-DTPA/CaP)、この物質ががん細胞だけに集まるように工夫。ナノカプセルの中に収められた形にした。

 その上でMRIを見ながら、この物質をターゲットとして中性子線を照射した。

MRIで確認できる

 結果として、Gd-DTPA/CaPは、一定の濃度で中性子線を照射したところ、50%のがん細胞が死滅すると分かった。中性子を当てない状態ではがん細胞にも無害だった。

 治療の特徴はがん細胞だけを狙って治療できることにある。Gd-DTPA/CaPはGd-DTPAを腫瘍のある場所に蓄積させることが可能で、MRIで腫瘍のある位置を正確に特定できる。ここに中性子線を照射することで、他の細胞を傷つけず、がん細胞だけを狙って中性子線を照射することが可能となる。

実用化の効果に注目

 研究グループはネズミで実験。マウスの体重減少は見られず、安全性の高いがん治療として、Gd-DTPA/CaPが有望と証明している。

 今後、さらにがん治療への本格的な適用が有効となるか注目されそうだ。

Medエッジ 2015年6月25日

脂質異常症の治療薬「スタチン」が卵巣がんを抑制
慶大がマウスで確認
 慶應義塾大学は6月25日、脂質異常症の治療薬として使用されるスタチン製剤に卵巣がんの発生や進行を抑制する効果があることを確認したと発表した。

 同成果は同大学医学部産婦人科学教室の小林佑介 特任助教と米Johns Hopkins大学医学部病理学教室のTian-Li Wang 准教授、Ie-Ming Shih 教授らの研究グループによるもので、6月24日付(現地時間)の米科学誌「Clinical Cancer Research」に掲載された。

 スタチン製剤はコレステロールの合成を阻害することから脂質異常症の治療薬として用いられている。近年、同剤ががんの発生を抑える可能性が注目されているが、卵巣がんではその効果が証明されていなかった。

 同研究では、卵巣がんが自然に発生するマウスにスタチン製剤を投与した。このマウスは通常、生後5週からがんが出現するが、スタチン製剤を投与したマウスではその発生や進展が抑えられていた。ヒトの卵巣がん細胞を移植したマウスでも同様に、スタチン製剤の投与によって腫瘍の発生や進行が抑えられることが確認された。また、腎機能や肝機能への影響は認められなかった。

 さらに、ヒトの卵巣がん細胞にスタチン製剤を添加して培養すると、増殖が抑制されるとともに、細胞が膨化したり細胞内に空胞ができることから、アポトーシスやオートファジーといったプログラム細胞死が関与していることが示唆された。実際、同剤の投与により、アポトーシスやオートファジーに関与するタンパク質の発現が細胞レベルでも腫瘍レベルでも高くなっていたという。

 同研究グループは「今後は本研究の結果をもとに、至適用量やその適応を十分に考慮した上で、ヒトの卵巣癌の発生や進行を実際に抑制しうるか検討が行われることを期待します。」とコメントしている。

BIGLOBEニュース 2015年6月25日

ビタミンDとがんとの関わりに注目
卵巣がん女性の生存を延ばす?
 卵巣がんの女性では、血液中にビタミンDが多いと生存率が高くなると分かった。がんとビタミンDとの関係が関心を高めているようだ。

がんとビタミンDの関係かねて注目

 オーストラリア、クイーンズランド大学公衆衛生学部を中心とした研究グループが、栄養学の国際誌であるアメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション誌で2015年5月13日に報告した。

 かねてビタミンDとがんとの関係を指摘する研究は多い。

 研究グループは、ビタミンDの体内での形態である「25ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)」と卵巣がんの人の生存率との関連性を検証した。

 オーストラリア卵巣がん研究に参加し、2002年から2005年にがん細胞の広がった侵襲性(しんしゅうせい)の卵巣がんと診断された女性を対象に、血中ビタミンDと生存率との関連性について危険度を推定した。

危険度は7%低く

 経過観察期間中に全体では59%の女性が死亡し、そのうちの95%の死亡は卵巣がんによるものであった。

 ビタミンDが高いと判定できた人では、長期にわたって生存する人が多いと分かった。生存の危険度は7%低くなっていた。病気の進行していない状態での生存期間である「無増悪生存期間」は差がなかった。病気が悪化するまでの期間は差がなく、病気が悪化し始めてからの期間が長くなるというわけだ。

 因果関係は分からないが、栄養状態の改善ががんの生存を改善させる可能性もあるのかもしれない。

Medエッジ 2015年7月1日

実用化近い!?
血液、におい、唾液でがん超早期発見!臓器別に一発判定
 病気をごく手軽に早期に発見する技術が続々と誕生している。国立がん研究センターなどは血液1滴で超早期にがんを発見する診断法を開発している。4年後までに、肺がんや胃がんなど13種類のがんを診断できる検査法の実用化を目指している。

 どういうメカニズムなのか。がん細胞は発生した瞬間から特有のマイクロRNAを出す性質があり、そのRNAを血液中で検出することでがんを発見が可能になるという。マイクロRNAはがんのできる臓器によってタイプが異なるため、部位別にがんが識別できる。

手のひらから特有の生体ガス

 東京医科歯科大学はがん特有の「におい」に着目した。手のひらの小さな穴から出ている、人の嗅覚ではわからないような生体ガスを機械で検出する。手をかざすだけでがんを発見できる技術だ。慶応大学の研究所は「唾液」の成分を質量分析計で分析したところ、がんを発症することで唾液の一部の成分が変化することが明らかになったとしている。

「唾液で(がんの早期発見が)できるとは、世界中が思っていなかったが、しっかりした確固たるエビデンスが出てきています」(慶応大学の杉本昌弘特任准教授)

 ゲストで、がんの早期診断にくわしい国際医療福祉大学の北島政樹学長はこう話した。「マイクロRNAは従来の方法より非常に精密な診断ができ、腫瘍マーカーとくらべても早期に発見できます」

 唾液や体液、臭いなどによる検査は、がんの「診断」というよりは、「スクリーニング」(リスクが高い人を発見する)の段階だそうだ。

*NHKクローズアップ現代(2015年6月30日放送「あなたのがん見つけます〜超早期治療への挑戦〜」)

J-CAST 2015年7月2日

世界初、「夢のがん診断」技術
血液1滴、たった3分で結果がわかる!
医学知識ゼロのベンチャー企業が起こした奇跡
 これは医療の革命になるかもしれません。がん診断に画期的な手法が誕生です。

 神戸にある親子2人だけのベンチャー企業が、金属チップを使って、血液1滴、判定時間3分というこれまでのがん診断の難しさを覆す技術・手法を開発したのです。

がん検診のむずかしさ

 近年、日本では2人に1人ががんに罹り、そのうちの3人に1人が命を落とし、国民の死亡原因のトップであり続けています。がんは年間約37万人もの人の命を奪っているのです。

 このコラムでも私自身の大腸がんを早期発見・治療してきた経緯をお話してきましたが、がんというのは初期症状が出にくく、痛みなどの異変に気づいたときには手遅れというケースが少なくありません。「がんは検診で発見する病気」であり、「どれだけ早く発見できるか」が生死を分けるのです。しかし、がん検診の受診率は2割程度。

 バリウムや下剤を飲んだり、マンモグラフィでは乳房を機械に押し潰されるような痛みを伴うなどの苦痛、予約を取り仕事を休んで受診する面倒くささ、そして一部高額な料金。それを部位ごとに行うということから躊躇する人が多いのです。しかも、判定には7~10日待たされるのが通常です。

 「なにか自覚症状が出たら病院に行く」と先延ばしにしてしまいたい人の気持ちも分からないでもありませんが、身を持ってがんの恐ろしさを知り、検診の大切さを訴える活動をしている私は、検診受診率の低さに打つ手はないものか、歯がゆく思っていました。

 そんな折、苦痛も面倒も強いられず、その場でがんが診断できてしまう画期的な手法が開発された、というニュースが世界を駆け巡りました。

 国内はもちろん、アメリカやロシアからも取材依頼が殺到している中、なんと私、テレビ朝日「モーニングバード」で、世界で初めて研究室に入ることができました。

 神戸にある医療機器会社(有)マイテックの研究室で出迎えてくれたのは、こちらのお二人。

 お父様の長谷川克之さんと長男の裕起(ゆうき)さん。初めての取材にまだ表情も初々しい様子が印象的でした。

 医療関係のベンチャーが集結する研究棟の一番小さな部屋が彼らの城。わずか30uほどの小さなスペースで、中央に大きな机を置き、棚と冷蔵庫を置いたら、座る場所に困ってしまうくらい。

 失礼ながら、こんな環境で世界が注目する診断法が誕生したのかと絶句してしまいました。

いたってシンプルな仕組み

 診断方法はいたってシンプル!?金属チップの表面に血液(不純物を取り除いた血清)を垂らし、顕微鏡で覗いて見るだけ。

 こうして文章にしてみるとわずか1行で書けてしまうという簡単さにはなんとも驚きです。

 もう少し詳しく仕組みを紹介すると、今回開発されたのは、この金属チップと表面に塗る試薬です。チップは銅合金でできていて、表面に試薬を塗ることで過酸化銀メソ結晶という新規物質の膜が作られ、このようにトゲトゲした結晶の状態になります。

金属チップの表面

 そこに血清を垂らすと、がん患者が持ち合わせる「ヌクレオソーム」というがん関連物質だけがトゲに吸着するというのです。このヌクレオソームはがん免疫に攻撃されたときに血液中に溶け出る物質で、がん患者でなければ存在しません。つまり、トゲにヌクレオソームがくっついていれば、それ血液の持ち主はがんだと判別できるのです。

 そして、元々チップには金属ナノ粒子(プラズモン効果)で、電場増強効果によって光を増強させる特徴があり、蛍光顕微鏡で覗くとヌクレオソームが緑色に光って見えるため、がんの有無を一目で簡単に判別できるという仕組み。

 画像には次のように表れます。上段が良性腫瘍の患者の診断結果、下段が悪性腫瘍(=がん)の患者の診断結果です。

 がん関連物質がまるで暗闇に光る星のように「悪性腫瘍」の存在を教えてくれます。

 昭和大学江東豊洲病院消化器センター伊藤寛晃講師との共同実験によると、がん患者と良性腫瘍の患者、計20人の血液で試したところ100%間違いなくがんの有無を診断できたそうです。

従来のがん診断法との違い

 ちなみに、血液検査でがんを診断する方法なら現在でも広く行われています。血液中の腫瘍マーカーと呼ばれるがんの指標となる特殊な物質の数値を測るというものです。

 しかし、がんがあっても検出さえないこともあり、他の診断と組み合わせて実施されています。私自身、陰性という結果が出た直後に下血し、内視鏡で再検査をしたら大腸がんが発見されたことがありました。また、検査結果が出るまでに1週間も不安な気持ちで待ちました。

 他にも、レントゲン、CT、PETなどの画像診断もありますが、こちらは医師が画像を見てがんの進行度や性質などを判断する方法で、初期のがんは小さいため発見が難しいのです。見落としの危険もあるし、腫瘍が見つかって摘出手術をしてみたら良性腫瘍だったなんてこともよく聞く話です。

 今回の金属チップの診断法では、血液中に含まれるがん関連物質を画像で見るため、悪性腫瘍(=がん)かどうかの結果は一目瞭然と言えますね。

「早期」を超える「超早期」発見

 一番知りたいのは、どの部位のがんがわかるのか?

 がんの大きさもわかるのか?

 特に転移・再発の恐怖を抱える患者にとっては切実な問題です。長谷川克之さんによると、「それぞれの部位ごとに光の形や大きさに特徴がありますから、判別が可能になります」と力強い答え。

 現段階で実験済みなのは、胃がん・大腸がん・食道がん、そして、発見が一番難しいとされるすい臓がんの消化器系。これは共同研究を行う昭和大学伊藤寛晃講師が消化器センター勤務のためだそうです。

 理論上は乳がん・子宮がんなどの婦人科系、また皮膚がん、喉頭がんなども可能だそうで、今後は「血液のがん」と呼ばれる白血病も試したいとのことです。

 また、CTやPETなどの画像検査ではがんが発見できるのは、腫瘍が10ミリ以上の大きさに成長してからとされていますが、この手法ではどうなのでしょうか?

「どんなに小さながんでも血液中のヌクレオソームの光を捉えるので、0.1ミリといったがんの『芽』を見つけることができます。」

 腫瘍そのものを肉眼で見つけるのではなく、あくまでも血液中に含まれるがん関連物質の分子を検出するので、「早期発見」どころか「『超』早期発見」が可能になるというのです。

 そして、これほどの診断がわずか3分という短時間でできるのは、4〜5日かかる前処理が必要ないためだとか。

 必要な血液量も5マイクロリットルと1滴にも満たないため、他の検査のついでに残った血液でパッと診断することが可能です。実用化すれば、まさに手間も痛みもいらない夢のような診断ですね。

もともと金属部品の会社だった

 (有)マイテックは、1999年創業当時は大手メーカーの機械加工を請け負っていましたが、代替わりして2005年にバイオ事業に転換。2010年に独自の量子結晶技術を活用して、従来の物理的加工法ではない化学的手法の新技術であらゆる分子の検出を可能にしたそうです。

 検出される分子は、がんだけではありません。応用範囲は無限だといいます。たとえば、製薬、農業、食品関連等の開発・検出・検査。ダイオキシン等の環境汚染物質の検出・水質・土壌分析。毒ガスや生物化学兵器の検知などバイオテロ対策まで。

 なにやらとてつもないスケール感ですが、実は2人とも医学知識はゼロだったというから驚きです。

 「何も知らないのがよかった。縛りがないから、『これはあかん』と思ったら、すぐに違う実験に切り替える。どこにも所属してないから『あなた専門外でしょ?』なんて誰にも文句言われない。専門なんてないから自由なんです」と笑う克之さん。

 この研究に関しては公的な補助金も受けず、可能な限り自己資金。東京に実験に行くのも飛行機代がもったいないからと半日かけて車で通い、裕起さんは大学を中退し学習塾で講師のアルバイトをしながら研究を続けてきました。2人きりの小さな研究室で親子喧嘩をしながら、この研究が一日も早く実用化されることを願っています。

 もうその願いがかなう日は目前まで来ているかもしれません。

 すでに日本や中国などで特許取得済み。世界中で30〜40か国の権利化を目指しているそうです。保険適用は視野に入れていませんが、1年後にも実用化を目指し、費用は数千〜数万円を想定しているとか。

 2人は夢をこのように語っています。

「実用化されれば、離島の人でも検査チップさえ送ればがんが判定できる。医療格差の解消につなげたい。私たちは世界で一番小さなグローバル企業を目指しています」

現代ビジネス 2015年7月4日

「がんが消える」患者は決してゼロではない
『がんが自然に治る生き方』を医師として読んで
西 智弘 川崎市立井田病院・かわさき総合ケアセンター医師

 「アメリカでベストセラーとなり、日本でも版を重ねている」と聞いたのが、『がんが自然に治る生き方』(ケリー・ターナー著/プレジデント社)を手にとるきっかけでした。医師として、その人気の理由を知りたいと思いました。精読したあと、多くの方と本書の発するメッセージと、本書を読む際の注意点を共有したくて、患者さんや医療関係者を対象とした読書会で取り上げるに至りました。

 本書では、著者が調査・取材した「劇的な寛解」の100余りの事例から導き出された9つの共通点が仮説として示されています。世界中に、厳しい余命宣告を受けながらも、そこから劇的な快復を見せ、がんが消えたり長期生存したりする方たちがいるのです。

 また、著者が出会った腫瘍内科医たちは皆「がんを劇的に寛解させた患者」を診たことがある、と回答したそうです。

 かくいう私も、ここ10年ほどでがんが自然に寛解したり進行しない例については何件も目の当たりにしてきました。

 たとえば悪性リンパ腫と宣告され、抗がん剤治療をすすめられていたAさんという男性の患者さんがいます。Aさんは抗がん剤治療を頑なに拒み、途中からぱったりと病院に現れなくなりました。そして「具合が悪くなっては受診し、抗がん剤治療をすすめられると、姿を消す……」ということを繰り返していました。

 まるで“いたちごっこ”のような日々の末、ようやく抗がん剤治療に踏み切ろうとしたAさんの患部のCTを撮ったところ、進行しているに違いない……と思っていた病巣が見当たらなくなっていたのです。当時の私は主治医ではなく担当医として関わっていたのですが、「そもそも最初の診断が誤診だったのではないか?」と問うAさんの怒りの表情は、今も瞼に焼き付いています。

※ 注:きちんと組織検査はしていましたしAさんは数年後、同じところにがんが再燃したため、誤診ではありませんでした。

緩和ケア病棟から退院する人も

 また、次のような例もあります。ホスピスに入所してきたBさんという女性の「末期がん」と他院で宣告された患者さんのケースです。

 彼女は、余命約3カ月と宣告されていて、緩和ケア病棟に入るために自宅を売り払い、身辺整理を済ませてきました。しかし、入院後に何度検査をしても、がんの影は小さいまま。3カ月で亡くなるどころか1年以上たってもがんは大きくならず、日常生活にも支障はないので、ご自身の人生のためにも退院することをおすすめしたところ「資産も戻る家も処分してしまって帰る場所も無いのに」と、困惑していらっしゃいました。

 最終的にBさんは緩和ケア病棟から退院となり介護施設に移りましたが、その後もしばらく、がんは全く進行せず数年間長生きすることができました。

 もちろん、これらは一般的なことではなく極めてレアなケースです。しかしこのような自然な寛解だったり「進行しないがん」の可能性がゼロではない、という事実は、もっと知られてもよいと感じます。それに、抗がん剤治療をすることで寛解にいたる例も、固形がんであったとしても決してゼロではありません。

 しかも、AさんもBさんも、本書に挙げられている「9つの実践項目」、たとえば「抜本的に食事を変える」などの取り組みを、意識的に実践してはいなかったはずです。

 このように、がんとはある意味不思議な病気で、統計的な予測を覆す側面を少なからずはらんでいます。それにもかかわらず、本書では最初に「これは仮説です」と前置きしていながら、読んでいると「明日から実践しましょう」と書かれているところ、そして「これが『がんが自然に治る生き方』です」とタイトルに示しているところが、注意して読むべき本と思った理由です。

「治療の手引き」として読むべきではない

 本書に挙げられていた「劇的な寛解」のある事例についても指摘すべき点があります。

 ドンナさんという58歳の女性のケースです。

 彼女はステージ3の進行性結腸がんと診断され、腸の切除手術を経て、人工肛門を形成するに至ります。そして術後数週間後から、再発を抑えるための抗がん剤治療に挑みます。しかし白血球減少などの副作用で集中治療室に入院することになってしまった彼女は医師から、今後の抗がん剤治療の中断と帰宅をすすめられることになります。

 そこでドンナさんが選択したのは、カナダの「クーガーマウンテンセラピー・センター」で行われる、鍼とハーブによる集中治療のプログラムです。それは「抗がん剤を身体から出しきったほうがよい」という瞑想サークルの友人の助言によるものでした。

 プログラムの期間中、ドンナさんは健康的な野菜と魚の料理を楽しみ、磁器パルサー発生装置による治療を受け、さらには参加者との交流で過去の感情を発散させていたそうです。

 当初は、「歩くのもままならない」という状態で到着した彼女でしたが、10日間のプログラムが終了したときには何キロも歩けるようになっていたといいます。

 それから彼女は通常の生活に戻り、愛する孫の成長を見守り、肉や小麦、砂糖、乳製品を控えた食事療法、ビタミン剤の摂取や瞑想を続けます。そして退院から2年目、人工肛門を外せるまでに快復を遂げます。さらにそれから6年以上経っても、ドンナさんは小康状態を保ち、孫の子守りやボランティア活動に励んでいるのだそうです。

 この描写から、「クーガーマウンテンセラピー・センターのプログラムに参加した結果、元気になった」というメッセージを一般的には読み取るかもしれません。しかし、こういったケースを「劇的な寛解」と取り上げていることも、本書を注意して読んだ方がいい理由のひとつです。

 もちろん、このプログラムがドンナさんのメンタル面を強化してくれたということはあるかもしれません。しかし厳密に言えば、彼女がこのプログラムに参加をしていなくても、快方へと向かっていた可能性は高いのです。

 なぜなら一般的に、抗がん剤治療の副作用で体調が悪かったのであれば、それを中止するだけでも、体調の快復が得られることは珍しくはないからです。そして、ステージ3で手術をしたのであれば、その後抗がん剤をしなくても再発しない、という可能性も少なくはなく、つまりはこのプログラムで治った、というよりはがんの手術でがんが治った、という可能性の方が高いのです。

 この9つの実践で万人が治るわけではない「仮説」である以上、この本をそういった「治療の手引き」としてとらえるならそれはやはり注意した方がよいと言わざるを得ません。でも、その点に注意したうえで、前向きに生きるためのヒント、がんを持ちながら生きるためのヒントを得るための本としては、読む価値があるかもしれません。

 我々医療者は、科学者として伝えるべきことはきちんと伝えるべきだし、危険な治療法や詐欺に患者さんが向かおうとしているのなら、それは止めるべきと思っています。しかし一方で、患者さん達がいかに前向きに人生を生ききることができるかを常に考え続けないとならないとも思っています。この本を読んだことをきっかけに、患者さんが前向きな希望を持てた、というのであれば、この本はひとつの役割を果たしたと言えると思いますし、その「希望」自体を私が否定するものではありません。それならば私は、人間としてその希望を支えつつ、医学の科学者としてアドバイスをしつつ、患者さんの生きる道に寄り添って行きたいと思います。

西 智弘(にし・ともひろ)
川崎市立井田病院・かわさき総合ケアセンター医師。2005年、北海道大学医学部卒。家庭医療を志した後、緩和ケアに魅了され、緩和ケア・腫瘍内科医として研修を受ける。2012年から現職。緩和ケアチームの業務を中心として、腫瘍内科、在宅医療にも関わる。日本内科学会認定内科医、がん治療認定医、がん薬物療法専門医。http://tonishi0610.blogspot.jp/

President ONLINE 2015年7月4日

血液、唾液の検査で頭頸部がんの早期発見が可能に
非侵襲的ながん検出に期待
 頭頸部がん患者の血液・唾液中に含まれる腫瘍由来のDNAが発見されたと、米ジョンズ・ホプキンズ大学の研究グループが報告した。研究を率いた耳鼻咽喉・頭頸部外科准教授のNishant Agrawal氏は、「腫瘍DNAはスクリーニング、早期発見、治療時のモニタリングおよび治療後の経過観察に利用できる可能性がある」と述べ、近い将来には非侵襲的ながん検査が実現するとの見通しを示している。

 Agrawal氏によると、今回の研究は100人未満の患者を対象とした予備的なものであり、検査の性能を向上させて的確な適応症を定めるには、さらに大規模な研究を実施する必要があるという。目標は、頭頸部がんの残留や再発の監視のほか、一般集団またはハイリスク集団の頭頸部がんスクリーニングにもこの検査を利用できるようにすることだと、同氏は付け加えている。この報告は「Science Translational Medicine」に6月24日掲載された。

 頭頸部がんの主な危険因子はアルコール、タバコ(噛みタバコを含む)、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染であり、がんは口唇、前舌部、頬および歯肉を含めた口腔、喉の後壁および喉頭に発生する。

 今回の研究では、頭頸部がんと新たに診断されたか、再発した患者93人の唾液を採取し、47人からは血液も採取した。71人(76%)の唾液検体および41人(87%)の血液検体に腫瘍DNAが見つかった。血液と唾液の両方を採取した47人のうち45人で、少なくともいずれかの体液中に腫瘍DNAを特定できた。

 具体的には、頭頸部がんの増加の原因となっているHPVの痕跡を調べたほか、HPVに無関係のがんについては、特定のがん関連遺伝子の変異を調べた。結果を分析すると、唾液検査は口腔がん、血液検査は喉のがんの発見に優れていた。2つを併用すれば、がんがどこにあっても発見することができるとAgrawal氏は述べている。この検査の費用は数百ドルになると予想されるが、同氏は50ドル未満が理想だとしている。

 米国がん協会(ACS)のLeonard Lichtenfeld氏は、このような検査が成功すれば、がんの早期発見・治療に大きく貢献するはずだと述べている。他のがんについても、特異的なDNA変異が発見されれば、それを検出する血液検査が可能になると同氏は述べ、「今回の研究は初期段階のものだが、その実現が可能であることを示す一歩だ」と付け加えている。

m3.com 2015年7月6日

がんができる新たな仕組みを発見!
細胞分裂の鍵となるタンパク質「サイクリンE」、多すぎると乳がんや白血病に
細胞分裂中にDNAが綱引きされる

 過ぎたるはなお及ばざるがごとし。このことわざは、細胞分裂にも当てはまるようだ。

 細胞分裂の鍵となる「サイクリンE」というタンパク質が多すぎると、DNAが綱引き状態となり、がん化してしまうような遺伝子の突然変異が生み出されると分かったのだ。

細胞分裂の鍵「サイクリンE」

 米国スクリプス研究所を中心とした研究グループが、生物学の専門誌カレント・バイオロジー誌で2015年5月7日に報告、同日に研究所のウェブサイトで紹介した。

 細胞は2つに分裂するときに、遺伝子を保っている「DNA」を複製し、同じコピーをそれぞれの新しい細胞に分配する必要がある。

 正常な細胞分裂では、「Cdk2」という酵素にサイクリンEがくっついて始まる。Cdk2が活性化して、DNAの複製に向かう。つまり、適量のサイクリンEは細胞分裂に欠かせない。

 ところがサイクリンEは、「多すぎるとがん化につながる」と、研究リーダーのスティーブン・リード氏は説明する。

どうしてがんにつながるのか?

