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2014年1月 文献タイトル
17分で肝臓の病状検査 シスメックスが開発
胆道がんの遺伝子発見 阻害薬特定、臨床試験へ
iPS細胞:作製で染色体異常修復 移植治療応用へ期待 米研究グループ発表
がん幹細胞死滅に効果 岡山大グループ開発の製剤
河北病院、2月から大腸CTドック導入 検査時間短縮で受診率向上に期待
超音波で抗がん剤効果判定 血流観察、兵庫医科大
1センチ以下のがん「狙い撃ち」治療器開発支援
幹細胞「暴走」防ぐ遺伝子
白血病治療薬を高速発見 三重大グループ、小魚使い新手法
がん転移抑制の酵素確認 熊本大、新薬開発に期待

17分で肝臓の病状検査 シスメックスが開発
 臨床検査機器・試薬メーカーのシスメックス(神戸市中央区)は26日、肝炎から肝硬変に進行する肝臓の状態を血液検査によって17分程度で判定できる試薬を開発、厚生労働省の製造販売承認を受けたと発表した。タンパク質上で糖が鎖状に結合した「糖鎖」の形を解析、肝臓の状態を調べる技術を世界で初めて実用化したという。

 ウイルス性肝炎は国内最大の感染症ともいわれ、感染者数は約300万人に上る。放置すると肝硬変から肝細胞がんへと進行する恐れがあり、病状に応じた早期治療が重要。

 従来の検査は、患者が1週間ほど入院し、肝臓に直接針を刺して組織を採取する方法のため負担が大きい。新技術は、肝臓の正常細胞と疾患細胞からそれぞれ分泌されたタンパク質上の糖鎖は形が異なる点に着目。糖鎖の形が変化したタンパク質の数が多いほど、肝臓の病状が進んでいると判断する。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトとして、産業技術総合研究所と共同開発。新技術はアルツハイマー病やアスベスト関連疾患の検査にも応用できるという。

 シスメックスの家次恒会長兼社長は「患者に優しい画期的な技術が、日本の産官連携で誕生した。日本発、世界初の技術で世界に挑みたい」とし、ウイルス性肝炎の感染者が多いアジア各国への展開も目指す。

m3.com 2014年1月6日

胆道がんの遺伝子発見 阻害薬特定、臨床試験へ
 国立がん研究センターはこのほど、胆道がんの一種である「肝内胆管がん」の新たな原因遺伝子を発見し、この遺伝子の働きを妨げる薬剤も特定したと発表した。治療薬開発のため、2014年の早い時期に臨床試験に着手したいという。

 同センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長らの成果。

 胆道とは、肝臓で作られた胆汁が十二指腸に至るまでの通り道を指し、その最も上流に当たる肝臓の中の胆管が肝内胆管と呼ばれる。

 胆道がんは早期発見が難しく、有効な治療法が少ない難治がんの一つ。5年生存率は20%余りと低い。国内では年間2万人が発症し、1万8千人が死亡する。日本人に多いのも特徴で、人口10万人当たりの発生は世界中で日本が最も多い。

 柴田さんらは、肝内胆管がんの患者66人から提供されたがん細胞の遺伝子を最新の装置で解析。このうちの9人(14%)で「FGFR2」と呼ばれる遺伝子が途中でちぎれ、ほかの遺伝子とくっついてしまう遺伝子融合という異常が起きていることを突き止めた。「FGFR2融合遺伝子」は2種類見つかり、新たながん遺伝子であることが確認された。

 また、細胞を使った実験で、既存の二つの薬剤がこれらの融合遺伝子による細胞増殖を選択的に妨げることを確かめた。

 現在、胆道がんに使える薬剤は極めて少ない。特に、がん細胞を狙い撃ちする分子標的薬は、ほかのがんでは続々と承認されているにもかかわらず胆道がんでは皆無。

 二つの薬剤は融合遺伝子を狙った分子標的薬となる可能性があるため、同センターは全国の多くの施設が参加する臨床試験を実施する計画だ。

m3.com 2014年1月7日

iPS細胞:作製で染色体異常修復 移植治療応用へ期待
米研究グループ発表
 山中伸弥京都大教授が参加する米グラッドストーン研究所(サンフランシスコ)などの研究グループは1月12日、染色体異常の一種「リング染色体」を持つ患者からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製したところ、染色体異常が自己修復されることを発見したと発表した。

