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2014年5月 文献タイトル
がん患者、2割に認知機能障害
子宮筋腫、内視鏡手術に壁 切除装置、がんをまき散らす恐れ 学会が対応協議へ
前立腺がんを嗅ぎ分けるイヌの能力はほぼ完璧 臨床での応用可能性は?
大腸がんの関連たんぱく質発見 杏林大の助教ら発表

がん患者、2割に認知機能障害
 全国に整備されたがん診療連携拠点病院で、「緩和ケアチーム」が担当するがん患者の少なくとも2割が認知機能障害を合併していることが、読売新聞の全国調査で分かった。

 こうした患者は、がんの発見の遅れや、意思確認の難しさで適切ながん治療を受けにくくなる懸念、治療後の受け入れ先探しの難しさなどに直面し、高齢人口の急伸に伴って激増が予想される。

 調査は4月、全国のがん診療連携拠点病院397か所にアンケートを実施。認知症を含めた精神症状を伴うがん患者に最も接する緩和ケアチームに、認知症や一時的に過度な興奮や幻視を起こす「せん妄」などの認知機能障害を合併した患者について尋ね、225病院(57%)から回答を得た。

 各病院のチームが昨年12月-今年2月の3か月間に担当した患者1万176人のうち、認知機能障害を合併していた人は計2080人(平均10人)で、担当患者全体の20・4%。

 「市立札幌病院」(80人、88%)、「静岡県立静岡がんセンター」(72人、52%)、「国立がん研究センター東病院」(88人、42%)など合併患者への対応件数が多い病院がある一方で、48病院が10%未満、16病院が「0」だった。認知機能障害はうつ病や体調不良などとして見過ごされがちで、実際にはさらに多くの合併患者がいるとみられる。

 体と精神を担当する別々の常勤医や経験を積んだ常勤看護師、薬剤師をチームにそろえた病院(112か所)の合併患者数は、そうでない病院(109か所)の2倍。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の小川朝生・精神腫瘍科長は「合併患者の比率の高さに緩和ケアチームの実力が反映している。首都圏などでは高齢者数の急増が確実で、対策を急がなければ深刻な状況に陥る」と話している。

 緩和ケアチーム がんによる痛みや、興奮・不安などの精神症状を和らげ、患者や家族の生活の質を支える専門チーム。医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーら多職種で構成し、主治医の依頼を受けて対応する。がん診療連携拠点病院には設置が義務づけられている。

m3.com 2014年5月17日

子宮筋腫、内視鏡手術に壁
切除装置、がんをまき散らす恐れ 学会が対応協議へ
 多くの女性が悩む子宮筋腫で、内視鏡手術ができなくなる恐れが出てきた。筋腫を細かく切る装置について、がんがあった場合にがんをまき散らすリスクがあるとして、米国が使用を控えるよう求めたためだ。

 日本でも企業が自主的に販売を止めた。だが、手術前に詳しく検査する日本では状況が異なるとして、日本産科婦人科内視鏡学会は21日、緊急に対応を協議する。

 この装置は「モルセレーター」というカッターで、筋腫などを細かくして吸い取る。ただ、筋腫と見分けにくいがんもあり、米食品医薬品局(FDA)によると、子宮筋腫の手術を受ける患者の0・3%にがんがあったという。

 FDAは4月に使用を勧めないと医師に呼びかけた。日本で装置を販売しているのは2社で、2000年に承認された米国製がシェアの大半を占める。米国製は5月上旬に日本でも販売が停止された。もう1社のドイツ製も一時停止した。消耗品のため、在庫がなくなれば、この装置での内視鏡手術ができなくなる。

 子宮筋腫は成人女性の1〜2割が重い症状に苦しんでいる。内視鏡手術はおなかの傷が1センチほどで、入院期間も数日ですむ。実施件数は年々増え、12年では約9千件。ほとんどでこの装置が使われた。はさみなどによる内視鏡手術も可能だが、方法が変わることで、ほかの臓器を傷つけるリスクが高まるという。