 研究グループはこれまでの研究で、サイクリンEが過剰に存在するがん細胞があり、そのような乳がんの人は生存率が低いと発見した。

 また、サイクリンEが多すぎると、細胞分裂中にDNAが不安定になり、遺伝子に部分的な重複や欠失といった突然変異が起こりやすくなると突き止めた。

 今回研究グループは、そのメカニズムの解明に挑んだ。

DNAが綱引きされていた

 研究グループはまず、正常の人の乳腺細胞と、この細胞を遺伝子操作してサイクリンEを乳がん細胞と同程度に過剰に作らせたものを用意した。両者を比較して、サイクリンEの働きを調べた。

 結果、サイクリンEが過剰な細胞は、DNAの複製にかかる時間が顕著に長くなっていた。

 さらに、DNAが複製を終えるのを待たずに、細胞分裂が次のステップに移ろうとしているのが見つかった。

 DNAは、複製しようとする力と次のステップに移ろうとする力の両者によって「綱引き」されたような状態となり、ちぎれるか、引っ張られたどちらかに行くしかなくなっていた。その結果、DNAは欠失や損傷を起こしていた。

 この様子は、蛍光で視覚化して実際に目で確かめられた。

がんにつながるDNA損傷も

 サイクリンEが過剰な細胞で突然変異が起こりやすいのは、綱引き状態が生じた結果だったと分かったところで、研究グループは次にこの現象とがんとの関連性について調べた。

 サイクリンEが過剰な細胞で欠失が生じているDNAの部分を調べてみると、弱い部分に該当しており、複製が難しいと既に知られている部分が多かった。

 がん細胞のDNA配列データベースを使ってさらに検証を進めたところ、乳がんで突然変異が起きていると知られている16カ所のうち6カ所は、サイクリンEが過剰に存在していることと直接関係があった。さらにそのうちの1カ所は、既に白血病でサイクリンEとの関連性が証明されている部分だった。

なぜ強引に先に進もうとするのか

 今回は、サイクリンEが多くDNA複製が遅いと、なぜ待たずに次の細胞分裂のステップへ進もうとするのか、その理由の解明までには至らなかった。研究グループは、何らかのチェックポイントが無視される仕組みが働くのではないかと予測している。

 研究グループは、次はDNA欠失からがんになるまでの過程を詳細に解明したいと考えている。その1ステップとして、サイクリンEの過剰によりDNA損傷を受けた細胞の、ゲノムDNA全体の配列決定を計画している。

 こういうがんを導くメカニズムがはっきりするほど、裏返せば、がんを止める方法の特定にもつながることになる。

Medエッジ 2015年7月8日

微小乳癌を術中に迅速可視化
東大など、蛍光試薬用いた検出技術を開発
 東京大学大学院薬学系・医学系研究科の浦野恭照教授、九州大学病院別府病院の三森功士教授、米国の国立衛生研究所の小林久隆主任研究員らの研究グループは、手術中に微小乳がんを迅速に検出する技術を開発した。

 新たに開発した蛍光イメージング試薬を用い、1ミリメートル以下の微小な乳腺腫瘍であっても数分で選択的に可視化する。乳がん部分切除手術では微小がんの取り残しが問題となっている。切除断端で微小がんを見つけることができれば局所再発の頻度が劇的に低減される。現在、スプレー蛍光試薬の臨床医薬品として実用化研究に取り組んでいる。

 研究グループは、2011年に開発したがん細胞で活性化するたんぱく質分解酵素(ガンマ−グルタミルトランスペプチターゼ)の活性を敏感に検出できる蛍光プローブを開発。今回、乳がん手術で摘出した検体に散布して有効性を検証した。

 その結果、非浸潤性乳管がんなど、さまざまな乳腺腫瘍を光らせ、これまで肉眼では分からなかった腫瘍を可視化した。とくに乳管内部の1ミリメートル以下のがん組織にも有効で、蛍光プローブ散布から5分程度で選択的に強い蛍光強度が得られた。

 第一弾は、病理診断における摘出した検体の微小がんの検出。また、体内使用も想定しており、東京大学エッジキャピタルから投資を受けた蛍光色素専業メーカーの五陵化薬(札幌市北区、7月から五陵化学から社名変更)と共同で臨床試験に向けた安全性試験を開始する。

m3.com 2015年7月15日

iPS癌免疫細胞療法、千葉大研究開始
理研と共同、3年内の医師臨床試験目指す
 千葉大学医学部付属病院は理化学研究所と、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いたがん免疫細胞治療の共同研究を開始した。現在、理化学研究所が頭頸部がんを対象に非臨床試験をしている。医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を始めており、3年以内をめどに千葉大で医師主導臨床試験を開始することを見込んでいる。

 同大学は、未承認の医薬品や医療機器をともなう高度医療である「先進医療B」として、「進行頭頸部扁平上皮がんで標準治療後の再発予防」に対するナチュラルキラーT(NKT)免疫細胞療法を2年間実施してきた。

 患者自身の血液を採血し、強い抗腫瘍効果があるとされるNKT細胞を取り出して活性化させ、樹状細胞として患者に投与する。鼻内投与が有効であることが分かった。また、再発咽頭がんの患者を対象に、NKT細胞を腫瘍の栄養血管に直接投与したところ、約半数の患者に腫瘍の縮小効果がみられた。ただ、NKT細胞は血液中ではリンパ球全体の0・1%以下で、増やす量には限界があり、患者の状態によってはあまり増えないなどの欠点があった。また、がんが完全に消滅した人はいなかった。

 理化学研究所はNKT細胞から、山中因子を利用した「iPS−NKT細胞」の作製に成功。非臨床試験で動脈投与療法の開発を進めている。iPS−NKT細胞は、がんを直接攻撃することが期待される。「繰り返し多数のiPS−NKT細胞を投与できれば、さらに大きな効果があると考えられる」(千葉大学耳鼻咽頭科・頭頸部腫瘍学 岡本美孝教授)。

 免疫学的に似た人から作ったiPS−NKT細胞を増やして用いるため、患者の負担も少なくコストも安い。頭頸部がんで効果が確認されれば、他の腫瘍にも適応が拡大される。

 今後、有効性・安全性を確認したのち、厚生労働省の許可を得て、ヒトの頭頸部腫瘍などを対象とした臨床試験を実施する。理化学研究所が基礎研究や非臨床試験を実施し、千葉大学はiPS−NKT臨床試験、同治験の実施を行い、理研ベンチャーである理研免疫再生医学が企業治験を目指した準備などに取り組む予定。がんに対するiPS細胞を利用した臨床試験は世界初となる。

m3.com 2015年7月17日

ストレス強いほど下痢や腹痛、がんにもつながる「炎症性腸疾患」
 ストレスを強く感じるほど、炎症性腸疾患の症状も強く感じやすくなる。がんにもつながり得る炎症も悪化させる?

炎症を伴う腸の病気

 カナダのマニトバ大学の研究グループが胃腸科分野の専門誌アメリカン・ジャーナル・オブ・ガストロエンテロロジー誌2015年7月号で報告した。

 「クローン病(CD)」「潰瘍性大腸炎(UC)」などの「炎症性腸疾患(IBD)」は、長く下痢が続く原因不明の難病。放っておくと大腸がんへ移行する場合がある。

 これまでの研究から、炎症成長疾患の人にとって、ストレスは、腸炎の自覚症状を悪化させる原因になるというデータが得られている。

 今回研究グループは、ストレスを感じると実際の炎症の状態も悪化するのかどうか、検証を行った。炎症はがんの発生とも関係すると知られる。関係の有無は見過ごせない。

炎症も促す?

 対象者は炎症性腸疾患の478人。症状やストレスの調査と検便による炎症の検査を受けてもらった。

 症状の度合いについては、病気の内容ごとに3つの指標に基づいて行われた。潰瘍性大腸炎の症状は「マニトバIBD指標(MIBDI)」、クローン病の症状は「ハーベイ・ブラッドショウ指標(HBI)」、潰瘍性大腸炎の症状は「パウエル・タック指標(PTI)」で評価した。

 ストレスの度合いについては、「コーエンの自覚ストレス尺度(CPSS)」によって測定した。

 腸炎の度合いは、便の中に増えると炎症が強いと判定できるタンパク質の一種である「便中カルプロテクチン(FCAL)」の測定値で判断した。便1g当たりFCALが250μg(マイクログラム、マイクロは100万分の1)以上となると、炎症が顕著であると判断される。

 得られたデータを基にして統計学的に解析を行い、腸炎、ストレスの度合い、症状の強さの間で関連性を評価した。

直接はつながらず

 感じたストレスの度合いが増えると、クローン病、潰瘍性大腸炎ともに症状は強くなっていた。ストレスの尺度であるCPSSが1ポイント増加すると、炎症性腸疾患の症状の強さは7%ほど悪化していた。

 一方で、ストレスはクローン病、潰瘍性大腸炎ともに、炎症の度合いには影響していなかった。

 また、炎症性腸疾患の症状が強い場合(MIBDIが3以下)は強くない場合に比べて、潰瘍性大腸炎の炎症についてはリスクが3.94倍ほど高かった。クローン病の炎症は、症状の強さには関係していなかった。

いずれにせよ注意を

 今回の検証により、ストレスを強く感じるほど、炎症性腸疾患の症状も強く感じやすくなるが、実際の炎症が強まっているわけではないようだと分かった。

 炎症によって、症状が起こってくる一方で、ストレスがまた異なる仕組みで働く。さらに長期にわたる調査も必要と研究グループは付け加える。

 いずれにせよストレスは症状のもと。注意は必要と言えそうだ。

Medエッジ 2015年7月18日

「がんからの生還者」から学ぶ「治る人」の共通点
『がんが自然に治る生き方』を医師として読んで
岡本裕:医師、医学博士 医療相談ウェブサイト「e−クリニック」(http://www.e-clinic21.or.jp/)を運営する

 がんというのは、特殊な病気です。

 ほかの病気と決定的に違う点は、「治し方」が患者さん一人ひとりによって異なることです。もちろん、ガイドラインに沿った標準治療は存在します。しかしそれ以上に「患者さんが心に抱えている問題」にまで踏み込む必要があることが多いのです。平たく言うと、心の持ちようで、治るペースが遅くも早くもなります。

 『がんが自然に治る生き方』(ケリー・ターナー著/プレジデント社)には、医学的・科学的には説明のつきにくい劇的な寛解の事例が「逸脱した事例」と総称して、数多く登場しています。

 私自身も、本書に挙げられていたような「逸脱した事例」を目にしたことは多々あります。今まで、のべ約4000名のがん患者さんの医療相談に応えてきましたが、体感では年間4〜5例、逸脱した事例に接したと記憶しています。

「知らない間にがんが消えた」という人も

 私が実際に患者さんに接した例は、大きく2つのグループに分けられます。

 まずは、ある老人福祉施設に入所中のがん患者さんの場合です。

 年齢を重ねている患者さんの場合、おなかにメスを入れるだけで、相当な負担となることがあります。

 そのため、手術が可能な範囲であっても、本人やご家族と話し合い、積極的な手術には挑戦せず、あえて見守ることもあります。

 「手術に挑まず、経過を見守る」という選択に、ご本人もホッとされる部分もあるのでしょうか。そういう方の中には「なぜかがんが見当たらなくなっていた」、もしくは「進行しないがんと数年間共存して、老衰で亡くなった」ということがよくあります。

 もっとも、その老人福祉施設は「食養生」や運動を実践しています。それらの努力が、がん細胞の消滅や、肥大抑止に、功を奏しているのかもしれません。

 一方で、この本の「9つの実践項目」に相当するような事柄に留意をせず、切除手術もしていないのに「がんが知らない間に消えた」という人たちにもお目にかかります。これらも「逸脱した事例」です。

 私はこれらの「逸脱した事例」には、共通した理由が、必ずと言ってよいほど存在していると感じています。

3大治療は「時間稼ぎ」にすぎない

 私たちは、「e−クリニック」というウェブサイト上で、日々個別の相談を受け付けています。そのため、一度相談に乗ったことのある方が「サバイバー」(がんからの生還者)となり、連絡をくださることも少なくありません。実は、サバイバーの方こそ、がんとうまく付き合うコツを知っています。

 私は彼らと接しながら、このような問いかけをよく繰り返しています。

 「がんが治る人と治らない人との決定的な違いは?」と。

 やはり「考え方を変えた」「食事を変えた」という違いが、よく挙げられます。つまり、「今までのままでは駄目」ということなのです。今までの自分がストレスを増長させ、病気になったわけなのですから、積極的に患者さんが「自分自身」を変える必要があるのです。

 まずは食生活を変えることから始め、趣味や旅行、働き方、人とのお付き合いの仕方まで。具体的なことを変えると、「考え方」は大きく変化し、それまでに負荷としてかかっていたストレスを減らすことにもつながるのです。そして、どうしても「時間稼ぎ」が必要な場合には、がんの3大治療(西洋医学)も上手に利用すればよいのです。

 そもそも、3大治療とは万能なものではなく、「時間稼ぎ」にすぎないことを理解しておく必要があります。3大治療は、ほとんどが対症治療です。がんには対症治療だけでなく根本治療が不可欠です。

 がんの根本治療とは、すなわち自身の自己治癒力を高めて、がんの病勢に打ち勝つこと。そのためには3大治療とは別にどうしても自己治癒力を高める手段が不可欠となります。今までの生き方や過度なストレスが、自己治癒力を低下させ、がんを発生させたのですから、今までの生き方や考え方を変えることが大切です。

 私たちは自己治癒力を有意に高めるため、がん患者さんに中医学(気功、中医薬)などの補完代替療法を奨めています。もちろん、3大治療を頭ごなしに否定するわけではありません。上手に活用すれば非常に有用です。

 しかしながら、主治医の言いなりに3大治療を受けるのではなく、必ず次に述べる2点をしっかりと押さえて欲しいのです。

 1点目は、「やろうとする治療法の目的」「メリットとリスク」「治療の根拠」「代替案の有無」を担当医に訊いておくことです。

 また目指すところが「根治」か「微々たる延命治療」か、はたまた「機能回復」「緩和治療」か、「形ばかりのアリバイ治療」かも、確かめておきましょう。

 2点目は、「匙加減が可能かどうか」を確認しておくことです。今や欧米では標準治療を基準にしながらも、抗がん剤の投与量を微調整するなど、個人に合った治療を行っています。そのような小まめな配慮をしてくれるかどうかも最初に訊いておきたいところです。

医師と患者で異なる「治る」の意味合い

 そして患者さんは「治る」ということに関して、正しく認識してほしいと思います。

 実は「治る」という言葉は、医師サイドと患者サイドで、大きな差があるのです。

 多くの患者さんにとって「治る」は「元気で長生きする」ことであるはずです。

 しかし、たとえば抗がん剤を手がける医師から見た場合、抗がん剤によってがんが50%以上縮小した期間が最低4週間あれば、「効果あり」と認められます。

 極端なことを言えば、患者さんのがんが50%以上小さくなって、抗がん剤治療の4週間後に亡くなったとしても。医師からすると、そのケースは「抗がん剤は効いた」、そして「抗がん剤によってがんが治った」ということになるのです。これは、患者さんにとっての「効く」とは、かなりかけ離れたイメージではないでしょうか。

 医療の現場においては、患者さんと医師の認識の間に、このような乖離がしばしばあります。

 そして突き詰めて考えると、優秀な医師が最先端の医療を活用しても、「治す」ことができない病も少なからずあります。

 私自身、若い頃は脳外科の道を選んで脳外科のスペシャリストを目指しました。ところがどれだけ技を尽くしても、治したい人を思うようには治せないのです。脳外科医だった当時、「医療とは何のためにあるか?」という根本的な問いに自分自身が答えられなくなり、医療の最前線から「降りる」ことにしました。そして、患者さんの患部に限らず、人格をも含めた全体を捉える方向へと考え方をシフトしました。すると、違った風景が見えてきたのです。サバイバーを目の当たりにしたとき、私は彼らから多いに学ぶべきだと気付いたのです。

 一般的な医療の現場では、標準治療以外で治った患者さん(「逸脱した事例」)は「例外」とされ、「なぜ治ったのか」という点に関してはまったく関心を持たれなくなります。それは非常にもったいないことです。

 本質的なことを言えば、たとえ「例外」でも治ればいいはずです。「例外」というレッテルを貼るのなら、その「例外」の事例を増やせばよいのです。どうしたら「例外」が増えるか、どのようなことで「例外」が増えるか、本書のように共通項を探して、広く一般に広めればよいのです。

 「例外」となる確率が上がることには、本書にあったようなヨガや呼吸法、食生活の改善など、さまざまな要素があります。

 私たちは、ときにサバイバーを含むがんの患者会の皆さんと共に活動しています。結局のところ、本書にあるような「治っている人がいる」という事実こそ、がん患者さんの直接的な励みとなるからです。

 サバイバーが気軽に情報を発信したり、誰もがアクセスできるウェブ上のシステムや、リアルなコミュニティーが各地にできれば、がんに対するイメージも変わってくると思います。

※ 本稿で紹介している『がんが自然に治る生き方』原作(ケリー・ターナー著)のウェブサイト(http://www.radicalremission.com/)では、劇的な寛解(がんが自然に寛解したり進行しない例)について、誰でも投稿・公開できるようになっています。


岡本裕(おかもと・ゆたか)
医師、医学博士。1957年生まれ、大阪大学医学部、同大学院医学部卒業。麻酔科、ICUの研修を経て脳外科専門医になり、悪性脳腫瘍の治療に取り組む。細胞工学センターでがんの免疫療法、遺伝子治療の研究を行う。その後、現在の医療・医学に疑問を持ち、仲間の医師たちと「21世紀の医療・医学を考える会」を設立。 2001年から、本音で応える医療相談ウェブサイト「e−クリニック」(http://www.e-clinic21.or.jp/)を運営する。


President ONLINE 2015年7月18日

定期的なマンモグラムが乳がんの「過剰診断」につながる可能性
スクリーニングで死亡率に有意差なし
 マンモグラムによる定期的な乳がんスクリーニングが「過剰診断」の原因となり、一部の女性が不必要な治療を受けている可能性のあることが、米ハーバード大学およびダートマス大学による研究で示され、「JAMA Internal Medicine」7月6日号に掲載された。

 この知見に対し、米国がん協会(ACS)のRichard Wender氏は、マンモグラムの必要性に疑問を抱く女性が増えることに懸念を示している。同氏によると、これまでの研究ではマンモグラムによって40歳以上の女性の乳がんによる死亡率が少なくとも20%低減することが明らかにされており、その効果については議論の余地はないという。

 一方、米ダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)のHarold Burstein氏は、あらゆる女性が毎年マンモグラムを受ける必要があると反射的に決めつける前に、マンモグラムによってできることとできないことについて、議論を続ける余地があると指摘する。米ワシントン大学(シアトル)のJoann Elmore氏は、今回の知見から、危険な乳がんと即時に治療する必要のない乳腺腫瘍をさらに正確に区別するための研究の必要性が浮き彫りにされたと述べている。

 今回の研究では、米国立がん研究所(NCI)が管理するSEER(Surveillance, Epidemiology and End Results)がん登録簿を用いて、547郡に居住する40歳以上の女性1,600万人の医療データを調べた。このうち2000年に乳がんと診断された5万3,207人を10年間追跡し、各郡のマンモグラム実施率と、2000年時点での乳がん発症率および追跡期間中の乳がんによる死亡率を比較した。

 その結果、スクリーニングの実施率が10%増加すると、乳がんの診断数が全体で16%増加し、2 cm以下の小さな腫瘍の診断数は25%増加した。しかし、乳がんで死亡する女性の数には有意な低減は認められなかった。

 この研究では、最近2年以内にマンモグラムを受けた女性だけに着目し、3〜4年おきに受けている人や全く受けていない人を対象にしていないため、それが結果に影響をもたらした可能性があるとBurstein氏は指摘する。また、追跡期間の長さも十分とはいえず、小さな腫瘍については15〜20年経過しないと死亡率への影響が表れないこともあるとWender氏はいう。また、この研究は大規模なデータセットに基づくものであり、個々の患者に関する情報はあまり得られないと、Burstein氏は述べている。

m3.com 2015年7月21日


医者のがん告知を「冷静に受け入れる」と早死にする
 がんを告知された場合、患者が受ける心理的ショックは大きい。誰でも気持ちが滅入ってしまうことだろう。

 がん告知を受け、手術を受けた後の患者の心理的対応に、その後の治癒の状態が大きく関わっているという研究がある。たとえばがんの術後状態が同じ場合、どちらの態度が「長生き」するのだろうか。

a.冷静に受け入れる

b.(がんであることを)否認し、怒る

 日本人患者はaの態度を取り、医師に従順になる。しかし、痩せ我慢でなければ長生きするのはbらしい。

 鹿児島大大学院の山中寛教授は、aのような態度を取れば、医師の言うとおりの長さの余命になるケースが多いのではないかと疑問を呈す。

「私たちは医師を偉い人と思っているので、従順になりがち。でも余命は誰にもわからない。医師に依存せず、喜怒哀楽を表出するタイプの人こそ長生き。そういう人を多く見てきましたし、私もその好例かもしれません」

 山中教授は主体的にがんと向き合い、医師の余命宣告を大きく裏切って精力的に講演や執筆を行っている。

 「2009年4月に大腸がんが見つかり、すでに肝臓に転移していました。医師の告知は淡々としていて、私の顔を見ずにMRIの画面を見ながら話す。患者の心情に寄り添わない態度に、失望しました。

 まず大腸がんを切りました。次に3カ月〜半年後に肝臓のがんを切除する予定でしたが、大腸がんの手術のときに薬の副作用が強くて、アレルギー反応や薬剤性肝炎などで死にかけました。それなのに、主治医は『手術は大成功』と言う。怒りが込み上げてきました。死にかけているのに、何が大成功だと。

 でも、何も言わずに我慢した。すると症状はますます悪くなった。こういうときに怒りを表出する人が早く治るんですね。それに気づき、薬の副作用もあって肝臓がんの手術に踏み切れませんでした。抗がん剤も使わない、放射線治療も受けない、いわゆる標準治療をしない道を選択しました。『1年後には死にますよ』と医師は言った。淡々としたものです。その後、代替医療や祈り、食事や運動に注意するなどして、今でも生きている。がんは少しずつ大きくなっていますが、医師のバイオロジカルな見立てどおりにはいかない。ひとの命は不思議です」

 そういった体験もあり、山中教授はがん患者の気持ちのあり方に興味を持ったという。

1番長生きしたのは闘争心を持つ人

「イギリスの大学病院のキングス・カレッジというところで、乳がん患者の気持ちの持ち方が延命にどう影響するかを調べたデータがあります。同じ症状の患者に、術後3カ月の心理状態を確認すると、大きく4通りに分かれました。

・絶望している人

・冷静に受容する人

・(がんであることを)否認する人

・闘争心を持つ人

 そういう分類をして、13年後まで追跡調査をした。

 1番長生きしたのは闘争心を持つ人でした。がんなんかに負けないと思った人。2番目が否認する人。医師が間違っている、私はがんじゃないと思うような人です。日本人には冷静に受容しようとする人が多いのですが、そうするとわりと早く死にます。絶望している人も、もちろん長生きできません。

 がんは自分の生き方がつくるもの。それまでの自分の生き方がストレスになってがんをつくる。手術はまだしも、抗がん剤や放射線治療など自分の体の存在自体を忌み嫌って傷つけることを、私はやめた。お利口だから大人しくしていて、という態度です。その代わり、昔の自分の生き方と戦う。がんの原因になったストレッサーを排除して、やさしく丁寧に生活する。この生き方が私には合っていたように思います」

 統計によれば、日本人の2人に1人はなんらかのがんになるという。告知にどう心を構えるか、決して他人事ではない。気持ちの前向きさに、がんの進行が譲歩するのである。

 がんは人生における最大級のピンチだ。しかし、それまでの悪弊を断ち切り、新たなライフスタイルを確立する大チャンスでもあるのだ。

President ONLINE 2015年7月22日

がん検診は人工知能で!
Deep Learningが悪性腫瘍を見逃さない
 がん検診を受けるなら、人工知能を導入した病院に行くべきだ。人工知能をがん検診に応用することで、悪性腫瘍を高精度で見つけ出す技術の開発が進んでいる。メディカルイメージをDeep Learningの手法で解析すると、熟練した医師より正確にがん組織などの病変を見つけ出す。人工知能の進化が、多くの人命を救うと期待されている。

イメージデータから病気を判定

 Deep Learningで、イメージ解析精度が飛躍的に進化している。サンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業Enliticは、Deep Learningを医療データに応用したシステムを開発している。イメージデータをDeep Learningの手法で解析し、病気を判定する。イメージデータにはレントゲン写真、MRI、CTスキャン、顕微鏡写真などが使われる。検査結果に悪性腫瘍などがあるかどうかを高速にかつ正確に判定する。

 Enliticはイメージ解析の技法について、事業の根幹にかかわるとして公開していない。TEDでの講演資料などを基に想像すると、その輪郭が浮かび上がる。まず解析を行う前に、大量のイメージデータを使ってシステムを教育する。上の写真がそのプロセスで、システムに5年経過後に存在している患者のデータと、5年以内に死亡した患者のデータを入力する。5年生存率(5年経過後に生存している患者の比率)を予測するシステムを教育しているのだ。