 修復されたiPS細胞から臓器などを作って移植治療に応用したり、新たな染色体治療につながる可能性があるという。13日付の英科学誌「ネイチャー」オンライン版に掲載される。

 リング染色体は、一対の染色体のうち1本が環状になるなどの異常で、さまざまな発育不良やがんと関係があることが知られている。

 研究グループによると、3人の患者から取り出したリング染色体を含む細胞から15株のiPS細胞を作製すると、10株で環状になっている方の染色体が消え、正常な2本の染色体を持つ細胞になることを発見した。

 グラッドストーン研究所の林洋平研究員(幹細胞生物学)は「iPS細胞作製の過程で染色体が自己修復されるという発見は画期的」としている。

m3.com 2014年1月13日

がん幹細胞死滅に効果 岡山大グループ開発の製剤
 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の藤原俊義教授(消化器外科学)らは、独自開発したウイルス製剤「テロメライシン」に、体内でがん細胞をつくる「がん幹細胞」を効率良く死滅させる効果があることを突き止めた。がんの根治、再発防止につながる成果として注目を集めている。

 グループによると、がん幹細胞は、体内で増殖を続けるがん細胞とは異なり、細胞分裂を休止する休眠期があり、この状態では抗がん剤や放射線治療が効きにくいという。手術などでがん細胞を取り除いても、休眠状態のがん幹細胞が残り、あるきっかけでがん細胞に分化すると再発してしまう。

 グループは、がん幹細胞が(1)細胞分裂直後の休眠期(2)活動期(3)細胞分裂期―の周期を繰り返して増殖することに着目。胃がん細胞株からがん幹細胞を抽出し、特殊な光を当てると(1)の休眠期は赤色(2)では黄色(3)は緑色―の蛍光色が変化していくがん幹細胞群を作製した。

 問題となっている休眠期の細胞群に対し、細胞ががん化した時だけ活性化する遺伝子を組み込んだテロメライシンを投与して8日間観察した。その結果、真っ赤だった細胞群は黄、緑色に変わりながら小さくなり、徐々に消えていくことを確認。抗がん剤投与や放射線の照射では大きな変化はなかった。

 さらに、マウス20匹の背中に細胞群を移植しても同様の結果が得られた。グループはウイルス製剤が休眠状態のがん幹細胞の内部に入り込んで活動するよう促し、攻撃したと結論付けた。成果は米科学誌に掲載された。

 岡山大病院では昨年11月下旬、食道がん患者に対し、テロメライシンと放射線治療を併用した臨床研究を始め、一定の治療効果が現れているという。藤原教授は「研究を加速させ、できるだけ早く臨床応用を実現させたい」と話している。

m3.com 2014年1月15日

河北病院、2月から大腸CTドック導入
検査時間短縮で受診率向上に期待
 河北町の県立河北病院(多田敏彦院長)は2月から、コンピューター断層撮影装置(CT)を使った大腸CTドック検査を、県内で初めて実施する。一般的な内視鏡検査に比べて検査が短時間で済むため、大腸検査の受診率向上が期待される。

 大腸CTは、放射線などを使って撮影したデータを基に大腸の様子を立体画像化し、大腸の形状や内部の様子を観察する検査手法。肛門から二酸化炭素(CO2)を注入し、大腸を膨らませて検査する。注入する管の先端は直径約5ミリと細いため痛みがなく、CO2は体内への吸収が早いため、検査後の不快感につながりにくいという。

 大腸の精密検査は現在、肛門から入れたカメラによる内視鏡検査が一般的。しかし、長い管を腸内に入れる痛みや恥ずかしさから敬遠されがちだった。前日には下剤入りの水約2リットルを飲まなければならないことや、検査時間が20〜40分ほどかかるなどの負担もある。