 厚生労働省によると、この装置でがんが飛び散った事例は日本では報告されていないという。筋腫とがんの判別は日本では精度の高いMRI検査が普及しており、米国とは異なるとして使用中止を求めていない。

 順天堂大の菊地盤先任准教授(産婦人科)は「患者にきちんとリスクと選択肢を示して選んでもらうことが大切だ」と話す。

m3.com 2014年5月20日

前立腺がんを嗅ぎ分けるイヌの能力はほぼ完璧
臨床での応用可能性は?
 イタリア・Humanitas Research HospitalのGianluigi Taverna氏らは,特別な訓練を施した2匹のイヌに前立腺がん患者と対照群900例以上の尿検体を嗅ぎ分けさせ,100%に近い精度で前立腺がんの検出結果が得られたと米国泌尿器科学会(AUA)年次集会(5月16〜21日,米フロリダ州)で報告した。

さまざまな背景の尿検体900点以上で実験

 イヌは鼻腔の嗅覚細胞と脳の嗅覚皮質(嗅球)がヒトと比べてはるかに発達し,数千〜数万倍の嗅覚を有するとされ,その能力は麻薬探知犬や爆発物探知犬として実際に活用されている。

 医学分野でもヒトの尿検体に含まれる揮発性の有機化合物を嗅ぎ分けられるようイヌを訓練して,さまざまながんを検出させようとした複数の研究が報告されている。前立腺がんに関しては,フランスのチームが2010年に発表した研究で,100%に近い判別結果が得られているものの,使用された尿検体数は66点と少なかった。

 今回の研究では,902点の尿検体(患者群362点,対照群540点)を冷凍保存し,軍の施設に運んで実験を行った。

 使用されたイヌは2匹ともイタリア軍においてフルタイムで爆発物探知作業に従事する3歳の雌ジャーマンシェパード(名前はLiuとZoey)だった。

 実験の結果,前立腺がん検出の精度は,Liuが感度100%,特異度98.7%,Zoeyが感度98.6%,特異度97.6%であった。

 患者の年齢,Gleasonスコア,病期,PSA値,腫瘍体積,病巣の部位,がんの悪性度,転移の有無などと検出精度の間に関連は見られなかった。

 このことは,イヌが感知している物質の強さや量は,がんの悪性度や大きさとは関係ないか,その物質がごく微量であってもイヌは感知できることを示唆している。

 筆頭研究者のTaverna氏は「高度な訓練を受けたイヌは,前立腺がん患者の尿検体を100%に近い精度で嗅ぎ分けられることが分かった。また,その能力と臨床および病理学的指標との間に関連は見られなかった」と結果をまとめ,「この能力を利用して不要な生検を減らし,高リスク患者を絞り込むことが将来可能になるかもしれない」と付け加えた。

Medical Tribune 2014年5月21日

大腸がんの関連たんぱく質発見 杏林大の助教ら発表
 大腸がんができるときに、腸の細胞で働いているたんぱく質を発見したと、杏林大の仲矢丈雄助教(病理学)や自治医科大の永井良三学長らの研究グループが発表した。

 ヒトの腸の内側にあるひだのくぼみの部分には、腸の内側表面の細胞が作られるもとになる幹細胞がある。腸にできるがんなどの腫瘍のほとんどはこの幹細胞から発生すると考えられている。しかし、がんができるきっかけは何か分かっていなかった。

 研究グループは、この幹細胞があるひだのくぼみ部に多く存在する「KLF5」というたんぱく質に注目した。マウスの実験で、腸の幹細胞でKLF5が働かないようにしたところ、腸の表面の細胞の一部が増殖しにくくなったり、死滅したりするようになった。

 また、腸にがんができやすい状態にした特別な実験用マウスの腸の幹細胞からKLF5を取り除くとがんができなくなった。KLF5は腸の幹細胞がもとになってがんが作られるスイッチの役割を果たしていたと考えられるという。

 研究者の一人、杏林大の仲矢助教は「将来的に大腸がんの新しい治療につながるかもしれない」と話す。

m3.com 2014年5月22日