 ここで使われているデータは病理標本(人体から採取した検体)で、組織の顕微鏡写真を示している。システムは入力イメージから様々な特性を学習する。Enliticが定義する特性とは、組織構造の特徴を示す。具体的には、組織表面と細胞の関係や、細胞とそれを取り巻く部分の関係など、検体の組織構造を指す。システムは、Deep Learningの手法でこれら構造特性を学ぶ。学習が完了したシステムに、被験者の組織イメージを入力すると、5年生存率を算定する。

 また、数多くの被験者の組織イメージの中から、悪性腫瘍など問題の個所を特定する。つまり、システムは組織構造の特性から、悪性腫瘍などを探し出すことができる。今までは専門医が目視で探していたが、ソフトウエアが高精度でこれらの個所を特定する。

人工知能の技法を医療に応用する

 Enlitic創設者でCEOのJeremy Howardは、TEDでの講演やインタビューで、人工知能について見解を述べている。HowardはEnliticを創設する前には、Kaggleで社長を歴任した。Kaggleとはデータサイエンスのベンチャー企業で、企業向けに競合分析などのサービスを提供する。Howardは2014年にEnliticを創設し、データサイエンスの技法を医療に応用する研究を進めている。

 Deep Learningのイメージパターンを把握する高い能力を医療に応用することで、三つの領域で研究が進んでいる。Radiology(放射線医学)では、レントゲン写真やMRIやCTスキャンで体内の組織を把握する。イメージデータから腫瘍特性を解析し、遺伝子情報と組み合わせ診断する。Pathology(病理学)では、人体組織を観察する。組織の顕微鏡写真のイメージを解析する。Dermatology(皮膚科学)では、皮膚の写真から症状を判定する。これら三つの分野でDeep Learningを応用したシステムの開発が進んでいる。人間が正しく判定ができるまでには時間がかかるが、コンピューターは短時間でこれを学習する。

 この手法は、2011年にStanford Medicine(スタンフォード大学医学部)で開発された。Computational Pathologist(C-Path)と呼ばれ、マシンが機械学習の手法でがん組織を識別する。乳がんの識別に適用され、C-Pathは細胞特性を6642種類に分析する。C-Pathを教育して、被験者の組織イメージを入力すると、がん細胞を検出する。

BPnet 2015年8月5日

がん診療、 理不尽な施設格差
エビデンス明確でも保険適用されず、患者が不利益
渡辺亨(浜松オンコロジーセンター院長)

 がん診療の均霑化(きんてんか)が叫ばれて久しい。均霑化とは「平等に恩恵や利益が行き渡るようにすること」。つまり、がんの診断、治療について、地域による違い、病院による違いがないように取りはからいましょう、という努力目標である。

 ガイドラインの普及や標準的治療の考え方が普及した今日、へんちくりんな医局レジメンは陰を潜めた。また、かつては琵琶湖周辺で根強く使われていた乳がんのへんちくりんなDMpCとかいうレジメンも信奉者が次第に減少してきた。しかし、地域、病院、施設によって、「保険がきかないから」という理由でへんちくりんなことをやっているところもある。

 大学病院で診てもらっている再発乳がんの閉経前女性が卵巣摘除術を主治医からすすめられた、ということで、セカンドオピニオンを聞きに来た。

 卵巣摘除術はホルモン感受性のある閉経前乳がんでは、意味のある治療手段であるとは思うのだが、その女性の場合、理由がすこしばっかりおかしい。フルベストラントやアロマターゼ阻害剤、エキセメスタン+アフィニトールは、閉経後でないと使用できないので卵巣摘出手術をする、というのだ。実際、その県では、閉経前女性で、LHRHアゴニストにアロマターゼ阻害剤を併用することは保険で認められないという。

 静岡県は、その意義を正しく認めており、保険でも適切に対応されている。先日NEJMに論文がでたフルベストラントにパルボサイクリブを加えるとPFSが延長する、という試験結果も、閉経前の場合は、LHRHアゴニストとフルベストラントを併用するとなっており、得られた結果も、「閉経前症例では、はじめてのPFS延長効果」となっている。また、SOFTトライアル、TEXTトライアルでも、閉経前にアロマターゼ阻害剤を使用することの有用性が検証されている。

 このように、理屈から考えれば当たり前のこと、そしてエビデンスも明確にしめされてことが、保険では認められないからと患者が不利益を被っているのだ。

 これはおかしいだろう。

m3.com 2015年8月5日

「マイクロDNA」という断片、がんの目印になるかもしれない
さまざまな細胞に固有のマイクロDNAができる
 遺伝情報を持つDNA。その断片である「マイクロDNA」と呼ばれる状態を発見した研究グループが、今度はマイクロDNAがもともとの細胞ごとに異なる固有の特徴を持つと確認した。

 がん細胞の目印になるかもしれない。

エラーで出てくる

 米国バージニア大学医学部を含む研究グループが、生物学の有力誌セル・リポーツ誌2015年6月号で報告した。

 DNAは4種類から成る塩基と呼ばれる分子がつながってできている。マイクロDNAは数年前に発見された短い400塩基未満のDNAだ。細胞の中でDNAをまとめている「染色体」の外に存在している。「環(リング)」の形になっているのが特徴だ。

 マイクロDNAは、DNAから遺伝情報がコピーされるときにエラーが発生して生成される。

問題は固くくっついた場所

 研究グループは、人間のさまざまながん細胞からマイクロDNAを分析。がん細胞ごとに特定のパターンを持つと発見した。

 さらに、さまざまなDNA修復機能に異常のあるニワトリの細胞のマイクロDNAを検証。DNA修復機能の中でも特に「ミスマッチ修復」と呼ばれる塩基対の間違いを修復する機能に関連すると突き止めた。

 マイクロDNAは、DNAの中でも転写活動が活発な部分で発生してくる。不活性な部分では発生しないが、塩基の中でも「グアニン」と「シトシン」という2種類の塩基が対でくっついている「GC塩基対」と呼ばれる部分は結合が固く問題になりやすい。DNAからタンパク質が作られており、その間にいったんRNAに転写されており、このときにエラーが発生しやすい。

 マイクロDNAは特にこのような部分で生成される。

マイクロDNAが多いと要注意か

 DNA修復機能の損傷があると、大腸がんなどのがんになりやすいが、がん細胞は遺伝子の変異や損傷を持つためにマイクロDNAの数が多くなる。またできてくる場所でも特徴があるので、どこのがんかも見えてくる可能性がある。

 将来目印である「バイオマーカー」として利用できる可能性が期待される。

Medエッジ 2015年8月10日

世界初ロボ手術、ICV(下大静脈)内腫瘍血栓腎癌で【米国泌尿器科学会】
レベル3血栓で全例生存、開腹手術の移行なし
 米国泌尿器科学会(AUA)は7月29日、レベル3の下大静脈内腫瘍血栓をロボットで除去した症例について紹介した。世界で初めて成功した症例報告で、The Journal of Urology誌に掲載。

 従来の下大静脈内腫瘍血栓は開腹手術が基本だが、今回のロボット外科手術では、7箇所の小切開と4種類のロボット器具のみを使用して実施。レベル3の下大静脈内腫瘍血栓を有する腎臓癌患者9人がロボット外科治療を受けた。術後約7カ月の追跡調査では、9人全員が生存。8人には再発の兆候はなかったが、1人が脊髄腫瘍でその後再手術を実施していた。

 南カリフォルニア大学泌尿器科(ロサンゼルス)のInderbir S. Gill氏は、「開腹手術への移行や死亡例もなく必要な全手技を実行した今回のロボット手術の効率的な実績は、これからの腎臓、大静脈、肝臓におけるロボット手術への門戸を開いた」と述べるとともに、「まだ初期段階ではあるが、ロボットによる下大静脈内腫瘍血栓切除は将来への大きな可能性がある」と期待感を示している。

m3.com 2015年8月12日

がん治療のためのデータをリアルタイムで取得できる小型の生化学センサー
 世界中で1年間に800万人が亡くなる「がん」の対抗手段としては化学療法・放射線療法などがありますが、いったいがん治療がどれぐらい効果的にできているかをリアルタイムに測定可能なセンサーをMITのコッホ研究所が開発しました。

 実物はピンセットの先でつまめるぐらいのサイズ。

 がん治療において、MRI(磁気共鳴画像)やその他のスキャン技術を用いることで「腫瘍のサイズが現在どれぐらいなのか」を確認することは今でもできますが、治療がどの程度うまくいっているのかを知るには生検に大きく頼っているのが現状。化学療法・放射線療法とも「これぐらいで効く」という最小量がわからないため、確実に効くレベルの治療をすると、大きな副作用が出ることになってしまいます。

 そこで役に立つのが、この小型の生化学センサーです。初回の生体組織検査(生検)時に体内に埋め込むことで、患者のデータをリアルタイムでモニタリングできるようになり、化学療法や放射線療法でそれぞれの状況に応じた適切な治療をすることができるようになるので、副作用も最小限に抑えることができます。

 なお、主としてがん治療に用いられることが想定されていますが、例えば池や湖で異なる場所のpH値や溶存酸素量を調べるなどの環境モニタリングにも使える、と開発に携わったマイケル・シーマ教授は語っています。

 ちなみにシーマ教授はMIT発のベンチャーであるマイクロチップス・バイオテックの共同設立者でもあります。マイクロチップス・バイオテックでは、数百種類の薬を金属の膜の中に収めたマイクロチップを開発。このチップは電気制御で膜を開放することができ、体内に埋め込んでおけば最高で16年は注射や投薬をしなくても薬を取り込むことができます。

GIGAZINE(ギガジン) 2015年8月13日

がん細胞が消滅した人も確認、米国で開発中の新型免疫療法「TCR療法」とは?
治療困難な「多発性骨髄腫」で効果を発揮
 「多発性骨髄腫」という治療の難しい血液のがんがある。

 このたび「TCR療法」と呼ばれる新しいタイプの免疫療法が効果を上げた。

新しい免疫療法「TCR療法」

 米国ペンシルベニア大学医学大学院を中心とした研究グループが、有力科学誌ネイチャーの医学専門版姉妹誌であるネイチャー・メディシン誌2015年8月号で報告した。

 免疫とは、体がもともと持つ、がんや感染症などの異物に抵抗する機能。その免疫の力を利用して、がんを攻撃しようというのが免疫療法だ。

 TCR療法は、遺伝子操作の技術を利用して、免疫によってがんをうまく攻撃しようという新しい治療となる。

 がん細胞表面には、がんの目印となるような「がん抗原」というタンパク質が出ている。遺伝子操作の技術を使うと、がんへの攻撃を担うリンパ球の一つ「T細胞」をこのがん抗原にぴったりくっつく形にすることができる。このがん抗原にくっつくためにT細胞の表面に飛び出すタンパク質を「TCR」と呼ぶ。「T細胞受容体」を略した言葉だ。

 操作を受けたT細胞は、TCRでがん抗原をがっちりつかみ、がん細胞を引き寄せて破壊し殺す。これがTCR療法の真骨頂だ。

治療が難しい「多発性骨髄腫」で検証

 今回研究グループは、多発性骨髄腫という血液のがんに対してTCR療法を実施し、有効性と安全性を検証した。

 この検証は、治療法の実用化に向けて3段階で行われる検証の1番目と2番目である、フェーズ1臨床試験およびフェーズ2臨床試験となった。

 対象者は、多発性骨髄腫の20人。このがんは極めて治療が難しく、5年生存率は50%ほど。

 T細胞の標的として注目したがん抗原は「NY-ESO-1」と「LAGE-1」の2つ。それぞれ多発性骨髄腫の6割で見られる。T細胞の表面を2つの抗原に対応できるようにする。

治療のためのT細胞は点滴で戻す

 研究グループはまず多発性骨髄腫の対象者から採血し、血液の中からT細胞を取り出した。ペンシルベニア大学が独自に開発した方法で遺伝子操作を施す。この操作によりT細胞は、がん抗原「NY-ESO-1」と「LAGE-1」にピッタリくっつくTCRを持つ。

 対象者は先に通常の治療で行われるいわゆる「骨髄移植」である自家幹細胞移植手術を受ける。さらに2日後に、今回のがん抗原に対応可能なTCRを持つT細胞を1人当たり平均24億個、点滴によって体内に戻された。点滴で体に戻されたT細胞は、骨髄に存在するがん細胞を攻撃する役割を負う。

 点滴により、インターロイキン6という炎症性の免疫物質の体内レベルが高くなったが、それが原因の副作用は起きなかった。この点滴が原因で死亡した人もいなかった。

がんが消滅した人も

 T細胞の点滴後、平均21.1カ月追跡調査で、20人中15人が生存し、10人はがんの進行が止まったと確認されている。

 研究グループは、治療の効果を3パターンで確認している。20人のうちで14人では、がん細胞がほぼ検出されなくなるまでの減少を達成した。2人ではがん細胞がゼロまではいかないながらも減少を達成し、病状の改善につなげられた。1人は病状の進行を抑え込み安定させることに成功した。

 TCR療法で作り出したT細胞が減ってきたり、がん細胞が突然変異を起こしてTCRとくっつきにくくなったりした場合は、がんの進行が確認された。

平均生存期間は32.1カ月に

 さらに2015年4月の時点の治療成績についても研究グループは報告している。

 これまでの平均追跡期間は30.1カ月になっている。がんが進行しないでいる平均期間は19.1カ月、平均生存期間は32.1カ月。

 治療の効きにくいがん「多発性骨髄腫」の免疫療法として、今回のTCR療法は安全で効果的と研究グループはまとめている。「血液のがんの免疫療法における重要なステップだ」と研究グループ。

 多発性骨髄腫に対してより幅広く適用できるか。免疫療法への関心も高いだけに、国際的にも注目されそうだ。

Medエッジ 2015年8月14日

炎症からがん、漂白剤と同じ成分に関与、米国MITが報告
突然変異を招く「5クロロシトシン(5CIC)」
 塩素系漂白剤の成分として知られている「次亜塩素酸(じあえんそさん)」。体の中では異物に反応して、この次亜塩素酸が微量に作られる。そこからがんにつながる仕組みがあると分かった。

 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが報告したものだ。

なぜ接点があるのか不明多く

 有力科学誌である米国科学アカデミー紀要オンライン版で2015年8月4日に報告した。

 病気になったり、危険な化学物質にさらされたりすると、炎症が起こってくる。

 慢性的に炎症が続くと、がんが発生すると報告されてきた。

 この炎症とがんとの接点については徐々に見えつつあるが、不明もある。

 研究グループは慢性の炎症ががんを起こす仕組みを調べている。

炎症とは「免疫」の仕組みの一つ

 そもそも炎症は病原体に対抗して起こるもの。異物に抵抗する「免疫」の仕組みの一つとなる。

 炎症が起こると、侵略者は複数の物質で攻撃される。その物質としては、オキシドールとして知られる「過酸化水素」のほか、血管を広がる効果があると注目されている「一酸化窒素」、さらに次亜塩素酸もある。

 それぞれの物質は、侵略者を攻撃する一方で、自分自身の健康な組織にもダメージを与えるので問題になる。

 研究グループは、次亜塩素酸が、健康な組織にあるDNAにあるシトシンにダメージを与えると発見している。シトシンを「5クロロシトシン(5CIC)」という別の化学品に変えてしまう。

突然変異を引き起こす

 DNAはコピーを繰り返して増えていく仕組みがある。その増えていくときにミスが起こると、遺伝情報が変化してがん化にもつながると知られている(DNAの宿痾、がんを生み出し、進化も促す「岡崎フラグメント」という仕組みを参照)。

 研究グループは、DNAの複製を実験的に起こして、5クロロシトシンが発生したときにどのような影響があるかを調べた。

 結果として、突然変異を起こすと突き止めた。人でも炎症性の腸の病気を患う人の組織標本の研究で、高いレベルで5クロロシトシンがあると見つけた。

 病変が集まると突然変異率を30倍にまで高めると結論付けている。

 炎症の悪さが分かりやすい形で見えつつあるようだ。できるだけ和らげたいものだ。

Medエッジ 2015年8月15日

早期乳がんには高線量・短時間の放射線療法がベター
副作用が少なくQOL向上
 早期ステージの乳がんの治療には、比較的短時間の放射線療法コースが優れることが、新たな研究で報告された。少ない線量の放射線を長期間照射するよりも、乳房全体に高線量の放射線を短時間照射するほうが、副作用が少なく、生活の質(QOL)も良好だと明らかにされた。

 研究の第一著者である米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター助教授Simona Shaitelman氏は、「短時間のコースを受けた患者は、家族の面倒をみるうえで困難が少ないと報告している。これは乳がんの放射線療法を受ける女性にとって重要な優先事項だ」と説明し、「患者の多くは家の中でも外でも働く多忙なワーキングマザーであり、多数の重要な仕事をさばいている。われわれもその要求に対処することが重要だ」と付け加えている。この研究は「JAMA Oncology」に8月6日掲載された。

 乳がん患者と治療の選択肢について話し合うとき、医師はこの高線量を用いる方法(寡分割全乳房照射と呼ばれる)の使用を第一に検討すべきだと研究グループは述べている。米国における乳がんの放射線療法は、一般に低線量を長時間照射するものとなっている(通常分割全乳房照射)。研究グループによると、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)のガイドラインでこの新しい寡分割照射の治療を受けるべき患者のうち、実際に受けているのは3分の1にとどまるという。

 今回の研究は40歳以上の早期乳がん(ステージ0〜2)の女性約300人を対象として、乳房温存手術(乳腺腫瘍摘出術)の後、寡分割照射を受ける群と通常の照射を受ける群に患者を無作為に割り付けた。

 その結果、寡分割照射群では通常群に比べ、治療中の乳房痛、湿疹、皮膚の色素沈着、倦怠感などの副作用が少なかった。治療から6カ月後でも、寡分割照射群は通常群に比べて倦怠感が少なく、家族の世話をする際の困難が少なかった。

 米レノックス・ヒル病院(ニューヨーク市)のStephanie Bernik氏は、この高線量の寡分割照射治療では治療時間の短縮による利益が得られるだけでなく、副作用も軽く済むことが示唆されると指摘している。研究著者の1人でMDアンダーソンがんセンター准教授のBenjamin Smith氏は、「今回の研究は文献の欠けていたピースを埋めるもの。短時間の治療コースはもはや単なる選択肢の1つではなく、全乳房照射を必要とする患者との話し合いにおいて優先的に検討すべきものである」と述べている。

m3.com 2015年8月20日

がん細胞を直に集中攻撃 極小カプセル「ナノマシン」の威力
 今年6月、がん治療の現場に朗報が舞い込んだ。切らずに治療できる「ナノマシン」の開発が発表されたのだ。このナノマシン、未来の医療に大変革を起こす可能性を秘めている。

 直径わずか50 nm(1nmは100万分の1mm)の「ナノマシン」が医療に革命を起こしている。

 ナノマシンとは、抗がん剤など様々な機能を詰め込んだ高分子の極小カプセルのこと。東京大学大学院工学系研究科/医学系研究科の片岡一則教授を中心とする研究チームがナノテクノロジーを駆使して開発している。

 その最大の特徴は、体内に取り込まれると自動的にがん細胞を検出し、抗がん剤を用いて「狙い撃ち」することだ。

 臨床ではまず、静脈注射や点滴でナノマシンを人体に注入する。通常、体内に入りこんだ異物は除去されるが、ナノマシンは生体適合性が高く、除去されない仕組みになっており、血管内をスイスイと泳ぐ。

 がん細胞の周辺には、高分子物質が集まる性質(EPR効果)がある。高分子の集合体であるナノマシンはこのEPR効果を利用して、血管の隙間からがん細胞内に侵入する。

「がん細胞の周囲は血管の目が粗く透過性が高い。ナノマシンは血管の目が細かい正常な細胞には届かないが、目が粗いがん細胞には届く絶妙な大きさになっています。そしてがん細胞の核に近づき、集中的に攻撃します」(片岡教授)

 がん細胞は正常の細胞とは違い、やや酸性だ。ナノマシンはpH値の絶妙な違いを感知し、抗がん剤を放出する。

「魔法の弾丸」と呼ばれるナノマシンは、ターゲットとなる組織や細胞に薬を効果的に到達させる「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」を高度に発展させたもの。がん細胞のみを標的とするため、健康な細胞への副作用が少ないことが最大のメリットだ。通常の抗がん剤治療や放射線治療の難点を克服できる。

 さらにナノマシンと放射線を組み合わせた治療法も開発中だ。体外から中性子線を当てると反応してがん細胞を壊す放射線を出す物質をナノマシンに載せ、がん組織に集めるのだ。そのうえで患部に中性子線を当てれば、がん細胞だけが破壊される仕組みである。片岡教授らは、マウスでそれを実証した。この成果は今年6月に公表されたばかり。

「この治療法はMRIでナノマシンががん細胞に集まっていることを確認しながら中性子線を照射して、ピンポイントの放射線治療ができるのでより精度が高い。通常、がんの開腹手術は1か月近くの入院期間で費用もかさみますが、ナノマシンを利用した“切らない手術”が普及すれば、患者の負担を心身とも大幅に軽減できる。将来的にはがんの日帰り手術も期待できます」(片岡教授)

 すでに現在、ナノマシンを利用した5つの抗がん剤臨床試験が進んでおり、乳がん用のナノマシンは今年中にも厚労省に承認申請される予定だ。長寿命にとって大きな壁となるがんを克服する日は一歩一歩近付いている。今後はアルツハイマー病や再生医療への展開も考案中という。

NEWSポストセブン 2015年8月22日

がん治療に光明?
 パソコンの画面上でうごめく無数の細胞。それが時間経過とともに、みるみる小さくしぼみ始め、そして消えていった――。

「悪性の脳腫瘍細胞が入ったフラスコにがん治療用のウイルス“G47Δ(デルタ)”を入れて、時間を追ってその様子を撮影していったものです。まず脳腫瘍細胞の約30個のうちの1個がG47Δに感染し、2日間で全滅しました」

 こう話すのは、G47Δの生みの親、東京大学医科学研究所教授の藤堂具紀(ともき)医師だ。ウイルス療法研究の最先端拠点である米ジョージタウン大学とハーバード大学でがん治療用ウイルスの開発に関わり、G47Δを開発。その後、日本で臨床製剤の製造法を確立させ、がん治療薬として完成させた。

 現在、がん治療といえば、「手術(外科療法)」「薬物治療(化学療法)」「放射線治療」という3大療法が単独で、あるいは組み合わせて行われる。技術の目覚ましい進歩で治るがんも増え、がんサバイバーという言葉もあるように、がんと共存できるようにもなった。それでも国民の死因の第1位であることはかわらない。

 そんななか切望されているのが3大療法に次ぐ治療法の開発。ウイルス療法は有力な候補の一つだ。従来とはまったく異なるアプローチでがんをたたくというこの治療法。どんなものなのか。藤堂氏は解説する。

「ウイルスは宿主の細胞内に入り込み、細胞分裂の仕組みを乗っ取って、増殖していきます。細胞内である程度まで増えると、今度はその細胞の細胞膜を破壊して外に出ていき、また次の細胞に入り込む。これらの性質をがん治療に利用したのが、ウイルス療法です」

 G47Δのもとになったのはヘルペスウイルス(単純ヘルペスI型)。くちびるなどに水疱をつくるタイプで、成人の7〜8割が一度はかかったことのあるありふれたウイルスだ。G47Δは、“γ(ガンマ)34.5”“ICP6”“α(アルファ)47”という三つの遺伝子を遺伝子工学技術によって改変したもので、藤堂氏は、正常細胞で増殖する機能を失わせてがん細胞だけで増え、極端に毒性を弱めることに成功した。

「抗がん剤や放射線治療で副作用が起こるのは、がん細胞だけでなく、正常細胞にも作用が及ぶためです。G47Δはがん細胞だけで増えるので、理論上は副作用を抑えることができます」

 さらに藤堂氏は、「ウイルス療法の注目すべき点は、“免疫の力も味方にする”ところ」と強調する。

 がんと免疫の関係は複雑だ。

 本来、がん細胞には免疫が働きにくい。本人の細胞から発生しているため、仲間の細胞とみなされるからだ。だが、最近になって、がん細胞は正常細胞とは違ったタンパクを持っていることが明らかになった。“がん抗原”と呼ばれるそれらのタンパクがうまく免疫システムに認識されれば、がん細胞は免疫に排除される。

 しかし、がん細胞は免疫がターゲットとする目印を自ら覆い隠してしまうなど、さまざまな“隠れ蓑”があるため、がん抗原が免疫システムになかなか見つからないのだ。

「免疫システムをすり抜けて生き残ったがん細胞は、どんどん増殖を始めます。ところが、G47Δに感染したがん細胞は、ウイルスのタンパクを持った状態で破壊されます。免疫がウイルスを排除する過程で、タンパクによってがん抗原が認識されるため、免疫細胞はウイルスだけでなくがん細胞にも攻撃を仕掛けるようになるのです」(藤堂氏)