 これに対し、大腸CTの撮影時間は数秒で済み、全体の検査時間も10分程度。便通を促す専用のレトルト食品があり、検査前日に十分な食事量を確保できる。内視鏡検査に比べ検査精度は若干落ちるが、気軽に受けられるため、病気の早期発見に有効とされる。

 大腸がんは、がんの部位別死亡原因で例年高い割合を占め、厚生労働省の2012年の統計によると、女性で1位、男性では肺がん、胃がんに次ぐ3位となっている。早期発見できれば手術で完治しやすいものの、検査の受診率が低いため、発見が遅れて重症化してしまうことが多いという。

 同病院の今野雅彦診療放射線主査は「近年始まった新しい検査方法。手軽な選択肢があるということを多くの方々に知ってほしい」と話している。

 料金は3万1570円。検査日は毎週水曜午前9時からで、予約が必要。申し込みは同病院ドック担当0237(73)3131。

m3.com 2014年1月17日

超音波で抗がん剤効果判定 血流観察、兵庫医科大
 肝臓がんの患者に投与した抗がん剤が効いているかどうか、超音波を使って調べられるシステムを、兵庫医科大超音波センター(兵庫県西宮市)と東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)が開発した。

 造影剤を血中に投与し、超音波を当てて観察。がんに栄養を与える血液の流れが遅くなり、量が減っていれば、がんが小さくなっていると分かる仕組み。年内の実用化を目指している。

 飯島尋子センター長は「抗がん剤は高額で副作用もある。効果が薄い場合、早く別の治療法に切り替えれば患者の負担が少なくて済む」と話す。

 システムでは、抗がん剤を使い始めて1、2週間の患者に造影剤を投与する。

 流れ込む血液の量や速さが自動でグラフ化される上、造影剤ががんの表面に到達してから内部に流れ込む時間が1秒以内は赤、1〜2秒なら、だいだい色にモニター上で色分けする。流れ込むのにかかる時間が長くなっていれば抗がん剤が効き、がんが縮小している。

 従来の技術だと、超音波を当てる病巣の位置が呼吸によってずれた場合、手動で調整する必要があり、グラフも手作業で作っていたため、時間がかかっていた。新システムは病巣の位置を自動追尾できる。

 超音波は繰り返し使ってもコンピューター断層撮影(CT)のような被ばくの心配がない。

 肝臓がんと同様、血液が多く流れ込む膵臓がんや乳がんでも応用できる可能性があるという。

m3.com 2014年1月20日

1センチ以下のがん「狙い撃ち」治療器開発支援
 政府は来年度、直径1センチ以下の微小ながんにも照射できる高精度な放射線治療機器の開発支援に乗り出す。

 実用化に成功すれば世界で初となる。早期発見された初期のがんをメスを使わずに治療できれば患者の肉体への負担が減ることが期待される。

 政府は2020年をめどに実用化を目指す方針で、14年度当初予算案に約3億円を計上し、機器の改良やテストを重ねることを支援する。

 厚生労働、文部科学、経済産業の3省は、がん研究の加速化や革新的治療方法の確立を目指したプロジェクトをスタートさせており、高精度な放射線機器の開発をプロジェクトの中核事業に選んだ。15年に発足する日本版NIHでも目玉事業の一つとする考えだ。

 実際の開発は東京大学と北海道大学、先端医療装置開発メーカーなどの合同開発チームが担当し、試作器はすでに完成している。今後、機器の精度を高めて、早期の臨床での実験を目指す考えだ。

m3.com 2014年1月21日

幹細胞「暴走」防ぐ遺伝子
 さまざまな細胞の元になる幹細胞が増え過ぎてがんにならないよう、幹細胞の外側から制御している遺伝子を、山元大輔・東北大教授(行動遺伝学)らの研究チームがショウジョウバエの実験で見つけた。ヒトも同じ仕組みを持っており、チームは「がん治療や安全な再生医療に応用できる可能性がある」としている。米科学誌サイエンスで発表した。