“ウイルス感染による抗がん効果+免疫による抗がん効果”。この二つが期待できるところが、ウイルス療法の大きな特徴ということだ。最近、悪性黒色腫(メラノーマ)という皮膚がんに保険適用になった新薬に「免疫チェックポイント阻害薬」がある。これは、免疫細胞の攻撃性を抑えてしまうような信号が免疫細胞に入るのを防ぐ薬だ。「ウイルス療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用すれば、有効性はさらに高まるのではないか」と藤堂氏は期待する。

dot.ドット 2015年8月25日

ガン細胞を元の良性細胞に戻すことが可能である研究結果が明らかに
 ガンは一般的に完治することが難しい疾患として知られていて、手術治療や抗がん剤治療など患者に大きな負担がかかる治療法が適用されるのですが、アメリカにあるMayo Clinic病院の研究グループがガン細胞を元の良性細胞に戻す実験に成功しており、新たなガン治療の方法として大きな注目を集めています。

 通常の細胞は接着タンパク質という物質のおかげで細胞同士がひっつくことができており、この接着タンパク質は上皮組織を形成するのに必要不可欠なガン抑制因子でもあると長い間考えられてきました。しかしながら、Mayo Clinicの研究者たちはこの理論に異論を唱え、接着タンパク質がガン細胞にも存在し、ガン細胞の成長に必要な要素であるという理論を主張していました。接着タンパク質には「ガン抑制因子」と「ガン細胞の成長に必要」という相反する2つの側面をもっている可能性があるというわけです。

 そこで研究グループが実験をしたところ、ガン細胞内に接着タンパク質が存在することがわかり、また、接着タンパク質に異常が発生したときにガン細胞が常軌を逸したスピードで成長することが判明しました。研究グループが主張した理論が正しかったと証明されたというわけです。

 この実験ではもう1つ重要なことが判明しています。それは「接着タンパク質」と「microRNA」という分子に相互作用があることです。通常の細胞同士が接触する場合、microRNAは細胞の成長を促す遺伝子の動きをストップさせる作用があるのですが、ガン細胞内の接着タンパク質に異常が発生すると、microRNAにも異常がでていることがわかりました。

 さらに研究者グループは実験を続け、通常の細胞内にあるmicroRNAを破壊すると、細胞の結合を切断するPLEKHA7というタンパク質の生成が防がれ、細胞が増殖を繰り返しガン細胞に切り替わることが判明しました。また、そのプロセスを反転させる、つまりガン細胞中のmicroRNAを通常レベルにまで修復すると、ガン細胞の成長が止まるどころか、成長が退化し元の細胞に戻ったことが確認されました。簡単に言えば、細胞の過度な増殖と危機的な成長を防ぐ機能(microRNA)を修復することで、ガン細胞の成長をストップさせ元の細胞に戻すことができた、というわけです。

 実験を率いたAntonis Kourtidis博士は「一連の実験により接着タンパク質とmicroRNAというかけ離れた存在同士に相互作用があることがわかったことは、今後のガン治療に光をさすかもしれません」と話しています。ただし、ガン細胞が元の良性な細胞に戻ったのは、急性の乳ガン、肺ガン、膀胱ガンでの場合のみです。研究グループは「厳しい化学療法や手術を必要とせずにガン治療ができる未来がくるかもしれない」と希望を抱いています。

 なお、日本では鳥取大学医学部の研究グループが、2014年にmicroRNAを悪性度の高い未分化ガンに注入すると、正常な細胞に戻すことが可能なことを世界で初めて発見しました。ただし、日本の鳥取大学医学部が行った実験はマウスを使ったものなので、今後の実験により人間への効力が証明されることが期待されるところです。

GIGAZINE 2015年8月27日

乳癌後の筋トレが虚弱化抑制に効果【米国癌協会】
身体機能の喪失防ぎ、早期死亡も予防か
 米国癌協会(ACS)は8月14日、乳癌生存者の身体機能保持にはウェイトリフティングが有効であるとの研究を紹介した。「Journal of Clinical Oncology」誌に掲載された研究論文。

 乳癌生存者は一般集団と比較して、筋力低下や、骨の脆弱化、易疲労性などの虚弱性を来たすリスクが高いと言われる。

 米ペンシルヴェニア大学のJustin C. Brown氏らによる今回研究では、Physical Activity and Lymphedema(PAL)試験のデータを用いて、ウェイトを用いた筋力トレーニングが乳癌生存者の虚弱化を防止するかどうかを検討した。被験者は浸潤や転移のない乳癌生存者295例とし、半数は徐々に強度を上げるウェイトリフティングを週2回実施。1年後に調査を行い、10ポイントのスコア低下があった被験者を身体機能喪失と評価した。

 その結果、身体機能喪失と評価された被験者は対照群147人中24人(16.3%)だったのに対し、ウェイトリフティング群では148人中12人(8.1%)にとどまっていることが分かった。

 研究者らは、身体機能スコアが10ポイント低下するごとに早期死亡リスクが推定6%跳ね上がることを鑑みると本研究結果は早期死亡予防の点から有意義だとしている。

 今回採用したトレーニングでは、1-2ポンドの軽いウェイトから開始し、トレーナーの指導の下で徐々に負荷を増やした。「軽負荷から始め、ゆっくり進行し、体の声を聞くこと。痛みを感じる時は運動量を減らす。ジムに行けない場合は、家庭内にある軽いもの(スープ缶など)を持ち上げてもよい」とBrown氏。リンパ浮腫のある患者の場合、運動時は腕に圧迫帯をつけることが推奨されるとしている。

m3.com 2015年8月28日

大腸がんの早期発見に繋げたいと、美少女ゲームの開発に取り組む医師がいます。
美少女と一緒に便を観察
 「うんコレ」と名付けられた、こちらのスマホゲーム。

 自分の便の状態を報告すると、美少女キャラクターががん細胞等の敵と戦っていくというもの。

 便の状態によっては大腸がんを疑われる事もあり、プレイ中にアラートが出て検診を進められるという、大腸がんの早期発見に一役買うゲームです。

大腸菌を擬人化

 ゲームでは様々な大腸菌が登場し、これらを身にまとう事で戦闘能力を身につける事ができます。

 HPでは「大腸菌擬人化図鑑」を設け、擬人化したキャラクターと共に各菌の特徴が説明されています。

過去に難病を患った医師が開発

 うんコレは無料公開を目指して、現在研究・開発中です。

 中心になって手掛けているのは、石井洋介さん。石井さんは現役の若手外科医で、過去に潰瘍性大腸炎という難病を経験しています。

 15歳の時に発症して数年苦しんだ後、人工肛門を取り付けた事で一命をとりとめました。

 高い技術で石井さんを救った医師に憧れ、自らも医師になる決意をしたそうです。

早期発見で命を救いたい

 外科医として進行したがん患者を目の当たりにし、早期発見・検診の大切さを日々感じていた石井さん。

 しかし“検診は大事だ”と呼びかけるだけでは、効果があまりありません。

 いかに気負わず自分の健康を意識してもらえないかと悩んだ結果、「うんコレ」の制作に至りました。

 また石井さんは、“便で救える命がある”と「日本うんこ学会」を設立。大腸検診率を上げ、がんの早期発見を促すことを目標に活動しています。

次の症状が見られたら受診を

 ちなみに、便に次のような症状が見られたら早急に検査した方が良いと、石井さんは勧めています。

血が出る

細くなる

下痢と便秘を繰り返す

便が残っている感じがする

 「うんコレ」http://unkogakkai.jp/ は、石井さんのほか趣旨に賛同できる人達がボランティアで制作。現在も、制作や学会に興味のある方への参加を呼び掛けています。

IRORIO(イロリオ) 2015年8月31日

胃癌10年罹患確率の予測モデルを作成
国立がん研究センター、生活習慣リスク因子とABC分類を活用
 国立がん研究センターは9月2日、個人が10年間で胃癌に罹患する確率を予測するモデルを作成したと発表した。多目的コホート研究(JPHC研究)で血液を採取できた約1万9000人を16年かけて追跡したデータを基に、ABC分類や生活習慣リスク因子を活用して算出している。同センターでは「モデルの精度は確認済みだが、独立した別の研究での検討は行っておらず、今後は妥当性の確認と実用化が望まれる」と期待している。

 胃癌のリスク因子としてはヘリコバクター・ピロリ菌(Hp)の感染が挙げられ、近年は胃癌リスク分類としてHp感染と委縮性胃炎(AG)の有無を、それぞれ血液測定値から判定し組み合わせたABC分類が用いられるようになってきている。一方で、Hp感染の他にも胃癌に関わる要因として喫煙や高塩分食品などが知られているが、同センターによるとこれらの要因を組み合わせた個人の胃癌リスクを算出する試みはなされていなかった。

 そこで同センターは、生活習慣と癌などの関係を明らかにする目的で、1993年に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所管内で暮らす40‐69歳にアンケートを実施し、採血もできた約1万9000人を2009年まで追跡。喫煙や胃癌の家族歴、高塩分食品の摂取に加え、ABC分類で対象を4群に分けて胃癌予測モデルの構築を試みた。

 ABC分類と性別、年齢と他のリスク因子(喫煙、家族歴、高塩分食品摂取)から10年間で胃癌に罹患するリスクを算出したところ、男性が罹患する確率は0.04%(40歳、Hp陰性、AG無、他のリスク因子無)から14.87%(70歳、Hp陽性、他の全リスク因子有)となった。他のリスク因子を除外した場合の確率は、0.06‐8.71%の範囲に収まった。

 女性の場合は、0.03%(40歳、Hp陰性、AG無、他のリスク因子無)から4.91%(70歳、Hp陽性、他の全リスク因子有)で、他のリスク因子を考慮しない場合は0.04‐2.43%となった。

 さらに、個人で10年間の胃癌罹患確率を算出できるよう、年齢や胃癌の家族歴、ABC分類を簡易スコア化した方法も考案した。

 同センターでは「算出結果は最近のメタ解析結果とも一致しており、男性の10年間胃癌罹患確率は女性より高く、年齢の影響も男性でより強く出る傾向にあった」とコメントしている。

 また、Hp陰性でAGの無い群は一貫して胃癌リスクが低いため、検診のあり方を今後検討する必要があるとする一方、「胃癌リスクの高い群は生活習慣の見直しや必要な検診を受けるなどの予防行動や保健行動を心がけ、リスクの低い群でも生活習慣への注意や胃の症状があれば医師の診察や検査を受ける姿勢が必要」としている。

m3.com 2015年9月4日

乳癌リスクがn3系不飽和脂肪酸で低減
国立がん研究センター、n6系摂取多いとリスク上昇も
 国立がん研究センターの多目的コホート研究チームによる、不飽和脂肪酸の摂取量と乳がんとの関連について調査結果がまとまった。それによると、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といったn−3系不飽和脂肪酸の摂取量が多いと、ホルモン受容体陽性の乳がんに罹るリスクが低い傾向がみられた。またn−6系不飽和脂肪酸の摂取量が多いと、乳がんのリスクが高まることも分かった。

 研究チームは1990年から始まった疫学研究として岩手、秋田、長野、沖縄など9つの保健所管内に在住の45〜74歳の女性約3万8000人を対象に、2011年末まで14年間にわたる追跡調査を行い、この調査に基づき、不飽和脂肪酸摂取と乳がん患者との関連を分析した。コホート調査は疫学調査手法の1つ。

 14年間の間に乳がんと診断されたのは、556人。1995年と98年に実施したアンケート回答をもとに、不飽和脂肪酸の多い魚、EPA、DHA、ドコサペンタエン酸(DPA)などを含むn−3系不飽和脂肪酸、それにn−6系不飽和脂肪酸などを摂取量別にグループ分けし、グループ間の乳がん罹患リスクを比較した。

 分析にあたり、これまでも実施している乳がんに関連する他の要因、例えば出産回数、喫煙、飲酒などといったグループとの結果に影響が出ないように配慮し、不飽和脂肪酸との関連にだけ絞り込んだ。

 乳がんには、ホルモン依存性と非依存性が知られる。今回の分析はこの有無も調べ、ホルモン受容体陽性(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性)乳がんにおいて、EPA、DHA、DPAそれぞれの摂取量が多いグループには、がんリスクが低くなる傾向が示されたという。一方、n−6系不飽和脂肪酸の摂取量が多いグループは、最も少ないグループに比べ、2・94倍リスクが高まる傾向にあることが分かったとしている。

 n−6系不飽和脂肪酸にはリノール酸、アラキドン酸などがある。動脈硬化の予防や免疫調整機能などが研究報告されているが、ホルモン受容体陽性の乳がんには好ましくない作用がみられたといえる。国内における乳がんの罹患率は増加傾向にあり、食事との関連性はよく分かっていない。基礎研究によれば、n−3不飽和脂肪酸には特定のがん細胞の増殖を抑制する効果が、n−6系不飽和脂肪酸にはがん細胞の増殖促進させる可能性のあることが示唆されている。しかし先行の欧米での疫学調査では、かならずしも一致した結果が得られず、まして日本人を対象とする研究報告もこれまでほとんどなかった。

m3.com 2015年9月7日

下流老人になる可能性も がん治療の“お金Q&A”
 がん医療の進歩は目覚ましく、患者の生存率は確実に上昇している。喜ばしい医療の成果の一方で、「長期化・高額化する医療費の負担に疲弊する人が増えている」という声も。また、仕事が続けられないことによる収入減で、「下流老人」に転落する可能性もある。そこでがん治療のお金について基本的な3つのポイントをQ&Aで答える。

Q1:がんで仕事が続けられない。収入はどうなる?

A:会社員や公務員は傷病手当金の支給が受けられる

 がんなどの病気やけがで働けなくなった場合、1日につき標準報酬日額の3分の2が「傷病手当金」として支給される。標準報酬日額とは、社会保険の保険料を決めるときに使う標準報酬月額を30で割ったもの。日額が1万5千円であれば、傷病手当金は1日1万円になる。ただ、欠勤の期間中も給与が支払われる場合には支給されない。給与が手当金より少ないときには、その差額が支給される。

 支給開始は、欠勤が連続して3日間続いたあと、4日目から。支給期間は、ひとつの疾患につき最高で1年6カ月間だ。間に職場復帰の時期があって手当を受給しなくても、1年6カ月以上延ばすことはできない。

 入院中でなくても使えるので、手術や入院には有給休暇を利用し、その後外来で化学療法がスタートしてから傷病手当金を使うという方法もある。

 やむをえず退職した場合には、雇用保険の基本手当(いわゆる「失業手当」)を受給することを検討しよう。受給期間は原則、離職した日の翌日から1年間。「労働の意思と能力がある人」が支給対象なので、「病気でまったく働けない」という場合には受給できないが、1週間に数日や1日数時間でも働く意思があれば受給可能だ。

Q2:がんでも障害年金をもらえる?

A:がんで働けなくなったということでも年金の申請は可能

 障害年金は、病気やけがが原因で生活や仕事に支障をきたしたとき、生活を保障するために支給される公的制度だ。がんが原因でも同様で、65歳未満であれば収入の有無にかかわらず障害年金を受給できる可能性がある。

 目に見える機能障害がある場合はもちろん、「治療による倦怠感やしびれなどで以前のように仕事や家事ができなくなった」というケースでも、初めて医師の診察を受けた日から1年6カ月経過しても変化がなければ対象になる。

Q3:お金のことが不安…だれに相談する?

A:まずは近くのがん相談支援センターで制度の確認を

 近くの「がん相談支援センター」で相談できる。全国のがん診療連携拠点病院などに配置されている相談窓口で、がん医療の知識が豊富な看護師やソーシャルワーカー(社会福祉士)が個別の不安や悩みに応じてくれる。相談は直接でも電話でも可能で、患者本人、家族、地域に住む人も利用できる。ここで自分が利用できる制度、社会復帰の見通しなどについて相談したうえで、役所などで個別に相談するといいだろう。

dot.ドット 2015年9月7日

マンモ偽陽性、心理的影響1年継続
不安や落胆、行動や睡眠にも悪影響を報告
 米国癌学会(AACR)は8月26日、マンモグラフィーによる乳癌検診において偽陽性となった女性の大部分が、不安や落胆、また行動や睡眠への悪影響を経験しており、一部の女性ではこうした影響が12カ月間にわたり持続するという研究結果を紹介した。Cancer Epidemiology, Biomarkers & preventionに掲載。

 研究によると、マンモグラフィーによる乳癌検診で偽陽性結果になった女性では、結果が判明するまでの間に、88%が悲しみ、または、物事への対処不能などの落胆を経験していた。また、83%が不安感を覚え、67%では余暇や仕事への対処不能、53%が睡眠障害を報告し、マンモグラフィーによる偽陽性の心理社会的な影響が高率に発生している現状が浮き彫りになった。また、偽陽性の結果が出た女性の3分の1で、心理社会的影響が検診後の最長1年間にわたり持続していたことも判明した。

 研究者は「マンモグラフィーによる検診のメリット、デメリットの他にも、偽陽性結果の心理社会的影響が長期にわたって持続する可能性があるという点について、あらかじめ情報を提供することも重要」と、述べている。

m3.com 2015年9月9日

血中がん細胞をインプラントで捕捉、転移抑制に一助 米研究
 米国の研究チームは8日、体内で拡散するがん細胞を捕捉する極小の体内埋め込み型医療機器(インプラント)を開発したと発表した。現段階では、マウス実験で効果が示されているという。

 一般的に「転移」と呼ばれるプロセスでは、最初に発生したがんの部位から細胞が移動して他の臓器でがんが発生する。この発見の遅れによって、患者が命を落とすケースは少なくない。

 血流に含まれる「血中循環腫瘍細胞(CTC)」の早期発見は、診断と救命治療を迅速化する可能性がある。だが、CTCはごく少数単位で、多くの場合長期間にわたって血中を循環してから新たな部位に定着するため、発見することが非常に困難となっている。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表された今回の研究は、CTCの捕捉が、がん細胞の拡散とがんの転移を防ぐ助けになる可能性を示唆したものだ。

 論文共同執筆者で米ノースウエスタン大学のロニー・シェー氏は、AFPの取材に「インプラントを移植したマウスは、インプラントを移植しなかったマウスに比べて、肺における疾病の負担が著しく軽減された」と語った。

 今回の実験で、シェー氏と研究チームは、直径約5ミリの生分解性の円盤を作製し、マウス1匹につき2枚を体内に埋め込んだ。

 免疫細胞をおとりとして用いるこのインプラントには、捕捉された細胞の存在を検出するためのスキャナーが搭載されている。

 シェー氏は「これらを組み合わせて用いるシステムにより、転移性疾患の早期発見が可能になっている」としながら、「第1の恩恵は、転移の発見。体全体に広く拡散する前に転移が見つかる」と説明した。また拡散した細胞による疾病の負担が軽減できることにより、効果的な治療が行えるであろう期間の延長も可能になることが考えられるとしている。

 さらなる恩恵としては、インプラントで転移性がん細胞を収集して分析することにより、最適な治療法の特定が容易になることが挙げられる。

 実験用マウスで得られた今回の成果は、人間で再現不可能と考える理由は何もないとシェー氏は指摘する。「細胞が新たな臓器に移植するという考え方の本筋は、マウスと人間との間に違いはない。詳細の一部は変わるかもしれないが、これを元にして人間用インプラントの設計を構築できると考えている」と述べ、人間のがん患者を対象とした臨床実験を早期に開始できることを望んでいると話した。

時事通信社 2015年9月10日

家にもある!膵臓がん発見の新兵器はあの「飲み物」
 難治がんの典型といわれる膵臓(すいぞう)がん。年間の死亡者数は罹患者数にほぼ匹敵し、患者の生存率は極めて低い。早期発見が重要になるが、そのためにある飲み物が有効であることがわかってきた。

 大阪府立成人病センター副院長の片山和宏医師はこう話す。

「実は膵臓がんの5年生存率は1センチで見つかれば約80%、2センチでも50%くらいあり、早期に手術で切除できれば治療成績は悪くありません。問題は早期発見が難しく、ほとんど見つからないことにあります」

 膵臓がんは、1センチくらいまでは膵臓の中にとどまり、痛みを感じない。大きくなり、膵臓の外に顔を出して周囲の神経に浸潤すると、不快感や鈍痛が出てくる。痛みが強くなるのは、もっと大きく広がってからだ。なぜ早期に検診で見つけられないのか。片山医師は言う。

「おなかの中の小さいがんは、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)よりも超音波検査のほうが見つけやすいんです。ところが、空気は超音波を通しにくい性質があるので、空気をたくさん含む胃の後ろ側にある膵臓は半分程度しか見えません。そこにがんがあれば見逃してしまうんですね。膵臓に対応した特殊な内視鏡を使えば発見できますが、何の症状もない人に検診で実施するにはハードルが高すぎます」

 放射線被曝も苦痛もない超音波で、なんとか膵臓全体を見られないものか――。

 同センター検診部のスタッフがたどり着いた答えが、「超音波検査の時にミルクティーを350ミリリットル飲む」という方法だった。ミルクティーで胃を満たすことで、胃の中の空気が移動して超音波が通りやすくなり、膵臓の90%前後まで見えるようになったのだ。

「いろいろな飲料を試しました。炭酸飲料や窒素を充填しているアルミ缶の飲料は、胃の中に入ると細かな泡が邪魔になる。柑橘系のレモンティーは、胃液と反応してかえって見えなくなる。ミルクティーの適度な濁り具合が、ちょうどいい程度に超音波を通し、くっきり見やすくなるとわかりました」(片山医師)

 通常の超音波検査は10分程度で終わるが、「膵精密エコー」と名付けたこの検査では、40分程度かけて丁寧に見ていく。患者の姿勢を変えながら十分観察した後にミルクティーを飲用してもらい、さらにくまなく膵臓を見る。

dot.ドット 2015年9月10日

MRIの力は診断だけじゃない!磁力でがんに免疫細胞を導く新手の治療が登場
「型破りな発想」から医療に新風
 通常画像診断に用いられる「核磁気共鳴画像診断装置(MRIスキャナー)」を用いた、新しい発想の画期的ながん治療法が開発された。

 磁力をかつてない目的で利用するものだ。

診断のみならず

 英国シェフィールド大学を中心とした国際研究グループが、有力科学誌ネイチャーの姉妹誌でオンライン専門科学誌のネイチャー・コミュニケーションズ誌で2015年8月18日に報告した。

 「核磁気共鳴画像診断装置(MRIスキャナー)」は、1980年代から体内のさまざまな臓器の病気を調べるための画像診断に用いられてきている。

 今回研究グループは、「MRIは診断だけのもの」という発想を超え、新しいがん治療への応用に成功した。

磁力で「操縦」

 この治療法では、まず「マクロファージ」という免疫細胞を体から取り出す。マクロファージは、がんに抵抗する免疫の仕組みを活性化する能力を持っている。

 取り出したマクロファージをシャーレの中で増殖させる。次に、がん細胞を殺すウイルスを「感染」という形で「装備」させる。続いて「SPIO」という名の、鉄を含むナノ粒子を取り込ませる。これによりマクロファージはMRIの磁気で操縦できるようになる。

 こうして細工したマクロファージを体内に戻す。MRIで体外から操縦し、がんのある場所までマクロファージを導いて、がんの組織に強制的に集める。がんのその場で免疫力を高めて、ウイルスががん細胞を殺し、転移や浸潤が阻止できる。こういう仕組みだ。

転移したがんも殺した

 研究グループは、この方法でネズミの前立腺がんにマクロファージを誘導。肺に転移したがんにもマクロファージを集められると確認した。

 マクロファージに装備させたウイルスの働きで、がんの組織は実際に縮小した。転移や浸潤を防ぐ効果も確認できた。

リアルタイムで確認

 注射するだけではがんに到達するのが不可能だった免疫細胞を、磁気で操縦してがん組織に効率よく集められる。

 今回はウイルスで試したが、同じ方法で抗がん剤を細胞に運ばせて、副作用の軽減にもつなげられる。

 体に戻した治療用の細胞が、がん組織に向かっていく様子をリアルタイム画像で確認できるところも大きな特徴だ。

 型破りな発想から画期的な治療は生まれる。

Medエッジ 2015年9月10日

大腸内視鏡検査の時間を長くするとがんリスクが低下
検査時間が6分以下でリスク2倍に
 大腸内視鏡検査を早く終わらせてほしい、とは思わないほうがよい。検査にかかる時間が長いほど、後に大腸がんになる確率が低いことが新たな研究で示唆された。この知見は、内視鏡検査の持続時間に関する現行のガイドラインを裏付けるものだと研究者らは話している。

 大腸内視鏡検査では、医師が小さなカメラの付いた細い管を患者の大腸に挿入する。最後まで挿入した後、管を少しずつ引き抜くことにより、医師が入念に大腸の内壁を調べ、がんや前がん病変の徴候がないかを確認することができる。ガイドラインでは、「異常なし」の場合の大腸内視鏡検査の所要時間は少なくとも6分以上であるとしている。異常なしとは、何も異常が見つからず、生検のための組織採取もしない場合である。

 今回の研究は、米ミネソタ州の大規模診療所で51人の胃腸科医が6年間に実施した約7万7,000件の大腸内視鏡によるスクリーニング検査をレビューした。内視鏡の抜去までの所要時間は平均約9分だったが、約10%の医師では個々の平均時間が6分未満であることがわかった。

 平均時間が6分未満の医師によるスクリーニングを受けた患者は、平均6分以上の医師の検査を受けた群に比べて、5年以内に大腸がんを発症する確率が2倍になっていた。一方、内視鏡の抜去にかける時間が8分を超えても、大腸がんリスクがそれ以上低減することはないようだったという。

 「この結果から、現行のガイドラインで推奨されるとおり、抜去時間を検査の質の指標として利用することが支持される」と、研究の筆頭著者である米ミネアポリス退役軍人(VA)ヘルスケアシステムのAasma Shaukat氏は述べている。

 大腸内視鏡検査の時間が短くなる理由はさまざまだが、「一般に、抜去にかかる時間にかかわらず、どの医師も大腸内壁を完全に検査することを目指している」と、Shaukat氏は話している。この研究は「Gastroenterology」オンライン版に7月8日掲載された。

m3.com 2015年9月11日

国がん、がんの5年相対生存率を発表 - 全がん64.3%、肝臓35.9%
 国立がん研究センター(国がん)は9月14日、全国のがん診療拠点病院の177施設約17万症例を対象とした、主要5部位のがんの5年相対生存率を公表した。

 相対生存率とは、がんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。5年相対生存率であれば、あるがんのうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどの程度低いかで表される。今回発表されたのは2007年にがん診療拠点病院で治療を開始した患者の5年相対生存率。

5年相対生存率と実測生存率の違い

 発表によると、全がんの5年相対生存率は64.3%、各部位で見ると胃が71.2%、大腸が72.1%、肝臓が35.9%、肺が39.4%、女性乳房が92.2%だった。合わせて都道府県別のデータも発表されたが、データの安定性を高めるために、予後把握率90%以上かつ集計対象が50例以上の施設が2施設以上ある都道府県のデータのみ公表しており、単純に比較することはできない。

 また、年齢分布や病期なども集計しており、国がんは「年齢の分布、病期、手術の割合などで生存率は変わってくる。そうした要素を見ながら分析していただくことに今回のデータの意義がある。各都道府県が分析を通じて、例えば検診の受診率を上げるための取り組みを検討するなど、対策を立てるためのベースとしてほしい」としている。

 集計するにあたっての課題もあり、生存状況も把握するために地方自治体に外部照会が必要となった際に、個人情報保護などを理由に協力を拒む自治体もあったという。この点については2016年診断例からは全国がん登録が実施され、各施設での生存確認調査がより円滑になると期待されている。なお、2016年診断例の集計結果が公表されるのは2023年の予定で、2022年の発表までは現状の課題を抱えることになる。

 2008年症例分以降は、都道府県別では主要5部位以外も集計・公表をする方向で検討を進めているほか、施設別生存率を公表する方針だが、国がんは「施設別相対生存率では数字のばらつきがより顕著になる。数字の安定性・相対生存率の意義に関する理解を深める必要がある」としている。

マイナビニュース 2015年9月15日

西日本で多い“肝がん” 原因は肝炎ウイルス感染の多さ
 国立がん研究センターによる「全国がん罹患モニタリング集計(2011)」の結果をみてみよう。これは精度の比較的高いデータが得られた39道府県について、がん罹患や死亡に関わる30項目を調べたものだ。

 西日本でもっとも罹患率が低い、つまりがんにかかりにくい県は、男性は沖縄県、女性は岐阜県。死亡率が低いのは、男性は香川県、女性は岡山県だった(下の表)。調査を担当した同センターがん対策情報センターがん統計研究部の松田智大氏が注目したのは、広島県だ。

「広島県の罹患率は平均より高めですが、死亡率が低い。両者を照らし合わせると、がん検診や啓発活動などの有効ながん対策を実施していて、早期発見・早期治療がしっかりできている可能性があると考えています」(松田氏)

 広島県には、「地域がん診療連携拠点病院」が11カ所あり、その一つ広島大学病院が「都道府県がん診療連携拠点病院」を兼ねている。松田氏によると、地域のがん医療をどれだけ賄っているかをみる「拠点カバー率」でも、広島県は高いという。

 がん種別の罹患率でみると、西日本に全体的に多かったのが肝がんだ。全国平均を100とすると、東日本の大部分が100未満だが、西日本の、とくに近畿地方以西で120を超える府県が多かった。胃がんは男女ともに中国地方の県と和歌山県に、肺がんは三重県や和歌山県、兵庫県など近畿地方に多かった。一方、大腸がんは四国4県での罹患率の低さが目立った。

「肝がんの原因の大半が肝炎ウイルスの感染です。ウイルス性肝炎の発症状況や拡大ルートなどを調べると、なぜ西日本に多いのかわかると思います。他のがんでは、喫煙率や塩分摂取量、飲酒量などが関係していると考えられます」(同)

 今回取材した大阪府立成人病センターは、大阪府の「都道府県がん診療連携拠点病院」で、がんと循環器の病気を専門とする。

「心臓病を抱える患者さんの増加や、がん患者さんは血栓が関係する循環器の病気にかかりやすいなど、両者は切り離せない関係になっています」(同センター病院長・左近[賢人(まさと)]医師)

 同センターは、肺がんや食道がんの患者数が多く、膵がんや進行した食道がん、頭頸部がんなど、手術の難しいがんを得意とする。また、胃がんや食道がんの内視鏡治療にも強い。17年3月に大阪市東成区から中央区の大阪府庁近くに移転する。敷地内には民間の重粒子線治療施設も建築される予定で、手術、薬物療法、放射線治療などの集学的治療を担う最新の医療機関としてスタートを切る。

 手始めに外来受診の方法を改善し、初診、検査、治療方針の決定までを1日程度で終わらせるシステムに変えた。その結果、入院の平均待ち日数が約20日から2週間に短縮できた。

「これまでは、5年生存率をいかに上げるかにこだわっていました。もちろんこれは大事なことですが、それだけでは今のがん医療は成り立たない。待ち日数を早めるなどで検査結果や治療を待つ患者さんの不安を和らげ、満足度を上げる努力を続けていきます」(同)

◇西日本のがん死亡率・罹患率

死亡率(男性) 1位:和歌山県 最下位:香川県
   (女性) 1位:佐賀県 最下位:岡山県
罹患率(男性) 1位:鳥取県 最下位:沖縄県
   (女性) 1位:広島県 最下位:岐阜県
(静岡県、大阪府、福岡県、宮崎県、鹿児島県は除く)

dot.ドット 2015年9月15日

50〜60歳代に心血管疾患と大腸がん予防のためのアスピリン使用を推奨
 米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は2015年9月15日「心血管疾患(CVD)およびがん予防のためのアスピリン使用」に関する勧告ドラフト案を発表。10月12日までの意見募集を開始した。改訂案では,アスピリンによる初発予防の対象疾患に大腸がんが追加された。

大腸がん予防への使用,前回勧告では「推奨しない」

 CVDに関する前回(2009年)の勧告では性別,年齢と予防が期待される疾患などで勧告が区分されていた。また大腸がんに関する前回(2007年)の勧告は「平均的リスク例へのルーチンな予防内服を推奨しない(グレードD)」であった。

 今回示された改訂ドラフト案では,これら2つの疾患のアスピリン予防内服に関する勧告を統合。CVDについては性別やCVDの区分を廃止,年齢区分が変更された他,大腸がん予防の勧告グレードが上昇した。

 改訂ドラフト案の概要は次の通り。予防内服の判断には年齢の他,10年以内のCVDリスクやアスピリンによる出血リスクを考慮することが併記されている。

50〜59歳:10年以内の心血管疾患(CVD)リスクが10%以上で出血リスクが小さく,余命が10年以上の50〜59歳におけるCVDならびに大腸がんの初発予防を目的とした低用量アスピリン使用を勧告する〔グレードB(推奨)〕

60〜69歳:10年以内のCVDリスクが10%以上の60〜69歳におけるCVDならびに大腸がんの予防を目的とした低用量アスピリンの使用の判断は個別に行う〔グレードC(対象者の状況に応じた推奨)〕

50歳未満,70歳以上はエビデンス不十分(グレードI)


MedicalTribune 2015年9月16日

ほくろと思ったらがんだった
皮膚がんの一種・メラノーマの見分け方とは
そのほくろ、もしかしたら皮膚がんかも?

 ほぼすべての人に必ずあると言っていいほくろ。その数は個人差があるが、体のいたる所にある人が大半だ。 「泣きぼくろ」という言葉に代表されるように、ほくろはその人のチャーミングポイントと言われることもある一方で、気に入らない場所にある場合は美容整形で除去することも可能だ。

 このように、いい意味でも悪い意味でも私たちの見た目や印象に影響を与えるほくろだが、実はこのほくろに姿形が似た皮膚がんがあることはご存じだろうか。

 本稿では、南青山皮膚科 スキンナビクリニックの院長である服部英子医師の解説をもとに、皮膚がんの種類や検査・治療方法などについて紹介していこう。

皮膚がんの種類を学ぶ

 皮膚がんは、皮膚を構成する細胞が悪性に変化したものの総称だ。主だった種類は以下の通り。

■基底細胞がん……表皮の基底細胞(表皮の下層に存在する細胞)などを構成する細胞から発病する

■有棘(ゆうきょく)細胞がん……有棘層と呼ばれる、基底細胞よりも表皮側に近い部分ががん化したもの

■ボーエン病……有棘細胞がん同様、表皮の有棘層の細胞ががん化したもの。増殖が表皮の中だけにとどまっていれば、転移するケースは少ない

■パジェット病……汗を産生する汗器官由来の細胞から発病する

 皮膚がんはこのように複数の種類があるが、初期の皮膚がんはあまり痛みもなく、無自覚の症例が多いという。

「リンパ節や内臓に転移することはありますが、早期発見で転移までいかないものも多いです。胃がんなどのように重症化しやすいケースは、あまりないのではないでしょうか。皮膚がん全般は、60歳以上の高齢者で発症するケースが大半ですね。紫外線への暴露ですとか、慢性炎症の繰り返しなどが、皮膚がん発症のベースとしてありますので」。

ほくろと見間違えやすいメラノーマ

 皮膚がんのおよそ50%は基底細胞がんと有棘細胞がんによって占められるなど、この2つが代表的存在と言える。そんな中、10万人に1.5〜2人ほどの発症率で、年間1,500〜2,000人ほどの患者を生み出している皮膚がんが、ほくろに似ている「悪性黒色腫」(メラノーマ)だ。

 メラノーマは、メラニンを作る色素細胞「メラノサイト」が悪性化したことが原因で発症する。黒色調の色素斑や腫瘤(しゅりゅう)ができ、ほかの皮膚がんよりも、比較的転移しやすいと言われている。発症するはっきりとした原因はわかってはいない。

「メラノサイトは体中にあるため、メラノーマはどこにできてもおかしくはないのですが、日本人は末端にできやすい『末端黒子型』と言われています。すなわち、足の裏や手、爪などにできやすく、日本人はこれらの部位に30%くらいの割合で出現します。欧米の人は『表在拡大型』と呼ばれ、体などにできることが多いと言われています」。

メラノーマとほくろの簡単な見分け方

 それではメラノーマの見つけ方、すなわちほくろとの見分け方にはどのようなものがあるのだろうか。服部医師は以下の3つの特徴が見られる場合、メラノーマと疑った方がよいと話す。

特徴1 色に濃淡があり、形がいびつなもの

「メラノーマでよく言われるのは、形が不整であることです。つまり、形がいびつだったり、左右で非対称だったり、黒色に濃淡があったりします。さらに、皮膚の一部が盛り上がっている場合や、凹凸がある場合もメラノーマの可能性があります」。

特徴2 直径が6mm以上のもの

「メラノーマは直径が6mm以上と言われてはいますが、全部が全部そうではありません。それに、普通のほくろでも6mmサイズのものもあります。6mm以上がメラノーマの『絶対条件』ではないため、それぐらいのサイズのほくろらしきものがあった場合には、大丈夫かどうかを病院やクリニックで見てもらうのがいいのではないでしょうか」。

特徴3 気づかないうちに出現したもの

 何となくではあるが、自身のほくろの場所を把握している人も少なくないだろう。ただ、ある日ふと、見知らぬ場所にほくろらしきものを見つけたら、急速に成長したメラノーマの可能性もあるため要注意と覚えておこう。

 これらは一般的なメラノーマの見分け方だが、中には特有の黒い色素のない「ア・メラノティック・メラノーマ」と呼ばれるタイプもあるという。肌と同じか、やや赤みがかった色で、ちょっとした傷やたこのように見えるという。ただ、10万人に1.5〜2人ほどの発症確率のメラノーマの中でも、さらにまれな症例。それらしきものを見つけても、そこまで神経質になる必要はないと言えそうだ。

検査・治療方法を知る

 万一、メラノーマとおぼしきものを見つけてしまった場合は、皮膚科や病院などで通常の「視診」もしくは、ほくろを拡大して観察する「ダーモスコピー」と呼ばれる検査を受けるのが一般的だ。

「ダーモスコピーの結果も疑わしい場合、『生検』という皮膚の一部を採取する検査をします。生検してメラノーマだった場合は、すぐに患部の拡大切除手術をしたほうがいいですね。ダーモスコピーは普通の皮膚科でもできますが、判断が難しいため、セカンドオピニオンを推奨する場合もあります。治療は患部の拡大切除手術と所属リンパ腺への転移がないか確認する『センチネルリンパ節生検術』か、あるいは所属リンパ節転移があった場合は『所属リンパ節郭清術』をします」。

 切除後は、抗がん剤やインターフェロンを使用するが、初期段階で切除した後の全身検査で問題なければ、抗がん剤使用などを控えるケースもある。服部医師は、「早期発見・診断をされれば手術をするのみですみますが、治療後も再発・転移がないか定期的な検査・診察は必要になってきます」と話す。

 「悪性」という名が示す通り、メラノーマは放置しておけばリンパ節などに転移して死亡する可能性もある。それだけに、日ごろから自分の体や体調に気を配るようにしておき、少しでも不安に思ったら医療機関を受診するような習慣を持つようにしておこう。


記事監修: 服部英子(はっとり ひでこ)

東京女子医科大学卒業。皮膚科専門医。日本皮膚科学会、日本レーザー学会、日本臨床皮膚科学会、日本アレルギー学会に所属。大学卒業後に東京女子医科大学病院やJR東京総合病院の皮膚科に勤務した後、2005年より南青山皮膚科 スキンナビクリニックの院長を務める。

マイナビニュース 2015年9月17日

ホルモンの影響で増える前立腺がんの治療強化、コレステロールの薬スタチンが効果あり
「アンドロゲン遮断療法」の効果を高める
 ホルモンの影響で増えるタイプの前立腺がんにコレステロールの薬が意味を持つようだ。

 前立腺がんの治療である「アンドロゲン遮断療法(ADT)」を始めたときに、コレステロールを下げる薬であるスタチンを使うと、病気の進行を押しとどめられる期間が延びるというもの。

邪魔できる?

 米国ハーバード大学医学部のダナ・ファーバーがん研究所を中心とした研究グループが、がんの専門誌であるジャマ(JAMA)オンコロジー誌で2015年7月に報告しているもの。

 前立腺がんの中には男性ホルモンの影響で増えるものがある。その場合に、男性ホルモンを邪魔する「アンドロゲン遮断療法」が効果を示す。

 研究グループが着目したのは、テストステロンの前段階の物質「DHEAS(デヒドロエピアンドロステロンサルフェイト)」を前立腺がんのがん細胞が取り込む仕組み。

 スタチンによってこの取り込みを邪魔できると仮説を立てた。

一緒に飲むといいかもしれない

 研究グループは前立腺がんのがん細胞を使って研究を実施。実際に、スタチンによってDHEASの取り込みが邪魔されると分かった。

 さらに、1996年1月から2013年11月の間のデータに基づいて、前立腺がんのアンドロゲン遮断療法を受けていた926人について、一緒に飲んでいたスタチンの効果について調べた。

 283人(31%)はアンドロゲン遮断療法を始める時にスタチンを飲んでいた。

 スタチンを服用していた男性は、服用していなかった男性と比べて、アンドロゲン遮断療法のときに前立腺がんの進行が止まっている期間の中央値が延びていた。スタチンを飲んでいる人は27.5カ月に対して、飲んでいない人は17.4カ月。

 関連した条件を織り込んでも、統計学的に意味のある差であると判定されて、危険度は83%になっていた。

 転移のあった人とない人の両方でスタチンの有効性があると確認できた。

 スタチンを一緒に飲むと良いかもしれない。

Medエッジ 2015年9月18

ただの1人もがんにならない中国奥地の村
その理由が明らかに―台湾メディア
 2015年9月13日、中国南部の広西チワン族自治区は長寿の村が多いことで知られている。同自治区桂林市茘浦県のある村は、人口3653人のうち、ただの1人もがんに罹患する住民がいないことがわかった。その原因を米国のある医療研究チームが突き止めた。台湾のバイラルメディア・AnyElseが伝えた。

 医療先端技術を研究する米国のある調査チームは、この村に潜入して現地の気候風土や住民の食生活、生活習慣について入念に調べたところ、村民からがんを遠ざけているものを「サトイモの常食」だと断定した。経済的に貧しい家庭が多く、食生活は自然に地産地消を実践する形になっているが、土地がやせているため、サトイモくらいしか量産できる農作物がなく、1日3食サトイモとは切り離せない食生活を送っている。

 茘浦県産のサトイモと言えば一帯では有名で、近隣の景勝地・桂林では必ずみやげ品として売られているのを目にすることになる。また、茘浦県産のサトイモは清代には皇帝に献上され、乾隆帝が大変好んだと伝えられる。

 サトイモががんを抑制するのには3つの原因があるという。

1)サトイモはアルカリ性食品で、人体に蓄積した酸性物質を中和する作用がある。これががん細胞増殖を抑制するという。

2)カリウムをはじめ、タンパク質、カルシウム、マグネシウム、鉄、リン、カロテンなど栄養素が豊富で、免疫力を高める効果がある。

3)サトイモのぬめり成分・ガラクタンが、免疫力向上とがん細胞増殖の抑制ともに効果を発揮する。

ライブドアニュース 2015年9月19日

メトホルミン服用が頭頸部がんリスク低下と関連か
非服用群に比べ発症率が34%の低下
 ビグアナイド(BG)薬であるメトホルミンの服用が、糖尿病患者における頭頸部がんの発症リスク低下と関連する可能性が、「Head & Neck」9月号に掲載の論文で示された。

 台湾・奇美医療センターのYung-Chang Yen氏らは、2002年に新たに頭頸部がんと診断された糖尿病患者6万6,600人を対象に、2011年における頭頸部がんのリスクをメトホルミン服用群と非服用群(各群3万3,300人)で比較検討した。両群間は併存疾患、性別、年齢を一致させた。

 頭頸部がんの発症率は、メトホルミン服用群で非服用の対照群に比べて34%低下することがわかった〔調整後ハザード比(HR)0.66〕。同様に、メトホルミン服用群では、対照群に比べて中咽頭がんリスク(調整後HR 0.66)および上咽頭がん(調整後HR 0.5)それぞれのリスクも有意に低下していた。

 同氏らは、「これらの知見から、メトホルミンの服用には、糖尿病患者における頭頸部がんの発症を予防するといった臨床的なベネフィットがある可能性が示唆された」と述べている。

m3.com 2015年9月24日

細胞傷害性T細胞をiPS細胞で若返り
メディネット−東大、新たな免疫細胞治療で共同開発基本合意
 メディネットは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた新しい免疫細胞治療について、東京大学と共同開発基本合意書を締結した。同大の中内啓光教授と、免疫細胞の一種である細胞傷害性T細胞(CTL)をiPS細胞を生かして若返らせて再生して治療に使うことを目指す。

 CTLはがんやウイルスとの長期戦で老化・疲弊してしまう。治療効果を向上させるために、CTLを患者から外に取り出し、体外で増幅させて体内に戻す治療法も行われている。

 これに対し中内教授らは、CTL細胞からiPS細胞を誘導し、再度CTLに戻すことで、若返りととともにCTLを大量に得ることが出来る新しい技術開発に成功している。こうした技術とメディネットの技術、細胞培養加工施設(CPF)を利用して開発を加速する。

m3.com 2015年9月29日

肝細胞癌再発予測に「新マーカー」
血中循環腫瘍DNAで癌の重症度を予測
 米国消化器学会(AGA)は9月10日、肝細胞癌手術前の血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA)検出により、肝細胞癌の早期再発が予測でき、治療方針が立てられるという研究結果を紹介した。同学会のジャーナル、Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology誌に掲載。

 研究者らは、肝臓摘出や肝移植などで肝細胞癌切除を受け、術前と術後に血清検体を採取できた患者46人に対して全ゲノムを解析。腫瘍から分離したDNAとその患者の正常なDNAとを比較したところ、46人全員の検体から変異が検出された。ただし、血中循環腫瘍DNAが存在したのは7人のみで、血中循環腫瘍DNAは、腫瘍が大きく、肝臓切除後2年以内の再発リスクの高さに関連付けられた。また、血中循環腫瘍DNAレベルは、癌の進行速度と治療効果に反映されることが分かった。

 主任研究著者である広島大学の大野敦司氏は、「血中循環腫瘍DNAレベルが癌の進行や肝細胞癌に対する治療効果を正確に反映していることを突き止めた。今後の研究により、循環腫瘍DNA解析を通じたゲノムプロファイルの特定が肝細胞癌の個別治療の指針となり得る」と述べている。

 肝細胞癌は発見が遅れることが多く、5年生存率は11%に留まる。癌の進行を監視し、治療効果が得られる患者を特定する新たな方法を見つけることが、肝細胞癌の生存率の改善には求められている。同誌編集長は、「進行した肝細胞癌の治療の有効性を高めるために、今回の有望なデータに基づく今後の研究が望まれる」と述べている。

m3.com 2015年9月30日

家庭用殺虫剤の使用が小児がんリスクに関連
室内の曝露で血液がんリスクが4割上昇
 室内で殺虫剤に曝露した小児は白血病やリンパ腫を発症するリスクがやや高いことが、新たなレビューで明らかにされた。また、除草剤曝露と白血病リスクの間にも弱い関連が認められたという。

 「Pediatrics」9月14日オンライン版および印刷版10月号に掲載されたこの知見は、殺虫剤が直接がんの原因となることを明らかにするものではない。仮にそうだとしても、発症に至る曝露量がどの程度なのか、また発症の臨界期が存在するのかはわかっていないと、米ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)准教授のChensheng (Alex) Lu氏は述べている。しかし、それでもすぐに対策を講じるのが賢明であると同氏は指摘する。

 小児がんはまれな疾患であり、米国がん協会(ACS)の推定によると、米国で今年何らかのがんと診断された15歳未満の小児は1万400人未満。血液がんである白血病およびリンパ腫は小児がんのなかでも特によくみられる。

 米ニクラウス小児病院(マイアミ)の小児腫瘍医Ziad Khatib 氏によると、生活習慣や環境曝露により生じる大人のがんとは異なり、小児がんの多くは偶発的に生じるものだが、今回のレビューが示すように、いくつかの研究では殺虫剤と一部の小児がんとの関連が認められているという。

 今回のLu氏らの研究では、1993〜2013年に実施された16件の国際的な研究の結果を統合した。いずれの研究も、がんの小児と健康な小児を比較し、親への問診により過去の殺虫剤曝露について評価したものだ。

 その結果、室内用殺虫剤に曝露した小児は白血病またはリンパ腫になるリスクが43〜47%高いことが判明。一方、屋外用の殺虫剤とがんの関連は認められなかった。除草剤に曝露した小児は白血病リスクが26%高かった。

 これは本来1万人に1人の白血病発症リスクが、1万人あたり1.5人に増加するということだとKhatib氏は説明し、ごくわずかなリスクだが避けられる危険因子だと付け加えている。Lu氏は、「この情報を親たちに知ってもらい、各自で最善の判断をしてもらうことが重要」との考えを示している。

 殺虫剤を使う代わりに、虫の餌となる食べ物を置かない、誘引剤や捕獲器を用いるなどの「非化学的な選択肢」をとることもできる。また、小児は学校、公園、遊び場などの自宅以外の場所で殺虫剤に曝露することもあるため、そのような場所で殺虫剤の使用を制限することにも意味があると同氏は指摘している。

m3.com 2015年10月1日

大腸癌とCVD予防にアスピリン勧告
米作業部会、50-59歳に推奨勧告B
 米国家庭医学会(AAFP)は9月16日、心血管疾患(CVD)および大腸癌の一次予防に低用量アスピリンの服用を推奨する米国予防医学作業部会(USPSTF)の勧告案を紹介した。

 同勧告案では、CVDおよび大腸癌の一次予防として(1)心血管疾患のリスクが高く、(2)出血リスクが低い、(3)最低でも10年の平均余命がある――50-59歳の男女に対し、低用量アスピリン療法を推奨(グレードB勧告)。心血管疾患や癌リスクが高い60-69歳については、アスピリン予防投与の恩恵はあるものの、総合的なメリットが少ないことから、患者のCVDや出血リスク、総体的な健康、個人的価値観や嗜好に基づき個人の判断に任せるとして、C勧告とした。

 また、50歳未満または70歳以上については、アスピリン予防投与の有益性と有害性を評価するには現行エビデンスでは不十分と結論。両年齢層にはI勧告としている。

 AAFPのJennifer Frost氏は、「60-69歳より50-59歳に対する推奨度が高いのは、若年齢層の方がアスピリンによる純利益が多く、高齢者はCVDリスクも高いが、出血リスクも高いため」と説明している。

 勧告案については10月12日まで意見を募集。AAFPはUSPSTFの最終結論発表後に自身の勧告の更新を行う予定。

m3.com 2015年10月2日

もし私がいま、がんになったら...?
慌てないための5つの心構え
 著名人のがんに関する連日のニュースで、がん検診の申込み件数が増えている。いまの日本は、2人に1人ががんになる時代。「まさか自分ががんになるなんて……」ではなく、「もしも自分ががんになったら……」と考えるほうが現実的だと、多くの人が気づきはじめているのかもしれない。

 しかし実際、がんになったときのために、どんな心構えをしておくべきなのか、わからないことが多いのも事実だ。慌てないために、私たちにできることは何かあるのだろうか?