 浜田典子研究員と山元教授らは、卵巣がんが原因で不妊になったショウジョウバエのメスを見付け、詳しく調べた。その結果、このハエには「Btk29A」という遺伝子が働かなくなる突然変異があり、卵の元になる「生殖幹細胞」の増殖が卵巣内で止まらなくなった結果、がんになっていたことが分かった。

 この遺伝子が活発に働く細胞は、生殖幹細胞が存在する場所ではなく、その周囲の部分だった。さらに、この遺伝子が作り出す酵素が、幹細胞の増殖を制御するたんぱく質を活性化し、増殖を抑えていることも突き止めた。

 これらのことからチームは、正常なハエでは、Btk29Aが生殖幹細胞の外側の細胞から、生殖幹細胞が増えすぎないよう制御していると結論づけた。

 Btk遺伝子はヒトにもあり、Btkの異常が原因で起きる遺伝性疾患の患者では、がんの発生率が数十倍に高まることが知られている。チームは、ヒトの細胞を使った実験でも、Btkが作る酵素が増殖制御たんぱく質を活性化して増殖を抑えていることを確かめた。

 山元教授は「幹細胞の外側から働く増殖制御の仕組みはほとんど分かっていなかった。今回の成果は、がん幹細胞が原因のがんを抑えたり、再生医療で移植した細胞が体内でがん化するのを防いだりするのに応用できるのではないか」と話す。

m3.com 2014年1月23日

白血病治療薬を高速発見
三重大グループ、小魚使い新手法
 白血病の原因となる「白血病幹細胞」に効く治療薬を素早く見つける手法を開発したと、三重大医学系研究科の田中利男教授(薬理学)のグループが1月21日、発表した。小魚を使った方法で、従来のマウス実験に比べて100倍の速さで薬の効果を確かめられるという。米オンライン科学誌プロスワンに15日掲載された。

 白血病幹細胞は、白血病細胞の核になる細胞。抗がん剤が効きにくく、再発や転移の原因になるため、治療薬の開発が課題となっている。

 グループは、独自に開発した全長3ミリほどの熱帯魚「ゼブラフィッシュ」を実験に活用。人間の白血病幹細胞を移植し、コンピューターで腫瘍の大きさや転移箇所を解析することで、薬が白血病幹細胞に効果があるかを調べる手法を開発した。

 ゼブラフィッシュは小型で多くの個体を実験に使える上、免疫ができる前に白血病幹細胞を移植可能なため、作業効率が上がるという。これにより、従来のマウス実験に比べ少なくとも100倍の速さで治療薬を探すことができる。

 田中教授は「全てのがん細胞に応用することが可能だ」と話している。

m3.com 2014年1月23日

がん転移抑制の酵素確認 熊本大、新薬開発に期待
 熊本大大学院生命科学研究部(熊本市)の尾池雄一教授らの研究チームは1月23日、人体の細胞から分泌される特定の酵素にがんの転移を抑える効果があることを確認したと発表した。尾池教授は「転移を防ぐ薬は少なく、新たな薬が開発できる可能性がある」と期待している。

 尾池教授らのこれまでの研究で、正常な細胞に比べ、がん細胞から多く分泌される「ANGPTL2」というタンパク質が、がん細胞の運動性を高め、転移を促進させる機能を持つことが分かっている。

 尾池教授らは、ANGPTL2とは逆に、正常細胞に比べ、がん細胞で分泌が減っている「TLL1」という酵素に注目して研究、TLL1がANGPTL2を切断することを発見した。さらに骨肉腫を移植したマウス実験で、切断されたANGPTL2はがんを転移させる機能が衰えることも分かった。

 尾池教授は「がん患者で恐ろしいのは転移すること。転移を抑えられれば生存率は大幅に上がり、治療の幅も広がる」と話している。

 研究成果は、米科学雑誌「Science Signaling」電子版に掲載された。

m3.com 2014年1月24日