 がん看護専門看護師で、がん患者と家族や友人を支援するセンターの設立を目指す、NPO法人マギーズ東京の理事でもある濱口恵子さんに話を聞いた。

■1.がんは早期発見できれば怖くないことを知る

 がんとひと口にいっても、症状も進み方も人によってさまざまですが、発見が早いほど、治癒の可能性は高まります。たとえ治癒しなくても、いまはがんとともに生きる時代、がんは慢性疾患に位置づけられる時代になりました。

 がんの早期発見のためには、がん検診を定期的に受けることです。

 日本人のがんの罹患数は年々増加しているのですが、がん検診の受診率は欧米の約半分の30?40%程度。行政でがん検診の無料クーポン券を配っているのにもかかわらず、使う方が少ないのです。定期的にがん検診を受ければ、何も問題なければ安心できます。それが、がんに対する心構えにもつながっていくのです。

■2.自分にとって大切なものは何か、元気なときから意識する

 がんになると、治療のために身体の状態が変わり、生活が変わります。それまで自由にできたことができなくなる可能性も出てきます。ただ、がんの治療法は医療者と相談しながら基本的に自分で選べますので、自分にとって大切なものは何か普段から意識して生活していると、いざというとき迷わずにすむこともあります。

 例えば、ピアニストや美容師にとっては“手”が大切なので、手がしびれる副作用の少ない抗がん剤治療法を選ぶ。家族と一緒にいる時間を大切にしたい人は、通院で可能な治療法を選ぶ。食べることが好きな人は、食事にできるだけ影響が少ない治療法を相談してみる。そのように、がんになっても優先したい幸せな時間や、大切な仕事や趣味がある場合は、治療法を選択する際のひとつの指針になると思います。

 医師からがんがどうなるかの説明はあっても、生活がどう変化するかについての説明が少ない場合があるので、自分の希望を医師に伝えられるようにしておいたほうがいいでしょう。

■3.“正しいがんの情報”を収集する

 がんという病気は千差万別で、がんの種類、症状、治療法、そして治療が終わったあとの経過も人それぞれです。インターネットには、がんの情報や体験談が溢れかえっていますが、自分に当てはまるとは限りませんので、振り回されないことも大切です。

 特に、自分ががんになってしまうと冷静な判断ができなくこともありますので、元気なときから“がんの正しい情報”に目を通しておくと、いざというときに役立ちます。

 一番のおすすめは、国立がん研究センターが公開しているサイト「がん情報サービス」です。こちらでは、がんに関する基本情報はもちろん、がんの予防や検診に関する情報、がん患者の支援制度や、がんとともに働き続けるためのポイント、ご家族や周りの方に向けたがん患者への対応の仕方のアドバイスなど、信用できる情報を得ることができます。また、各都道府県にはがん診療連携拠点病院があり、そこのがん相談支援センターは、その病院の患者・家族でなくても電話で相談もできます。

■4.告知の伝え方、受け止め方を家族と話し合っておく

 どんな人でも、がんと告げられると動揺されます。頭が真っ白になってしまって、主治医の説明を聞いてもわからなくなってしまうケースもめずらしくありません。慌てないために心の準備をしていても、やはり慌ててしまうものなのです。ですから、検査や治療についての大事な説明は、おひとりではなく、家族や友人など信頼できる人と一緒に聞くことをおすすめします。ただ、深刻な症状が予想される場合、医師から直接、告知を聞く勇気がないという方もいるかもしれません。余命を聞きたくない方もいるかもしれません。そのためもし自分ががんになったら、どこまで事実を知らせてほしいか、どういう風に事実を知りたいか、家族に伝えておくことが大切です。

 また、両親や子供に心配をかけたくないからといって、病気を隠すことはおすすめしません。どんなに高齢の親でも、親は子供の病状を知って、一緒に手伝えることは手伝いたいのです。事実を知らされなかった親御さんが、かなり進行してから伝えられて、もっと早く知っていたらと、怒りにも似た感情を抱いている姿を、私は目にしてきました。

 また、子供がかわいそうだからという理由でがんを伝えなかった場合、「自分が悪い子だから」と自分を責め続けるお子さんもいます。もし万が一がんで親を亡くしてしまうと、一生それがトラウマになるのです。ですから「病気はだれのせいでもない」ときちんと伝えてあげてください。もし自分ががんになったとき、ご両親やお子さんに真実を伝える覚悟をしておくことも大切なことだと思います。

■5.抗がん治療をするかしないか、家族と話し合っておく

 がん患者さんのなかには、抗がん治療を受けたくないという方もいらっしゃいます。でもそうすることによって死期が近づく可能性もあるという事実をお伝えすると、「死にたくはない」とおっしゃる方もいるのです。ですから自分が、できるだけ長く生きることと、今を楽しんで悔いがないように暮らすことと、その両方を大切にできるようにバランスを考えながら選択することが大切かと思います。

 ただ実際にがんになると、自分自身もご家族も、さまざまな判断に悩み、迷い、苦しむケースがよくあります。話し合いのなかで、意見が対立することもめずらしくありません。そうなったらなったで、とことん悩んで、迷って、納得がいくまで話し合ってください。がんの闘病に正解はありません。でも自分が納得のいくかたちでがんと向きあうことはできるのです。がんになってから人生が輝きだしたとおっしゃる患者さんもいます。でもできることなら、元気なうちから日々を楽しみ人生の輝きを味わって過ごしたい、私はそう思うのです。

 最後に濱口さんは、「がんになった患者さん同士のネットワークはすごいですよ。がんと告げられてショックで落ち込んでいた人も、“がん友”たちの元気な姿と励ましによって勇気づけられ、いきいきと前を向いて生きていく方が多いのです。そして、がんになった方・ご家族を支えようとする人が、病院にも地域にもたくさんいますよ」と教えてくれた。

 “もしも”のときのことは、できれば考えたくない。考えたくもない。そう思う人もいるかもしれない。しかし、がんの闘病を乗り越えて明るく生きている人もたくさんいる。がんについて考えることは、自分の生き方や家族について考えること。いざというときのために心の準備をしておくことが、日々を大切に生きていくきっかけにもなるだろう。

ハフィントンポスト 2015年10月6日

抗がん剤の副作用軽減に新しい方法、大豆油などを乳化した栄養補給剤が効く
「イントラリピッド」がプラチナ製剤の毒性を軽減
 米国カーネギー・メロン大学を含む研究グループが、有力科学誌ネイチャー誌の姉妹誌で、オンライン科学誌であるサイエンティフィック・リポーツ誌で2015年6月に報告したもの。

 研究グループが注目しているのは「プラチナ製剤」と呼ばれるタイプの抗がん剤。

 文字通り、プラチナ(白金)を使った薬。プラチナには細胞分裂を邪魔する性質があり、この性質を利用している。35年以上にわたって広く使われ、シスプラチン、カルボプラチン、オキシプラチンなどさまざまな種類がある。

 副作用としては、腎臓へのダメージといったものがある。

ナノ粒子取り込み半減

 研究グループによると、プラチナ製剤の副作用は、薬が健康な組織に蓄積して起こる。

 薬をがん細胞に送るためにナノ粒子が使えるのが、それでもがん細胞に届くのはわずか1〜10%。体に備わる免疫機能のために、大半は肝臓と脾臓に送られてしまう。

 肝臓と脾臓に集まると、がんの治療には利用できなくなり、むしろ毒性が問題になる。

 研究グループは、日本でも一般的に使われている栄養剤である「イントラリピッド」が、肝臓と脾臓によるナノ粒子の取り込みを低減すると発見。イントラリピッドは大豆油などから作られた乳化剤となっている。

 動物実験によって、プラチナ製剤投与から24時間後、プラチナ製剤の蓄積が肝臓では約20%、脾臓では約43%、腎臓では約31%減少すると確認。毒性の副作用が大幅に低下すると見つけた。

がん細胞への効果を高める可能性も

 さらに、イントラリピッドの注入により、プラチナ製剤が働きを保って体内にとどまる時間が長くなっていた。より多くの薬が、がん細胞に届き、用量を減らす可能性もあるという。

 研究グループは臨床試験で確認しようと進めているという。

 既に医療現場で使われている栄養剤であるだけに、実現も近いのかもしれない。

Medエッジ 2015年10月9日

ゾウにがんが少ない理由を解明、米研究
 ゾウは、その大きい体にもかかわらず、がんになることはほとんどない──。この「謎」をめぐる研究結果が8日、発表され、ゾウが持つ、がんに対する防御機能の秘密が明らかにされた。ヒントは遺伝子の中に隠されていたという。

 米国医師会雑誌に掲載された研究論文によると、ゾウには、腫瘍の形成を抑制するタンパク質「p53」をコードする遺伝子の一部が変化したコピーが38あるが、人間は、この種のコピーを2つしか持っていないという。

 これは、ゾウの体が進化の過程で、腫瘍の形成を阻止する遺伝子の追加のコピーを多数作成してきたことを意味する。

 ゾウは人間よりはるかに多くの細胞を持っているため、50〜70年間の一生のうちにがんになるリスクは、人間より高いと通常は考えられる。だが実際はそうではないのは長い間、謎とされてきた。

 ゾウの死因の膨大なデータベースを分析した結果、がんで死ぬゾウは全体の5%に満たないことが分かった。これに対し人間では、がんは死因の11〜25%となっている。

 論文の共同主執筆者で、米ユタ大学医学部ハンツマンがん研究所の小児腫瘍医、ジョシュア・シフマン氏は「論理的に推論すると、ゾウは途方もない数のがんを発症するはずで、実際には、高いがんリスクにより今頃はもう絶滅しているはずだ」とした上で、「より多くのp53を作ることが、この動物種を今も生存させている自然の方法だと考えている」と続けた。

 さらに、がん化する危険性がある損傷した細胞を殺傷するための、より攻撃的な体内メカニズムが、ゾウには生まれつき備わっていると研究チームは指摘。このことについて論文では「隔離したゾウの細胞では、この活性が、健康な人間の細胞の倍になっている」と記されている。

 論文の共同執筆者には、米アリゾナ州立大学や米人気サーカス団が運営するリングリング・ブラザーズ・ゾウ保護センターの専門家らも名を連ねている。

 研究チームは、今回の成果が人間の抗がん治療法の新たな開発につながることを期待している。

時事通信社 2015年10月9日

がんが心臓にもたらす隠れた危険
新規診断のがん患者で心臓組織の損傷が示唆される
 がん患者は、悪性腫瘍によって目に見えない心臓への損傷を受けている可能性があることが、オーストリアの研究で明らかにされた。新たにがんと診断された患者では心疾患の存在を示すホルモンや化学物質の血中濃度が高いことから、臨床的徴候がなくてもがんが心臓組織を損傷している可能性が示唆されると、研究グループは結論づけている。

 米国心臓病学会(ACC)のAna Barac氏によると、近年、がんの化学療法が心臓に毒性作用をもたらすことがわかってきたため、心臓医とがん専門医の間の壁がやや取り払われており、がん専門医は化学療法を実施する前に心疾患の科学的指標をチェックすることも多いという。しかし今回の研究で、がん患者は化学療法を受ける前からこうした指標の値が高く、がんの進行とともにさらに上昇することがわかった。

 同氏によると、この結果はがんと心臓病に対する医師の考え方を変える可能性があるという。本研究は患者555人を対象に実施され、医学誌「Heart」に9月28日掲載された。

 今回の研究では、患者が化学療法を開始する前に、心疾患の徴候を調べる一連の血液検査を実施した。例えば心筋収縮を制御するトロポニンと呼ばれる化学物質は、心臓発作を起こしたことがあるかを検査するのに用いられると米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)教授のAnn Bolger氏は説明している。

 患者を2年間にわたり追跡し、その間に約3分の1が死亡した。分析の結果、トロポニンをはじめとする各ホルモンの値は、がんの重症度とともに上昇しており、なかには通常の100倍になるものもあった。いずれの指標にも患者の全死因による死亡リスクとの有意な関連が認められ、21〜54%の上昇がみられた。

 がんが間接的に心臓に損傷を与える機序としては、例えば身体ががんを攻撃するために炎症反応を増大させ、それが心臓に害を及ぼすことが考えられるという。また、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのAlexander Lyon氏によると、がんが筋肉を破壊する毒性物質を産生することにより直接的に心臓を傷つける可能性もあるという。

 しかし、腫瘍の増殖に必要な新たな小血管が形成されるときにこのようなホルモンや化学物質が産生されるなど、別の理由も考えられるとBarac氏は指摘する。それでも今回の結果は、がん患者の心臓の状態を評価し、損傷から守るための薬剤治療を行うことが重要であることを示すものだと専門家らは話す。

 「がんの闘病中に心疾患まで発症することは患者にとって極めて厳しいものだ。そのような状況を避けるために手を尽くしたい」と、Bolger氏は述べている。

m3.com 2015年10月13日

身長が高い人はがんリスクも高い可能性
10cm高くなると女性で18%、男性で11%リスク上昇
 500万人を超えるスウェーデン人男女を対象とした研究で、背が高いほどがんリスクが高いことが示唆された。この研究では、成人時の身長が10cm増えるごとに、がんリスクが女性では18%、男性では11%高まることが判明。長身の女性は乳がんの発症リスクが20%高まるほか、男女ともに身長が10cm増えるごとにメラノーマ(悪性黒色腫)のリスクが約30%上昇することもわかった。

 「この研究は、これまで他の研究で示されていた知見を裏づけるものだ。過去の研究では、身長と大腸がんの関連も明らかにされている」と米国がん協会(ACS)のSusan Gapstur氏(今回の研究には関与していない)は話す。一方で、このような知見が示すのは、あくまでも身長とがんリスクが関連するということだけであり、「長身だからがんになるというわけではない」と同氏は強調している。

 身長とがんリスクに関連がみられる理由について、Gapstur氏は、身長はがんリスクの表れである可能性があると話す。「成人時の身長は、遺伝因子と成長過程で触れてきた因子を反映している。そのため今回の研究から、若年時に曝露されるリスク因子の一部について、理解する手がかりが得られる可能性がある」と述べている。

 今回の研究では、1938〜1991年にスウェーデンで出生した550万人の情報をレビュー。1958年以降または対象者が20歳になった時点から、2011年末まで対象者の健康状態を追跡した。成人時の身長には100cmから225cmまでの幅があった。

 研究を率いたスウェーデン、カロリンスカ研究所(ソールナ)のEmelie Benyi氏は、「これは男女を対象に身長とがんの関連について検討した最大規模の研究だ」と述べている。「がんの原因は多因子性であり、今回の研究結果が個人レベルのがんリスクにどのような影響を及ぼすかを予測するのは難しい」とBenyi氏は述べ、長身の人が皆がんになるわけではないと強調している。研究グループはさらに、身長ががんによる死亡リスクに及ぼす影響に関する研究の実施を予定している。

 この研究結果は、先ごろスペイン、バルセロナで開催された欧州小児内分泌学会(ESPE)年次集会で発表された。なお、学会発表された研究は一般に、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

m3.com 2015年10月15日

正しい知識でがんを防ぐ
子どもたちに必要な「がん教育」とは
 日本では今、2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなるといわれている。未来ある子どもたちにがんの正しい知識を教えることは、子どもたちの命を守るためにも必要不可欠だ。ベネッセ教育情報サイトでは、「がん教育」の第一人者でもある、東京大学医学部准教授の中川恵一氏に話を伺った。

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 人間の体は、約60兆個の細胞からできています。これら細胞の一部は、毎日分裂と増殖を繰り返しています。各細胞は、細胞の設計図である遺伝子をコピーして増えますが、 中にはコピーミスによって、遺伝子の突然変異が起こる場合があります。これが「がん細胞」です。がんは高齢になるほどかかりやすいと考えられており、世界一の長寿国である日本は、がんにかかる可能性が高い人が世界一多いといえます。

 現在の日本では、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなるのが現状で、患者数は年々増加しています。先進国の中でがんが増え続けているのは日本だけです。欧米では、正しいがんの知識を子どもたちに教えて、予防や早期発見につなげるための「がん教育」が始まっていますが、日本ではまだまだ。このことも、がん発症率を増加させる原因の一つになっていると考えられます。

 がんは、ちょっとした知識で死亡率を下げられます。たとえば、生活習慣の改善で防げる可能性が高まります。また現代医学では、早期がんなら9割以上が治癒できるのです。早期に見つけることが重要で、そのためには健康な時に検診を受けることが望まれます。欧米では7〜8割が検診を受けていますが、日本は2〜3割程度にとどまっており、がんや検診について学校で習っていないことも一因ではないかと考えられます。

 がんは、正しい知識を持てば、かかる確率も死亡率も下げることができます。子どもの未来を守るためにも、命を守る「がん教育」に取り組むことを望んでいます。

livedoorニュース 2015年10月19日

多能造血前駆細胞を体外で無限増幅
理研など、癌療法応用に期待
 理化学研究所などの共同研究チームは、「多能造血前駆細胞」と呼ばれる細胞を生体外で無限に増幅させる培養方法を開発した。同細胞は血液のもととなる造血幹細胞のように自己複製能は持たないが多能性を示すもので、幹細胞様の細胞といえる。分化を停止するだけで幹細胞性を獲得できるというこれまでの幹細胞性の概念を覆す新たな手法を発見した。免疫細胞に分化させるなどして細胞療法への応用が考えられる。

 造血幹細胞は各種の血液細胞を作りだすもので生体外で増幅させる方法が盛んに研究されているものの、実用的な方法は確立されていない。研究チームは、E2Aという転写因子を欠損させると免疫細胞であるB細胞の分化が初期段階で停止し、B前駆細胞が多能造血前駆細胞としての特徴を示すという知見をさらに進めて研究した。

 E2Aの働きを一時的に阻害するために、E2Aの阻害たんぱくであるIdたんぱくをマウスの造血幹細胞群へ導入。B細胞への分化を誘導する条件下でこれらの細胞を培養すると前駆細胞段階で分化が停止し、多能造血前駆細胞が増幅(自己複製)した。この細胞は約1カ月で1万倍にまで増殖し培養を続ける限り増え続けた。この前駆細胞をマウスに移植すると、リンパ球や顆粒球などさまざまな白血球を作った。主に白血球を作り出す幹細胞という意味でこの細胞を「iLS(人工白血球幹)細胞」と名づけた。

 iLS細胞は赤血球や血小板はあまり作らず生体内では自己複製しないが体外では無限に増やせる。これまでは、多分化能と自己複製能の維持は幹細胞だけが保持する特殊な能力と考えられてきた。また、生体外でこの状態をつくりだすには、初期化などの手法により未分化な状態に巻き戻す必要があると思われてきた。今回の研究によって、単に分化を停止させるだけで幹細胞性を獲得する事が初めて示されたことになり、「幹細胞性」の概念を変える可能性がある発見だとしている。

 応用例としては、患者の造血前駆細胞からiLS細胞を作製し、樹状細胞やがん抗原特異的なキラーT細胞を大量に作製することによるがん細胞療法などがあり得る。造血幹細胞や免疫細胞を用いた遺伝子治療の研究の進行にも役立つとみられる。さらには、単に分化を停止させるという同様の方法を用いて、他の組織においても幹細胞を増幅できる可能性がある。

m3.com 2015年10月26日

「加工肉の発がん性」WHO組織が正式に認定
 世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、ベーコンやソーセージなどの加工肉を「人に対して発がん性がある」、牛や豚などの赤肉を「おそらく発がん性がある」として正式に指定した。

 世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)はこのほど、ハムやベーコン、ソーセージなどの加工肉を、「人に対して発がん性がある」とする「グループ1」として正式に指定した。

 IARCは、牛や豚、羊などの赤肉も、「人に対しておそらく発がん性がある」とする「グループ2A」に分類した。

 この結論は、800件を超える疫学調査の分析を、22人の専門家でつくる委員会が審査して得られたもので、結果は『Lancet Oncology』誌で発表された(購読には無料登録が必要)。分析には、さまざまな国や民族、食生活にわたるデータが含まれているため、「偶然や偏り、混同などで説明されるとは考えにくい」と述べられている。

 関連性が最も顕著に表れているのは、「加工肉の消費量」と「結腸がん」との関連だが、加工肉は胃がんとも関連付けられている。

 これを裏付ける証拠のひとつとして、委員会では2011年のメタ分析結果を引用している。これは、日常的に摂取する加工肉を50g増やすごとに、人が結腸がんになる相対リスクは18%高くなると結論付けたものだ。

 さらにこの調査では、日常的に摂取する赤肉を100g増やすごとに、人が結腸がんになる相対リスクが17%高くなることもわかっている。

 証拠が限られているため、赤肉とがんとの相関性に関する委員会の結論は、「おそらく」発がん性があるという表現にとどまっている。ただし、結腸がんのほかに、すい臓がんや前立腺がんとも相関性があることがわかっている。

 肉とがんとの関係については、そのメカニズムに関する強力なデータがある。塩漬けや燻製などの肉の加工方法によって、ニトロソ化合物や多環芳香族炭化水素などの発がん性化学物質が形成されるのだ。

 焼く、揚げるなど高温で赤肉を調理した場合も、ヘテロサイクリック芳香族アミンなどの既知の発がん性物質や、その疑いがある物質が形成される。

AFPBB News 2015年10月27日

微量血液で癌免疫療法効果を定量評価
メディネットなど、診断薬で実用へ
 メディネットは岡山大学大学院自然科学研究科生命医用工学専攻の二見淳一郎准教授などと共同で、がん細胞に対する免疫応答のレベルをごく微量の血液から定量評価する新技術を開発した。がん免疫療法のコンパニオン診断薬としての実用化が期待でき、同療法の実用化を後押しするものとして実用化を急ぐ。

 研究グループは、このほか東京大学医学部附属病院、川崎医療福祉大学のメンバーなど。がん免疫治療がよく効いている症例では血液中にさまざまな抗がん抗原抗体が増加する現象に着目し、同抗体を調べる抗体検査法を開発した。多くのがん抗原たんぱく質は不溶化しやすいという課題があったが、独自開発の可溶化技術の活用で解決、高感度な抗体検出を可能とした。

 活用したのは、たんぱく質分子内に存在する疎水性の高い残基であるシステイン残基に対して科学技術修飾を施した可溶化技術。さらに全長・水溶性がん抗原を蛍光性時期ビーズに固定化することで高感度抗体検査試薬とした。

 がん免疫療法は、がん細胞による免疫機構の抑制を解く働きがある免疫チェックポイント阻害剤の開発進展などで、新たな段階を迎えつつある。ただ、治療効果が現れるまでに数カ月を要する場合もあるため、腫瘍の大きさだけ診ていたのでは評価が難しいこともある。腫瘍免疫応答の活性化を調べる診断薬が求められており、今回の成果はリアルタイムでの免疫応答の定量測定を可能とするものとして期待される。次世代がん免疫療法の確立に役立つとみられる。

 このような仕組みの診断薬の開発には、がん抗原が200種類を超える多種多様性を持つことも課題。これに対し研究グループでは、100種類超の全長のがん抗原たんぱく質を組み換えたんぱく質として高生産するリソースの整備も進めている。

m3.com 2015年10月28日

肺癌を呼気で識別する検知器開発
フィガロ技研−産総研、呼気中VOCから複数肺癌マーカー物質の組み合わせ見出す
 産業技術総合研究所は、トクヤマグループのフィガロ技研と共同で、呼気で肺がんのスクリーニングができるガス検知器を開発した。呼気中の揮発性有機化合物(VOC)から複数の肺がんマーカー物質の組み合わせを見出し、患者を高精度で識別できるアルゴリズムを開発。簡易ガスクロマトグラフィー型VOC検知器とした。臨床試験と改良を進め2017年の実用化を目指す。

 VOCを捕集しやすい吸着剤で吸着・濃縮し、濃縮したガスを分離カラムで分離。高感度の半導体式センサーで分離した低濃度のVOCを検知する。数ppbレベルの疾患マーカー物質を検知できる。肺がん患者と健常者の呼気ガス成分と濃度を分析装置で計測し統計的に解析したところ、ブタン、メチルシクロヘキサン、アセトン、酢酸、フラン、プロピオン酸、アセトイン、1−メチルスチレン、ノナナールなどのVOCが肺がんマーカー物質の候補となった。

 得られた呼気ガス成分と濃度の計測結果を用い、多次元のデータを二値に分類する機械学習アルゴリズムであるサポートベクターマシン(SVM)で学習させ、被診断者に関し検証。特定の肺がんマーカー物質のセットにより高い真陽性率と真偽性率でのスクリーニングができることが分かった。この結果に基づき、肺がんと健常を高精度で判定できるアルゴリズムを開発し、呼気VOC検知器プロトタイプに組み込んだ。

 また両者は、熱電式水素センサー素子を用いて直接呼気中の水素ガス濃度を測定できる呼気水素検知器プロトタイプも試作している。平行して水素ガス濃度と健康状態・生活習慣との相関を明らかにしており、健康管理への応用を目指している。

m3.com 2015年10月29日

大腸癌スクリーニング勧告案公表
50-75歳の全成人スクリーニングを強く推奨
 米国家庭医学会(AAFP)は10月14日、米国予防医学作業部会(USPSTF)が10月6日に発表した大腸癌のスクリーニング検査に関する勧告案を紹介した。同案では、大腸癌はスクリーニング検査により死亡率が低減することを改めて強調した上で、50-75歳には強く推奨(A勧告)、76-85歳は、総体的な健康や過去のスクリーニング歴に基づき個別に対応するよう勧告している(C勧告)。

 勧告案は、平均的な大腸癌リスクのある無症候性の50歳以上を対象とし、2008年版と同様に、50-75歳の全成人にスクリーニングを強く推奨した。76-85歳には個別対応としており、スクリーニング検査の有益性が高い群として(1)これまで検査歴がない、(2)癌が発見された場合、治療を受けるだけの健康状態が保たれている、(3)寿命に影響するような合併症がない――を挙げている。一方、85歳を超える大腸癌スクリーニングは勧めないとの勧告を追加している。

 スクリーニング法については、2008年勧告では、5年に1回の軟性S状結腸鏡検査と、3年に1回の免疫化学的便潜血検査(FIT)、もしくは高感度グアヤク便潜血検査(gFOBT)の併用を検討していたが、現行案では特に、10年に1回の軟性S状結腸鏡検査と年1回のFITの併用について解説している。

 USPSTFは11月2日までパブリックコメントを募集している。

m3.com 2015年10月30日

男性向けサプリメントは前立腺がん患者に無益
疾患増悪や死亡のリスク低減せず
 前立腺がん患者において、男性向けサプリメントの有用性は認められないことが新たな研究で示された。放射線治療の副作用のリスク、限局がんの拡散リスク、がんによる死亡リスクのいずれも、サプリメントで低減しなかった。研究の筆頭著者で米フォックスチェイスがんセンター(フィラデルフィア)の研修医であるNicholas Zaorsky氏によると、新たにがんと診断された患者の2人に1人は何らかのサプリメントを試しているという。

 今回の研究で着目したのは、「男性向け」「前立腺の健康によい」と謳われる製品で、その多くはボトルに「臨床的に立証済み」「泌尿器科医が推薦」などと表示されているが、実際に臨床試験は実施されていない。2001〜2012年に放射線療法を受けた36歳以上の患者2,200人以上を対象に調査した結果、約10%が治療中またはその後の4年間に約50種類の男性向けサプリメントのうち1種類以上を使用していた。

 90%以上のサプリメントは前立腺肥大に有効とされるノコギリヤシ抽出物を含有しており、一部には成分が明らかにされていないものもあった(「その他」「企業秘密の酵素」などと表示)。サプリメントによる有害な副作用はみられなかったが、運動や食事などの生活習慣の因子を考慮すると、サプリメント使用者に全生存率の向上は認められず、前立腺がんの転帰に対する便益はないと、研究チームは結論づけた。

 サプリメント業界の事業者団体、有用栄養物審査会(CRN)のDuffy MacKay氏は、この報告に対し、男性用サプリメントの主要成分については臨床試験で有意な健康への効果が示されていると反論。さらに、「今回の研究の主張は結論ありきでデータを探して得られたものであり、科学的根拠が示されていない」と述べ、「いずれの製品も疾患を治療できるとは謳っていない」と同氏は付け加えている。

 1994年に制定された米国の栄養補助食品健康教育法では、サプリメントの安全性に関する責任は製造者が単独で負うものとしている。販売には米国食品医薬品局(FDA)への登録が必要だが、表示内容は製造者と販売者の自主管理に委ねられている。

 この知見は、10月18〜21日に米サンアントニオで開催された第57回米国放射線腫瘍学会(ASTRO)年次集会で発表された。なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなす必要がある。

m3.com 2015年11月2日

膵癌診断のバイオマーカーを発見
国がん、検査キットも開発
 国立がん研究センターは9日、血液中のアポリポプロテインA2(apoA2)というたんぱく質のアイソフォーム(異性体)が、早期膵がんや膵がんリスク疾患で低下することを発見したと発表した。すでにapoA2アイソフォーム検査のキット化にも成功。模擬検診などで臨床での有用性を評価し、膵がん検診用の血液バイオマーカーとして実用化を目指す。

 同センター研究所・創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長の研究グループの成果。厚生労働省、日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的がん医療実用化研究事業」の支援を受けている。

 apoA2アイソフォームは善玉コレステロール(HDL)を形成するたんぱく質で、健常人の血液中に一定量存在する。同研究グループは質量分析の結果から、apoA2アイソフォームが膵がんや膵がんリスク疾患の患者で低下することを見いだした。

 米国国立がん研究所(NCI)との共同研究では、米国の早期膵がん患者(1,期、2,期膵がん98例)を含む252例の血液を用いてapoA2アイソフォームを測定したところ、健常者に比べ早期膵がん患者でapoA2アイソフォームが低下していることが分かった。また、既存の膵がんバイオマーカーであるCA19−9と比べて高い精度で1,期、2,期膵がんを検出できることも確認した。この結果から、NCIはapoA2アイソフォームを、膵がんでの信頼性の高い血液バイオマーカーになりうる可能性があると評価している。

 従来、血液中のapoA2アイソフォーム濃度計測には質量分析を用いた測定法しかなかった。質量分析を用いた方法は高価な機器を必要とし、一般の臨床検査として使用するには課題がある。そこで、同研究グループは簡便な検査キット「Human APOA2 C−terminal ELISA kit、研究用試薬」を開発した。

 国内多施設共同研究で集められた膵がんを含む消化器疾患患者と健常者の血液検体を同検査キットで測定したところ、CA19−9と比較しより高精度に早期膵がんを検出できた。CA19−9が反応しない膵管内乳頭粘液性腫瘍や慢性膵炎などの膵がんリスク疾患も高い精度で検出した。apoA2アイソフォームとCA19−9との組み合わせで、早期膵がん検出率はさらに向上した。

 AMEDの支援を受け同研究所と神戸大学などが協力し「apoA2アイソフォームを用いた膵がん模擬検診」を開始する予定。この模擬検診を含めた今後の研究によって、apoA2アイソフォームの検査が本当に早期膵がんや膵がんリスク疾患を適切にスクリーニングでき、検診に実用化できるかどうかを確認していく。開発した検査キットは研究用試薬で、体外診断薬としての承認取得も目指している。

 研究成果は英科学誌ネイチャー系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

m3.com 2015年11月10日

TVの見過ぎが主要疾患による死亡リスクに関連
1日3〜4時間の視聴でリスク15%上昇
 TVの見過ぎが、主要な死亡原因のいくつかと関連することが、新たな米国の研究で明らかとなった。米国人の92%は自宅にTVを持ち、成人の80%が余暇の半分以上にあたる1日平均3時間半、TVを見ているという。

 今回の研究では、米国立がん研究所(NCI)のSarah Keadle氏らが、研究開始時に慢性疾患がなかった50〜71歳の22万1,000人超の対象者を、死亡または2011年12月まで約15年にわたり追跡した。

 その結果、対象者がTVを見る時間が長いほど、心疾患、がん、糖尿病、インフルエンザ/肺炎、パーキンソン病、肝疾患といった疾患で死亡する可能性が高かった。

 TVの視聴時間が1日1時間未満の対象者に比べて、1日3〜4時間の対象者では研究期間中の死亡リスクが15%高く、1日7時間以上の対象者では47%高かった。喫煙や飲酒、カロリー摂取量などの危険因子を考慮しても、TV視聴と死亡リスク上昇には関連性がみられた。ただしこの関連性とは、TVの見過ぎがこれらの疾患による死亡を生じさせるという意味ではない。

 これらの死亡リスク上昇は、活動的な対象者と非活動的な対象者のいずれでもみられたという。今回の研究は、「American Journal of Preventive Medicine」オンライン版に10月27日掲載された。

 Keadle氏は、「近年、長時間座っていると健康に多数の悪影響が及ぶ可能性があるとする研究報告が増加しているが、今回の研究もそれに続くものである。高齢化や余暇におけるTV視聴時間の長さ、広範囲に及ぶ死亡リスクの上昇を考えると、長時間のTV視聴はこれまで認識されていたよりも重要な公衆衛生の介入の標的となりうる」と話している。

m3.com 2015年11月13日

髪の脱毛を、諦めない抗がん剤治療
 いま、がんに対しては様々な治療法が出てきていますが、2015年現在で最もポピュラーな治療法は”抗がん剤”です。

 通院治療も可能で、手術や放射線治療と一緒に受けることもできる。ということで「最も手軽な選択肢」とされる抗がん剤ですが、副作用が多い治療の代表格でもありますよね。

目立つからこそ、気になる脱毛

 抗がん剤を使用すると、多かれ少なかれ、発疹やかゆみ、白血球や赤血球の減少、吐き気や嘔吐、疲労感やだるさなどの諸症状に苦しむことになります。

 ただ、これらは確かに苦しいですが、傍目にすぐわかってしまうものではありません。
そして、抗がん剤には”脱毛”という、見た目に大きなハンディキャップを抱えるリスクがあることが有名です。

通常は、抗がん剤の投与を受けてから2?3 週間で目に見えて脱毛が始まることが多いようです。

脱毛防止に”冷却キャップ”

 オーストラリアのビクトリア州、メルボルンのカンブリーニ病院(Cabrini Hospital )ではこのほど、抗がん剤治療中の患者さんの髪の毛を守るための冷却キャップ(帽子)が効果を示したことが明らかになっています。

 現在、ビクトリア州全土から冷却キャップを求めて、同病院に患者が詰めかけてるとのことです。
医師のミシェル・ホワイト氏によると、最初はこのキャップを”怖い”と思う患者さんもいらっしゃるとのことです。

 ですが、このキャップで頭皮を冷たく保つことにより、頭皮の血管を収縮させ、毛の産生に関与している「毛包細胞」にたいして、抗がん剤が浸透するのを防ぐ効果があるのだそう。

 実はこの商品、化学療法による脱毛を防ぐための『ペンギンコールドキャップ(Penguin Cold Cap)』として商品化されており、実際にアメリカやイギリス、カナダなどではレンタルなどで運用されているようです。

 疲労物質を流してくれる「アイシング」も良いと思います

 アイジングとは、いわば、スポーツ選手が負傷した部分に行うようなものかもしれません。

 アイシングの効果の一つとして、一時的・局所的に、細胞の新陳代謝レベルを低下させ、少ない酸素や栄養素で細胞が活動できる環境を作り出すことがあります。

 もちろん、その後は通常通りの血流になるのですが、その際には血流が増大し、疲労物質を流してくれる効果があるのです。
何の根拠もありませんが、筆者などは冷えピタでも代用できるのでは?などと思ってしまいました。
いろいろ応用できそうです。

 副作用の脱毛場所としては頭皮だけでなく、眉毛やそのほかの体毛も含まれてきます。

 そうした脱毛にも冷却キャップが効くかどうかは分からないですが、冷却が一時的に血管を収縮させるということさえわかれば、様々な部分に応用できそうですし、カツラなどに頼らなくても、安心に抗がん剤治療を続けられそうですね。

ガジェット通信 2015年11月14日

腫瘍溶解性ウイルスの国内P2実施
タカラバイオ、米国治験データ活用
 タカラバイオは腫瘍溶解性ウイルス「HF10」の早期商業化に向け、国内で第2相臨床試験(P2)を実施する。国内では再生医療等製品の条件・期限付き承認制度を活用する方針だが、国内P1のデータだけで申請するよりも米国P2データを生かした国内P2を新たに実施したほうが承認審査をクリアしやすいと判断した。2018年度の国内上市を目指し、早期に国内P2を開始できるよう準備を進めている。

 HF10は単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)の弱毒化株で、がん局所に注入することによって腫瘍組織内で選択的に増殖し、腫瘍組織を破壊することが期待されている。多くの腫瘍溶解性ウイルスは遺伝子を組み換えたり外来遺伝子を挿入するなど遺伝子工学的改変を行っているが、HF10は自然変異型のウイルスであるため、安全性に優れるとともに強い抗腫瘍効果を示すと推測されている。

 国内では固形がんを対象としたP1を国立がん研究センター中央病院で実施中。目標症例数6例のうち1症例への投与を終えており、今期中にも国内P1を終了できる見通し。

 米国ではすでにメラノーマを対象としたP2に着手。免疫チェックポイント阻害剤・抗CTLA−4抗体との併用療法で、目標症例数43例のうち37例の患者登録が完了。16年度中のP2終了を計画している。ただ、米国P3には多くの症例数の組み入れが必要であるため、タカラバイオとしては条件・期限付き承認制度を活用できる国内開発を先行させる考え。

 そのため、米国P2終了後にそのデータを国内申請に活用できるような国内P2の実施を計画している。米国P2の中間解析結果では重篤な副作用はなく、完全奏効(CR)が3例、部分奏効(PR)が6例と一定の有効性を示している。国内P1データのみでの申請よりも、一定の有効性が示されている米国P2データを活用して申請した方が承認条件をクリアしやすいと考えている。

 国内P2の試験デザインを検討中。単剤にするか、米国P2のように抗CTLA−4抗体との併用療法にするかは未定。

 10月末に腫瘍溶解性ウイルスとしては初めて米アムジェンの「T−Vec」が米FDAから承認された。T−VecはHF−10と同じHSV1の弱毒化株だが、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)遺伝子を挿入することで免疫賦活作用を持たせてある。

 タカラバイオの仲尾功一社長は、T−VeCとHF−10の違いについて「自然変異型ウイルスのHF−10の方が、ウイルス自体の腫瘍細胞を破壊する効果が強い。そのため腫瘍由来抗原がたくさん放出され、腫瘍免疫効果が高まる。副作用も少なく、優れた安全性を示すと期待している」と、その優位性を強調した。

m3.com 2015年11月16日

子どもの多い女性は卵巣がんリスクが低い
卵管結紮でも予防効果
 子どもの多い女性ほど卵巣がんリスクが低い可能性があることが、新たな研究で示唆された。さらに、卵管結紮をしている女性の卵巣がんリスクが低いことも明らかにされた。

 今回の研究では、4タイプのよくみられる卵巣がん(漿液性、粘液性、類内膜、明細胞)の危険因子を明らかにするため、8,000人強の女性のデータを分析した。

 研究を率いた英オックスフォード大学のKezia Gaitskell氏によると、近年、卵巣がんの症例の多くが実は卵巣から発生したものではないことが明らかにされているという。例えば、高悪性度漿液性腫瘍の多くは卵管から発生し、一部の類内膜腫瘍および明細胞腫瘍は子宮内膜症から発生すると考えられている。

 子どものいない女性に比べ、子どもが1人いる女性は卵巣がん全体のリスクが20%低く、類内膜腫瘍と明細胞腫瘍のリスクが40%低かった。子どもが1人増えるごとに卵巣がんリスクは8%低減した。

 さらに、卵管結紮を受けている女性は卵巣がん全体のリスクが20%低く、高悪性度漿液性腫瘍のリスクが20%、類内膜腫瘍と明細胞腫瘍のリスクが50%低かった。

 この研究は、先ごろ英リバプールで開催された英国立がん研究所会議で発表された。なお、学会発表された研究は医学誌掲載時のような厳密な審査を受けていないため、予備的なものとみなされる。また、今回の研究では因果関係は明らかにされていない。

 子どものいない女性の卵巣がんリスクが高い理由として、「子宮内膜症のような不妊症状と卵巣がんリスク上昇を同時にもたらす疾患が関連しているのかもしれない」とGaitskell氏は指摘する。卵管結紮については、腫瘍の原因となる異常な細胞の卵管への到達が結紮により妨げられている可能性が考えられる。「今回の結果は、卵巣がんの既知の危険因子との関連が、腫瘍のタイプにより異なることが示された点で興味深い」と同氏は結論づけている。

 会議議長で英ロンドン大学(UCL)がん研究所教授のCharlie Swanton氏は、卵巣がんは1つの疾患ではなく、異なる疾患を発生部位により1つにまとめたものだと指摘し、「さまざまなタイプの卵巣がんに何が影響を及ぼすのか、どの因子がそれに関与するのかを知ることが重要だ。この知見の背景にある機序を解明し、すべての女性でリスクを低減する方法を見つける必要がある」と述べている。

m3.com 2015年11月16日

男性不妊で精巣がんリスクが高い可能性
精子数が異常に少ない男性ではリスク10倍
 妊孕能の低い男性は精巣がんリスクが高い可能性があることが、米ユタ大学のHeidi A. Hanson氏らの研究で示され、論文が「Fertility and Sterility」11月19日号に掲載された。

 1996〜2011年に不妊治療の一環で精液分析を受けた男性約2万人を、妊孕能があるとわかっている同数の男性対照群と比較した。全体で421人ががんと診断され、最も多かったのは黒色腫、精巣がん、前立腺がんだった。

 解析の結果、低妊孕能の男性が精巣がんを発症する可能性は対照群の3倍だった。特に精子数が異常に少ない男性では、リスクは10倍となった。精子の形や運動性などの問題がある男性でも、リスクは上昇していた。

 一方、これまでの研究結果とは対照的に、精液中に精子のない男性では、がんリスクの上昇はみられなかった。また、妊孕能と前立腺がんリスクとの関連も認められなかった。ただし、今回の研究は直接的な因果関係を明らかにしたものではないため、不妊問題をもつ男性がパニックに陥る必要はないという。

 男性生殖・泌尿器学会(SMRU)元会長のRobert Oates氏は、「今回の研究は、患者へのよりよい治療提供に役立つ新しい洞察をもたらす。また、不妊やがんにつながる生理学的機序を明らかにし、治療に結びつけるために必要な研究の強力な基盤となるだろう」とコメントしている。

m3.com 2015年11月30日

カーター元米大統領、脳腫瘍の治療成功を発表
 ワシントン(CNN) 米国のカーター元大統領(91)は6日、最近受けた脳腫瘍(しゅよう)の治療が成功し、病巣が消えたことが分かったと発表した。

 ジョージア州の教会で自身が担当する日曜学校の生徒らに語り、地元紙が最初に報じていた。

 生徒の1人(12)によると、カーター氏は「先週受けた磁気共鳴画像装置(MRI)検査の結果、がんは見つからなかった」と話し、出席者から拍手が起きた。

 同氏はさらに声明で改めて、「MRI検査では元の病巣も新たな病変も見つからなかった。今後も3週間ごとに免疫療法薬ペンブロリズマブの投与を受ける治療を続けていく」と述べた。

 カーター氏は今年、肝臓がんの手術を受けたが、8月には脳内の4カ所にがん組織が見つかったことを明らかにした。しかしその3日後には、いつも通り日曜学校の教壇に立っていたという。

 治療を担当した米エモリー大学の医師団は先月、同氏のがん治療は順調だと発表していた。

CNN.co.jp 2015年12月7日

科学界のタブー、がん“予防”に「細胞競合」という新しい研究分野から挑む
北海道大学 遺伝子病制御研究所 藤田恭之 教授

がんの「予防」は難しい

 「これを食べればがんを予防できる!」といったような話題をよく耳にすることがあるかもしれないが、実はこれらを科学的に実証することは難しく、科学の世界においてがん“予防”の研究はこれまでタブー視されてきた分野であるという。しかし北海道大学 遺伝子病制御研究所 藤田恭之教授は、この科学界のタブーに切り込み「がんの予防薬」の開発を目指している。

 藤田教授が着目したのは、現在臨床の対象外となっており、がん研究においてブラックボックスとなっているがんの「超早期病変」だ。がんは数年かけて徐々に蓄積されていく病気で、がん遺伝子およびがん抑制遺伝子にいくつかの変異が入ることによって発症する。つまり、正常な細胞が少しずつ変異していくことでがんになるというわけだ。

 しかしながら、がんの超早期段階での病変は見かけ上正常にみえるため、現在の病理診断技術では発見することができない。欧米では今年から、潜在的な病変の早期発見と対策という研究分野に予算が付けられているというが、日本では残念ながらそういった事例はまだない。

 藤田教授は2009年、正常な細胞にテトラサイクリンという抗生物質を加えることで、がんタンパク質を発現させるという細胞を作成。これを利用して、正常細胞に囲まれたところにがん細胞が存在するという、これまでブラックボックスとなっていたがんの超初期段階の環境を再現した。この際、正常細胞の社会からがん細胞がはじき出され、体外に排出される方向へ抜けていくという、いわば“村八分”的な現象が起こったという。これが、藤田教授がメインテーマとして研究に取り組む「細胞競合」だ。

 実はこの細胞競合の研究アイディアは、藤田教授が大学院生のころ、研究者と度々軋轢を起こすメンバーに対し「あいつは本当にがんのようなやつやなあ、どうしたら退治できるのだろうか」と考えたときに閃いたものだそう。藤田教授は「我々の手に負えないような極悪人が出現した際には警察が処理にあたるが、少し悪い彼のような人間に対しては周りの人間がなんとか排除、あるいは矯正しようと試みる。同様に、悪性度の高い腫瘍細胞は免疫細胞という特殊な細胞が処理にあたるが、“チョイ悪”の腫瘍細胞は周りの正常細胞がなんとか対応するのではないだろうか」と考えたのだ。

 それまでのがん研究は、正常細胞と変異細胞をそれぞれ培養して、その違いをみるというものがほとんどだった。藤田教授らのチームが行った「正常細胞と変異細胞を混ぜて、その社会性を見る」という研究は、非常に画期的なアイディアであったと言えよう。

「細胞競合」はどうして起こる

 では、細胞競合はどうして起きるのだろう。実は、正常細胞側も変異細胞側も、互いを認識しているということはすでに明らかになっている。しかし、それが分子の違いによるものなのか、物理的な形によるものなのかといったことはわかっておらず、細胞競合の世界の大きな謎となっている。

 「我々の研究室では、お互いの認識機構がどのような分子メカニズムで起こっているのかということを明らかにしたい。しかしこれまでにない新しい研究なので、どうやってこういった分子を見つけたらよいかわからず、手探りの状態」(藤田教授)

 同研究室では、正常細胞と変異細胞を混ぜたときにだけ量や働きが変化している分子を探しているところだというが、そのなかでも細胞骨格となる「ビメンチン」というタンパク質の作用がすでに明らかになっている。

 ビメンチンは細胞競合の際、変異細胞の境界に濃縮してくる。これは正常細胞側からの影響で起きるもので、ダイナミックに構造を変えることができるフィラメント構造のビメンチンが、細胞競合の際に突起状に伸びてきて、変異細胞を突くように“攻撃”を始める。明らかに、正常細胞が変異細胞を認識していると言える現象だ。

正常細胞と変異細胞の境界で「ビメンチン」が濃縮。変異細胞を攻撃する

 藤田教授によると、細胞競合にはビメンチン以外にも多くの分子が関わっていることが考えられるという。正常細胞と変異細胞の認識機構の全貌は、いまだ明らかになっていない。

 細胞競合は平成26年〜平成30年の文部科学省 新学術領域研究に採択されており、今後ますます発展していくものと思われる。しかし、がんの“予防”を目的とした研究自体にはこの科学研究費は利用できないという。そこで、藤田教授は現在、世界初のがん予防薬および診断薬を「細胞競合」という現象を利用して開発することを目標に、クラウドファンディングよる研究費獲得にチャレンジしている。

 細胞競合を利用したがんの予防薬としては、2つの方法が考えられる。ひとつは、細胞競合の際に特異的に機能している分子を明らかにし、これを標的にした薬を開発するというもの。正常細胞の攻撃する能力を高める、または変異細胞側のディフェンスを弱めるといった、細胞の社会性を生かした薬だ。もうひとつは、細胞競合力を高められるような低分子化合物を同定し、これを薬として用いるというものだ。

 またこれまでは、がんの予備軍細胞が存在するかどうかを診断する術がなかったが、細胞競合の際に正常細胞と変異細胞の境界で濃縮してくるタンパク質をバイオマーカーとすれば、診断薬開発への応用も見えてくる。

 「私はもともと医学の出身なので、“がんを撲滅したい”という気持ちで研究をしている。細胞競合という新しい研究分野を利用して、これまでタブー視されてきたがんの予防に、クラウドファンディングを通じてみなさんと一緒に取り組んでいきたい」(藤田教授)

 イギリスでは「Cancer Research UK」というがん研究への寄付活動を行う組織がある。Cancer Research UKではたとえば、街中にある同組織の店舗で衣服などを購入すると、それががん研究への資金となる。藤田教授によると「欧米では、国からの研究費のほかに一般の方のドネーション(寄付)が大きな比重を占めている」という。

 がん研究において、今回のクラウドファンディングの目標である500万円というのは決して大きな金額ではない。しかし、今回のチャレンジの成否が、日本におけるがん研究、ひいてはサイエンスへの寄付文化を根付かせることができるかどうかの試金石となりそうだ。

マイナビニュース 2015年12月7日

ALL(急性リンパ性白血病)のCAR-T療法で9割完全寛解
6カ月後も76%で再発せず
 スイス・ノバルティスは、米ペンシルバニア大学ペレルマン医学大学院と共同開発しているキメラ抗原受容体(CAR)技術を用いたがんの免疫細胞療法(CAR−T療法)「CTL019」について、最新の臨床試験データを発表した。急性リンパ性白血病(ALL)を対象にした第2相臨床試験(P2)では9割以上の患者で完全寛解を達成した。自家移植による遺伝子治療では、大手製薬会社で最も開発が先行しており、来年にも米国で承認申請予定。

 小児・若年成人の再発/難治性ALL患者を対象にしたP2では、患者の93%(59例中55例)で完全寛解(CR)が認められた。6カ月後も再発しなかった症例は76%、12カ月後は同55%。現在も寛解状態を維持している症例は18例という。主な副作用はサイトカイン放出症候群で、88%の症例で報告された。

 びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)を対象にした前期P2では、3カ月時点の全奏効率(ORR)がDLBCL群で47%(15例中7例)、FL群で73%(11例中8例)。6カ月時点でCRを達成した症例はそれぞれ3例あった。無増悪生存期間(PFS)の中央値はDLBCL群が3・0カ月、FL群が11・9カ月だった。

 ノバルティスはこれらの試験を拡大し、欧州、カナダ、豪州でもP2を開始した。自家移植の遺伝子治療薬を調製するための培養施設を米国で建設し、米国食品医薬品局(FDA)のGMP認証も受けた。米国では来年にも承認申請し、2017年の発売を目指す。

 CTL019は、ALLなどに高発現するCD19抗原を認識する遺伝子を患者のT細胞に組み込み、増幅させた細胞を患者体内に戻す治療法。米ジュノ・セラピューティクスや米カイト・ファーマも同様のCAR−T療法をP2中で、来年にも承認申請予定。

m3.com 2015年12月10日

加工肉でがんになる? 本当はどんな報告だったのか
誤解だらけの加工肉・赤肉問題
 食についての大きな関心事がまた1つ増えた。ハムやソーセージなどの加工肉や、牛肉や豚肉などの赤肉などの摂取と、発がんの関係性が取り沙汰されている。

 今年10月、国連・世界保健機関(WHO)の附属機関である国際がん研究機関(IARC)が「赤肉と加工肉の摂取の発がん性」という報告書を出し、加工肉については「人に対し発がん性がある」、赤肉については「おそらく発がん性がある」としたのだ。マスメディアがこれを大きく報じ、心配になった人びとが肉の買い控えをする事態になっている。

 降って湧いたように起きた赤肉・加工肉に対する心配事。だが、今回の発表はどのような位置づけのものなのか。また、日本人はこの発表をどのように受け止めればよいのか。そもそも肉の摂取だけに関心を向けていればよいのか。次々に疑問が浮かんでくる。

 そこで、これら数々の疑問を、発がんのリスクや、がんの予防医学などに詳しい専門家に投げかけてみた。応じてくれたのは、国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部長の笹月静氏。同研究部は、今回のIARCの発表を受け、日本人の赤肉や加工肉の摂取とがんのリスクの関係性を解説した「赤肉・加工肉のがんリスクについて」を発表。笹月氏はこの解説の作成に従事した。

 前篇では、国際がん研究機関の今回の発表がなにを意味し、私たち消費者がどう受け止めればよいのかを聞くことにする。後篇では、日本人を対象にしたこれまでの研究結果から、日本人は赤肉・加工肉の摂取を心配すべきなのか、発がんのリスクのなにを気にかければよいのかを聞く。

今回が初の指摘ではない

――国際がん研究機関(IARC)が、10月に「赤肉と加工肉の摂取の発がん性」について報告をしました。加工肉について「人に対し発がん性がある」、赤肉については「おそらく人に対し発がん性がある」とする内容だと聞きます。そもそも、この報告は、どのような経緯でなされたのでしょうか?

笹月 静 部長(以下、敬称略) 発表をした国際がん研究機関(IARC)は世界保健機関(WHO)の附属機関で、年3回「IARCモノグラフ」という調査報告書を出しています。各号では、たとえば「放射線」や「職業上の被ばく」といった特定のテーマを設けています。

 テーマごとに専門家が募られ、入手可能な世界中の論文をもとに、どのくらい論文の結果が一致しているかなどから、発がんの確実性を判定しています。

 最新の「モノグラフ」第114号のテーマが「赤肉と加工肉」だったため、今回、肉の摂取のヒトに対する影響が取り上げられました。そして、10月の発表に至ったわけです。

――赤肉や加工肉と発がんの関係性について、研究者たちは初めて指摘したことなのですか?

笹月 いえ。今回初めて指摘したようなことではありません。

 たとえば2003年には、世界保健機関と国連食糧農業機関(FAO)が共同で「食事、栄養及び慢性疾患予防」について報告しています。その中でも、「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「不十分」という4段階で関連性を設定する中で、加工肉と大腸がんの関連性については2番目の「ほぼ確実」とし、「なるべく加工肉は摂らないように」と書いています。

 また2007年には、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究機構(AICR)が共同で「食物、栄養、身体活動とがん予防」について報告しています。10項目の「勧告」の1つとして「動物性食品」を取り上げ、「肉(牛肉、豚肉)の摂取を控える。加工した肉はできるだけ避ける」とし、個人に対しては「肉の摂取を週500g(18オンス)以下とし、加工した肉はできるだけ食べないようにする」ことを勧告しています。

 これら過去の報告も、その時点で発表されていた世界中の研究をもとに、発がんの確実性を判定したものです。ですので、手法としては過去のものも今回のものも同じなのです。
今回の報告は行動指針を示すものではない

――これまでと今回の発表で、何か違いはあるのですか?

笹月 2003年や2007年のときの報告では、いま説明したように、目標や勧告といった形で、がん予防のためのガイドラインが示されています。これに対して今回の国際がん研究機構の報告は、発がんの関連性の有無の判定するだけに留まっています。この差は、それぞれの研究機関、報告書の持つ役割の違いからです。

 発がんのリスクを評価するには段階があります。まず第1段階として、危険(ハザード)があるのか、あるいは予防効果があるのか、などが評価されます。次に第2段階で、がんになりやすい職業的な背景があるのかといったことを踏まえ、リスクや予防効果の評価がされます。そして、第3段階でようやく、どういう行動をとるべきかといった行動指針の評価がなされます。

 2003年や2007年の報告は、第3段階の行動指針まで示すものでした。でも、今回の国際がん研究機関の報告は第1段階どまりのものです。実際どうすべきかといった行動は、今回の報告を受けて、各国がこれから決めるべき話なのです。

――今回の国際がん研究機関の報告で、加工肉は「グループ1」、赤肉は「グループ2A」に分類されたと聞きます。これらの分類をどう考えたらよいのでしょうか?

笹月 今回で言うと、調査対象となった世界の研究のうち、加工肉については約3分の2の研究がリスクを上げる方向のものだったという結果から、「人に対して発がん性がある」とする「グループ1」に判定されました。赤肉については「おそらく人に対して発がん性がある」とする「グループ2A」に判定されました。

――グループは5つあるそうですが、発がんのリスクが「グループ1」はもっとも高く、「グループ2A」は次に高いということなのでしょうか。

笹月 いえ、そうではありません。この判定は「結果の一致度」を示したものであり、決して「リスクの高さ」を示すものではありません。

 もし、リスクの高さについて言うならば、「加工肉をたくさん食べる人が大腸がんになる確率は、食べない人に比べて何倍」といった話になりますが、このグループ分けはそういう話ではありません。あくまで今回で言うと、世界中の研究の約3分の2が、「加工肉の摂取が大腸がんのリスクを上げる」という方向で一致しているという話です。それだけ一致しているということは、加工肉の摂取と発がん性になんらかの因果関係があるという結論に至ったわけです。

 たとえば、「グループ1」に分類されているもののなかでも、喫煙に起因する全世界のがん死亡は年間100万であったのに対し、アルコールは60万、加工肉は3万4000人であったことか?示されています。

 また、赤肉については、これまでの世界の研究のうち、半分ほどがリスクを上げる方向で一致したということです。それと、牛肉などの赤肉には鉄分が含まれていて、これが酸化・抗酸化の点では酸化する方向に働くといったような、発がんに寄与する可能性が加味され、「おそらく発がん性がある」を意味する「グループ2A」に分類されたのです。

50グラム以上は危険という誤解

――もう1つ、今回の国際がん研究機関の発表では、「加工肉では1日50グラムの摂取につき18パーセント、赤肉では1日100グラムの摂取につき17パーセント、大腸がんのリスクを高める」ともしていますね。

笹月 ただし、これについても多くの方の誤解を呼んでいるようです。「加工肉は1日の摂取量50グラムまでは大丈夫だが50グラムを超えると危険」とか、「赤肉は摂取量100グラムまでは大丈夫で、100グラムを超えると危険」と捉えている人もいるようですが、それはまったくの誤解です。

――どういうことでしょう?

笹月 加工肉の場合、「摂取量が50グラム増えると、リスクが18パーセント高まる」、また赤肉の場合、「摂取量が100グラム増えると、リスクが17パーセント高まる」と言っているのです。50グラムや100グラムという摂取量でリスクが線引されているわけではありません。

テーマが絞られていたゆえに注目されやすかった

――過去にも国際的な機関が、加工肉や赤肉と発がんの関係性について指摘していたという話でしたが、過去にはこれほど騒ぎにならなかった気がします。今回どうしてここまで騒ぎになったのでしょう?


笹月 2003年や2007年の報告は、あらゆる食事や身体活動などを扱ったものです。肉の摂取については、その中のごく一部の項目にすぎませんでした。けれども、今回は1テーマに絞った発表で「赤肉および加工肉」が取り上げられたのです。そこに社会や人びとの関心が集中してしまったのだと思います。

――人々が物事をきちんと判断するためには、やけに具体的なテーマに絞ること自体、問題がある気もします。発表する機関は、そうした影響も考えなければならない気がするのですが・・・。

笹月 たしかに、今回のような評価があると、食肉団体など利害関係に関わっている団体は猛反発をするということは予想できます。

 ただし、その一方で、科学的な評価がそうした利害関係からくる反発などに左右されてはならないといった考え方もあります。関連団体からコンタクトを受けて、「やっぱりあの結果はやり直します」となったら、それはそれで困ります。

――そうですか。今回の発表は世界に向けてのものでしたが、私たち日本人は肉をどう摂取すればよいのかが気になります。

 笹月さんはじめ、日本の研究者は、日本人を対象とする食事と発がんの関係性の研究を集めてとりまとめたと聞きます。後篇では、日本人を対象にした話を聞いていきたいと思います。

笹月 静(ささづき しずか)氏。国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部部長。博士(医学)。1996年、熊本大学医学部卒業。2000年、九州大学大学院予防医学講座博士課程修了。同年4月より国立がん研究センターへ。リサーチレジデント、研究員、室長を経て、2013年より現職。おもな研究分野は公衆衛生学、健康科学、疫学・予防医学。

JBpress 2015年12月11日

2016年から始まる「全国がん登録」
将来のがん治療にどのように役立つのでしょうか
「全国がん登録」とはどんな制度

 全国がん登録とは、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計、分析、管理する新しい仕組みです。
居住地域にかかわらず全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータが国のデータベースで一元管理されるようになります。

 これにより、「今までのやり方では正確に把握できなかったデータを収集していけるようになる」と期待されています。

今までの管理では、ダメなのでしょうか?

 現在、がんと診断された人のデータを収集する仕組みには、「地域がん登録」制度があります。
地域がん登録では、都道府県がそれぞれの自治体内で診断されたがんデータを集めたものです。しかし、都道府県ごとにデータを収集していると、がんにかかってから他県に移動した人などのデータが重複する可能性があり、正しい情報が把握できないことが問題とされていました。

 また、すべての医療機関が地域がん登録に協力しているわけではないので、すべてのがん患者のデータを収集することもできず、正確ながんデータを集めることができませんでした。

登録手続きについて

 この制度では「がん登録等の推進に関する法律」に基づき、全国の医療機関は、癌と診断された人のデータを都道府県知事に届け出ることが義務化されます。

 そのため、患者や家族側におけるがん登録の手続きは不要です。

 がんと診断された時点で、本人のがんに関する情報が自動的に医療機関、都道府県を通じて、国立がん研究センターの中に設置されている「全国がん登録データベース」に登録されていきます。

収集されたデータは何に使われるのでしょうか

 全国から収集したデータは、国のデータベースにまとめられ、統計の専門家によって分析が行われます。

 分析によって得られた最新の統計情報は、国立がん研究センターがん対策情報センターのウェブサイト「がん登録・統計」で随時公開され、誰でも閲覧することができます。

 これらの統計情報は一般に公開されると同時に、国や都道府県のがん対策をはじめ、がん検診や治療の体制づくり、がん研究などに役立てられます。

どんな情報が収集されるのでしょうか

 正確な統計情報をとることを第一の目的とされるため、「がん登録等の推進に関する法律」で、がん登録にあたって患者本人の同意を得なくてもよいとされており、「他人に個人情報を知られたくない」という理由で、がん登録を拒否することはできません。

 集められる情報の中には、「がんと診断された人の氏名、性別、生年月日、住所」「がんの診断を行った医療機関名」「がんの種類」「がんの治療内容」などがあります。しかし、診断結果や治療内容は、医療機関に直接確認することであり、担当医の承諾を得ない下での開示は、患者本人や家族の開示請求も認められていません。

 データを集めることで、がんの地域的な偏りや、どの治療が効果的なのかが分かり、治療に役立つのであれば仕方のないことなのかもしれませんが、自動的に個人情報が収集されるのは、漏洩の問題を考えると不安になる人も多いのではないでしょうか。ですが、これからのがん治療に一石を投じることにつながる大切なことなのです。

ガジェット通信 2015年12月12日

新たな癌治療標的発見、国がん
合成致死のメカニズムを利用
 国立がん研究センター(国がん)は9日、第一三共との共同研究で、特定の2つの遺伝子がともに機能しなくなるとがん細胞が死滅する「合成致死」のメカニズムを利用した新たながんの治療標的を発見したと発表した。肺がんなどで変異するCBP遺伝子の機能をp300遺伝子が活性化するように補助する働きを持つことを突き止めた。研究チームは、CBP遺伝子が変異しているがんの新たな治療薬として、p300たんぱく質を阻害する薬剤の開発を目指す。

 CBP遺伝子は肺小細胞がんや悪性リンパ腫などで変異型があるとされるが、遺伝子自体の機能は失われるため、その遺伝子を直接ターゲットにした治療薬は開発できない。だが、不活性化した遺伝子の機能を補助する別のパートナー遺伝子が存在する場合がある。この現象は「合成致死」と呼ばれ、パートナー遺伝子を阻害してがん細胞を死滅させる治療法の開発が注目されている。

 国がんと第一三共の研究チームは、CBP遺伝子とp300遺伝子の組み合わせも、この合成致死の関係があることを発見した。遺伝子変異でCBPたんぱく質が異常になったがん細胞は生存するためにp300たんぱく質の機能が必要で、p300遺伝子が機能しなければがん細胞が死滅する可能性を確認した。このメカニズムに基づき、p300たんぱく質の機能を阻害する薬剤(p300特異的阻害剤)を新たな抗がん剤として応用できると期待している。

 国がんは2012年に第一三共と包括的研究提携契約を結び、新たな抗がん剤創出を目指す共同研究を行っている。

m3.com 2015年12月14日

がん検診が死亡率高める?危険な現実
岡田正彦 新潟大学名誉教授

 現在、5つのがんに対する集団検診が国によって推進されています。胃、大腸、肺、乳房、それに子宮の各がんです。しかし、どのがん検診も死亡率を下げる効果がないか、むしろ死亡率を高めてしまうものであることは、本連載で述べてきたとおりです。

 検診でがんが見つかれば必ず治療が行われていますから、これは検査だけの問題でなく、治療の方法にも疑義があることを意味します。

 では早期発見・早期治療ができるはずのがん検診で、なぜ死亡率が下がらないのでしょうか。

 「がん=死」というイメージが人々の脳裏に焼きついています。日本では、昭和27年に公開された黒澤明監督作品『生きる』がひとつのきっかけだったように思います。映画の中で、がんを患った主人公を名優・志村喬が演じていましたが、「がんは必ず死ぬ病気」であることが強調されていました。しかし、本当にそうなのでしょうか。

 その昔、がん細胞のかたまりを動物に移植すると、たちまち大きな腫瘍に成長して動物が死んでしまうという研究報告が世界中でなされました。がん=死であることが専門家の共通認識となり、やがて世界中の人々の知るところとなったのです。

 しかし動物にがんを移植しようとしても、普通は拒否反応が起きるため、うまくいきません。もし移植したがんが動物の体内でどんどん大きくなったとすれば、よほどたちの悪いものを選んで実験を行ったと考えられます。動物実験の結果だけから、がんの性質を論ずることはできないのです。

 何も治療せずに、病気を放置した場合にたどる経過を「自然史」といいます。『現代病理学体系−癌の自然史(藤田哲也著)』によれば、ヒトの胃がんや大腸がんは、1個のがん細胞がレントゲン検査や内視鏡検査で発見できるほどの大きさ(直径1センチメートル以上)に成長するまでに、理論上25年くらいかかるのだそうです。しかし現実には個人差も大きく、また、がんが発見されるとほぼ例外なく手術などの治療が行われるため、本当の自然史は誰にもわかっていませんでした。

放置と最新治療、5年生存率は同じ?

 ところが最近、意外な事実が次々と明るみに出されるようになりました。

 たとえば、CTによる肺がん検診が行われ、小さな変化まで見つかるようになりましたが、ある研究によれば、直径が3センチメートル以下の腫瘍では、サイズとその後の運命、つまり死に至るかどうかとは無関係であることがわかりました。

 乳がんと診断される人の22%くらいは、放置しても自然に消滅してしまう可能性が高いことは、本連載ですでに紹介したとおりです。

 また、海外で行われた調査によると、死亡した人の解剖を行ったところ、たまたま肺がんが見つかった153人のうち、43人は生前に肺がんの診断は受けておらず、症状もいっさいなかったそうです。

 さらに国内で行われた調査によれば、精密検査で胃がんと診断されながら、なんらかの理由で治療をいっさい受けなかった38人の日本人を追跡したところ、5年後に生存していた人が63〜68%もいたというのです。胃がんと診断された時点での「進行度」は不明ですが、平均して2期(正式表記はローマ数字/がんが胃壁に留まる)くらいだったとすれば、最新治療を受けた場合の5年生存率とほぼ同じだったことになります。

 がんは放置すると必ず大きくなり、たちまち死に至るとの神話は、すでに崩れ去っています。がんの悪性度には大きな個体差があり、人畜無害なものから極悪なものまでさまざまなのです。無害ながんを検診でたくさん見つけて治療すれば、5年生存率は高く見えるに決まっています。

 がん検診の専門家は、レントゲン検査をCTや内視鏡に替えて「検診の精度が高まった」と自慢しています。しかし、その努力は過剰な診断(over-diagnosis)を助長し、過剰医療の犠牲者を増やしているだけです。

 がん検診の旗振り役が「日本対がん協会」のようですが、いったい誰が、何を根拠に、どんなことをしているのか、国民にわかる言葉で説明してほしいものです。「ピンクリボン」という名の運動を支援している厚生労働省、東京都、日本医師会、朝日新聞社などは、利益相反の有無も含めて自らの責任を明確にする必要があるでしょう。

 がん検診を推進する組織のホームページは、どれも「受けるのが当然」との前提でつくられていて、筆者には誇大広告か詐欺商法にしか見えません。

参考文献:Gut 2000;47:618-21.

Business Journal 2015年12月15日

マンモ偽陽性、後の癌リスク4割増
診断後生検群ではリスクが76%増加
 米国癌学会(AACR)は12月2日、マンモグラフィ検査で過去に偽陽性と診断されたことのある女性は10年以内に乳癌を発症するリスクが高まる可能性を示した研究結果を紹介した。Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌に掲載。

 研究では、1994-2009年に米国で40-74歳の女性130万人を対象に行われたマンモグラフィ検査220万件を解析。初回検査から10年にわたって追跡調査し、乳癌リスクについて評価した。この間に4万8735人の女性が乳癌と診断された。

 一般的に、マンモグラフィ検査で偽陽性となった場合は、追加の画像検査を受け、さらにその一部は生検が行われる。調査の結果、検査後10年間の乳癌リスクは、マンモグラフィ検査で偽陽性と診断された群では、陰性だった群と比べて39%高く、偽陽性と診断され生検を受けた群では76%高かった。

 この研究を主導したLouise M. Henderson氏は、「他のリスク要因と乳癌リスク全体を再検討する中で今回の結果を有用なツールにしたい」と述べている。

m3.com 2015年12月16日

スマホで抗癌剤副作用モニタリング
英AZ、臨床試験で有用性検証
 英アストラゼネカ(AZ)はこのほど、同社が開発した抗がん剤治療で、スマートフォンを用いて副作用などをモニタリングするサービスの検証を始めると発表した。スマートフォンのアプリが服薬管理を支援する「コンパニオン・デバイス」として有用か検討する。

 医療分野向けのソフトウエア開発などを手掛ける仏ボランティスが開発したスマートフォンアプリを用いて、抗がん剤治療を受けている患者の副作用状況などを管理するデジタルサポートサービスの有用性を検証する。AZが開発した抗がん剤「オラパリブ」「Cediranib」を服用している再発プラチナ感受性高悪性度卵巣がん患者を対象にした臨床試験でスマートフォン・アプリを試験導入して検討する。試験は米国立がん研究所の主導で来年1〜3月期に開始する予定。

 患者がスマートフォンから入力した副作用情報などが治療を受ける医療機関のウェブポータルに直接送信されるため、副作用状況の把握や投与量の調整などを効率化できると期待している。

m3.com 2015年12月16日

前立腺がんのホルモン療法がアルツハイマー病リスクに関連
3年間の追跡期間中に診断される可能性が88%上昇
 前立腺がんのホルモン療法により、男性のアルツハイマー病発症リスクが劇的に上昇する可能性が、大規模な医療データの解析により示唆された。前立腺がんの男性は、アンドロゲン遮断療法(ADT)を受けるとアルツハイマー病リスクがほぼ2倍となり、1年以上ADTを受けた場合はさらにリスクが上昇すると、研究の筆頭著者である米ペンシルベニア大学(フィラデルフィア)ペレルマン医学大学院のKevin Nead氏は述べている。

 米国立がん研究所(NCI)によると、男性ホルモンであるアンドロゲンは前立腺がんの増殖を促進するとされており、このホルモンを抑える治療法は1940年代から主流となっている。現在、米国では約50万人の男性が前立腺がん治療としてADTを受けているという。しかし、医師らの間ではADTが患者の脳機能にも影響を及ぼすのではないかという疑いがもたれていたと、米国がん協会(ACS)のOtis Brawley氏は説明する。

 今回の研究では、米スタンフォード大学病院(カリフォルニア州)およびマウント・サイナイ病院(ニューヨーク市)の患者550万人の医療記録を調べ、転移のない前立腺がん患者約1万7,000人を特定した。このうち約2,400人がADTを受けていた。

 後にアルツハイマー病の診断を受けた患者を確認した結果、ADTを受けた患者は、受けていない患者に比べ、約3年間の追跡期間中にアルツハイマー病と診断されるリスクが88%高かった。また、ADTを12カ月間以上受けていた患者ではリスクは2倍以上となることがわかった。

 なぜ、男性ホルモンがアルツハイマー病リスクに影響を及ぼすのだろうか。その理由はいくつか考えられるが、米アルツハイマー病協会(AA)のKeith Fargo氏によると、アンドロゲンにはβアミロイドと呼ばれる蛋白の血中濃度を低く抑える作用があるようだという。アルツハイマー病患者の脳内には、βアミロイドが凝集したアミロイド斑(プラーク)がみられる。また、ADTが患者の血管やその他の重要な健康状態に影響を及ぼし、それが脳機能に影響する可能性もあるとNead氏は述べている。

 しかし、専門家らはこの知見に基づいて何らかの医学的勧告を出すのは早いとしている。このような観察研究では因果関係を明らかにすることはできず、他の未知の因子が影響を及ぼしている可能性もあるとNead氏は話す。Fargo氏もこれに同意し、この知見に基づいて薬剤の投与を中止すべきではないと述べている。

 この研究は「Journal of Clinical Oncology」オンライン版に12月7日掲載された。

m3.com 2015年12月24日

資生堂、がん治療中の人に向けメーキャップ方法をまとめた小冊子を無料配布
 資生堂はこのほど、がん治療中の人特有の肌悩みに対応したメーキャップ方法をまとめた小冊子『がん患者さんのための外見ケアBOOK』を発行した。

 同社では、1990年代初めから医療機関と連携し、あざや白斑、傷あとなど肌に深い悩みを抱える人に向けて、メーキャップアドバイスや、悩みのカバーに適した専用商品の開発に取り組んできた。

 2006年6月には活動の拠点となる施設「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター」を東京都・銀座に開設。また、がんの治療中は副作用として、肌色の変化、まゆ・まつ毛の脱毛などといった外見上の変化が起きることから、2013年10月からはそれらの副作用に悩む人に向け、個室でのアドバイスも行っている。

 このほど発行した小冊子では、がん治療の副作用による外見上の変化に対し、メーキャップによってカバーするテクニックや外見ケアの必要性を紹介している。

 内容は、「がん患者さんへのメッセージ」「肌色のカバー方法、テクニック」「自然な眉の描き方」「印象的な目もとに仕上げるアイメーキャップ」「メーキャップとウィッグによるイメージチェンジの方法」「がん治療体験者のコラム」など。

 小冊子は、全国約380カ所の専用商品取り扱いの化粧品専門店、デパートや小冊子提供希望の病院などで無料配布している。また、資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンターのウェブサイトから閲覧・ダウンロードも可能。

マイナビニュース 2015年12月27日